「いやぁ、助かったぜ、先生。あのままだと、ずっと誤解で戦うことになってたぜ。戦うのは嫌いじゃねえけど、誤解でやり合うってのも嫌だしな」
「この隠れ家にアポなしで、侵入してくる人間が味方だとは普通は思いません」
「……今回はミネの意見が正しいぞ、ネル」
アスナとの出会い。
そして、一緒に潜入して来ていたネルと、彼女を発見したミネの戦闘。
それを何とか止めた扉間は疲れたように肩を落とす。
「まあ、怪しいのは認めるけどよ。会話しようとして来た人間を、いきなり撃つのはやりすぎじゃねぇか?」
「患者を脅かす病原菌を排除するのも救護の一環です」
「病原菌ってなぁ……」
流石に、病原菌扱いされるとは思っていなかったのか、ネルが若干呆れた表情を見せる。
まあ、病人を脅かす存在として考えれば、間違ってはいない。
「あはは! リーダー、急に居なくなったと思ったら、そんなことになってたんだ」
「あたしが居なくなったんじゃねぇよ! お前が急に消えたんだよ、アスナ!」
「こっちの方に進んだ方がいいなって思っただけだよ。でも、ミネ団長と戦えるなら残ってても良かったかも」
因みに、アスナがミネのガードをすり抜けたのは持ち前の勘からである。
あ、不味いなと思って予定ルートを変更した結果、ネルを置いて行ってしまったのだ。
そして、ネルだけは待ち構えていたミネと鉢合わせして、ドンパチやるはめになったのである。
「それから、ご主人様も2人の戦いの止め方が面白かったよ。2人の前に立って『お前らが戦っている間に、治療を放棄してシャーレに、ワシは帰る』とか、何で成功したのか分かんないもん」
「ミネに説得は通用せんからな。確保すべき救護対象としてしか止める道はない」
「先生は私のことを何だと思っているんですか…!」
ミレニアム最強のネルと、トリニティでも有数の武闘派であるミネ。
なんで医者がそんな武闘派に?
というのは、一先ず置いておいてこのままだと怪獣大決戦が始まりそうだったので、強制的にミネを止めたのである。
「先生の今の有様が全てを物語っているね」
「動けぬ……」
「要安静の患者が無理に動いたのです! 強度の高い救護を行うのは当然です」
セイアが以前にも増して、ベッドにグルグル巻きにされた扉間を見て薄く笑う。
縄抜けは忍者の必修科目。
ミネの優しさと覚悟を汲み取り…もとい、いざという時にこっそり動くために。
扉間は動けないフリをしていたのだったが、流石に状況が不味かったので抜け出て来たのだ。
まあ、今は本気でやっても動けなくなっているが。
「ミネ。ワシは後どれ程の間、こうしていればよい? 6日以上かかるというのなら、ワシは本気でお前に怒られる覚悟を決めんといかん」
「無理やり動く宣言をされて、私が見逃すと思いますか? ……まあ、後3日程安静にしていただければ、運動の許可は出せるかと」
「なるほど……分かった。それまで、大人しくアリウス潜入の準備でもしておこう」
本当なら今すぐにでも動きたかったが、ドクターストップ(物理)がかかっている以上は仕方ない。
(アスナの能力が本物ならば、カタコンベを抜けられる。だが、そうでなかった場合は……カタコンベで彷徨うことになるな。しかし、ワシが
カタコンベで迷ったとき用に、携帯食でも準備しておこうと考える扉間。
それに、アスナとネルとの連携も考えなければならない。
やることは多いが、表の仕事の方はリオに任せておけば上手くやってくれるだろう。
「ミネ団長。因みにだが私はいつになったら、動けるようになるかな?」
「セイア様は元々体が弱いのですから、私とここでお留守番です」
「……そうかい。君がそう言うのなら、確かな事実なんだろうね。私も潜入ミッションに挑んでみたかったのだが」
もっと、頭とかに段ボールを被るとかしてね。
ミネから潜入ミッションが却下されて、しょんぼりとするセイア。
しょんぼりフォックスですまない。
「別に現場に行くだけが仕事じゃねぇだろ? ウズウズするのは分かるけどよ。あんたはあんたに出来ることをやればいい」
「ネル……と言ったかい? 確かに君の言う通りだ。だが、人の憧れというものは止められるものではないのだよ。地を這う獣が空を飛ぶ鳥を羨むように。檻の中の住人が、外の世界を見るのを止めることが出来ないように。まあ、君達が勇猛果敢に戦っている間に、ベッドの上で穏やかに眠ることしか許されない私の言葉など、聞き流してくれて構わないが。いっそ、
ネルからのごもっともな言葉にも、セイアは唇を尖らせて長ったらしい文句を垂れ流す。
ここにミカが居れば、またセイアちゃんが変なこと言ってると思っただろう。
「んー……よく分かんないけど、それってみんなと一緒に動けなくて寂しいってこと?」
「…………」
しかし、アスナの勘の前にはそんな虚飾など意味をなさない。
要約すると、『自分だけお留守番は嫌だ。一緒に行けないならふて寝する』という、子供らしい理由を見透かされて思わず黙り込んでしまう。
どうやら、図星だったらしい。
「あー……悪いな。任務は一緒に行けねぇけど、今度一緒にどっかに行くか?」
「遊びに行くのなら、ワシが引率してやろう。シャーレで動いていることにすれば、学園の違いも関係なくなる」
「そうだよね、1人でお留守番はつまんないよね。よし、決めた! お土産を持って帰るから楽しみにしててね!」
「……病は気からとも言います。そして、それは科学的に実証されています。息抜きも立派な救護活動です」
「やめてくれ、その生暖かい目は私に効く。やめてくれ」
良く分からない預言者から、お留守番でむくれる子供にクラスチェンジしたセイアに、温かい目線が集まる。
経験したことのない、羞恥心に思わず頬を赤らめるセイアだったが、悲しいかな。
彼女もベッドに縛り付けられているので、穴に入ることすら出来ない。
「コホン……さて、話を戻すとするか。アリウスへの潜入。それを引き受けてくれるか? アスナ」
そんな可愛い生き物を愛でるのも悪くないが、話が進まないので扉間が1つ咳払いをする。
リオお墨付きのアスナの勘。
それは、隠れ潜んでいた扉間を見つけ出し、ミネとの遭遇も避けた。
非科学的で非合理的だが、結果というデータはその存在を確かに証明している。
彼女の力があれば、カタコンベを抜けることが可能かもしれない。
「迷路なんだってね? うん。いいよ、面白そうだから!」
「……即決だな」
「会長からのミッションは、ご主人様を見つけて終わったし、その会長が私を推薦したんでしょ? じゃあ、問題なし!」
「その割には、リオは渋っているようだったが……」
「会長は、
まるで、散歩と聞いたゴールデンレトリバーのように屈託なく笑う、アスナ。
そんな姿に、本当に大丈夫なのかと一抹の不安を覚えて、扉間はネルに目線を送る。
「ん? ああ、アスナは基本こんな感じだぞ。まあ、心配すんなって。遊んでるように見えても、仕事はキッチリこなす奴だよ。意識してやってるかは知らねぇけど」
「んー……本当に遊んでいるだけでも、なんか仕事が終わっていることがあるんだよね」
なんとなくカフェに行ったら、ターゲットを見つけたり。
ブラブラと散歩をしていたら、不良達が勝手に見張られていると感じて逃げたり。
そんな感じで、アスナは持ち前の幸運に助けられている。
「それに、こいつが
そして、持ち前の勘も幸運も使えない時は周囲がどうにかする。
3年間、共に戦い続けて来たネルからのアスナへの信頼は高い。
それは能力の高さからではなく、2人の絆からだ。
人徳というものである。
「……そうか。こちらとしても、力を貸してもらえるなら感謝しかない。礼を言う」
「あはは! いいよ、別に。ご主人様にご奉仕するのが私の役目だから」
「……所で、何故ワシのことを主人と呼ぶのだ? お前の主はリオ、ひいてはミレニアムではないのか?」
そして、もう一つ気になる点に扉間はツッコミを入れる。
ご主人様呼びを自分にするのはおかしくはないかと。
因みに、メイドがご主人様と呼ぶこと自体はおかしいとは思っていない。
これでも、生前は千手一族の当主の次男。
そして、木ノ葉の火影だ。
使用人ぐらいは普通に居る身分だったので、メイドにご主人様呼ばわりされるのを変なプレイだとは認識していない。
「えー、だってご主人様はご主人様でしょ?」
「生徒は先生の召使ではない。先生と呼べばいい」
「ん……メイド服じゃない時は先生って呼ぶよ。でも、メイド服の時はご主人様でいいじゃん」
「……そうか。まあ、別に問題があるわけでもない。無意味にワシを担ぎ上げているわけでも無さそうだしの」
職業病のようなものか?
何となく、そんなことを思いながら扉間は結論付ける。
火影様、扉間様、二代目様。
基本的に様付で呼ばれることの方が多かったので、特に違和感はない。
「じゃあ、これからもご主人様って呼ぶね!」
「ああ、構わん」
故に扉間は、女子高生にメイド服を着せて、ご主人様呼びさせるという行為が一般人目線でどう映るか気づかない。
この場に居る他の人間も、気づかない。
ネルはご主人様呼びなど死んでもしないが、C&Cなのでそう言う呼び方に疑問は持たない。
セイアもリアルメイドが仕える立場の人間なので、不思議にも思わない。
そして、ミネも救護騎士団の団長であり、ティーパーティーにも参加できる身分なので気づかない。
これが扉間はメイドプレイが好き、という噂が生まれる原因になることをまだ誰も知らない。
「それで、迷路を抜けたら何をすればいいの?」
「カタコンベを抜けた先に、アリウス分校が存在するはずだ。そして、エデン条約の会談の場に撃ち込まれる予定の巡航ミサイルもな」
「それを破壊すればいいの?」
「いや、細工をして威力を弱めるつもりだ。出来る限り、ワシらが侵入したことを悟られたくはない」
そんなセイアでもあずかり知れぬ未来の事など、分かるはずもなく話はアリウス潜入作戦に移る。
目標は巡航ミサイルへの細工。
セイアの見た未来が変えられない以上、ミサイルの射出そのものは止められない。
ならば、死人が出ない威力まで下げてしまおうというのが、この作戦だ。
「潜入かぁ……コソコソすんのは性に合わねぇんだよな」
「ネル。お前も参加してくれるのか?」
「あぁ? ここまで来て、あたしだけ帰るわけにもいかねぇだろ。大体、そのアリウスって所は戦力が分かってないんだろ? あたし1人ならともかく、先生を連れて行くんなら今以上に戦力は必要だろ」
敵の戦力が分からない以上は、こちらも戦力が多いにこしたことはない。
何より、扉間が行くのなら護衛戦力で1人は割かれるので、ネルとアスナでは戦えるのが実質1人になる。
普段とは違い、潜入になるので扉間だけ隠れていることは出来ないが故に、護衛は必須である。
アロナガード? 無敵モードはマリオのスターのように時間制限付きなのが
「確かに……ミレニアム最強のコールサイン
だが、か弱い老人の扉間も行く以上は護衛戦力も必要になると、セイアが告げる。
本来なら、大規模な遠征部隊でも作りたいのだが、軍団で突入して見つかっても本末転倒だ。
あくまでも、少数精鋭で挑む必要がある。
理想は、扉間を入れて5人程度。
「私もセイア様の意見に賛成です。本当なら、病気の根元から治療するために、私が行きたい所なのですが……セイア様を置いていくわけにもいきません」
「つってもなぁ……カリンとかアカネはあたし達とは別の任務中だ。これ以上、引っ張って来れねぇ」
「トリニティは……今この時期に動かせる戦力はないね。ゲヘナも同じだろう」
会談を間近に控えた両学園は、僅かな問題でもすぐに対処する必要があるため、戦力が動かせない。
補習授業部も、正式にゲヘナへの使節団と化してしまったため、安易に動かせなくなっている。
割と、扉間の自業自得である。
「……戦力の方は、シャーレの方から出すとしよう。何、あてはある」
なので、シャーレの方から戦力を引っ張ってくることにする。
「信用出来るのかい? その子は」
「実力的には申し分ない。敵地への潜入の経験もあり、厳しい環境にも耐え抜ける根性がある」
「へー、そんな奴が居んのか。会うのが楽しみだな」
セイアの問いかけに、信用出来ると太鼓判を押して扉間は電話をかける。
電話の相手は、扉間がその才能を高く評価した相手。
すなわち。
『ん、出番?』
「えーと……右かな? あ、やっぱり左!」
エデン条約締結まで後3日に迫った日のカタコンベ内部。
薄暗く、夏でも鳥肌が立つような冷たい空気。
そして、共同墓地の名に相応しい人か動物かも分からぬ白骨。
「あ、ちょっと止まって、みんな。なんか、そっちは行き止まりのような気がする」
日頃利用するアリウスの生徒ですら、一度迷えば死ぬまで出られない場所。
そんな場所を、扉間達はアスナの先導ですいすいと進んで行く。
アスナにかかればカタコンベも
「んー……やっぱり、ここに道が隠れてた! 面白いね、この迷路!」
リアル脱出ゲームって面白いと屈託のない顔で笑う、アスナ。
これには、さしものカタコンベ製作者も苦笑いするしかない。
「地図のない所で、このレベルの道案内が出来るなんて、信じられないねー」
「己の目で見るのは初めてだが、勘が鋭いという言葉では言い表せんな」
シロコと共にアリウス潜入部隊に来たホシノと扉間が、アスナに驚嘆の声を上げる。
「……足跡が残ってる。砂の感じからして、まだ新しい」
「へー、足跡の鮮度が分かるなんて、やるじゃねぇか」
「アビドスは砂に覆われてる。指名手配犯を追う時に、足跡は貴重な手がかり。アビドスチャンネルで、見分け方は詳しく説明してる。暇なら、見て。後、チャンネル登録して」
「お、おう」
足跡からここが、最近使われた道であることを見抜くシロコ。
それに対して、大した奴だと褒めるネルだったが、ついでとばかりにアビドスチャンネルを勧められて僅かに戸惑う。
「……よし、ちょっと休憩! みんなー、ここら辺で休憩しよ?」
「このタイミングでか…?」
「先生。アスナが言ってるってことは、少し立ち止まった方がいいんだろ。相手もここを使ってる以上は、鉢合わせするかもしれねぇしな」
「なるほどな……もはや未来視に近い直感だな」
アスナの唐突な休憩宣言に面を食らう扉間だったが、ネルの補足に納得を見せる。
このまま止まらずに進むと、アリウスに見つかるのかもしれない。
「あはは! おやつおやつ! ずっと楽しみにしてたんだよね!」
「食料と水は
まあ、ただ単に休憩したくなったという線も捨てがたいが。
「しっかしまぁ……3日分の食料まで持ってくる必要があったのかよ?」
ホシノが担いでいる巨大なリュックサックから、おやつを貰うアスナを見ながらネルが呟く。
だが。
「ん、それアビドスでも同じこと言える?」
「そうだよー。アビドスでは、街の中で遭難することもあるぐらいなんだから、備えは大切だよねぇ……特に水だけは忘れないようにしないと」
アビドス勢からは甘いとダメ出しを食らう。
遭難という言葉に、強いトラウマを抱く、ホシノ。
そんなホシノに教育を受けた、シロコ。
忘れものは、ダメ、絶対である。
「わ、悪ぃ……」
「あはは、リーダー怒られてる。ほら、これ食べて元気出して?」
「べ、別にへこんでるわけじゃねーし!」
ホシノからのガチトーンの言葉に、思わず申し訳なく思うネルだったが、アスナからの弄りですぐに復活する。
「それと、ホシノちゃん荷物重くない? 私が代わろうか?」
「ありがとー。でも、おじさんは先生の護衛であんまり動かないからねぇ。戦闘で楽させて貰う分は、こういう所で働かないと」
「そう? んー、それじゃあ、お願いね」
続いて、アスナの話はホシノの方へ移る。
シャーレの部員として、呼び出されたのはシロコとホシノの2名。
ノノミ、セリカ、アヤネは残って
どちらの戦いも手を抜くわけにはいかないのだ。
「そうだ、先生。先生に渡したいものがある」
「シロコ? ワシに渡したいものだと」
そして、シロコはこの戦いに際してある物を持ってきていた。
ゴソゴソとカバンの中を漁り、シロコはある物を取り出す。
「これは………覆面?」
「うん。先生用の覆面」
扉間に手渡されたものは、覆面。
白地に5の数字が入った、覆面。
目と口の部分しか開いていない、覆面。
ザ・銀行強盗な覆面である。
「前は一緒に被れなかったから……今度は一緒」
みんなとお揃いが良い。
言っていることは非常に可愛らしいのだが、実態は犯罪用の覆面だ。
ついでに、シロコの覆面は青色に2の数字。
奇しくも、扉間を象徴する色と数字である。
やはり、シロコ。お前が卑の意志を継ぐ、正当後継者だ。
「おいおい、何だよそれ? まさか、銀行強盗でもやらかすつもりかよ?」
そんな覆面を見て、ネルは軽い冗談を飛ばす。
事実だとは露とも思っていない、場を和ませるための小粋なジョークだ。
「…………」
「…………」
「……ふぅー」
「……は? え? マジでやんのか?」
しかし、アビドス勢と扉間は気まずそうに目を逸らす。
既に実行済みですとは、口が裂けても言えない。
「……実は2人の分も作って来た。アリウスに潜入する時に被ろう」
「さっきの意味深な沈黙を見て、被ると思うか!?」
「大丈夫。
「今回ってどういうことだよ!!」
更にカバンをごそごそと弄り、追加の覆面を取り出すシロコ。
黒色の生地に00と書かれた覆面。
紫色の生地に01と書かれた覆面。
お前、正体隠す気あんのかよ?
「夜なべして作った……被って」
「もう少しまともなことに時間使えよな?」
同情を引くべく、眠そうに目をこすりながら00の覆面をネルに渡そうとする、シロコ。
だが、そんな見え見えの作戦が通用するわけもなく、ネルに溜息を吐かれてしまう。
このままでは、みんなで覆面を被る作戦が…ッ。
シロコの脳裏に緊張が走る。
しかし。
「何これ! 面白ーい! 見て見て、リーダー? どう、似合ってる?」
「逆に聞くけどよ、覆面姿を似合っていると言われて嬉しいか? お前は」
面白そうだと判断したアスナが、01の覆面を被ることで一気に情勢は傾く。
扉間、ホシノ、シロコ、アスナの4人が覆面を被った状態で、ネルを取り囲む。
軽くホラーである。
「ほら、リーダーも被ろうよ」
「ネルちゃんも被りなよ、一度やると病みつきになっちゃうかもよー」
「ナンバー00……プロトタイプみたいで強そうに見える」
「潜入時に顔を隠すのは、余計な恨みを買わんためにも有効だ。被っておいて損はない」
「だぁッ!? もう、被りゃいいんだろ! 被りゃあよ!?」
4人からの
ミレニアムの約束された勝利が、約束された強奪に墜ちた瞬間である。
「ん、これでみんな、お揃い」
「お揃いとか可愛いもんじゃねえよ、これは」
「でも、ホシノちゃんと覆面を取り換えて、スカジャンも交換したらどっちがどっちか分かんないよ? 2人とも小っちゃくて可愛いし」
「誰が豆粒ドチビだって!?」
「おっとぉ? それはおじさんのことを豆粒ドチビって思ってるのかな?」
やいのやいの言い合う、美少女達。
因みにうち2人はメイド服姿。
だが、覆面姿だ。
ただ1つの欠点が、どんな萌えポイントも台無しにしてしまうことが良く分かる。
「お前達、少し声を抑えろ。敵地だぞ、ここは」
「ん、ネルは叫びすぎ。狩りの時は息を殺すのが鉄則」
「あたしが悪いのかよ……」
原因のくせに何食わぬ顔で、ネルを咎めるシロコ。
当然、ネルはピキキと青筋を立てて怒るが、悲しいかな。
覆面に隠された顔では、表情は見えない。
これも、シロコの計画通りである。やはり、天才か。
「はいはい、喧嘩はそこまで。それじゃあ、アスナちゃん。また、道案内お願いね」
「うん! 任せて!」
元気よく頷き、散歩に出かける大型犬のようにステップを刻む、アスナ。
「うん?」
だが、何かに気づいたように唐突に後ろを振り返る。
まるで、誰かに見られていることに気づいたように。
「……どうした、アスナ?」
「うーん……一瞬、誰かに見られているような気がしたけど」
「シロコ、ネル」
誰かに見られている気がした。
アスナが扉間にそう伝えると、すぐさまシロコとネルが斥候に出る。
そして、ホシノは油断なく盾を構えて扉間の防御を行う。
「……視認できる範囲に敵はいない」
「こっちもだ。足跡もねぇ。さっきまで、居たんなら消す時間なんてねぇはずだ」
「気のせい……なのかな?」
影も形もない、誰か。
まるで、もう一つの世界から。夢の世界から見られていたかのように、痕跡は何も無い。
マダラの輪墓を思い出す程だ。
「ワシらが今日ここに来るのを知っているのは、ミネや
知っているのは仲間だけ。
それならば、わざわざ後ろから見なくていい。
堂々と隣に立てばいいのだから。
まあ、相手がついてくることを後ろめたく思っていれば、話は別だが。
「皆の者、アリウスも近い。休憩は終わった。気合を入れ直していけ」
そして、扉間達は警戒しながらカタコンベの攻略を再開するのだった。
アリウス自治区。
至聖所・祭壇。
崇高へ至るための場所で、ベアトリーチェは1人呟く。
「驚きました……どうやら、鼠が入り込んできたようですね」
己の計画を邪魔する存在が現れたことを。
大人のカードの生徒召喚って口寄せみたいに本人なのだろうか。
それともコピーなのか。
それによって、悪用の仕方が変わる。
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