千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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3話:活動宣伝

 

「『アビドス地区にて地域住民に多大なる迷惑をかける、暴力組織カタカタヘルメット団の討伐をアビドス高等学校・対策委員会の協力の下に完了。更生の見込みのある者は矯正局に送り、今後の立ち直りに期待する。また、カタカタヘルメット団より接収した物資や資金に関しては被害を受けた地域住民への補填として全て寄付を行うこととする。なお、寄付金はアビドス高等学校より、地域住民に配布される。今回の件において更なる情報を求める場合は、連邦捜査部『シャーレ』の担当顧問、千手トビラマに連絡されたし』……ふむ、こんなものか」

 

 カタカタヘルメット団の前哨基地を制圧したアビドス高等学校の生徒達。

 その様子を、モニター越しに見ながら扉間は自身のスマートフォンを操る。

 

「あの? 何をされているのですか、先生」

 

 そのことに気づいたオペレーターとして、共に学校に残っていたアヤネが問いかける。

 

「SNSで今回の活動を報告しておったのだ。すまんが、お前の端末でも確認してもらえぬか? 何分、この歳だ。最先端の機械には疎くてな。()()()稿()などもやっているのだが、まだ慣れんでな。使い方に間違いがないか聞きたい」

「はい、大丈夫ですよ……ちゃんと、出来てます。ただ、少し硬い印象を受けますが」

「感謝する。今度からは、もう少し気楽な感じでやるべきか」

 

 歳のせいで良く分からないと、もっともな理由を上げてアヤネの確認を取る。

 この時代に上手く溶け込むには、こうした小さなことでも確認を怠ることは出来ない。

 故に、扉間は若者のアヤネに意見を求めたのだ。

 

「ですが、いいのでしょうか? 私達は前哨基地しか制圧していないのに、討伐完了したなんて言って……」

「今の戦力では個人の能力にどれだけ差があっても、全滅は不可能だ。それから、ワシは全滅させたとは一言も言っておらん。鬼を討伐したと言っても、全ての鬼を全滅させたということにはならんだろう? それと同じだ」

「……日本語って難しいですね」

「それに一度に狩り尽くすより、適度に回復したところで再度狩る方が旨味がある。さらに一度で潰すよりも、複数に渡って叩く方が相手の気勢をそげる。そうなれば、更生への道にも行きやすくなろう」

「カタカタヘルメット団に同情したのは生まれて初めてです」

 

 またしても、大人の汚い生き方を見せられて、半目になるアヤネ。

 だが、扉間は一切後ろめたく思わない。

 どちらかというと、真っすぐな若者って素晴らしいと思っている。

 それから、カタカタヘルメット団に更生して欲しいと思っているのは本心だ。

 まあ、やり方には疑問符がつくが。

 

「さて、後はどこかしらから連絡が来るのを待つだけよ。上手く行けば、シャーレの人員を増やせる」

「ええと……先生はまだSNSの活用を始めて日が浅くて、フォロワーも少ないのであまり連絡はないかと」

「……ふむ、中々に難しいものだな」

 

 アヤネの指摘に、如何にも時代に取り残された老人といった風に肩をすくめてみせる扉間。

 しかしながら、彼の本当の狙いはそこではない。

 

(シャーレの先生という立場は軽いものではない。一般の生徒はともかく、組織の長からすればいち早く知りたい情報のはず。そういった者達は必ず、ワシの動向を確認している。今回のはそうした者達へワシの行動指針を示すのが狙いよ)

 

 自身の立ち位置。そして、シャーレの活動とはどういうものかを示すのが狙いだ。

 そして、聡い者なら今回の寄付の裏に気づくはずだ。

 つまり、上手くやれば連邦捜査部シャーレの後ろ盾を得つつ、稼げると気づく。

 そのために、扉間はシャーレを正義の味方としてアピールしているのだ。

 看板とは綺麗な方が、役に立つものだ。

 

(いつの世も情報こそが、最大の価値を持つ。SNSなどを上手く使いこなしていかなくてはな)

 

 などと、腹黒いことを考えていると、前哨基地を制圧してきた面々が帰ってくる。

 

「ただいまー。先生の指示通り、資金をガッポリ回収してきたよー。それから、基地跡に()()()()()()を仕掛けて来た」

「銃弾や武器も押収してきた」

「本当に良かったのでしょうか……」

「まあ、私達も散々迷惑かけられたんだから、自業自得よ」

 

 いつもの眠そうな表情のホシノ。

 天職を得たように、輝いた表情をしているシロコ。

 未だに少し罪悪感のある表情のノノミ。

 鬱憤が少し晴らせたのか、若干楽しそうなセリカ。

 そんな十人十色の表情を見ながら、扉間はねぎらいの言葉をかける。

 

「皆の者、ご苦労だった。押収してきたものは、一度ワシが計算し確認を取ろう。そして、記録を残す」

「? そのまま、懐に入れないのー?」

「あくまでも、寄付という形を取るのだ。公的な記録に残さねばならん」

「なるほどー。でも、そうすると私達の学校に寄付金が入るのはおかしいって言われるんじゃない?」

 

 ホシノのもっともすぎる指摘に扉間は静かに頷く。

 こうした指摘は想定内だ。大名達からも良く同じようなことを言われたものだ。

 

「もっともな意見だな。故に、地域住民としてのお前達に寄付する形にする」

「それって、余計に怪しまれるじゃん」

「案ずるな、セリカ。無論、学校周辺の他の住民への補償にも使う。今回の件でもっとも被害を受けたのは、アビドス高等学校付近であることは火を見るよりも明らかだ」

「それはそうですね。ですが、学校周辺は今は人がほとんど……あら?」

 

 学校周辺には人はほとんどいない。

 居るのは、そこに通っている自分達生徒達ぐらい。

 そこに気づいて、ノノミは冷や汗を流す。

 

「そうだ。アビドスは過疎も良い所だ。現に、ここに来るまでワシは()()()()()の人間に会っておらん。無論、少なからず残っている者も居るだろうが……それでも、大半はアビドス生徒のものになるだろう。合法的にな」

 

 人口が少ないことを逆手にとって、寄付金を与える人間を絞るのだ。

 他の学校に文句を言われても、現状を見せてやれば納得せざるを得ない。

 何故なら、何一つとして嘘はついていないのだから。

 

「それから、押収した物資に関しても直接売って金に換えるのではなく、今後買う予定の物資の代わりに使え。そして、浮いた綺麗な金を自分達のために使うといい」

「これが錬金術…?」

 

 寄付されたものを売ったとあれば、世間体が悪い。

 だから、本来使うはずだった金の温存に回すことで批判をかわす。

 これが2代目火影の卑劣なマネーロンダリングである。

 

「こうすれば、少しは借金の返済に役立つだろう。……9億には到底及ばんだろうがな」

「そ、そうですよね。カタカタヘルメット団にそれだけの資金があれば、こんなことしてませんし」

「まあー、それでもこれだけあれば当面はしのげそうだし、頑張って行こうよ」

 

 しかしながら、そうして生み出した金も所詮は、はした金だ。

 アヤネは少しガッカリしたような表情をして、肩を落としてホシノに慰められる。

 流石の先生も出来るのはここまでだろうと。

 

 

 

「故に、第二の策を打つ」

「え?」

 

 

 

 しかし、扉間のターンはまだ終わっていなかった。

 

「まずは、SNSやY〇uTube動画でお前達の活動を大々的にアピールする。そして、クラウドファンディングで資金を集めるのだ。略奪とは違い綺麗な金をな」

「活動って言っても、私達のやってることは借金返済なんだけど……」

 

 そんなものをアピールしてもしょうがないと、セリカが唇を尖らせる。

 しかし、扉間は首を横に振る。

 

「違う。お前達がやっているのは、廃校の危機を阻止しようとする尊い行動だ」

「おんなじことでしょ?」

「よいか。お前達の借金は自分達のものではない。そもそも、借金をしながら運営している企業など幾らでもある。となれば、運営資金が足りないと言い換えても問題はあるまい。何1つとして、後ろめたいことなどないのだからな。お前達は外から見れば、健気に努力する子供でしかない。可憐な見た目も合わせれば、悲劇のヒロインといった所だ」

 

 故に、お前達は他者からの同情を得られる。

 現代とはワシが若いころとは違い、弱いということが価値を持つ。

 弱者であることを情報化社会で利用するのだ。

 そう、扉間が続ける。

 

「人間とはな。自身が悲劇に見舞われるのは嫌だが、他人の悲劇を見るのは好きな者が多い。そして、その悲劇を乗り越える姿を見るのが好きな者はさらに多い。要は、自分事で無ければ、物語として楽しめるのだ。そして無責任にそうした者を応援するのが好きな人間はもっと多い」

「……最低ね」

 

 扉間の物言いに、セリカが嫌悪感を隠さずに吐き捨てる。

 誰だって嫌だろう。自分達が必死に足掻いている姿を見世物扱いされるのは。

 だとしても、扉間は口を閉じない。

 選択肢として存在する以上は、全て告げるべきなのだと冷淡に考えて。

 

「お前達の活動を見て、楽しむ者は多くいるだろう。それに、ここはアビドス。かつてキヴォトス最大の勢力を誇った学園だ。逆説的に言えば、かつてアビドスに関係があった者達は多くいるということだ」

「……転校や、退学した生徒達。または、引っ越しした地域住民の方達に援助を求めるんですか」

「そういう事だ、ノノミ。そやつらの中には小さな罪悪感を持つ者もいるだろう。母校を捨ててしまったとな。そこへ、お前達の活動が目に入る。罪悪感を抱く者は、何か手伝えないかと思うだろう。自分の胸を軽くするためにな。その罪悪感をつき、投げ銭を吐かせるのだ。そうすれば、そやつらは自分は何かをしたと安心することが出来る」

 

 まさに卑劣。

 人の心を利用した策に、対策委員会の面々の好感度は初対面の頃に戻る。

 5人の冷ややかな視線を浴びながら、扉間はフーッと息を吐く。

 現代に合わせた策を練ってみたが、あまり印象は良くないようだ。

 

「まあ、肖像権が絡む以上。ワシが言えるのは提案だけだ」

 

 腕を組み、壁に寄りかかる。

 一件、リラックスをしているように見えるが、対策委員会からは威圧されているように感じられた。

 

「私は反対よ。私達は誰かに同情されるためにやってるわけじゃないんだから」

 

 プリプリと怒りながら、告げるセリカ。

 

「私は……賛成です。クラウドファンディングは、提供者にお返しできるものがないので出来ませんが、多くの人に私達の活動を知ってもらえればアビドスの活性化にも繋がるんじゃないかと」

 

 アヤネはアビドス全体のことを考えて、賛成する。

 

「私は反対。動画に撮られたら、色々と出来ないことがある」

 

 自作の銀行強盗マニュアルを握り締め、シロコが首を振る。

 

「私は賛成です。アイドルなら動画配信もお仕事の1つですから」

 

 徹夜で考えた決めポーズを取りながら、ノノミは頷く。

 

「んー………おじさんも賛成かなー。3年のおじさんはともかく、みんなの後輩ぐらいは確保したいしねー」

 

 せめて後輩に、新入生が入る可能性ぐらいは残したいと、宣伝に賛成するホシノ。

 

「そ、それでは、3対2の多数決でアビドス対策委員会の活動を宣伝したり、動画でアップロードすることに決定――」

 

 

 

「待て、ワシは反対だ」

 

 

 

 アヤネの言葉に、扉間が待ったをかける。

 

「これで3対3だ。議論は明日以降に持ち越すぞ」

「え? トビラマ先生は賛成なんじゃ……」

「そもそも、あんたはアビドス対策委員会じゃないでしょ!」

 

 目を丸くするアヤネに、部外者は引っ込んでいろと告げるセリカ。

 それに対して、扉間は相も変わらず仏頂面で返す。

 

「何を言っている。ワシは対策委員会の顧問だぞ?」

「は? でも、そんなこと言ってないでしょ」

「アビドス対策委員会を公式に認めたのはワシだ。当然、顧問の登録も済ませてある」

 

 当然のように告げながら、扉間は寄りかかっていた壁から離れる。

 

「そもそも、先生が提案したんじゃ」

「ワシは案として出しただけだ。無論、全員が賛成する場合は反対する理由もなかったがな」

「全員賛成じゃないとダメな理由って?」

「この場で必要なのは、全員での結束力だ。納得いかぬ者が居る状況は、少数の集団においては致命的だ。それに、シロコ。お前の言う通り、動画にすれば綺麗ごとしか出来なくなる」

 

 扉間はシロコの手から強盗マニュアルを取り、それをジッと見つめる。

 怒られるのだろうか。そう思って、シロコは若干身構える。

 だが。

 

「ほぉ、よく出来ておるな。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートまでよく調べたものだ」

「先生…!」

 

 扉間はその出来を褒めた。

 シロコの顔が見たこともないぐらいに輝く。

 

「だが、監視カメラの位置の確認が甘いな。銀行内部だけでなく、外の道も確認するべきだ。よいか? 如何に完璧な逃走経路を確保したとしても、追われる以上はリスクが伴う。見つからずに盗み出すのが一番だ。相手が気づくのが遅れれば、その分だけ逃げる時間が稼げるからな」

 

 先生としてどうなんだと思われる行動だが、扉間は素で褒めている。

 だって、扉間は忍者なのだ。

 強盗どころか、暗殺任務だって受けているし、逆に暗殺されかけてもいる。

 その視点で見ると、シロコには優秀な忍に必要な資質が備わっているのだ。

 

「分かった。すぐに、銀行強盗マニュアルをバージョンアップさせる」

「いや! 待ってください! 銀行強盗ってなんですか!?」

「5分で1億は稼げる優れもの」

「優れものじゃないです! もしかして、先生も強盗するつもりなんですか!?」

 

 フンと胸を張るシロコにアヤネが全力で、待ったをかける。

 

「する気はない。そもそも、一生を犠牲にして1億程度しか稼げないのは割に合わん。仮に10億奪っても、その金を返済に充てればすぐにバレる」

 

 金というのは基本的に出所が分かる。

 不自然に湧き出た金というのは、管理する側からすれば怪しさ満点なのだ。

 少量ずつ使うならともかく、一気に使えばすぐにバレる。

 

「そんな……」

「案ずるな、シロコ。この経験は必ず役に立つときがくる。お前はまだ若い。焦る必要は無い」

「うん、先生」

 

「そこ、なに青春の1ページみたいなノリで、銀行強盗を企ててるのよ!」

 

 まるで、部活で負けた生徒に声をかける顧問のノリ。

 そんな扉間とシロコにセリカがツッコミを入れる。

 

「大体、私達の活動を宣伝するって話はどうなったのよ! やるから、提案したんじゃないの!? いや、私は反対だけど!!」

「お前達の目が借金で内側にばかり向いていたので、外に向けさせるのが目的だ。それに、お前達は借金で首が回らんせいか、焦っておる。ワシの提案を今日この場で決めることなどなかったのだ。議論してからでも遅くは無かろうに」

 

 うぐっと、セリカが唸る。

 扉間は提案した。しかし、それを行うための費用や動画撮影のやり方などは一切言っていない。

 普通はそこら辺まで含めて議論をしてから決定するのだ。

 だが、5人はサッサと意見を決めてしまおうとした。

 それは、扉間の圧力もあっただろうが、5人の心に焦りがあったからである。

 

「貧すれば鈍する。まずは、冷静に自分達に出来ることを客観視することから始めろ」

 

 追い詰められれば、心の余裕を失う。

 それを戦場で良く知る扉間は、まずは子供達が落ち着けるように忠告したのだ。

 

「それとだ。そもそも、お前達自身に知名度がなければ、幾ら宣伝しても無駄だ」

「だったらどうするのー? 先生がそれだけ言うってことは、何かあるんでしょ?」

 

 ここに来て根本的な問題を提示してきた扉間に、ホシノが唇を尖らせる。

 こっちは必死に考えていたのに、突き放されてはかなわないと。

 そんなホシノ達に対して、扉間はスッとタブレットを見せる。

 

「こうするのだ」

 

 5人がタブレットを覗き込むと、そこには。

 

 

 

「お前達にはシャーレの活動内容宣伝。

 もとい、ワシの―――トビラマチャンネルの撮影に協力してもらう」

 

 

 

 シャーレの仕事をこなす扉間の動画が映っているのだった。

 




動画撮影はもちろんオレがやる。
お前達はこれからのアビドスを守って行く、若き火の意志達だ。
これを参考にしてノウハウを学び、やるかやらないかを決めろ。

という訳で、今回はここまでだ。
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