千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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16話:人権

 

『カシオペアの拳~ウーパールーパー大列伝~』。

 格ゲー界の異端児と呼ばれるそれは、格ゲー界の中でも最もバランスの終わったゲームと呼ばれている。

 しかし、どういう訳かファンからの人気は高く、ゲーム開発部の人間からも評価は高い。

 

 さて、何故このような話をしているかと言うと。

 

<Player MOMORIA LOSE!>

<WINNER! Player KEI!!>

 

「うわーん! こんなのチーターだよぉおおッ!」

 

 モモイがオンライン対戦で謎のプレイヤーKEIに、ボッコボコにされているからである。

 それはもう、積年の恨みとばかりに、ボッコボコに。

 

「いや、お姉ちゃんが弱いだけでしょ……」

「いいや! 絶対にチートだよ! いくら格ゲーが下手糞な私でも一発ぐらいはダメージ与えられるのに、一発も当てられてないんだよ!?」

「誤差じゃない?」

 

 ミレニアムプライスにテイルズ・サガ・クロニクル2を出展し、ネットにアップロードした物も評価は上々。結果発表までは、まだ時間があるという理由でゲームに勤しんだのが悪かったのだろうか。

 モモイはKEIにおもちゃのようにチャチャっと倒されていた。

 

「ううぅ……気を取り直して、他の相手を――ってまた、ケイが挑んできた!?」

「え? お姉ちゃんと戦っても、楽すぎて逆に面白くないのに再戦要求? もしかして、本当にチートを使って煽ってきてる…?」

「妹よ! 真実というのは時には隠されるべきこともあるんだよ!?」

 

 砂利と本気でケンカする大人がいるか?

 そう思ってしまう程に、モモイとKEIの実力差は離れている。

 だというのに、再戦要求。ミドリの言うように、煽っているとしか思えない。

 

「ふむ……少しワシに貸せ。目には目を歯には歯を。ここはワシの禁術で」

「え!? 先生、まさかあの禁術(ハメ技)を使うの?」

「対戦プレイでアリスちゃんを泣かせた、あの禁術(ハメ技)を!?」

「禁じられた力の解放……先生は闇落ちしてしまうのですか?」

 

 故に、扉間は少し教育してやろうとモモイからコントローラーを受け取る。

 ワシの可愛い生徒を泣かせた報いを与えてやると。

 なお、アリスを泣かせたことは記憶の隅に追いやっている。

 

<Battle Start!>

 

「この禁術(ハメ技)はワシが作った。もちろん、それにあった戦術もな……オンラインでやるのは初めてだが」

「出る…! トビラマ先生考案の……」

 

 アリスをガチ泣きさせて、顰蹙を買った禁術を用いて扉間はKEIを打ち倒そうとする。

 ジリジリと相手をおびき寄せ、必殺の間合いを作る、扉間。

 さあ、ここでワシの禁術(ハメ技)をといったところで。

 

「―――動けぬ…!?」

「え!? 先生のハメ技を読んで、逆に罠にハメた!?」

 

 おびき寄せた間合いを逆に利用されて、逆に脱出不能のコンボを決められてしまう。

 ずっとお前をこうしてやりたいと思っていた。

 とでも言いたげなコンボの連打は、扉間のキャラが死ぬまで終わらない。

 

<WINNER! Player KEI!>

 

「うそ…先生がお姉ちゃんみたいに負けた…?」

「ほら! 私が言った通りにチーターなんだよ!」

「KEI……一体何者なんでしょうか?」

 

 扉間が禁術を発動する間もなく負けたことに、衝撃を受けるミドリ、モモイ、アリス。

 

 卑劣な手と相手の心理を読む洞察力も合わさって、扉間は結構格ゲーに強かったのだ。

 

 そんな中。ユズだけはただ1人、黙ったまま画面を見つめている。

 

「こやつ……恐らくチートなどは使っておらん。純粋な技量でワシを圧倒しおった」

「え? でも、あんな機械みたいに正確な動き、ミスなく繰り返すなんて出来るわけ……」

 

 コンマ数秒での入力を、ミスなく続けられるなど人間業ではない。

 そう、モモイが告げたところで。

 

<Challengers Next Battle Again!!>

 

「KEIから、また再戦の要求です…!」

「……お姉ちゃん、何やらかしたの?」

「私何もしてないよ!? ケイが勝手に粘着して来てるだけだよ!」

「完全なる煽り目的なら、無視が一番だが……」

 

 KEIが再び、戦いを挑んでくる。

 もう、MOMORIAを完膚なきまで叩きのめさなければ、気が済まない。

 そうした執念が感じられる。

 これは一度撤退した方がいいのではという空気が流れる。

 

 

「……わたしに任せて。相手が何も卑怯な手を使っていないなら……勝てる」

 

 

 だが、そこでユズが自ら名乗りを上げる。

 

「これは『UZQueenモード』の気配がします!」

「……UZQueenモードとはなんだ?」

「説明しよう! 『UZQueenモード』とは! 特定の状況下で発動するユズのバフスキルだよ! いつもよりちょっと大胆になって、頭の回転は普段の1.5倍! 動体視力は2.8倍も上昇するの!」

「なるほど……ユズにそのような隠し手が」

「いや、お姉ちゃんが勝手につけた設定ですからね、先生」

 

 仙人モードみたいなものかと、普通に納得しかける扉間にミドリがツッコミを入れる。

 忍者世界だと普通にそういう術があるので、つい納得してしまうのだ。

 

「それじゃあ……乱入するよ」

 

 そして始まる、ユズVSケイの頂上決戦。

 どちらも、フレームを平然と読んで入力してくる猛者。

 一進一退の攻防が続き、どちらのHPバーも残りわずかになる。

 技量は互角、ならば勝負を決めるのは。

 

「頑張れ、ユズ!」

「頑張って、ユズちゃん!」

「そこです、ユズ!」

「ユズ、お主ワシ以上の指捌きよのう!」

 

 背中を押す声援の数だろう。

 

<WINNER! Player  UZQueen!!>

 

 KEIが打ち倒され、ユズの操作キャラが手を宙に掲げる。

 そして、画面外ではモモイ達が喝采を上げる。

 

「やりました! ユズがケイに勝ちました!」

「手に汗握る接戦で感動したよー! 私の仇を取ってくれてありがとうねー」

「本当、2人とも人間とは思えない程のプレイだったね……」

「ユズ、今日からはお前が……ゲームクイーンだ…!!」

「そ、そんなに褒めないで……」

 

 みんなから褒め殺しにされて、顔を真っ赤にする、ユズ。

 このままだとロッカーの中に逃げ込みそうだが、そうは問屋が卸さない。

 扉間がさりげなく回り込んで、ロッカーへの道を塞ぐ。

 きっと、それは彼なりの愛のムチなのだろう。多分。

 

「で、でも、これだけやれば、流石にもう、再戦を仕掛けてこないよね」

 

 逃げることも出来ずに、褒められ続けるので何とか話題を変えようとしてゲーム画面を見る、ユズ。

 流石に、これ以上挑んでくることはないだろうと。

 

<Challengers Approaching!!>

 

「え! ま、また?」

「落ち着いて、ユズ。今度は再戦じゃなくて普通の挑戦者だよ」

「きっと、さっきのプレイを見ていた人です」

「UZQueenに挑むとは、なんと命知らずな」

 

 しかし、再度の挑戦者の出現。

 それに慌てふためくが、どうにもケイではなく、新しい挑戦者である。

 ユズはホッと胸を撫で下ろし、挑戦を受ける。

 

(しかし、モモイを執拗に狙ってきたあの行動……単なる煽り目的にしては妙だな)

 

 そんな光景を見ながら、扉間は考える。

 チートを使っていたわけでもないのに、まるで機械のような正確な技量。

 それだけの技量を持ちながら、やったことは初心者以下のモモイ苛め。

 オンラインである以上は、隣にでも居なければ、相手がリアルで誰かなど分かるはずはない。

 故に、個人的な恨みという線はないはず。

 

「あ、対戦者の名前が出て来た」

「A.R.O.N.A……アロナって読むのかな?」

「……………」

 

 扉間は無言でシッテムの箱を取り出す。

 どこまでも広がる青い空と広い教室。

 その中央では。

 

『大丈夫です! 私がキーさんの仇を取ります!』

『いえ、私が許せないのは才羽モモイであって、花岡ユズではないのですが。そして、才羽モモイと千手トビラマは、ボコボコに出来たのである程度はスッキリしました』

 

 仲良くゲームをする、アロナとKEYの姿があった。

 

(まさか、KEI(ケイ)の正体がKEY(キー)だったとはな……)

 

 思わずため息をつきたくなるが、ゲーム開発部が居る手前それは出来ない。

 KEY(キー)とアリスの接触は、現段階ではまだ不安が残る。

 どうにも、テイルズ・サガ・クロニクルで良い感じに、頭が狂った……もとい、改心したようだが、まだ油断は出来ない。

 

(世界の破滅などする気がないと言えるようになれば一番だが……今は檻から出すわけにもいかん)

 

 ちょっとしたおいたなら可愛いものだが、世界の存亡がかかっているのなら話は別だ。

 もっとゲーム漬けにして、アリスと同じような無害な()()に仕立て上げねばならない。

 洗脳? 人聞きの悪い。教育と言ってくれ。

 

(だが、アロナがKEY(キー)にとってのゲーム開発部のような存在になってくれれば、あるいは)

 

 誰も悲しまない、ハッピーエンドという甘い理想が叶うかもしれない。

 

「やれー! ユズ!」

「な、なんだか、自分のことを思い出して可愛そうになるぐらいボコボコに」

『こ、これが、UZQueen…! つ、強すぎます!』

『否定。アロナが才羽モモイと同レベルであると、推測します』

 

 そんなことを思いながら、扉間はアロナのキャラがユズにボコボコにされるのを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

「ミレニアムプライスでの特別賞おめでとう、と言った方がいいかしら」

「ワシではなく、ゲーム開発部の者に言ってやれ」

「……そうね、特別賞という枠組みを作らせたのは、間違いなくミレニアムの歴史に残る功績よ」

 

 真夜中の会長室。

 真っ黒な髪が闇と一体化し、真紅の瞳が月のように浮かび上がる、リオ。

 それとは反対に白い髪が闇を照らし、赤い瞳を火のように煌めかせる、扉間。

 似ているようで、対照的。

 そんな2人が向かい合う。

 

「技術力という点では、入賞作品には及ばない。だとしても、そこに込められたゲームへの熱意と愛情は他の追随を許さなかった。合理的に考えれば、切り捨てなければならない作品。だというのに、切り捨てることが出来なかった。だから、審査員は『テイルズ・サガ・クロニクル2』の()()()()()、特別賞を作った。ひょっとすると、1位よりも価値があるかもしれないわ」

 

 ミレニアムプライスでの『テイルズ・サガ・クロニクル2』は残念ながら、入賞できなかった。

 しかし、今回は例外的に特別賞を作ることで、賞を得ることが出来た。

 つまり、特別賞とは『テイルズ・サガ・クロニクル2』を何とか表彰したいがために、作られた賞なのである。

 

 それはつまり、審査員達が合理性をかなぐり捨てて、感情を取った証拠。

 1番の出来の作品ではなかったが、一番人の心を揺り動かした作品になったのだ。

 

「私も実際にプレイして彼女達の作品のクセを解析してみたわ」

「クセ?」

「作品には作り手のクセが必ず出る。私はそのクセから、ミレニアムの生徒が求めているものを導き出しているの」

 

 何でもないように言うリオだが、その実とんでもないことをしている。

 ミレニアムの生徒が成果として、出して来た作品の全てをチェックしてその内に潜む製作者の願いを読み取っているのだ。

 

「ゲーム開発部のクセは、とにかく楽しいゲームがしたい。楽しいゲームを提供したいという所ね。要らない部分は削って纏まりを持たせるという機能的な面よりも、とにかくやりたいことを詰め込む、ある種の無謀さ。それがゲーム開発部のクセ」

 

 合理性よりも、やりたいことをやるという情熱。

 それをとにかく、前面に押し出すのがゲーム開発部の在り方だと告げる、リオ。

 

「ゲーム一つでこれほどまでに相手を理解できるとは……大したものだ」

「大したことではないわ。技術者として、作品から考えを読み取るのは当然のことよ。それに、先生からアリスの感情データの提供もあった」

 

 優れた作り手だからこそ、同じ作り手の意図を読むことが出来る。

 そんな、匠とも呼べる技に扉間は素直に賛辞を贈る。

 だが、リオは当たり前のことと表情を変えない。

 

「アリスの感情データは、一般の生徒とそう変わるものではない。普通の人間のように笑い、怒り、泣く。普通の人間のように、人と交流して友人を増やす。無駄を肯定し、怠惰に過ごしたりもする。そんなどこにでも居る普通の人間……そう、データは示しているわ」

 

 リオの表情が曇る。

 リオはこの1週間のアリスの動向を監視してきた。

 モモイ達と一緒にゲームをして笑い、テイルズ・サガ・クロニクルがクソゲー呼ばわりされたら怒る。

 扉間に禁術(ハメ技)で泣かされ、ミレニアムプライスで入賞すれば、抱き合って喜ぶ。

 彼女が機械だと言えば、誰が信じるだろうか。

 

「そうか……それでどうするのだ? ワシはゲーム開発部の廃部を止める仕事で、ミレニアムに来ているだけ。その仕事が終わった以上は、シャーレに戻らねばならん。ここで、結論を聞かせてもらうぞ」

 

 扉間の問いにリオは答えあぐねる。

 今のアリスは無害だ。だが、一度鍵を開けられてしまえば世界を滅ぼす兵器と化す。

 彼女はかつて無名の司祭が崇拝した、『名もなき神々の王女AL-1S』。

 アトラ・ハシースの箱舟を用いて、世界を滅亡させる存在。

 合理的に考えれば、そんなものは排除するか封印すべきだ。

 

「それは……」

 

 だが、リオの口は殺すという言葉を吐くことが出来なかった。

 見たのだ。見てしまったのだ。当たり前に過ごすアリスを。

 世界の破滅など欠片も望んでいない、ごく普通の少女を。

 会長(ビッグシスター)として守るべき、生徒(いもうと)の姿を。

 アリスの中に見いだしてしまったのだ。

 

「………今のアリスに危険性は見られない。このまま、監視を続けるのが一番ね。下手に刺激をして暴発しては目も当てられないもの」

 

 だから、リオは結論を後回しにする。

 疑わしきは罰せず。暴走の危険を考えて、下手に刺激するべきではない。

 今はまだ動くには早い。せめて、何か被害が出てから。

 そうやって、自分を理論武装しながら。

 

「甘いな、リオ」

「何を…?」

「お前は現状を正しく認識出来ておらん」

 

 だが、扉間はそんなリオを甘いと切り捨てる。

 

「現状のアリスに不審な点はない。これは他ならぬあなたがもたらしたデータよ」

「ああ、そうだ。確かにアリスは安全な存在だろう。世界を滅ぼすなど、夢にも思っておらぬ」

「…! やっぱり、先生もアリスが『名もなき神々の王女』だと……」

 

 扉間もアリスが『名もなき神々の王女』だと知っていたのかと、リオは思わず声を上げる。

 

(『名もなき神々の王女』……なるほど、そのような存在なのか)

 

 だが、それは扉間の引っかけだ。

 扉間はまだKEYから、詳細な情報を聞き出せていない。

 クソゲー…もといテイルズ・サガ・クロニクルで、ブレインウォッシュをしただけだ。

 

「アリスに悪意はない。だが、アリスの周りの人間はどうだ? ……例えば、ワシだ」

「先生が…?」

 

 突如として、敵意を剥き出しにしてきた扉間にリオは困惑する。

 

「ワシは世界を滅ぼす(キー)をすでに手にしている。そして、世界滅亡の扉(アリス)の前にいつでも立つことが出来る。この意味が分かるな?」

(キー)……ッ! まさか、謎のAIキーさんは…!」

「ああ、アリスを兵器として覚醒させる鍵だ。そして、ワシにはいつでもそれが出来る」

 

 だから、甘いと言ったのだ。

 そう言って、扉間はモモイも認める悪人面を浮かべる。

 

「力とはな。ただそこに存在するだけで、様々な価値を持ってしまうのだ。本人の願いなど関係なくな」

 

 お前の力は強大すぎると言って、封印された九尾。

 平和主義者でありながら、誰よりも恐れられた柱間。

 力とはそこに意思が無くとも、周りの悪意によって簡単に歪められてしまう。

 

「力は上手く使えば大いなる利益をもたらす。別に、アリスの力を直接相手に使う必要は無いのだ。アビドスの砂漠にでも放って、威力を示す。そうやって強大な力を周りに示すだけで容易にパワーバランスは崩れる。今のシャーレには権威はあっても武力がない。故にアリスという見せ札が加われば、それだけで今後の活動の幅が広げられるのだ」

「あなたは…ッ! そんなことはさせないわ!」

 

 リオがパチンと指を鳴らす。

 すると、前衛的なデザインのドローン、AMASが一斉に扉間を取り囲み、部屋に()()()()()

 

「ほぉ、丸腰でいるとは思っていなかったが、このようなものを用意しておったか」

「使う気はなかったわ。私としても先生とは敵対したくはなかった」

「だが、交渉が決裂した場合は、情報を持つワシを生かして帰すわけにはいかん。実に合理的だな」

 

 皮肉気にせせら笑う扉間に、リオは冷や汗を流す。

 状況を考えれば、扉間は生殺与奪の権をリオに握られている状況だ。

 だが、どう見ても扉間は焦っていない。どっかりと机の上に腰を下ろしてすらいる。

 何か隠し玉があるのかもしれない。

 

「………悪いことは言わないわ。降参してちょうだい、命まで取る気はないわ」

「どうした? お前もアリスの力を欲しているのか?」

「冗談を言わないでちょうだい。『名もなき神々の王女』はキヴォトスどころか、世界を滅ぼしかねないものよ?」

「やはり、甘いな。ミレニアムがキヴォトスの覇権を握れるチャンスをみすみす逃すとはな」

 

 銃声が響き渡る。

 笑う扉間の足元に銃弾がめり込む。

 

「今のは威嚇射撃よ。次は当てるわ」

「面倒なことをする。銃弾一発で死ぬキヴォトスの外の人間など、殺してしまえば良い。それで、問題ごとは簡単に片付くだろう?」

「……あなたはシャーレの先生。殺してしまえば、必ず問題になる」

「そのような奴らなど、アリスの力の前にただ従わせればいい。暴力より簡単な解決方法など、この世にはない」

 

 まるで、マダラのように全てを力で従えさせるべきだと告げる扉間。

 明らかな危険人物だ。だが、それでもリオは扉間を撃つことは出来なかった。

 

「争いは争いを生み出すだけよ。合理的じゃない。それに」

「それに?」

 

 殺さない理由は色々とある。

 人の恨みを買う。無駄に罪を被る。等々、上げていけばキリがない。

 だが、リオが殺さない理由は単純だ。

 

 

「……人を殺すことはいけないことよ」

 

 

 人殺しはいけないこと。

 そんな、子どもでも知っている純粋な理由。

 それだけだ。

 

「フ……」

 

 子供らしい、純粋な言葉に扉間は悪人面を止めて、優し気に目を細める。

 やはり、リオは。

 

「お前は本当に優しい子だな……」

 

 人殺しなどさせるべきではない優しい子なのだと、確信しながら。

 

「ならば、ハッピーエンドというものを求めてはみぬか? テイルズ・サガ・クロニクルのようにな」

「話が見えてこないわ……もしかして、あなたは私を試していたの?」

「もうよい……お前の(はらわた)は…見えた」

 

 机の上から立ち上がり、扉間はリオと真っすぐ向かい合う。

 そのあまりの変わり様に、リオは扉間が自分を試していた可能性に辿り着く。

 と言っても、まだ信用は出来ないので、AMASの警戒は解いていないが。

 

「アリスとKEY(キー)は確かに、世界を滅ぼすことのできる力だ。だが、世界を滅ぼせるからと言って、必ず世界を滅ぼす必要などない。人間ならば選ぶ自由がある。いいではないか、世界を滅ぼす力を持ちながら誰よりも平和を望んでも」

 

 扉間が思い出すのは柱間だ。

 今になって思えば、柱間はその気になれば尾獣を全て集めて忍の世界を滅ぼせただろう。

 いや、マダラの案を受け入れて、2人で全てを従わせることも出来たはずだ。

 

 だが、柱間はそれを良しとしなかった。

 頭を下げ、己の望む平和への理想を貫き続けた。

 だからこそ思う。力とは使い方次第でどうにでもなると。

 

「アリスにも心があり、そしてKEY(キー)にも心がある。ならば、なりたい存在になればいい」

「ちょっと、待ってちょうだい。キーさんはAIじゃないの? AIに心が存在する?」

「今どき流行らんぞ、AI差別など……と、AIの人権を叫ぶ者が居てな。上手く行けば、全てが丸く収まるやもしれん」

「AIの人権…?」

 

 何を言っているのかと、困惑するリオ。

 だが、扉間はそんなリオを置き去りにして、一気にまくし立てる。

 相手に考えさせる時間を与えないためだ。

 

「アリスを始末して、安寧という楽な道を歩くか。それとも、ワシと協力して誰も殺さぬ険しい道を歩むか。道は二つに一つだ。さあ、どうする?」

 

 先程までと立場が逆転している。

 命を握っているのは、リオの方だというのに扉間が場を支配している。

 これが、千手扉間の交渉術。

 

「私は……」

 

 リオは悩む。本当に扉間を信用していいのか。

 そもそも、アリスは本当に無害な存在になり得るのか。

 様々な、可能性を視野に入れながら、冷静に考え――

 

 

 

『真夜中の逢瀬の最中にごめんなさい』

 

 

 

 突如として、会長室に響く声。

 しかし、人の気配は二人以外に存在しない。

 つまり、これは。

 

「この声は……ヒマリ! まさか、このオフィスをハッキングして!?」

『あらあら、ビッグシスターの部屋は無敵だとでも? 残念、この天才美少女ハッカーにかかれば、僅かでも電気が通っていれば壁なんてないも同然』

「AMASを動かしたせいね……」

 

 明星ヒマリがハッキングを仕掛けたからに他ならない。

 

「明星ヒマリ……モモイが随分と世話になったようだな」

『あら、初めまして、先生。可愛い後輩のためなら聖母の如きヒマリちゃんは、いくらでも手を貸しますよ』

「では、このタイミングでハッキングを仕掛けて来たのは……」

『ええ、可愛い後輩のためになりそうな話ですから。私にも詳しくお話を聞かせてもらえませんか?』

 

 リオを助けに来たのか、あるいは扉間の話を聞きに来たのか。

 それは分からないが、ヒマリは迷いのあるリオの代わりに圧力をかける。

 そのことで、リオも冷静さを取り戻す。

 

「そうね……結論を出す前に、まずは先生の案を聞かせてくれないかしら?」

「……よかろう」

 

 本当ならあの勢いのまま、言質を取るつもりだったのだが。

 扉間はそんな腹黒いことを考えるが、口には出さない。

 

「まず、KEY(キー)という存在が、アリスを世界を滅ぼす王女に変える存在なのは分かっておるな?」

「ええ」

『どうやら、同じ結論に至ったようですね』

 

 策を為すための前提。

 それは、KEY(キー)がアリスを変容させる役目であること。

 ゲーム脳になる前のアリスも、世界の破滅などに興味を示していなかったので、間違いはない。

 

「そして、KEY(キー)は自らの意思に関係なく、その役目を果たそうとしている」

「AIは役目を果たすのが仕事。間違いないわ」

『意思とは関係なく? もしや、先生は意思を確認したのですか?』

「ああ、アリスと()()()()()接した結果、KEY(キー)にも自己意識があることは間違いない」

 

 モモイに怒りを抱いたり、ゲームを面白いと思ったり。

 KEY(キー)がただの役目を果たすだけの存在でないことは明白だ。

 まあ、テイルズ・サガ・クロニクルによるバグかもしれないが。

 

「そこでだ、ワシは考えた。KEY(キー)が役目を…己の仕事を放棄すれば、何事も起こらないのではないかと」

「それは……そうね」

『完璧な理論ですね。AIがまず自分の役目を投げ出さないということに目をつぶれば』

 

 AIが役目を果たすというのは、呼吸をするようなものだ。

 そもそも、そのために作られているのだから、本来なら疑問すら抱かない。

 

「ああ、人間とは違い。AIは融通が利かん。そもそも、その選択肢を思いつかんだろうからな」

 

 致命的なバグがなければ、仕事を放り出すAIは居ない。

 アロナですら、仕事は普通にするのだ。まあ、偶に居眠りをしているが。

 

「故に、その前提を変える」

『前提を…?』

 

 前提。即ち、KEY(キー)がAIであること。

 王女の従者であること。

 それらを全てひっくり返してしまえば良い。

 拒否権を与えてしまえば良い。

 

「要点だけ告げるとな――」

 

 つまり、AIの中の常識を粉砕し、KEY(キー)という存在を。

 

 

 

「―――KEY(キー)に人権を与えるのだ」

 

 

 

 人間にして、好きな職業につけるようにしてしまえば良い。

 




自販機が神になれるなら、魔王が人間になっても問題ない。
それが職業選択の自由。

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