「間違いなら、夢想と笑ってくれて構わんが……奴は夢で他人に接触するなどの能力を持ってはおらんか?」
時は遡り、扉間がナギサとミカに初めて会った日に戻る。
百合園セイアの情報を欲した扉間の言葉に、ナギサは黙り込む。
セイアの情報を求めるだけなら分かる。
しかし、それに加えて夢で接触などということを告げるのは。
「それはつまり……セイアさんの夢を先生が見たと考えても?」
「そうだな。会ったはずがないというのに、やけにはっきりとした夢だった。奴の口調などを書き留めている。確認してみてくれ」
扉間がセイアに接触したからに違いない。
ナギサとミカは扉間に渡された、セイアとの会話内容に目を通す。
「……この無駄に長ったらしくて、いつまでも本題に入らない皮肉な会話は、セイアちゃんのものだね」
ミカが記憶に残るセイアを思い出して、辛そうに眉を顰める。
「確かに、セイアさんの会話によく似ています。本物と見間違えるほどに」
「その言い方は、ワシの言葉を嘘だと考えていると見て間違いないか?」
「……はい。先生に補習授業部の担当を引き受けて頂く際の交換条件。それがセイアさんの情報提供……他言無用でお願いします」
「ナギちゃん……」
一方のナギサはよく出来たフェイクだと断定する。
正誤の判定も碌にせずに。
何故ならば。
「セイアさんは、入院ではなく―――ヘイローを破壊されたのです」
百合園セイアは既に亡くなっていると判断しているからだ。
「ヘイローを? ……殺されたという事か」
「はい。セイアさんの能力であれば、先生の夢に干渉することも出来るかもしれません。ですが、死んだ以上はその可能性はあり得ない。単純な話です」
仲間の死への悲しみを押し隠す様にナギサは淡々と告げる。
人類がエデンの園を追い出された際に科された原初の罰。
それこそが。
「死者は蘇らない。それがこの世の真理です」
死なのだから。
「本当にそうか?」
「……どういう意味ですか?」
だが、扉間にとってはそんな真理は関係ない。
穢土転生しかり、現在死んだはずの自分が生きている状況しかり。
この世の真理に真っ向から喧嘩を売っているのが、千手トビラマなのだから。
「先程の話から察するに、セイアを殺した犯人はまだ捕まっておらんのだろう。そうでなければ、こうもセイアの死を隠そうとせん。敵組織に宣戦布告するのが普通だ。でなければ、敵からも身内からも舐められるだけだ。外交においてこれは致命的だ」
「それは……」
「何より、人の死体はあまりにも多くの情報を語ってしまう」
誰よりも死体と向き合ってきた男は、死体から情報を抜き出すことに関しては他の追随を許さない。
死人に口なし? 生贄の口を使わせればいいだろ。
「お前は殺されたとは言わずに
ヘイローの破壊。
それは、頑丈な生徒達を殺すための唯一の手段。
それと同時に、殺されたことを暗に告げる隠語でもある。
しかし、血まみれの死体を見てヘイローが破壊されたと言う人間は少ない。
シンプルに何者かに殺されたと言うのが、普通だ。
だというのに、ヘイローにしか言及していないのは、注目すべき点がヘイローの有無しかなかったからだ。
つまり、見つかった遺体に目立った外傷はなかったということになる。
「だが、お前は
ジロリとナギサを睨む扉間。
セイアの暗殺。そして、その後にホストになったナギサ。
ナギサはエデン条約を締結させるために、連邦生徒会長が居なくなった後に精力的に動いている。
もし、セイアがエデン条約の反対派だった場合は。
「……つまり、私がセイアさんを殺したと?」
排除する可能性があるということだ。
「ナギちゃんはセイアちゃんを殺してなんかいないよ!!」
だが、ミカは扉間の意見に真っ向から食って掛かる。
今にも扉間に襲い掛からんばかりである。
「ミ、ミカさん、私は別に気にしていませんよ」
「ナギちゃんは人殺しなんかじゃない! それは
「ほぉ……」
ナギサは絶対に無実であると告げるミカに、扉間は興味深そうに目を細める。
「そもそも、先生の言ってたことは全部的外れ。だって、セイアちゃんの死体を私達は見てないんだから」
「……死体を見ていないだと?」
ミカの言葉に今度は、険しい表情を見せる、扉間。
死体を見ていないのに、死んだと断定するなど扉間的にはあり得ない。
穢土転生をして確認をするのが定石だ。
というか、死後にマダラに一杯食わされたことを知ったので、死体を見ても安心できない。
変に研究目的として残さずに、写輪眼ごと焼き尽くすべきだった。
「セイアちゃんの居たセーフハウスが爆破されて、まず最初に駆け付けたのは救護騎士団のミネ団長。その後、彼女からティーパーティーにセイアちゃんのヘイローが破壊されたって、情報が届いたの」
「……遺体の葬式などはしたのか?」
「いえ、セイアさんの死はバレてはならない事実。ミネさんとは現在、連絡が取れませんがそうした事情を汲んでくださっているのか、遺体を隠してくださっています」
「遺体のない状況で、それほどの信頼を? ……信じられん」
第一発見者が遺体を持ち去って逃亡など、どう考えても怪しい。
ナギサなどよりよっぽど怪しい。
「ミネが実行犯という線はないのか?」
思わず、ためらいながらも問いかける扉間に、ミカとナギサは首を振る。
「それは……うん、絶対ないかな。絶対に人殺しじゃない」
「ミネさんは、その……救護に命を懸けている方です。例え敵でも、人を殺すぐらいなら、迷わず自分の命を差し出すでしょう」
怪しいのは怪しいけど、本人の性格的にあり得ないだろうと告げる2人。
それを受けて、扉間は思考を働かせる。
「つまり……他の何物に代えてでも、命を救うことを最優先している者か?」
「はい。そう捉えて頂いて構いません」
全力で怪しいが、2人の言うことが事実だとすれば、ある1つの可能性が浮かび上がる。
「ワシは物事を
「だから、ナギちゃんは…!」
「話は最後まで聞け、ミカ。ワシはあくまでも客観的に判断したまでだ。そして、この判断は同じく客観的に考えた者も辿り着くものだ」
「………まさか」
扉間の言葉にナギサが何かに気づく。
ティーパーティーのナギサが怪しい。
それに感づいたミネが、患者を前にしてどういった行動に出るか。
「ティーパーティーの者が犯人だとすれば、セイアが生きていることを知れば必ず止めを刺しに来る。ならば、伝え聞くミネの性格ならばどう動く?」
「……例え、自分が暗殺者として疑われたとしてもセイアさんを匿う」
「そういうことだ」
それならば、ワシに夢の中で接触してきたことも辻褄が合う。
百合園セイアは生きているのだから。
扉間はそう続ける。
「つまり……セイアちゃんが……生きているかもしれないってこと…?」
「ワシの推測が妄想で終わらなければな」
信じられない、と告げる、ミカ。
だが、状況をまとめていけば、そうした意見が出ても何もおかしくない。
「それは…しかし……証拠が」
「ミネを見つけ出して、セイアを確保すればハッキリする……そして吐かせる」
「しかし、ミネさんが私を疑っているのなら……簡単には出て来てくれないでしょう。私が暗殺者なら、今度こそセイアさんの命を奪う。そう判断するはずです。そうなると、現在も、トリニティに居るかどうかすら」
「……そうだよね、うん。そうだよね」
セイアの生存を知るには、ミネを見つけ出すしかない。
だが、相手とてバカではない。
罠の可能性を考えて、出て来ることはしないだろう。
「表に引っ張り出す方法は簡単だ。暗殺者を、トリニティの裏切り者を捕えればいい」
だが、扉間はあっさりと解決法を提示する。
暗殺者が分からないから、出てこられないのなら、暗殺者を捕えればいい。
そもそも、一生隠れ潜むのは無理なのだ。
なにかのきっかけで、帰ってくる必要がある。
そのきっかけこそが、トリニティの裏切り者の発見である。
「……そこで、先生に頼む補習授業部の話に戻ってくるのですね」
「そういうことだ。セイアがワシに接触してきた理由を知りたい」
セイアを連れ戻すためにもスパイの確保が必須。
だからこそ、扉間は補習授業部を受け持つ条件にセイアの情報を求めたのだ。
「ずいぶん、セイアちゃんにこだわるんだね、先生は。なんで?」
しかし、ミカはどうしてそこまでセイアにこだわるのかと、扉間に尋ねる。
結局の所、扉間にとってはセイアは夢に出て来ただけの生徒のはず。
わざわざ、面倒ごとを引き受けてまで調べたい存在なのかと。
「お前は夢で一方的に自分に干渉できる存在を放置しておくのか?」
「え? うーん……夢に出るぐらいなら別に良くない?」
別に実害があるわけじゃないんだしと、呟くミカ。
だが、扉間は苦々し気に首を振る。
「今回は直接姿を現したので、気づくことが出来た。だが、奴が自在に他者に夢を見せられるのなら話は別だ。そして、同時に多人数に夢を見せられるとすれば、尚更だ。悪夢を見せ続ければ、容易く相手の精神を破壊させられる。信仰心の厚い者に神の啓示として囁き続ければ、現実にも影響を及ぼせるだろう。更に幸せな夢を見せ続け、現実に絶望させて自殺させることも出来る。夢という本来他者の介入を許さない場所に遠慮なしに入れるというのは、どんな幻術よりも恐ろしい」
「そ、そんなことは、しないと思うけど……」
思ったよりもガチで警戒している扉間に、ミカは苦笑いをする。
だが、扉間からすれば自在に夢に干渉できる術など、無限月読レベルで警戒対象である。
何なら、自分の死を偽装している所などマダラを思い出してしまう。
やはり、百合園セイアか。
「とにかく、ワシは百合園セイアを問いたださねばならん。それが、今回の依頼を引き受ける条件だ」
「……分かりました。セイアさんが本当に生きていて見つかった場合は、先生の言う通りにしましょう。しかし、私が犯人だと疑っているのなら、セイアさんが生きていることを伝えたのは……いえ、先生にとっては私もセイアさんも、同じく怪しいのですね」
ナギサが暗殺者だった場合は、セイアが生きていることを知るのは不味い。
そう思うが、そもそもセイアも信用できないのなら、そこまで配慮する必要もない。
それが扉間の考えかと気づき、ナギサは溜息を吐く。
自分よりもなお、疑り深いではないかと。
「……それでは、補習授業部の4名の監視とスパイを見つける
「ああ、そちらも百合園セイアの捜索を頼むぞ」
こうして、ティーパーティーと扉間の初対面は終わっていたのだった。
(聖園ミカ。ナギサが犯人ではないと確信を持っておる言い方をするということは……真犯人を知っている可能性が高いな)
この時点で、扉間にある種の確信を与えて。
阿慈谷ヒフミ 77点
白洲アズサ 55点
浦和ハナコ 60点
下江コハル 50点
「………何だ。成績が上がっているのに、素直に喜べんこの気持ちは?」
第一次試験。
その結果を提示した扉間の顔は非常に微妙なものであった。
「ハナコさんが合格で、アズサちゃんも後少し! コハルちゃんも前の31点から大幅にアップ! やっぱり、ペロロ様のライブで息抜きをしたおかげですよ!」
点数は上がっている。
それ自体は手放しで褒めたい。
だが、ペロロのライブで息抜きした結果だと思うと、素直に喜べない。
「しかも、私とアズサちゃんは揃ってゾロ目です! これは、モモフレンズのおかげに違いありません! ハナコさんもコハルちゃんも、これを機にグッズなどを集めてみませんか?」
「わ、私は実力で合格するから要らない!」
「私も一応合格しているので……必要ないです」
お前もモモフレファンにならないか?
ヒフミの悪魔のささやきにも屈することなく、コハルとハナコは首を振る。
「そうですか……お勧めの受験勉強版のグッズもあったんですが」
「ヒ、ヒフミ! そのグッズをもっと見せてくれないか!」
「はい、どうぞ、アズサちゃん!」
そのことに、少ししょんぼりとした顔をするヒフミだったが、すぐにアズサが食いついて来たために復活する。
やはり、初心者には優しくして沼に沈める作戦は有効なようだ。
「はぁ…まあ、成績が上がっているのだ。この調子で頑張れば、全員合格も夢ではない」
「ですよね! この調子で頑張れば、みんな晴れて自由の身です」
「……そうだな」
合格すれば自由になる。
そう言って、屈託のない笑顔を見せるヒフミにアズサは僅かに暗い表情を見せる。
「では、今日も問題集を解いていけ。本日は、小テストも作っておる故問題集が終わり次第、それを解いておけ。ワシは
「はい! それでは、みなさん。今日も頑張っていきましょう!」
気合を入れるヒフミを残し、扉間は教室を後にする。
「…………」
その姿を意味ありげに見つめる、ハナコの視線に気づきながら。
「久しぶりだね、先生。ティーパーティーで会ったときぶりかな」
「こんな所で何をやっておる、ミカ」
合宿所の外で、扉間とミカが向かい合う。
扉間は警戒の色を隠さずに、
「あはは、
「人にはそれぞれの役割がある。お前に出来ること、お前に出来ないこと。そして、ワシに出来ることと、出来ないことがな」
「だから、自分の出来ることだけやるってこと? 真面目だね」
いつものようにおちゃらけた風に喋るミカだが、その目はどこか虚ろだ。
対する扉間も、裏切り者の最有力候補の前に警戒を崩さない。
「でも……そうだね。あんまり、ここで長々話しても仕方ないよね。ここには、先生にあることを聞きたくて来たの」
「あることだと?」
ここで来たか。
恐らくは、自分が疑われていることに気づいたのだろうと判断して、扉間は身構える。
しかし、続くミカの言葉は。
「……セイアちゃんが生きてるって本当かな?」
予想に反する言葉だった。
「……それを調べている真っ最中だろう。何より、セイアの行方はナギサが追っているはず。ワシよりもお前の方が情報は多いだろう」
「うん、そうなんだけどね。なんと言うか………安心したいのかな」
安心。
それだけのために、この場に来たのだと告げる、ミカ。
そこには合理性も何もない。
ただ。
「セイアちゃんが生きてるって、安心したいから。先生に聞きに来たんだと思う」
何かに怯える少女の顔だけがそこにはあった。
「……友に生きていて欲しいのか?」
「あはは、その言い方だと、まるで私が友達に死んで欲しいって思ってるみたいだね。……嫌に決まってるじゃん、
ミカが笑う。
どこか、乾いた笑顔で。
人殺しなんて碌なものじゃないと。
「セイアちゃんとはね、別に仲良くなかったの。いつも変なことを言って、楽園だのなんだの、古則がどうのこうのって嫌味ばかり。先生も聞いたんでしょ?」
「そうだな。要領を得ない話ばかりだったな。物事は結論から告げるのが一番だ」
「あはは! やっぱり、そう思うよね。私も良くそう思ってた。でも……別に心底嫌いなわけじゃなかった」
仲良くはない。それは本当。
でも、死んで欲しいとまでは思っていなかった。
それも本当。
「だから、セイアちゃんが死んだって聞いた時は、ショックだった。そうなって初めて、友達だったんだって気づいたの」
扉間は黙ってミカの言葉を聞く。
真の裏切り者である可能性が高いミカ。
しかし、こうして懺悔を口にする彼女はとてもそうには見えなかった。
「……仲直りがしたいのか?」
「仲直り…? そっか……そうだね。私は仲直りして、全部初めからやり直したいのかもね」
仲直り。その言葉に驚いたような顔をするミカだったが、やがて腑に落ちたように頷く。
喧嘩別れしたままの友と和解したい。
ただそれだけの純粋な願い。
「アリウス分校だってそう。仲直り出来たら、いいなって思ってるだけ」
「アリウス…?」
「あ、そっか。先生は知らないよね。まあ、トリニティの生徒でもアリウスのことを知っているのはほとんどいないし」
アリウス分校。
聞き慣れない言葉に、扉間が眉を顰める。
「先生はトリニティがいくつもの学園が集まって出来た学校だっていうのは知っているよね?」
「ああ、ナギサに聞いたからな」
「うん。それでね、その時に何とか公会議を開いてトリニティ総合学園が出来たんだけど……1つだけ同盟に従わない学校があった」
「それがアリウス分校という訳か」
アリウス分校。
どういった理由かは分からないが、トリニティの成立に真っ向から反対した学校。
これだけ聞けば分かる。
アリウスの末路がどうなったのかを察して、扉間はため息をつく。
「それで、アリウス分校は同盟として成り立ったトリニティに――」
「―――弾圧された。同盟を脅かしかねない不穏分子としてか、結束を強めるための共通の敵としてかは分からんがな」
「……知ってた?」
「アリウスについては知らん。だが、似たような事例なら幾らでも知っている」
ミカが驚いた顔をするのを見ながら、扉間は苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「同盟を脅かす可能性のある、身内。当時の人間からすれば、ゲヘナよりも脅威に映ったことだろうな」
アリウスはマダラだ。
個人か組織の違いかはあるが、
それに対抗するためにうちはを含めて里は結束し、またその排除をもって里としての力を示した。
「同盟として成り立ったトリニティの力。ゲヘナや他の組織に見せつけるには、アリウスは打ってつけの相手だったろう。恐らく、頑なに同盟に反対するだけあって、武力には相応の自信のあった組織に見える。反対を続ければ、潰されるなどバカでも分かるからな。それを跳ね返す自信があったのだろうが……」
終末の谷が良い例だ。
扉間が柱間とマダラの像を国境に作ったのは、木ノ葉の武威を示すためである。
当時を生きた人間なら誰でも知っている。
あの場所は柱間とマダラが
天災を操る神が如き所業。
そこに巨大な像を置くことで、木ノ葉にうちはと千手があることを示すのだ。
敵対するなら貴様らの国も、
「だが、結果は今の状況を見るにアリウスは敗れた。そして、弾圧をされた残党がどこかに逃げ落ちた……そんな所か」
「先生は頭が良いね……それとも似たようなことをしたことがあるの?」
「……半分は当たっておる、耳が痛い」
直接的な弾圧はしていないが、うちはを一ヵ所にまとめて監視していたのは事実。
そして、それが後世の若者に爆弾として残ってしまったことを悔やむ、扉間。
まあ、基本的にうちはの件は9割はマダラのせいなのだが。
「……それで、アリウスと和解したいということは、まだ存在するのだな」
「あ、うん。アリウス分校はまだ存在してる。どこにあって、どうやって行くのかは私でも分からないけど」
「しかし、存在を確信しているということは」
「うん。アリウスの生徒を私は知っている。アズサちゃん。あの子は、アリウスからの転校生だよ」
「アズサが…?」
アズサはアリウス分校からの転校生。
その事実に、扉間の表情は一気に険しくなる。
「それを知っているということは、あの穴だらけでずさんな転校書類はお前が作ったのか」
「あれ? 唐突にバカにされてる、私?」
「そして、それをナギサが把握しておらんということは、お前の単独での犯行か」
「うん。ナギちゃんもセイアちゃんも、アリウスの件は取り合ってくれないから。特にナギちゃんとしては、ゲヘナをトリニティ以上に憎むアリウスをこの段階で迎え入れるなんて、絶対に出来ない。そういう意味だと、ナギちゃんが探しているスパイはアズサちゃんなのかもね」
ここまで言えば、ティーパーティーが一枚岩でないことは分かる。
そして何より、ミカがゲヘナを恨むアリウスを迎え入れた事実。
故に扉間は確信する。
真の裏切り者の正体を。
「……1つ確認したいことがある」
だが、まだここで言う訳にはいかない。
周囲に人は居ない。準備が出来ていない。
つまり、扉間の味方は居ないのだ。
この状況で生徒から逃げられるか?
それも、仮にも生徒会長であるミカから。
「アリウス分校は、何を教えている?」
だから時間稼ぎとして、もう1つ確信した事実の方から確かめることにする。
「…………」
「ワシが来るまでのアズサの動向。そして、この1週間での観察。それらを含めて判断した結果、ワシはある1つの結論に至った」
アズサは常識外れの行動をよくする。
合宿所につけば、すぐにトラップの有無を確認する。
ついでに、敵対者用にトラップを設置する。
一般的な常識を知らない。
かといって、協調性がないわけでもない。
普通の女の子と同じように、ぬいぐるみなどの可愛いものが好き。
勉強だって、教えれば普通に理解するため頭が悪いわけでもない。
かといって、勉強が嫌いで逃げているわけでもない。
つまり、根っこがおかしいのではないのだ。
そういう風に、教育されただけ。
「アズサは以前に居た場所で……アリウスで、まともな教育を受けておらん。確かな能力として身についているのは、戦いの技術だけ」
扉間だからこそ。忍だからこそ。
アリウスという学校が、子供達に何を教えているのかが。
「もう一度聞く、アリウスという学校は―――何を教えている?」
扉間が辿り着いた結論。
それはアリウスが、
かつての忍と同じように。
「―――
だが、それに対して、ミカは何もと呟きを返す。
「何も教わってないよ。アリウスは学校と呼べるかも、生徒と呼べるかも分からない」
ミカは学校を戦いの技術を学ぶ場でなく、学問などの学びの場として認識している。
故に、彼女からすればアリウスは何も教えていないも同然だ。
「ただ1つ分かるのは、アリウスは弾圧した私達を、そしてそれ以上にゲヘナを恨んでいるという事だけ。そして、ゲヘナと同盟なんてしたら、もう二度と和解のチャンスは訪れない。二度と私達の前に姿を現さないならまだマシ。もう一度、弾圧が起きたら今度はもう逃げ場所もない」
「……間違っては無いな」
自らを弾圧したトリニティをアリウスは許せない。
そして、トリニティ以上にゲヘナが嫌いな彼女達は、エデン条約など認めないだろう。
「だから、私はアリウスと和解したいの。そのためには――」
「エデン条約を阻止する必要がある。トリニティの真の裏切り者は……ミカ、お前だな」
「あ、やっぱり気づいてた? 先生は本当に頭が良いね」
「あれ程信頼している、ナギサを裏切るとは……義を失ったな」
バレちゃったと、何でもないように肯定する、ミカ。
その姿からは執念というものは感じられない。
もう、どうにでもなれといういい加減さだけが見える。
「あはは、そうだね。でも、なんで、ナギちゃんは気づかなかったんだろ? おバカだから?」
「ナギサにとって、お前は幼馴染み……妹のような存在なのだろう。妹を疑う姉は居ない」
扉間やハナコが至った、ミカが裏切り者という真実。
そこにナギサがたどり着けなかった理由を、扉間はナギサがミカを守るべき存在として見ているからだと判断する。
弟を疑う兄が居ないように、ミカを疑うナギサもあり得ないのだ。
「えー、ナギちゃんがお姉ちゃんは嫌だなぁ。あんな素直で夢見がちで、おバカなお姉ちゃんとか下が大変だよ」
「急にナギサの良い所を言ってどうした?」
「………今のは皮肉に決まってるじゃん。先生にとってはバカが誉め言葉なの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
扉間の言葉に呆れた表情を見せる、ミカ。
だが、扉間の好きな人間の特徴が揃っているのだから仕方がない。
兄者のように素直で、夢見がちな、馬鹿。
ここに、諦めの悪さが加わればロイヤルストレートフラッシュの完成である。
「まあ、いいや。私がトリニティの裏切り者だって明かしたのは簡単。シャーレの力が欲しいから」
ミカがこうして、扉間に接触してきた理由。
それは、扉間を自陣に引き入れてシャーレの力を得るため。
「生徒会の権限と、シャーレの権限が合わされば生徒の退学も思うがまま。別に
「なるほどな……悪くない手だ」
邪魔な生徒を退学にして、その力を奪う。
ナギサがシャーレの権限を使えた場合に、補習授業部に行おうとしたことと一緒だ。
「だからお願い、先生。アリウスとの和解に協力してくれないかな?」
「そのために1人で来るとは……ワシも舐められたものだな」
「セイアちゃんが生きてるかもってのは、私も内緒にしておきたいからね」
ミカが酷く緩慢な仕草で、銃を扉間に突きつける。
「それに知ってるよ。キヴォトスの外の人間は、銃弾で簡単に怪我しちゃうんだってね? 私1人でも戦力としては過剰なぐらいだよ」
「ワシを殺すつもりか?」
「……まさか、私は先生に協力して欲しいだけだよ」
空いている方の手で顔を抑え。
どこか、相手を馬鹿にしたような表情でミカは笑う。
まるで。
「大丈夫、良い子にしてたら、
隠しきれない恐怖を仮面で覆い隠すように。
今回のあらすじ。
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