千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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43話:長の資質

 

「あれから、ラビット小隊の態度が岩のように固くなってしまった。銭湯代も突っ返されたしな……やはり、年若い女子に臭いの話をするのはセクハラだったか……」

『まあ……特殊部隊と言っても、女の子ですからね。でも、衛生観念を考えれば仕方なかったと思いますよ、先生』

「千手一族秘伝の臭い消しを作ってきたのだが、これで謝罪になると思うか? アロナ」

『えーと、何だか更に煽りになりそうなので、やめておいた方が良いと思いますよ?』

 

 子ウサギ公園。

 前日の炊き出しも終わり、閑散としたその場所に扉間は1人で立つ。

 今日の護衛はアロナだけだ。

 

「ハァ……そもそも、連邦生徒会長の行方が分かれば、こうも物事が複雑にはならんのだがな」

『れ、連邦生徒会長さんも、複雑な事情があるのだと思いますよ…?』

「せめて、後継者ぐらいは指名してから消えるべきだろうに。どういう体制であれ組織でトップが決まらんのは、残された者への負担が多すぎる」

 

 自分がいつ死んでもいいように、大名等にヒルゼンを後継者として伝えていた扉間は、このような投げっぱなしな現状にした連邦生徒会長へ苦言を溢す。

 それに対して、アロナは連邦生徒会長を擁護しようとするが、言葉に覇気がない。

 

 どうしたんだ、アロナ? いつもより声が小さいぞ。

 

『せ、先生程、大人ではなかったからですかね…?』

「せめて、トップが誰であろうと回るシステムを構築しておけば、このようなことにはならんかったはずだ……まあ、アロナの言う通り子供のミスを指摘するのも大人気が無いか」

 

 そもそも、連邦生徒会長1人に権力が集中している状況が間違っている。

 重要なのは里の仕組み(システム)だ。

 トップに寄りかかり過ぎる組織は、長続きしない。

 次の世代のことを常に考えて動くべきだ。

 

『……先生は、トップに立つ人はどのような人が良いと思いますか?』

 

 しばしの沈黙の後。

 アロナがそんな疑問を投げかけて来る。

 

「長の条件か? まあ、長と一口に言っても集団によって求められる素質は変わってくるな。何よりも強さが重視される集団もあれば、他勢力との交渉を重視する集団もある。甘い性格の方が上手く回る組織もあれば、杓子定規(しゃくしじょうぎ)な性格でなければ回せない組織もあるだろう」

『それらの全ての上に立つなら、どんな人になると思いますか? やっぱり、何でも出来るスーパーマンみたいな人ですかね』

「さらに上? ……国のトップか。そうだな……」

 

 アロナがスーパーマンみたいな()()なら、良いのかと言う。

 それに対して、扉間は足を止めて誰かを思い出す様に目を瞑る。

 

 まぶたの裏に焼き付いた、大きく頼りたくなる背中を。

 

「……カリスマのある馬鹿だな」

『バ、バカですか?』

「ああ、そうだ。トップは適度に抜けている所がある方がいい。その方が、支えてやりたいと思われやすいからな」

 

 再び歩き始めながら、扉間は柱間のことを思い出す。

 ついでに、サキ達の仕掛けたトラップを全て回避しながら。

 

「大真面目に夢を語れる馬鹿。その絵空事を人に信じさせる熱い火を持ち、決して諦めない。何度くじけても立ち上がるド根性を持って、馬鹿の一つ覚えで険しい道の先頭を進める者。しかし、そいつ自身で全てが出来る訳ではない。オレが支えてやらなければと誰もが思い、そして頼りたくなる何かがある」

 

 神の如き力を持ってはいたが、兄者の真の魅力はそこではない。

 地獄の中でも綺麗ごとを語り、決して諦めないド根性を持つ。

 政治などはハッキリ言って下も下だが、そんなもの出来る奴がやればいい。

 頼りたくなる背中。それが一番の魅力なのだ(早口)。

 

「何より、自分1人では全ては出来ないと理解し、後ろに続く者達に意思の火を継ぐことの出来る者……それが理想の長だな」

『…………』

 

 扉間の回答に、アロナは静かに聞き入る。

 まるで、その言葉を脳裏に刻み込むように。

 

『私は……先生みたいな何でも出来る人が、トップに立つべき人だと思っていました』

「ワシか? まあ、やれと言われれば出来るが、あくまでも繋ぎだな。ワシは長には向いておらん。どちらかと言うと、支える役目の方が得意だ」

『そうなんですか? いつも、私達のことを導いてくださるので、得意だと思っていました』

「人間、出来ることと、得意なことは案外揃わんものだ。現場作業の方が向いているが、他に出来る人間が居ないが故に事務方に回っている者もよくいる。無論、その逆もな」

 

 指揮官適性は低いが、元々の能力が高いゆえに上司に回る。

 本当は現場でずっと働いていたいのに、というのは仕事あるあるだ。

 扉間だって、柱間やナルトを支える方がずっと得意なのだ。

 まあ、本人の能力が高すぎるが故に、無難にこなせてしまっているのだが。

 

「どんなに能力が高かろうと、1人で全てを背負おうとする者は必ず失敗する。目的の正誤に関わらずにな」

 

 そう締めくくり、扉間は最後のトラップを回避してRABBIT(ラビット)小隊のテントの前に立つ。

 

「ワシだ。千手トビラマだ。今日も話しに来たぞ」

「来ないで良いと言ったはずですが……昨日今日で私達の意志が変わると思ったら、大間違いですよ」

 

 胡乱気な目を向けながら、テントから出て来るミヤコ。

 ただし、体臭が気になるのか距離は保ったままだ。

 

「ふむ。どうにかして、風呂に入ったようだな」

「ッ!? 軽率に女性の匂いを嗅がないでくれますか!?」

「匂い消しを作ってきたが、要るか? 3日間風呂に入らんでも匂わんとトリニティの生徒のお墨付きのものだ」

「まだ臭うと言いたいんですか? ドラム缶風呂を確保できたので、要りません!」

 

 アロナにやめといた方がいいと言われたのに、結局匂い消しを提示する扉間。

 そしてアロナの予想通りに、ミヤコに否定される。

 そういう所ですよ、先生。

 

「衛生状態を清潔に保てるのなら、文句は言わん。病気にでもなったら一大事だからな」

「そ、そう言えば、お風呂に入らないとウィルスとかも落ちないから、病気になりやすいって聞いたことが……ううぅ、私達はここで病気になって誰からも忘れ去られて死んでいくんだ」

「いや、流石に病気になったら病院に連れて行くからさぁ。でも、野営をしたまま病気で弱っていくのも……やっぱり、それは面白くないかも」

 

 病気にならないために清潔を保てと言う、扉間。

 ミユはその言葉にテントの中で寝込む自分を想像して、ネガティブな発言を繰り出す。

 ついでに、モエは破滅の未来を想像して、一瞬興奮しかけるが病気で衰弱していくのはつまらないとすぐにスンっとなる。

 

「……というか、どうやって1人でここまで来たんだ? 一般人がほとんど来ないのを良いことに、くくり罠とか地雷とか仕掛けたのに」

「昨日も言ったが、お前達のトラップは教科書通りのものだ。相手が素人でない場合は逆に読みやすくなる」

「きょ、教範通りにすることが悪いって言うのか!?」

 

 昨日に続いて、トラップにかすりもしなかった扉間の姿に、若干ショックを受ける、サキ。

 まあ、あだ名が卑劣な奴に悪辣さで勝つのは難しいので、余りショックを受けないで欲しい。

 

「基本に忠実なのは悪い事ではない。守破離(しゅはり)とも言うが、まずは基本を守ることが何よりも大切だ。そしてお前達はまだ1年生。基本を完璧に守れていることは、褒めるべきこと以外の何物でもない。空井サキ、座学も完璧で態度も非常に真面目な優秀である生徒だと評価されているだけはある」

「ほ、褒めたところで、騙されないぞ! 大体、ダメな所があるから指摘しているんだろ!!」

「確かに欠点を指摘はしているが……それは単なる経験の少なさからくるものだ。致命的な欠点ではない。お前達はまだ若い。これから、経験を積んで学んでいけばいいだけのこと。短所ではなく、伸びしろと言い換えてもいい」

「の、伸びしろ…?」

 

 座学は満点だが、実技だとダメダメ。

 SRTに居た時から指摘されていた欠点を伸びしろと言い切る扉間に、サキは目を白黒させる。

 まさか、兵糧攻めする奴に褒められるとは思っていなかったのだ。

 

「………じゃ、じゃあ、お前をトラップにかけるにはどうすればよかったんだ?」

「サキちゃん…?」

「ち、違う! 参考だ! あくまでも参考に聞いているだけだ!! 別に教えてもらおうとしているわけじゃないからなッ!!」

 

 おずおずと、教えを乞うサキの姿にミユが裏切り者という目を向ける。

 なお、実際にはこいつが裏切り者(フライドチキン)である。

 

「ふむ。まず初めに言っておくが、基本に沿わない仕掛け方をしろと言っているわけではない。素人が仕掛けるようなトラップでは、そもそも発動せんからな。重要なのは、型を破ること。即ち応用編だ」

「応用?」

「ああ、相手がこちらの罠を読んでくるのなら、罠を避けたところに更なる罠を仕掛けるまで。例えば、そこの地雷。分かっていて地雷を踏む馬鹿はいない。なので、ワザと少しだけ分かりやすいように仕掛ける。そして、そのすぐ横に本命の地雷を仕掛けて、そちらを踏ませる」

 

 相手がトラップを避けようとする行動を利用して、そこにもトラップを仕掛ける。

 素人は地雷を見つけたら大幅に迂回するが、半端な知識がある奴ほど近くを通って引っかかってくれる。

 油断させたところを狙う。扉間が息を吐くように行う外道戦術だ。

 

「なるほどな……あ、いや、違う! さ、参考にはなるな!!」

「ええ、サキの言う通りです。参考にはなりますね、参考には」

 

 真面目ゆえに普通に納得を見せるサキだったが、すぐに首を振る。

 これでは、まるで普通の先生と生徒のようではないかと。

 なので、ミヤコと一緒にあくまでも参考にするだけと強がりを見せる。

 

「ああ。また明日も来る故、今の話を参考にしてトラップを仕掛け直してみろ。期待しているぞ」

「なに、私達の先生みたいに振舞ってるのさ……いや、それ以前に自分が来るから仕掛け直せって何? 地雷一発でヤバいんでしょ、キヴォトスの外の人って」

 

 まるで、自分達の成長を採点する教官のような扉間に、嫌味を言うモエ。

 いや、自分にトラップを仕掛けろと言っているのは、正直ちょっと引いているが。

 

「心配は要らん、()()()()()()()防御手段は持ち合わせておる」

「……そう言えば、巡航ミサイルを撃ち込まれても無傷だったって、ネットの噂で流れてたけどマジなの?」

「さてな? 知りたいのなら、自分達の成長でもって確認してみるがいい」

 

 アロナガードの存在を示唆する扉間だったが、答えまでは言わない。

 まるで、その答えには自分達で辿り着いてみろと期待するように。

 後、また危ないことをしようとする扉間に、怒ろうか悩んでいたアロナも信用を口に出されてチョロッと陥落する。

 100均で買った吸盤フックだって、こうも簡単には落ちないだろう。

 

「……いいだろう。痛い目を見ても泣くんじゃないぞ」

「フ、期待しておるぞ。では、ワシは()()()があるので帰らせてもらうとしよう」

 

 煽るような扉間の口ぶりにカチンと来たのか、サキは絶対に成長して扉間をトラップに嵌めてやると決意する。

 

 

「あれ…? け、結局、また明日も来るってこと?」

 

 

 扉間に明日も訪ねに来るという大義名分を与えるというトラップに、気づくことなく。

 

 

 

 

 

「初めまして、トビラマ先生。キヴォトス連邦生徒会所属、防衛室長の不知火カヤと申します」

「千手トビラマ。シャーレの顧問兼、アリウス学園の校長だ。今日は貴重な時間を作ってもらって、助かった」

「いえいえ、他ならぬ先生のお願いですから。それに、私個人もシャーレの先生にお会いしてみたかったので」

 

 高そうな家具や、華美な装飾が施された小物の置かれた客室。

 その空間に、コーヒーの良い匂いが漂う。

 恐らく、扉間がキヴォトスに来てから飲むコーヒーで最も質の良いものだろう。

 

「お噂はかねがね。どんな生徒もお助けくださる、スーパーマンのような先生だとお聞きしています」

「過分な評価だな。全ては生徒の力があってのもの。ワシは子供達の力を借りただけで、未来を掴み取ったのは生徒達自身だ」

「ご謙遜を。悪人に支配されていたアリウス学園を救い、その後、校長として導いているのは、トビラマ先生でないと出来ないことだと思いますよ」

 

 扉間と向かい合って座るのは、連邦生徒会所属の防衛室長である不知火カヤ。

 ヴァルキューレ警察学校のトップでもある彼女は、ニコニコと目を細めて温和な空気を作り出す。

 

「まあ、ワシのことはいい。今回、時間を作ってもらったのは他でもない。RABBIT小隊のことだ」

「子ウサギ公園で、SRT特殊学園の閉鎖の反対デモをしている子達ですね。リン行政官から、公園の使用許可が出された時は何事かと思いましたが、先生の指示だったのですね」

 

 コーヒーカップを持ち、匂いを楽しんだ後に一口飲む、カヤ。

 その仕草に違和感はなく、いつもやっている行いだということが良く分かる。

 

「お前達、連邦生徒会には迷惑をかけた」

「いえいえ、まだ1年生と言えどもSRT特殊学園のエリート達。先日のFOX(フォックス)小隊の襲撃で受けた被害を考えれば、先生の攻め込まずに守りを固めるという考えは正しいと思いますよ。おかげで、防衛室としても無駄な戦闘を避けることが出来ましたし」

 

 RABBIT小隊のデモが違法のままだった場合、駆り出されたのはヴァルキューレ警察学校生徒。

 そして、それでもダメなら公安局の生徒。

 要するに、防衛室の負担が増えるだけなのだ。

 

「私としては、むしろ先生に感謝しているぐらいです。連邦生徒会長が失踪後のキヴォトスは犯罪率が大幅にアップしていますので、防衛室は猫の手でも借りたいのが現状。ヴァルキューレ警察学校も経済状況がよくありませんし。なので『デモなら勝手にしろ、無視するから』の精神には、正直に言ってスカッとしました……無駄な犯罪や事件が多すぎるんですよ、キヴォトスは」

 

 RABBIT小隊があのまま武力蜂起に移行していれば、動かなければならなかったが結果はデモをするだけ。実に大人しい。借りて来た猫のような大人しさに、思わず他の生徒もこのぐらい大人しければと思わずにはいられない。

 

「と、すいませんね。つい、愚痴が零れてしまいました」

「構わん。お前達はまだ若い中でよく頑張っておるのだ。愚痴の1つや2つ零れよう」

「優しいですね、先生は……ああ、そうだ。コーヒーはどうですか? キヴォトスでは中々手に入らない、希少な豆を使ってあるんですよ」

「ワシは余りこういうものに、教養があるわけではないが……ふむ、悪くない」

 

 カヤに勧められたコーヒーの匂いを嗅ぐ扉間。

 まあ、カヤと違い目的は毒などの異物混入が無いかの確認だが。

 

「さて、話はRABBIT小隊の件でしたね。先生は、私に何をして欲しいのですか?」

 

 扉間がコーヒーに口をつけるのを満足そうに眺めた後に、カヤが問いかける。

 一体今日は、何の交渉のために来たのかと。

 

「SRT特殊学園の閉鎖が決まった以上、あやつらの学籍はヴァルキューレ警察学校に移動させられる。それに間違いはないか?」

「はい。SRT自体は連邦生徒会長の私兵的な存在でしたが、警察組織という側面も確かに持ち合わせていました。なので、同じ警察組織であるヴァルキューレが転校先になっています」

「現状のRABBIT小隊の学籍はどこになる?」

「……生徒の学籍は余程のことがない限り、個人の意思が無ければ変えられません。なので、学籍自体はSRT特殊学園のままです。もっとも、学園が存在しないので、あまり意味のある学籍ではありませんが」

 

 コーヒーカップを置き、何かを考えるように人差し指を自身の唇に当てるカヤ。

 

「ですが……学籍を強制的に弄る方法はあります」

 

 学籍を弄る。

 即ち、無理やり転校させたり、退()()()()()()出来る力。

 

「所属する学園の生徒会の承認。そして、学籍を管理する連邦生徒会もしくは……()()()()の権限。これらがあれば、本人の承認なく学籍を動かすことが出来ます」

(補習授業部が黒だった際に、ナギサがワシにやらせようとしていたことと同じ……やはりか)

 

 元々は、不良生徒や犯罪者に対処するための権限。

 いつまでも、追放したい生徒を抱えるわけにもいかない学園と、学園の自治には口出し出来ないが、問題児を取り締まりたい連邦生徒会の意見が一致した時にのみ出来る行い。

 

 だが、悪用しようと思えば、生徒会(ナギサ)連邦生徒会(シャーレ)が秘密裏に手を組んで退学させられるのだ。

 そして、退学が出来るのなら転校手続きぐらいも当然できる。

 

「それで、先生はRABBIT小隊の学籍をどうしたいのですか? ここに居るのは、ヴァルキューレ警察学校の生徒会に口を出せる私と、シャーレの特権を持つ先生。唯一対抗出来るSRT特殊学園のトップである連邦生徒会長は行方知れず。私達を止められる存在はありません」

 

 薄っすらと目を開けて、ヤギのような瞳でねっとりと扉間を見る、カヤ。

 それは何かを試すようで、見定めるような目であった。

 

「今回、お前に会いに来たのは他でもない。RABBIT小隊の学籍の――」

 

 それに対して、扉間は淀むことなく告げる。

 

「―――維持のためだ」

「学籍の維持……SRT特殊学園所属のままに、つまりは現状維持のお願いですか?」

「そうだ。ヴァルキューレには迷惑をかけるが、もう少しだけあやつらに時間をやって欲しくてな」

「時間?」

 

 小首を傾げるカヤに扉間が説明を続ける。

 

「今のあやつらがやっている行いは、ハッキリ言って何の成果も出せない行いだ」

「……あらら、結構キツイことを言いますね、先生も」

 

 扉間のズバッとした物言いに、カヤは苦笑いを零す。

 ただし、否定はしない。

 カヤもまた、同じことを思っているから。

 

「SRT特殊学園の閉鎖理由は連邦生徒会長の失踪によるもの。もっと詳しく言えば、SRTを動かせる人間がいなければ、閉校が無くなっても置物でしかない。それなら、ヴァルキューレ警察学校、SRT分校として組み込んだ方がまだいい。武装は連邦生徒会長の強権が無ければ、財源的に厳しいだろうが特殊部隊としての性質はそれで保てるはずだ」

「連邦生徒会長の言うことしか聞きたくないのでは?」

 

 若干からかうようなカヤの物言いに、扉間は首を横に振る。

 そういう問題ではないのだと。

 

「連邦生徒会があるから連邦生徒会長がいるのだ。集団があって初めて長が必要になる。故に集団の意見をまとめるのが長の仕事だ。つまり組織の意思とトップの意思が全く合わない組織など存在しない。いや、すぐに瓦解する故、存在できないと言うべきか。何にせよ、連邦生徒会長の代わりに連邦生徒会の総意を元に動いても問題はないはずだ」

「……私は1人のトップが指示を出す方が良いと思いますけど」

 

 長はあくまでも組織の代表者。

 なので、個人の意見よりも組織の意見を優先するので、組織そのものが指示を出しても問題はない。

 そんな扉間の意見に、少し納得のいかない表情を見せる、カヤ。

 

「まあ、お前の言うようにトップが居ないのは問題だがな。別々の派閥が逆の指示を出すなどすれば、目も当てられん。下手をすると、身内同士で殺し合いが始まる」

「まるで、見て来たみたいなものいいですね」

「ワシの生きた時代だと珍しくもないぞ? 敵の組織が突如消えたと思ったら、原因が後継者争いで、兄弟が殺し合って共倒れしていたなどよく聞く話だった」

「ええぇ……」

 

 扉間から聞く生々しい話に、ちょっと引くカヤ。

 後継者争いで『なんか死んだ……』な一族は意外と珍しくない。

 

 千手やうちはなどは、大丈夫かと思うかもしれないが、そもそもこの2つの一族自体。

 後継者争いでの兄弟喧嘩で成立したようなものである。

 まあ、黒ゼツの暗躍などもあったので、偏に後継者争いのせいだけには出来ないが。

 

「それで、そこまでおっしゃるなら、どうして学籍の現状維持など求めるんですか?」

「SRTが閉校した以上、学籍を一度ヴァルキューレに移せば、もう二度と復活させることは出来ん。データ上ですら存在しない学校に転校は出来んからな。その点ではヴァルキューレへの移動を拒否するRABBIT小隊の動きは理にかなっておる」

「……つまり、先生はSRT特殊学園の復活を目指す目標自体には、賛成だということですか?」

「逆に聞くが、()()が学校の閉鎖に賛成すると思うか? 自分の仕事場がなくなるであろう」

「それは……そうですけど……」

 

 キヴォトスだと、教師という立場の人間が少ないので目立たないが、学校が無くなれば先生も困る。

 そんな扉間の言葉に、カヤは何とも言えない表情でコーヒーを飲む。

 

「突然、自分の職場が潰れると言われて、即座に納得できる者はそう多くはない。ましてや、視野の狭い子供。自分達に出来る手段が限られていると錯覚するのは当然。RABBIT小隊は自分達の得意分野である戦闘でどうにかするしかないと、パニック状態で考えただけだ。何をするにしても、落ち着いて考える時間ぐらいは与えてやりたい」

 

 市民のものである公園の占拠。ヴァルキューレ警察学校への転校拒否。武装の違法使用。

 羅列すると、中々な悪党集団だが要は特殊部隊の卵が自分達に出来ることを、やろうとしただけだ。

 

 戦闘が得意だから、戦闘で何とかしよう。

 FOX小隊の先輩もカチコミかけたし。

 と、彼女達なりに得意分野で勝負を挑んだだけである。

 まあ、思いっきり失敗しているのは、若さゆえの過ちだが。

 

「直接、正しい方法を教えてあげたりはしないんですか?」

「風呂に入っておらんせいで臭うと言ったせいか、嫌われてしまってな……この状態では何を言っても受け入れられんだろうから、落ち着くのを待っておるのだ」

「それは先生が悪いですね、はい」

 

 因みに直接、解決方法を提示しないのは現状好感度が低すぎるからだ。

 人間、論の正しさよりも誰が言ったかを重要視するものである。

 逆に今提案すると、扉間が言ったという理由だけで正しい方法を忌避しかねない。

 

「まあ……理由はともかくとして、落ち着いて考える時間を与えたいというのは、いい考えだと思いますよ、先生。そのために、私が強行策に出るのを止めに来たんですね? 私なら連邦生徒会の議会で提案すれば、先生に力を借りずとも強制的に学籍を移動させられますし、逆にヴァルキューレが受け入れを拒否すればそもそも移動も出来ませんので」

 

 カヤは空になったカップを置き、蛇のようにジットリとした視線で扉間を見る。

 

「……ですが、これでも私は連邦生徒会の立場がある身です。連邦生徒会に反抗的な生徒を放置するわけにもいきません。彼女達が落ち着いて考えた結果が、FOX小隊のような襲撃であるようなら……私の権限だけではとてもではないですが、庇いきれませんよ?」

 

 まるで、協力してやるから対価を寄越せと催促するように。

 

「無論タダでとは言わん。シャーレとして協力もしよう」

「よく分かりませんね、具体的に言って頂かないと」

「ここ最近、どうにも物騒な集団がうろついていると噂を聞いてな……何でも、正規の軍でもないのに、ヴァルキューレですら手こずる最新鋭の武器を持つ浮浪者の集団が居て住民が困っていると」

「……はい。浮浪者と言えども、最新鋭の武器は非常に脅威。予算が少ないヴァルキューレでは装備の差で負けることも……親切などなたかがボランティアでもしていただければ、地域住民の方の安全が確保できて非常に助かるのですが」

 

 扉間の赤い瞳が、カヤの緑の瞳を見つめ返す。

 ヴァルキューレだけでは対処できない武力問題を、シャーレが肩代わりしてやると暗に告げながら。

 

「地域の平和を守り、生徒達により良い暮らしを提供するのは先生として当然のことだとは思わんか?」

「はい、おっしゃる通りです。流石はシャーレの先生……これからもご相談させて頂いても?」

「カヤ、お前もワシの生徒だ。()()()()()()()()の相談を拒む先生はおらん」

「嬉しいお言葉ですね。先生が私の後ろ盾になって頂ければ、連邦生徒会内での立場も……いえ、これは出過ぎた相談ですね、忘れてください」

 

 にこやかな笑顔の下で行われる、腹黒い会話。

 子供同士の素直な会話ではない、大人の会話。

 それをまだ子供であるカヤが出来てしまっている。

 

「フ、長居したな。そろそろ帰らせてもらう。今日は時間を作ってくれて感謝する」

「お気になさらず。先生と会えるのでしたら、多少の無理は利かせますよ」

 

 立ち上がる扉間を、作り上げた笑顔で見送りながらカヤは考える。

 シャーレの先生という人間が、本当の意味で自身の味方となるのかと。

 

「……因みにですが、先生なら今回のRABBIT小隊の問題をどう解決されますか?」

「ワシか? ワシがRABBIT小隊として動くのなら――」

 

 カヤの最後の問いかけに、扉間は特に悩む様子も見せずに答える。

 

 

 

「―――自分達の立場の保証と引き換えに、武力を次の連邦生徒会長(けんりょくしゃ)に売りこむな」

 

 

 

 それが生まれてから死ぬまでに染み付いた、忍としての生き方だから。

 

 

 

 

 

「第33回“アビドスチャンネル”始っじまるよ~」

 

 子ウサギ公園がある近隣地区。

 最近は人気が少なくなり、廃墟が目立つようになった地区。

 そんなRABBIT小隊を含め、多くのならず者が野営をする場所。

 その廃墟の一角に気の抜けた声が響き渡る。

 

「前回はシロコちゃんのお誕生日に、みんなたくさんの祝福メッセージをありがとうね」

「ありがとう……みんなからのお祝いの言葉嬉しかった。今日はみんなのために“サービスショット”を連発する」

『解説の奥空アヤネです。動画の規約に反しないように説明します。シロコ先輩の言う“サービスショット(物理)”は多めに銃弾を撃ち込むことを意味しますので、規約違反になるような内容ではないので、ご安心ください』

 

 声の主はホシノ。

 そして、カメラに向かってサムズアップを決めるシロコ。

 説明をアップするアヤネ。

 全員がしっかりと武装した状態である。

 

「さーてと、それじゃあ今日の動画の内容に移ろうかー……えーと、なんだっけ? カンペカンペ……」

「今日はシャーレからの依頼で、『所確幸(しょかっこう)』って言う危険な武装集団の鎮圧に来たんでしょ! もう、しっかりしてよね、ホシノ先輩」

「うへへ、ごめんよぉ、セリカちゃん。おじさんもう年だから、物忘れが激しくてねぇ」

 

 そして、いつものように惚けるホシノにツッコミを入れるセリカ。

 アビドスチャンネルでの鉄板の光景だ。

 

「あら? 早速コメントで質問が来てますね。えーと『アビドスの外の他の学園で、戦闘をしてもいいの?』ですか。大丈夫ですよー。今日は先生のご依頼ですから」

『解説の奥空アヤネです。ノノミ先輩の説明を補足します。シャーレの部員はトビラマ先生の指示で動く場合は、どの学園の自治区であっても戦闘が可能になります。気になる方は、ぜひシャーレの募集に応募してみてください。ホームページは動画下のURLをクリックしてください。私達はアビドスでなくとも一緒に働く仲間を歓迎します』

 

 ・解説助かる。

 と、コメント欄に無数の文字が流れていく。

 オペレーター故に動画に直接出れないことの多いアヤネだが、解説によって存在感をアピールしている。

 

「先生の話によると、最新鋭の武器を持ってるって話だから、みんな気をつけてよね」

「最新鋭の武器かぁ……貧乏学園のアビドスからすると羨ましいねぇ」

「ん、かき入れ時。今日もいっぱい寄付してもらう……違った、()()()()()は全部寄付する」

「現在の借金は8億725万8600円ですので、7億円台も見えてきましたよー」

 

 ・今日の財布=『所確幸(しょかっこう)』。

 ・財布× 落とし物〇。

 ・昔はアビドスの武器は最新鋭が当たり前だったのに……砂嵐め。

 ・アビドスのハイエナ。遂にD.U.にも進出する。

 ・おやつ代\5000。1人1000円だ、早めに渡すぞ。

 

「実はねぇ、おじさん最近メイドさんと会ったんだよね。そこでお掃除の仕方を学んできたから、今日はいつも以上に頑張るよー」

「私も学んできた。近接戦と勘が凄かった」

 

 ・今日の内容は強盗……いや、清掃活動か。

 ・メイドなのに近接戦? あ……。

 ・これ法に接触しないの? 強盗とか……ヴァルキューレに通報します。

 ・↑お前それ、アビドスでも同じこと言えんの?

 

 

『みなさん、相手がこちらに気づいたようです! それでは只今より第33回“アビドス高校廃校対策委員会チャンネル”。清掃活動編を始めたいと思います!!』

 

 

 こうして、アビドス廃校対策委員会の清掃活動が始まるのだった。




カヤ→素で邪魔な『所確幸』を消せる。扉間と協力関係を築ける。
扉間→カヤの協力でラビットを守れる。治安維持できる。『所確幸』? 大人なら働け。
アビドス→給料代わりに最新鋭の武器を強…寄付してもらえる。動画のネタがもらえる。
所確幸→所有せずとも確かな幸せを探すことが出来る。恵まれない子供に寄付する聖人。

これがWINWINの関係です。

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