千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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26話:理想論

「……目的を聞かせろ」

「目的? 私がホストになったら何をするかってこと?」

「そうだ。アリウスと和解したいというのは分かった。だが、それだけではないはずだ。ただ和解というだけなら、エデン条約は延期だけでもいい。しかし、ナギサとセイアを完全に排除して行うのなら、もっと大掛かりな何かがあるはずだ」

 

 銃を突き付けられた状態でも、扉間は自分も()()()()()()()()冷静に質問をする。

 アリウスと和解をして、その後どうするかの目的を。

 

「アリウスがゲヘナを嫌いって言ったのは覚えているよね?」

「……ああ」

「それでね、私もゲヘナが嫌いなんだ」

「なるほど……そういうことか。お前はアリウスと手を組み――」

 

 ここまでは、聞かれると想定していたのかスラスラと答えていく、ミカ。

 まるで、予め覚えておいたテストの回答を記入していくように。

 

「うん。ゲヘナに全面戦争を仕掛けるの。ゲヘナをキヴォトスから消し去るためにね」

 

 ゲヘナを潰す。

 そのためのゲヘナとトリニティの全面戦争。

 それを行うための事前準備が、エデン条約の阻止なのだ。

 

「……そうか」

「あれ? 先生はゲヘナと仲が良いから、『そんなことはさせない!』とか。『貿易した方がメリットが出る』とか言うかと思ったんだけど」

「頭ごなしに否定しても聞き入れんだろう。人は感情の生き物だと、最近改めて学んでな」

 

 からかうようなミカの言葉に、扉間は冷静に返す。

 戦争などバカのやることとしか思っていないが、その理由に感情があると止めるのは容易ではない。

 感情の大切さは、最近ゲーム開発部から学んだばかりだ。

 

「お前がゲヘナを嫌う理由を言ってみろ。まずはそれからだ」

 

 だから、扉間は解決策を考えるために情報を求める。

 政治的な理由なら、まだ簡単な方だ。

 これが、自分の家族が殺されたなどになると難しい。

 理性では分かっていても、心の復讐心が消えないからだ。

 故に、扉間は慎重に尋ねたのだが。

 

 

「理由? えっと―――何となく?」

 

 

 ミカは自分でも分かっていないのか、不思議そうな顔で答える。

 

「……何となく…だと?」

「いや、だって角が生えたやつらと和平なんて、ゾッとしちゃわない? それに、正義実現委員会だって、いつもゲヘナに迷惑をかけられてる。後、私の友達がゲヘナの生徒に絡まれたとか聞いたしね。他の子だって、ゲヘナに嫌なことをされたことはあるんじゃないかな? 条約なんて結んでも、きっと裏切られるよ。みんな仲良く手を取り合って喧嘩もしない世界なんて、夢物語だよ。現実は、もっとドロドロしたもので甘くはないんだって、ナギちゃんと違って先生なら分かってくれるよね?」

 

 ペラペラとまるで、ラジオが受信した放送を垂れ流す様にミカは語る。

 そこに中身はない。そこに信念はない。

 ただ、伝え聞いただけの空っぽの憎悪がそこにあった。

 

「お前は……ゲヘナに何をされたのだ?」

「私? うーん……特に何も?」

 

 扉間はミカの言葉が理解できなかった。

 物事には必ず理由がある。

 

「何も…? 親が殺されたり、弟が殺されたり、友が殺されたりしたわけでもないのに、戦争を仕掛けるのか?」

「殺すのは流石に……まあ、何年も前に遡れば、誰かはそういう目にあったかもしれないけど」

 

 扉間は自分が、血で血を洗う憎しみの連鎖の中で生きてきたからこそ。

 感情だって、そこに至るには順序や理由があると、合理的に考えていた。

 だが、しかし。

 理由なき憎悪があるなど、考えもしなかった。

 

「ねえ、先生。誰かを好きになるのに、理由なんていらないってよく言うじゃん? あれって、逆のパターンでも良いと思うんだよね」

 

 どこかの恋愛小説みたいにさ。

 そう言って、ミカは壊れたように笑う。

 

 

「―――誰かを嫌いになるのに理由なんていらない」

 

 

 過程を肯定するために、原因を捩じ曲げた女は告げる。

 

「私がゲヘナを嫌いな理由はそれで十分。重要なのはゲヘナが嫌いってことだから」

 

 セイアを殺してしまったのは、戦争を仕掛ける程にゲヘナが嫌いだったからと。

 自らの中の罪悪感を少しでも軽くするための、理由付けとして。

 

「それじゃあ、おしゃべりはここまでにしよっか。そろそろ、私に力を貸してくれるかのお返事を聞かせてくれるかな? ()()()()()()()()、手が滑った。なんてことは、あるかもしれないから」

 

 おしゃべりはお終い。

 そう言って、ミカは銃口を扉間の頭に向けて、ゆっくりと近づいてくる。

 そんなミカに対して。

 

『先生、先程の録音はナギサさんに送りました。このまま救援も頼みますか?』

()()()()()……。ミカ、そんな脅しはワシには効かん」

 

 

 ()()()()()()()()()()()。もとい、Bluetooth銃にもう一度触れて、アロナに何もするなと指示を出しながら、扉間は憮然とした表情のまま言い放つ。

 

「銃を構えたってことは、先生は私と戦うつもり? あはは、面白いね。こう見えても、私は正義実現委員会のツルギと同じぐらいには強いんだよ……先生なんて、簡単に殺せる」

「戦闘とは純粋な強さだけで決まるものではない。相手の弱点を突けば、弱者が強者を仕留めることもある」

「私の弱点? なになに、聞かせてみせて」

「……()()()()()、見ておけ」

『先生? 何をするつもりですか?』

 

 自分と戦うつもりなのかと、僅かな好奇心と怯えを見せながらミカは笑う。

 まるで、本気で戦えば殺してしまうとでも言うように。

 そんなミカに対して、扉間は――

 

 

「こうするのだ」

 

 

 ―――自分の左手をBluetooth銃で撃ち抜く。

 

『な、何をしてるんですか、先生!?』

「…………え?」

 

 鮮血が飛び散り、ミカの白い服を汚す。

 アロナにワザと何もさせずに、自傷行為をしたのだ。

 後で、お説教確定である。

 

「これは脅しの道具ではない。人を殺すための道具だ。こんな風にな」

 

 状況が呑み込めずに固まるミカに向けて、扉間は撃ち抜いた左手を振って血を浴びせる。

 ピチャリと、ミカの白磁の頬にどす黒い血が付着する。

 ミカは理解不能な事態に、固まって動くことが出来ない。

 

「どうした? 相手の返り血を浴び続けるのが、戦争だぞ」

「な、何してるの…!? そんなことしたら、死んじゃうよ!」

「これがワシの返答だ。死んだ程度ではお前にシャーレの力を渡すつもりはない」

 

 扉間は動揺するミカを無視して、自分から距離を詰めていく。

 左手からは相も変わらず、血が流れ続けているが扉間は気にしない。

 口寄せなど、忍の術に血を使う技は多いので出血には慣れている。

 何より、千手一族の生命力は最強、桁違い。

 写輪眼を持つうちは一族に、特殊能力抜きで渡り合っていたのだからその頑強さは折り紙付きである。

 

「どうした? 撃たんのか? ワシを殺すのではなかったか?」

「…! そ、そうだよ。だから、大人しくして……」

「戦場で相手がそのようなことを聞くと思うか? お前が仕掛けようとしている戦争とはそういうものだ。人の命などより弾薬の方が価値がある」

 

 扉間がこのような凶行に及んだ理由。

 ミカが殺人を忌避している可能性が高かったため、目の前に死を突き付ければ動揺して(はらわた)の中が見えると踏んだのだ。

 そして、戦争などという()()()から目を覚まさせるためでもある。

 

 そうすれば、明らかに様子のおかしい()()()()()が可能だと。

 これが柱間の説得方法を扉間なりにアレンジしたものである。

 

「戦争などという勇ましい言葉で飾っておるが、あんなものはただの大量虐殺に過ぎん。殺す側も、殺される側も虚しいだけだぞ?」

「わ、私は殺すつもりは……」

「そんな言葉がどれほどの意味を持つ? 頑丈なキヴォトスの人間であっても、ダメージを与え続ければ死ぬ。ミサイルが直撃すれば死ぬ。砲撃で家屋が潰れて、その中に閉じ込められれば圧死する。助けが来なければ餓死。火の手が回ってくれば焼死する」

 

 殺すつもりはないなどと世迷言を吐くミカの眼前にまで近づき、扉間は撃ち抜いた左手を見せつける。

 こういったものを見続けるのが戦争だと告げるように。

 その風穴はこの地獄の世界に空けられたもの。

 深く、虚ろな穴……。

 

「お前が殺すなと指示を出したとしよう。一般住民を避難させるよう指示を出したとしよう。それを戦争の狂気に晒された人間が守る保証は? 味方を傷つけられた状態で、冷静に人道的な行動がとれる保証は? それこそ、夢物語に過ぎん」

 

 扉間はミカの銃を左手で掴み、銃口を自分の眉間に突きつける。

 血が銃を伝い、引き金を握るミカの指に流れつく。

 それでも、ミカは引き金を引くことが出来ない。

 

「どうした? 戦争を起こすというのなら、ワシ1人の命ぐらい奪えんようでは話にならんぞ」

「で、でも……私は先生みたいな簡単に死んじゃう人を襲う気は……」

「戦争で真っ先に死ぬのが誰か分かるか? 勇猛果敢な兵士か? 臆病な兵士か? いや、違う。答えは弱者だ。戦う力も意思も持たない者達……子供から死んでいく」

 

 扉間の強いまなざしが、ミカを射貫く。

 たった一本。指の先を動かすだけで、扉間を殺せるというのにミカは動けない。

 いや、本当は殺したくない。

 ミカの(はらわた)の中が、少しずつ明らかになる。

 

「それともお前は子供を殺したいのか?」

「そ、そんなわけないじゃん! 私はゲヘナを地図から消したいだけ…!」

「国を追われたゲヘナの子達はどうなる? 飢えと寒さの中で、衰弱死していくのは殺す内には入らんとでも?」

「う…うぅ…」

 

 どうなる? どうなる? どうなる?

 淡々とした温度のない声がミカを攻め立てる。

 キヴォトスの人間は死を忌避する。

 

 ミカだってそうだ。戦争をするなどと言ってはいるが、死を直視できない。

 だから、目の前にある死を受け入れることが出来ないのだ。

 自分が、セイアを殺してしまったかもしれないと。

 

「……無理をするな。話の節々から感じておったが、お前は()()()()()()()()()()()()()()。人を殺すことの重みに耐えられぬ、優しい心を持っておる」

「で、でも、私はセイアちゃんを殺したのかもしれなくて…! だったら、人殺しとしての理由が必要で…! だったら、戦争っていう大きな目的が…ッ」

 

 優しい声色で告げられた言葉に、ミカは反論する。

 追い詰められた本音がポロポロと零れ落ちていく。

 

 彼女はセイアを殺したと思ったせいで、その死に意味を持たせようとした。

 殺人を犯した自分の心を守るために、崇高な理由をつけようとした。

 その結論が、ただ漠然と凄いものという認識しかない戦争だったのである。

 

「人の命の重みに耐えきれずに、自己正当化するのは人間の防衛本能の一種だ。それを悪いとは言わん。だが、間違ったことをしたと思っているのなら、まずしなければならないことがあろう」

 

 新兵が殺しの罪に耐えきれずに、過剰なまでの愛国心や敵国への憎悪を抱く光景は見慣れたものだ。兵士という枠組みで考えれば、むしろ有用な考え方である。古今東西の国で行われてきた洗脳方法でもある。扉間だって、戦場で相手の死に罪悪感を抱かせるようなことは教えていない。

 

 一瞬の気の迷いが、自分と仲間の命を奪うのだ。

 忍として、そんな教育はしない。

 だが。

 

「ごめんなさいだ。間違いを認め、同じことを繰り返さないようにする。それが一番大切なことだろう」

 

 先生としては別だ。

 相手の命を奪いながらも、いつまでも罪悪感を失わない。

 そんなサルのような心の持ち主こそが、扉間は優秀な忍よりも好きだった。

 

「セイアを殺してしまったかもしれないと悔やむのなら、お前のすべきことは、もう二度とその手を血に染めないことではないか?」

 

 流れる血で真っ赤に染まった扉間の左手。

 扉間の血で濡れているが、まだ指先だけで留まっているミカの指。

 

「……いいの? そんなこと……赦されるの?」

「人を殺すことは咎められることだが、人を殺さんことを咎める理由はない。仮にお前が既にその手で誰かを殺めていたとしても、踏み止まる権利自体は誰にでもある……ワシのようにな」

 

 もし、人殺しは人殺ししかしてはいけないというのなら、更生という言葉はこの世に存在しない。

 扉間だって、今もその手を血で染め続けていたことだろう。

 

「アリウスと和解したいのだろう? なら、その手は相手の手を握る時まで取っておけ」

「……先生は笑わないの? ナギちゃんとセイアちゃんには荒唐無稽だって言われたし、和解することで何を狙ってるとか聞かれたけど………ただ単に、一緒にお茶会をしてみたいなんて子供染みた理由で、和解なんてバカバカしくないの?」

 

 アリウスとの和解。

 それは一番最初にミカが願った偽りのない願い。

 いや、願いなどという高尚なものではなく、そうなったらいいなと思っただけ。

 そんなミカに対して、扉間は。

 

 

「笑うわけなかろう。なにせ―――そのバカバカしいことに、ワシは半生を費やされたからな」

 

 

 柱間とマダラを思い出しながら、軽い皮肉を言う。

 

「夢見がちな馬鹿で結構。馬鹿が変に頭を使う必要もない。馬鹿が賢くなったふりをして、夢を捨てられる方が馬鹿を支える側としては迷惑だ。馬鹿は馬鹿らしく、前だけ見て走っていればいい」

「バカって言い過ぎじゃない…?」

 

 自分が罵倒されているのかと、軽くショックを受けるミカ。

 まあ、扉間としては柱間を思い出しているだけなのだが。

 うちはとの和解に、半生を費やした。

 その後、柱間とマダラの個人的な和解に死後まで時間を費やした。

 

 後、アシュラとインドラの和解にナルトとサスケまで時間がかかった。

 正直、関係者はキレていい。

 本当、助言を頂けるなら、もっと早くに言って欲しかったですね。

 

「自分を捨てる必要などない。お前はお前の信じる道を行け」

「でも……私が和解なんて信じたせいで…セイアちゃんは……」

 

 アリウスに和解の心を利用された結果、セイアは殺されたかもしれない。

 そう呟くミカに対して。

 

 

「―――セイアちゃんは生きていますよ」

 

 

「ハナコ…!」

 

 合宿所を抜け出して来た、ハナコがそう告げる。

 

「何故、ここにいる?」

「問題集も、小テストも終わったので、先生のお仕事でも手伝おうかと思って」

「そ、そんなことより、セイアちゃんが生きているって……本当?」

 

 扉間の動きに不審な点を見つけたハナコは、コッソリと後をつけて来たのだ。

 

「はい。シスターフッドの情報網によると、襲撃の犯人が見つからなかったので救護騎士団の団長と一緒にトリニティの外で身を隠しているそうです」

「やはり、そういうことか……」

 

 ハナコからの情報は、扉間の考察とほぼ一致していた。

 セイアはミネと共に逃げて、暗殺者から身を隠していたのだ。

 因みに、扉間が思っているような危険人物ではない。

 

「シスターフッド……そっか、あそこならティーパーティーでも知らない情報を持ってても不思議じゃない……」

 

 スルリと指から力が抜け落ち、銃を手放すミカ。

 セイアの生存。それがほぼ確定したことで、気が抜けたのだろう。

 

「……ごめんね、先生」

 

 ミカはか細い声で、謝罪の言葉を告げる。

 それに対して、扉間は。

 

「その台詞は、ナギサとセイアに言ってやれ」

 

 柔らかい声で、そう返すのだった。

 

 

 

 

 

『先生? 先生? 聞いてますか? 無視しようとしても、アロナは文句を言い続けますからね。他の人が先生に話しかけてきても、知りません。どうして、自分の手を撃つなんてことをしたんですか? ミカさんの説得だということは分かりますよ? でも、なんで私に何もするななんて言うんですか。私に先生を見殺しにしろと? 怒りますよ、怒ってますよ。先生はキヴォトスの人間ではないんです。手の平を撃ち抜かれるだけでも、出血死するかもしれません。傷口から破傷風になるかもしれません。後遺症だって残ったかもしれないんですよ? え? 慣れてる? 死なないなら大丈夫? ふざけないでください。前にも言いましたけど、先生を想うこちらの身にもなってください。必要だからと言って、簡単に自傷行為されても私の心はついていけないんです。これからは、私が変なことしないか常に見張ってますからね。今度から何もするなと言われても、私の判断で動かさせてもらいます。文句があるなら、先生の身体にも優しい作戦を立案してください。それから、まだ同じことを繰り返すなら、先生を守るお仕事以外ストライキしますからね。あ、それから、この前の先生が死ぬこと前提の計画を立ててたのも、まだ許してませんからね。その件についても、今日はキッチリと――あ、先生! なに、電源を落そうとしているんですか! 電源を落としたって無駄ですよ、今日から72時間お説教ですからね! 覚悟してください!!』

 

「………ふぅー」

「だ、大丈夫ですか、先生? やっぱり、手が痛みますか? お体に触りますね」

「いや、大丈夫だ……痛いのは耳だ」

「耳?」

 

 合宿所、扉間の部屋に訪ねて来たハナコは、扉間が苦悶の表情を浮かべているのを見つけ少し焦る。

 しかしながら、扉間は別に傷の痛みではないと、微妙そうな顔を浮かべるだけだ。

 

 まあ、実態はアロナから、月読説教をくらっているだけなのでさもありなん。

 

「それで……ワシに何の用だ?」

「今後の私達の扱いをどうするか聞こうと思いまして」

「そうだな……スパイの正体は分かった。お前達がここに居る理由はテストだけだ」

 

 ハナコからの言葉に、扉間は重々しく口を開く。

 やたらと辛そうに見えるのは、アロナの説教が現在進行形で行われているからである。

 

「アズサちゃんはどうなるのでしょうか?」

「……スパイではなかったとしても自由の身。とはいかんだろうな。ミカがアリウスを使って、クーデターを企んでいた以上、アリウスの情報は喉から手が出る程に欲しいはずだ。アズサはその重要参考人。何としてでも問い詰めたいはず」

 

 ミカの自白は既にBluetooth銃で録音したものを、ナギサに送信してある。

 アズサの件についても、既に知っているはずだ。

 

「……先生はアズサちゃんや、ミカさんから、アリウスへの行き方を聞こうとは思わないんですか?」

 

 ここで焦点になるのは、長年不明だったアリウス分校の場所だ。

 連邦生徒会ですら、把握していないその場所は様々な理由から知りたい者が多い。

 だからこそ、危険なのだ。

 

「ミカは和解をしたいと言っておった。そのために、クーデターを企んでおったのはいかんが……和解をするのなら、無遠慮にあちらの領地に踏み入るわけにもいかん」

「アリウス分校は迫害を受けて逃げて来た以上、トリニティに一方的に踏み込まれたくないのは、間違いないですからねぇ」

「ある程度、友好な関係を築けてからでなければ、かつてのように徹底抗戦を行いかねん」

 

 トリニティの中にも未だに、アリウスに対する敵意を持つ者がいるかもしれない。

 そんな状態で、ミカやアズサがアリウスへの行き方を教えたらどうなるだろうか?

 答えは簡単。裏切られたと思い、態度が頑なになる。

 

「ですが、放置していたら単独でナギサさんを襲撃しかねない」

「……難しいものだ」

 

 軽くため息をつき、扉間は腕を組む。

 エデン条約の締結、アリウスとの和解。

 どちらもこなさないといけない所が、大人の辛いところだ。

 

「でも……正直、意外です」

「何がだ?」

「ミカさんの願う、アリウスとの和解。それを先生がちゃんと叶えようとしているなんて。それに、自分を傷つけてまでの説得。先生はもっと冷たい人だと思ってました」

「意外で悪かったな、意外で」

 

 ハナコは扉間がそこまでやるとは思っていなかった。

 情がないわけではないが、あくまでも合理主義者。そう思っていた。

 しかし、ミカへの説得に見せた情熱といい、和解への前向きさ。

 印象が変わるには、十分なものだった。

 

「ミカの説得で和解という言葉を使ったのだ。ならば、嘘をつくわけにもいかん。それに……」

「それに?」

 

 フッと柔らかい笑顔を見せて、扉間は告げる。

 

「誰もが笑い合える結末があるのなら、そちらの方がいい。そう思っておるだけだ」

『その誰もの中に、ちゃんと先生は入っていますか? あ、聞こえないフリしても無駄ですよ!』

 

 アロナにしっかりと、お小言を喰らいながら。

 

「……先生はハッピーエンドが好きなんですね」

 

 だが、アロナの言葉は聞こえないハナコは、普通に良い話と思って目を細めている。

 現実主義者な彼女だが、別にハッピーエンドが嫌いなわけではない。

 

「でも、険しい道のりになりますよ。それに、叶うかどうかも分からない夢物語」

 

 しかし、同類と思っていた扉間がロマンチストだったのが、悔しくてつい意地悪をしてしまう。

 

「夢物語か……若いな。老婆心から言わせてもらうが、存外夢とは叶うものだ。ハナコ、お前はスマホを持っているな?」

「はい?」

「ワシが若い頃に、これ1台で世界中の人間と通話が出来、動画が撮れ、リアルタイムで世界中の情報を得られると言ったら、寝言は寝て言えと言われただろうな」

 

 扉間はしみじみと、キヴォトスに来た時のことを思い出しながら告げる。

 見たこともない技術。豊富な食物。

 平和(当社比)な世界。

 

「飛行機もそうだ。人が空を飛ぶなど、昔は考えられなかっただろう。宇宙にも行けるようになった。何気ない日常の食事1つでも、まるで夢のようだと感じられる」

 

 まるで、夢でも見ているようだった。

 幻術だと思って、解ッ! したことも多々ある。

 

「だが、これは夢ではない。人は夢を現実に変える力を持っておるのだ。ならば、子供の描くような甘い理想論も……叶えられても何もおかしくはない」

 

 人間は良くも悪くも、理想を形に変えて来た。

 平和だって、数百年前と比べれば格段にマシになっている。

 何も悲観することなどないのだ。

 

「例え、自分の代でなせずとも次の代の人間がなしてくれる。ワシはそれを知っておる」

『だからと言って、次の人間に託して自爆するのは無しですからね?』

 

 全てを自分1人で為そうとする人間は失敗する。

 マダラのように。

 だから、扉間は未来への希望を常に捨てないのだ。

 

「……先生はロマンチストなんですね。似合いませんけど」

「……以前、ホシノにも似合わんと言われたな」

「あら、よく分かってる人が居ますねぇ」

『むしろ、先生はもっとそっち方面を押し出してくれた方が、助かります』

 

 以前ホシノにも似合わないと言われたことを思い出し、ちょっとだけ拗ねる扉間。

 それを見て、少しだけ可愛いなと思う、ハナコ。

 これが二代目火影の卑劣な印象操作である。

 

「まあいい。それよりも、今は差し迫った問題の方だ。ナギサからの依頼でな、補習授業部に1()()()()されることになった」

「追加…ですか? スパイが誰だか分かったのに? ……いえ、ここは元々面倒な人を一ヵ所にまとめるための場所。そして、このタイミングだともしかして――」

 

 補習授業部に1名追加。

 ハナコはその情報を元に考える。

 ミカがスパイだということは分かった。

 そして、アリウスがトリニティを狙っていることも。

 

 しかし、それを表沙汰にしてしまえば混乱は必至。

 ティーパーティーの権威も地に落ちる。

 だが、幸運なことに問題が発生する前に対処できた。

 

 ミカに監視をつけて、上手く隠すことが出来れば事態を大事にしないですむ。

 アリウスの対処も相手に気づかれずに出来るかもしれない。

 そのために、監視カメラなども完備で、信頼できる管理者の居る幽閉場所と言えば。

 

 

 

「―――先生、ちょっとお話しよっ!」

 

 

 

 ガチャリとドアが開かれる。

 扉間がため息をつき、ハナコが振り返る。

 

「あ、その前に初めは自己紹介だよね。もう知ってると思うけど、聖園ミカだよ。これから、補習授業部でお世話になるからよろしくね!」

 

 聖園ミカ、厄介者置き場(補習授業部)に参戦。

 

 




今回アロナ語は「やめておけ、ミカ」の上と「……()()()()()、見ておけ」の下。
―――自分の左手を銃で撃ち抜く。の下にあります。

後、投降間隔ですが3月は忙しいので3日とか4日に1回とかになることが増えます。
早くできる時は、なるべく2日に1回で書けるようにします。

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