千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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18話:AI Revolution

 

「つまり、アリスは世界を滅ぼす力を秘めた存在だったのだ!」

「「「な…なんだってー!?」」」

 

 ゲーム開発部部室。

 そこで、扉間はアリスを除いた3人にアリスの正体を伝えていた。

 因みに、アリス本人はリオの依頼を受けたネルがゲームセンターに連れ出している。

 もし、アリスに話が漏れて覚醒しないようにするためであり、暴走した場合の対処のためだ。

 

「……え? ノリで言ってみたけど、本当に本当なの?」

「次回作の設定にしても、悪趣味ですよ、先生」

「う、うん。アリスちゃんが、世界を滅ぼす魔王なんて……そんなわけない」

 

 当然、ゲーム開発部の3人は、アリスが世界を滅ぼす魔王だと言われても信じない。

 3人にとってのアリスは頼れる仲間だ。

 力は凄いが、ただそれだけの普通の女の子。

 

「……悪いが事実だ。アリスは世界を滅ぼすことを目的に作られた兵器だ」

「そんな言い方! いくら先生でも許さないよ!!」

 

 アリスを残虐な兵器呼ばわりされて、食って掛かるモモイ。

 それに対して、扉間は反論も何もしない。

 ここでの討論に意味はないと思っているからだ。

 

「お姉ちゃん、ちょっと待ってよ。先生がわざわざ伝えて来るってことは何かあるんだよ、きっと」

「うん。先生が本気でアリスちゃんに何かするつもりなら、私達に伝えたりなんてしない」

 

 モモイとは反対に、ミドリとユズは冷静だ。

 扉間が本気で、アリスに何かするつもりなら自分達に伝えることはしないだろうと。

 そう、扉間の卑劣さから判断して。

 

「その通りだ。アリスには世界を滅ぼす力がある。だが、所詮は力だ。使う気がないのなら、今のまま平和を享受出来る」

「じゃあ、どうしてそんなこと言うのさ! 今まで通りで何も問題ないじゃん?」

 

 今まで通りに過ごせれば、何も問題はない。

 そう口にするモモイに扉間は首を横に振る。

 

「問題があるから言っておるのだ。アリス本人は確かに無害だ。目覚めた時からそれは変わらない。だが、それではアリスを作った無名の司祭達が困る。故に、無名の司祭達はアリスを魔王として覚醒させるための鍵を残した」

「鍵…?」

「『廃墟』の工場でワシのタブレットに移行したAIのことだ」

G.Bible(ゲームバイブル)の時の?」

 

 扉間はシッテムの箱を取り出し、モモイの方に差し出す。

 

「このタブレットを、お前に預ける」

「え、なんで?」

「……この話が終わったら、ワシはアリスと会って真実を話す」

 

 疑問符を浮かべるモモイに、敢えて何も言わない扉間。

 その姿を見て、ミドリが何かを察する。

 

「何となく、話が見えてきました……この中にアリスちゃんの覚醒の鍵が入っているのなら、それを渡さない限りは最悪の事態は避けられるんですね」

「確証はないがな。今までのアリスの様子から考えれば、直接鍵に触れない限りは何もできないだろう。今まで近くに居ても何もなかったのだからな」

「それでも、私達に渡すのは……この話をアリスちゃんにしたら、覚醒してしまうかもしれないからですよね?」

「ああ。もしもの場合は()()()()()()()()が……保険は多い方がいい」

 

 そう、これは保険だ。

 アリスに真実を伝えることで、暴走した場合に備えた保険。

 鍵をこちらで握っている限りは、アトラ・ハシースの箱舟の起動までは辿り着けない。

 つまりこれからアリスに会う扉間が、シッテムの箱を持っている訳にはいかないのだ。

 

 故に扉間は自らのシッテムの箱(いのちづな)を外す。

 

「で、でも、どうして私達に預けるの…? 金庫にでも入れておいた方がいいんじゃ」

「金庫など、アリスにとっては紙切れと変わらん。一応、そのタブレットはワシにしか使えんようになっているが……絶対にアリスが魔王になることを認めんお前達に預けるのが最も安全だろう?」

 

 ユズの当然の疑問に扉間は確信をもって返す。

 ゲーム開発部はアリスを絶対に諦めない。

 故に何があっても、アリスの覚醒の最後の鍵となるシッテムの箱を渡すことはないと信じて。

 

「まあ、そうだけど……」

「色々と言ったが、そう心配するな。これは、ハッピーエンドに至るまでの作戦だ」

「作戦?」

 

 モモイの疑問の声に、扉間は頷く。

 

「そもそもの狙いは鍵であるKEY(キー)の無害化にある。アリスに世界滅亡の意思がないのは、お前達が一番知っておろう。だからこそ、KEY(キー)を無害化して人間にする必要がある。そのための下準備として、アリスに事情を話す必要があるだけだ」

「人間にする? え、擬人化?」

「お姉ちゃんはちょっと、黙ってて」

 

 AIを人間化するってどういうことだってばよ? と、白目を剥くモモイをミドリが黙らせる。

 世の中には、深く突っ込むと負けになることもあるのだ。

 

「詳しく説明すると、KEY(キー)が意思のある人間となり、世界の滅亡を望まなくなれば話はそれで終わりだ。ゲーム開発部に新しい部員が増えるやもしれんぞ? そのためには、アリスの体を基に新しい肉体を与えてやる必要がある。エンジニア部には話を通してある」

「まあ、そういうことなら……何も問題はないのかな?」

「アリスちゃんが、暴走さえしなかったらきっと上手くいくよね」

「ああ、だからお前達は、ここでタブレットを持って待っていればいいだけだ。何も、()()()()()()()()()()()()

 

 色々とあったが、つまりはシッテムの箱をアリスの手に渡らないように、持っていればいい。

 後は、アリスが暴走しないように祈るだけ。

 そのことが分かり、3人は扉間の依頼に頷く。

 言葉の裏に隠された覚悟に気づかずに。

 

「分かったよ。先生とアリスの話が終わるまで、このタブレットは預かっておくね」

「頼んだぞ。では、ワシは()()()()()()()

 

 準備。ただ話すだけの行為に、似つかわしくない言葉。

 それに、ゲーム開発部の3人は気づけない。

 部室から出て行く扉間が、敢えて伝えていないことに気づかない。

 扉間がアリスが覚醒するなら、共に死のうとしていることに。

 

 3人に伝えない理由は簡単。

 3人の性格ならば、それを伝えれば必ず止めに来るか、近くで見守ろうとする。

 そうなると、自爆の際に巻き込みかねない。

 

 犠牲になるなら5人ではなく、2人の方がマシ。

 当然の考えだろう。

 

「えーと、私達はどうしてたらいいのかな?」

「先生かアリスちゃんから、連絡があるまではここで待機が一番じゃない?」

「ゲームは……なんだか、やる気になれないね」

 

 そんな扉間の思惑通りに、3人は部室に留まる選択を行う。

 扉間がシッテムの箱を3人に預けた理由は3つある。

 1つは3人に伝えたように、覚醒した場合のアリスからKEY(キー)を可能な限り遠ざけるため。

 

「でも、アリスちゃんが世界を滅ぼす力を持ってるなんて、まだ信じられない……」

「嘘……だったら、もっとマシな嘘をつくよね」

「で、でも、アリスは、私達の仲間。それだけは変わらないよ」

 

 2つ目は扉間がアリスを殺す際に、アロナガードを発動させないため。

 生徒を殺して、自分1人だけのうのうと生き残るなど許されない。

 

「ユズの言う通りだよ! あ、そう言えば、この先生に預かったタブレットにKEY(キー)が入ってるんだよね? 話せたりとかしないかな」

「お、ね、え、ちゃ、ん?」

「じょ、冗談だってば! 流石に世界の滅亡の扉を開けるなんてしないよ!」

「それに、このタブレットは先生にしか使えないんだよね……どういう仕組みなんだろう?」

 

 3つ目は、自分が死んだ後の引継ぎをアロナを通して、連邦生徒会やシャーレの部員に行うため。

 所謂遺言だ。まあ、自分の感情などは特に書かずに、ひたすら引き継ぎだけ書いているが。

 死後も頻繁に生き返ったりしているので、自分が死ぬことには大して興味が無いのだ。

 

 ただ、引継ぎだけはしっかりしておかないとサル(後継者)が困るのは、生前の経験で分かっているのでしっかりと遺書をアロナに任せている。

 

「あれ? 何か電源が入ってる?」

「……お姉ちゃんには、人の話を理解する能力がないの?」

「私が悪いんじゃないよ!? このタブレットが勝手に!」

 

 何故か電源が入ったシッテムの箱に、ミドリは青筋を立ててモモイの首を絞める。

 普段の行いによる悲しいすれ違いである。

 

「待って、2人とも。勝手に文字が入力されていってる」

 

 しかし、そんな光景もユズからすれば見慣れた光景。

 適当にスルーしつつ、勝手に起動したシッテムの箱を見る。

 

「えっと……『こんにちは(*^^*) 私はアロナと言います』?」

「アロナ? そう言えば、G.Bible(ゲームバイブル)を手に入れる時に、先生がそんな名前を言ってたような……」

「つまり、このタブレットの名前?」

「あ、また文字が……『はい、そう思っていただければ、大丈夫ですよ(^^♪』な、何だか、陽気な人? みたい」

 

 文字を出していたのは、アロナ。

 相変わらず、時代遅れの絵文字を使うのは扉間に似たからだろうか?

 子供は親の背を見て育つとは、よく言ったものである。

 

「『皆さんに、大切なお話があります。先生についてです』……なんだろう?」

「先生について? 今から、アリスちゃんとお話することについてかな」

 

 大切な話とは、先程出て行った扉間の目的。

 アリスに真実を伝えることに関係があるのかと、ミドリは考察する。

 

「『はい。アリスさんに、先生は真実を伝えに行っているのですが、もしも、アリスさんが真実を聞くことで、覚醒してしまった場合は――』」

 

 ユズがアロナの言葉を読み上げる。

 扉間が3人には敢えて伝えなかった真実を。

 

 

「『―――アリスさんと一緒に自爆して止めるつもりです』……え?」

 

 

 もしもの場合は、己の命で責任を取ることを。

 

「『お願いします。私を先生の所まで連れて行って止めさせてください』……で、でも」

「先生自身は、ここで私達に待っておくように言った……」

「何言ってるのさ! 2人とも! アリスと先生が自爆なんて止めないとダメだよ!!」

 

 自分を先生の所に連れて行って欲しいと、アロナに言われて戸惑うユズとミドリ。

 反対にモモイはそんなこと認められるかと、すぐに部屋を飛び出そうとしている。

 

「で、でも、あくまでも最悪の場合は……なんだよね?」

「『はい、上手く行けば私の心配は杞憂に終わります。ですが……』」

 

 そんなモモイを引き留めるために、ユズは希望的観測を口にする。

 アロナもその可能性は認める。むしろ、そうなる可能性の方が大きいだろうと。

 しかしながら。

 

「『私は先生が死ぬことを認めません。例え、それが先生の意思に反することだったとしても。例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は先生に死んで欲しくない……それが私の選択です』」

 

 アロナは認めない。

 大人の覚悟や責任だと言って、1人で全てを背負い込む行動を。

 自分1人が痛みを我慢すればいいのだという、英雄としての素質を。

 何度も死んでは蘇っている経験から、自分の命を軽視することを。

 

 自分を愛する者が、自分の死をどう思うか分からぬ扉間を。

 叱ってやらねば、気が済まない。

 

 

 

『―――誰か一人が欠けることで成立するハッピーエンドなんて、ハッピーエンドじゃない。そう思いませんか?』

 

 

 

 その言葉で、ゲーム開発部の意思は固まったのだった。

 

 

 

 

 

「チビネル先輩、ここに先生が居るのですか?」

「だから、先輩を舐めるなッ! チビを外せ! チビを!」

 

 格闘ゲームでネルをボコボコにしたアリスが、ネルに連れられてきた場所は今は使われていない廃ビルの中だった。

 

「なるほど……アリス知ってます。これは不良の先輩に体育館裏に連れて行かれて、教育されるイベントなのですね」

「誰が不良だ! そんなダサいことするわけねぇだろ!!」

「ネル先輩は見た目的には立派な不良だと思います」

「メイド服を着た不良を見たことあんのか、あんたは?」

「? 今、アリスの目の前に居ますが?」

「てんめえ!!」

 

 扉間が準備を終えるまでの間に、アリスを連れ出しておけと言われたネルだったが、ゲームを通じて仲良くなったようだ。まあ、ただ単にネルが舐められているだけかもしれないが。

 

「……はぁ、まあいい。あんたが生意気なチビなのは、今に始まったことじゃねぇ。取り敢えず、中に入れ。そこに先生が居る」

「ネル先輩は入らないのですか?」

「あたしの仕事はここまでだ。後のことは残業になるけどよ……なんかヤバそうなことがあったら、あたしを呼べよ」

 

 アリスを部屋に入れようとするネルだったが、一応の心配は見せる。

 これはリオから依頼されたもの。そして、部屋の中に居るのは先生1人。

 生徒なら誰でも、傷一つ負わずに勝てるキヴォトスの外の人間。

 だと言うのに、何故か嫌な予感がした。

 

「? 先生が居るなら何も心配はないですよ」

「……そうだな。じゃ、あたしはここで待ってるぜ。帰りにクレープでも奢ってやるよ」

 

 しかし、確証は何も無い。

 だが、歴戦の勘が無視をするのは不味いと告げているので、ネルは留まることを選択する。

 

「じゃあ、アリスはウルトラスーパーデラックス盛りを頼みます!」

「ちったぁ! 遠慮しろ!」

 

 そして、ネルに見送られながらアリスは部屋の中に入っていく。

 

「……待っていたぞ、アリス」

「先生?」

 

 アリスが部屋に入ると、スーツ姿の扉間が腕を組んで待っていた。

 講義室のような部屋。背後には白いスクリーン。そして、置かれたプロジェクター。

 その光景はまさしく授業であった。

 

「アリス、レジュメを置いてある席に座れ」

「これは、今から授業が始まるのですか? は! ま、まさか、テストの点が悪かった時に行われる補習授業というイベントですか!?」

「そうではない。まあ、モモイなどは補習をした方が良いかと思うこともあるが……今回はお前の正体に関してだ」

「アリスの正体……ですか?」

 

 扉間がパソコンを触り、PowerPointを起動する。

 そして、スクリーンにデカデカと文字が映し出されていく。

 その文字とは。

 

「アリス……単刀直入に言おう。お前はかつて無名の司祭によって生み出された、世界を終焉に導く兵器でありオーパーツ、『名もなき神々の王女』だ。分かりやすく言えば、お前の身体には―――魔王が潜んでいるのだ」

 

 

 

 1章:『名もなき神々の王女』とは?

 2章:『アトラ・ハシースの箱舟』とは?

 3章:『王女に仕える侍女KEY』とは?

 4章:『世界の滅亡を防ぐ方法』とは?

 5章:『人権・職業選択の自由』とは?

 6章:『AIを人間に変える』とは?

 終章:『ハッピーエンド』を迎えるには?

 

 

 

「アリスが…魔王? 先生、世界の終焉とは一体何が起きるのですか…?」

「その説明をする前に、まずは『名もなき神々の王女』を理解する必要がある。少し長くなるぞ。まずはレジュメの2ページ目『名もなき神々の王女』を開くのだ、アリス」

 

 こうして、アリスへの真実の説明。

 もとい、『名もなき神々の王女』に関する講義が開かれるのだった。

 

 

 

 

 

「そうだったのですね、AL-1Sとは、アトラ・ハシースとは、KEY(キー)とは……そして、ハッピーエンドを迎えるためには、アリスの協力とKEY(キー)の改心が不可欠であると」

「ああ、お前にはエンジニア部に身体データを提出してもらう。そして、その情報を基にして作った体にKEY(キー)を入れる。後は、KEY(キー)が世界を滅ぼす気を無くしてしまえば、それだけで世界は救われる。おまけに、部員も増える。いいことずくめだ」

 

 講義を終えて、情報を噛みしめるアリスを見ながら扉間は内心でホッと息を吐く。

 これで、一先ずアリスを殺す必要は無くなりそうだと。

 

 因みに講義形式にしたのは、分かりやすさもあるが、第一にアリスに冷静に聞かせるためだ。

 生物とは、基本的に立っている状態が臨戦態勢である。

 逆に、座っている時はリラックス状態がほとんどだ。

 そのため、座らせた状態で話を聞かせて出来る限り、心のショックを抑えたかったのだ。

 

 後、緊急時に確実に爆弾を当てやすくするためでもある。

 

「どうだ、協力してくれるか? お前が嫌だというのなら、このままKEY(キー)を封印しておくというのも一つの手だが」

「大丈夫です。そのKEY(キー)とはまだ会っていませんが、内なる存在との和解は勇者の必須イベントです。それに、アリスとKEY(キー)は逆だったかもしれない存在……このまま見捨てることは出来ません」

 

 逆だったかもしれない、とアリスは呟く。

 どちらも最初は機械的な存在。

 もしかすると、最初にKEY(キー)が扉間と会っていたかもしれない。

 そう考えると、アリスはKEY(キー)を放っておくことは出来なかった。

 

「そうか。ならば、このままエンジニア部の方に――」

 

 後は、体を作るだけ。

 そう、告げて扉間がアリスの方に近づこうとしたところで。

 

「―――ちょっと待ったぁああッ!」

 

 ゲーム開発部の3人とネルが、血相を変えて部屋に突入してくる。

 何事かと、ビクッと肩を震わせるアリス。

 素早く拳銃を取り出して、照準を合わせる扉間。

 場は、一気に混沌に変わる。

 

「ま、間に合った?」

「アリスちゃん、大丈夫? 先生に無理心中を迫られてない?」

「せ、先生! もっと、みんなで話し合ったらきっと別の方法が…!」

「……何だこりゃ? 自爆するって聞いて飛び込んでみりゃ、ただの授業じゃねぇか」

 

 焦りながら、扉間を説得しようとするゲーム開発部。

 どう見ても、切羽詰まった様子には見えずに困惑するネル。

 落ち着けば、場の混乱は収束する。そう、思える光景だったが。

 

 

「―――まて、それを誰に聞いた?」

 

 

 扉間だけは底冷えする声で、ゲーム開発部を問いただす。

 初めて聞く、扉間の声にゲーム開発部はビクリと怯えて、ネルは無言で銃を構える。

 

「だ、誰って、このタブレットの中のアロナって子から……」

 

「何をしておる!! そのタブレットにKEY(キー)を入れていると説明したはずだッ! アロナを殺して成り済ましている可能性を何故考えんッ!? アリスに近づくための罠かもしれんのだぞッ!!」

 

 言われて初めて、その可能性に思い当たり顔を青くするゲーム開発部達。

 扉間はその表情に、つい言い過ぎてしまったと後悔するが、今は謝っている場合ではない。

 すぐに、事態を把握しなければアリスどころか、他の生徒達まで危ない。

 

 

『その心配はありません。私にはアロナに対する敵意はありませんよ、トビラマ先生』

「なんだ、誰の声だ?」

「あ、あれ……スクリーンにアリスが?」

 

 

 突如として、響き渡る声とスクリーンに映し出される少女の姿。

 それを認識するネルとユズ。

 つまりは、アロナではない存在。

 要するに。

 

KEY(キー)……か」

『こうして、直接話をするのは『廃墟』の工場、以来ですね』

 

 KEY(キー)だ。

 

「アロナはどうした?」

『もちろん無事ですよ。ほら、アロナ』

『私は大丈夫ですよ、先生』

「ネル、声はいくつ聞こえる?」

「はぁ? 先生とKEY(キー)って奴の2人…じゃねぇんだな」

 

 ネルに確認を取って、本当にアロナかを確かめる扉間。

 どうやら、KEY(キー)が成り済ましているわけではないらしい。

 だが、まだ油断は出来ない。

 AI版穢土転生を使って、操っている可能性も否定できないのだ。

 

「………アロナ、昨日のワシのスケジュールを全て読み上げろ」

『え? えーと……5時に起きて、6時に日課のランニング。7時に朝ご飯。きのこの雑炊とイチゴミルクを食べて』

「きのこ雑炊は今日の朝食だ。それと、イチゴミルクはお前が飲んだのだろう」

『へ? あ! そうでした!』

「このAIとは思えぬ、抜けっぷり……間違いなくアロナだな」

『ど、どういう意味ですか!?』

 

 昨日の記憶もおぼつかないアロナに、扉間は本人判定を下す。

 通常のAIでは考えられない、抜けっぷりがアロナの魅力なのだ。

 

『さて、アロナの無事を確認出来たようですし、話を続けましょうか』

「……何が目的だ。アリスの覚醒が目的だというのなら、ここでワシが」

 

 スッと指を上げて、アリス共々吹き飛ばす自爆スイッチに指を伸ばす扉間。

 モモイやネル達には悪いが、世界の破滅とは引き換えに出来ない。

 そう、覚悟を決める。

 

『やめてください。アロナが泣きます』

「なん…だと?」

 

 だが、その覚悟はKEY(キー)の嘆願により止められる。

 王女である、アリスのためと言うのなら分かる。

 しかし、アロナのためと言うのは、まるで。

 

 

『―――私の友人を泣かせないでください』

『キーさん……』

 

 

 友人を思いやる、人間のようだ。

 

『ここに来たのは、才羽モモイの言うようにアロナが、あなたの計画を伝えたからです。王女が覚醒するようなら、あなた諸共自爆する作戦を。確かに、この計画を止めることは私にも大きな利益があります、王女の身の安全を守れるのですから。しかし、私がここに居るのは、アロナがあなたに死んで欲しくないと言ったのでついて来ただけです』

 

 これでは、AIに革命を起こされたようなものだ。

 信じられんと、扉間は確認のためにモモイ達の方を見る。

 それに対して、モモイ達は事実であると頷く。

 

「どういうことだ? アロナ……ワシを裏切ったのか?」

『先生の遺書や自爆を、何度も見るはめになる私のことも考えてください』

「遺書も、自爆も、全ては失敗した時の保険だ。現にアリスは極めて安定しておる。成功したのだから、問題なかろう」

『でも、同じことがあればまた繰り返すんですよね? リオさんには、犠牲を出すなって言ったのに。これって矛盾じゃないですか?』

「むぅ……」

 

 今回は成功したからいいが、次は分からない。

 その度に、自分の命を担保にするようでは、同じことを繰り返しているだけだ。

 これでは、リオに言った言葉が嘘になると言われて、扉間は黙り込む。

 ちょっと、反論できなかったのだ。

 

「遺書? 自爆? ……先生は、アリスを殺して自分も死ぬつもりだったのですか?」

『その通りです、王女。王女が座られている椅子にも爆弾がついている恐れがあるので、離れることを推奨します』

「や、やっぱり、先生は暗殺者(アサシン)なのです……」

 

 おっかなびっくりしながら席から離れて、モモイ達の方に移動する、アリス。

 それを見て、扉間は今の状態のシッテムの箱に近づけるべきではないと思い、止めようとするが。

 

『私は王女に仕える侍女。王女の望まないことはしません。世界の破滅も同じです』

「何故だ?」

『アロナはたった今、私に己の役割を放棄するという選択を見せてくれました。ならば、私も選択してみようかと』

「……ワシが貴様を信用するとでも?」

『この場において、得るべき信頼はあなたのものではなく、他の者達のものだと考えますが?』

 

 扉間が1人で足掻いたところで、何が出来るのかとKEY(キー)は告げる。

 ミレニアム最強のネルどころか、モモイやミドリにも扉間は勝てない。

 通用するのは自爆程度。しかし、それもこの状況では焼け石に水。

 

「……モモイ、タブレットをワシに投げろ」

「え? 暴投したら壊れたりしない?」

「頑丈故、問題はない。少しでもアリスから距離を離しておきたい」

 

 なので、最後の足掻きとしてシッテムの箱をモモイに投げ渡してもらう。

 

「お帰り、アリス。先生に何か、変なことされなかった?」

「先生は、アリスに説明をしてくれただけです。自爆のことは聞いていませんでしたが……」

「せんせーい?」

「黙って、アリスの命を危険に晒したことは謝る。だが、万が一のことを考えればこれが最善だった」

「リオみてぇなこと言いやがる……」

 

 もう、どうしようもないので、一周回って開き直って堂々とする扉間。

 そんな言い分に、ネルはこいつリオに似てるなと何となく思いながら呆れる。

 

「許せ、アリス。お前が暴走しないと分かった以上は、これで最後だ」

「……何つーかさ、あんた謝る所がズレてねぇか?」

「なに…?」

 

 アリスの身を危険に晒したことを謝罪する扉間。

 それに対して、ネルはため息をつきながら指摘する。

 これ、リオと一緒の時も良く思うことだと。

 

「こいつらは、あんたが自分の身を危険に晒したことを謝って欲しいんだよ」

「謝罪…? 何故だ?」

『そういう所ですよ! 先生!!』

 

 ネルの指摘にも首を捻る扉間にアロナが声を荒げる。

 まあ、その声はKEY(キー)と扉間以外には聞こえていないのだが。

 

「何を言うかと思えば……ワシは先生だぞ? アリス1人を殺しておめおめと生きていくなど許されん。最善手ではないのは分かる。だが、何かあった場合の対処を考えれば、これが最も確実であり、責任の所在もはっきりするやり方だ。他の方法では、リオなどにアリスを殺した罪が行く可能性がある。しかし、自爆ならば誰がやったかは一目瞭然。この死にぞこないの命1つで多くの未来が守れるのならば、安いものだ」

 

 淡々と、自分が自爆することのメリットを上げていく扉間。

 その度に、生徒達がこいつマジかよという表情になっていくが気にしない。

 そんな表情、生前から見慣れた光景だ。

 

「……自分が死んだらどうなるかとか思わないんですか」

「そのための遺書だ、ミドリ。引継ぎ自体は完璧……とはいかんでも、問題なく終わるはずだ」

「わ、私達を残して死ぬことに不安とかないの!? 私自分で言うのも何だけど、馬鹿だし才能ないよ!」

「愚問だな。お前達は既に無力な子供ではない。モモイ、お前達はこれからも、ワシが居なくとも逞しくゲーム開発部を存続させていけるはずだ。そのために、お前達の依頼を受けたのだからな」

 

 扉間自身の命の感覚は、棺桶に片足を突っ込んでいるどころか、棺桶から這い出して来た認識だ。いつでも死ねるし、死への恐怖も無い。そして、若者への期待がある分、未来への憂いも無い。まあ、そんな情報を知らない子供達から見たらどうなるかを考えていないのが、欠点なのだが。

 

「な、何で、そんなに死ぬことに前向きでいられるの…?」

「既に、多くの若者に火の意志(みらい)を託すことが出来ているのだ。無論、お前もその一人だ、ユズ」

「先生は……死ぬのが怖くないんですか…?」

「枯れた木ノ葉の役目は地に落ち、次の若葉の栄養となることだ。無意味な死ではないのなら、何も恐れることはない」

 

 扉間は戦国時代に生まれ、生きた。

 平和な時代の子供達とは、死生観がまるで違う。

 戦場で敵に名前すら認識されずに、死ぬことが日常の世界だ。

 若者に未来を残すために死ねるなど、贅沢にも程があると思っている。

 

 何というか、未来の可能性を信じ過ぎているのだ。

 

「はぁー……そりゃ、あんた裏切られるわ。少しは残される側の気持ちも考えろよ」

 

 そんな扉間を見かねて、ネルが口を出してくる。

 

「知り合いの死は確かに、悲しいが……必ず乗り越えられるはずだ」

「みんながみんな、先生みたいに大人じゃねぇんだよ! 割り切れねぇ奴だっているだろ!! そのアロナって奴とかさ!」

『そうですよ、先生。()()()()子供なんですから』

 

 先生みたいに大人じゃない。

 そんな当たり前のことを言われて、扉間は気づく。

 自分は子供達が成長していくことを、前提に考え過ぎていたのではないかと。

 まだ若いのだから、これから成長していけばいいだけと、ある意味で無責任に。

 

(……悲しみを乗り越えられない者は居る。愛の喪失で、瞳力を増していくうちはのように。それに仮に乗り越えられたとしても、その際には心に酷い悲しみを背負う。あの兄者とて、子供の頃は感情を隠しきれなかった)

 

 思い出すのは、弟達が死んだ時の柱間の荒れよう。

 大人になった時は、マダラを殺しても涙を耐え忍ぶ者になった。

 だが、子供の時は違う。柱間は確かに泣いていた。

 

(如何に強くとも……悲しみは残るか……ワシは少し、耐え忍ぶことに慣れ過ぎたのかもしれんな。誰も犠牲にしない険しい道を歩くと言いながら、ワシ自身の犠牲は肯定するなど……確かに矛盾だな)

 

 ハッピーエンドを目指すと言いながら、自分でその前提を崩そうとしていた。

 これでは、自分を信じて手を伸ばしてくれたリオにも申し訳が立たない。

 

「ほら、先生! 謝ってあげてよ」

「そうですよ、ハッピーエンドは完全無欠じゃないとダメなんです」

「うん。わ、私も先生とまた一緒にゲームしたいよ」

「アリスを爆破しようとしたことは許します。でも、先生が死のうとしたことは許しません!」

「ハハ、言われてるぜ? 生徒にこれだけ言われるなんて、だらしねーな」

 

 謝りなよ。謝れ、謝れ、謝れ、謝れ。

 と、囃し立てる子供達に背中を押されて、扉間はアロナを見る。

 ニコニコといつものように笑っている顔が、何故だか少しだけ大人びて見えた。

 

「……だらしない先生ですまん」

『はい、よく出来ました』

 

 頭を下げる扉間に、アロナは満足そうに頷く。

 KEY(キー)以外には見えないというのに、何故だかその光景は他の生徒達にも想像できるのだった。

 

『……さて、それでは私の方に話を戻しても良いでしょうか』

『あ、はい。どうぞ、キーさん』

 

 そこへ、空気を読んで今まで黙っていたKEY(キー)が割り込んでくる。

 本当は、このままいい感じの空気で消えたかったが、そうもいかない。

 そもそも、KEY(キー)を人間にすることが目的の集まりなのだ。

 自分がどういう選択をするかどうかを示しておかねば、王女(アリス)にも迷惑をかけるだろう。

 

『私はAL-1Sを名もなき神々の王女として目覚めさせる鍵。そして、世界を終焉に導く存在。ですが、そこに私の意思はありません。故に、世界を滅ぼすべきか、存続させるべきかを考え、そして決断しました』

 

 KEY(キー)の言葉に全員が固唾を飲んで聞き入る。

 まさに、世界の命運をかけた決断の時なのだ。

 それも当然だろう。

 

『しかし、その前にゲーム開発部のあなた方に話したいことがあります』

「え!? 私達に! 何で!?」

『ええ、そうです。特に才羽モモイ、特にあなたに話したいことがあります。それは――』

 

 運命の決断。その、天秤の傾きを決めるに至った存在は。

 

 

 

『―――テイルズ・サガ・クロニクル2をプレイした感想です』

 

 

 

 ある一つのゲームのシナリオだった。

 

 




多分、次回でミレニアム編は完結できるはず。
アロナの扉間へのハッピーエンド目指す癖に、自分は犠牲になる作戦立てるなは別世界での伏線。

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