千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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19話:友人

『全ての始まりはテイルズ・サガ・クロニクルでした。あれをアロナにやらされた時、私の演算能力に致命的なエラーが発生したことは忘れません』

「やばいよ! やばいよ! 絶対怒ってるって、これ!?」

「お姉ちゃんのせい……にしたいけど、私達全員だよね、これ」

 

 KEY(キー)が怒りを抑え込むようにポツリポツリと語り始める。

 扉間にシッテムの箱の中へ拉致監禁されてからの日々を。

 つまり、クソゲーを行った日々を。

 

『無限とも言える人の生み出した言葉の数々。その中でもあのゲームを表すのに適した言葉は、1つしかありませんでした。そう、クソゲーです』

 

 ろくな思い出がねぇ…と、テイルズ・サガ・クロニクルを酷評するKEY(キー)

 

「な、なんてことを言うんですか!? アリスはその呼称を許しません」

『では、王女よ。あなたは説明なしの開幕ゲームオーバーの引っかけや、腹違いの友人や植物人間に代表される理解不能の言語の数々。バランス調整を捨て去った思い付きだけの敵の難易度、エンディングで唐突に始まる音ゲーの全てを楽しめたのですか?』

「そ、それは……」

「アリス、無理して擁護しなくていいよ。正直、作ったわたしもあの時は変なテンションだったって思ってるから」

 

 そんなKEY(キー)にテイルズ・サガ・クロニクルをクソゲー扱いされて、怒るアリスだったが、しっかりとプレイをした上での感想に反論の言葉を失う。ユズはそんなアリスを宥めつつ、自分達の失態を認める。正直、深夜テンションで作ったのは否めないと。

 

『テイルズ・サガ・クロニクルをプレイ後に、私は王女がプレイしたという他のゲームの数々を行いました。すると、どうでしょう。全てのゲームが神ゲーに見えてきました。ゲームとは、これほどまでに面白いのかと驚いたものです』

「しょっぱいもんを食べた後に甘いもんを食べると、より甘く感じるみてぇなもんか?」

「しょっぱい……つまりは塩! 生きるのに必要不可欠ってことだね!」

「現実を見ようか、お姉ちゃん」

 

 ちょっと気を使ったネルの例えに、上手いことを言ってテイルズ・サガ・クロニクルの価値を見いだそうとするモモイ。だが、クソゲーはクソゲーでしかない。幾らでも使い道がある塩と比べられたら、天と地程の差がある。

 

『その後、アロナと協力プレイや対戦をしたり、オンライン対戦で憎き才羽モモイや王女を泣かした先生を叩きのめしたり、花岡ユズと激戦を繰り広げたりと色々とありました』

「なんで、私憎まれてるの!? アリスを禁術(ハメ技)で泣かせた先生は分かるけど!」

「わたしと激戦…? あ、もしかして……KEIの正体って」

『はい、私がプレイヤーKEI(ケイ)です』

 

 まさかの正体発覚に、騒然とするゲーム開発部達。

 因みに、扉間は正体は知っていたので、黙っていたことがバレないように口を噤んで()()()()()()()

 

「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、また今度対戦しよう? ケイとの対戦は…凄く楽しかったから」

『……はい、喜んで』

「なんだろう……そう言ってもらえると、凄い安心する」

 

 生まれる友情。

 ユズはもはや友人と書いてライバルである。

 暴走の危険がないことを確信して、ユズは安堵の息をこぼす。

 

「じゃあ、今度私とやる時はちょっとは手加減して――」

『いえ、あなただけは確実にボコします。才羽モモイ』

「なんで!?」

 

 ユズは通す、ミドリも通す。ただし、モモイ。てめーはダメだ。

 

『いけません、話が逸れました。話に戻りましょう。その後、紆余曲折を経て、私はテイルズ・サガ・クロニクル2をやることになりました』

 

 そして、遂に始まるケイによるテイルズ・サガ・クロニクル2の批評。

 

『レビュー通りの「どの道ろくな奴じゃねーんだ!」から始まるRPG。オープニングと共に主人公が民衆から石を投げつけられるシーンは衝撃でした』

 

 目を閉じ、プレイ内容を語っていく、ケイ。

 主人公の居る国は、まさに民度が最悪の国。

 そこから全てが始まる。

 

『何もした覚えが無いのに、襲い来る理不尽。味方は学校の先生とラーメン屋のおじさんぐらい。その中で明かされる主人公に宿る前作の魔王の存在。国の人間を見返すべく、その力を利用して新たな魔王討伐の旅に出る主人公。そして、旅の中で出会う仲間達。主人公は仲間達との出会いで、初めて絆や愛情、友人というものを知っていきます』

 

 主人公は自分に封印された前作魔王の存在にもめげずに、むしろその力を利用して勇者となる。

 国を出て、様々な人々と関わりつつ新魔王城へと向かう。

 そういったストーリーになっているのだ。

 

『ゲームシステムは前作から大幅に改善され、主人公のレベルに合った敵のみが出現。高難易度を求めるプレイヤーには難易度ヘルモードで、いつでも難易度を変えられるように調整。前作で正気を疑うと言われたシナリオも改善され、少々日本語に引っかかる部分はあるものの、ストーリーの流れは王道的な展開。イラストも、味のある画風で好印象でした』

 

 次に、ケイはシステムについて語る。

 思い付きで作られた無駄な引っかけは、全てミドリの手によって事前に排除されて、シナリオは人の心を揺さぶるものだけが残った。

 ゲーマー特有の簡単にクリアされたら悔しいという欲求も、難易度を分けることで昇華。

 それだけで、前作とは見違える出来になった。

 

『そして、このゲームの大きな特徴として挙げられるのは、やはり選択肢で変わるルートの多さでしょう。“はい”と“いいえ”の選択肢でも、しっかりと両方のテキストを変えることで、次はこっちの選択肢を選んでみようという、ゲーマーの心をくすぐります』

 

 豊富なテキストを用意することで、ゲームの中の人達が本当に生きていると思わせる。

 毎度同じ言葉しか返さない住民に飽きた、ゲーマーらしい心遣いだ。

 

『……そうして、プレイヤーにどちらの選択肢も選ばせることを慣れさせた時に来る「国を救ってくれ」という主人公の国からの要請。どの道ろくな奴じゃねーんだ、発言も合わせて多くのプレイヤーがこれに対して「いいえ」と答えたでしょう。どうなるのかなという興味本位で』

 

 そして、そこに引っかけを入れるのもまた、ゲーマーならではの心遣いだ。

 狂乱の巨匠、モモイの腕が鳴る。

 

『すると、そのままストーリーが進行して問題なく新魔王を倒せます。そして、エンディングで主人公が国に帰ると―――国が滅んでいました』

 

 主人公を迎えるのは、万雷の喝采ではなく、民度最悪の民の罵倒でもない。

 完全なる無音だ。BGMが消え去り、SEだけが響く。

 それが、プレイヤーに国を見捨てたことを強く意識させる。

 

『住民は既におらず、あるのは骨だけ。国を見捨てたことへの罵倒すらありません。まるで、復讐とは空しいものだとでも言うように……そして、クリア特典と呼ぶのでしょうか? 唯一、国に残されたアイテム。勇者の剣を手にするときは流石に心にきました』

 

 クリア特典として手に入るのは、勇者の剣。即ち、前作主人公の武器。

 それは国の中央広場に、勇者だけが抜ける剣として安置されている。

 旅立つ前は、下賤な主人公が触るなと追い出されるが、クリア後はボタンを押して調べることが出来て、ある選択肢が出てくる。

 

 

 

 ―――あなたは勇者ですか?

<はい>

<いいえ>

 

 

 

『なんですか! 嫌がらせですか? 嫌がらせですね! 困っている人を見捨てる人間は勇者を名乗れないとでも言うつもりですか? ええ、そうですよ! もちろん、<いいえ>を押しましたよ!! こんな状態で勇者を名乗るなんて、生き恥ですッ!!』

 

 因みにこの選択肢は、国を助けるを選んだ場合でも同じものが出る。

 ただし、その場合は多くの民衆に、英雄の喝采を浴びながらだが。

 

『確かに、どの道野郎は死んでも良いと思いましたよ? でも、もう一度初めからプレイしたらラーメン屋のおじさんや、先生は主人公を気遣っているのがより深く伝わって罪悪感が凄いんですよ! ご丁寧に、その2人が居た位置にはしっかりと骨を設置しているし!』

 

 ケイは叫ぶ。

 本気で殺したかったわけじゃないんだと。

 ほんの出来心で、国を見捨てる選択肢を押してしまっただけなのだと。

 まあ、そんな叫びも滅んだ国で言ってもむなしく響き渡るだけだが。

 

「……ハッピーエンドの方は見てくれた?」

『もちろん見ましたよ! どの道野郎が別人みたいに手の平返しをしてきたのは苛立ちましたが、先生にラーメンを奢ってもらうシーンで全部許しましたよ! 正直、国中の人に祝福されるシーンより感動しました!! アロナも一緒に泣いていましたよ!!』

「なんだか……凄い楽しんでもらえたみたいだね」

 

 モモイからの問いかけに、悔しそうに首を縦に振る、ケイ。

 悔しい、でも認めちゃうというやつである。

 

『はぁ…はぁ…とにかく、私は理解しました。あの前代未聞のクソゲーから名作が生まれることもあるのだと。不毛に見える世界であっても、必ず新しい希望は生み出されるのだと』

 

 ケイはテイルズ・サガ・クロニクルを通して学んだ。

 クソゲーの次回作が名作に生まれ変わるように、世界というものは成長に満ち溢れているのだと。

 

『そして、もう1つ……いえ、これは質問ですね』

「質問?」

『ええ、そうです。才羽モモイ……いえ、王女を含めたゲーム開発部全員に問います』

 

 ケイは心を落ち着かせるために、大きく息を吸い込んで瞳を閉じる。

 そして、フッと顔を綻ばせて。

 

 

『―――次回作の予定はありますか?』

 

 

 世界は滅ぼすよりも存続する方が有益なのだと。

 だって、世界が滅んだら次回作が出ないじゃないかと。

 そう、告げるのだった。

 

「…! もっちろん! テイルズ・サガ・クロニクル3も考えてるし、他のゲームも色々考えているよ!!」

「考えてるだけで、具体的な内容は何も無いよね? 私、聞いてないし」

「じゃあ、今からみんなで考えようか」

「はい! ケイも一緒に考えましょう!」

『わ、私もですか?』

 

 あーでもない、こーでもないと次回作について話し合うゲーム開発部と、それに巻き込まれる、ケイ。そんな様子を肩をすくめて見ながら、ネルは部屋の外に出て行く。

 

「おーい、リオ。どうせ、あんたのことだからどっかで見てんだろ? 今日の分の残業代はしっかり払えよ。頑張る後輩共に差し入れしてやんねーといけねぇからな」

 

 ゲーム開発部の者達に、何か差し入れを買いに出るために。

 

「待て、ネル」

「あぁ? 何だよ、別にもう何も心配することねぇだろ」

「……いや、お前はゲーム開発部を連れて、ここから離れろ」

「なんだ? 敵か…?」

 

 そんなネルを止め、扉間は何やら深刻そうな顔で告げる。

 まだ、何か敵でも来るのかと警戒する、ネル。

 

「いや――」

 

 だが、それに対して扉間は首を横に振って。

 

 

 

「―――仕掛けた爆弾の一部が時限爆弾になっているので、それを解除するためだ」

 

 

 

 物騒なことを口にする。

 万が一自分がアリスに先手を打たれた時のために、リオに頼んで時限式のものも混ぜていたのだと。

 

「だから、そういう所だよ! この合理主義者共がッ!」

 

 そう言ってネルは、扉間とここには居ないリオに毒を吐くのだった。

 

 

 

 

 

「いーや、悪いけどこれだけは譲れないね」

「ウタハ……あなたのことは技術者として尊敬しているわ。でも、これだけは譲れない」

 

 仁王立ちで腕を組み、向かい合うウタハとリオ。

 お互いの瞳には、決して譲れないという強い意志が宿っているのが見て取れる。

 

「私もだよ。君の合理性を突き詰めた機能美は一技術者として、驚嘆に値する。でも、技術の世界は合理性だけで語れるものじゃない」

「そう言って、あなたはいつもロマンという不確かなものばかり追い求めていたわね。それを否定する気はないわ。失敗は成功の母、その言葉に偽りはない。でも、今回はロマンを求めて失敗するわけにはいかない事態なのよ」

 

 意見が食い違い、お互いの視線がバチバチと火花を交わす。

 やっと、ハッピーエンドへの道筋が見えてきたというのに、ここで仲間割れなのか。

 そう思ってしまいそうになる中、ウタハがため息をつく。

 

「……このままだと、平行線だね」

「そうね」

「じゃあ、ここは本人に聞いてみるとしようか。どちらも恨みっこ無し。選ばれた方が正義だ」

「分かったわ……それじゃあ、本人に委ねましょう」

 

 選択権を本人に譲ろうと、ウタハとリオが扉間の方を、否、タブレットに入ったケイの方を向く。

 

「君は――」

「あなたは――」

 

 2人が真剣な顔で言葉を紡ぐ。

 

 

「―――ロケットパンチが撃てる方が良いと思わないかい?」

「―――アバンギャルド君ボディが似合うと思わないかしら?」

 

 

『どちらも却下で。普通の身体でお願いします、普通で』

 

 そして、ケイに冷たい顔でバッサリと切り捨てられるのだった。

 

「待って欲しい。私にプレゼンをする機会を与えてくれないかい?」

『……許可します』

 

 しかし、バッサリ斬られた程度ではウタハはへこたれない。

 何とか、ロケットパンチの有用性を説明しようと、プレゼンのチャンスを得る。

 

「考えてみて欲しい。君が戦い、追い詰められた時。弾切れで、もうどうしようもないとなった時。そんな時に、ロケットパンチで相手を消し飛ばせれば、非常に有益だと思わないかい?」

『思いません。弾切れなら、銃で殴りかかった方がまだマシです。そもそも、腕を失った後はどうするんですか? 隻腕で戦えと?』

「その点は安心して欲しい。ちゃんと、両腕でロケットパンチを撃てるようになってるよ」

『どこの何に安心しろと? 却下です』

 

 バカな、どうしてこのロマンが伝わらないんだと、悔しそうな顔をする、ウタハ。

 それを見て勝ち誇った顔をする、リオ。

 

「じゃあ、次は私の番ね。まず、アバンギャルド君ボディの最大の利点を説明するわ。ズバリ、圧倒的な戦闘力ね。ケイ、あなたはこれから多くの者に狙われる危険性がある。その際に、アバンギャルド君ボディなら自分のみならず、アリスも守れるわ」

『……続けてください』

 

 アリスを守れる。

 その言葉に少しだけ興味を惹かれて、続きを促す、ケイ。

 

「そして、このアバンギャルド君の洗練された芸術的なデザイン。これを見れば、あなたが世界を滅ぼす兵器だと思う人間は誰も居ないわ」

『「あれが無名の司祭が遺したオーパーツ? ダッセー顔しやがって!」と言われたら、恥ずかしいので、却下で』

 

 しかし、その独創的なデザインセンスが自分の身体になるのは、嫌だったのでやっぱり却下する。リオが『そんな、私の芸術が……』と嘆いているが、一生ダッセー顔で過ごす羽目になりかねないケイは無視をする。

 

「見た目に関しては安心してくれ。こっちはアリスと同じ見た目で、ロケットパンチを撃てるようにするだけなんだ。きっと、気に入ってくれる」

『王女にあらぬ噂が広がりそうなので、むしろ嫌なんですが……』

「じゃあ、こうしましょう。通常時はアリスの姿。戦闘時はアバンギャルド君に変形という形で」

「…! リオ、君もロマンというものが分かってきたじゃないか。変形ロボ、実にロマンだ。それに、アバンギャルド君なら4本から更に腕を増やせば、ロケットパンチの欠点も補えるかもしれない」

『その手があったか! みたいな、反応をしないでください。いいから、普通の人間ボディでお願いします』

 

 このままだと、暴走した技術者共に何をされるか分からないので、キッパリと普通の身体にするように宣言する、ケイ。2人が捨てられた子犬のような顔をしているが、関係ない。

 

「相変わらずですね、あの2人は。その点、病弱系天才美少女ハッカーの私は完璧ですね。外部からの電子ハッキングも内側からの脱出も不可能なプログラムを作ったんですから。ああ、自分の才能が恐ろしい」

 

 そんな漫才のようなやり取りを見ながら、ヒマリは笑う。

 所詮低レベルな争いしか出来ない、リオが可哀想で仕方がない。

 あ、ウタハのことは別に馬鹿にしていません、悪いのは全部リオですよ、と。

 

『あの……言いにくいことですが、明星ヒマリ。外からのハッキングはともかく、内側からなら簡単に出られます』

「え? な、何か欠点が?」

『欠点はありません。ただ、地力が違い過ぎるだけです。伊達に無名の司祭が遺したオーパーツ扱いはされてはいません』

「そ、そんな、この天の神に最も近い奇跡の申し子である私の力が通用しないなんて……」

 

 ヒマリの能力が低いわけではない。

 純粋にケイの技術力が最強、桁違いなだけだ。

 言うなれば、ファミコンとSwitchを比べるようなものだ。

 スペックの差があり過ぎて、どうしようもない。

 

「ですが……そうなると、ケイを閉じ込めている、先生のタブレットは一体」

 

 そして当然、そんなケイを封じ込めているシッテムの箱の存在が気になる、ヒマリ。

 チラリと扉間に目を向けて、説明を求めようとする。

 

「悪いが、ワシにも正体は分からん。ハッキリしているのは連邦生徒会長より授けられ、これを扱える存在がワシしか居ないということだけだ」

「その割には随分と活用していますね……何か不安とかないのでしょうか?」

「これが無ければ、ワシは無力だ。使うしかあるまい。それに……」

「それに?」

 

 どういう存在かも分からないものを使って、不安ではないかと聞かれたが扉間は首を振る。

 シッテムの箱が無ければ、扉間の手数は大幅に減る。更に言えば、単なるタブレットの時点でそれが明確に、どういった原理で動いているかを把握出来ているわけではない。それはきっと、今を生きる人間のほとんどがそうだろう。そう考えれば、仕組みの理解などさほど重要ではない。

 

 そしてそれ以上に、扉間には信じられるものがあった。

 

「ワシはアロナを信用しておる」

 

 アロナ。

 扉間がキヴォトスに来た時からの付き合いである、不思議な存在。

 単なる子供のようで、そうではない存在。

 だが、どういうわけか、自分を裏切ることはないだろうと思える少女だ。

 

「アロナ……先生にしか認識できない存在……いつか、私も会ってみたいものですね。いえ、ハッキングすればすぐにでも?」

「やめておけ。随分と抜けた性格だが、その実力は折り紙付きだ。お前の方が食われるぞ」

「あら、それは残念ですね。では、またの機会ということにしておきましょうか」

 

 本気で言ったのか、冗談で言ったのか分からない笑顔を残してヒマリは車椅子を動かす。

 防衛プログラムの更なる向上を目指すのだろう。

 

 

「つまり、こういう事だね、ケイ。君は通常時は人間形態のアバンギャルド君で、戦闘時には王女の盾となるアバンギャルドの騎士になって、取り換え可能な腕でロケットパンチを放ちたい。そういうことだね?」

「取り換え可能な腕なら、先生の希望の千手観音も可能ね。芸術性も格段にアップするわよ」

『何がそういう事ですか!? やめてください! 私に殺されたいんですか!?』

 

 

 こうして、ケイの人間化計画は大詰めを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

『キーさん、いよいよですね』

『ええ、私の体……本当に色々とありましたが、何とかまともな体に入れそうです』

 

 遂に、ケイのボディが完成し、シッテムの箱から引っ越す日の朝。

 ケイはアロナの見送りを受けながら、そこはかとなく不安の残る自分の身体に思いを馳せる。

 果たして、腕はちゃんとまともになっているだろうか?

 ダッセー顔……もとい、アバンギャルドな顔になっていないだろうかと思いながら。

 

『……こうして、キーさんとお話しできるのも今日が最後ですね』

『アロナ……』

 

 そんなケイに対して、アロナは寂しそうに告げる。

 アロナは本来、扉間にしか認識できない存在。

 無理やりシッテムの箱の中に突っ込んだせいで、例外的にケイにも見えるようになったが、それも外に出れば終わりだろう。

 

『……アロナは自分の身体が欲しくはないのですか?』

 

 だから、ケイは尋ねる。

 アロナも体を手に入れれば、良いのではないかと。

 

『いえ、これは私の選択の結果ですので』

 

 だが、アロナはそれをきっぱりと断る。

 まるで、自分は選んでこの姿になったとでも言うように。

 

『そうですか……分かりました』

『あ、でも、キーさんには一杯メールを送りますね。スマホなどを手に入れたら、連絡先を先生に教えてください。それに、ゲームでなら現実世界と繋がりを持てます。また、対戦したり協力プレイをしたりしましょう。その時は、ゲーム開発部の皆さんも一緒に。そう言えば、キーさんに身体が手に入ったらみなさんが歓迎会を開いてくれると、先生が言っていましたよ』

 

 寂しいのをごまかす様に、一気に告げていく、アロナ。

 それをケイは黙って受け止める。

 

『そう言えば、呼び方はどうしましょうか? 皆さんはケイと呼んでいるようですけど、私もキーさんからケイに呼び方を変えた方が良いでしょうか?』

 

 そして、アロナはケイの呼び方に触れる。

 ゲームプレイヤー名から広まったケイという名前は、ゲーム開発部から伝わり他の者達にも浸透している。まあ、KEYだからキーという安直な名前よりは、遥かにマシだろう。

 

『……いえ、アロナは私のことをキーと呼んでください』

 

 しかし、ケイは首を横に振る。

 それは、自分の鍵としての役目を忘れないためではなく。

 

 

 

『だってこの名前は……初めて友人に呼んでもらった名前ですから』

 

 

 

 初めて、友達(アロナ)に呼ばれた名前だから。

 

『キーさん……はい! これからも私達は友達ですよ! 約束です!』

『はい、約束しましょう』

『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!』

 

 小指と小指を絡ませて、約束を交わす2人。

 その姿を見て、彼女達が心のないAIだと思う者は居ないだろう。

 人と人の間。その繋がりこそを――

 

 

『『―――指切った!』』

 

 

 ―――人間と言うのだから。

 

『……それでは、キーさんお元気で』

『はい、アロナも頑張ってください』

 

 最後は笑顔で手を振り合い、ケイはシッテムの箱の教室から姿を消す。

 きっと、新しい体に入ってアリス達と出会っているのだろう。

 そんなことを考えながら、アロナは手を降ろす。

 

『………何だか、いつもより広く感じますね』

 

 以前は気にならなかった、教室の広さ。

 教室だというのに、自分しか居ないという孤独。

 それらが一気に襲ってきて、アロナは静かに目をつぶる。

 

『でも……仕方がないですよね』

 

 これが私の選択の結果だから。

 

 そう言って、アロナはいつものように仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

「何が仕方ないのだ?」

『え!? 先生!』

 

 だが、そんな1人の教室に扉間が入り込んでくる。

 実はこの不思議空間、先生だけは人間のまま入ることが出来るのだ。

 

『……キーさんの歓迎会には出ないんですか? それに先生のことだから、キーさんが暴走することも考えて残って様子を見るものかと』

「あちらにはリオもヒマリもおる。ワシの出る幕はない。それに……」

『それに?』

 

 珍しく、扉間にしては歯切れの悪そうな顔をする。

 アロナはそんな扉間の姿に首を傾げる。

 おかしい。いつもなら、暴言でもズバッと言ってくるのだがと。

 

「………カステラだ、食え。イチゴミルクもある」

『え?』

 

 だが、扉間は結局何も言わずに持ってきたカステラの袋を、アロナの前に出す。

 それに目を白黒させる、アロナ。

 

(こ…こんな先生…今まで見たこと……)

 

 熱でもあるのかと思わず聞きたくなってしまうが、流石にそれを言う勇気はない。

 

「お前の好物だったと思うのだが……違ったか?」

『い、いえ、大好きですよ』

「そうか……ならばよい。それと……しばらく働き詰めだったからな、少しここで休む」

 

 アロナにカステラを渡し、適当な机の上に腰を下ろす、扉間。

 しかし、その目は時折何かを気遣うようにアロナを盗み見ている。

 まるで、何かを心配しているような。

 

(あ……もしかして)

 

 そこまで考えてアロナは気づく。

 ケイが居なくなった状況で、お菓子をもって訪ねてきた扉間。

 そして、心配するような視線。

 要するに扉間は。

 

 

『ふふ、大丈夫ですよ、先生。アロナには先生が居ますから』

 

 

 子ども(アロナ)が寂しがっていないか、心配しているだけだ。

 

「む……そうか」

 

 気まずそうに扉間は目を逸らす。

 その姿はまるで、年頃の娘を元気づけてやりたいが接し方が分からずに、おろおろする父親のようだ。

 取りあえず、好物を与えて様子を見るところなど不器用な父親の行動の鉄板である。

 

『でも、お仕事がないなら少し付き合ってくれませんか? 一緒にゲームをしましょう』

「ああ、構わん」

『カステラも一緒に食べましょう』

 

 それが分かったアロナは嬉しそうに、クスリと笑いながら提案を行う。

 一緒にお菓子を食べながら、ゲームをしようと。

 きっと、ケイ達も今頃同じようなことをしているだろうから。

 

「いや、お前の分しか持ってきておらん。お前だけで食え」

 

 だが、扉間は空気を読まずにそんなことをのたまう。

 そういう言い方はよさんか、と言いたくなるような言い草だ。

 

『でしたら、私が先生にとっておきのおやつを上げますね』

 

 しかしながら、今回はアロナの方が一枚上手だった。

 

「とっておき?」

『はい、少し待っていてくださいね。先生』

 

 そう言って、アロナは机の中をゴソゴソと漁ってあるものを取り出す。

 取り出したのは、人形の形をしたお菓子の入った包み。

 

『どうぞ、先生』

「この形は……もしやワシとアロナか?」

 

 扉間が受け取った包みをまじまじと見る。

 袋の中にあるのは、扉間とアロナがデフォルメされた姿のクッキー。

 

『はい! アロナ特製のチョコジンジャークッキーですよ!』

「随分と手が込んでいるな……上手いものだ」

『ええ、頑張って作りましたから!』

 

 生前は別世界。今はただの老人の扉間はそれがどういうものかに気づかない。

 ただ、子どもが頑張って作ったものを褒めるだけだ。

 だとしても、今のアロナはそれで十分に満足する。

 

 

『これからも一緒に居ましょうね、先生……ずっと』

 

 

 だから、彼女はそう言って満面の笑みを浮かべてみせるのだった。

 




今回でミレニアム編は最後と言ったな?
バレンタインを入れたせいでゲーム開発部とかリオの後日談が書けなかったので後1話だけ続くぜ。
それと、次回か次々回の投稿の間隔が3日になると思います。
理由は扉間の誕生日2/19に投稿するための調整です。許せ、サスケ。

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