―――
「アスナが気絶してるから、滅茶苦茶に進んできたけどよ。これ大丈夫なのか?」
「うん。絶賛、遭難中……」
「というか、あの子ってトリニティの人だよね? せっかく、覆面被って正体隠してたのに、大丈夫なの? 相手が計画とか変えるんじゃ……」
カタコンベ内部。
アリウスの追手から逃れるために、ワザと無茶苦茶に進んできた扉間一行。
間違った道を進めば出て来れない以上、それを良く知るアリウスの追手が来ることはあり得ないが同時に、扉間達も抜け出せないとホシノが聞く。
「心配はいらん。3日分の食料は用意して来ておるだろう?」
「ああ? その言い方だと、3日後には絶対に抜けられるみたいじゃねえか」
「その通りだ。何せ、セイアいわく。
だが、扉間はどこか余裕を持った顔で、アスナの容態を見る。
「予言では、ワシは古聖堂で死ぬことになっておる。つまり、カタコンベ内部に取り残されることはない。今は抜け出る道がないが、カタコンベは一定周期で内部構造が変わる空間。恐らくはこの3日間で、ワシらが脱出できる道が構築される。そして、襲撃を受けるのが確定している以上は、アリウスも計画の変更はせん。いや、出来ん」
古聖堂で死ぬ未来が決まっている以上は、カタコンベから抜け出られることは間違いない。
だから扉間は食料を3日分用意したのだ。
「先生が死ぬ…? また、偽装工作するの?」
「お前達が脱出した後に時間があればな。まず、ここを抜けるまではワシが死ぬ前提で動く」
「あのさぁ……そういうとこだよ? 先生」
確実にカタコンベを抜け出るために、偽装工作はしないと告げる扉間にネルが呆れた目線を向ける。
こいつ、全然成長しねぇなとため息をつく。
「今回はワシが死なない策は考えておる。
「さっきのあれだな? あいつはトリニティの聖園ミカだろ。コピーか本物か知らねぇけど、時間も空間も超える無茶が出来んなら……」
「ああ、死にかけのワシの未来でも呼び出せばいい。本物でなくともコピーの方を死体に偽装すればいい。それで、ワシの死の偽装は可能だろう」
シャーレの人間を呼び出せるということは、扉間自身も呼び出せるということだ。
しかも、すでに老人なので死んだ後の死体を呼び出しても、違和感を抱かれない。
というか、千手兄弟。老けなさすぎじゃないですかね?
「上手く行けば戦力を確保しつつ、偽装も出来る。まさに一石二鳥だ」
思い出すのは生前の失敗。
マダラにイザナギを使われて、影分身と遺体を入れ替えられたことだ。
影分身なのに、マダラがどうやって遺体のフリが出来たのかは分からない。
通常の影分身なら、一定のダメージを受ければ消える。
今考えると恐らくは、イザナギか万華鏡写輪眼の瞳術で影分身がマダラの遺体であるという事実にすり替えたのだろう。
扉間の作った影分身の術を使用することに、マダラの意趣返しを感じるが今はいい。
重要なのは、
「呼び出した奴が死んでも問題はねぇのか?」
「使ってみて分かったが、あれは質量を伴う分身。未来の本体にダメージが行くことはない」
呼び出す生徒は影分身的な存在。
本体の
当然、大ダメージを受けても死ぬことはないし、怪我などのフィードバックもない。
なので、危険な状況でも安心して呼び出せる。
「へー……便利だねぇ。でも、未来の前借りなんて大丈夫なの? 借金は良くないよ、先生。貧乏学校アビドスの生徒会長直々の忠告だよ」
しかし、それだけの破格の能力。
未来の前借りという、物騒な言葉にホシノは難色を示す。
借金というものの恐ろしさは身に染みている。
「うん。リボ払いは悪い文明。この世界から滅ぼすべき」
シロコもホシノに倣い、うんうんと頷く。
「そうだな。お前達の言うように、何らかの代償が伴うはず。禁術は不用意に使うべきではないからな。大人のカード……恐らくは、先に借りた未来を利子をつけて取り立てに来るか。もしくは、未来を先に使う。つまり、寿命を削るというものかもしれんな」
「おいおい、明らかにやべぇじゃねぇか。やめとけって、そんなの」
寿命を削るか、先に借りた未来に利子をつける。
そんな物騒な言葉に、ネルは真顔でやめろと言う。
「うんうん。やっぱり、借金は良くないよ」
「借金、ダメ絶対」
ホシノとシロコもネルに続き、借金に反対と声高に告げる。
実感がこもり過ぎている。
「……ホシノよ。借金を貸す側と借りる側、どちらが強いと思う?」
「え? いや、貸す側でしょ。だから、カイザーにいいようにされたんだし」
扉間からの不思議な質問に、ホシノは不思議そうな顔をする。
借金は貸す側が上。借りる側が下。
当たり前すぎる事実だ。
「そうだな、一定の額まではそれが正しい」
「一定の額…?」
シロコがコテンと小首を傾げる。
「ワシがホシノに金を貸すとしよう。10万、100万…1000万まではワシが上だろう」
「うへー。おじさん、先生に身体でお金を返さなくちゃいけなくなっちゃう」
扉間の問いかけに、ホシノがからかうように返す。
「では、1億、10億、100億。ワシの全財産を超えた額となればどうなる?」
「へ?」
「ホシノとワシ。どちらの立場が上になると思う?」
しかし、続けられた言葉に真顔になる。
とんでもない額の借金。
貸した側が回収できなければ、一族郎党が野垂れ死ぬ額。
「答えはホシノ、お前だ。ワシはお前に金を返してもらわなければ、死ぬからな。借金とは、貸す側の許容を超えた額となると立場が逆転するのだ」
有名なのはユリウス・カエサルだろう。
膨大な額の借金をして、カエサルが死ねば貸した側も死ぬ状況を作り出し、逆に更なる融資を引き出す。
もちろん、こいつなら本当にやってくれると思わせるカリスマありきの作戦だが、現代でも国の借金などは似ている。
安定性という信頼もあるが、潰れられたらとんでもない額が回収できなくなるので、更に借金するのを止められなくなるのだ。
「………いや、カードなら限度額があるんじゃねぇか? そもそもクレジットカードは口座からの引き落としだろ。
まさか、天文学的数字の額を借りて大人のカード側を、下の立場にするつもりかとネルは思うがすぐに首を振る。借入には限度額がある。無制限のカードもあるが、結局はそれも口座という限界がある。何より、普通はカード会社側からストップが入るはずだ。
借金なら、なおさらだ。
貸す側が貸さないと言えば、それで終わりだ。
「ああ、ネルの言う通りだ。
扉間は大人のカードを指で弄ぶ。
大人のカードで借りるのは未来。
過程を飛ばした
「このカードは、ただ未来を借りるのではない。
「……人の心を不法投棄でもしたのかよ」
あまりにもあんまりな、扉間の考えを察して思わずドン引きする、ネル。
人の心を親の腹の中に置き忘れてしまったのだろうか?
「人の心があるから、出来るのだ」
「……この世に悪があるとすれば、それは人の心だねー」
これが本当の悪かと、この世の真理に白目を剥くホシノ。
「………ん? あれぇ……ここはカタコンベ…? 私戦ってたような…?」
「ん、アスナが起きた。大丈夫? 水でも飲む?」
「ありがとう、シロコちゃん。そっか、また私ボーっとしてたんだ」
そんな所で、アスナが目を覚ます。
シロコが水を渡すと、アスナは特に問題なさそうにのどを潤す。
「大人のカードの話はまた今度だな。ネル、アスナの症状は良くあることなのか?」
「頻繁にあるわけじゃねぇけどよ……普段勘が鋭すぎるせいか、たまになんもかんも忘れるんだよ。任務中に見るのは初めてだけどよ」
「能力の後遺症か? ………すまんな。どうやら、ワシが無理をさせたようだ」
異常な幸運と勘。
アスナに起きる記憶障害の原因はその副作用ではないかと、ネルやリオは考えている。
だが、確証はない。
断定するには、余りにも情報が足りないのだ。
「大丈夫だよ、ご主人様。たまに良くあることだから。いつもは暇なときになるはずなんだけどなぁ……会長にも勘を抑えろって言われたことがあるけど、でも、それって心臓を止めるみたいなことだよね?」
無理をさせたとハッキリと頭を下げる扉間に、アスナが慌てて首を振る。
そもそも、幸運も勘も意識して使っているものではない。
彼女にとってはそれが普通なのだ。
ON/OFFが出来るようなものではない。
「……とにかく、少しここで休憩するぞ。何、今回はアスナがやらずとも道は切り開かれるはずだ」
ワシが死ぬ未来があるからな。
そう、小さく心の中で呟きながら扉間は
いつも、肌身離さず持ち歩いている
「アロナ、話がある」
『何ですか? 先生。自分だけが犠牲になるという話以外なら聞きますよ』
今回の計画の要となるアロナと話すために。
「これからもずっと一緒に居るという約束は、未来でも有効か?」
「もう、ナギちゃん。こんな所まで紅茶を持ってきて」
「ミカさん、これは…その……落ち着かなくて」
通功の古聖堂。
シスターフッドが所有するその場所は、かつてアリウスが異端として追放された公会議が行われた場所。
そして、万魔殿のマコトがエデン条約締結の場として指定した場所。
つまり、アリウス分校が襲撃するために指定した場所。
「そう言うミカさんは、随分と落ち着いていますね………セイアさんの予言では、私達はここで死ぬ運命だというのに」
ミカとセイアが。他にも多くの生徒が傷つく未来の場所。
それを小声で話しながら、ナギサはティーカップを置く。
「あはは、そう見える? うん、そうだね。自分でもビックリするぐらい落ち着いてる。なんでだろ?」
まるで、自分が死ぬ未来など存在しないと分かっているかのように、ミカは笑う。
「……先生がどうにかするとおっしゃっていましたが、やはり私は不安です」
「先生のことが信用できない?」
「そ、そういう訳では………いえ、ミカさんに嘘を言っても仕方がありませんね。私はミカさん程先生と接している訳ではないので、心の底から信頼できていないのでしょう」
扉間が信用できないのかと問われると、ナギサはばつが悪そうに俯く。
ナギサからすれば、扉間は何も知らないただの大人。
ただ今は……襲撃の未来の結末を知っている大人。
疑おうと思えば、どうにでもなる、大人。
「先生のことはトリニティに呼ぶ前から。呼んでからはさらに深く調べました。ですが、連邦生徒会に呼び出されるまでの経歴は、キヴォトスの外から来たということだけ。私が疑心暗鬼に陥っているのは、自覚していますが、信頼できる情報がないのも事実」
「あはは……後ろめたく思わなくていいよ、ナギちゃん。先生、初対面でナギちゃんが怪しいだなんて、酷いこと言ったもんね。セイアちゃん襲撃の犯人は私だったのに」
「あの……私が悪かったので、反応に困る話はやめてもらえませんか?」
「冗談だよ」
扉間が怪しいと言うと、本当の犯人は私だったのにねと笑う、ミカ。
そんなブラックジョークに、ナギサはどう反応するべきか分からずに、冷や汗を流す。
「先生の過去は私も分からないよ。聞いたら教えてくれるだろうけど、きっと楽しい話じゃないから聞かない」
「……軍人ですからね」
扉間の過去でハッキリしていることは、軍人であったという事実。
キヴォトスの一般人からすれば、ただ単に戦闘を仕事にしている人間という認識しかない。
だが、ナギサはキヴォトスの外で、軍人という職業が何を意味するか知っている。
「私ね。先生に、戦争が何をするものか教えてもらったんだ」
キヴォトスにおいてもっとも忌避される行い。
それが扉間の仕事だったもの。
「……戦争になると、いっぱい人が死んじゃうんだって」
「ええ、キヴォトスでもキヴォトスの外でもそれは変わらないでしょう」
もちろん、ナギサはそのことで扉間を差別する気はない。
軍人とは国のために汚れ役を引き受ける存在。
為政者であるナギサがその重要性を理解していないわけがない。
「それからね。私のアリウスと和解したいなんて子供みたいな夢を、信じてくれた。笑わなかった」
「…………」
ナギサは黙り込む。
ミカの夢は知っていた。だが、自分もセイアもそれをまともに取り合わなかった。
もしも、真剣にこの話を聞いていれば、そもそも何も起きなかったかもしれない。
思わずそう思うが、全ては仮定の話だ。
「だから、私は先生を信じるよ。命を懸けて私を止めようとしてくれたんだから、私だって先生に命を懸けるぐらいしないと」
ミカは思い出す。
血に塗れた手で、お前はワシのようにはなるな、と言ってくれた扉間を。
「……妬けますね」
「え?」
「幼馴染みとして、ミカさんのことは誰よりも知っている自信があったのですが……いえ、クーデターをされかけたことに気づかなかったので、元々そこまで知っていたわけではないですね。私の己惚れでした」
「えっと……私が悪かったから、反応に困る話はやめて?」
「ふふ、冗談です……ええ、冗談です」
先程の意趣返しとばかりに、ミカに裏切られた恨み言を吐く、ナギサ。
ヒフミに裏切られているかもしれないと思うだけでも辛かったのに、全く疑っていなかった幼馴染みのミカの裏切り。
ショックを受けていないと言えば真っ赤な嘘になる。
なので、このぐらいのトリニティジョークは許して欲しい。
「ですが……私も信じてみます。ミカさんが信じる先生を」
「ナギちゃん……」
「私はセイアさんではないのです。未来が分からないのですから、その時が来るまで嘘か本当かは知り得ません。だったら……まずは、信じることから始めてみようかと」
ナギサはミカやセイアと、何事もなく笑い合える日が来て欲しいと願った。
だから、信じることにしたのだ。
例え、それがルールや掟を破るような愚かな行動だとしても。
まずは、仲間を信じることにした。
「と、言っても、私は疑いやすい性分です。上手く出来るかは分かりませんけど」
そう言って、ナギサはぎこちなく笑う。
友を疑い、何の罪もない生徒もついでとばかりに追い出そうとした自分が、人を信じられるのかと。
「―――いいえ。その姿勢が何よりも大切よ」
しかし、その言葉は凛とした声で否定される。
「!? あなたは……ミレニアムの」
「一応、自己紹介をしておきましょうか。
「私は聖園ミカ。よろしくね、リオちゃん」
「ええ、よろしく頼むわ」
会議室に入ってきたのは、AMASを引きつれたリオ。
以前言っていたように、ミレニアムを代表してエデン条約の立会人として来たのだ。
「では……私も改めまして。トリニティ総合学園の現ホストの桐藤ナギサです。この度は、エデン条約の締結に協力をして頂いて感謝します。それに、急遽のオートマタやドローンの提供。事情が事情だけに、一般の生徒には話せないので本当に助かりました」
ナギサは席から立ち上がり、リオに握手を求める。
それに対して、リオも快く受け入れる。
ミカはそんな光景を見ながら、私がゲヘナに行った時とは全然違うなぁと、苦笑いしながら思う。
「気にしないでちょうだい。しっかりと依頼料は貰っているもの。むしろ、臨時収入が入ったと喜んでる子の方が多いわ」
「それは、研究熱心なミレニアムらしいと言うべきでしょうか?」
「誉め言葉として受け取っておくわ」
ドローンやオートマタなどの無人兵器は、ミレニアムが作ったもの。
そして、その資金提供は金持ちのトリニティ。
唐突な特需景気に、ミレニアムの財布役のユウカもご満悦である。
「さて、時間もないことだし、早速確認をしましょうか」
「確認?」
確認事項があると告げるリオに、ミカが首を捻る。
「確認事項は3つあるわ。1つ目はこの古聖堂の中に、重要人物以外は入っていないか。2つ目はゲヘナの万魔殿がちゃんと来るか。そして、3つ目は――」
それに対して、リオは間髪を置かずにズバズバと述べていく。
あ、この人は私の苦手な理詰めで話をするタイプだと察する、ミカ。
「―――失敗したときに、死ぬ覚悟は出来ているかしら?」
しかし、すぐにその思いは払拭される。
「因みに、私は出来ているわ」
「……私達もだよ。先生を信じてるから」
「ええ、どうやら私達は想いを同じにしているようね」
この子も先生を信じているんだ。
そう思うと、ミカは不思議とリオのことが苦手ではなくなっていた。
「ええ、ミカさんの言う通りです。私達は既に先生に命を預けています。それから、確認事項の件ですが、1つ目は護衛の生徒も中に入れていません。古聖堂から離れたところで、検問所を設けてそこで待機させています。これはゲヘナ側も同じです」
「確か……風紀委員会の子と、正義実現委員会の子が一触即発の状況になってたから、変ないざこざを起さないようにって理由にしたよね」
アリウスがミサイル撃ち込んで来るから離れておいて。
とは、言えない。
どう考えてもお前達も逃げろと言われるし、被害が出ればアリウスに挽回不可のヘイトが向く。
なので、適当な理由をつけて外に行かせているのだ。
護衛はミレニアムの機械という中立の存在にやらせると言って。
「私が言うのもおかしいかもしれないけど、それでよく納得したわね……」
「トリニティのお偉いさんは、私とナギちゃんだけだから。護衛なら私1人で十分だもの」
「ええ。古聖堂は本来はシスターフッドの管理する場所ですが、シスターフッドは不干渉主義。場所だけを借りているので、シスターフッドの人間もいません。正義実現委員会とゲヘナ風紀委員会だけ説得すればいいので、そこまで大変ではありませんでした」
正義実現委員会はトップが狂犬のように見えて、実は思慮深い剣先ツルギ。
そして、風紀委員会のトップは事情を知る、ヒナ。
上の意志は簡単にまとめられた。
では、下の方はどうかと言うと。
「正義実現委員会はティーパーティーの直轄ですので特には……まあ、ゲヘナ側に関してはミカさんの活躍のおかげでしょうか」
「私、こう見えてゲヘナでは“地獄の天使”って言われてて有名なんだよ? 風紀委員会とも面識もあるしね」
ミカが黙らせた。
何やってんだ、ミカァ!
と言われるかもしれないが、暴力が非常に有効なカードなのは古今東西変わらない。
「『私とヒナちゃん以外の護衛が要る?』と、ミカさんが言った時の風紀委員会の方々の黙り具合は少し可哀想でしたが……」
ゲヘナには似つかわしくない、可憐で優雅な容姿で容赦なく問題児をしばき倒す姿は、密かにファンが出来ている程である。
風紀委員会にとって、その純白の羽はヒナの白い髪と並ぶ力の象徴となっている。
なので、ミカからの
「ヒナ……空崎ヒナも来るのね」
しかし、リオが注目したのはミカの活躍具合ではなく、ヒナという名前だった。
護衛に居るのはミカとヒナだけ。
つまり、トリニティの護衛がミカで、ゲヘナの護衛がヒナということ。
「はい。2つ目の確認、万魔殿が逃げずにここに参加するかですが――」
「キキキ! 逃げる? 随分と、失礼な物言いだな。それとも、それがトリニティなりの客人のもてなし方か?」
「……羽沼マコト」
カツンと、軍靴を鳴らし、マコトが姿を現す。
裏でアリウスと繋がっている事実などないように、不敵な笑みを浮かべるマコトを、ナギサが静かに睨む。
「久しぶり、ミカ」
「あ、ヒナちゃん。元気だった?」
そして、その横ではマコトの護衛につかせられたヒナが、ミカに挨拶をしている。
同じ部屋だというのに、空気が違い過ぎる。
「何をしている、ヒナ。私のコートを持て」
「はぁ……分かっているわ」
ヒナを護衛らしくこき使う姿は、いつも風紀委員会に嫌がらせするマコトそのもの。
後少ししたら、自分もミサイルを撃ち込まれる死地に来た姿とは思えない。
「羽沼マコトね。ミレニアムサイエンススクールの生徒会長、
「キキキ、薄ら暗い噂の絶えないミレニアムのビッグシスターから、話を聞いた時は何事かと思ったぞ?」
「私はキヴォトス全ての平和を望んで動いているだけよ」
「ああ、
ドカッと椅子に腰を下ろし、まるで自室のようにリラックスした姿を見せる、マコト。
因みに、マコトは何も嘘は言っていない。
マコトの夢はキヴォトス征服。
つまり、自分が支配して平和にするという意味で言っているのだ。
「マコトさん……この“通功の古聖堂”を会談の場に指定したのはあなた。改めて、理由をお聞きしても?」
「キシシ! なに、これからキヴォトスの歴史に残る会議が行われるんだ。せこい公民館ではつまらんだろう?」
「私が言いたいことが、分かりませんか」
「皆目見当もつかんな。こうして、堂々と護衛1人だけで敵地に来たのに、貴様は私を信用できないというのか? 随分と
繰り広げられる皮肉の応酬。
お前がアリウスと組んで、ここにミサイルを撃ち込もうとしているのは分かっていると暗に告げる、ナギサ。
自分が死ぬかもしれない場所に来ているんだから、潔白だと告げるマコト。
「そう言えば、角って皮膚が硬くなって出来たものもあるんだってね。そう考えると、マコトの面の皮の厚さも納得だね」
「ミカか。風紀委員会での活躍ぶりは聞いているぞ……確か、地獄の天使だったか? 実に
マコトは扉間暗殺の際に
アリウスとの繋がりを示すそれは、マコトの政治生命を脅かすもの。
当然、マコトはそれを否定した。
罠だ。これは罠だと。
全てはマコトに罪を被せようとしている、アリウスの陰謀だと。
そして、それを証明するために、マコトは自らも死地である古聖堂に来たのである。
「……お互い皮肉を言うために、ここに来たんじゃないでしょ? 早く話を進めましょう」
「偶には良いことを言うな、ヒナ……キシシ」
こうまでして、呼び寄せている以上は恐らくはミサイルを事前に排除するか、防ぐ手段があるのだろうと読んで。
そして何より、ここまで人を少なくしていることが、襲撃を読んでいる何よりもの証拠だと。
この状況を見れば、アリウスだって計画を止めるかもしれない。
まあ、未来が決められているので、計画は実行されてしまうのだが。
「それじゃあ、第三者のミレニアムサイエンススクールを代表して私が進行役を務めさせてもらうわ。トリニティ総合学園代表の桐藤ナギサ。ゲヘナ学園代表の羽沼マコト。ここにエデン条約を締結し、
アリウスはマコトにとっては駒でしかない。
使えないのなら捨てる。それだけのこと。
「私、桐藤ナギサはトリニティ総合学園、ティーパーティーのホストとして同意します」
ミサイルの作戦を読まれたアリウスに見切りをつけただけだ。
これ以上、アリウスとつるんでいれば逆に不利益になりかねない。
そもそも、いつでも切り捨て可能な状態にするために、自分とイロハ以外には伝えていなかったのだ。
「……私、羽沼マコトはゲヘナ学園、
エデン条約はまあ、不本意だが停戦中に戦力を蓄えられると考えれば、悪い事だけではない。
それに、トリニティの情報を得やすくもなる。
背中から、襲い掛かるチャンスはここだけではない。
そもそも、マコトの野望はキヴォトスの征服。
別に、トリニティから潰さなければならない理由はない。
他の学園を制圧する分には
そう考えながら、マコトは宣誓する。
「では、この宣誓書に両者の調印をしてちょうだい。それが完了すれば、エデン条約は――」
―――EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
「……来たわね」
古聖堂に鳴り響く警報。
ミレニアム謹製の警報機が、巡航ミサイルの到来を告げる。
それと、同時に。
「間に合ったな」
「なッ! 千手トビラマだと!? バカな、生きていたのかッ!? イロハは何をやっている!」
扉間が会議室の扉を開けて、入ってくる。
扉間が生きていることを、イロハに伏せられていたマコトが驚愕で目を見開いているが、扉間は無視をする。
「リオ、この古聖堂に他の者は居るか?」
「この部屋にいる、私達だけよ。それより、ネル達は?」
「その話は後! まずはミサイルを止める!」
「ふふ……相変わらずな人ね。やっぱり、先生は私に似て合理的ね」
だって、巡航ミサイルが近づいて来ているし、と告げる扉間。
そんな、久々に顔を合わせるにも関わらずにドライな対応に、リオはフルフルと顔を振ってニィと笑う。
「ミカ、ナギサ。
「うん。持ってるよ、何だか映画の撮影みたいでワクワクするね!」
「ミカさん……失敗したら死ぬんですから、もう少し緊張感を」
血糊は持ったか?
と、セイアの未来を欺くペテンを、ミカとナギサに指示する扉間。
「それと、ナギサ。トリニティへの指示は
「? ええ……」
「後、すまんが、お前は強制的にシャーレに入れさせてもらった。抜けたい場合は後で言え」
「はい?」
何故、シャーレに入れたのか?
学園に混乱は起きないかもしれないが、ナギサの頭には大きな混乱が渦巻いている。
だが、悲しいことに時間が無いため、ナギサは黙って飲み込む。
「ヒナ! お前はワシらが守る故、安心しろ!」
「うん、信じてる」
「それから……マコト!」
「キ!? キキキ、なんだ?」
そう言えば、何気にこれが初対面だなと思いながら、動揺を抑えて扉間を見る、マコト。
「ワシが失敗したら死ぬかもしれんが許せ! その代わり、ワシの暗殺計画に加担したのはこれでチャラにする!」
「………本当に何をするつもりだ?」
お前は俺を殺しかけたけど、こっちも殺しかねないからこれでお相子だな!
そう告げる扉間に、流石のマコトも真顔になって何をするのかと尋ねる。
「こうするのだ!」
―――大人のカードを取り出す。
右手の人差し指と中指で大人のカードを掴み、印を組むように立てる。
「己を呼ぶのは初めてだが……来い!
“―――大人のカードを使う。”
扉間が未来の
このまま何もしなければ、死ぬはずのセイアが見た未来の千手扉間を呼ぶ。
死を偽装する―――
「――ヒッ!?」
白い髪が赤く染まり、腹と両腕が潰れ、片足の関節が逆方向に曲がって、顔の半分が潰れた姿にミカが悲鳴を上げる。
アロナガードが切れた後に、瓦礫に押し潰された扉間の姿だ。
生きてはいるが虫の息。このままでは、死はまぬがれない。
そんな並行世界の扉間に対して、扉間は。
「大人のカードを使え。子供を守れずに死ぬなど、兄者に顔向けが出来ん」
“大人のカードを
容赦なく両腕が潰れた扉間の懐から大人のカードを奪い取り、クナイのように口に咥えさせる。
その光景を見ていた、生徒達は全員ドン引きしているが、扉間だけは違う。
同じ扉間。この世界の扉間の意図を目で察して、即座に行動に移す。
“大人のカードを使う。”
「む? そうか、なるほど」
もう1人の扉間が現れる。これで扉間が3人。
現れた3人目の扉間も、扉間特有の超速理解をして大人のカードを取り出す。
既に、扉間のゲシュタルト崩壊気味である。
「この部屋の広さと人数を考えれば……」
“大人のカードを使う。”
扉間が4人に増える。
“大人のカードを使う。”
扉間が5人に増える。
召喚された扉間が、召喚した扉間の持つ装備、即ち大人のカードを取り出す。
「この世界はこうなったのか……いいだろう」
“大人のカードを使う。”
“大人のカードを使う。”
“大人のカードを使う。”
“大人のカードを使う。”
“大人のカードを使う。”
扉間が扉間を口寄せし続け、未来の扉間を召喚し続ける術。
「「「「「「「「「これで十分だな」」」」」」」」」
これぞ、多重影分身の術である。
扉間が10人。来るぞ、柱間!
まあ、約1名は死にかけで役に立たないのだが。
「……読み通り、リスクの分散は成功したようだな」
え? 大人のカードの代償?
使ってるのは、未来の扉間なので、その日が来るまでは請求しようがないですね。
今すぐに払わないといけないのは、初めに呼び出した1回分だけです。
そして、未来で使う分を請求するには、確実に扉間を生かして未来に連れて行かないといけないのが、大人のカードの辛いところだ。何せ、未来で大人のカードを使えることを、大人のカード自身が保証してしまっているのだ。全てを回収するには、扉間が無事に生きている未来を選び続けるしかない。
というか、明確に並行世界がある以上、今までカードをほとんど使っていない扉間ばかりが呼ばれる可能性すらあるのだ。
酷い詐欺もあったものである。
「な、何が起きてるの…?」
「皆の者。
NARUTO世界なら頻繁に見られる光景だが、そんなことを知らないヒナは困惑する。
残りのみんなも困惑しているので、至極まともな反応と言うしか他ない。
「え? え? 先生がいっぱい私の周りに?」
「………紅茶が飲みたいです」
「……長男は誰かしら」
「何の話だ!? 何なんだ!?」
混乱している間に1ヵ所に集められる5人。
夢だと言われた方がまだ納得できるだろう。
因みに、
まあ、カードを使って生きている未来を確定させたので、負債を払いきるまでカードが死なせはしないだろう。
このまま死体役として、世界を欺いてくれ。
「行くぞ、
そして、扉間がわざわざ自分を増やした最大の理由。
それは、扉間の専用装備であるシッテムの箱。
すなわち、
『任せてください!』
『先生とずっと一緒に居るために!』
『今日は、アロナと!』
『アロナと!』
『アロナと!』
『アロナと!』
『あの……これまだ続けるんでしょうか?』
『アロナで!』
『スーパーアロナちゃんです!!』
アロナ1人では、先生1人を守っても巡航ミサイルに耐えきれずに、シャットダウンしてしまう。
だが、1人で力が足りないなら数を増やせばいい。
当然の理だ。人間がサルだった時から、変わらない真理である。
「時空を超えてもなお紡がれるワシらの絆! その力を今ここで発揮せんでいつ発揮するッ!」
『その通りですッ!』
「ワシらを守ってくれ……アロナ!」
『その言葉が聞きたかったんですッ!!』
うおぉおおおッ! と、滅茶苦茶に気合の入った声を出す、アロナ。
普段は自分が犠牲の犠牲になりたがる扉間の、ワシを守ってくれ発言。
これがとんでもなく効いた。
普段命がけの所だと頼られない分、頼られるとチョロイン化してしまうのだ。
「そろそろ、ミサイルが来るぞ…アロナ!」
『はい、先生!』
この作戦はアロナが耐えられなければ、全てが瓦解する。
全幅の信頼を置き、命を預けられる。いや、命を捧げられる相手でないと出来ない。
つまり、ダメなら俺と一緒に死んでくれと言われたようなものである。
これは、もはやプロポーズではないか?
アロナがそう思うのも、無理からぬことだろう。
『いきます―――スゥーパァー! アロナガァァアドッ!!』
こうしてセイアの未来予知とベアトリーチェの陰謀は、
大人のカードはクレジットカード。
プレ先のカードを使っても、原作先生(プレイヤー)の財布は減らない。
並行世界で口座が違うので当然。
つまり、他人のクレジットカードを利用すれば、自分は
シロコには内緒だよ。
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