千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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30話:扉間死す

 

『それでは、今から皆さんに先生の悪い点を説明していきたいと思います』

 

 スクリーンに浮かび上がるアロナが書き出した文字。

 目を点にして、それを見つめる補習授業部の面々。

 まるで、柱間に叱られた時のようなバツの悪そうな顔をする扉間。

 何が起こっているのか、端的に説明するとこうなる。

 

 ―――アロナ、キレた!!

 

『言いたいことは山ほどありますが、全部言っていたら72時間はかかるので要点を纏めて、3つまで絞りました』

 

 アロナが3つの先生のここが許せないポイントを提示する。

 

 ・すぐに自分のことを囮にしようとする。

 ・自分の命を軽視して、犠牲になることにためらわない。

 ・未来を信じ過ぎていて、残される側の気持ちを考えない。

 

『まず、1つ目のすぐに自分のことを囮にしようとする点です。何度も何度もやめろめろてくださいと言っていますが、銃弾の一発で死ぬかもしれないのに自分が囮にならないでください』

 

 扉間だけではなく、補習授業部にも分かるように文字に変えているせいか、()()っているが有無を言わさぬ勢いで、アロナが文字を書き出していく。

 

「だが、囮とは無視できぬ餌だからこそ、効力を発揮できるものだ。それに、ワシと子供達ならどちらの命を優先するかなど――」

『―――先生は黙ってください』

 

 それに理性的に反論しようとする扉間だったが、アロナの『黙れ』で言葉を失う。

 思わず、柱間のようにずぅーんとへこんでしまいそうだった。

 

『そして、今の言葉でも分かるように先生はご自分の命を軽視しています。犠牲の犠牲になることもためらいません。私は命の価値について話しているわけではないんです。先生に傷ついて欲しくないと言っているだけなんです』

 

 また()()っているが、アロナは止まらない。

 自分が何回言っても止まらないのなら、監視役を増やそうと補習授業部も巻き込もうとしている。

 

『そして、これも何度も言っていますが、先生は残される側の気持ちを考えません。先生は確かに私達よりも年上です。自然の法則から言っても、先に死ぬのが当然です。ですが、それは先生が死んでもいい理由にはならないんです』

 

 扉間は気軽なセカンドライフ(転生)気分だが、他の生徒は違う。

 扉間が傷つく度に、身内が死ぬ恐怖に怯えなければならないのだ。

 誰だって、親しい者が死ぬのは嫌だろう。

 

『何か申し開きはありますか? 黙っていては分かりませんよ』

 

 さっき、黙れって言ったのはそっちだろう。

 思わず、そう言いたくなるのを我慢しつつ扉間は口を開く。

 結婚したことのない扉間だが、キレている女性相手に口答えするのは不味いことぐらい分かる。

 

「……つまり、アロナ。お前はワシが、セイアの予言までは死なないことを逆手に取った行動をして欲しくないのだな?」

『当然です。先生のことだから、どうせ死なないことを逆手に取って単身で銃弾の飛び交う戦場に乗りこんだり、相手にロシアンルーレットを仕掛けて絶対に負けないように出来る、とか。火事の中に飛び込んでも死なずに救出活動が出来るとか考えているはずです。死なないだけで、傷つかない保証は欠片もないんですよ?』

「……半分は当たっている、耳が痛い」

 

 死なないなら、単身で戦場に乗り込んでも無事なのではと思っていた扉間は、目を逸らす。

 何をしても絶対に死なない相手など敵からすれば恐怖でしかない。

 

 後、柱間細胞の移植などの失敗=死の研究なども成功させられるのでは? とか。

 屍鬼封尽などの命をコストに発動する禁術も、ノーリスクで使えるようになるのでは?

 などと思っていたのは内緒だ。

 

『そもそも、セイアさんの予言が合っている証拠はあるんですか? 先生を嵌めるために嘘をついている可能性もあるんですよ』

「い、いや、セイアちゃんは嘘は――」

『どうかしましたか? ミカさん』

「な、何でもないです」

 

 セイアが嘘をついているかもしれない。

 それに対して、何か言おうとするミカだったが、アロナの圧力に負けてしまう。

 許せ、ミカ。アロナは腹の虫の居所が悪いのだ。

 

「……ワシはセイアと会話をした。そこで、悪人ではないと判断した」

 

 扉間は夢の中でセイアと会った時に、マダラチェックを行った。

 人の夢で悪さをしたり、夢の中で理想に囚われたりしていないか。

 その結果、少々鬱気味ではあるが、やはりうちはマダラではないかと判断した。

 

『ほら、出た。そうやって、若者をすぐに信用する良い癖! 私は先生のそういう所が、大好きですけど、致命傷になってからじゃ遅いんですよ』

 

 だが、アロナはそこに苦言を呈する。

 扉間は柱間の影響を受けているせいか、口ではあーだこーだと言っても、割とすぐに相手を信頼する。

 

 悪に憑かれた一族、マダラの再来疑惑、穢土転生を利用した大蛇丸の仲間。木ノ葉の敵。

 この状態のサスケを、僅か数時間で命がけで助けようとするまで信用した所からも、それが分かる。

 

 この男、実は若者にはかなり甘い。

 

『先生は、裏切られても何とかすれば良いと思ってるんでしょうけど、死ぬ危険性を冒してまですることではありません』

 

 まあ、生前は最悪裏切られても、柱間同様に実力で何とかできる面があったせいでもあるのだが。

 実際問題、扉間の死因であるクーデターも雲を全面的に信用した結果起きたものだ。

 そして、扉間にとっての最悪の事態である部下の死亡も、自分が囮になることで回避できた。

 良い意味、悪い意味両方での成功体験を積んでしまっている。

 

『死なないということは、無敵という事ではありません。先生が暗殺を受けるまで寝たきりになる可能性もあります。無茶をした結果、後遺症が残ることだって考えられます。先生の代わりに先生の近くにいる私などの誰かが死ぬかもしれません。逆に聞きますけど、先生は私にその危険性を冒してまで何かをやらせたいですか?』

 

 お前、そんなに賢かったか?

 普段の抜けた様子とは打って変わり、反論の余地のない理詰めで扉間を追い込む、アロナ。

 一体、どこの誰に似てしまったのだろうか。

 

『もしも、先生が頷くのなら、私もこれ以上は何も言いません。私の全部を先生にあげます。先生を守って、私は死にます』

「……分かった。無茶なことはせん。だから、やめてくれ。その死に方はワシに効く。やめてくれ」

『分かればいいんですよ、分かれば』

 

 扉間にとっては、自分を守るために若者を犠牲にするなど、柱間に対する裏切り行為だ。

 絶対に許容できない。

 それが分かっているからこそ、アロナは強気に出たのだ。

 

「……その…お話は終わりましたか?」

『はい、お時間を取らせてすいませんでした。ハナコさん。皆さんも、先生が無茶な行動を取りそうになった時は叱ってあげてください。何なら、先生のアドレスに私宛のメールを送ってくれれば、私が対応します』

「あらあら……先生はアロナさんのお尻に敷かれているんですねぇ」

 

 ようやく終わったお説教に対して、ハナコが扉間をからかう。

 まるで、お嫁さんみたいだと。

 

「ワシもこの歳になって、頭の上がらん相手が出来るとは思わんかったがな……」

「あはは……でも、先生も叱られることがあるんですね」

「大人になっても叱られるのか……この世は全て虚しいものだな」

 

 大人の情けない姿に、少しだけ親近感を覚えるヒフミとアズサ。

 

「……それで、よく分からないんだけど。結局、遺書とかの話はどうなるの?」

「うん。先生が暗殺されそうになっていることは、変わらないんじゃない?」

 

 そして、ミカとコハルが話を元に戻す。

 元々、セイアからのタレコミで、扉間の暗殺が決まったからどうしようという話だ。

 そこに扉間が、死なないなら色々無茶できるなと思いついてしまったがために、話が脱線したのだ。

 

「セイアの話ではワシは、錠前サオリに心臓を撃ち抜かれて血を吹き出していたらしい。場所は恐らくはワシの部屋。そして、時間帯は深夜。後は襲撃日が分かれば、心臓付近を守って、血糊で誤魔化せば逃れられるだろう。遺書は……アロナの機嫌(じょうきょう)次第にするか」

 

 セイアの言っていることが正しければ、扉間はこの暗殺の後も生きている。

 そして、秘密にしているアロナバリアを服の下で発動させれば、銃弾を防ぎつつサオリを騙すことが出来るだろう。

 

「アズサ、錠前サオリは人を殺し慣れているか? 『人を殺すならサオリが率先してやるか』と言っておったが」

「………慣れてはいないはずだ。私がサオリが率先してやると言ったのは、サオリが優しいからだ」

 

 扉間の少し嫌味にも聞こえる言葉に、アズサはハッキリと首を振る。

 

「暗殺対象の先生には信じられないかもしれないが……サオリは私がアリウスで殺されかけた時に、身を挺して庇ってくれたんだ。他のメンバーもサオリを姉のように慕っている」

「姉か……汚れ役は自分でやるということか」

 

 サオリという生徒の内面を知り、難しい顔をする扉間。

 敵ではあるが、身内を大切にする人間。

 扉間が好きなタイプの若者である。

 

「……とにかく、殺し慣れていないのなら、暗闇の中で血糊を偽物と気づくことはなさそうだな」

 

 思う所はあるが、一先ず話を戻す扉間。

 相手が上忍クラスの人殺しなら死亡の偽装も難しいが、そうでないのなら十分ごまかせる。

 

「でも、銃弾を防ぐって……防弾チョッキでも着るの? だったら、早いうちに取り寄せないと。キヴォトスだとレアものだよ、防弾チョッキって」

「はい、私達は撃たれた程度では痣が出来るぐらいですからね……」

 

 ミカの言葉にハナコも頷く。

 キヴォトス人は一般人であっても、銃弾で撃たれた程度なら痛いですむ。

 要するに、防弾チョッキは需要がほとんどないのである。

 

「で、でも、暗殺がもし今夜だったら……あ、そうだ! 胸ポケットに何かを仕込んでおいたらどうでしょうか? アニメで胸ポケットに入れておいた懐中時計が、銃弾を弾き返して逆転の一手になるシーンを見たことがあります」

 

 そこへヒフミが代案を挙げる。

 胸ポケットに何かを入れていたおかげで、助かる展開である。

 まあ、ここはキヴォトスなのでただ助かるだけだと、大してインパクトがないので跳ね返して攻撃するまでがセットになっているが。

 

「……いや、サオリのアサルトライフルなら懐中時計ぐらいなら貫通する。しっかりとした防弾仕様のものを用意しないと」

「えっと…私、ハスミ先輩になにか無いか聞いてみる!」

 

 しかし、アサルトライフルを防ぐとなると並大抵のものでは通用しない。

 防弾仕様のものが必要だが、またまたここはキヴォトス。

 銃弾より肉体の方が硬いので、防弾のものはやはり需要が低い。

 

『待ってください、みなさん。私がいるので銃弾の心配はしなくてもいいです』

「アロナの言う通りだ。シッテムの箱は銃弾程度で壊れる程やわではない」

 

 どうしよう、どうしようと慌てる生徒達を扉間とアロナは安心させる。

 アロナバリアは極秘事項なので伝えていないが、シッテムの箱そのものも銃では貫通出来ない。

 

「……それならいいんですが」

「防御手段は整った。次はいつ相手が来るかだ。ここが分からねば、対策が無駄になりかねん」

 

 まだ心配そうなハナコの顔を、敢えて無視しつつ扉間は襲撃のタイミングに話をずらす。

 

「うーん……毎日殺されるか怯えながらだと、眠れないよね」

 

 暗殺のストレスの中では眠れないだろうと、ナギサを思い出して心配するミカ。

 因みに、扉間的には日常茶飯事なので、大して気にならないのは内緒である。

 

「………逆に考えればいい。襲撃日が分からないのなら、こっちから決めてやればいいんだ」

「アズサちゃん…?」

 

 何かを覚悟したような顔で、アズサが呟く。

 ヒフミが、その姿に違和感を覚えて心配そうな目線を送る。

 

「こっちから決めるって……何よ。まさか、相手にこの日に来てなんて言うつもり?」

 

 コハルが、まさかそんな馬鹿なことをする奴はいないだろうと、呆れた表情を浮かべる。

 だが。

 

 

「ああ、その通りだ。コハルは頭が良いな」

 

 

 アズサはアッサリとそれを肯定する。

 

「え?」

「私はまだアリウススクワッドを裏切ってはいない。補習授業部に連れて来られて監視されているだけだ。つまり、私がスクワッドに情報を流せば、襲撃日を決められる」

 

 アズサはアリウススクワッドの一員だ。

 そして、トリニティの情報を流すスパイでもある。

 つまり、偽の情報を流せる立場の人間でもあるのだ。

 

「アズサちゃん……それは!」

「トリニティの合宿所に居た時は、監視カメラのせいで動けなかったが、ゲヘナではそれはない。それに、風紀委員会と一緒に外に出られる機会も多い。監視の目が緩んだ隙に、スクワッドと合流したと言えば、あちらも疑わないはずだ」

 

 アズサがやろうとしていることは、精神的には完全にアリウスと袂を分かつ行為。

 元の仲間を裏切り、新しい仲間を助ける。

 イタチのような二重スパイだ。

 

「私が情報を流して手引きする。そして、先生の死を偽装する。大丈夫だ、セイアの時と同じだ。()()()()()。その後はサオリ達と一緒に逃げて、今度はアリウスの情報をみんなに送る。そうすれば、今度はみんなを守れるはずだ」

 

 扉間の暗殺が終わったからといって、アリウスの動きが止まるわけではない。

 元々、ミカを利用して条約を破談させようとしていたのだ。

 他にもあらゆる手を使って、妨害をしかねない。

 故に、トリニティにアリウスの情報を流す存在がいる。

 それこそが、自分の役目だとアズサは頷く。

 

「だ、ダメですよ、アズサちゃん! そんなことになったら、もうトリニティには帰って来れないじゃないですか!」

「……それに、アリウスにスパイ活動がバレたら死刑になるかもしれないよ」

「し、死刑!? 死刑なんてダメよ、絶対!」

 

 しかし、ヒフミとミカ、そしてコハルに止められる。

 扉間の暗殺後に脱走。

 真実はどうあれ、もうトリニティには戻れないのは明白だ。

 

 そして、仲間であるアリウスを裏切り続けるのも、辛い役目だ。

 何より、アリウスは平然と殺しを行う場所。

 マダムにスパイがバレれば、その末路は言うまでもない。

 

「……アズサ、悪いがその意見は却下だ」

「そうか……まあ、先生から見れば、私がトリニティを本格的に裏切ろうとしているようにも見えるから、当然か」

 

 扉間がアズサの意見を却下すると、アズサは自嘲する。

 トリニティのためと言っているが、見方を変えればアリウスに戻るチャンスが来たので、嘘をついているように見えるからだ。

 

「違う。ついさっき、アロナから自分だけが犠牲になることを叱られたばかりだ。この状況で、生徒にワシと同じことをさせるわけないだろう」

『当然です』

 

 だが、扉間はため息交じりに首を振る。

 アズサがやろうとしていたことは、平和のために自身を犠牲にする行為。

 サスケから聞いた、イタチのような若者の未来を再び犠牲にしたくない。

 後、自分を犠牲にするという行為を、アロナに禁術指定にされたばかりという理由だ。

 

 ここ、アロナゼミでやった所だ!

 

「暗殺の襲撃日が分からんでも、大したことはない。毎日毎時間、暗殺に備えておけばよいだけだ。案ずるな、ワシも()()()()()

「先生…でも…アリウスの情報が……」

「最終的にはアリウスと和解するのも目標だ。スパイなど必要ない。そうであろう、ミカ?」

「…! うん……アズサちゃんは両校の架け橋になって欲しいの。だから、スパイなんてしなくてもいいんだよ」

 

 扉間からの問いかけに、力強く返す、ミカ。

 セイアを殺してしまったと思い込んでからは、碌な思い出がなかった。

 しかしながら、今は違う。

 

 原初の願いを思い出した。

 アリウスと和解したい。そのための、架け橋として転校生(アズサ)が必要だった。

 ならば、今度こそその橋を落させるわけにはいかない。

 ミカはそう覚悟を決める。

 

「みんな……」

「アズサ。お主はワシ以上の仲間想いよ。だが、仲間を想い守るだけでは見えて来ぬものもある。何、皆で協力をすれば存外解決策は見つかるものだ。ワシも偶には、誰も犠牲にならん方法を考えてみるとしよう」

 

 ポンとアズサの頭に手を置いて、微笑む扉間。

 そんな所に、アロナが一通のメールを受信する。

 

 

『トビラマ先生、万魔殿の(なつめ)イロハさんからメールです。お話したいことがあるそうです』

 

 

 

 

 

「どうも、初めまして。万魔殿の戦車長、棗イロハです」

「シャーレの先生兼、補習授業部の顧問の千手トビラマだ」

 

 2人きりの個室。

 こじんまりとした机と椅子。

 防音機能だけはしっかりとした壁。

 まさに、密会を行うためだけに作られた様な部屋に2人は居た。

 

「コーヒーに砂糖は入れますか?」

「いや、そのままで結構だ」

「そうですか、ではどうぞ。あー、安心してください。変なものは入れていないので」

 

 イロハが淹れたコーヒーを差し出し、それを扉間が受け取る。

 だが、扉間の目にあるのは明らかな警戒の色。

 それを分かっているため、イロハも隠し事をせずに話す。

 

「実は、生徒会長のマコト先輩から、先生を懐柔してくるように言われているんです。だから、変に警戒されるようなことはしません。あ、因みに孫として立候補して来いって言われてるんですけど、需要有ります?」

「……随分と正直者だな、大したものだ。それから、生徒は全員ワシにとっては孫や娘、そして妹のようなものだ。もちろん、お前も含めてな」

 

 特定の誰かを特別扱いをする気はない。

 暗にそう告げる扉間。

 しかし、イロハは特に動揺した様子は見せない。

 

「そうですか。では、そのかわいい孫の話を少し聞いてくれますか?」

「……構わん」

 

 ポチャンとコーヒーに砂糖を落して、スプーンでかき混ぜながらイロハが告げる。

 それに対して、扉間は感情を見せない優秀な副官だなと思う。

 

「実はですね、マコト先輩の情報網でアリウス分校が――」

「―――暗殺計画の件か?」

 

 まあ、だからと言って、手を抜くつもりもないが。

 一先ず、関連のありそうなワードで鎌をかけてみる。

 

「………あら、知っていましたか?」

()()に聞いてな」

 

 動揺を表に出さないように努めながら、イロハは乾いた口を動かす。

 そして、内心で安堵の息を吐く。

 

(これは……暗殺計画のことを伝えに来て正解ですね。しかし、どうやってこの情報を……まさか、ヒフミさんが…?)

 

 マコトはアリウスの暗殺が成功しても、失敗しても損はないと言っていた。

 実際に、成否は関係ないだろう。

 だが、ただ1つ。マコトが不利になる場合がある。それは。

 

「私達もマコト先輩の情報網で、暗殺計画を掴みましてね」

 

 マコトが暗殺計画を黙認し、アリウスを手引きしたことがバレた時である。

 そこまでバレれば、シャーレに敵意有りと見られることは間違いない。

 何より、暗殺の汚名を被ることは避けられない。

 

「そうか」

「……先生の身の安全のために、お伝えに来たのですが、余計なお世話でしたかね」

 

 アリウスの手引きがバレたかは分からない。だが、最悪の場合を想定するべきだ。

 そして、バレている暗殺計画が成功する確率は極めて低い。

 マコトはただ単に先生の暗殺計画を企てた罪人になるだけだ。

 

 しかし、扉間暗殺の情報を掴んで警告に来たという話であれば、バレていても罪人になることはない。

 マコトは信頼が欲しいと言っていたが、背に腹は代えられない。

 ここは、最悪の事態が避けられたと考えるべきだ。

 

 そう、イロハは思っていたが。

 

 

「なるほど、()()()暗殺計画だったか。情報提供感謝する」

 

 

 そこで鎌をかけられたことに気づく。

 扉間は一度も、自分の暗殺計画だとは言っていない。

 セイアの件かもしれないし、ミカが起こそうとしていたナギサへのクーデターかもしれない。

 

 もう、誤魔化しは効かない所まで喋らされた。

 

「……他にも暗殺計画があるんですか?」

「いつの世も争いよ。キヴォトスとて例外ではない。それだけのことだ」

 

 イロハは何とか動揺を抑えながら、コーヒーを飲む。

 砂糖を入れたはずだというのに、全くもって甘さを感じられない。

 

「さて、話を戻すとしよう。暗殺計画を掴んだということは、ワシを守ってくれるという事か? ダラしない先生ですまんな」

「それなんですが……」

 

 イロハは必死に頭を回転させる。

 暗殺計画を掴んだ。なら、普通に考えればその妨害に動くべきだ。

 万魔殿から護衛を出すのが普通の行動だ。

 

 だが、アリウスとマコトは取引で暗殺に向いた日程などを教える約束をしている。

 つまり、護衛が居る時点でアリウスはマコトに裏切られたことを悟るだろう。

 そう、この時点でイロハは、シャーレとアリウスのどちらかを取るかの選択を迫られているのだ。

 

「具体的な日にちまでは、まだつかめていないんです」

 

 しかし、それを決める決定権はイロハにはない。

 取りあえず、話をぼかして時間を作る。

 

「こっちとしても、先生に護衛をつけたいんですが、エデン条約間近の時期でしてどうしても人員が足りないんですよ」

「後ろめたく思わなくていい、イロハ。敵も手薄な時期だからこそ、狙っておるのだろう。だが……手薄な状況だからこそ出来ることもある」

 

 空気が変わった。

 ハッキリとそう感じて、イロハは目を見開く。

 

「イロハよ。アリウスは今回暗殺に失敗したら、ワシの暗殺を完全に諦めると思うか?」

「……0とは言えませんけど、低いでしょうね。先生が邪魔だから殺そうとするんですし、生きている限りは狙うと思いますよ」

「その通りだ。では、絶対に暗殺をされない方法は分かるか?」

「絶対に殺されない方法…?」

 

 そんなことが可能なのかと驚くイロハに、扉間は仏頂面で頷く。

 殺されない方法、死なない方法。

 それは至極単純。

 

 

「先に―――死んでおけばいい」

 

 

 穢土転生(死人)扱いになればいいのだ。

 

「先に……死んでおく?」

「アリウス相手に一芝居を打つ。そのためには、正確な襲撃日の把握をしたい。どうすれば良いと思う?」

 

 何をするのかはイロハには分からなかった。

 ただ1つ分かったことは、ここを上手く誘導すれば誤魔化せるかもしれないという事。

 もしかすると、既にマコトとアリウスの繋がりはバレているかもしれないが、黒ではない。

 限りなく黒に近い灰色なら、何とかなる。

 

「……分かりました。先生のスケジュールと風紀委員会のスケジュールを見せてください。()()()()()()()が最も、危険性が高いと思うので」

「なるほど……確かにそうだな」

 

 だからイロハはハッキリと警備が手薄な日と言う。

 そして、扉間もその言葉の裏に気づく。

 

 確定ではない。

 だが、アリウスが知るはずもないゲヘナの警備が薄い日を知れる者など、内部の人間しか居ない。

 

(やはり、万魔殿とアリウスは繋がりがあるか……まあ、この時点ならスパイが紛れ込んでいたと言えば、万魔殿の責任は誤魔化せるか。中々に狸な奴だ)

 

 しかし、それだけなら確定ではない。

 アズサのようなスパイから情報が漏れたと言えば、ダメージを抑えられる。

 そして、マコトならば風紀委員会にスパイが居るかもしれないと言って、監視名目で力を削ぐこともやりかねない。

 

「スケジュールを見比べた所、怪しい日はこの日とこの日ですかね」

「ふむ、確かにワシでもこの日を狙うな」

 

 わざとらしく、複数の日を指定しているがアリウスに教えるのは1日だけだ。

 そうすれば、今日は無理そうだから次に回そうという、不測の事態を防げる。

 

「では、この日に向けて準備に取り掛かるとするか」

 

 こうして、扉間暗殺日に向けての準備が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 深夜0時。

 日付が変わった直後の扉間の寝室。

 今日の仕事を終え、そろそろ眠ろうと()()()()()()を閉めようとする、扉間。

 だが、そこに1人の客人が土足で踏み込んでくる。

 

「千手トビラマだな」

 

 黒いキャップに黒いマスク。

 鍛え抜かれた肢体で闇を歩く姿は、死神そのもの。

 

「お前は誰だ!?」

「……錠前サオリ。冥途の土産だ」

 

 侵入に気づいた扉間はすぐに拳銃を持ち、構えようとする。

 だが、それよりも早くサオリはアサルトライフルを扉間の心臓に向け、引き金を引く。

 

 

「―――受け取れ」

 

 

 黒い闇夜を、鮮やかな赤色が染め上げる。

 

「――グ…あッ……」

「動くな。余計に苦しむだけだ。足掻いたところで、虚しいだけだぞ……今楽にしてやる」

 

 心臓を撃ち抜かれた痛みからか、拳銃を取り落とし逃げるようにふらつく扉間。

 そのまま、少しでもサオリから離れようと開いている窓の方に寄りかかり、そして。

 

「……窓から落ちたか。5階(ごかい)だ、ここは。キヴォトスの外の人間なら即死だな」

 

 窓の外へと落下していく。

 サオリは念のため、窓から身を乗り出して地面に落ちた扉間の姿を見る。

 仰向けに倒れ、虚ろの目を見開く血まみれの姿からは、生気を感じとれない。

 

『リーダー、万魔殿の兵力がそっちに向かってる』

「マコトめ。言っていた通りに私達を捕まえるつもりだな。自分で手引きをしたのに、面の皮が厚い奴だ」

『タ、ターゲットは?』

「心臓を撃ち抜いた上で、5階(ごかい)から落下した。即死だろう。目標は達成だ。すぐに脱出する」

 

 窓から体を引き、すぐに撤退の準備を始める、サオリ。

 心はどこまでも冷静。

 何も変わりはない。

 

 ただ1つ―――引き金を引いた手の震えが止まらないこと以外は。

 

 

 

 

 ―――3月16日、8時00分53秒。

 搬送された病院にて、千手トビラマの死亡が確認された。

 




ミネ団長「死亡確認!」

次回からは補習授業部編を終えて、エデン条約編に章が進みます。
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