千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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32話:作戦会議

 

『アリウスが巡航ミサイルを?』

「そうだ。セイアの予言では、アリウスが古聖堂に巡航ミサイルを撃ち込むことで、ゲヘナとトリニティの一掃を狙っておるそうだ。何かミサイルについて、分かることはあるか?」

 

 縛り付けられたベッドの上で、トリニティに帰った補習授業部のアズサに電話をする、扉間。

 隣のベッドではセイアが手持ち無沙汰なのか、狐耳を扉間に向けて興味深そうに聞いている。

 

『……いや、初耳だ。というよりも、そんなものを準備する力がアリウスにあるとは思えない。それは本当のことなのか?』

「もし、私の言葉が嘘だというのなら、他ならぬ私がクラッカーを打ち鳴らしてパーティーを開いていることだろうね。ティーパーティーならぬ、ホームパーティーだ」

『セイア? その声はセイアなのか?』

「やあ、アズサ。あのとき以来だね」

 

 予言が外れるのなら、むしろ自分が小躍りして喜ぶ。

 そう告げるセイアの声に、アズサが反応する。

 まあ、ワザと失敗したとはいえ、暗殺をしに行った相手だ。

 気まずくなるのも当然だろう。

 

『セイア……私は……』

「後ろめたく思わなくていい、アズサ。私はそもそも自分の生に大した執着がないんだ。むしろ、あのとき君がどのようにしてヘイローを壊すのか楽しみにしていたぐらいだ。そう言えば、あのヘイロー破壊爆弾はまだ取ってあるのかい?」

『使う訳にもいかないだろう。もちろん、取ってある』

 

 だが、セイアは暇潰しが出来るとばかりに厭味ったらしく絡んでいく。

 これで当人には悪意はないというのだから、ミカが苦手にするのも分かるというものだ。

 

「積もる話もあるだろうが、すまんがこっちの質問に答えてくれんか?」

『ごめん、先生。とにかく、私では力になれそうにない。巡航ミサイルはアリウスの軍事力では考えられない。あるとすれば……マダムがどうにかしたとしか思えない』

「マダム?」

 

 夫人(マダム)

 凡そ学生の集まる学校には相応しくない名前に、扉間は首を傾げる。

 

『アリウスの生徒会長のことだ。彼女は私達にそう呼ばせている』

「……仇名か?」

『仇名ではあるが、少なくとも子供ではないことは確かだな。10年前の内乱を収めたのが彼女。そして、今も生徒会長の座についているのだから、どう考えても年齢は子供じゃない』

 

 アリウス分校の生徒会長ベアトリーチェ。

 通称、マダム。

 生徒が営むべき学園のトップに君臨する大人。

 

「アリウスは()()()()()()()()()()()()()()()()? ……怪しいな」

『ああ。アリウスに居た時はそれが普通だったから何も思わなかったが、マダムの存在は明らかにおかしい。そして()()()()()()()()()()()彼女なら、巡航ミサイルなどの軍備を用意することが出来るかもしれない』

(キヴォトスの外…ワシと似た存在か? それとも……ゲマトリアという組織か?)

 

 明確な異物。

 扉間はふと、ゲマトリアである黒服のことを思い出す。

 黒服もまた、この世界においての異物のような存在であった。

 そこに扉間は、ベアトリーチェはゲマトリアの関与があるのではないかと睨む。

 

『私からアリウスの軍事力で話せることはこれぐらいだ。あまり力になれずにすまない』

「いや、アリウスにおいて調べるべき存在が分かっただけ前進だ」

 

 謝るアズサに扉間は電話越しに首を振る。

 

「しかし……そうなってくると、直接アリウスに乗り込んで調べる必要があるな。アリウスとコンタクトが取れるまでは、あまり刺激したくなかったのだが……仕方あるまい」

 

 これは本格的にアズサやミカから、情報を聞き出さなければならないと、重い心で。

 

「アズサ……アリウスへの行き方を教えてくれんか? ワシだけならともかく、ナギサやミカも巻き込まれるのなら、致し方ない。ワシが動く」

「と、言っても、先生も私も身動きの取れないまな板の上の鯉のようなものだ。動けないね」

「茶化すな、セイア。ワシは今、真面目な話をしておるのだ」

 

 そんな扉間の内心を知ってか、知らずかセイアは軽口を叩く。

 自分だって、いつ殺されてもおかしくないというのに。

 未来を変えられないという諦観の念が、彼女を生に無頓着にしてしまったのだ。

 

『……ごめん、先生。私はアリウスへの帰り道を知らない』

「……何?」

 

 アリウスへの帰り道が分からない。

 そう告げる、アズサに扉間はどういうことだと首を傾げる。

 

『正確には、私の知っている帰り道は変わってしまったと言うべきか』

「なるほど……道理で、トリニティからアリウスを見つけられないわけだ」

「何の話だ。何なんだ……」

 

 良く分からないことを告げるアズサに、1人納得をするセイア。

 扉間は2人が何を言っているのか分からずに、困惑した表情を見せる。

 

『まず、アリウスへの道。それは地下に存在するカタコンベを通っていく道だ』

「カタコンベ? 集合墓地か」

「または、迫害を受けた者の最後の信仰の地でもあるね。まあ、今はシスターフッドでも把握は出来ていないはずだよ」

 

 カタコンベとはトリニティの地下に広がる、墓地のような空間である。

 シスターフッドの前身であるユスティナ聖徒会が、管理していたが今はもう過去の話。

 

「そのカタコンベを通れば良いだけではないのか?」

『いや、カタコンベはただの墓地じゃない。一定周期で入り口と道が変わる迷宮だ』

「入り口と道が変わる迷宮? そのような技術があるのか」

 

 良いな、それ。

 術として開発して里の入り口にでも仕掛けておけばよかった。

 思わず、そう思ってしまう扉間だったが、真面目な話の途中なので口には出さない。

 

『カタコンベの入り口は分かっているだけで、300以上。そして、その中の「本当の入り口」は限られている。そして、入り口を間違えればカタコンベで彷徨い続けることになるだろう。正しい入り口から入っても、内部ルートも変わるからその組み合わせは無限とも言える程だ。以前の道が行き止まりになっていたり、方向を見失ったりといった具合にな』

 

 カタコンベの製作者。お主、ワシ以上の結界術使いよの。

 思わず、扉間は心の中でカタコンベの製作者を称えてしまう。

 それ程に、カタコンベの防衛機能は高かった。

 

『私達はいつも、正しい入り口とルートを暗号で教えてもらうことで、そこを通って来れた。つまり、今の暗号を知らない私では、帰り方が分からないんだ』

「なるほど、暗号か。ミカがアリウスと接触できたのは、きっとその暗号をどこからか見つけ出して、解読したからだね。全く……私はともかく、ナギサには一言ぐらい言えばいいものを」

 

 暗号で正しいルートを教える。

 つまり、アリウスと連絡の取れていないアズサでは、道を知りようがないのだ。

 

『………先生。やっぱり、私がアリウススクワッドに戻るフリをして、情報を得るしか』

「むぅ……」

 

 アズサの問いかけに、扉間は悔しそうに目を瞑る。

 同胞を裏切る感覚は、とても口で言えるものではない。

 だから、アズサにはそれはさせたくないと、他の子達とも決めていた。

 だが。

 

(やはり、アズサに頼るしか道は無いか…?)

 

 扉間の理性は、それが最も合理的だと判断していた。

 期限は後6日。ミサイルを撃ち込まれて死ぬという未来を回避するために、動かねばならない。

 おまけに、ナギサとミカ。いや、他の生徒も死ぬ可能性がある。

 綺麗ごとを言っている場合ではない。

 

「いや……まだ、時間はある。他の道を模索するべきだ」

 

 だとしても。扉間は昔のように、必要な犠牲と割り切ることはしなかった。

 

「大丈夫なのかい? 未来は確定している。前の死亡偽装のように、何かをするつもりなら早めに動くべきだろう。それとも諦めるかい? 私と違い(みらい)を持たない君なら、諦めても誰も文句は言わないさ」

 

 そんな扉間に、セイアはどこか試す様に聞いてくる。

 まるで、お前も早く諦めろとでも言うように。

 だが。

 

 

「バカ者。生徒の前を歩く火影(せんせい)が諦めたら、一体何をお前達に教えられるというのだ」

 

 

 扉間は諦めない選択をする。

 

「諦めない……それこそがワシの取るべき、本当の“選択”だ!」

 

 皆の前を歩くその背中で、険しい道の歩き方を教える。

 それが先生の生き様だ。

 

「暗号という手掛かりはあるのだ。通信を傍受でもするか、直接アリウスの生徒を見つけ出して聞き出す道もある。最悪、ドローンでカタコンベを総当たりするという力業もある。他にも、ワシ以外の者から知恵を寄せ集めれば何か策が思い浮かぶやもしれん」

『先生……そうだな。例え、全てが虚しいのだとしても、それが私達が諦める理由にはならない。私もミカと一緒にアリウスの手掛かりを探ってみよう。ミカなら私も知らない連絡方法を知っているかもしれない』

 

 裏切りをさせなくても、普通に暗号を盗むのはセーフだ。

 辿り着く過程が少し大変になるが、結果を思えば大したことではない。

 それに扉間には今まで築いてきた(コネ)がある。

 

「リオを頼る。リオのハッキング技術とミレニアムのドローンがあれば、カタコンベを攻略できるかもしれん」

「リオ? ミレニアムの生徒会長だね。ああ、そう言えば君とは親交があったね。でも、良いのかい? 君の生存はシャーレの部員だけに教えている極秘事項。そこから情報が漏れる可能性だって、十分に考えられる。いや、それ以前に手を貸してくれるかどうかも、未知数だ」

 

 セイアは、なおも諦めようとしない扉間を堕落させるべく、疑心暗鬼の言葉を差し込む。

 それは子供がどこまで悪さをしても、許してくれるか図るための試し行為。

 

「その時はその時で何とかする。それに言ったはずだ。ワシは信じるとな」

 

 セイアを信じると言った。

 リオを信じると言った。

 何より、扉間は希望の未来を信じている。

 

「だから―――ワシが諦めるのを、諦めろ」

 

 もう、試し行為はやめろ。

 ワシはお前を諦めることはしないから。

 そう言って、扉間は笑う。

 

「……なるほど。泥を被り、汚い手段に手を染めても、君の中の輝きは決して消え失せない。まるで、胸の内に尽きることのない火が燃えているように。道理で多くの生徒が君を信じるわけだ」

「それが火の意志だ」

 

 降参だと言わんばかりに、手を上げてポーズを取るセイア。

 扉間は表には出さないが、その内面はある意味誰よりも燃えている。

 

 “荒ぶる闘志! 初代の遺志を継ぐ烈火の男!”

 などと、木ノ葉の闘の書(れきししょ)にも刻まれている。

 

「アズサ。リオと連絡を取る故、すまんが電話を切るぞ」

『ああ、また何かあれば連絡してくれ。みんなも先生のことは心配している』

 

 アズサとの電話を切り、今度はリオへと電話をかける扉間。

 着信コールが1つ鳴――

 

 

『今()()()()()のかしら?』

 

 

「………速いな」

 

 コールが鳴り終わる前に通話に出るリオに、扉間はちょっとビビる。

 忍界最速の男でも、この速さは少し予想外だった。

 

「しかし、その言い方だとワシが生きておるのは、知っておったか……ケイだな?」

『ええ。事情を知っていそうな、ケイに教えてもらったわ。でも……声が聞けて良かったわ。生きていると分かっていても、実際に確認できるまでは不安だったもの』

「すまんな。情報を出来るだけ抑えたかったのだ」

『分かっているわ。でも、こうして連絡をくれたということは……私を信用してくれたという事ね』

「ああ、お前に頼みたいことがあってな」

『もちろんよ。兄のお願いだもの』

 

 あれ? こんなに重かったか?

 思わず、リオに対してそう思ってしまう扉間だが、生死不明の家族が生きていたと分かれば、こんな感じにもなるかと納得する。

 

 というか、兄に甘いのは実は扉間もである。

 この男、柱間の要望を全て通しはしないが、全否定することもまずない。

 家族に甘いのは兄妹共通である。

 

 え、家族じゃない? でも、三代目も里の者は皆家族って言ってるし……。

 

「………兄? 何というか……君達は随分と倒錯した行為をしているのだね」

『他に誰か居るのかしら? いえ……この声。トリニティ。そして、今回死亡を偽装した作戦………百合園セイアで合ってるかしら? あなたも、死亡を偽装していたのね』

「……驚いたよ。確かにトップ同士で一切の関わりがないとは言わないが、今の声だけでそこまでたどり着くとは。ミレニアムのビッグシスターは、やはり天才だね」

『買い被り過ぎよ。天才の名前はヒマリの方が良く似合っているわ。私はただ妹として、先生を心配しているだけよ』

「うん。聡明さと天然さを同時に見せつけないでくれるかい? 対応に困る」

 

 一瞬で隠された事実に到達した頭脳と、自身を扉間の妹宣言するリオにセイアは冷や汗を流す。

 待ってくれたまえ。情報の洪水をワッと一気に浴びせかけるのは。

 

「先生も先生だ。年若い生徒に兄扱いさせるとは……そういった趣味でもあるのかい?」

「……ワシはただ、先生は兄のような存在であるが故に、生徒を妹のように思っていると言っただけでな。先生と呼ぶように、念を押していたはずだが……」

『今はもう盗聴やハッキングの可能性がないのは確認したけれど、先生が生きている情報はトップシークレット。兄と呼んでおけば、会話を誰かに聞かれても問題がないわ』

 

 くそ、こいつ弁が立つな。

 兄と呼ぶことの合理性を説明されて、セイアと扉間は何も言えなくなる。

 理想と現実を上手くミックスさせた策には、大した奴だと評価するしかない。

 

「ふむ……では、私もリオに倣って兄上と呼んでみるとしようか」

 

 が、それも束の間。

 扉間をからかうネタが手に入ったので、セイアはすぐに実践してみる。

 病弱なだけで、元々の気質はわんぱくなのだ、この子は。

 

「妹のように大切ということであって、兄と呼ばれたいわけではないわ!」

「おや、兄上は気に入らなかったかい? では、兄者ではどうかな?」

 

 

 ―――扉間兄者!

 

 

「っ!」

 

 本当に珍しく、扉間の表情に動揺が走る。

 思い出したのだ。半世紀近くも前に、兄者と呼ばれていた事実を。

 自分も、弟2人の兄者だったことを。

 声も思い出せなくなっていた弟達のことを。

 

「……すまないね。どうやら、あまり触れられたくない部分に触れてしまったようだ」

「いや……少し気合を入れ直しただけだ」

 

 そんな扉間の変化に気づいたセイアが、詫びを入れて来る。

 だが、扉間は手を上げてそんな謝罪を制止する。

 

 

「ワシの生徒(いもうと)達は殺させないとな」

 

 

 柱間の原点。

 オレの弟は死なせない。

 その心を、今になって理解できたから。

 

『…? つまり、先生は兄者と呼べばいいのかしら』

「いい加減にしろ! いい加減に!」

 

 電話なので扉間の表情が見れないリオが、天然を発揮したことで空気が変わる。

 重い空気を変えるのに、天然は最強。

 

「とにかく、今回お前に連絡をしたのは、アリウス分校への道を知りたいからだ」

『アリウス分校……このタイミングでそれを知りたいということは、暗殺犯はアリウスの人間。そして、エデン条約の妨害をしているのもアリウス分校なのね』

「ああ。そして、条約締結日に古聖堂に巡航ミサイルを撃ち込むらしい」

『巡航ミサイルを…?』

 

 アリウスの計画に、そこまでするかと息を呑む、リオ。

 

『つまり、アリウスの目的は条約の妨害ではなく、ゲヘナとトリニティの一掃……両校に恨みがあるアリウスなら、動機としては十分ね。事前にアリウスを潰しに動くのは、当然の行為だと思うわ』

「ただ、1つ問題があってね。この情報は私の予知夢で得た情報なんだ。つまり、確定している」

『……未来予知、噂は本当だったのね。未来が変えられないのは、少し不便だけど株価の予測でもすれば相当な資産を作れるわね』

「いや、流石の私もインサイダー取引も真っ青な行為はやらないよ」

 

 そして、未来を変えられないという事実に溜息を吐く。

 使い勝手が良いようで、本当に大切なことは変えられない。

 セイアが夢を見るのに疲れるのも分かるというものだ。

 

『そして、アリウス分校への道……先生がワザワザ聞いてくるということは、通常の方法では行けないのね』

「ああ、その説明をするために、アリウスへの道であるカタコンベを理解する必要がある。少し長くなるぞ」

 

 そして、扉間はリオにも説明する。

 カタコンベの入り口は分かっているだけで、300以上。

 そして、その中の「本当の入り口」は限られており、一定周期で変わる。

 入り口を間違えればカタコンベで彷徨い続けて死ぬ。

 運よく正しい入り口から入っても、以前と内部ルートも変わっている。

 アリウス生徒ですら、正しい入り口とルートを暗号で教えてもらわなければ分からない。

 後、予言のせいでミサイルを撃ち込まれるのは確定しているので、事前に破壊も出来ない。

 出来ても、中身を弄って爆破の威力を少なくするぐらいだろう。

 

 ケイが聞いていたら、きっと『クソゲーですね』と言うはずだ。

 

『………対策として考えられるのは、アリウスの生徒から直接聞く。暗号を盗んで解読する。もしくは、ドローンなどに先行させて正しい道を見つける…ね』

「やはり、取れる手段は限られているか……」

『先生はきっと、私にドローンや暗号の傍受をお願いしたいのね?』

「ああ…可能か?」

 

 リオとしても扉間と同じ結論に至ったらしく、難しそうに眉を顰める。

 カタコンベはアリウスの生命線。

 暗号も傍受の可能性を考えて、アナログだけのやり取りの可能性もある。

 

 仮に傍受が可能だとしても、エデン条約までに傍受できると決まっているわけではない。

 そうなると、力業のドローンでの探索だが大量にドローンを入れれば、アリウス側が気付かないわけがない。

 普通に妨害されてしまう。

 

『不可能とは言わないわ。ただ、余りにも不確定要素が多すぎるし、期限付きとなると厳しい戦いになると言わざるを得ないわ。……ミレニアムから、トリニティとゲヘナにエデン条約の立会人になる申し出をしようと考えているのだけど、そちらでどうにかする方が現実的ね』

「ミレニアムが? それは驚いた。私はてっきり君はそういう事に興味が無いと思っていたよ」

『私は平和主義者よ。キヴォトスの平和を考えれば、エデン条約は非常に合理的な案。否定する理由がないわ』

 

 しかし、道は1つではない。

 扉間では出来なかった、ミレニアムのエデン条約そのものへの介入。

 リオの協力でそれが可能になる。

 

『ミサイル対策にしても、警備の人間をドローンやオートマタに変えておけば、被害を減らせるわ。万魔殿やティーパーティーは流石に置き換えられないけど……』

「なるほど……それは名案だ。費用に関してはトリニティで負担しよう。何、ナギサも私の予言対策と言えば、素直に頷くさ。それでも足りないなら、未来知識を君に教えようじゃないか。君なら、インサイダー取引も真っ青な効果を出せるだろう」

 

 警備をミレニアムの機械兵器に変えることで、人的被害を抑える。

 そして、そのパトロンを金持ちのトリニティが務める。

 ついでに、足りなければ未来知識で利益を生み出す。

 

『トリニティは良いとして。動きが読めないのは、ゲヘナの万魔殿の方ね。ゲヘナがこちらの提案に反発すれば、ミレニアムもそれ以上は動けないわ』

「ゲヘナはワシが抑える。マコトの()()は握っている。それと、嘘でもいいから、お前も直接参加すると言ってみろ。三大校の覇権を握るチャンスと思って、ミレニアムの申し出を断らんはずだ」

 

 ゲヘナはイロハとの繋がりと、Bluetooth銃で録音したサオリの呟きでマコトを抑えられる。

 後、黙っていてもキヴォトス征服の夢を抱く、野心家のマコトならリオを排除するチャンスは逃さない。

 危なければ、当日はドタキャンすればいい。別に予言にリオは含まれていないのだから。

 

「リオのおかげで、護衛の子供達の人的被害は最小限に抑えられそうだな」

「後は、先生達本人の死を回避する方法だ」

『予言が変えられないというのなら、ミサイルの威力を下げるのが妥当ね。セイア、あなたの予知夢ではどこまで見たのかしら?』

「崩れた古聖堂の下敷きだよ。ミカとナギサは血だらけだが、ちゃんと原形を留めていたが、先生は……」

 

 チラリと扉間の方を見て、セイアは思案する。

 さて、どのように伝えたものかと。

 

 

「ザクロとトマト。先生はどちらの方がお好みかな?」

 

 

 原形を留めずに、余りにもグロテスクな死体の有様を。

 

「ワシは果実ではない。人間だ」

「直接的な表現を避けただけだよ。私はまだ18歳じゃないんだ、少しは配慮して欲しいものだね」

「そうか……まあ、どっちでもいい。希望があるとすれば、肉片すら残さずに消える方がいいがな」

 

 また穢土転生されても困るし。

 そう内心で呟きながら、扉間は興味なさそうに答える。

 正直、兄者の木遁・挿し木の術とかの方が余程グロイ。

 兄者の術はキモイのだ。強すぎて。

 

『縁起でもないことを言わないでちょうだい、先生』

「すまんな……しかし、原形を留めぬ死体か」

 

 扉間は考える。

 ダミーの死体でも用意できれば、死体の偽装は難しくない。

 だから自分のことは良い。

 

 問題は、ミカとナギサの方だ。

 死亡確定かどうかはともかく、大怪我を負うのは事実。

 見過ごしていいはずなどない。

 

 万魔殿やリオもそうだ。

 巻き込まれている可能性は十分にある。

 

 そして何より。

 

「……ワシらを殺したら、アリウスはどうなると思う?」

 

 アリウスが完全な悪になる。

 排除すべき対象になってしまう。

 和解したいというミカの願いが踏みにじられ。

 アズサが故郷に帰る機会を失う。

 

『……ゲヘナとトリニティ。そしてミレニアムにまで喧嘩を売るのよ。何かしら策があるとは思うけど……タダでは済まないわ。世界を滅ぼす力でも持っていない限りは』

「仮にアリウスが三大校全てに勝利したとしよう。それで、その後の三大校全てを含めた広大な領地はどうなると思う? アリウスが管理出来ると思うかい? 何のノウハウも無しに、無秩序にゲリラ戦が起きる領地を。先生なら良く知っているだろう。戦争において重要なのは、勝った後のことだとね」

 

 一度犠牲が出てしまえば、憎しみの連鎖は止まらなくなる。

 復讐、復讐、愚かな復讐。そういう子供達は末路を知らぬ。

 アリウスと他の学校。どちらか、もしくは両方が滅ぶまで、無益な争いが続く。

 

(アリウスとも手を取り合える理想……何か道はないものか)

 

 最上の結末は未来を変えた上での、誰も傷つかないハッピーエンド。

 

 スッと、扉間は懐に手を入れる。

 そこにあるのは財布。

 そして、目当てのものはその中に入っている()()()

 

「……何はともあれ、アリウスに行くしかあるまい。あちらのベアトリーチェという生徒会長のことも気になる。カタコンベを突破する方法を考えねばな」

 

 財布から手を離し、扉間は改めて考える。

 大人である生徒会長は怪しいが、話し合いが出来ないと決まったわけではない。

 扉間視点でのベアトリーチェの確定情報は、まだ内乱を治めた人物でしかない。

 

 つまり、ゲマトリア疑惑がかかっているが、卒業して生徒会長を辞めると、内乱が再び勃発するので仕方なく留年しているという、お労しい生徒の可能性も残っているのだ。

 

『先生……最初に私が電話に出た時、先生がどこに居るか尋ねたわよね?』

「ん? ああ、それがどうした」

 

 何か提案があるのか、リオには珍しく悩むような声を出しながら問いかける。

 

『実は先生に連絡を受けるまでに、私の方で個人的に先生の行方を追っていたの』

「そうか、間に合ったな」

 

 扉間的にはリオに見つかる前に電話をしたので、間に合った。

 リオとしては、捜索を出す前に電話が来なかったので、間に合わなかった。

 そんなすれ違いが発生しているが、2人は気づかない。

 

『依頼はC&Cに出したわ。向かったのは2名。1人はあなたも良く知る、ネル』

「ネルか。破壊工作や戦闘がメインかと思っていたが、人探しも出来るのだな」

『仕事が少し荒っぽいだけで、何でもこなせるわよ、ネルは。と、今はネルのことはいいわ。もう1人の方が重要よ。彼女なら……カタコンベを突破できるかもしれないわ』

「なに!? それは本当か?」

 

 カタコンベを突破できる。

 どう頑張っても、難しいと思っていたカタコンベの攻略が出来ると言われて、目を丸くする扉間。

 

『ええ……ただし…その…非科学的というか、理論的でないと言うべきか……いえ、彼女単体で見れば合理的なのだけれど』

「……どういうことだ?」

 

 やけに歯切れの悪いリオに、扉間は首を傾げる。

 効果は実証できるが、認めたくない。

 リオはそんな複雑な表情をしているのだろう。

 

『簡単に言うと、そうね……先生は――』

 

 リオが端的に事実を告げようとする。

 その瞬間、病室の扉が開く。

 

「あはは、見ーつけた! ここら辺に居るかなって思ったんだ!」

「誰だい、君は…ッ!」

「あれ? よく見たら()()()()が居ない。途中まで一緒に居たのに」

 

 ここは、セイアと扉間を匿うための病棟。

 知らない人間をミネが通すわけもない。排除もしくは足止めをするはずだ。

 だというのに、見知らぬ顔の登場にセイアは警戒した様子を見せる。

 

「そう言えば……なんで2人ともベッドに縛られてるの? そういう趣味?」 

「メイド服……リオ、こやつが件の人物か?」

『ええ、そうよ。もう一度聞くわ、先生。あなたは――』

 

 メイド服はC&Cの証。

 セイアに安心しろと指示を出しながら、扉間は目の前の足まで届く長髪のメイドを見る。

 

 

「あなたが先生? 私はアスナだよ、よろしくね? ご主人様!」

『―――勘に命を預けられるかしら?』

 

 

 コールサイン01。一ノ瀬アスナを。




カタコンベ。アスナならノーヒントで突破できる説。あると思います。
因みに明日3/24はアスナの誕生日。
次回、アリウス潜入ミッション。

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