『補習授業お疲れ様です、先生。首尾はどうでしょうか?』
「みな、勉強へのモチベーションが低くてな。なかなか上手くいかん」
『それは……最初にスパイとして疑っていると言われたら、当然でしょう』
合宿所、扉間の部屋で通信越しのナギサが、呆れた表情を見せる。
扉間の初手全ブッパ作戦は、スパイの動きを封じるのには最適だが学力向上には全くもって不向きだ。
例え無実だとしても、お前を疑っていると言ってきた人間の授業など受けたくもない。
そもそも、点数が上がっても合宿所を抜け出せない以上は、モチベーションにすべきものがない。
勉強として考えれば、失敗そのものだ。
『ですが、これでスパイの動きは完全に封じ込めたでしょう。贅沢を言えば、誰がスパイかを特定して、他の人達は解放したいのですが……先生の目から見て、怪しい人物はいたでしょうか?』
しかし、成績などナギサにとっては二の次だ。
そもそも、ハナコは3年分のテストを既に全て解いている天才。
ヒフミはテストをすっぽかさなければ60点は超えられる。
問題なのは、一番怪しいアズサと実力で補習授業部に入ったコハルぐらいだ。
スパイが分かればそれでいい。
「そうだな、ワシの目から見れば、全員―――
だが、そんなナギサに扉間はため息交じりに返す。
全員、間者としてまるでなっていないと。
『……スパイとして落第…? それは、一体……』
「そのままの意味だ。どいつもこいつも、怪しすぎる。スパイとは、怪しまれること自体が失敗。もう少し、忍ぶことを覚えるべきだ」
『えっと……』
突如始まる、本職の方からのダメだし。
これには、流石のナギサも返す言葉が見つからない。
「まずは、ヒフミ。お前からある程度事情を聞いていたせいか、初めは妙な落ち着きを見せておった。そして、お前に裏切られたと分かったときの動揺。顔や仕草に情報を出しすぎだ」
『ヒ、ヒフミさん……』
お前が裏切ったと告げられ、グサリと心に刃が刺さったような声を出す、ナギサ。
ヒフミとナギサの友情は犠牲になったのだ。
古くから続くトリニティとゲヘナの因縁、その犠牲にな。
「次にハナコ。ワシの意図を全て読み切った上で、挑発までして来おった。その洞察力はワシ以上だが、スパイであるならばあの場においても道化を演じるべきだった。せっかく作った道化の仮面を自分で脱いでおるようでは、まだまだだ」
ハナコはスパイを行えるだけの能力はある。
しかし、わざわざ疑われるような行動を見せるのは詰めが甘い。
あの場でするべきことは、出来る限り無能を演じて扉間の口から情報を引き出すことだった。
「そして、アズサ。監視カメラやトラップを見抜く洞察力からは確かな実力を感じるが、その行動が一般的な行動でないという常識がない。スパイとして最も重要な能力は、周りに溶け込むこと。それが出来ないというよりも、その発想がないのはアンバランスとしか言いようがない。恐らくは、スパイとしての教育は受けておらん」
アズサは色々と怪しい。
怪しいからこそ、逆に違うのではと思わせる程になっている。
狙ってやっているのなら大したものだが、恐らくは天然だろう。
「最後に、下江コハル。奴の行動は、まさに理想的な馬鹿だ。感情に振り回されながら、質問を振りまき情報を引き出す。悪手になりかねない行動を提示し、それが有効かどうかを確かめる。そして、こちらから見て怪しい行動は一切しない」
『では、コハルさんがスパイだと?』
「………恐らくは素でやっておる、本物の馬鹿だ」
『その根拠は?』
「テストの答案がな……基礎が出来ていないが故の間違いがほとんどなのだ。いや、そこまで考えての行動ならば、舌を巻くしかないが」
スパイとして点数が高いのはコハルだ。
どれもこれも素の反応なので、怪しむ要素がない。
それでいて、しっかりと情報は得ている。
まあ、柱間という馬鹿の傍に居た扉間的には、素で馬鹿なのだろうなと思っているが。
「それからワシ自身だ。お前はゲヘナとのつながりから、ゲヘナの条約反対派との繋がりを疑っているのだろうが、生憎ワシは条約締結後の平和をゲヘナにもたらしたいのだ。疑いを持つのはいい視点だが、今回は徒労だな」
『……証拠はありますか?』
「ない。だからこそ、監視カメラで監視させているのだろう?」
最後に、自分もスパイ容疑者として挙げてしめる、扉間。
シャーレの先生も、いつでも条約を邪魔できる立場。
警戒するに越したことはないと言いながら。
『……分かりました、引き続き補習授業部をお願いします』
そんな扉間に対して、ナギサは信じるとも信じないとも返さない。
いや、返せないのだ。
今の彼女には、どちらかを選び取る勇気が持てない。
「ああ、了解した。そちらも、
『もちろんです。それでは、ごきげんよう』
プツンと通信が切れる。
扉間は、監視カメラがあるので今も見られているとは分かっていても、気を抜くように息を吐く。
「……用事があるなら、入ってこい」
そして、扉の向こう側へ声をかける。
「―――ハナコ」
「あら、バレちゃいました? それとも、先生は私をノ・ゾ・キでもしていたんですか?」
顔はニコニコと、しかし目は全く笑っていないハナコが入ってくる。
「……何のつもりだ?」
「あら、何かおかしいですか?」
行動としては何もおかしくはない。
おかしいのは――
「室内にも関わらず水着で訪ねて来ることだ」
―――水着で来たハナコの姿だった。
「ふふふ、先生には水着に見えますか?」
「なに?」
「……人は誰もが自分の知識や認識に頼り、縛られながら生きています。それを現実という名前で呼んで」
ビキニの上にワイシャツを羽織っただけの扇情的な格好。
だというのに、ハナコはそれは違うと告げる。
「ですが、知識や認識とは曖昧なものです。そうした現実は幻かもしれません。人はみんな思い込みの中で生きている。そうは考えられませんか?」
「……確かに一理ある」
ハナコの哲学的な問いに一理あると告げる扉間。
まあ、外から見れば水着姿で何真面目な話をしているんだとしか、思われないが。
「つまり、水着じゃなくて下着だと思えば、それは下着になる……そうは思いませんか?」
「………そういう問題か?」
「そういう問題です。それでは先生、今から私は先生を――」
いや、そうはならんだろという台詞に思わず真顔になる、扉間。
だが、ハナコは相も変わらず冷たい笑顔のまま告げる。
「―――ハメさせてもらいます」
そんな爆弾発言を。
「もうヤダ! 訳わかんない!!」
ハナコが水着を下着と言い張る、数時間前。
割り当てられた部屋に来ると同時に、コハルはベッドの枕を叩きつける。
因みに叩きつけたのはちゃんと自分のものであって、ヒフミのモモフレンズのグッズではない。
もしも、ペロロの枕を叩きつけていたら一触即発の事態になっていただろう。
「コハルちゃん……」
「どうして補習授業部で勉強しに来ただけで、変な疑いをかけられてるの!? この部屋も監視カメラで見張られたりしてるわけ!?」
「うん、あるな。それと、トイレとお風呂にもしっかりついてる」
「もうこれ、ただの盗撮じゃない! 犯罪よ、犯罪!!」
自分達が置かれている状況に、涙交じりで叫ぶコハル。
一応、最低限の配慮として監視カメラを見るのはナギサか、ナギサが認めたティーパーティーの人間だけになっている。
後、扉間の入浴シーンもしっかりと覗かれている。
「どうする? カメラを取り外すだけなら、私でも出来るけど」
「それは、得策じゃないですね。何もなしに取り外すとなると、『何かやましい事でもしているんだろう』と相手につけ入る隙を与えるだけですから」
「何それ意味わかんない!
コハルの悲痛な叫びに、アズサ、ハナコ、ヒフミが顔を曇らせる。
当初はお互いに疑い合い、仲間割れをしそうになっていた4人だが、相手の行いが余りにも酷いため心が一致する。
あいつら許さねえと。
そして、ヒフミが意を決したように、声を出す。
「わ、私がナギサ様に直訴します! じ、実は私は補習授業部が作られた理由を聞いているんです! 本当は、みなさんを監視する役割は私だったんですが……」
「そう言えば、ヒフミちゃんはよくティーパーティーの場に出入りしていましたね」
「はい。だから、ナギサ様ともよくお喋りしているので、せめて寝室やトイレなどのカメラを外してもらえるように頼みます」
自分はナギサ様とは友達だから。
そう告げるヒフミに、期待の目が向く。
だが、ハナコは冷静に無理だろうと首を横に振るのだった。
「……ヒフミちゃんが疑われている理由は、ブラックマーケットに出入りしているからですよね?」
「そ、それは、限定グッズが欲しくて……」
「風の噂では、裏社会の伝説と言われる陸八魔アルとも共闘したとか」
「で、伝説…? あれは、本当に偶然が重なった結果というか……」
「結局の所、それを証明する証拠がないから疑われている以上、あちらは見えない場所は作りたくないと思いますよ」
「あうぅ……」
そもそも、ヒフミが疑われている理由は何やってるのかが分からないに尽きる。
むしろ、この中で一番監視カメラで見たい人物の提言など、聞きもしないだろう。
「大人しくしているのが一番になるな……」
「アズサちゃんの言う通りですね。疑いを晴らすなら、ジッとしておくのが一番。誰かに一日中嫌らしい目を向けられるのも、下腹の辺りがキュンとするので私は構いませんけど」
「へ、変態! 見られるのが好きなんて、おかしいわよ!」
故に、大人しくしていることしか出来ないと、アズサがどこか申し訳なさそうに告げる。
ハナコもそれに賛同するように頷く。
後、賛同理由にコハルがツッコミを入れる。
「でも……特殊プレイは双方の合意があって初めて成り立つもの。私はともかく、コハルちゃん達まで付き合わせるのは悪いですね」
だが、ハナコはそれで終わらない。
確かに、この中にスパイが居る可能性は高いが、それはそれとしてこの行いには腹が立っている。
やっていい事と、やってはいけないことがあるだろうと。
「それに、この中からスパイを見つけるよりも、まとめて排除した方が楽ちん。
「ちん…!?」
「あら、どうしました、コハルちゃん?」
「な、何でもないわよ!」
頬を赤らめて、ブンブンと首を振るコハルを笑顔で眺めながらハナコは考える。
自分達は圧倒的に不利な状況だ。
何を言っても、怪しいの一言で首を切られる理由になる。
自分は退学しても、別に痛くも痒くもないが他の3人は違う。
この学園に残る理由があるはずだ。
「……まずは、対等な関係にならないとダメですねぇ」
故に、カードが要る。
相手を交渉の席に引きずり出すためのカードが。
「そう言えば、コハルちゃんはさっき
「そうよ! 監禁して盗撮するなんて悪党はえっち――って、あっちよ!」
「すいません、言い間違えてしまいました」
なおもコハルを弄りながら思考する。
スパイを見つけ出すという大義名分はあるものの、道義的には犯罪行為。
いや、それを差し引いてもナギサと扉間を同時にテーブルに引きずり出さねば、自分には止められないと言われるだけだ。
そして、2人の目的はエデン条約の締結。
だとすれば、自分達が取れる手は。
「いいことを思いつきましたよ。これなら、最悪被害が出るのは私だけです」
「いいこと…ですか?」
「え、エッチなのは駄目よ」
「この状況を打開する手があるのか?」
ハナコの言葉に、ヒフミ、コハル、アズサが寄ってくる。
「これは両手に花ですねぇ。いえ、3人なので股にも花が」
「いいから話しなさいよ!」
「あらあら、コハルちゃんはせっかちですね。前座も無しに、本命に入れる。いえ、入るなんて」
「あはは……」
「?」
そして、適度にコハルをからかって、硬くなった
この作戦にはハナコ以外の者の協力が不可欠なのだ。
「では、発表しましょうか。私達がやるべきこと、それは――」
ニコリと、とてもいい笑顔でハナコは告げる。
「―――嵌め撮り画像の撮影です」
エッチなのは駄目、死刑! な、発言を。
「下着姿の生徒と夜の密会の撮影。まさにハメ撮り撮影。いえ、嵌め撮りですね」
「……ワシを責めるのか?」
扉の外からアズサ達に撮影される扉間とハナコ。
話している内容はシリアス……多分、シリアスだが映像だけ見れば、淫靡な姿の生徒が先生に迫る光景である。
「スパイが外部と連絡を取ろうとする所を捕まえる気だったのかもしれませんが、SNSなどを使えるままにしておいたのは失敗ですね。この嵌め撮り画像を流出させたら、大変なことになっちゃいますよ」
「なるほど、ワシの社会的信用を殺すつもりか。自分の風評を犠牲にしてでも」
「私の風評は既にあって無いようなものなので」
嵌め撮り作戦は、その名の通り相手を作戦に嵌めて撮影する作戦である。
生徒との淫行。教師という聖職者であれば、その被害は計り知れない。
「だが、キヴォトスにおいて先生と生徒が恋愛をするのは犯罪ではない。その程度の脅しで縛られるワシではないわ」
しかし、それはあくまでも外の世界での話。
そういう動画が流出することに影響がないとは言わないが、別に犯罪ではないのだ。
「そもそも、ワシ1人を排除したところで、お前達の置かれている状況が変わるわけではない。監視カメラを見ているのはワシではないと忘れてはおらぬだろうな? お前は馬鹿ではない……」
だからこそ、もう一手あるのだろうと扉間はハナコを挑発する。
ハナコもそれに対して、冷たい目で返す。
「ええ。だから、嵌め撮り画像を流すと同時に、ある一文を付け加えるんです」
「ある一文?」
「はい。私達は―――桐藤ナギサに売られたと」
監視カメラ越しに見つめていたナギサが紅茶を吹き出す。
当然、ハナコ達からは見えないが何となくその様子を思い浮かべて、ハナコは留飲を下げる。
そして、扉間は感心したように息を溢す。
「桐藤ナギサはエデン条約を締結させるために、失踪した連邦生徒会長の後継と考えられるシャーレの先生を取り込みにかかった。そのために、作ったのが補習授業部。外部との連絡を絶ち、そこに集められたタイプの違う生徒に、先生が補習と称して夜な夜な行う夜の課外授業。つまり、私達は先生への上納品になってしまったんです」
くねくねと腰をくねらせながら、頬を赤らめるハナコだがその目は冷たいままだ。
直接的な武力で勝てないのなら、社会的な力で相手を倒そうという策略。
即ち、スキャンダルでナギサを失脚させようとしているのだ。
「後は証拠として、私達の盗撮の映像があれば完璧なのですけど……それは、流石に消されてしまいますかねぇ」
「なるほどな。ナギサが失脚することになれば、
「はい。今の
ハナコの作戦が上手く行く保証はない。
捏造だと火消しに回られれば、それだけで終わりかねない。
だが、四方八方に敵を抱えているこの時期。
何がきっかけで、攻撃を加えられるかが分からないのだ。
故にナギサは悩む。
『……ハナコさん、何が望みですか?』
「望みだなんて。私は普通にみんなとお勉強がしたいだけですよ? 誰にも見られず、ありのままの姿で」
スパイはここで排除しなければ、自分どころかミカの命をも狙うかもしれない。
しかし、エデン条約が締結できなければ意味がない。
ミカに細かい政治は無理だ。
自分がやるしかない。
「ナギサ、ワシのことは気にするな。ワシが冤罪でキヴォトスを追われたところで、大した被害はない。お前は条約の締結を第一に考えろ」
「うふふ、凄く立派でかたーい信念ですね、先生」
「……平和条約というものが、後の世に与える影響は計り知れん。それだけの話だ」
茶化すようなハナコの物言いに、扉間は渋面を作る。
本当なら、平和のためなら自分の命などどうでもいいと言いたかったが、アロナに叱られるので誤魔化したのだ。
『いえ、先生はこれからのキヴォトスを守っていく、欠かせない先生です』
「あら? それなら、私達の要求を呑んでくれるんですか?」
『先生には引き続き監視はしてもらいますし、報告も必ず挙げてもらいますが……プライベートスペースの監視カメラは外して構いません。ですが、あなた達の成績が落第点であることに変わりはありませんよ? 全員で合格点の60点を超えるまでは、合宿所に居てもらいます』
「それは……流石に反論できませんね。点を取れる人が出来ない人を見捨てていくのも、寂しいですし」
ナギサの妥協案にハナコは頷く。
流石に、扉間の排除までは無理だろう。
対外的には補習授業部の顧問なのだ。
ここから出て行くように強制するのは難しい。
『それでは、先生。引き続き、補習授業部をお願いします』
「あら、随分と素直ですね」
『やはり、浦和ハナコは油断できる人間ではないと、確認できただけで十分な収穫ですから』
浦和ハナコは馬鹿になったのではない。
やはり、天才だったのだと改めて理解して、警戒の目を強めるナギサ。
今回の行動で、ナギサの中でハナコのスパイ疑惑はかなり上がっている。
『それから、ヒフミさんは居ますか?』
「は、はい!」
消える前に、本当に最後の最後にナギサはヒフミへ声をかける。
『ヒフミさん』
「な、なんでしょうか…?」
疑う側と疑われる側、気まずい空気が流れる。
お互いに友人だと思っているのに、あちらは友人だと思ってはいないのではないかという猜疑心。
『……何でもありません』
それが2人の仲を引き裂く。
信じています、というたった6文字の言葉を紡ぎだせない。
『それでは、みなさん。勉強を頑張ってください』
最後にそれだけ言い残して、ナギサは通信を切る。
「ナギサ様……」
静かになった部屋に、寂しそうなヒフミの声だけが響くのだった。
「よし、それでは授業を始めるぞ」
「何であれだけのことがあったのに、あんたは普通に授業しているのよ!」
そして、嵌め撮り作戦の翌日。
扉間は何事もなかったかのように、教壇に立っていた。
もちろん、生徒達から警戒の目を向けられる。
「お前達の成績を上げるのもワシの仕事だ、下江コハル」
「それでも…こう! 一応敵対したんだから、なんか思ったりしないの!?」
「ワシの受けた依頼に変わりはない。そして、監視カメラも元よりワシが見ていたわけでもない。むしろ、何を変えるというのだ?」
あっけらかんとコハルに言い返す、扉間。
変わったのは、監視カメラの有無だけ。
扉間の任務に変わりはない。
因みに監視カメラはトリニティの金で、
「……いや、1つだけ
「少しは取り繕いなさいよ!」
「猫を被るのはキライでな……本性を隠すのは出来ない
もちろん、嘘である。
必要なら、本性ぐらい平然と隠す。
子供のころから、父親の仏間の前では猫を被っていた男だ。面構えが違う。
「で、でも、これでテストで合格しさえすれば解放してもらえるんですよね?」
「少なくとも、ワシがお前達を監視する理由は無くなるな」
「先生以外からの監視は無くならない……というわけか」
「エデン条約締結まではな」
「問題ない。尾行を撒く技術は身に着けている」
「アズサちゃん!?」
お前、本当に疑いを晴らす気があるのか?
そんな発言をかますアズサにヒフミがツッコミを入れるが、当の本人はキョトンとしている。
これが演技なら、大したものだ。
「それで、先生。今日はどんな授業をなされるんですか? 同じ屋根の下で熱い夜を過ごした仲ですし、個人レッスンでも私は構いませんよ?」
「個人レッスンというのは言い得て妙だな。初日に、お前達に模擬テストをやってもらって分かったが、お前達は苦手な範囲がバラバラだ。講義形式でまとめてやるのは効率が悪い。お前達それぞれの苦手部分をピックアップした問題集を作った。今日はそれを解いていってもらう」
「……そういう所は、普通にするんですね」
個人に合った問題集を、昨晩の内に作っていたことには素直に驚く、ハナコ。
本当に嵌め撮り作戦を仕掛けられたことには、何も思っていないようだ。
「分からんところは、ワシに聞く……のは、嫌だろう。それぞれで、解答を教え合っても構わんし、別にスマホで調べてもいい。ハナコ、お前は自分の分を解き終わったら他の者を手伝ってやれ」
「あら、先生。私のテストの点数を知らないんですか? 一桁ですよ」
「この教室で、お前を馬鹿だと思っている者は一人もおらん。道化を演じるには、ちと無理があるぞ」
「……ちょっと、はしゃぎ過ぎましたねぇ」
お前が本当は頭が良いのは分かっていると返されて、ハナコは顔を顰める。
昨日の件はハナコの勝ちだが、もうおバカキャラには戻れない。
しかも、人の手助けとなれば手を抜くのは罪悪感が残る。
この件においては、挑発に乗ったハナコが敗北者であった。
「では、問題集を配る。何か分からないことがあれば、ワシに聞け。嫌なら、ヒフミを頼れ。一応、部長にあたる」
そして、配られる問題集。
ハナコはテストを手で抜いていた、失礼。
テストで手を抜いていたため、どんな問題集が来るのかと身構える。
(これは……至って普通の試験範囲の問題ですね。まあ、解答されていない以上は傾向も読めませんか)
しかし、普通の問題が来て拍子抜けする。
パラパラとページを捲って問題を見ながら、すぐに終わらせてコハルやアズサでも手伝おうかと思い。
―――桐藤ナギサがホストではなくなった際に、次のホストが取るであろう方針と理由を200文字以内で述べよ。
ある問題で手を止める。
そして、扉間の方を見る。
監視の目が消えて動きやすくなったのは、自分達だけではなかったのだと。
――――――――――――――――――
なるほどな。ナギサが失脚することになれば、
はい。今の
――――――――――――――――――
思い出すのは、昨日交わした会話。
ナギサが消えても、エデン条約が無くなるわけではない。
セイアの時と同じ、次のホストが引き継ぐだけ。
だというのに、ホストの変更が大いに影響を及ぼすとハナコは言った。
つまり、ナギサとミカに方針の違いがあることを示唆したのだ。
「……これは鋭い問題ですねぇ」
そう言って、どこか楽しそうに笑いながらハナコは筆を走らせるのだった。
「えーと……この問題の解き方は…スマホで調べて……あれ?」
一方その頃、アズサとコハルの様子を気にしながら問題集を解いていたヒフミ。
解法を調べるためにスマホを取り出した所で、モモフレンズの公式から通知が来ていることに気づく。
勉強中なので、あまりよくはないなと思うが、気になるものは仕方ない。
きっと、新商品とかだろうと思って確認し――
「……ペロロ様のライブが…急遽明後日に…決定?」
阿慈谷ヒフミ。合宿所からの脱走を決意する。
話と全然関係ないですけど
最近ヒナちゃんの目が何故か輪廻眼に見えてしょうがないです。
髪の毛も白色で六道仙人カラーですし。
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