千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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カルバノグの兎編
41話:アリウス学園


 

「さて、アリウス学園として業務をこなしていくにあたって、まずはお前達の出来ることから知っていこうと思う……得意分野はあるか? 何でもいい、言ってみろ」

 

 アリウス自治区。

 長年使われることなく錆びついた校舎。

 そこで、扉間はアリウス学園の生徒達と話す。

 既に、校長就任のあいさつはしているが、こういった個人的な会話も必要なのだ。

 

「あたしの特技は破壊工作です! 建物の弱い部分は勘で分かります!」

「私は潜入活動を得意としています。トリニティにも忍び込んだことが何度もありますが、バレたことはありません」

「近接戦闘! 訓練でも評価が高いんだぜ!」

「特技、トラップ。仕掛けやすい場所の把握も可能、解除などの技術も保有」

 

「ふむ、皆それぞれ長所があるようだな」

 

 いや、そういう長所を言われても困る。

 普通の人間ならそう思うだろうが、忍である扉間にとっては慣れ親しんだものだ。

 

「これからは、お前達の能力を加味して任務を割り振っていくつもりだ」

「暗殺ですか? それとも破壊工作ですか?」

 

 ツインテールのアリウス生徒が首を捻る。

 初めに聞く二択がそれはどうなのか。

 そう思わないでもないが、アリウスの過去を思えばそうなるのも仕方がない。

 

「破壊工作はあるやもしれんが、暗殺は無しだ。これから、アリウスはシャーレの直属の治安維持部隊になるのだ。クリーンなイメージを崩すわけにはいかん」

「質問です。クリーンなイメージとはなんですか?」

 

 ポニーテールのアリウス生徒が挙手をする。

 彼女には綺麗な活動というものが分からないのだ。

 今の今まで汚れ仕事ばかりやらされてきたから。

 

「人殺しや工作活動などの、表沙汰(おもてざた)に出来ない……キヴォトスの法に接触するものだと思えばいい。ルール上は問題がない汚い行為も多々存在するが……今は法に反する依頼は受けないと思っていればいい」

「分かりました」

 

 公的機関である以上は、クリーンなイメージが重要であると扉間は説明する。

 そのためにはルールや掟を守るのが重要という話に、ポニーテールのアリウス生徒も頷く。

 

「そのためには、キヴォトスの一般常識や法を学ぶ必要がある。ルールを正確に把握しておけば、いざという時にルールの抜け穴を突けるからな」

 

 因みに、ルールの抜け穴を突くのはOKである。

 もちろん、コッソリと民意に反しない形というのが前提だが。

 

「校長! それで結局任務って何をするんだ?」

「シャーレに所属するということは、キヴォトスのあらゆる学園のルールに従わずに移動・戦闘が可能になるということだ。各学園から、依頼料を貰ってその学園に赴いて依頼をこなす」

「……?」

「つまり、傭兵だ。他学園に行って任務を行う。今まで通りだ」

「なるほど!」

 

 扉間の説明に手を叩く、テンションの高いアリウス生徒。

 不良の鎮圧などの依頼なら、今までのアリウスと変わらない。

 他の学園(トリニティ)に行って、戦闘する(暴れる)

 大筋は変わらない。

 

「疑問。傭兵として他の学園に利用される可能性あり。仮想。ゲヘナの依頼により、トリニティへの戦争行為など」

 

 しかし、傭兵という立場に冷静なアリウス生徒が疑問を抱く。

 他の学園に良いように利用されてしまう可能性があるのだ。

 例えば、マコトに依頼されて正義実現委員会と戦えと言われるなど。

 

「依頼内容はワシが…ゆくゆくはアツコが精査する。それになにより……そのためのクリーンなイメージだ」

「そのための?」

 

 扉間は小さく頷いてみせる。

 

「シャーレは、連邦生徒会は、あくまでも他学園に優劣をつけずに平等に扱う。その学園の内部で起きた事象に対する対処までが仕事だ。アリウス学園は()()()()()()だからな。維持以上になることはしないというクリーンな立場で居てもらう」

 

 傭兵とは言ったが、やるのは治安維持活動。

 私的な運用などは扉間が弾く。

 そして、現場で無茶ぶりされた場合もクリーンな組織という建前で断る。

 もちろん、依頼料は全額返金する。

 

「仮に、ワシらを嵌めるために偽の依頼を出したことが分かれば……ベアトリーチェの残したミサイルが火を吹くことになるな。時間があれば、あれの修繕も行っておくか」

 

 そして、脅して従わせようとしたり、騙し討ちする奴にはベアトリーチェの遺産を使う。

 ミサイルの在庫処分セールである。

 

 え? 連邦生徒会(シャーレ)が戦争吹っ掛けていいのか?

 アリウス学園は独立した学校なので、連邦生徒会とは別ですね(大本営発表)。

 

「理解。疑問に対する返答感謝します、校長先生」

「構わん。他に質問のある者は居るか? 気に入らんことがあるならば、早めに言っておけ。案ずるな。ワシはありとあらゆる罵倒は聞き慣れておる。単なる愚痴でも構わん」

 

 卑劣という言葉に始まり、ここにはとても書き表せない罵詈雑言の数々。

 生前のことを思えば、子供達の罵倒ぐらいならかすり傷にもならない。

 

 なお、アリスなどの悪意のない無邪気な言葉などは、たまに貫通してくる。

 扉間の生存を知ったアリスの『先生は()()から帰って来るって信じてました!』という満面の笑みでの発言は、流石にダメージが入った。

 

「はい、質問です。と言っても、今日はこれから何をするかですが」

 

 だが、流石に罵倒する勇気のある生徒はいなかったので、話は今日の活動に移る。

 

「ああ、今日集まってもらったのはこの校舎の掃除のためだ。全生徒に手伝って貰って、勉学が出来るように改善していくつもりだ。無論、勉学に使う場所は全てだ」

「勉強……」

「今はまだ、お前達の戦闘力を活かしていくつもりだが、これから先10年、20年後まで続けていく気はない。少しずつではあるが他の学園と同じように、通常の学び舎に戻していくつもりだ。無論、お前達も勉強がしたいのであれば遠慮なく言え。ワシは先生だからな。校舎そのものは掃除するしかないが、教材に関してはコネを使って揃えられる」

 

 扉間が今取り組んでいるのは、アリウスの学習環境の改善。

 以前は、トリニティと同じような授業をしていたらしいが、ベアトリーチェがそれを壊した。

 故に、徐々にではあるが戻していくしかない。

 

「……ああ、それとだ。初めに言っておくが、掃除に武器は使うなよ? しつこい染みを落すために床に射撃しようとした馬鹿がおったからな」

「!? ダメなのか!? これだけデカい校舎を全部やるのに!」

「よし。お前は掃除中は銃を別の場所に置いておけ、命令だ」

 

 テンションの高いアリウス生徒に溜息を吐きつつ、扉間はもう1つ狙いを思い出す。

 

(急激な環境の変化。外から流れ込んでくる情報による、他学園との格差。考える時間があればある程、それは不穏分子に変わりかねん。落ち着くまでは忙しくさせて、他のことを考えないようにさせるのが一番だ)

 

 アリウスは独立した。しかし、それで何もかもが解決したわけではない。

 しかも、すぐ隣のトリニティへの憎悪はまだくすぶっている。

 貧富の差も明確となれば、また不満が爆発しかねない。

 

「掃除に必要なものであれば、経費で落とす故、申請しろ。申請方法はマニュアルにまとめてある。後でお前達にも配ろう」

 

 なので、忙しくクタクタにさせて考える余裕を奪う。心を亡くすと書いて忙しいなのだから。

 訓練も考えたが、掃除の方が慣れていないので体力消費が大きい。

 そして何より、目に見える成果が出るので達成感が出る。

 後は、稼いだ時間で事業を軌道に乗せるだけだ。

 

「では、掃除を始めるぞ」

 

 そう言って、扉間は自身もミレニアム製の化学雑巾、“鬼落ちくん”を手にするのだった。

 

 

 

 

 

「水の無い所で、このレベルの洗浄力を発揮するとは……信じられん!」

「科学の力ってすごいですね」

 

 少ない水でも汚れをしっかり落とすミレニアム製の“鬼落ちくん”。

 元々は、水で洗えない機器のメンテナンス用に作られた化学雑巾だが、家庭掃除でも力を発揮する。

 開発者いわく、『メインで作っていた商品より、こっちの方が売れてちょっと複雑』な洗浄力は折り紙付きだ。

 因みに、キャッチコピーは『お前も掃除の鬼にならないか?』である。

 

「通常の雑巾よりも、ちと高いが……買ってきてよかったな。作業の効率性が随分と向上した」

 

 もちろん、その分値段は張るが水資源の少ないアリウスにおいても、使うことが出来る。

 水をよそから持ってくればいい?

 カタコンベ内部はトラック等で輸送できないので、輸送コストの方がかさむのだ。

 なので、アリウス生徒達で大量に持ち運べる化学雑巾の方が良いのだ。

 

「化学雑巾、鬼つええ! このまま頑固な汚れ全部消していこうぜ!」

「感服。積年の汚れがまさに泡のように消えていきます。これが『vanitas vanitatum』。まさに全ては虚しい」

 

 これには掃除とか面倒だなと思っていた、アリウス生徒達のテンションも上がる。

 台所のしつこい油汚れを一気に落とすかのような快感が、彼女達の脳内麻薬を分泌させる。

 まあ、徐々に慣れて最終的には掃除って面倒に帰ってくるのが世の常だが。

 

「掃除中にすまない。校長、ちょっといいだろうか?」

「サオリか。何かあったのか?」

 

 そんな掃除をしている扉間の下に、サオリが声をかけて来る。

 

「クロノススクールの報道部から、アリウスを取材させて欲しいというアポが生徒会長のアツコの方に入ったんだが……どうすればいい? アツコは校長の判断に従うと言っているが」

「報道部……ワシの死亡偽装を上手く拡散してくれた者達だな」

 

 “鬼落ちくん”を床に置き、扉間は腕を組んで考える。

 

「現在のアリウスはワシのトビラマチャンネルのせいで、トレンド入りをしておる。世間にアリウスの存在を知らしめるのは広報の意味でも悪くはない。いつかは、こうした話が来るとは思っておったが……侵入経路を教えるのはまだ危ないか」

 

 カタコンベはアスナに攻略されたが、逆に言えばそれ以外では正規の方法でしか突破できない。

 それは良くも悪くも、アリウス生徒達の心の大きな堤防になっている。

 他者を拒む壁であり、同時に自分達を守る盾。

 

「……取材は受けよう。だが、場所はシャーレだ。理由は……ベアトリーチェの残したサーモバリック手榴弾が転がっているので、危ないとでも言っておけ」

 

 サラッとベアトリーチェをスケープゴートにしつつ、扉間は指示を出す。

 ベアトリーチェは囮にて最適。

 文句? アツコを生贄の子羊扱いした自業自得だ。

 

「了解した。取材を受けるのは……姫でいいのか?」

「ああ、ワシがシャーレに連れて行く。サオリ、お前はワシとアツコが留守の番を頼む。一般の生徒には引き続き、校舎の掃除をさせておいてくれ。問題があればワシに連絡をしろ」

「分かった。任せてくれ」

 

 扉間はアリウスは、まだ完全な部外者を招くのには早いと判断する。

 なので、シャーレにて取材対応を行う。

 これならば、アリウスの侵入経路がバレる危険性はない。

 

「では、しばらくぶりにシャーレに戻るとするか」

 

 

 

 

 

Q:「それではまずは、自己紹介からお願いします!」

A:「秤アツコ、アリウス学園の生徒会長を務めてる、よろしくね」

A:「千手トビラマだ。シャーレの顧問兼、アリウス学園の校長だ。よろしく頼む」

 

Q:「アリウス学園はキヴォトスでは忘れ去られた…失礼! 伝説と化していた学校。今回どうして表舞台に出て来たのでしょうか?」

A:「私達は過去にトリニティの弾圧を受けて隠れていた。でも、それは過去の話。今のトリニティには弾圧の意志がないのを、ティーパーティーのホストから保証されたから」

A:「ゲマトリアのベアトリーチェという輩に、支配を受けていたので先生として助け出したまでのこと。そして、正式な学園として連邦生徒会の承認を得るためにワシが校長に赴任したのだ」

 

Q:「詳しくお話をしてくださり、ありがとうございます! それでは次の質問なのですが、ズバリあのトビラマチャンネルの()()()()()の真偽についてです。ベアトリーチェが変身するなど、常識では考えつかないことが起きており、一部では人気取りのためのフェイクと言われていることも」

A:「ベアトリーチェという大人が生徒会長を務めて、私達を支配していたのは事実。磔にされていた時の傷があるけど見る?」

A:「偽装動画だと? そんなことをしてまで人気を得たい人間が、仕事をするだけの無言の動画をアップロードすると思うか?」

 

Q:「すごい説得力ですね! はい、私もあのクソ動…失礼! お仕事動画はあまり人気が出ないものと思っていました。ところで、トビラマ先生は死亡説が流れておりましたが、その際はどこにいらっしゃったのでしょうか?」

A:「ベアトリーチェより暗殺を仕掛けられたのでな。このままでは危ないと思い、身を潜めていた」

 

Q:「なるほど、納得です。では、世間の方々が注目していることなのですが、アリウス学園がシャーレ直属の治安維持部隊になるとは、どういうことなのでしょうか?」

A:「私達アリウスはまともな教育は受けていない。ベアトリーチェから戦闘の技術だけを磨かされてきた。ベアトリーチェは居なくなったけど、私達の過去は帰って来ない。このままだと、学校の運営資金もまともに稼げない」

A:「故に、治安維持部隊として抜擢したのだ。戦闘力しかないなら、その戦闘力で金を稼ぐしかない。いずれは、他の学校同様に普通の学び舎にするつもりだが、現段階ではそれがアリウスを救う最良の道だと判断したまでだ」

 

Q:「具体的にはどういった活動をするのでしょうか?」

A:「依頼料を貰って不良達の鎮圧をしたり、警備が必要な時は代わりにしたり、それ以外にも治安維持活動ならするよ。他の学園に喧嘩を売って来てとかは受けないけど」

A:「アリウス学園の生徒は全員がシャーレの部員となる。学園の垣根なく動くことが出来る。また、シャーレに持ち込まれた通常の依頼を、アリウス生徒達にやってもらうこともあるだろう」

 

Q:「なるほど! まるで、閉鎖されたSRT特殊学園のような組織ですね! もしや、連邦生徒会長の失踪によるSRT特殊学園の閉鎖の後釜として作られたのですか?」

A:「SRTってなに? 校長先生」

A:「特別対応チーム(Special Response Team)。連邦生徒会長個人の特殊部隊だ。ワシの権限はそもそも、連邦生徒会長由来のもの。シャーレと同じように、自由にキヴォトス全土の事件を解決に当たれる。精鋭揃いの学園()()()と聞いている」

 

Q:「流石! よくご存じですね。それで、答えはどうなのでしょうか? 先生」

A:「SRT特殊学園が必要なら、直接ワシの管轄に置く。装備も人員も揃っている場所を無視して、わざわざ一から新しい学園を作ると思うか? そして何より、先程も言ったようにいずれはアリウスも通常の学園に戻る。特殊部隊として残すつもりはない」

 

Q:「ほうほう、なるほど……確かに最新鋭の武装だけでもとんでもない出費です。そのまま貰えるなら、それが一番ですね。しかし、連邦生徒会の影響を受けない自分だけの部隊が欲しかったという見方も出来ます」

A:「……校長はベアトリーチェとは違うよ」

A:「ワシが権力と武力を持ちすぎているという自覚はある。1人に力が集中している状況が好ましくないのは確か。それに何より、ワシはお前達生徒の未来を必要以上に縛りたくはない。だが、アリウスを救うためにはこれが最適だったのだ。大人が犯した罪は、同じ大人であるワシが尻ぬぐいせねばならん」

 

Q:「おお! 噂通りの理想の教育者ですね、先生。それでは、これで最後の質問なのですが……(ちまた)の噂では先生は忍者で忍術を使うと言われているようですが、本当でしょうか!?」

A:「忍が無暗に情報を与えると思うか?」

 

Q:「その言い方が、逆に忍者っぽい! それではインタビュー、ありがとうございました!」

 

 

 

 

 

「先生、アツコさん。インタビュー、お疲れ様でしたー。お茶を淹れたのでどうぞ」

「ノノミか、すまんな。頂こう」

「ありがとう……」

 

 クロノススクールのインタビューも終わり、一息をつく扉間とアツコ。

 そんな2人の下に、シャーレの留守を任されていたアビドスのノノミがお茶を持ってくる。

 

「これは……緑茶?」

「はいー、先生の好みなのか、いっぱいありましたので」

「初めて飲むかも」

 

 しげしげと緑色のお茶を眺めるアツコ。

 トリニティは紅茶が主流。

 そして、アリウスの環境では嗜好品はあまり手に入らないが故の反応だ。

 

「む? ノノミ、来客用の紅茶があるはずだ。そっちも頼む」

「大丈夫だよ先生、いろいろ経験してみたいから」

 

 それに気づき、飲みなれていそうな紅茶を持ってこさせようとする扉間。

 だが、アツコはそれを首を振って拒否する。

 

「いただきます」

 

 そして、初めての緑茶を上品な仕草で一口飲む。

 

「うん……美味しい」

「それはよかったです」

 

 柔らかく顔をほころばせるアツコに、ノノミもほんわかと笑う。

 お嬢様だけが出せる優雅な空気がそこには漂っていた。

 

「ノノミ、留守の間は助かった。ワシが留守の間に何か困ったことはなかったか?」

「いえいえ、セリカちゃんもアヤネちゃんも張り切って、バイト代は稼いでましたし、分からないこともリンさんが丁寧に教えてくださいましたから」

 

 自分の留守の間に、シャーレを任せておいたノノミに礼を言う扉間。

 それに対して、ノノミは楽しかったので大丈夫と笑う。

 

「……でも、1つだけ気になることが」

 

 しかし、ノノミはあることを思い出して顔を曇らせる。

 

「何か問題があったか?」

「いえ、問題ではないんですけど……リンさんと話している時に小耳に挟んだんですけど、SRT特殊学園が()()になると聞きまして」

「なるほど……お前達には他人ごとではないか」

 

 ノノミが顔を曇らせた理由。

 それを察して、扉間は難しそうに目を瞑る。

 

「はい……私達と理由は違いますけど、学校が閉鎖されるのは可哀想だと思って……」

「どういうこと…?」

「ノノミの通うアビドス高校はな。全校生徒5名で、なおかつ借金を8億程抱えておる廃校寸前の高校なのだ」

 

 語られるアビドスの状況のヤバさに、アツコは目を白黒させる。

 因みに、借金の正確な数字は8億725万8600円だ。

 

「……もしかして、アリウスよりも不味い状態?」

「日常生活はともかく、学園の存続という点ではアリウスの数倍不味いな」

「借金はともかく、生徒数が居ないと厳しいですねぇ……あ、そうだ! アリウスの方で転校したい方とか居ませんか?」

「もう少し早く会ってたら、私が立候補したかもだけど、今はやらないといけないことがあるから」

 

 転校しません?

 そう言って、冗談か本気か分からない笑みを浮かべるノノミに、アツコは首を振る。

 ベアトリーチェ時代ならともかく、今の状態であっさり故郷を捨てられる程薄情ではない。

 

「残念です。それで、先生。どうにか出来ませんかね?」

「SRTは連邦生徒会長の権限の下に成立していた学園。要するに、ワシ以上の権限の下に成立していたということだ。ワシの一存で閉鎖の取り消しは出来んだろうな」

「そうですか……」

 

 シュンとした顔になるノノミ。

 アツコも何となくいたたまれない気分になり、扉間とノノミの間で目を泳がせる。

 

「………だが、ワシも学校が無くなるのは見たくはない」

「先生!」

 

 アビドスの時と同じ。

 学校が無くなるのを見るのは嫌だ。

 その気持ちは、扉間とて変わらない。

 

「とは言え、連邦生徒会で審議の上に決められた閉鎖。まずは、情報収集が先決だ……ノノミ、この話はリンから聞いたのだな?」

「リンさんから聞いたと言いますか、通話中に他の方の話が入って来た感じですね。何でも『SRT学園の閉校に伴い、一部生徒が暴動を起こすかもしれないので、事前に部隊を準備しておくように』と話していました」

「なるほどな……一部の連邦生徒会役員が襲撃を受けたと聞いていたが、前例有りなら当然準備はするか」

 

 自分がトリニティとゲヘナ、アリウスを転々としている間に、SRT特殊学園のFOX(フォックス)小隊が学園閉鎖に反対して連邦生徒会を襲撃した事件を思い出し、考え込む扉間。

 

「……ワシらがどれだけ言っても、本人達にその気がなければ意味がない。その点は、どうやらクリアしているようだな。やり方に問題はあるが」

「もしかして、クーデター? アリウスだけだと思ってたけど、流行ってるんだね」

 

 軍隊が上に逆らう。

 アツコが言うようにクーデターだ。

 今回はFOX小隊は逃走したようなので失敗だが、トリニティといい、アリウスといい。

 どうも、最近はクーデターをするのがキヴォトスのトレンドらしい。

 

「馬鹿を言うな。遊びではないのだぞ? クーデターなど流行ってたまるか」

「でも、先生のトビラマチャンネルでのアリウスのクーデターがバズッたせいか、SNSではクーデターという言葉が流行ってますよー」

「………ワシを責めるつもりか?」

 

 悲報。千手トビラマ、クーデターブームの火付け役となる。

 

「フゥー……取りあえず、リンと話すか。本当にワシの動画が影響があるなら、ワシにも責任がある」

 

 クーデターなど普通に考えて、やる側もやられる側も死ぬリスクが高すぎる。

 だが、キヴォトスにおいては通常のクーデター程度では人は死なない。

 むしろ、ヘイロー破壊爆弾まで用意できたアリウスがガチ過ぎただけだ。

 なので、文字通り引き金が軽いのである。

 

 扉間はその事実に溜息を吐きながら、リンに電話をかける。

 

「もしもし、リンか? ワシだ、千手トビラマだ」

『先生? 直接、電話とは珍しいですね。何か緊急事態でも? 出来れば、後にして貰いたいのですが』

「忙しいところすまんかったな。後でかけ直すとしよう。用件はSRT特殊学園のことだ」

『…ッ! すでに、RABBIT(ラビット)小隊が“子ウサギ公園”を占拠した情報を手に入れていましたか……』

「……何の話だ?」

 

 忙しさで明らかに不機嫌になっているリンの声に、時間を置こうと考える扉間。

 しかし、リンの方はSRT特殊学園という言葉に反応を示して、情報を溢す。

 そして、それを見逃す扉間ではない。

 

『? その件ではなかったのですか?』

「別件だが……今のはワシに話せる内容か?」

『それは……いえ、どの道明らかになることです。お話ししましょう』

 

 誤魔化すべきか、一瞬考えるリンだったが無理だと悟り事情を説明する。

 

『先程も話しましたように、現在元SRT特殊学園の1年生4名。通称、RABBIT(ラビット)小隊が“子ウサギ公園”を不当に占拠しています』

「敵の行動目的は分かるか?」

『SRT特殊学園の閉鎖の取り消しを、連邦生徒会に訴えています』

「単なるデモか? それとも武装蜂起か?」

『現在は軍事行動に移っていませんが、SRT特殊学園より持ち出した特殊兵装を不当に使用している疑いがあります。また、占拠した子ウサギ公園にトラップなどを仕掛けている様子です』

 

 淡々と、必要な情報だけを正確に渡してくる、リン。

 そんな報告に、非常に簡潔で良いなと思いながら扉間は考える。

 

「連邦生徒会としてはどう動くつもりだ?」

『SRT特殊学園の生徒が不穏な動きをする可能性は以前より考えていましたので、事前に用意しておいた戦力で鎮圧に向かいます。事態が大事になる前に何とか致しますので、先生はお気になさらずに』

 

 こっちで何とかするので、首を突っ込まないでくれ。

 言外にそう言いながら、リンは電話を切ろうとする。

 だが。

 

「待て。キヴォトスではデモ活動は禁止されているのか? デモ自体は悪い事ではなかろう」

『……いえ、正当な手続きを踏めば、もちろん権利として保障されています。ですが、今回は子ウサギ公園の不当な占拠。そして、既にSRT特殊学園の生徒ではない彼女達では、扱うことの許されない兵器の違法使用。今回の件で鎮圧に動く理由は以上になります。正規の法に則って動いていますので、ご安心を』

 

 降って湧いたチャンスを逃す扉間ではない。

 何より、ここまで聞いてしまった以上、リンを見殺しにするわけにもいかない。

 大人の汚い手助けが必要だろう。

 

「ワシが特殊兵装の使用許可を出す。リン、お前は子ウサギ公園の使用許可を正式に出せ」

『……はい?』

 

 何言ってんだ、こいつ?

 電話越しにもリンの冷たい視線が伝わってくるが、扉間は無視をする。

 

「準備しておいた兵力はお前達の護衛に回せ。わざわざ、相手が罠を仕掛けている場所に行く必要は無い」

『ですが、それではクーデターを見逃すことに――』

「正式に許可を出せば、これは単なる()()でしかなくなる。単なるデモに一々連邦生徒会が反応する必要は無い。奴らは学園閉鎖の撤回を叫び、お前達は無視するという権利を行使する。FOX小隊のように攻勢に出た場合にのみ潰す方が、理にかなっている」

 

 敵が守っている場所にわざわざ踏み込むのは、愚策でしかない。

 誘き出して叩くのが定石だ。

 

『……数では圧倒的にこちらが上です。ヴァルキューレ警察学校を含めれば、3倍どころか10倍の戦力は投入出来ます』

「敵は小隊であろう? 同じ小隊のFOXに好き勝手されたのをもう忘れたのか? 数の差を覆す質を持っているのが、特殊部隊だ。防衛を固める方が吉だ」

 

 数の利を主張するリンだったが、FOX小隊に被害を受けた過去を出されては何も言い返せない。

 数で(まさ)っていても負けるのだから、何も安心できない。

 むしろ、有利な状況に何が何でも持ち込むべきだ。

 

「無論、そのままRABBIT(ラビット)小隊を放置する気はない。これは時間稼ぎだ。ワシが何とかする故、こちらに任せてくれ」

『……どうなさるつもりですか?』

 

 扉間がこの件を解決する。

 その方法を恐る恐る尋ねる、リン。

 

「出来る限り、大事にせずに穏便に済ますつもりだが……万が一市民に手を出すようなら、テロリストとして処分する。よいな?」

 

 ノノミの方を見て、問いかけると彼女もコクンと頷く。

 やってはならないことのラインを超えた場合は、罰するしかないのだと理解して。

 

『……分かりました、先生にお任せします。それで具体的にはどうなさるつもりなのですか?』

「城攻めの基本だ。まずは――」

 

 観念したような声を出す、リン。

 そんな彼女に苦労を掛けるなと思いながら、扉間は安心させるように声をかける。

 

 

「―――兵糧攻めだ」

 

 

 

 

 

 子ウサギ公園。

 普段は市民の憩いの場所として、開放されている場所。

 だが、現在その場所は異臭を漂わせる黒づくめの集団に包囲されていた。

 

「えっ! 今日はただでカレーライスを食っていいのか!!」

「ええ、皆さんのための炊き出しです。しっかり食べてください」

 

 黒づくめのシスターの集団、シスターフッド。

 その長のサクラコは、カレーが大量に入った鍋の前で裏のない笑みを浮かべる。

 

「ふむ、良い匂いだな」

「ええ、カレーは野菜やお肉の栄養を無駄なく摂取できるだけでなく、()()()()()()()で炊き出しには、ピッタリなんですよ」

 

 風に乗り子ウサギ公園全体に漂う、カレーのスパイシーな香り。

 そんな戦意を奪うような匂いの中。

 扉間とサクラコは他のシスター達が、並んでいる人達にカレーを配っていく様子を見ながら、会話をする。

 

「炊き出しを行うのは珍しい事ではありませんが、先生からのお願いには驚きました」

()()()()()()()との交流も兼ねてな」

 

 扉間がチラリと目を向けた先では、シスター達に混ざってカレーをよそうアリウスの生徒がいる。

 アリウス学園の仕事として、炊き出しを手伝っているのだ。

 炊き出し(ボランティア)も立派な治安維持活動である。

 報酬は金銭+カレーだ。

 

「私としてはアリウス学園自体に、炊き出しを行いにいっても良かったのですが……」

「ただで施しを与えるというのは、ある意味で相手のプライドを傷つける行為だ。お前達の信仰を否定するわけではないが、トリニティに属する者の下に居るとは思わせたくないのだ」

 

 アリウスにもプライドはある。

 単なる施しではなく、仕事の対価として糧を得る方が将来的にも良い。

 なので、こうして仕事をさせつつ、シスターフッドと交流を図らせているのだ。

 

 因みに、依頼料はシスターフッドから出ているが、依頼料や材料費などをティーパーティーが陰ながら渡すなどして、ミカ達もマネーロンダリングを行って支援している。

 

「まあ……今回の一番の目的は、この場所で炊き出しを行うことにあるのだが」

 

 まあ、今回の炊き出しの目的は、匂いで子ウサギ公園の中に居るRABBIT(ラビット)小隊の戦意を削ぐことなのだが。

 扉間は正式にRABBIT(ラビット)小隊へデモの許可を出し、稼いだ時間で彼女達の痕跡を調べた。

 

 その結果として、学園から武器などは持ち出したが食料はほとんど持っていっていないことが発覚。

 長期的な兵糧攻めをしなくても、陥落させられると踏んでシスターフッドに華麗(カレー)なカレー攻めを頼んだのだ。

 まさに激美味(うま)ギャグである。

 

「はい、皆で同じ食卓を囲むことで、争う者達に話し合いをしてもらう下地を作る。素晴らしい考えだと思います」

 

 そして、サクラコは例によって詳しい内容は知らない。

 安全のため、RABBIT(ラビット)小隊が占拠していることは伝えて、もしもの時はアリウスが護衛になると言っているが、兵糧攻めは聞いていない。

 なので、匂いでRABBIT(ラビット)小隊の腹を苦しめていることを知らない。

二代目火影の卑劣な隠蔽工作だ。

 

「それでは、先生もどうぞお食べください」

「む、よいのか?」

「遠慮せず、しっかりと食べてください。もちろん――」

 

 サクラコはそんな扉間にも、何の疑いも向けることはない。

 そして、ニッコリと影のない綺麗な笑みを浮かべてみせる。

 

 

 

「―――おかわりもいいですよ?」

 

 

 

 そうして自身でよそったカレーを、扉間に差し出すのだった。

 




次回予告:ヒヨリ、両手でフライドチキンを頬張る。

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