―――EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
「これはまさか…!?」
「この警報は先程ミサイルが撃ち込まれた時の…? どういうことですか、リオさん」
リオが持つ、警報機が鳴る。
それは、巡航ミサイルの襲来を事前に告げるレーダー。
つまり。
「……2発目のミサイルがアリウスから発射されたという事よ、ナギサ」
「さらにもう一発だと!?」
ベアトリーチェが2発目のミサイルを放ったということ。
それに対して、マコトがこいつ本気で言ってやがると戦慄する。
だって、そうだろう。
「まさか味方ごと!?」
「嘘…! 見殺しどころか、自分の手で殺すの…!?」
ここにはアリウスの生徒が、何人も居るのだ。
仲間を囮にして、奇襲を仕掛ける行動に現場組のヒナとミカは憤る。
「巡航ミサイルが…? そうか………私達は失敗したとみなされたのか」
だが、そんな怒りに満ちたエデン条約組とは反対に、サオリは冷静に事実を受け入れる。
リオによる、嘘の情報だとすら疑わない。
「……お前達は負傷者を連れて少しでも障害物のある場所に行け。作戦の責任者はスクワッドだ。ここで死ななければ、私達以外は“彼女”に殺されることはないだろう」
「そ、そんな…マダムが私達を…!?」
「お前達も分かっているだろう。任務失敗には相応の罰が与えられる。そして、それが大きな任務になればなるほど、罰も大きくなる……初めから分かっていたことだ。早くしろ、巡航ミサイルの速さは良く分かっているだろう」
どこか諦めたような表情で、ヒナにやられていない部下に指示を出す、サオリ。
当然、他のアリウス生徒達は動揺を見せるが、失敗=死刑の言葉には何も驚かない。
それが、アリウスにとっての常識なのだから。
「貴様達も逃げるなら早くした方がいい。あるいは……ミサイルを防ぐ手段が貴様達にならあるか?」
「ちょっと、待ってよ! なんで、
「『vanitas vanitatum』。全ては虚しいものだ。命も、絆も、いつかは終わるものでしかない」
「ふざけないでよッ!!」
「ふざけてなどいない。ただ、そう教えられてきただけのことだ」
何もかもを諦めたかのようなサオリの虚しい瞳に、ミカが激昂する。
殺すという恐ろしさを知っているくせに、自分の命の危機には無頓着。
そんなことが許されるわけがないと。
「待て、ミカ。ここは錠前サオリの言う通り、ミサイルをどうにかする方が先だ」
「先生…! まさか、この子達を見捨てるつもり!?」
だが、激しく怒るミカに対して扉間はどこまでも冷静に告げる。
ミサイルをどうにかするのが先だと。
当然、そんな発言にミカはショックを受ける。
「そうは言っておらん。ここを凌がねば、次に繋がらんというだけの話だ。……アリウスの子らよ。ワシがこの場をどうにかしたら、少し話を聞いてくれんか」
「……何か手があるのか?」
しかし、扉間は静かに首を横に振るだけ。
そして、アリウス生徒達に命を救う対価を提示する。
「そもそも、以前にアリウスに侵入したのはこのためよ。ミサイルをどうにかするのが目的だ。1つ目は確定した未来に阻まれたが……2個目はその限りではない」
「アリウスへの侵入? ……まさか、あの覆面の強盗は!?」
ここに来て、ようやく覆面水着団の正体に気づいた、サオリ。
彼女は中々に天然なのかもしれない。
「心配するな。
遂に、視認できる場所まで近づいてきたミサイルを睨み、扉間はワザとらしく印を組む。
そして、そのまま意味のない超高速の印を結び始める。
「
まるで、自分が不思議な何かをしたように見せかけるために。
―――
扉間のワザとらしい術名宣言。
印無しで発動できるのが飛雷神の強みなので、完全に偽装である。
だが、そうとは知らない生徒達からすれば――
「ッ!? ミサイルが空中で爆破した…?」
扉間が何か術を発動して、ミサイルが着弾前に爆発したようにしか見えない。
「どうやら、
「い、一体、何者なんだ…? あなたは…?」
訳が分からずに声が上ずるサオリに対して、扉間はゆっくりと振り返る。
「連邦捜査部、シャーレの顧問。またの名を……木ノ葉隠れの忍、千手扉間だ」
これで、交渉において心理的に優位に立てたなと思いながら。
「どうなっているのですか…!? なぜ、巡航ミサイルが着弾前に爆発を? 何か、不具合が? いえ、外的変数も無しにそのようなことが起こるわけが……」
所変わり、こちらはミサイルが予想外の事態になったベアトリーチェ。
あり得ない事態に、うろたえるが頭は冷静に原因を追究しようと、監視カメラを使ってミサイルの保管場所を見る。
すると、そこには。
「これは!? 3日前に自治区に侵入してきた覆面の強盗…!?」
01の覆面を被って、ミサイルに細工をして回る
「そんな馬鹿な…? あの強盗集団は今はロイヤルブラッド達と戦闘中のはず! それに、あの体格を見れば、背の高い方のメイドで間違いがないはず…!」
ミサイルの構造なんて分からないが、持ち前の勘と幸運を全開にして片っ端から巡航ミサイルをダメにしていく、アスナの姿にベアトリーチェは混乱する。ここにアスナが居るはずがないのだ。自分の監視は外に目を向けていた影響で、切り抜けられたとしてもアリウス自治区に来れるはずがない。
同じ人物が2人居ないと、そのようなことが出来る訳――
「2人…? まさか、これは地下に居る桐藤ナギサのように…!」
そして、ベアトリーチェは気づく。
古聖堂に居るナギサと、カタコンベのナギサ。
同一人物が2人居るという奇跡の類似例に。
「―――予め、カードで呼び出しておいた生徒を、
扉間が今まで大人のカードで呼び出した人間の数は4人。
ミカ・ナギサ・扉間、そしてナギサと同時に呼び出したアスナだ。
「最初から、2発目があると読んだ上で、以前に失敗したミサイルへの細工を再度?」
戦争をしていた扉間からすれば、兵器など作れるなら作れるだけ作るのが常識である。
現実のアメリカだって、何百発もミサイルを持っている。
というか、扉間達はミサイルの保管庫に一度到達しているのだから、2つ目以降があるのは保管庫の大きさを見れば簡単に分かるので、普通にベアトリーチェの読みが浅かっただけだ。
「一度失敗したのなら諦めればいいものを…ッ」
アリウスへの潜入ミッションの目的は、巡航ミサイルに細工して着弾前に爆発させて威力を軽減させること。扉間は一度の失敗で諦めないド根性を発揮して、ミッションをやり遂げたのだ。
火影が任務失敗すると、里の士気がヤバいので何が何でもやり遂げるのは、ある意味当然である。
「すぐに、追加の兵士を向かわせて……いえ、もう間に合わないですね」
ギリリと歯ぎしりをするベアトリーチェ。
ミサイルへの妨害を止めようにも、もう遅いだろう。
アスナは既に一仕事を終えたように、満足気にミサイルを眺めているのだから。
下手をすると、自治区内で爆破させられかねない。
「忌々しい…ッ」
因みに、この呼び出された、アスナ。
コピーなので後遺症とか気にしないでいいので、全てを勘に頼るレベルで能力を使うことにより一周回って、能力の使い方を覚えることに成功している。
もちろん、現在のアスナにもコツは還元してある。
「……ロイヤルブラッドを回収するとしましょう」
そんな事情を知らないまでも、自分が不利に立ったことを理解したベアトリーチェは次の行動に出る。
アツコを確保して、儀式を執り行うことで自身を崇高へと至らせるのだ。
その力を以て事態の逆転を図る。
「そのためには……忌々しいですが、マエストロに力を借りましょう。あの“教義”をぶつければ、ロイヤルブラッドを確保している強盗集団もひとたまりもないでしょう」
そのためにすることはと考えて、ベアトリーチェは小さく舌打ちをするのだった。
「お前達は既に自分達の生徒会長から見捨てられている。
アスナの細工でミサイルが着弾前に爆破した、古聖堂。
そこで、扉間は約束通りにアリウス生徒達へ説得を行う。
ミサイルを爆破する忍術(笑)を見たアリウス生徒達は、素直に話を聞くしかない。
因みに、アスナが失敗した場合は隠れ潜んでいた10人目の扉間から、また“互乗大人札”を開始して防ぐつもりだった。
「投降だと…? ゲヘナにトリニティ…! 私達の憎しみの根源に頭を下げる? 出来る訳ないだろう!! 私達に許されたことは復讐だけだ! 弾圧された先祖の無念はどうなる!?」
「そんなことを言っていると、お前も死ぬぞ」
「そういう言い方はやめてよね、先生!」
復讐だの無念だの言っているから、無意味に死ぬんだよ。
と火の玉ストレートを投げ込む、扉間。
客観的に見ると、言うこと聞かないなら殺すぞと言っているように見えるので、慌てて止めるミカ。
そういう言い方はよさんか、扉間!
「ミカは甘いのだ。現に、殺された親兄弟や仲間の復讐を叫んでいたワシの弟は死んだぞ?」
「…………」
しかし、続く言葉には黙り込むしかない。
ここまで曝け出すのは、扉間なりの交渉術でもあるが、こう言われては戦争エアプのミカには何も言えない。
彼女はあまりにも痛みを知らなさすぎる。
「トリニティへの復讐も、ゲヘナへの憎悪も、ワシは知らんし興味もない。ワシが興味があるのは、お前達の現在と未来だけだ。復讐なんぞして、何かお前達にメリットがあるのか? 死人が蘇ってお前達に感謝でもしてくれるのか? 死人が蘇った所で、得られるのは戦力と情報だけだ。動く死体に何を言ったところで、虚しいだけだぞ」
「せ、先生…? その……言い過ぎじゃないかしら」
ミカが黙り込んだので、今度はリオが扉間を止めに行く。
合理的なだけの会話が、こうも酷いものなのかとリオは反面教師を見ている気持ちになる。
「だが……私達はそう教わって来た! 私達を苦痛の果てに追いやったトリニティとゲヘナに、報復をしなければならないのだと!」
「それで、何も知らん子供達を死に追いやるか。トリニティやゲヘナの生徒と会話をしたことすらない罪のない幼子に、体験したこともない偽りの憎悪を与えて。随分と崇高な教えだな、アリウス分校とやらは」
「キキキ! 随分な言いようだな、先生………武士の情けという言葉を知っているか?」
なおも皮肉を止めない扉間に、流石のマコトも同情を見せる。
これが二代目火影の卑劣な印象操作術。
扉間の暴言に対して、マコト達にツッコミを入れさせることで、相対的にアリウスからのマコト達への評価を上げさせるのだ。
「確かに、お前達が殴られた状態で復讐の連鎖は止まっている。アリウスが殴り返したいという意見は分からんでもない。しかしだ。それはアリウス分校であって、お前達自身ではないだろう。トリニティはつい最近まではお前達の居場所すら知らなかったのだぞ? ゲヘナは、トリニティとすら本格的な戦争もしていない。お前達に一体何をしたと言うのだ?」
「そ、それは、大人の話では私達が碌なものを食べられなくして、人殺しの意志しか持てなくして、苦難の状況に追い込んだと……」
「それをやったのは、お前達の親・祖父母よりも前のことだろう」
「先生、やめてください。トリニティの罪を否定するのは……それは私達が背負うべきことです」
過去のこととか関係ないだろうと告げる扉間に、ナギサが止めに入る。
トリニティがアリウスを弾圧したのは事実。
その罪から逃げることは許されないのだと。
だが。
「違うッ! お前達は何もしておらん!! 先祖の罪を子供が背負う必要などないのだッ!!」
扉間はそれを否定する。
子供が先祖の残した罪を背負う必要などないのだと。
千手に生まれたから、うちはと殺し合う。
アシュラの転生者だから、インドラの転生者と殺し合う。
そんな前の時代の宿業を背負い続けるなど、バカバカしいにも程がある。
「お前達がいがみ合う必要もない、憎み合う必要もない、古い時代の負の遺産はワシら大人が何とかする! 憎しみの連鎖も食い止める! だから、ワシはお前達子どもに何も知らずに笑い合って欲しいのだ!!」
かつて、殺し合いをした一族があった。
親を兄妹を殺した、殺された間柄の一族があった。
だが、そんな一族であっても、子どもは何も知らない。
里が出来て、共に暮らすようになったら子供達は一族の垣根を越えて、遊び始めた。
そんな姿を見たからこそ、木ノ葉の里に集まった一族達は、憎しみの連鎖を踏み止まれたのだ。
この笑顔を守らねばならないと。
自らの復讐心を忍び耐えたのだ。
「………いや、私は既に憎しみの連鎖のただ中にいる」
しかし、サオリはそんな扉間の叫びにも悲しそうに首を横に振る。
「あなたを殺した。百合園セイアを殺した。生きていたから大丈夫などと、言うつもりはない。私は確かに罪を犯した。それは許されることではないはずだ」
「……サオリ」
ミカがサオリの懺悔に、苦しそうな表情を見せる。
偶々生きていただけで、殺そうとした事実は消えない。
相手から憎まれるということに変わりはない。
彼女達は憎しみの連鎖の中にすでにいる。
「ミカにも言ったが、人を殺すことは咎められることだが、人を殺さんことを咎める理由はない。仮にお前が既にその手で誰かを殺めていたとしても、踏み止まる権利自体は誰にでもある」
だが、憎しみの連鎖の中にいることが踏み止まれない理由にはならない。
「人殺しを恥じる心があるなら上等。過ちを為した後に大切なことは、過ちを正すことだ」
「そんなことが……出来るか…ッ。私達は人を憎み嫌う『殺害の意志』を持っているから『人殺し』と同じだとマダムは言っていた」
しかし、ベアトリーチェに洗脳まがいの教育を受けて来たアリウス生徒達は、扉間の言葉を受け入れられない。10年前のあの日から、自分達は人殺しとして生きてきたのだと。多くの生徒達が、そうだそうだと頷く。
「所詮、人殺しでもない
「……それでも、私は」
「ミカ……」
名前も知らないアリウス生徒の叫びに、ミカが辛そうに手をギュッと握りしめる。
そんなミカの様子をヒナが悲しそうに見つめる。
私も分かるよ。その言葉が出せない。
人を殺したことのない、そうした教育を受けて来たことのない人間では理解できない。
理解できなければ、共感が出来ない。
共感が出来なければ、心の距離は縮まらない。
手を取り合うことは出来ない。
「……そういう訳だ。私達が学んできたことは殺し合う技術だけ。それしか知らないし、それしか出来ない」
「………先生、下がって」
「『vanitas vanitatum』。全ては虚しい。手を伸ばしても無駄なだけだ」
分かってるんだ。このままだといけないことぐらい。
だとしても、自分達にはそれしか出来ないのだとサオリは銃を取る。
つられて、他のアリウス生徒達も戦闘態勢を取り始める。
ヒナが覚悟を決めた顔で、扉間を後ろに下げようと目配せを行い――
「――ッ!?」
静かにブチギレる扉間の瞳を見て、ゾクッとする。
「……誰だ?」
「だ、誰…?」
底冷えする声。
感情が籠っていない。
いや、無理やり感情を削ぎ落とした声が静かに響き渡る。
「貴様らに、そのくだらん思想を教えたのは誰かと聞いている」
ヒナの制止を無視して、扉間はアリウス生徒達に近づく。
銃弾が一発あれば、殺せる存在。
だというのに、その迫力にアリウス生徒達は動くことが出来なかった。
「そ、それは……『彼女』が……」
「『彼女』?」
「べ、ベアトリーチェ……私達の生徒会長だ」
「ほぉ……マダムなどと名乗る輩か」
淡々とした物言い。
それは、興味の無い人間のことを話すような無関心さ。
即ち、そいつを殺すのは確定した未来。
「ふぅー………少し、ワシの昔話に付き合ってくれんか?」
大きく深呼吸をして、頭を冷やしながら扉間は語り始める。
「む、昔話だと? そんなことに何の意味が――」
「―――ワシは8歳の時に初めて人を殺した」
自分の罪を。
生前の戦乱の世で生きた経験を。
殺し合うことだけを学んで生きてきた、アリウス生徒達と同じ過去を。
「は、8歳…?」
「殺したのは、ワシより小さな子供だった。丁度ワシの弟と同じぐらいの……7歳ぐらいか?」
「子ども同士で?」
「珍しい事でもない。大人より弱い子供が戦場で生き残るには、同じく弱い子供を殺すしかない。相手も同じ考えでワシと戦ったのだろうしな」
告げられる経験は、アリウス生徒をしても異常と呼ぶしかない経験。
だが、扉間はそれを晩御飯の献立を語るぐらいの感覚で話す。
それが、当たり前の時代の人間だったからだ。
「……まあ、そんなことをしていたから、ワシの弟達は全員8歳になる前に殺されたのだろうな」
「…………」
「ワシが兄者のように、子供だてらに大人を相手に出来る程に強ければ……弟達も成人出来る程度には生きていたかもしれんな」
弟が全員死んだという言葉に、絶句するサオリに対して扉間は静かに自嘲する。
柱間もマダラも子供の時から、下手な大人よりも強かった。
それは、本人達の才能以上に優しさ故。
2人とも弟を思い出すので、自分よりも小さい子供とは戦わずに大人と戦うことを選んでいたのだ。
反対に、扉間は子供らしからぬ合理性を以て、自分よりも弱い相手を狙っていた。
簡単な話、楽な道の方を選んだのである。
だから、これは因果応報。幼い子供を殺したから、自分も弟を殺された。
それだけの話。
「と、すまんな。愚痴が零れた。お前達は綺麗な奴らと言ったが、それはワシ以外の子らだけだ。ワシは人殺しだ。ここに居る全員を殺しても端数にしかならん程のな」
分かるってばよ。
人殺しの気持ちなら、自分は分かると扉間は告げる。
「ガキの頃から、効率的に人を殺す技術だけを磨いてきた。誰かの家族を殺す時に、まるでゲームのように『よし! 上手く行った!』と思ったことは一度や二度ではない。大人になり、人を率いる立場になってからは、学校を作り人を殺す技術を子供達に伝えていった。地図の上で命をただの数字として処理するようになった。直接的に殺さずとも、自国と敵国の間に緩衝地帯を作って、その国の子供達を飢えと暴力の被害に立たせたこともある。国の為に必要な犠牲なら、仲間や子供達であろうと容赦なく犠牲にした」
露悪的に語りながら、扉間は皮肉気に語る。
時代が悪かった。生まれた環境が悪かった。
そんな言い訳なら幾らでも出来る。
だが、生き残るために殺す選択をしたのは自分自身だ。
そこからは決して逃れられない。
「先生……でも、それは……」
「ミカ。お前はワシを慕ってくれておるが、本当のワシは汚い人殺しに過ぎん。偉そうな言葉も本来なら、何の説得力もないものだ」
フォローに入るミカに、扉間は首を横に振る。
扉間は確かに、夢を持って平和な世界を目指した。
だが、そこに至るまでの過程で為した罪は消えない。
「だが……お前達の何倍も罪を犯しているワシでも夢を持ち、綺麗ごとを叫べている」
しかし、罪は消えずとも平和を叫び続ける権利はある。
「嫌なら嫌と言っていいのだ。誰かが死ぬのが嫌ならやめると、感情のままに叫んでいい。ワシはそれをお前達、生徒から学んだ」
ゲーム開発部から、嫌なものは嫌と言っていいと学んだ。
感情のままに突き進むことが正解になることもあるのだと、教えられた。
「こんな人殺しのワシでも、今は『先生』と呼ばれて不相応に慕われている。ならば、ワシより人を殺していないお前達なら、もっと良い未来を掴めるはずだ」
お前達はワシよりも綺麗な手をしているのだから。
そう言って、扉間はアリウス生徒達をゆっくりと見渡す。
「お前達に望みはあるか? 腹いっぱいに美味いものを食べたい。弟に食わせてやりたい。好きなだけ本が読みたい。趣味に没頭したい。あるいは、命の危険を感じずに1日中怠惰に過ごしたいでも良い。やりたいことを言ってみろ」
もはや、そこには敵意を持った敵兵はいなかった。
居るのは、どこにでもいるただの子供達。
「………トリニティに来る時に見かける、高そうなパフェを食べてみたい」
「え!? あ、あんた何を答えて……そ、それなら私だって綺麗な服を着てみたい!」
「訓練とかせずに……誰にも叱られずに一日中寝てみたいかも」
「読みたい漫画があるんだよね……捨てられてた1巻しか見れてないんだけど」
1人がポツリとこぼすと、他の者達も連鎖的に望みを口にしていく。
もう、戦える状態ではない。
「お、お前達……」
「サオリ。お前の願いは何だ?」
その中で1人困惑するサオリに、扉間が柔らかな笑みを向けて聞く。
まるで、孫に目を向ける好々爺のように。
「………分からない。私には何をしたいのかが分からない。ただ――」
自分の中の望みが分からずに、困惑した表情を見せる、サオリ。
しかし、そんな彼女の中でも1つだけ分かることがあった。
それは。
「―――みんなの願いは叶えてやりたいと思う」
「なるほどな……アズサが姉のように慕われていると言う訳だ」
仲間の願いが叶えばいいなという、優しい願い。
自分よりも、妹達を優先する姉らしい願い。
「千手トビラマ……いや、先生。私達が先生の手を取れば、この子達の願いは叶うのか?」
「不安か? いや、具体的なプランも上げずに信用は出来んか。では、説明するとしよう」
しかし、幾ら世間知らずなアリウス生徒と言えども、敵の誘いをいきなり受けるわけがない。
そんな不安を察して、扉間はしっかりと説明を始める。
「まずは、ワシらでクーデターを起してベアトリーチェを降ろす。その後、ワシが連邦生徒会に掛け合い、アリウス分校を正式な学園として認めさせる。そして、トリニティから独立を果たした後に、ワシが校長として後ろ盾になる。アリウス分校は、
「すまない。もう一度言ってくれるか? ゆっくりと、詳しく」
サオリが真顔で聞き返すような作戦を。
どれだけ彷徨っただろうか?
1日か? 3日か? それとも1ヶ月だろうか。
時間の感覚のない、この夢と現実の狭間、
正直に言うと、諦めて今すぐにでも投げ出してしまいたい。
「だが……諦めるわけには……」
しかし、それは許されない。
私が未来を確定させたことで、先生達の死を確定させてしまった。
それを覆さなければ。例え、覆せなくとも私にはそれを見届ける義務がある。
故に、私は必死に出口を探して彷徨い続ける。
「……物は試しか。効果が本当にあるか分からないが」
そして、その果てに一筋の光を思いつく。
か細い、まるで蜘蛛の糸のような光。
何の意味もない、悪戯かもしれない。
縋るだけ無駄な子供騙しかもしれない。
「……やるだけやってみよう。どうせ、他に道もないんだ」
私は記憶をたどり、先生の行動を思い出す。
指を組んだ不思議な印。
そして、目を覚まさせるための痛み。
スッと、自分の唇に歯を当てる。
気は進まないが、どうせ何も変わらないのならやるだけ得だ。
意味のない行動が何かが、また一つ分かるのだから。
私は大きく息を吸い込み、覚悟を持って声を出す。
「―――解ッ!!」
ガリッと血が出る程に唇を噛む。
思わず痛みで、目を瞑ってしまうが体の感覚は変わらない。
目が覚めたのなら、自分はベッドの上だ。
つまり、先生秘伝の『解ッ!』も不発だったということだろう。
「やれやれ……骨折り損のくたびれ儲けという奴だね」
そんな愚痴を言いながら、私は痛みと諦観の下に重くなった目を見開き。
「ふぅむ、お客様かの? ここに
怪しげに嗤う、扇情的な和服の人物と目が合うのだった。
バカな……まさか、『解ッ!』の効果なのか?
「……貴女は? それに私を認識できるのか…?」
「
唐突に変わった空間。
百鬼夜行らしい和風な部屋。
ベアトリーチェとは関係がなさそうだが、善人か悪人かも分からない人物。
そんなクズノハに思わず警戒するが。
「………ところで唇を怪我しておるようじゃが、大丈夫かの?」
取りあえず悪人ではなさそうだと、私は判断を下すのだった。
ミカのクーデターが無くなったので、代わりにサオリにやってもらいます。
正当性? アツコを神輿として担げば平気平気。
感想・評価お願いします。