千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

34 / 112
34話:アリウス分校

 

 現実でついていけないなら、夢の中でついて行けばいいじゃない。

 

 百合園セイアはこれを思いついた時、自分は天才ではないかと思ったものだ。

 アリウス自治区への潜入ミッション。

 扉間小隊に加われずに自分はお留守番。

 

 自分のか弱い体のことを思えば、仕方ないのかもしれない。

 ミネが意地悪をしているわけではないことは、自分自身が一番分かっている。

 だが、現実でなく夢の世界なら体の弱さなど関係ない。

 

 過去・現在・未来に干渉できるこの能力があれば、リアルタイムでみんなと共に行けるかもしれない。そう思って、普段以上に深い眠りについた結果が功を奏した。

 

 何度か場面の移り変わりを経た後に、カタコンベを進む扉間達に追いついたのだ。

 

『……どうした、アスナ?』

『うーん……一瞬、誰かに見られているような気がしたけど』

『シロコ、ネル』

 

「あの01の覆面は、アスナ? まさか、私に気づいたのか?」

 

 しかし、アスナに感づかれかけた時は心底驚いたものだ。

 本来、夢が現実に干渉できないように、現実も夢に干渉できないはず。

 だというのに、アスナは持ち前の勘の良さから何かに気づいた。

 

「ミレニアムが誇るエージェントC&C……恐ろしいものだ」

 

 せっかく追いついたのはいいが、気づかれかけた以上は傍に寄るわけにもいかない。

 せめて、何か自分の身を隠すもの。

 例えば、段ボールでもあればと思うが、そんな都合の良いものは落ちていない。

 

 後、シロコの作ったあのお揃いの覆面はセンスがいいなと思っている。

 狼と狐で、イヌ科の肉食動物同士、通じ合うものがあるのかもしれない。

 

『皆の者、アリウスも近い。休憩は終わった。気合を入れ直していけ』

「……仕方ない。一緒に行きたかったが、ここは先回りしてアリウスに行かせてもらうとしよう」

 

 現実であれば、先を進む扉間達を通り越していくことなど出来ないが、ここは夢。

 時間軸の移動もそれこそ夢ではない。

 セイアは、扉間達がアリウスに到着した後の時間へと移動する。

 

 それが過ちの未来になるとも知らずに。

 

「ここは……何かの祭壇?」

 

 夢が切り替わる。

 場所は何かの儀式を執り行うような至聖所(しせいじょ)

 目につくのは祭壇。そして、何かを捧げるための特殊な十字架。

 

「……聖者は十字架にはりつけにされるとは言うが、この十字架は何か違う気がするな」

 

 辺りに扉間達は居ない。

 もしかすると、別の夢に飛んでしまったのかもしれない。

 そう思うが、目の前のものが気になるので、少し調べることにする、セイア。

 

「罰としての十字ではなく、まるで供物をささげるような……いや、聖者の伝説に沿うとすれば、天国の門を開くための儀式…?」

 

 かつて、存在したとされる聖霊。

 ()()を追放された人類の原罪をその血でもって洗い流して、天へと帰った神の子。

 そして、3日後に蘇ることで、人類を天国へとたどり着けるようにした主。

 (いばら)の冠のあの御方。

 

「そうか……これは再現。聖典をなぞることで、門を開く儀式。その目的が聖者のように天国に辿り着こうとしているのか。それとも、扉の先から()()()()()()()()()()()のかは分からないが……どうにも碌なことではなさそうだね」

 

 ここがアリウス自治区というのなら、どうにもアリウスは(ろく)な目的を持っていない。

 夢から覚めたら、扉間達に伝えよう。

 そう考え、セイアは本来の目的に戻るべく次の夢に移動しようとし――

 

 

 

「―――驚きました……どうやら、ネズミが入り込んできたようですね」

 

 

 

「……え?」

 

 突如として、首を絞められる。

 

「――ガッ…!?」

「覗き見をしているネズミがいると思えば……まさか、生きているとは。アズサはしくじったのですか。いえ、裏切っていると考えた方がいいですね」

 

 夢の中に居る時は、現実からの干渉は受けない。

 輪墓(リンボ)のように無敵のはずだった。

 だが、事実として自分は何者かの攻撃を受けている。

 その、あり得ない事態に動揺しながら、セイアは何とか敵の顔を見る。

 

 血のように紅い肌。純白のドレス。無数の瞳。

 異形の大人の女性、ベアトリーチェがセイアを冷たい顔で見下ろしていた。

 

「自分だけが特別な存在だとでも思い上がっていましたか? 子供らしい、幼稚で稚拙な考えですね。予言の大天使……いえ、百合園セイア」

 

 夢への干渉。一方的で特別な力。

 だからこそ、セイアは油断していた。

 ついさっき、アスナが自分の存在に気づきかけたというのに。

 

「偶然か、それとも()()か分かりませんが。あなたを殺し損ねていたというのなら、ここで捕らえられたのは僥倖。計画の邪魔をされるのは困るので、ここで排除させてもらいましょう」

 

 ベアトリーチェがセイアの首を絞める力を強める。

 セイアも何とか逃れようともがくが、力では太刀打ちが出来ない。

 

「アリウスは私の支配地。私に分からないことなど、何一つとしてありません。あなたのお仲間が侵入して、巡航ミサイルに何か細工をしようとしているようですが、それも把握しています。ただ、どうやって、カタコンベを抜けて来たのか。ミサイルの存在にどのように気づいたのかは分かりませんでしたが……あなたが夢で把握したのなら、納得です」

(そんな…!? 既に先生の動向が読まれている? まさか、全てはこの女の手の平の上だとでも言うのか…? いや、違う。全ての原因は――)

 

 

 ―――()()()()()()()()()

 

 

(―――私が未来を見たからだ…!)

 

 セイアがアリウスが公会議を襲撃する夢を見たことで、未来は確定してしまった。

 ミサイルで人が死ぬ未来を見たせいで、アリウス潜入作戦は失敗すると確定していた。

 そう、セイアが未来を見た日。その瞬間から。

 

「さて、あなたには当初の計画通りに死んでもらいます。と、言いたいところですが、夢で死ぬことで目を覚まされても迷惑です。現実でのあなたの居場所は分からないので。ですので、あなたは殺しません。ただ、天国でも地獄でもない場所へ……辺獄(リンボ)とでも言うべき場所にでも行ってもらいましょうか」

 

 自分が死ぬ夢を見ることは多くの人に経験があるだろう。

 だが、だからと言って現実で死ぬ人は居ない。

 目が覚めるだけだ。

 

 故に、ベアトリーチェはそれを危惧して、別の手法を取る。

 セイアを殺すのではなく、二度と目が覚ませない夢と現実の狭間へと落とす。

 

(く……すまない、先生、みんな。まさか、こんなことになるとは……こんなことならミネ団長の言う通りに、大人しく……いや、私が滅びの未来を見た時点で、必ず失敗することは運命づけられていたのか…?)

 

 セイアの意識が徐々に白んでいく。

 仲間に迷惑をかけたこと、何より自分の能力の悪辣さに失望しながら。

 

(すまない……みんな……)

 

 セイアは意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

「なるほど……これは随分と歓迎されたものだな」

 

 カタコンベを抜けた先。アリウス自治区。ミサイルの保管場所。

 アスナの道案内は完璧だった。

 道中で敵に会うこともなかった。

 だが。

 

「マダムからの指示だ。余所者は全て排除する」

「あれ? 見つかるようなことしたっけ? 私達」

「ハッ。そもそも、ゴールが分かってるならそこに張っておきゃいい。守る側なら当然の考えだろ」

 

 ミサイルの保管場所には、アリウスの生徒達が待ち構えていた。

 アスナが疑問符を浮かべているが、ネルは当然だろうと銃を構える。

 どれだけ幸運であろうと、ゴールに兵士を置いておけば逃れることは出来ない。

 

「先生、おじさんの後ろに隠れて」

「どうする? 戻るか、進むか」

 

 こっそりと見つからないように、ミサイルに細工する作戦は失敗に終わった。

 こちらの狙いがバレているかは分からないが、ここを切り抜けても何をしに来たか調べるのは間違いない。

 そこで、細工など施していれば怪しまれるのは確定。

 

「見つかった以上は、細工しても気づかれるだけ」

 

 いくら細工しても気づかれてしまえば、元に戻されるだけだ。

 このまま進んでミサイルに細工しても意味がない。

 なので、シロコはどうするかと扉間に指示を仰ぐ。

 

「未来は変えられない……か」

「先生…?」

 

 静かに目を閉じて呟く扉間に、シロコが不思議そうな視線を送る。

 そんな視線に気づくことなく、扉間は懐にある大人のカードに手を置く。

 

(アスナの勘でアリウスの生徒を回避できなかったのは、セイアがエデン条約締結日にアリウスの襲撃を受ける未来を確定させたせいだろう。勘や幸運では、未来を超えられない)

 

 セイアの未来予知の力は、アスナの能力を上回る。

 故に、アリウスのテロを邪魔する現在(かこ)は、何をしても成就しない。

 良くも悪くも。

 

(このカードの力で、時間や空間すら超えることが出来るなら……未来の()()()()()()()を呼ぶことも出来る。そして、セイアが証明した未来が変えられないという前提条件があるのなら)

 

 過去なくして、現在は存在しない。

 現在なくして、未来は存在しない。

 つまり、未来で生きている人間が現在で死ぬことはあり得ないのだ。

 

 

「どうやら、ミカとナギサの命は―――助けられそうだ」

 

 

 未来で生きている人間を、過去で殺すことは出来ない。

 そして、未来の人間を現在に呼び出せるのなら、その未来まで生きていることを確定させられる。

 

 そう。より先の都合の良い未来を呼び出せば、不都合な未来(いま)を捻じ曲げられるのだ。

 未来の生徒を呼び出せば、必然的に未来にその生徒が居るという事実を生み出せる。

 本来ならセイアが見たように、その生徒が死ぬ並行世界もあるかもしれない。

 

 この死ぬ生徒をAとする。

 当然、死んだはずの未来、つまりA世界に生徒Aはいない。

 

 だから、そこに生徒が生きているA’世界の未来の結果を繋げる。

 この生徒をA’とする。

 

 未来の生徒を呼び出すという目的を叶えると、A世界に本来存在しない生徒A’がA世界に存在したことになる。

 そうなると、世界は生徒A’が存在する世界になるという整合性を合わせるために、A’世界の未来になるのだ。

 

 え、良く分からない?

 簡単に言うと、イザナギによる現実改変だ。

 都合の良い結果だけを選び取るのだ。

 

「皆の者、強行突破して逃げるぞ!」

「ハハ! そうこなくっちゃなぁ!」

「ん、分かった。アリウスを襲う」

 

 一番の懸念点を解決できると理解した扉間は、すぐさま行動に移す。

 ミサイルに細工したかったのは、ミカとナギサを守るため。

 その目的が果たせるのが分かったのだから、ここに長居する必要は無い。

 

「来るか…! ダッセー覆面をつけた集団め!」

「ダサくない。仮にダサいと思うのなら、それはあなた達の感性が古いだけ。そもそもそっちのガスマスクの方がダサい」

「なッ!? これは私達の支給品であって、お前達のような手作りでは――グハッ!?」

 

 ガスマスクをつけたアリウス生徒を、イラっとした顔で吹き飛ばしながらシロコが突き進む。

 

「こいつらダサイ覆面をつけてるくせに強いぞ…!?」

「催涙弾を使え! こっちのガスマスクと違って、あっちの覆面は何の機能もない、ただのダサイ覆面! 粘るだけでこちらが有利になる!」

 

 扉間達がダッセー覆面をつけていることに油断していたアリウスの生徒だったが、その実力を見てすぐに警戒を引き上げる。扉間達を囲うように陣形を組みつつ、ガスマスクの性能を活かした催涙弾を打ち込もうとする。

 

「へー、ただのおもちゃじゃねぇんだな、そのマスク。じゃ、借りるぜ」

「え?」

 

 だが、その前にネルが手近に居たアリウス生徒をチャチャッと倒して、ガスマスクを強奪する。

 これが覆面水着団ダブルオー。約束された強奪だ。

 

「これで問題はねぇな」

「そ、それがどうした! 貴様一人が催涙弾を無効化したところで意味はない!」

 

 しかし、アリウスの生徒は戦闘に特化された子供。

 自分達の足元に催涙弾を撃ち込むことで、ガスマスクが無ければ入り込めない防壁とする。

 

「ヒャハハハハァ! どうだ!? これでお前以外はこっちに踏みこめない! 後は、お前から始末して――」

 

 自分達に立ち向かうことが出来るのは、ガスマスクを持つネル一人だけ。

 これならば、こちらの勝利は間違いないと高笑いするテンションの高いアリウス生徒。

 だが、その言葉を最後まで言い終えることは出来なかった。

 

 ネルの二丁拳銃によって、ガスマスクを破壊されたからだ。

 

「な――ゲホッ! ゴホ!?」

「あたし以外来れない? 違うな。あたし以外必要ねぇんだよ」

 

 そこからは蹂躙という言葉でしか説明できない、戦闘だった。

 催涙ガスが蔓延する中、ネルは縦横無尽に動き回りアリウス生徒を叩きのめす。

 意趣返しにガスマスクを奪ったり、壊したりして相手を逆に催涙ガスで苦しめる。

 何の工夫も無しに銃弾をぶち込み、地面にたたき伏せる。

 その姿はまさに、約束された勝利に相応しいものだった。

 

「ちくしょう……」

「一丁上がりってな。ほら、先生達の分のガスマスクだ。これで、通れるようになるだろ」

 

 催涙ガスの中から悠々と現れたネルは、他の4人分のガスマスクを投げて寄越す。

 

「ありがとう、部長!」

「いやぁ、凄いねぇ。流石は覆面水着団の約束された勝利、ナンバー00」

「ん。1人で全部解決できるから、没案になったプロトタイプ」

「変な設定つけんじゃねぇよ!」

「お前達、無駄話は後にしろ。他にも追手が来るやもしれんのだ」

 

 そんなネルの活躍を口々に褒めながら、扉間達はアリウス生徒達の屍(死んでません)を踏み越えて、進んで行く。

 ガスマスク代? ベアトリーチェにつけとけ。

 

「……こちらA部隊。すまない……突破された」

『こちら、スクワッド。了解した。先回りして、カタコンベの入り口を封鎖する』

 

 しかし、扉間達はまだアリウスの魔の手から逃れられたわけではない。

 扉間を暗殺した(死んでません)精鋭チーム。

 アリウススクワッドがまだ控えているのだった。

 

 

 

 

 

「止まれ」

「あちゃあ……やっぱり待ち伏せかぁ」

 

 カタコンベの入り口にて、サオリがライフルを片手に立ち塞がる。

 それを見て、ホシノはやっぱりかと呟く。

 以前に説明したように、入り口には正解と不正解がある。

 要するに、正解の入り口に張っていれば必ず敵は来るということだ。

 こればかりは、アスナの勘で分かっていても避けることは出来ない。

 

「『マダム』からの命令だ。侵入者は皆殺しにしろとのことだ」

「ハ、脅しにしちゃあ、物騒じゃねぇか」

 

 ジャララと二丁拳銃を揺らしながら、ネルは真紅の瞳をかっぴらく。

 ヤクザもビビる表情である。

 まあ、覆面のせいで全ては見えていないのだが。

 ただ、代わりに扉間達の正体もバレていないので、お相子だろう。

 

「脅し? 違うな、私は()()()だ。そうだ……人殺しだ」

「気をつけて、みんな。多分、仲間がどこかに隠れてるよ」

 

 自分は扉間を殺した(死んでません)人殺しだと重い言葉で告げる、サオリ。

 そんな彼女を見ながらアスナは、持ち前の勘で仲間の存在に気づく。

 

「『彼女』の命令さえあれば、私は人を殺す。そこに葛藤も何もない。情に訴えかけようとした所で無駄だ。恨みたければ、好きなだけ恨むがいい。もっとも、あの世で怨嗟の声を上げたところで私の耳には届かないがな」

 

 油断なくライフルを突き付け、相手に動きがあればすぐにでも引き金を引けるように構える、サオリ。

 

「……手強い」

 

 見るだけで分かる。

 難敵だと。

 シロコは久々に感じる強者の予感に、耳をピンと張り詰める。

 

「いいや、脅しだな」

「……何度も言わせるな。私はこの手で既に人を殺している」

 

 しかし、ネルはサオリの言動を脅しだと断定する。

 そう決めつける理由は簡単。

 

 

「―――手が震えてるぜ?」

 

 

 ライフルを握る手が震えているのを見抜いたからだ。

 

「ッ!?」

「図星だな!」

 

 サオリの顔が歪み、ハッキリと動揺が現れる。

 その隙を見逃すネルではない。

 一足で踏み込み、自らの得意な間合いに、近距離戦闘に入る。

 

「クッ!?」

「迷う奴は弱えッ!」

 

 一瞬で動揺を抑え込み、長物であるライフルから近接専用の拳銃に持ち替える、サオリ。

 だが、その一瞬が致命的だった。

 

「そんでもって、この間合いであたしに勝てる奴は―――キヴォトスには居ねぇッ!」

 

 近距離戦闘において、ネルを上回る存在はキヴォトスには存在しない。

 小柄な体格を活かしたアクロバティックな動きと手数で、一気にサオリを追い込んでいく。

 

「サオリ姉さん!?」

「リーダー! 一旦距離を取って!」

 

 当然、隠れていた仲間のヒヨリとミサキがサオリの援護を行う。

 銃口をネルに向け、2人の距離が離れるように撃ち込む。

 だが。

 

「ごめんね、部長の邪魔はさせないよ!」

「あなた達の相手は私」

 

 他にも敵が居ると読んでいたアスナとシロコに妨害を受け、まともに援護が出来ない。

 

「この…ッ! そこを退いて!」

「退けと言われて、退く人間はいない」

 

 何とか、サオリを助けに入ろうとするミサキだが、シロコがピタリと張り付き動けなくする。

 ロケットランチャーが主要武器のミサキでは、小回りが利くシロコを1対1で抜くことは出来ない。

 

「うわぁん! なんで攻撃が当たらないんですか!?」

「悪いけど、ここは通さないよ」

 

 ヒヨリもスナイパーライフルで必死にアスナを狙うが、勘と幸運。

 何よりも、エージェントとして裏付けされた、確かな実力を持つアスナには当たらない。

 そして、じらされている間にドンドンとサオリは傷ついていき、それがまた焦りになりヒヨリ達の冷静さを奪っていく。

 

「どうした? どうした!? そんなもんかッ!!」

「強い…!」

 

 サオリも必死に距離を取り、仕切り直そうとするがネルの猛攻の前には手も足も出ない。

 何とか、致命傷を食らわないように立ち回るので精一杯だ。

 初めの動揺が無ければ、勝負はどうなるかは分からなかった。

 だが、こうなってしまった以上は結末は決まったも同然。

 そう、結末は――

 

 

「サオリから離れて」

 

 

 ―――()()()()()()()()()

 

「ちッ、新手か!?」

「姫ッ!? 何故ここに? マダムから計画の支障にならないように、下がっていろと言われたはず…!」

 

 突如として現れたアツコのサブマシンガンから逃れるために、ネルは一度距離を取る。

 サオリは、聖徒会の複製(ミメシス)製造の核となるアツコの登場に、驚きの声を上げる。

 3日後に控えた計画のために、アツコは怪我などをしないように戦闘に参加しないはずだったのだ。

 

 だが、アリウススクワッドが、エデン条約の会議の場を襲撃する未来は決まっている。

 つまり、アリウススクワッドに敗北の現在はあり得ないのだ。

 良くも悪くも。

 

「サオリ達が負けても計画に支障が出る。それに……私達は仲間。違う?」

「姫……すまない」

「他の部隊もすぐにこっちに到着する。後少し粘れば勝機が見える」

 

 これが絆の力だと言わんばかりの、援軍の到着。

 覆面姿の悪の強盗集団と自治区を守る兵士。

 どちらが、正義に見えるかなど言わなくても分かるだろう。

 

「……あれ? ここ()()()()()? そもそも何をして…?」

「? あのメイド……急に動きが止まりました?」

 

 そして、突如としてアスナの動きが精細を欠く。

 まるで、記憶を失ったかのように無警戒にボーっとし出す姿に、ヒヨリは思わず手を止めて困惑する。

 

「……マズいな、アスナの症状が出たか。普段は戦闘中は大丈夫なのによ」

 

 そして、それがアスナの持病のようなものだと知るネルは、思わず舌打ちをする。

 このタイミングで来るかと。

 まるで、未来の結末を変えさせないために、現在(いま)が不都合に捻じ曲げられているようだと。

 

 そうだ。()()()()()()()()()

 

「おっとぉ……この足音は、敵さんの援軍が後ろから来てるねぇ。どうするの? 強行突破するにしても、01ちゃんがあの様子じゃ、逃げ切れるかどうか」

 

 後ろからもアリウスの援軍が来て、挟み撃ちにされる。

 ホシノは扉間にそう言って、指示を仰ぐ。

 案内役のアスナもどうにも様子がおかしい。

 このままでは、カタコンベに入っても逃げ切れるかどうかわからない。

 そう言っているのだ。

 

「一先ず、お前はワシから離れてアスナを確保しろ。お前の盾なら、敵の攻撃の中でも進めるだろう」

「それは良いけど……護衛は大丈夫?」

 

 アスナを救出しに行けという指示に、難色を示す、ホシノ。

 そもそも、扉間を守るために戦闘に参加していなかったのだ。

 離れれば、扉間が死ぬのではないかという危機意識は正しい。

 

「問題ない。何故なら――」

 

 だが、扉間は問題はないという。

 それは、短時間であればアロナが防げるという信頼から。

 そして何より。

 

 

「―――()()()()()()()()らしいからな」

 

 

 古聖堂で未来の自分が死ぬのなら、今この場所で死んだり捕らえられることはないと踏んだからだ。

 そして、カタコンベを抜けられずにそこに留まり続けることもない。道は必ず開かれる。

 死の未来が確定しているので、それまでは死なない。

 アロナにお説教された作戦だが、流石のアロナもこの状況では扉間の判断を責められない。

 二代目火影の卑劣な状況判断だ。

 

「……何か考えがあるんだね」

「ああ、案ずるな。アスナを確保次第、カタコンベに逃げ込む。そして、追手がついて来られんようにワザと不正解の道を進むぞ」

「了解。信じるよ」

 

 ホシノが盾を構え、扉間から離れてアスナの下へと進んで行く。

 

「何が起きたのかは分かりませんが……このチャンスを逃すわけにはいきません!」

 

 当然、ヒヨリはその動きを許さない。

 戦場のど真ん中で、ポーッと棒立ちするアスナにスナイパーライフルを向ける。

 

「やられる前にやる。悲しいですけど、それが戦場の鉄則です」

「それをおじさんがやらせるとでも?」

 

 ホシノがヒヨリの邪魔をするべく、ショットガンを放つ。

 しかし、ヒヨリは障害物に姿を隠しホシノの攻撃を避ける。

 そして、容赦なく棒立ちのアスナにライフルのヘッドショットを撃ち込む。

 

「!? 痛い…?」

「マズい…!」

 

 当然、無防備に頭部に攻撃を受けたアスナは、覆面を破かれながら倒れる。

 ホシノが焦りながら、前に進もうとすると今度は無防備になった、ホシノの足に向けてヒヨリが撃ち込んでいく。

 

「痛いですよね、辛いですよね。仲間がただ甚振られるのを見るのなんて」

「この…!」

 

 覆面越しのホシノの目が鋭くなる。

 敵はぶちのめす。

 その強い意志が、ハッキリと映し出される。

 獲物を狩るハヤブサの眼光。

 ホシノは徐々に冷静さを失っていく。

 

「落ち着け! そいつはその程度で死ぬほど(やわ)じゃねぇよ。ダメージ前提で一気に進んで回収して大丈夫だ」

 

 だが、そこにネルが落ち着けと声をかける。

 頑丈なキヴォトス人はライフルで撃たれた程度では死にはしない。

 むしろ、ダメージを蓄積する方が不味いので、ある程度はコラテラルダメージと割り切って、回収した方がいい。

 

「……ごめんよぉ。おじさん、ちょっと慌ててた」

 

 ネルの言葉に冷静さを取り戻したホシノは、多少のダメージは無視して一気にアスナの下に駆け寄ってヒヨリの攻撃から彼女を守る。これで、一旦問題は解決する。

 

「謝るのは後だ。それより、こっちに誰か援護を回してくれ! 流石に1対2はキツイ」

 

 だが、今度は別の問題が発生する。

 サオリとアツコを相手にするネルが徐々に、押されてきたのだ。

 序盤は動揺していたサオリだが、アツコの登場もあり今は落ち着きを取り戻す。

 そうなれば、ネルと言えども苦戦する実力となる。

 

「ん、援護に動く!」

「させないよ!」

「動けない…!」

 

 シロコが援護に向かおうとするが、今度はミサキの方に動きを止められて動くに動けない。

 小回りの利かないロケットランチャーは、守る分には向いていないが、一度攻めに転じれば無視の出来ない脅威となる。

 シロコは悔しそうに、歯を噛みしめながらミサキの相手を続けるしかない。

 

「諦めろ。お前は私よりも強い。だが、私とアツコの2人がかりなら倒せる。抵抗は虚しいだけだぞ」

「殺されると分かって、抵抗しねぇやつがいるかよ!」

 

 ネルが得意の距離に持ち込もうとサオリに接近するが、アツコがサブマシンガンで弾幕を張ることで近づけさせない。そして、ネルが足を止めたところへサオリがアサルトライフルを撃ち込む。この連携で、ネルは先程から拮抗状態を抜け出せないでいるのだ。

 

(このままだと、アリウスの援軍が来るな……それまでに、この戦力でこの場を切り抜けるのはちときついか)

 

 その様子を見ながら扉間は考える。

 ネルが2人から逃げ出せたとしても、ホシノがアスナを担いで逃げる隙を作る必要もある。

 扉間単体なら、ここで死なないのは確定しているが他の生徒の未来は分からない。

 普通にアリウスに負けるルートもあり得る。

 ならばと。

 

(どの道……どこかで呼び出して未来を確定させる必要があるのだ。古聖堂への、ミサイルは()()()どうにかするとして、この場で使って試運転をするのもありか)

 

 未来が変えられないのなら、更にその先の未来を決めることで無理やり整合性を取らせる。

 大人のカードを握る扉間。

 ぶっつけ本番は不安なので、ここで性能を確かめるついでに、この状況を打破すればいい。

 

 

「―――()()

 

 

 ()()()()()()()である、ミカの名前を呟く扉間。

 

「あは! “地獄の天使”光臨ってね?」

「なッ!? どこから!?」

 

 何もない虚空。

 突如として、空から舞い降りて来た天使(ミカ)の姿に、思考が停止する、サオリ。

 

「おらぁッ! 隙ありッ!!」

「しまっ――ガッ!?」

 

 そして、その隙を見逃すネルではない。

 一瞬の隙をついて、サオリの懐に潜り込みマスクをつけたサオリの顎を撃ち抜く。

 脳が大きく揺さぶられ、気を失って倒れこむ、サオリ。

 

「サオリ…!?」

「サオリ姉さん!!」

「リーダーッ!!」

 

 当然、アリウススクワッドの他の面々は大きく動揺する。

 全員の視線がサオリに注がれる。

 

「今のうちだ! 皆の者、アスナを連れて逃げるぞ!!」

「分かった!」

 

 その隙をつき、ホシノがアスナを担ぎ上げて一気にカタコンベの中に逃げ込む。

 他の面々もそれに続くようにカタコンベへと飛び込んでいく。

 

「しまった…! すぐに追おう!」

「で、でもサオリ姉さんが…!」

「サオリ、しっかりして…!」

 

 アリウススクワッドの面々は、すぐに扉間達を追いかけようとするが同時に気絶したサオリを見捨てるわけにもいかずに、その場で戸惑う。それに何より。

 

「大丈夫だよ。錠前サオリは気絶しているだけ。いつ起きるかは知らないけど、3()()()の襲撃には確実に起きてるよ。未来は変えられないんだってね」

「あなたは聖園ミカ…! どうしてここに……」

「私はもうお役御免でいいけど……あの子達を追うつもりなら、私が囮になるよ?」

 

 3人の前にはミカが立ち塞がっているので、進むことが出来ない。

 

「と、言っても、私もすぐに消えるんだけどね」

「どういう意味…? 何もない空間から出て来たり、消えるだの……」

「さあ? 私も詳しい原理は知らないけど……セイアちゃん風に言うなら、『未来の前借り。未来に多大なる負債を抱えている以上は、その回収のために未来自身が縛られる』だって」

「……分からない」

「あはは! だよね? 私も分かんないもん」

 

 ミサキの言葉に、カラカラと笑いながらミカは答える。

 すると、徐々にその姿が煙に変わり透き通るように消えていく。

 

「あ、これはもう時間稼ぎは十分ってことかな。全く、昔から人使いが荒いんだから。私、箱入りのお姫様なのに」

「か、体が消えていきます!? ゆ、幽霊!?」

「せめて、天使って呼んで欲しいかな」

 

 理解できない現象にビビる、ヒヨリ。

 そんな様子にクスリと笑いながら、ミカはバイバイと気軽に手を振る。

 

 

「それじゃあ、今度はお茶会で会おうね―――()()()()()()のみんな」

 

 

 そして、ボンっと煙となって消えていくのだった。

 

「……()()()()()()? アリウス分校呼びじゃない?」

 

 3人に新たな疑問を残しながら。

 




大人のカードは取りあえず、未来の()()()()()()()を呼び出せる能力を持ってることに。
未来の前借り。
同一人物が編成できるので、本人の記憶を持ったコピー……影分身みたいなものかなと思います。
悪用は次回の古聖堂襲撃で。

チャクラ? ユメ先輩の穢土転生爆弾が見たいと申すか。
まあ、冗談はさておき。
今後全ての選択肢に飛雷神と穢土転生が加わるので、さっさと大人のカード使えよ案件にしかならないので、物語最終盤まではサイコラ並みの禁術指定。
代償があるから自重? 扉間なら自分が死ぬ程度の代償、平然と踏み越えて来るに決まってるでしょ?

感想・評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。