「というわけで、私はペロロ様のライブに行くために脱走します。大丈夫です、明日の夕ご飯前には帰ってきます」
「分かった。あんたバカなのね? バカヒフミなんでしょ!」
ペロロ様緊急ライブ前日の夜。
サイン用紙、ペンライトをお気に入りのペロロカバンに詰め込みつつ、宣言するヒフミにコハルが真顔で馬鹿と吐き捨てる。
侮辱罪ではない、事実陳列罪だ。
「………あの、ヒフミちゃん? 私達がスパイとして疑われてると忘れていませんか?」
「分かっています。でも、緊急ライブは明日しかないんです」
「えっと……その気になれば、私達がヒフミちゃんをスパイ扱いして罪をなすりつけることも出来るんですが」
「だとしても……譲れないものがあるんです!」
その横では、ハナコが今このタイミングで動く理由を必死で考察しながら、ヒフミを説得している。
何か狙いが? と、思うがやはりデメリットしかない。
「それに抜け出すなら、どうしてこの時間に? そもそも、私達に言わない方が良かったと思うんですが……」
「夜の方が抜け出しやすいと思ったので。それと、みなさんに伝えたのは私が居なくなることで、皆さんにご迷惑をおかけするかもしれないので」
そこまで分かっているなら、どうしてライブ如きのために脱走を企てるんですか?
思わず、そう言いたかったハナコだったが、グッと飲み込む。
恐らくヒフミの中では、ライブに参加するのは決定事項なのだ。
他の人に迷惑をかけるのは、悪いとは思いながらも決定したことは揺らがない。
流石に自分の行動で、他の3人が退学とでもなれば止まるだろう。
だが、この場合は明らかに脱走者のヒフミがスパイ扱いされるだけだ。
最悪でも自分が犠牲になるだけという、無駄な自己犠牲精神を発揮している。
「ライブ……というのは何だ?」
「アイドルが歌ったり踊ったりする催しのことです」
「……動くのか? この
「可愛い…? ちょっと、アズサ。あんた熱でもあるんじゃない?」
そして、更にその横ではアズサがペロロに興味を示している。
コハルがそんなアズサにギョッとした表情をするが、アズサは至って真面目だ。
「ペロロ様は鳥ですけど…はい、動きます!」
「鳥? なら、飛ぶのか?」
「えっと、飛ぶのは無理ですけど、飛び跳ねたりはします!」
「歌うのか? 踊るのか? この、動くことを拒否しているような肥満体型で?」
「歌いますし、踊ります! ペロロ様の華麗なダンスはライブ最大の見ものですよ!」
興味を持ったアズサにここぞとばかりに布教を始める、ヒフミ。
あなたはペロロ様を信じますか? とでも言わんばかりだ。
「それは……是非とも見てみたいな…!」
「それじゃあ、一緒にライブに行きましょう!」
「分かった、合宿所の外にあるトラップの解除は私に任せて欲しい」
「行きましょうじゃないわよ! アズサもヒフミの馬鹿をうつされないで!」
ペロロ愛の逃避行に行こうとする2人の頭をコハルが叩く。
暴力反対とは言わせない、有無を言わせぬ迫力がそこにはあった。
これが正義実現委員会のえりぃとの実力である。
「あの……ヒフミちゃん? コハルちゃんもこう言っていますし、考え直しませんか?」
「私には、好きなものがあります! 平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」
「ここで、そんな宣言は聞きたくありませんでした」
ヒフミの自分の好きなものは絶対に譲れない宣言に、思わず頭を抱える、ハナコ。
愛は人を馬鹿にするというが、幾ら何でもこれはないだろう。
それとも、モモフレには人を虜にする魔力でもあるのだろうか。
「ど、どうしても、行くんなら私を倒してから行きなさい! そもそも、夜中の外出は校則違反なんだから!!」
「仲間の屍を越えていけという訳か……『vanitas vanitatum』それがこの世界の真実」
「あ、アズサちゃん。流石に、そこまでは」
今の状況に不満はあるが、それはそれとして悪いことはダメと立ち塞がる、コハル。
全ては虚しいものだと、覚悟を決めながら銃を手にするアズサ。
慌てて、それを抑えるヒフミ。
まさに、場は一触即発。
何の策略も行っていないのに、仲間割れが起きたと聞けば、ナギサもさぞ困惑するだろう。
「落ち着いて下さい、3人共。私に考えがありますから」
そんな状況をハナコが何とか収めようと声をかける。
天才的な頭脳を持つ彼女だが、流石にこのような事態は想定外。
まずは、落ち着くことを促す。
「む、すまない、コハル。あのカバの可愛さに目が眩んでいた」
「そ、それはいいけど……あれを可愛いって思うのはやっぱりどうなの?」
銃を降ろして謝るアズサに、コハルも矛を収める。
まあ、ペロロを可愛いと言う感性にはついていけていないが。
どうやら、このレベルの話はコハルには早いようだ。
「ヒフミちゃん、ライブに参加できれば他には何もしないと約束できますか?」
「は、はい!」
ヒフミに確認を取りながら、ハナコは考える。
このまま、ヒフミを放置すればアズサと共に旅立ってしまうだろう。
疑いたくはないが、本当にスパイで途中で居なくなる可能性もある。
そうなれば、自分達の疑いは晴れる可能性が高いが、放置するのも寝覚めが悪い。
「では聞いて下さい。まず、ヒフミちゃんとアズサちゃんが脱走したら、確実に先生とナギサさんに追われます。2人が本当にスパイなら、それでも逃げきれれば勝ちです。でも、そうでなく純粋にライブに参加したい場合はどうなると思いますか?」
「ラ、ライブ会場で捕まえられますね」
「はい、そういうことです」
脱走すれば、相手が追って来るのは必須。
ヒフミ奪還編が始まるのは間違いない。
「なので、ちゃんと許可を貰いましょう」
「許可って……」
故に正式に抜け出す必要がある。
そのためには。
「はい、先生に直談判しましょう」
扉間にちゃんと許可を貰うしかない。
「はぁ……お前は、ワシの
「ひ、比較対象が分かりませんけど、すごく馬鹿にされたことだけは分かります」
話を聞かされた扉間は深いため息と共に、ヒフミに呆れた視線を向ける。
喜べヒフミ。お前はナルト≧ヒフミ>柱間の馬鹿のTier3に入ったのだ。
見る人が見れば、とんでもない忍だと思われるぞ。
「それで……この、ヘロロか?」
「あはは……ペ・ロ・ロ様です、先生」
「う、うむ。とにかく、ライブとやらに行きたいのだな?」
「はい! 勉強は息抜きも重要だと思うんです! そこで、みんなで一緒にライブに行けば勉強の効率も上がると思うんです!」
熱弁するヒフミにちょっと気圧されながら、扉間は考える。
言っていることは、まあ間違っていない。
勉強の効率が扉間の初手全ブッパ作戦で著しく落ちていたのは、否定出来ない。
勉強をして、成績を上げるという補習授業部としての側面から考えれば、納得がいく。
「私からもお願いします、先生。ヒフミちゃんは、本気でライブのためなら脱走しますよ」
「ハナコ、お前の入れ知恵か」
「はい。もちろん先生も同伴で。
ハナコの案。
それだけで、補習授業部を監視したいナギサが渋面を作ることは、想像に難くない。
「……一度、こちらからナギサに掛け合ってみる」
「お、お願いします」
だが、扉間はため息をつきながら受け入れた。
その行動に、ハナコは自分の読みは当たっていたと笑う。
扉間は、全面的にナギサの味方でもないという予想が。
「ナギサ。そういう訳で、ワシの監視付きでこいつらをペロロとやらのライブに連れて行くが、よいか?」
『………えっと…その……本気で言ってますか?』
この状況でそんな提案が通ると思っているのかと、困惑しながら聞き返す、ナギサ。
「……言いたいことは分かるが、提案したのはヒフミだ」
分かってんだよ、このままじゃダメなことぐらい。
そう言いたいのを我慢しながら、扉間はヒフミにパスを投げる。
『ヒフミさん?』
「えっと…お願いします、ナギサ様。お土産も買ってくるので」
『…………』
こいつ……本気で言ってやがる。
余りにも真っすぐなヒフミの瞳に、ナギサは思わず天を仰ぐ。
これはあれだろうか? 都合の良い、脱走の理由作りだろうか?
それとも、薄々気づいていたペロロへのおかしな愛情だろうか?
様々な考えが頭の中に渦巻くが、答えは出てこない。
だとしたら、自分がするべきことは。
『はぁ……ヒフミさんの好きにしてください』
「ナギサ様!」
『ただし、テストの範囲も試験日も変えることはありません。遊んだ分だけ、合格が遠のくことを自覚してください』
「は、はい!」
『それでは、私はこれで』
一先ず、ヒフミの要望を受け付ける。
だが、疑いまでは払拭することは出来ない。
彼女達が出かけるというのなら、尾行をつけさせてもらおうと内心で考える。
扉間とてグルの可能性もあるのだ。
信用は出来ない。
故に秘密裏に決定する。
「な、何とか、許可を貰えましたね」
「みんなでライブ。楽しみだ」
「……そう言えば、みんなで行くってことは、私もその変な鳥のライブに参加しないといけないの?」
「そうなりますねー」
一方の補習授業部の4人は外出が決まり、無邪気に喜び合う。
まあ、モモフレのファンではないコハルとハナコは、微妙な顔をしているが。
「全く……そういう事ばかりするから、疑われるのだ。ヒフミ」
「あはは……」
「それで、ライブの開催場所はどこだ?」
「えっと―――ゲヘナの方になりますね」
ライブ会場はゲヘナ。
ヒフミの発言に、他の4人が固まる。
ついでに、尾行をつけるために調べていたナギサも1人固まっている。
因みに緊急告知だったのは、ゲヘナだと事前告知をすると襲撃を受けやすいからなのかもしれない。
「……あの、ヒフミちゃんは本当はスパイじゃないんですか?」
「ち、違いますよ! 私はただペロロ様のライブに出たいだけで!」
「これは……流石の私も疑われて当然だと思う」
「たかが、ライブのためにそこまでするなんてバカじゃない?」
ゲヘナ側もピリピリしているこの時期に、トリニティの生徒が国境を超える。
普通に考えて不味い行為である。
というか、ゲヘナに帰るためのスパイにしか見えない。
何なら、他の人間を始末するために、自国に連れて行こうとしているようにすら見える。
「ペロロ、ペロロ、口を開けば、ペロロ。そういうお前は、現実を知らん。学園間の緊張状態を知らぬ。ゲヘナとトリニティの溝の深さを知らぬ。お前の行動が爆弾と化すのだ、今ここで」
「あうぅ……」
「ワシは数日、お前を監視してきた。お前が補習授業部に入っての数日、言動のおかしさが目に余る。お前の考えは……本当に目に余る」
クドクドと韻を踏むようにヒフミに説教をする、扉間。
自分の好きなことを貫くのは構わないが、もう少し周りのことを考えろと。
「すみません……でも、まっすぐ自分の好きなものは曲げられないんです!」
「すぅー……はぁ………」
まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ。それが私の忍道だと言わんばかりのヒフミ。
これには扉間も大きく息を吸って、あからさまな溜息を吐くしかない。
それに対して、扉間を嫌う補習授業部の面々も流石に同情の目を向ける。
「……分かった。どうにかしてやる故、ワシの指示に従え」
「ほ、本当ですか?」
「今のやり取りでよーく分かった。お前は手綱を握らんと、何をしでかすか分からん爆弾だ。適度にガス抜きに付き合ってやった方がマシだ」
「そ、そんな、私は普通の生徒ですよ」
「どこが普通だ。言っておくが、気に入らんからと言って勝手に抜け出すことは許さんぞ。トラップを事前に仕掛けてある」
どこが普通だと、ツッコミの視線を全員に向けられる、ヒフミ。
しかし、本人はあくまでも、自分はどこにでもいる普通の生徒だと言い張る。
頭は大丈夫だろうか?
「……取りあえず、お前達は全員シャーレの部員にする。これで、公的に他の学園の自治区で活動が可能になる」
「…! つまり、先生は私達に首輪をつけて、犬のようにお出かけしようという訳ですね!」
「人聞きの悪いことを言うな! 社会身分的にはそうなるかもしれんが、直接的な意味ではない!!」
そして、こっちも頭大丈夫かと言いたくなる発言を行う、ハナコ。
まあ、こっちは分かった上でおちょくっているだけ、まだマシかもしれない。
「それから、向こうの風紀委員会にも話を通しておく。アコには悪いが、ここは目を瞑ってもらうとしよう」
「なるほど、ゲヘナの方にも既に先生の飼い犬が……
既にそこまで自分の勢力図を広げているのかと、イヤらしい風に嫌味を告げるハナコ。
彼女にとっては、軽いパンチのつもりだった。
だが、しかし。
「―――ハナコ」
扉間に鋭い眼光で睨まれて、ゾクッとしてしまう。
「ワシを侮辱するのはいくらでも構わんが……ワシの前でワシの生徒を侮辱することは許さん。お前達も含めてな」
言い過ぎだ。
ただ、そう告げて先程の殺気を消す、扉間。
だが、本気で睨まれたハナコは衝撃で、言葉が出ない。
「さて、準備はこれぐらいでいいだろう。出発は明日の早朝だ。今日は早めに寝ておけ。監視する以上は、寝坊しようが縛ってそのまま連れて行くからな」
「わ、分かりました」
「では、解散だ」
こうして、ゲヘナへの遠征(意味浅)が決まるのだった。
<善悪の彼方>
この世に絶対的な善悪とはあるのだろうか?
悪人を打ち倒すヒーローを善と呼ぶ人間がいる。
だが、どこまで行っても暴力は暴力でしかないと言う人間もいる。
では、誰にも暴力を振るわなければ善なのか?
目の前で敵に撃たれようとしている仲間を、見捨てることを善と呼ぶのか?
自分の手には友を守る銃が握られているというのに。
だというのに、見捨てるのならば、それはむしろ悪と呼ぶべきだ。
しかし、友が撃たれようと自らが撃たれようとも非暴力を貫く姿勢を善と感じる者もいるだろう。
そして、敵にも愛する家族が居ることを思えば、それを奪う行為の何と残酷なことか。
善とは何だ? 悪とは何だ?
その問いをひたすらに私の頭の中で自問自答をし続けた。
そして私はある1つの真理へと、善悪の彼方へとたどり着いた。
何という事はない。善悪とは所詮は個人の主観によるものでしかないのだと。
人は平和を望みながら、その身体は闘争を求める不完全な生き物だ。
善悪も同じ。人が人と繋がり合う限り矛盾が解消されることはない。
ならば、善行が善となり、悪行が悪となる当たり前の世界はどこにあるのか?
善悪に正しく報いが訪れる世界。
それは―――夢の世界しかない。
「どうですか、先生? Mr.ニコライさんの『善悪の彼方』は? 哲学的で面白い本でしょう?」
「まあ、一理あるとは感じるが……少々悲観的な話だな」
「はい、実はMr.ニコライさんには、『かつて世界平和を目指したが、その過程で全ての家族や仲間を失って現実の前に敗れ、いつも哲学的なことを呟きながらぼんやりしている』という設定があるんです」
「……無駄に重い設定だな」
ペロロ様のライブ会場。
扉間の根回しで、何とか無事にゲヘナに入ることが出来た5人。
今は、ライブ開始前にモモフレンズのグッズを売っている売店で、ヒフミが布教活動を行っている真っ最中だ。
「この黒くて角が生えたガイコツは? ……可愛いな」
「あ、それはスカルマン様ですね。流石、アズサちゃん。お目が高いです。よければ、私が買ってあげましょうか」
「いいのか! いや、しかし……」
「大丈夫ですよ。モモフレンズのファンが増えるなら、大した出費じゃありません」
アズサにスカルマンをプレゼントしながら、ヒフミは笑う。
どんなコンテンツでも初心者が入らないと廃れていく。
初心者は大切にして沼に沈めていかないと、と思いながら。
「この……ずっと見てると少し気分が悪くなりそうな、怒ったペンギンはなんですか?」
「それはアングリーアデリーさんと言います、ハナコさん。地球温暖化に対しての抗議として、自分の身体の白い部分を赤く染めたペンギンです」
「そんなどこかの環境団体さんみたいな設定なんですね……」
「因みに、着ぐるみで出てくるときは、トマトジュースをキュビズムで有名なピカソの作品にかけるパフォーマンスをしたりします」
「ず、随分と過激ですね」
もちろん、トマトジュースをかけるのは贋作であるが、最後は逮捕されて退場するのがお約束である。
「この妙に細長くて気持ち悪い猫…は?」
「ウェーブキャットさんですね。ウェーブして伸びたり縮んだりして踊っています」
「伸び…! 縮む!?」
「? とにかく、首に巻くネックピローのグッズなどがおすすめですよ」
「ピ、ピロー!?」
そして、コハルが気になったのはウェーブキャット。
イモリのような見た目と言われることもあるが、れっきとした哺乳類である。
後、コハルが思うようなイヤらしい意味は特にない。
「さあ、今なら特別に、私が皆さんへアズサちゃんみたいに好きなグッズをプレゼントしちゃいますよ!」
「わ、私は大丈夫」
「私も遠慮しておきます。ライブを見るだけで結構です」
「そ、そうですか……あ、先生は! 先生はどうですか!?」
アズサに布教が完了しただけでは、満足がいかなかったのか。
どう見ても、人形など似合わない扉間にもアピールする、ヒフミ。
「子どもに奢らせるほど、落ちぶれてはおらんわ」
「あ、あはは……そうですね」
だが、当然と言うべきか扉間に拒否される。
大人が子供に奢られるなど、基本的には虚しくなるだけだ。
「……だが、ぬいぐるみか」
しかし、扉間は眼鏡をかけて少し頭がおかしそうな、ペロロ博士を手に持って考える。
「悪くない……」
「せ、先生もペロロ様の魅力に気づいてくれたんですか!? 因みにその人形は、ペロロ博士と言って、頭が良くて勉強が出来る設定があるんです! 補習授業部の先生にピッタリですね!」
悪くない。そう呟く、扉間にヒフミとアズサがパッと顔を輝かせる。
嘘でしょ、とドン引きした表情を見せる、コハル。
(ぬいぐるみという性質上、寝室に置いてあっても不思議ではない。中に盗聴器を仕込んでも縫い目に沿って、縫い戻せばバレることもない。綿のせいで少し音が聞き取りづらいかもしれんが……いや、時限爆弾などを中に入れれば逆に音をごまかせるか?)
こいつ、絶対碌なこと考えてないなと確信する、ハナコ。
そして、ハナコの予想通りに扉間は碌な事など考えていなかった。
「まあ、物は試しだ。ワシも1つ買って帰るとしよう」
「うわぁ……」
ペロロ博士を購入する扉間に、凄まじい目を向ける、コハル。
まあ、ペロロ博士の末路を思えば特に間違いではないが。
「あ、そろそろ時間ですよ! それではライブ会場に行きましょう!」
「これが、歌って踊って跳びはねるのか……楽しみだ」
そして、一行はペロロ様のライブ会場へ向かうのだった。
「先生は誰かに見られながらするのが好きなんですか?」
「……尾行なら、ナギサの手のものだろう。放置しておけ」
ライブ会場。
満員という訳にはいかないが、ガチ勢や物見遊山感覚で来た客でそこそこ埋まった場所。
だからこそ、舞台の上でド派手なマイクパフォーマンスを見せるペロロ以外を見る者は目立つ。
「あら、話してもいいんですか?」
「これだけの騒ぎだ。お前とワシのように隣に居なければ、聞こえはせん」
「なるほど、だからヒフミちゃんのお願いを叶えてあげたんですね」
扉間とハナコは舞台の上で華麗なムーンウォークを見せるペロロを見ながら、座ったままの状態で会話を行う。横には立ち上がって、ペンライトを振るヒフミとアズサ。そして、ペロロの姿からは想像もつかない動きに圧倒されるコハルで、壁が作られている。
「合宿所はワシでも知らん盗聴器があってもおかしくはない。不審に思われる会話は最小限に収めたい……まあ、この状況は別に狙ったものではないがな」
「なるほどコソコソ隠れてヤるのもいいですけど、偶にはお外で開放的にスるのもいいですものねぇ」
ナギサは扉間も心からは信用していない。
何か仕掛けがあってもおかしくはない。
そして、扉間からしてもセイアが不自然に消えたことで後を継いだナギサは、完全に白か分かったものではないのだ。
今回は狙われる側だが、前回もそうだとは限らない。
権力闘争など血まみれの中で行われるものだ。
「でも、私に話していいんですか? 私達もスパイ候補ですよ」
「ワシに何かあればお前達がスパイという証拠になる。そして、今回ナギサは白になる。ワシが死んだ後に、シャーレの権限の一部を一時的にナギサに使用させ、お前達を退学させる手はずは整えてある」
『だから、自分が死ぬ前提の計画はやめてください!』
「……もちろん、死ぬ気はない」
「? まあ、そうしますよね」
まるで誰かに言い訳するような扉間の仕草に、首を傾げながらもハナコは納得する。
扉間は自分達を白と信じているわけではなく、どっちでも抑え込めるようにしているだけだ。
「それで? 何か話があるのだろう?」
「はい。この前の問題集のことで……いえ、その前に」
ハナコは少しだけ、ためらうように言葉を切りモジモジとする。
まるで、小さな子供のように。
「……昨日はすみませんでした」
「昨日? ……ああ、アコの件か」
「先生に意地悪したかっただけなんですが……他人を巻き込んだのは私が悪かったです」
告げられる謝罪。
いや、扉間には特に謝られていないが、アコを変態のように言った件は謝っている。
「分かればよい。ワシは子供が争い合うのを見るのが好きではないだけだ」
「はい、そこは何となく分かりました」
扉間の言葉に、どこか胸のつっかえが取れたように息を吐く、ハナコ。
昨日からずっとどうやって謝ろうかと悩んでいたのだ。
「それでは、話を戻して。この前の問題集のことで聞きたいことがあるんですが」
「勉強熱心だな」
「はい。だから、先生がどうしてあんな問題を出したのか気になって」
「お前はどう考える? 出題者の意図を読むのも、現代文に必要なことだろう?」
―――桐藤ナギサがホストではなくなった際に、次のホストが取るであろう方針と理由を200文字以内で述べよ。
あんな問題とはこれの事である。
ナギサを、ティーパーティーを完全に信用しているなら出すはずのない問題。
ナギサとミカに方針の違いの解答を欲した問題。
つまりは。
「先生は私達以外に、真の裏切り者が居る……そう考えているんですよね?」
―――真の裏切り者でも見つかれば、話は別だがな。
合宿初日に、扉間が告げた言葉。
ティーパーティー内部に裏切り者が居る可能性を示唆したことだ。
「現段階では可能性だがな」
「その割には、激しく動いてますね」
「どう見えるかだ……お前達をスパイと仮定しても、立場として考えれば外部との連絡役に過ぎん。要は、いつでも切り捨て可能な駒だ。本命は別にいると考えるべきだ」
扉間が静かに告げる。
補習授業部の4人は政治の中枢に関わっているわけでもなければ、別格に強いわけでもない。
裏切ったとしても決定打は与えられないのだ。
そう考えれば、自ずと外部への連絡役だと分かる。
そして、排除しても根本的な解決にならないことも。
「考えるべきことは、敵の目的と、誰なら可能か。誰が得をするのかだ」
「目的はエデン条約の阻止。そのためにナギサさんは自分が狙われていると思っている」
「百合園セイアが襲われた時のようにな」
「あら、知っているんですか? いえ……なるほど、協力の際にティーパーティーから直接聞いたんですね」
表向きにはセイアが消えたのは体調不良での入院。
だが、実際の理由は何者かの襲撃を受けたからだ。
「お前も知っているのだな?」
「うふふ、いたずらな風の噂程度ですよ」
「まあいい。次に誰が可能かだ。ただ、ナギサを害するだけなら誰にでも可能なように見えるが」
「目的はエデン条約の締結の阻止。なら、ナギサさんを取り除いたところで、ミカさんが後を引き継げば目的は達成できない」
「その通りだ」
トリニティは3人の生徒会長が居る。
誰か1人を取り除いたところで、後の者が引き継ぐのはセイアの件で分かっている。
引き継いだ者が同じ方針なら、ナギサの排除に意味はない。
まとめて始末するという手もあるが、そうなれば代表が居ないので、緊急措置として下の学年から候補が立てられる可能性が高いので、条約の阻止の確実性が下がる。
「最後に誰が得をするか。エデン条約の阻止で得をするのは、当然反対派。つまり、ゲヘナを嫌っている派閥。まあ、これは多くの人が当てはまるんですが、そこにナギサさんの排除とそれが可能な人間が加われば、自然と候補は絞られる」
エデン条約の締結を確実に阻止できる人間。
ナギサが消えることで、最も得する人間。
「エデン条約に関われる権力を持ち、確実に阻止できる存在。そして、ナギサさんが消えることで主導権を握れて、得をする存在なんて、同じティーパーティーの――」
つまり、それは。
「―――聖園ミカさんしかいない」
ナギサの後にホストになることが確定している、ミカぐらいなものだ。
「あくまで仮定だがな。そして何より……外れていて欲しいがな」
親友同士が殺し合う姿など、もう見たくはない。
そう小さく告げて、扉間は舞台上で小さな子供に手を振りながら、跳びはねるペロロを見つめるのだった。
前回、軽い気持ちで今回の話への引きとしてヒフミが脱走を決める話を書いたら
感想100件中90件ぐらいで皆さんにヒフミ奪還編を期待されたので心苦しかったですが
ヒフミの事なので、律義に伝言を残していくだろうと思っていたので、みんなに止められる形になりました。
許せ、サスケ。そのアイディアはまた、今度だ。
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