21話:誕生
「これより、第21回トビラマチャンネルを始める。今回は2月19日。つまりは、ゲヘナ学園風紀委員会委員長のヒナの誕生日である。故に、今回のゲストは空崎ヒナだ。よろしく頼む」
「えっと……その、よろしく頼むわ。それと、今日は先生も誕生日よね?」
第21回トビラマチャンネル。
2月19日の本日は、ヒナと扉間の誕生日である。
そのため、ヒナの前には風紀委員会が買ったケーキがある。
蝋燭とヒナ委員長おめでとうという、チョコで書かれたメッセージ。
彼女が良く慕われているのが良く分かるケーキだ。
一方の扉間と言えば。
「先生のケーキは………火の海になってるけど」
パッと見で50本は超えている蝋燭で、火が一纏まりになって豪火球になっている。
ヒナがちょっとひきながら言っているように、まるっきり火の海だ。
マダラの豪火滅失を思い出して、扉間はちょっと不機嫌になる。
「だから年寄りに誕生日ケーキなど要らんと言ったのだ……だというのに」
一応、扉間の方にも先生『誕生日おめでとう』のメッセージが書かれているのだが、業火に飲まれて見えない。というか、火の温度でちょっとチョコレートが溶けてきている。
一体誰が、年齢分蝋燭を刺せと言ったのだろうか、失敗そのものではないか。
「……でも、結局は断らなかった」
「ふん、子供の想いを無下にする程落ちぶれてはおらん」
チラリとコメント欄を見て、扉間は鼻を鳴らす。
コメント欄には、アビドスの生徒やゲーム開発部など、今まで関わって来た生徒達からの誕生日おめでとうのメッセージが届いている。
「じゃあ、火を消しましょうか。先生の方はそろそろ蝋燭が燃え尽きそうだし」
「……水でも持ってきた方がよいか?」
「最悪の場合は、そうなるけど……取りあえず、息で消しましょう」
水で消すという扉間の発言に、何を馬鹿なと言いたいヒナだったが、余りの火の手の勢いを見ればそうも言ってはいられない。誕生日ケーキで火災など、洒落になれない。
「風は火を助けると言うが……仕方あるまい」
火遁に風遁は逆効果になるのではと扉間は思うが、まあ出力があれば何とかなると思い直す。
因みに、火を見たら反射的に水を使いたくなるのは、対うちはの名残りである。
5大属性全て扱えるのに、水遁を十八番にしていたのは、主にうちはメタのためだ。
「じゃあ、一緒に……ふぅー」
「すぅー……フッ!」
ヒナの可愛らしい口から吐き出される息。
扉間の、何か術でも放つつもりかと言いたくなるような勢いで放たれる吐息。
それらが、誕生日ケーキの上の火を消し飛ばす。
「誕生日おめでとう、ヒナ。よくぞ、この歳まで育ってくれた」
「先生とは初対面よね…? なんで、そんな孫でも見るみたいな目で見るの…?」
「……年寄りとは、皆そのようなものだ。子供が当たり前に成長する姿を見るのが喜ばしいのだ」
まるで、孫の七五三を見る爺のような目に困惑する、ヒナ。
それに対して、扉間はごまかすように笑う。
(ヒナは17歳……瓦間の7歳や板間の6歳と比べれば10年も長く生きている)
戦国時代の平均寿命は30歳前後だった。
そして、平均寿命を大きく下げている原因は、幼い子供達の死。
年齢が二桁になる前に、戦場に駆り出されて弱ければゴミのように死ぬ。
仮に強くても、危険視されて大人に囲まれて殺される。
手強い親の動揺を引き出すための囮として、親の目の前で殺される。
仮に生き残っても、大人より強くなければ、自分より年下の子供を殺す役目になる。
そして、大人になるまで成長すれば、今度は自分が子供を使い潰す側に回る。
そんな、地獄のような世界だった。
「とにかく、これからも健やかに成長してくれ。酒の味は……ちと早いが、いずれは呑めるようにもなろう」
それに比べれば、キヴォトスのなんと平和なことだろうか。
テロや暴動がしょっちゅう起きるが、基本的には人が死なない。
扉間がこの平和を守りたいと思うのも、納得の理由だろう。
「よく分からないけど……ありがとう。それから、先生も誕生日おめでとう」
「ああ、感謝する」
「それで……これから、どうすればいいの? 何か質問に答えたりするの?」
扉間の考えは分からないが、少なくとも本心から祝ってくれているのは分かったのか、ヒナが微笑む。そして、これからゲスト出演者として何をするべきかと、尋ねて来る。それに対して、扉間は。
「目の前にケーキがあるのだから、ケーキを食べればよかろう」
他に何かすることがあるのかと答える。
「一応動画撮影しているんだし……それに、エデン条約とかが近いから何か、聞きたいとか」
「ワシは他人の誕生日会で
いそいそと、ヒナと自分のケーキを切り分けていく扉間。
どうやら、本当に仕事をするつもりがないようだ。
これには、思わずヒナ困惑。
「ほら、食うがいい。自分の分だけでは足りんというのなら、ワシの分もやろう」
「いや、先生の分は先生で食べないと」
「………分かっておる。それが道理ということぐらい。だが、胃がついてこんのだ。若い頃のように甘いものを大量に食べると胸焼けがな」
子供達の善意なので、もちろん残すことはしないが年には勝てない。
内臓が大量の甘味に白旗を振っているのだ。
「そ、そう……」
「それから、動画の内容に関しては気にするな。どうせ、ゲストの居ないときは仕事風景を映しているだけだ。ケーキを食べるだけでも、普段より華やかな方だ」
「流石にその内容を改善するべきだと思うけど……」
普段から動画が面白くなるように、工夫しろと言われるが扉間は気にしない。
別に、視聴者を増やしたいわけではないのでこれでいいのだ。
「…………」
「…………」
そして、無言でケーキを食べる2人。
動画撮影でなければ、単なる日常の光景だが、動画になると余りにも違和感しかない。
オカシ忍者がお菓子を食べるおかしい動画に、需要などあるのだろうか。
「………コーヒーでも飲む?」
「すまんな」
途中、甘味の暴力に打ち負けかけてきた扉間に、ヒナがコーヒーを入れたりするなどの動きはあるが、それ以外はほぼ無言でケーキを食べるだけ。そのうち、ヒナも慣れて来たのかカメラも気にせずに食べ始める。
一部の人間以外にとっては、クソ動画確定である。
因みに、一部の人間であるどこかの行政官はヒナがケーキを食べるシーンだけは無限リピートするだろう。
「先生、大丈夫…?」
「……やむをえん。残りは明日に回すとしよう。だが、勘違いしてくれるな。ケーキに乗った想いを受け止められんかったわけではない。ワシを祝ってくれる声はしっかりと受け止めた。ただ、砂糖が受け止められんかっただけだ」
「うん……きっと、ケーキを贈ってくれた子も分かってくれるから」
そして、動画は扉間がギブアップしたところで終わりを迎える。
年寄りにホールケーキ丸ごと1つはキツイ。
明日はアロナにも手伝って貰わないと、厳しい戦いになるだろう。
「それでは、第21回トビラマチャンネルはこれで終わることにする。今回のゲストは」
「空崎ヒナでした」
「では、最後にもう一度言っておこう。誕生日、おめでとう」
こうして、ヒナと扉間の誕生日会は終わりを迎えるのだった。
「じゃあ……ケーキも食べたし、私は仕事に戻るね、先生」
動画撮影も終わったので、面倒臭いけど仕事に戻るかと席を立つ、ヒナ。
「待て。風紀委員会からの誕生日プレゼントがまだ残っている」
「プレゼント? ケーキだけじゃないの?」
しかし、それを扉間が止める。
ちょっと、苦しそうに胃の辺りを押さえた状態で。
「普段忙しい、お前に誕生日ぐらいは休んで欲しいと依頼があったのだ」
「……それで、動画の出演依頼があったのね。てっきり、エデン条約とかについてだと思ってたけど」
「そういう訳だ。お前は、家に帰ってゆっくりすると良い。仕事はまた明日からだな」
扉間の目的はヒナを休ませること。
だから、動画では特に何もさせなかったのかと合点がいく、ヒナ。
まあ、生徒が居ないときのトビラマチャンネルは基本、あんな感じなのだが、そこは言わないお約束である。
(アコ……もしかして、私が風紀委員会を辞めようとしていることに気づいて)
そして、ヒナは自分が疲れたのでエデン条約を機に風紀委員会を辞めようとしていることに、気づいたのではないかと思う。だからこそ、少しでも休ませようとしているのではないかと。
「気持ちはありがたいわ。でも、私の力がないと抑えられない場合もある以上は、私が出ないと……どうせ、やらないといけないことだし」
しかし、ヒナはそう簡単には休めない。
ゲヘナの生徒達は、力こそがパワーな価値観。
そしてゲヘナ学園の
要するに、問題が絶えない。生徒一人一人がやたらと頑丈。
そのため、ヒナが居ないと精鋭である風紀委員会だけでは抑えきれないことがあるのだ。
「いいや、ワシが風紀委員会からの依頼を受けた以上、お前には休んでもらう」
「だから、私が居ないと戦力が――」
「戦力をどうにかすればよい。つまりはそういうことだな?」
だが、扉間はそれを認めない。
子供の純粋な願いを叶えるためなら、妥協はしない。
まあ、ホールケーキを1日で食べるのは流石に妥協したが。
「戦力? 誰か、よその学校から連れて来たの? でも、幾ら実力があっても、アコ達がよそ者をそう簡単に受け入れるとは思えない」
シャーレの力で、よその学園から戦力を連れて来たのか。
そう、ヒナは疑問を口にする。
「いや、今はエデン条約で慎重に動かざるを得ない時期だ。シャーレと言えども他所の学園の生徒を堂々と出入りさせるのは不味いだろう」
「じゃあ、どうやって戦力を確保するの?」
だが、扉間は首を横に振る。
今は、両学園がピリついている時期、コソコソと動かなければならないのだと。
「確保ではない。底上げするのだ」
「底上げ? 今日一日鍛錬した程度で、変わるなら誰も苦労しないわ」
「訓練ではない。指揮する人間を変えるだけだ」
「指揮する人間? でも、そこが変わるだけで……いや、もしかして……」
指揮官が変わるだけで戦局が変わるものかと、言いかけてヒナは思い出す。
チナツが随分と前に出した報告書を。
そこに書かれていたのは、優れた指揮能力で生徒の力を普段以上に引き出す存在。
つまり――
「指揮役はもちろんワシがやる。お前は今日1日休む本日の主役だ」
―――先生である。
ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの即席混合部隊を平然と普段以上の力で指揮してみせた存在。
それが、ゲヘナ風紀委員会という精鋭を操ればどうなるかなど、火を見るよりも明らかである。
「……アコ達は納得……したから、先生に依頼を出したのね」
「以前に部隊でトビラマチャンネルに出演してもらったからな。その縁だ」
おまけに、以前の動画出演の際にべた褒めしてあるので、扉間の好感度は高い。
普通は噛みつくであろうアコも、扉間を先生として認めている。
つまり、扉間単体で指揮を取れる準備は出来ているのだ。
「ワシは今日、誕生日企画として単独でゲヘナの空崎ヒナを訪ねた。その後、帰ろうとしたところで、問題を発見して先生として見過ごすわけにもいかぬと、知り合いである風紀委員会と共に問題の解決を行った。そして、翌日になればヒナと入れ替わるようにシャーレに戻る。台本としてはそんな所だ」
そう告げて、扉間は部屋から出て行く。
風紀委員会と合流するためだ。
「……ちょっと待って」
だが、ヒナはそんな扉間を呼び止める。
「どうした? 自分も行くというのなら、聞かんぞ」
「違うわ。先生の能力は信頼している。ただ――」
扉間は風紀委員会を任せるにたる人物だ。
それは理解した。
しかし、1つだけ納得のいかないことがある。
それは。
「私が誕生日で休みだというのなら―――先生も休まないといけないんじゃ?」
扉間も誕生日ぐらい休むべきではないかという疑問。
否、優しさである。
「フ、覚えておけ、ヒナ。大人とはな――」
そんな優しさに対して、扉間は。
「―――働くべき時は盆も正月も働かねばならんのだ」
半笑いしながら、悲しい現実を告げるのだった。
「あの、食べた後にすぐ動くとお体に障りますよ。胃薬をどうぞ」
「すまんな、チナツ」
チナツから受け取った胃薬を受け取り、気づかれないように匂いを嗅いで毒の類ではないことを確認してから水と一緒に飲む扉間。
「ウワサ通りのいい指揮だな! 先生、みんなも先生について行きたくなると言ってたよ」
「それらは、ワシの指示に迅速に従える能力があってこそ。お前達の普段の頑張りのおかげだ、イオリ。よそ者のワシの指示に従ってくれたのは、お前の声かけもあってのことだろう」
「そ、そうかな? ありがとう」
不良や温泉開発部、美食研究会を普段よりも楽に制圧することが出来て、上機嫌のイオリを扉間は褒める。ヒナには劣るとはいえ、風紀委員会屈指の実力者であるイオリが扉間に従う姿勢を見せたことは大きい。上の者が従うなら、下の者も従うしかないという空気が作れるのだ。
「先生、このままゲヘナ所属になる気はありませんか? 先生が居て下されば、ヒナ委員長の負担も軽くなると思うんです!」
「悪いが、アコ……依頼で来るならともかく、連邦生徒会のシャーレ所属である以上は一勢力の者になることは出来ん」
「そんな! 今なら洗剤も付けますよ!」
「アコちゃん、新聞の勧誘じゃないんだから……」
アコは、以前のような無理やり先生を拉致するという方法は諦めて、正攻法で陣営に引き込もうとするが、あっさりと断られてしまう。そして、新聞の勧誘じみた台詞を吐き、イオリに呆れられている。
「イオリは黙っていてください! ただでさえ、風紀委員会は
「……あの、昨日の停電は配電関係の工事のものだって言ってませんでしたか?」
「…………」
停電は事前に通告されていたはずと、告げるチナツにアコは黙り込む。
そして、何かを思い出したのか頬と横乳にタラリと汗を流す。
「………所で、先生。先程の話とは本当に全くもって関係ないのですが、監視カメラが100台ほどご入用だったりしませんか?」
「どういう意図でそれを買ったのか、素直に言えば助けてやらんこともないぞ」
「うぅ……」
どうしよう、100台も使う場所がないと涙目になるアコを無視して、扉間はチナツに向き直る。
「しかし、ゲヘナの生徒は聞きしに勝るやんちゃぶりだな。お前達は本当によく頑張っておる……大したものだ」
「あれをやんちゃで済ませる先生も、どうかと思いますが……まあ、苦労はしていますね」
「ねぇ、先生。どうにかして規則違反者共を取り締まる方法とかない? あいつら、何回捕まえても懲りないんだけど」
イオリが苦言を呈するように、ゲヘナの不良共は逞しい。逞しすぎる。
ゲヘナ最強のヒナにボコボコにされても、ヒナが居ないと見ればすぐに復活する。
反骨精神旺盛という言葉では言い表せないレベルだ。
「罪には罰。その理屈を叩き込まれても、懲りん奴らをどうするか……か」
扉間は考える。
(ワシの生きた時代なら、容赦なく殺して見せしめにしていたが……平和な時代にも平和なりの問題があるという事か)
どれだけ悪さをしても、命までは取られない。
そうした、平和な時代ならではの価値観が反骨精神を助長している可能性はある。
普通は誰だって命と引き換えにしてまで悪さはしたくない。
「牙を抜くには……より幼い時から自由と無秩序は違うという平和教育をしていくしかない」
「小学生の時から、規則を守るように指導するってこと? でも、それが効果が出るのって」
「ああ、随分と先の話だろうな」
「やっぱり?」
ガックリと肩を落とすイオリに、申し訳ない気持ちになる、扉間。
歴史を紐解いても、古き武家諸法度や御成敗式目、生類憐みの令、など部下や民衆の牙を抜く政策は多く行われてきた。
だが、その政策は基本的に何代にも渡って継続させることで、初めて成り立つものである。
何も知らない子供に、ある意味で洗脳のように上に従うルールを教え込む。
そして、牙を持った者達が死ぬのを待つことで、ルールを教えられた者だけが残るのだ。
そうなれば、誰も違和感を持たない。
「なんか、手っ取り早く出来る手段とかない?」
「……恐怖政治でも良いなら可能だが」
「な、なんか怖そうだからやめとく」
扉間の恐怖政治という言葉に、イオリは首をブンブンと横に振る。
それは賢明な判断であった。
恐怖政治はルールを違反した者は、誰であっても容赦なく罰する。
ときには殺しもする。だから、早く確実に目的が達成できる。
まあ、基本的に恐怖政治の落ちは大規模な反乱が起きて、滅茶苦茶になるだけなのだが。
「口惜しいが、こういったものは自分の代だけで終わらせようとしないことが肝要だ。次の代に引き継ぎ、後ろに続く者達に任せる。自分の代で、自分だけで成し得ようとした者の末路を……ワシはよく知っておる」
扉間はマダラを思い出す。
世界平和。そんな綺麗なお題目を達成するために、マダラは外道に落ちた。
そして、最後は自分も利用されて全てが徒労に終わった。
あれだけ弟思いだった兄が、弟に似たサスケを殺すまで堕ちるなど、見たくはなかった。
「先生……」
「だが、まあ。だからと言って、現状を放置するのもおかしな話だ。ワシも出来る限り、力になろう」
問題が解決する頃には、扉間は生きていないだろう。
だからと言って、何もしない理由にはならない。
未来に少しでも希望を残すのが、老人の仕事だ。
「では! ゲヘナに来てくださるんですね! 先生!!」
「アコちゃん、ステイ」
力になるという言葉に、散歩と聞いた犬のように飛び上がる、アコ。
そんなアコをイオリが抑えているのを見ながら、扉間は考える。
(教育を施すにしても、暴れる者を抑える力は必要だ。風紀委員会を強化するか? いや、それでどうにかなるのなら、こんな状況にはなっていないか。最強のヒナを擁していても手が足りん。兄者の細胞でもないのだ。無から手が生えてくるわけでもない。となれば……リソースを絞れる状況を作るべきか)
戦力としては、風紀委員会は別に弱くはない。
ただ、敵が多すぎるだけだ。
ならば、その敵を捕まえやすくしてしまえば良い。
「
「エデン条約……ああ、委員長が推進してたやつ?」
「温泉開発部や美食研究会は、トリニティでも活動していますからね。その度に、あちらの正義実現委員会と衝突しないように注意する必要が無くなれば……確かに、今よりは楽になりますね」
イオリとチナツが納得を見せる。
エデン条約が締結すれば、風紀委員会の苦労は減る。
すぐには無理だろうが、トリニティの正義実現委員会と協力も出来れば犯人の検挙率も上がるだろう。
(それにエデン条約は言わば、不可侵条約のようなもの。無論、言葉通りの不可侵ではないが、背中を気にする必要が無くなればそれだけ内政に力を入れられる。平和な期間に軍事力の強化も可能だ……それがどこに向けられるかまでは、ワシではコントロール出来んがな)
純粋なイオリには聞かせないように、扉間は内心で考える。
不可侵条約というのは、次の戦争への準備期間に過ぎない。
目の前に敵がいるが、後ろにも敵が居て動けない。
そんな時に、どちらかと手を組むことで一時的に背中を気にする必要をなくす。
それが本来の不可侵条約というものだ。
(だが……)
扉間は思い出す。
柱間とマダラが手を取り合った日を。
イズナを殺した千手と、瓦間と板間を殺したうちはが。
本当の意味で手を取り合えた日を。
未来では残念ながら、滅ぼされてしまったがそれでもカガミ等の仲間と呼べるうちはと出会えた。
憎み合っていても、手を取り合えるのだと証明できたあの輝きを忘れない。
「エデン条約の締結。他の細々とした問題と違い、これに関してはワシが動ける範囲で大手を振って手伝うことが出来る。連邦生徒会長の出した案である以上は、その権限の大半を引き継ぐシャーレがエデン条約に肯定的なのは何もおかしくはない。それにトリニティの方も条約締結に乗り気である以上、ゲヘナ風紀委員会と個人的な繋がりのあるワシの動向を無視できんはずだ」
「やっぱり、ゲヘナ風紀委員会に来てくださるんですね! さあ、先生にお任せしたい仕事が山ほどあるんです!」
「アコ行政官、ステイ」
今度はチナツに止められるアコを見ながら、扉間は考える。
争いの種を消せるという個人的な理由から不可侵条約を締結したい。
そして、ゲヘナの問題を少しでも何とかするためという理由もある。
ならば、自分がすることは。
チラリと扉間は新着メールを見る。
「悪いが、アコ。ワシはしばらく―――トリニティに行く」
―――桐藤ナギサからの依頼を受けるべきだろう。
「阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、浦和ハナコ、下江コハル。まず、お前達がここに集められた理由を伝えておこう」
シンと静まった教室で、扉間は4人の生徒に向けて話す。
約1名ヒフミは知っている顔だが、一旦無視して話を進める。
「お前達は全員、成績が落第点のため、この『補習授業部』で補習を受けてもらう」
『補習授業部』。その名の通り、補習授業を行うための部活だ。
モモフレンズのグッズのためにテストをすっぽかしたヒフミを除き、他の者達は全員赤点。
まあ、何故集められたのかと言われれば、ぐうの音も出ない理由である。
「と、言うのは建前だ」
「え?」
「お前達が集められた真の目的。それは――」
しかし、扉間はそれを建前だとバッサリと切り捨てる。
ヒフミが、驚きの表情を浮かべる。
だが、扉間は止まらずに進む。
そして、ぶっちゃける。
「―――この中にトリニティのスパイが居る可能性があるため、1ヵ所にまとめて監視するためだ」
それ言ったらお終いじゃない? という台詞を。
ヒフミが何でいるのか。ナギサとどんな話をしたかとかは次回で。
それから、扉間とヒナとキサキ、誕生日おめでとう!
ヒナとキサキは公式で一緒に誕生日やっているので、もし見ていない人が居たら見てみてください。
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