千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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29話:予知夢

「ターゲットであるシャーレの先生は、現在ゲヘナに居るらしい」

「ゲ、ゲヘナに? ということは、暗殺するにはゲヘナに行かないといけないんですか?」

「そうなるな」

 

 廃校舎で、サオリはヒヨリの質問に頷く。

 マダムから指示された、扉間の暗殺任務。

 補習授業部を攻めることになるかと思っていたが、どうにも対象はゲヘナへと移動しているらしい。

 

「ゲヘナか……面倒だね。カタコンベから出て、すぐのトリニティとは違う。部隊を率いて気づかれずに学園同士の境を越えるのは、無理じゃない? エデン条約間近で大分厳しくなってるし」

「ミサキの言う通りだ。密入国は出来ないことはないが、大勢で行ってはトリニティにもゲヘナにも気づかれる。少数で行くしかないだろう」

 

 アリウスはトリニティ内ですら、見つからずに行動しなければならない。

 おまけにゲヘナまで行くとなると、大人数が両学園に見つからずにたどり着ける保証はほぼない。

 やるならば、少数精鋭で密入国するしかない。

 

「ん? 姫……いや、ターゲットがトリニティに戻ってくる保証はない。補習授業部はともかく、先生はシャーレの人間。別行動を取る可能性は十二分にある」

 

 ならば、トリニティに戻ってくるまで待つか?

 スッとアツコがそう提案してくるが、サオリは首を横に振る。

 

 扉間が補習授業部の顧問なのは確かだが、本来の所属はシャーレ。

 別れて帰る可能性もあれば、そのまま別の学園に行く可能性もある。

 そうなれば、ただ単に時間を無駄にしたことになるだけだ。

 

「じゃ、じゃあ……どうしますか? 私達だけでゲヘナに潜入しますか?」

「……それしかないな。アリウススクワッドだけで、ターゲットを暗殺しにゲヘナに行くしかない」

「こっちは土地勘もない、おまけにゲヘナ風紀委員会と補習授業部、両方の相手をしないといけない。かなり厳しい戦いになるよ。ゲヘナにミサイルでも撃ち込んだ方がいいんじゃない?」

 

 アリウスの奥の手である、マダムの持つ巡航ミサイル。

 キヴォトスの防衛機能では、まず防ぐことの出来ないそれを使ってはどうかと、ミサキは提案する。

 

「……いや、ダメだ。この段階でミサイルを撃てば、ゲヘナはトリニティからの攻撃だと思うだろう。そのまま全面戦争になりかねない。そうなれば、条約の調印のために古聖堂に集まることもなくなるはずだ。マダムの指示の1つである、ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の起動には、古聖堂に集まることが必須だ。その可能性を潰す訳にはいかない」

 

 しかし、サオリは苦い顔でそれを否定する。

 マダムの計画の内で、重要なものの1つ。

 ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の起動。

 

 これには、かつての公会議の状況を再現する必要がある。

 ミサイルを撃ち込めば、ゲヘナはまず間違いなく条約を破棄する。

 そうなれば、トリニティも古聖堂に行く理由は無くなり、計画は失敗だ。

 

 サオリ達もマダムに始末されるだろう。

 

「じゃあ、どうするの?」

「……ゲヘナの生徒会長である、羽沼マコト。いずれ裏切る予定だが、現状ではトリニティを滅ぼすための同盟を結んでいる状態だ。この件に巻き込めないか試してみよう」

 

 現状では、ゲヘナ内に居る扉間を暗殺するには厳しい状況。

 だが、アリウスはマコトとトリニティの破壊のために、秘密裏に同盟を結んでいる状態。

 上手く行けば暗殺の手引きをしてくれるかもしれない。

 そう考えて、サオリはマコトの秘密回線に電話をかける。

 

「………私だ」

『キキキ、お前の方から連絡を寄越すとはな。珍しいこともあるものだな』

「単刀直入に言おう」

 

 相も変らぬ相手を小馬鹿にしたような笑い声。

 内心を悟らせぬその笑いに、サオリは若干の緊張を持ちながら言葉を繋ぐ。

 

「私達アリウスは、千手トビラマを暗殺したい」

『ほぉ? そうか』

 

 一切の遊びがない会話にも関わらず、マコトは調子を崩さない。

 まるで、想定内だとでも告げるように。

 

「千手トビラマはエデン条約の締結のために尽力している。そして、その努力は実を結び始めている。私達の目的とはそぐわない方向でな」

『キシシ、それで?』

「お前も気づいているはずだ。条約を結ばない方がデメリットのある状況が作られ始めているだろう。お前の意志がトリニティの征服だとしても、ゲヘナの生徒がついて来なければ意味がない。戦争にはトリニティを討つという確固たる憎悪が必要だ。そのためには、平和主義者の先生は邪魔だとは思わないか?」

 

 戦争に必要なものは個の力ではない。

 集団での結束力だ。

 マダラが千手への徹底抗戦を訴えても、誰もついて来なくなったように。

 マコトが1人でトリニティの征服を叫んでも、他の生徒がついて来なければ意味がない。

 

 憎悪という牙を抜かれた家畜は争いなど望まない。

 何もせずに、メリットを享受できる状況から抜け出たい者が居るだろうか?

 トリニティを襲うには、それ相応の大義名分が必要なのだ。

 そして、扉間はその大義名分のために邪魔なのである。

 

『キキキ、間違いなく邪魔だな』

「だが、お前も人殺しはしたくないはずだ。政治家というものは、綺麗な言葉で自分を飾り立てるのが好きなんだろう?」

『良く分かっているじゃないか。それで? お前は、私に何をしてくれる?』

「私達が汚れ役になってやる。人殺しの役目を引き受けてやる。お前は綺麗な手のまま、目的が達成できる」

『その対価に、ゲヘナ内部への手引きをしろと? キキ……大した奴だ』

 

 マコトの夢はキヴォトスの征服である。

 そのために、手を取り合うことを美徳とする平和主義者は邪魔でしかない。

 しかも、その平和主義者が影響力があるとなれば、尚更だ。

 マコトにとっても扉間は邪魔な存在なのである。

 

「ああ……どうだ。悪くない取引だと思うが? お前は私達を手引きしてくれるだけでいい。私達が失敗しても、お前は即座に捕まえて口封じが出来る。デメリットはないはずだ」

『キキ、上手くやれば風紀委員会に罪と責任をなすりつけられるな……いいだろう。お前達の侵入ルートと実行タイミングは、こっちが教えてやる』

 

 その言葉に、サオリはホッと胸を撫で下ろす。

 これで、第一関門は突破したと。

 しかし。

 

『ただし、それだけだ。私はお前達の行動を一切手助けしない。お前達がしくじったとしても、私は何食わぬ顔でお前達を暗殺犯として捕まえる。情報提供後はあくまでも、何も知らない綺麗なマコト様のままでいるだけだ』

 

 追加の条件には、顔を顰めるしかなかったが。

 これでは、マコトがワザとアリウスを罠にはめることも出来る。

 

「……構わない」

 

 だが、背に腹は代えられない。

 やらなければ、こちらがマダムに殺されかねないのだ。

 最悪、ゲヘナに捕まるだけなら死刑はないので、そっちの方がマシだと考えてサオリは頷く。

 

『キシシ! 交渉成立だな』

「……情報はまたこの回線で伝えてくれ」

『ああ、せいぜい頑張るといい』

 

 最後にそう言って、マコトは回線を切るのだった。

 

 

 

 

 

「それで、マコト先輩。今の回線の説明はあるんですよね?」

「キキキ、落ち着け、イロハ」

「アリウス分校との繋がりは、今はまあいいです。ですが、トリニティを討つとは何ですか? 初めから、トリニティを騙し討ちにするためにエデン条約を?」

 

 生徒会長室。

 通信を終えたマコトはイロハに詰め寄られていた。

 

「当たり前だ。私が平和条約など結ぶ気などあるわけがないだろう? 条約の場にティーパーティーの人間を誘き出して、一網打尽にする。それが私の本当の計画だ!」

 

 マコトの本当の目的。

 それはトリニティの騙し討ち。

 まずは頭を潰して、混乱するトリニティを制圧する作戦だ。

 

「……計画だ? ()()()の間違いではなくて?」

 

 しかし、イロハはそこに疑問を覚える。

 

「私にも、ここまで黙っていたのなら、今このタイミングでばらす理由がありませんよね? ということは、計画を変更したんじゃないんですか?」

 

 側近にも黙っていた情報を、計画当日前に明かす。

 何の意味もない行為だ。それをするぐらいなら、最初から話した方がいい。

 マコトは馬鹿だが、頭が悪いわけではないとイロハはよく知っている。

 

「キキキ、この世界に絶対はない。如何に、優秀なマコト様の計画だとしても、変更することもある。いや、優秀だからこそ、臨機応変に計画を変更するのだ!」

「はぁ……それで? 何で変更したんですか?」

 

 イロハはマコトの態度に呆れながらも、真剣な目を向ける。

 

「……イブキのことだ」

 

 それに対して、マコトも真剣に返す。

 

「このタイミングで阿慈谷ヒフミが接触してきたということは、その主であるナギサが私の動きに感づいた可能性が高い。そして、イブキをいつでも始末できると、脅しをかけて来た」

「ヒフミさん……マコト先輩の妄言だと思っていましたけど、ゲヘナに来ると同時にイブキとぬいぐるみを交換したのを見るに、確かにスパイの可能性が高いですね」

 

 2人が思い出すのはペロロのぬいぐるみを抱いて、無邪気に笑うイブキの笑顔。

 即座にぬいぐるみを調べたが、中に爆弾などは仕掛けられていなかった。

 だが、相手がその気であれば、いつでもイブキに害を及ぼすことが出来たのだ。

 

 そう、これはナギサからの脅しだ。

 お前達の弱点は分かっているという。

 

「ナギサめ……やってくれる。これからは今まで以上に、イブキの身の回りに気を使わねばならん。トリニティへの侵攻よりもイブキの身の安全の方が大切だ」

「まあ、こっちは元々条約を結ぶつもりで準備をしてたので、特に問題はありませんが……それで?」

「それで?」

 

 今はイブキの安全は保障されているが、次はどんな手を打ってくるかは分からない。

 そうなっている以上は、マコトはトリニティへの侵攻は踏み止まらざるを得ない。

 まあ、全て勘違いなのだが。

 

「マコト先輩が、素直に引くわけないじゃないですか。次は何を企んでいるんですか?」

 

 しかし、一度失敗した程度でへこたれるマコトではない。

 

「キキキ、気がついたか。()()()()()トリニティへ侵攻するのは諦めたが、トリニティへの侵攻そのものを諦めたわけではない」

「条約が締結したら、侵攻は無理だと思うんですけど……」

「ああ、ゲヘナがトリニティへ侵攻することは出来ない。仮に侵攻したとしても、エデン条約機構(ETO)に風紀委員会が組み込まれる以上は、今までの嫌がらせの復讐とばかりにこちらを止めに来るだろうな」

「それが分かってるなら、嫌がらせ止めません?」

 

 中立組織だから、大義名分があれば遠慮なく自分を殴れる。

 そんな事実を真顔で告げるマコトに、イロハはため息を零す。

 イロハは別に風紀委員会に対して、敵視したりなどはしていないのだ。

 

「だが、エデン条約機構(ETO)以上の権限があれば可能だ」

 

 だが、イロハの忠告も暖簾に腕押し。

 マコトは止まらない。

 

「シャーレの部員となり、先生からの命令さえあれば大義名分の下に侵攻できる!」

「なるほど……先生を錦の御旗にするんですね。完璧な作戦だと思いますよ、先生が絶対にやってくれないだろうという点に目を瞑れば」

「そのために、お前が孫になって何とかするんだろう! イロハ! 安心しろ、祖父母というものは、初孫には果てしなく甘くなるというデータがある」

「別に甘くなる理由については聞いていないんですが?」

 

 シャーレの部員としてなら、トリニティだろうがミレニアムだろうが侵攻できると。

 そして、そのためにイロハが扉間を調略する必要があるのだと。

 まあ、当然イロハには白い目を向けられるのだが。

 

「ちょっと待て! 呆れるには早い、今回はちゃんと先生からの信頼度を上げる方法も考えてある!」

「なんです?」

「先程の、先生の暗殺計画を利用する」

 

 ここでようやく話が元の場所まで戻ってくる。

 扉間暗殺計画。

 これを利用して、好感度を稼ぐのだと。

 

「ああ……先生に情報を流して、味方アピールをするんですね」

 

 イロハはそれに対して、アリウスを裏切って扉間に情報を売るのだと解釈する。

 これならば、確かに味方アピールが出来るだろう。

 しかしながら。

 

「いや、それだと私がアリウスと繋がりがあることがバレるだろ」

 

 アリウスと裏取引していたことがバレるのは不味いと、マコトは首を振る。

 

「いいか、イロハ? 私が欲しいのは先生からの信頼だ。情報を売るだけでは、信頼は得られない。むしろ、コウモリと思われて、信頼を損ねかねん。だから、情報を売るのではなく利用する」

 

 ニヤリと笑いながら、マコトは腕を組む。

 

「アリウスに私が情報を渡すということは、私が襲撃時間と場所をコントロール出来るということだ。つまり、先生のピンチに颯爽と現れて助けることが可能だ。ついでに、風紀委員会には先生の護衛が不十分だったと罰を与えられる。アリウスは文句を言ってくるかもしれんが、暗殺に()()()()場合には何もしない約束を結んである。別に約束は破っていない。キキキ、まさに一石二鳥。いや、一石三鳥の計画! 羽沼マコト様は、やはり天才だな!!」

 

 マッチポンプ作戦である。

 アリウスに扉間を襲わせ、それを危機一髪のところで救って信頼度を上げる。

 名前が(マコト)なのに、実に虚飾に満ちた作戦だ。

 

「……あの、その作戦だと普通に暗殺が成功する可能性があるんでは?」

 

 その作戦にイロハはツッコミを入れる。

 カッコよく助けに入ると言っているが、タイミング次第では普通に失敗しかねない。

 というか、普通に殺されたらどうするつもりだろうか。

 

「ん? ああ、先生が死んだ場合は――」

 

 そんな当然の疑問に対して、マコトは。

 

 

 

「―――条約の場でアリウス(トリニティ)に先生が殺された敵討ちと言って、奇襲をかけるだけだ」

 

 

 

 元の方針に戻すだけだと、何食わぬ顔で告げる。

 

「……イブキの件は?」

「条約の締結の場には万魔殿全員で向かう。他の者を近づけさせずに、私達で守ればいい」

 

 自分達全員でイブキを守れば、万が一もないだろうとマコトは自信満々に笑う。

 

「この作戦の良い所は。暗殺が成功しようが、失敗しようが私は悪役にならない点だ。キキ、あくまでも、正義の味方のマコト様が悪を討つという形は変わらん」

 

 そして、どちらに転んでも自分にデメリットはないと告げる。

 扉間を助けられれば、信頼度が上がるので良し。

 扉間が死ねば、邪魔者が居なくなるので堂々と動けるようになる。

 完璧な作戦である、やはり天才か。

 

「そうと決まれば、早速行動だ。イロハ、風紀委員会に探りを入れて先生のスケジュールや護衛が手薄な時間を確認してこい。それを基に、アリウスに指示を出す」

「……はぁ、分かりましたよ」

「ああ、それからカッコよく登場できるように装備も整えておけ。私達に遅れて助けに来たヒナの悔しがる顔が、今から目に浮かぶようだな、キキキ!」

 

 颯爽と助けに入る自分を想像して、高笑いをする、マコト。

 そんなマコトに対して、イロハは。

 

 

 

(流石にマコト先輩が人殺しになるのは気分が悪いので、後で先生に伝えておきますか……)

 

 

 

 マコトのためにも、裏切ろうとあっさりと決めていたのだった。

 

 

 

 

 

 やあ、先生。ここで会うのは久しぶりだ――

 

 ―――待ちたまえ。私の顔を見るなり、唇を噛んで夢から覚めようとしないでくれ。

 私とて女性だ。流石に私の顔を見ただけで、自傷行為に走られると傷つく。

 やめてくれ、その反応は傷つく。やめてくれ。

 

 だから『解ッ!』じゃない。

 そもそも、何だいそれは? 私にはただの自傷行為にしか見えないのだが。

 

 幻術を解く? ああ、君はこれを何かの術だと認識しているんだね。

 そして、これは私からの攻撃ではないかと思っている。

 まず、そこから誤解を解いておこうか。

 

 私は君に幻術を見せているのではない。

 あくまでも、ここは君の夢の中だ。

 私は明晰夢のような夢をよく見ていてね。

 胡蝶の夢とはよく言うが、残念ながら私は夢の中でも私のまま空を自由に飛ぶ羽などない。

 

 え? 話が逸れている? ふむ、すまないね。

 何分、私の体は寝たきりの状態で人との関わりに飢えているのかもしれない。

 可愛い生徒との触れ合いだと思って、大目に見てくれないかい?

 

 ……そこで、大きなため息をつきながら了承されるのも中々に心に来るね。

 

 君は物事を焦り過ぎている。

 ミカほどではないが、もっと会話を楽しむべきだ。

 ……まあ、いい。

 先生の言うように時間は有限なのも事実。

 話を進めるとしよう。

 

 まず、私は夢を通して未来を見ることが出来る。

 『やはり…百合園セイアか…!』? いや、むしろ私を誰だと思っていたんだい?

 

 夢だから姿も自由に変えられると思った?

 その発想はなかったよ……今度試してみようか。

 ああ、また話が逸れたね。いや、今のは君なりのサービス精神かな。

 可愛い生徒との交流。私の願い通りだ。真面目だね、君は。

 

 とにかく、私の夢は未来を見ることが出来るんだが、実はそれだけじゃない。

 こうして、人の夢の中にお邪魔することもあれば、過去の事象、現在起きていることを見ることも出来る。

 まあ、自由自在に見たいものを見れるわけではないのだがね。

 

 諜報活動に有用? まあ、確かに君の言う通りではある。

 断片といえども、万人が見れない未来を私だけが把握できるのだからね。

 今回君の夢にお邪魔したのも、それに関することだからね。

 

 ……だから、唐突に『解ッ!』はやめてくれないか。

 私は別に君の情報を抜きに来たわけじゃない。

 むしろ、情報を伝えに来たんだ。

 

 単刀直入に言おう。

 君はアリウスから暗殺される。

 

 うん? 知っている?

 ああ、まあ命を狙われるのはそれほど珍しい事ではないか。

 かく言う私も、命を狙われた結果としてこのようなことをしているのだからね。ははは。

 だが、今回は少し事情が違う。落ち着いて聞いてくれ。

 

 私の夢は未来視だ。

 断片的にしか見えないことや、いつ起こるかも分からないことがほとんどだ。

 しかし、それが起こることだけは確定している。

 避けられるのなら、私自身がこんな目に遭っていない。

 

 もしかすると、私という観測者が見たせいで確定してしまうのかもしれないが……今は考えても仕方ないことだ。

 

 とにかく、これは確定した未来だ。

 君はアリウススクワッドのリーダーである錠前サオリに、心臓を撃ち抜かれる。

 本当か?

 

 この目で弾丸が君の胸に当たり、血が噴き出すのを見たので間違いはない。

 ……その様子だと、君には何かしらの防御手段があるようだね。

 それが発動していないから、訝しんでいるように見える。

 なるほど、やはり君に()()()()()()()()()だったようだ。

 

 おっと、すまない。別に詮索をするつもりはなかったんだ。

 誰にだって隠したい秘密の1つや2つはあるだろう。私の悪い癖だね。

 

 とにかく、君は撃たれる。これは確定した未来だ。

 私の言葉が戯言かどうかは自分で決めてくれ。

 え? 時間と場所はどこかだって?

 

 残念ながら、場所から逃げたところで起こる事象は変わらないよ。

 運良く逃げられても、起こることは変わらない。

 もっと酷い時だと、運命の修正力とでも言うのか、その場所から離れられなくなる。

 

 ただ、君の問いに答えるとすれば時間は夜。恐らくは深夜だろうね。

 みんなが寝静まった頃だ。

 そして、場所は私の知らない場所なのでどことは言えないが、ベッドがあったので君の寝室だろう。

 そして、普段使いというよりも客人用に見えた。

 恐らくは、君がゲヘナで今寝泊まりしている場所だろう。

 

 他に情報はないのか?

 そうだね。まあ、暗殺なので当然と言うべきか君は1人だったよ。

 

 死体の確認はしたか?

 い、いや、それは夢の中なので撃たれたとしか私は認識できていない。

 とにかく、これが私の知る情報の全てだ。

 

 この情報を元にどうか気をつけて欲しい。

 

 うん? 『どうして、変えられない未来なのに警告しに来た?』かだって。

 ああ、私も君が死ぬだけの未来なら何も言わなかったさ。

 だが、ある矛盾があってそれが気になってこうして出て来たのさ。

 

 

 そう。私は()()1()()未来を知っている。

 

 

 これだけ、言えば賢い先生なら分かるだろう。

 過去が無ければ現在が成り立たないように、現在が無ければ未来も成り立たないからね。

 

 では、そろそろ私は帰るとしよう。

 また、君に強制的に『解』されても困るからね。

 

 質問? まだ、暗殺について聞きたいことがあるのかい?

 違う……ふむ『理想の夢の世界に囚われることは、幸福だと思うか?』かい。

 面白い質問だね。

 

 まるで、古則の楽園のようだ。

 

 ああ、そうだね。

 君の言うように、個々人が自分の理想の夢の中に居ればそこは確かに楽園だろう。

 そして、古則のようにそこを楽園と認識する者は、夢から覚めようとしない。

 現実世界も皆が眠っているのなら、世界平和が実現した状態と言えるだろうね。

 なるほど……君は私が夢の世界から起きられないのではないかと心配しているのだね。

 

 先生は、ノンレム睡眠とレム睡眠を知っているかい?

 ノンレム睡眠は深い眠りで、レム睡眠は浅い眠り。

 夢を見るのは浅いレム睡眠の方だ。

 

 当然、浅い睡眠ということは熟睡状態ではない。

 夢は偶に見るから楽しいのだよ。毎日のように見る夢は、負担になるだけだ。

 時には夢など見ずに泥のように眠りたい。

 そう思うことの方が私は多いよ。

 

 私にとって、夢は夢ではない。

 辛いことも悲しいこともある、避けられない現実だ。

 だから……私は夢の世界に囚われたいと思ったこともないし、そこを楽園と思ったこともない。

 

 

 もしも、私に願いとしての夢があるとすれば、それは―――夢を見ることなく眠ることだろうね。

 

 

 おっと、まさに夢のない話になってしまったね。

 まあ、これは私個人の感想だし、何より私の意見は外れ値というものだ。

 参考にするべきものではない。

 

 さて、今度こそお別れといこうか、先生。

 睡眠は健康に生きるために、最も重要なものだよ。

 しっかりと熟睡して欲しい。

 

 

 

 おやすみ、先生。どうか―――夢のない眠りを。

 

 

 

 

 

「そう言えば夢で見たのだが、ワシは後少しで暗殺されるらしい」

「えっと先生……もしかして、まだ寝ぼけているんですか?」

 

 まるで、サイゼリヤで喋るような自然さで、自分が暗殺されると告げる扉間。

 そんな姿にハナコは思わずといった様子で、寝言は寝て言えと言う。

 

「夢に百合園セイアが出て来てな。アリウスの錠前サオリという人間に暗殺されると言ってきおった」

「セイアちゃんが!? それに、アリウスの錠前サオリって…!」

「サオリが……そうか。まあ、人を殺すのならサオリが率先してやるか」

 

 セイアの名前とサオリの名前に反応する、ミカとアズサ。

 どちらも件の人物と面識があるのだ。

 

「何者なのだ、錠前サオリと言うのは?」

「サオリは……私も所属していたアリウススクワッドのリーダーだ」

「私が初めてアリウスと接触した時も、あの子だったからアリウスでもかなり上の方の子だと思うよ」

 

 裏切っているので辛そうな顔で、サオリのことを話すアズサ。

 知ってはいるが、人格までは詳しくはないので純粋にアリウスでも地位のある人間としか思っていない、ミカ。

 

「なるほどな……」

 

 その反応を見ながら、扉間は考える。

 アリウスにはれっきとした部隊がある。

 だというのに、わざわざ、集団のリーダーが暗殺に出る状況。

 つまり。

 

「少数精鋭を率いてゲヘナに侵入してワシを殺すつもりか」

「アリウスはトリニティにあることだけは、分かっています。つまり、部隊を率いてゲヘナとの国境を越えるのは不可能と判断した。そういうことですね?」

「ハナコの言う通りだ。ゲヘナまで大部隊で見つからずに来ることは出来ない。だから、アリウススクワッドだけで先生を暗殺しに来るはずだ」

 

 大軍は送れないということ。

 そして、アリウススクワッドは数の不利を補う程の精鋭であること。

 

「ちょ、ちょっと、そんなヤバそうな人達が来るなら逃げた方がいいんじゃないの?」

「セイアが言うには、未来は変えられんらしい」

「ほ、本当に先生は死んじゃうんですか?」

 

 コハルが流石に不味いと扉間を心配し、ヒフミも怯えた表情になる。

 だが、扉間の表情に焦りはない。

 そのことに気づいたハナコが2人を安心させるように声を出す。

 

「大丈夫ですよ、2人とも。先生は何か策があるから落ち着いているんです。そうですよね? 先生」

「セイアはもう1つの未来を知っていると言った。そして、未来が変えられないというのなら、暗殺よりも後の時系列でワシが生きている未来があれば、この暗殺で死ぬことはないと確定している」

「ほ、本当? よかったぁ……」

 

 取りあえず死ぬことはない。

 そう言われて、ホッと胸を撫で下ろすコハル。

 卑劣なことしかされていないのに、心配するお前は本当に優しい子だ。

 

「ああ、実に良いことだ。死なぬ未来が確定しているということは、つまり――」

 

 しかしながら。

 

 

「―――いくらでも無茶が利くという訳だからな」

『………はぁ?』

 

 

 扉間は死なないからよかった。で、終わる男ではない。

 死なない? じゃあ、情報収集のために無茶が出来るな! という考えである。

 これには、普段温厚なアロナもピキキと額に青筋を立ててブチギレる。

 

「ワシの暗殺される状況を再現して、その通りになれば未来は変わらんか……この状況は使えるな。そうと決まれば、早速新しく準備するとしよう」

「せ、先生? 準備って何ですか…?」

 

 困惑するヒフミに対して、扉間は笑って答える。

 

 

 

「無論―――遺書だ」

 

 

 

『先生、ちょっとお話ししましょうか?』

 




やめて! 錠前サオリの銃で、トビラマ先生の心臓を撃ち抜かれたら
キヴォトスの外から来た先生の体だと簡単に殺されちゃう!

お願い、死なないでトビラマ先生!
先生が今ここで倒れたら、補習授業部やアリウスとの和解はどうなっちゃうの?
時間はまだ残ってる。ここで頑張れば、セイアちゃんの予言を覆せるんだから!

次回、「扉間死す」。デュエルスタンバイ!

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