千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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44話:アビドスチャンネル

「これで弾薬は全部? あれれ、おっかしいなぁー。この数の銃ならもっとないとおかしいんだけど……ほら、ジャンプして」

「待って、ホシノ先輩。見つけた。床下に弾薬が隠してあった。ここだけ埃がないからおかしいと思った」

 

 第33回アビドスチャンネル。

 浮浪者のくせにやたらと良い武器を持つ『所確幸(しょかっこう)』に寄付を募りに来たアビドスの面々は、人掃除(ひとそうじ)…失礼、一掃除を終えて成果を確認している。

 

 最新鋭の武器で抵抗できなかったのか?

 キヴォトス屈指の少数精鋭(人員が足りない際の精一杯の言い訳)にニートが勝てるわけないだろ。

 

「か、隠していた弾薬まで!? この! 悪魔! アビドス!!」

「あらー、『所確幸(しょかっこう)』さんは、()有しなくても()かな()せを探すことが出来る人達と聞いていたんですけど?」

「はぁ? 何が所有しない幸福よ! こっちは借金(マイナス)からのスタートなのよ!! 無借金(ゼロ)な分そっちの方がマシでしょ? 少しはこっちに寄越しなさい!!」

「た、確かに私達はそうした信念を元に生きていますし、あなた達よりはマシかもしれませんが……それはそれとして盗みはダメでしょう!? 人として恥ずかしくないんですか!」

「盗み? 違うよ。これは連邦生徒会のシャーレ依頼の治安維持活動。おじさん達は正義の味方だよ」

 

所確幸(しょかっこう)』とは、所有しなくても確かな幸せを掴めるという信念を元に生きる組織。

 そして、そこのリーダーであるロボット市民のデカルトは、アビドスに対して抗議の声を上げる。

 ひとのものを とったら どろぼう。

 

「みんな、高級缶詰がこんな所にいっぱい。それにお酒まである」

「見たところ、賞味期限切れだからゴミとして捨てられたのを拾って来たのかな?」

「あ、それは私が晩酌用にとっておいた……」

『解説の奥空アヤネです。ゴミは一見誰のものでもないように見えますが、所持者が所有権を破棄していない場合は、窃盗になるのでご注意ください。この場合は賞味期限切れなので、純粋に捨てられたものの可能性が高いですが、資源物などの使えそうな資材などを持っていく場合には注意が必要です』

 

 シロコとホシノに、楽しみにとっておいた酒とツマミまで見つかり、汗を流すデカルト。

 無所有の幸せとは一体何なのだろうか?

 

「あんたねぇ……賞味期限切れの食品を捨てるのだって、ゴミ袋とかでお金かかるんだから、やめなさいよ。最初から譲ってって頼むなら手間が省ける分いいけど」

「それに、腐ってたりしたらお腹を壊しちゃいますよ?」

「で、ですが、ゴミであればお金が無くても手に入りますし……」

「働けッ!! 私だって借金返済のために、毎日アルバイトしてるのよッ!」

 

 ・働け! ごく潰し!!

 ・セリカちゃんは偉いねぇ~\1000。

 ・この前、深夜の警備アルバイトでセリカちゃんに会ったけど、徹夜した後にそのまま新聞配達に行ってた。少ないけど足しにして……\1000。

 ・お体に触りますよ、\30000。

 ・↑誤字だろうけど、金額がガチ過ぎるから通報した。

 ・待っていろ、今、身元を調べる。

 ・※このチャンネルはシャーレに監視されています。

 

「まあまあ、今回の私達のお仕事は武器を押収することだからね? 他のゴミまでは、掃除しなくていいから」

「ゴミ、ゴミ…と! 何ですか? 私達が社会のゴミだとでも言いたいんですか!?」

「違うの…?」

「グフッ!?」

 

 次々に自分達の財産を押収していくアビドスの様子に、涙目で訴えるデカルト。

 だが、シロコの小首を傾げた不思議そうな顔に心が折れる。

 

『みなさん、先生がトラックを手配してくれましたので、武器の類はそちらに積み込んでください』

「分かりましたー」

 

 そうこうしているうちに、扉間が派遣したトラックが到着する。

 流石に大量の武器を手で持って帰るわけにもいかない。

 

「ま、待ってください! 武器を没収されたら不法入居している私達は、ヴァルキューレにあっさりと追い出されてしまいます!」

「じゃあ、アビドスにでも来る? 空き家なら幾らでもあるけど。人口低下対策にもなる」

 

 家が無くなると泣くデカルトに、シロコが拉致…もとい引っ越しの提案をする。

 しかし。

 

「え? 嫌ですよ。砂しかないじゃないですか」

「シロコちゃん、そいつも縛って連れて帰ろうか。帰りのトラックに括り付けてさ」

「ん、特等席にご案内する。日当たり良好、風通し抜群。排気ガスで汚れるのだけが難点だけど」

「綺麗な言い方をしても、トラックで引きずるのは拷問ですからね!?」

 

 デカルトは真顔でシロコの提案を拒否して、アビドスの憤怒を呼び覚ます。

 当然、ホシノはピキキと青筋を立てるが、反論自体は出来ていない。

 砂しかないのは、覆しようのない事実なのだ。

 

 ・で、でも、アビドスには砂祭りがあるから……。

 ・↑とっくの昔に無くなったぞ?

 ・事実陳列罪やめろ(笑) やめろ。

 ・みんなでポスターを作った懐かしい思い出が……\1000。

 

 そしてコメント欄も何も反論できない。

 

「あ! そうだ!! 私達にこんなことをしたら、報復活動に出ますよ! あなた達がアビドス高校の生徒だと言うのなら、所在地は簡単に分かりますからね! いいんですか? 毎朝届く新聞を昨日のものとすり替えられても!」

 

 ホシノの怒りに若干怯えるデカルトだったが、すぐに逆転の策を打ちだす。

 相手の居場所が分かるのだから、地味な嫌がらせだって出来るのだと。

 だが。

 

「新聞? 別にうちは取ってないし」

「アビドスに来られるんですか? 嬉しいですねぇ。町の中で遭難しないように気をつけてくださいね」

「町の中で一度遭難すると、コンビニもないから食料と水は忘れずに」

「そもそも、今のアビドスは本校から移動した分館だから、初見だと分かり辛いんだよね……」

 

 アビドスの最大の強みは広大な敷地である。

 全盛期の頃から街中で遭難すると言われた広さは、今は過疎化も合わさりデストラップと化している。

 そして、砂漠に迷い出てしまえば、水が無いと地元民でも容赦なく死ぬ。

 ランダムで砂嵐が発生して道に迷って死ぬ。

 なんか偶に、変な怪物が出てきて死ぬ。

 まさに天然の要塞がアビドス自治区なのである。

 

 なんだろう、言ってて悲しくなってきた。

 

「私達が生徒全員で自治区の外に出れるのは、過疎化で余所者だと簡単に辿り着けないからだし……」

「そもそも、お金も物資も借金返済に充ててるから、襲うメリットがほとんどないし……」

「5人しか居ないので、貴重品をまとめて逃げるのも簡単なので……」

「自治区自体、実際は学校周辺だけで後はカイザーのものだから、取り返すのも簡単だし……」

『既に借金があるので、これ以上マイナスになることもないので……』

 

「あの? むしろ、あなた方がどこかに転校した方がいいのでは?」

 

 全員が目を逸らしながら答える姿に、さしものデカルトも同情するしかない。

 見たか、デカルト。

 これが真に持たざる者の強さだ。

 

「それだけは出来ないなぁ。アビドスは私が先輩から受け継いだ学校だからねー」

「うん。理屈じゃない。私はアビドスが好きだから、そのためなら何でもする」

「私達が卒業した後も、ずっと残っていって欲しいですから」

 

 ・頑張っていって、後輩! \1000。

 ・私達が砂嵐の対策をもっと頑張っていれば……\1000。

 ・でも、体は大切にしてね? \2000。

 ・懺悔します。自治区を最初にカイザーに売ったのは私です。\10000。

 ・もしかして……先輩? それなら私も……\10000。

 

 ホシノ、シロコ、ノノミの言葉に卒業生からの投げ銭が大量に集まる。

 罪悪感が罪悪感を呼ぶ、連続一点集中の投げ銭だ。

 これが扉間が狙っていた悲劇のヒロイン効果である。

 

「所有しなくても確かな幸せを掴める。確かにそうかもしれないけどね。おじさんは所有することで、初めて掴める幸せもあると思うんだよね」

「……そうですか」

 

 ホシノの言葉に、しんみりとした表情を浮かべるデカルト。

 彼はごく潰しで社会の膿の大人だが、外道ではない。

 頑張る子供を見れば、応援したくだってなる。

 

「と、いうわけで、この武器はおじさん達が全部持っていくね。アビドスの…違った地域住民の平和のために」

「ん、たくさんの寄付、ありがとう。大切に使う」

「それはそれとして、武器を持っていくのはやめていただけませんかね!?」

 

 まあ、それとこれとは別なのも大人なのだが。

 

 

 

 

 

 子ウサギ公園。

 今日も今日とて、トラップを潜り抜けてラビット小隊のテントまで来た、扉間。

 しかし、昨日とは違いその隣には人が居る。

 

「ノノミ! マシュマロ! マシュマロを焼こう!」

「クッキーで挟むと美味しいそうなので、クッキーも持ってきましたよー」

「カントリーマウムもあるわ。バームクーヘンも焼くと美味しいらしいわよ!」

「あ、SRTの皆さんも焼けたら食べてくださいね? ()()()()で買ったものなので遠慮しないでください」

「いや、人のテントの前で何お菓子バーベキューしてるのさ!?」

 

 テントの前の焚火で、ワイワイとお菓子を焼くアビドス勢に、モエが叫びを上げる。

『所確幸』から善意の寄付を頂いてきたその足で、子ウサギ公園に立ち寄ったのだ。

 今はシャーレでオペレートしていたアヤネも合流して、5人全員揃っている。

 

「というか、誰なんだこいつら!?」

「アビドス高校の()()()()だ。お前達に会いに来たいと言っていたので、連れて来たのだ」

「私達に…? こちらに面識は無いですが?」

「あ、マシュマロの香ばしくて甘い香りが……」

 

 サキが誰だと至極まともなツッコミを入れて、扉間が説明する。

 しかし、アビドスと何の関わりもないミヤコは首を傾げるしかない。

 そしてミユは、マシュマロの匂いにお腹を鳴らす。

 

「うん、面識はないけど廃校の危機に立ち向かっていると聞いたら、他人事に思えなくてねぇ。こうして応援に来たんだよ」

「人の家の前でマシュマロを焼きだすのが応援なら、中指を立てるのも応援になるぞ」

 

 廃校と聞いて、我慢出来ずに駆け付けた、小鳥遊ホシノ。

 そんなホシノに頬をひくつかせながら、サキが睨む。

 

「まあまあ、そんなにカリカリしないでさぁ? ほら、カリカリに焼いた煎餅でも食べて?」

「また兵糧攻めか? もう、その手には乗らないぞ。施しは要らない」

「いやぁ、実は勝手に薪とか使っちゃったから食べて貰わないと、薪を盗んだことになるんだよね。物々交換ってことにしてくれない?」

「撃つぞ、馬鹿ッ!?」

 

 まさかの事後承諾にサキは当然の如く、銃を突きつける。

 これには、さしものホシノも申し訳なさそうに頭を掻くしかない。

 まあ、もちろん計算づくでの行動なのだが。

 これが受け継がれる卑の意思である。

 

「……何これ? 嫌がらせに来たの? あんた達」

「違う、応援。廃校に立ち向かう仲間として見捨てられない。はい、マシュマロ」

「あー、もう! これで食べなかったら私達が薪だけ盗まれたバカじゃん! 多めに頂戴!」

 

 なんかもう怒るのも馬鹿らしくなったのか、シロコから差し出された熱々のマシュマロを受け取る、モエ。

 

「モエ! 罠かもしれませんよ!?」

「いいじゃん、もう。カレーも食べたんだしさぁ。それに、目の前で焼いてたんだから大丈夫でしょ?」

「ですが、事前に中に毒を仕込むことも……」

「ホフ…ホフ…とろけて美味しい」

「ホットミルクに砂糖代わりに入れても美味しいらしいですよー」

 

 マシュマロを受け取るモエに忠告するミヤコだったが、美味そうに焼きマシュマロを頬張るシロコの姿に毒気を抜かれる。

 既に、カレーの炊き出しを食べたことで、心理的な壁が低くなったこともあるかもしれない。

 

「ほら、あんたも食べたいんでしょ? 端っこに居ないでこっちに来なさいよ」

「えっと、でも……お金とかないですよ?」

「薪代代わりよ。それにあんた達だって、好きでお金が無いわけじゃないんでしょ? うちも借金が8億円ちょっとあるけど、毎日頑張って生きてるわ!」

「す、凄い説得力」

 

 ズイと差し出されたマシュマロサンドクッキーを小動物のように、震えながら受け取る、ミユ。

 お金が無くても終わりじゃない。そう、力強く宣言するセリカの圧に負けたのである。

 

「借金…? それにこの5人が全校生徒…?」

「私達アビドス高校は、借金と生徒数の低下で廃校寸前なんです。今は先生のおかげで何とか持ち直していますが、それでも問題は山積みです。ですので、廃校に追い込まれたSRTは他人事とは思えないんです」

「……よく潰れてませんね」

 

 アヤネから事情を聴き、もしかして自分達よりも酷い状況なのではと思う、ミヤコ。

 

「アビドスだか、何だか知らないが同情は要らない! 私達はSRTの特殊部隊だからな、このぐらいの苦難乗り越えてみせる!」

「同情じゃないよー。おじさんは素直に感心してるんだよ、連邦生徒会に歯向かうなんてやるじゃん。おじさんも若い頃に何も助けてくれない連邦生徒会が頭に来てさぁ。襲撃してやろうかと考えたことがあるけど、ついぞ実行できなかったからね」

「お前何歳だ…?」

「小鳥遊ホシノ、17歳だよ」

「おい! 私と2つしか違わないじゃないか!」

 

 おじさんと自分のことを冗談めかして言うホシノに、真面目なサキはキレる。

 因みに、連邦生徒会を襲撃してやろうかと思っていたのは冗談ではない。

 FOX小隊の襲撃を聞いた時も、根性あるなぁと思った程である。

 

「……それで、どういう目的なんですか? 先生」

「アビドスがお前達を応援したいという気持ちは本物だ。そもそも、ノノミがワシにSRTの閉鎖をどうにかして欲しいと言わなければ、ワシはお前達のことを知りもしなかっただろうからな」

「はい。学校が無くなるのが嫌だという気持ちは、私達も痛い程分かりますから……」

「それは……何と言えばいいのでしょうか……」

 

 分かるってばよ。

 同じ生徒からの同情ではない、共感は初めてだったのかミヤコは口ごもる。

 大人ではなく、同じ子供だからこそ警戒心が緩む。

 二代目火影の卑劣な尋問術である。

 

「お前達には広い視野を持って欲しくてな。似たような状況のアビドスなら、参考になることも多かろう」

「参考ですか……」

「こやつらも、転校すれば借金も生徒数の問題も一瞬で片付く。だが、それだけはしない。ワシには理解出来ん考えだが……お前達なら分かるのではないか?」

 

 ラビット小隊も同じだ。

 ヴァルキューレに転校すれば、風呂に入れない問題も、食べ物もない問題も解決する。

 だが、それを拒絶する非合理的な考え。

 

「ん、お金はあげられないけど、情報はあげられる。例えば、この近くのカイザーローン。あそこは小さめだから監視の目が少ない。地域住民も少ない。多分、扱う額も少ないだろうけど、逃走経路は確保しやすいからおすすめ」

「シロコ先輩は黙ってて!」

「ほう、ここに来る僅かな時間でそこまで見抜くとはな。やはり、お前には才能があるな、シロコ」

「先生も黙って!!」

 

 何食わぬ顔で銀行強盗を提案するシロコと、()()()()()()()があると称賛する扉間。

 世界が違えば、シロコが穢土転生を使う未来もあるかもしれない。

 褒めて伸ばすにも、幾ら何でも限度があるのではないでしょうか? 先生。

 

「あの人達のことは忘れて。まあ、それはそれとしてお金を稼がないと生活できないでしょ? あんた達バイトとかはしないの?」

「……SRTは生徒を放課後まで縛る厳格な規律がある。アルバイトは難しい。警察のヴァルキューレであっても、放課後までは縛られないが……私はSRTの厳格な規則の下で生活したいんだ」

 

 バイトはしないのかという、セリカの至極真っ当な質問に対して、難しそうな顔でサキは首を横に振る。

 SRTは特殊部隊であるため、放課後まで厳格なルールで縛る。

 そのため、気軽にバイトなどということは出来ない。

 まあ、その代わり学校の口座から、必要な分は引き出せるシステムだったのだが。

 

「まあ、バイトをする抜け道自体はあるんだけどね。現状、一番の問題が学籍なんだよね?」

「学籍ですか?」

「そ、SRT特殊学園は閉鎖してるからさぁ。履歴書に書けないんだよね。身分保障が無いとまともな所は雇ってくれないし。そうなると、ブラックマーケットにでも行かないと仕事が無いし」

「ブラックマーケットは……もしバレたら問題になって復学に支障が出るかもしれませんね」

 

 そしてモエがアヤネに語るように、SRTは閉鎖されているので書類の段階で弾かれる。

 まあ、コネがあれば無視する雇先もあるだろうが、生憎特殊部隊という閉鎖空間にいた彼女達にその手のコネはない。

 

「うへー、大変だねぇ。でも大丈夫。おじさんが耳よりの情報を持ってるから心配しないで」

 

 そんな状態のSRTに同情のまなざしを向けながら、ホシノはゴソゴソと懐からある紙束を取り出す。

 

「こ、これはなんでしょうか?」

「手配書だよ」

「え?」

「ここら辺で、指名手配されてるやつらの手配書」

 

 所々に赤ペンで細かく書き込みが入っている手配書をミユに渡す、ホシノ。

 まさかの物に、ミユはその場で驚いて固まってしまっている。

 

「本当はおじさん達が目をつけていたんだけどね。アビドスの外だとシャーレの案件じゃないと戦えないからねぇ。SRTのみんなにあげるよ。これでお金を稼げばいいんじゃない?」

「指名手配犯を捕まえて賞金を…? これは……校則的にありでしたか、サキ?」

 

 驚くミユの代わりに、手配書をマジマジと見つめてありなのかと、サキに尋ねるミヤコ。

 

「……捕まえるのが禁止なわけがない。市民を守るSRTである以上は、むしろ務めだ。ただ、指名手配する側が捕まえても賞金は出ないだろ。常識的に考えて」

 

 警察が賞金首を捕まえたら懸賞金がもらえるか?

 答えは否だ。汚職の元になりかねないので、警察関係者にお金が入ることはない。

 

「はい、だからこそですよー」

「だからこそ?」

「皆さんが賞金首を捕まえて連邦生徒会に連れて行ったのに、お金を渡すのを断ったらどうなると思いますか?」

「どうも何も私達はSRTなんだから、それが当然だろ」

 

 サキはノノミの言葉に、何を言っているんだお前はと首を捻る。

 しかし、横で聞いていたミヤコはそういう事かと目を見開く。

 

「……そういう事ですか」

「ミヤコちゃん?」

「懸賞金を渡すのを拒むという事は、連邦生徒会が私達をS()R()T()()()()()()()()()()()()()()()という事です」

 

 懸賞金を受け取れないのはヴァルキューレ警察学校、もしくはSRT特殊学園の生徒。

 つまり、相手側が懸賞金の受け渡しを断れば、ラビット小隊のSRTの学籍は連邦生徒会のお墨付きになるのだ。

 

「つ、つまり…?」

「今以上のしっかりとした抗議活動が出来るという事です。私達は指名手配犯を捕まえて差し出す。そうすることで、連邦生徒会に私達をSRT特殊学園の生徒であると認めるか、お金を払ってそれを否定するかの二択を迫れます……そういうことですね?」

 

 ミヤコが問い返すと、ノノミがニッコリと頷く。

 天使のような笑みなのに、悪魔のように見えるのは何故だろうか?

 

「はいー、もしも連邦生徒会がお金を出し渋った上で、皆さんをSRTと認めない場合は、不当にお金を払わなかったという不正の証拠になりますから」

「ん、不正の証拠は見つけるものじゃない。作るもの」

「ねえ、あんた達も手配書に載ったりしてない?」

「心外。アビドスはクリーンで綺麗で正義の学校。法に反することは決してしない」

 

 ただし、法の抜け穴に巣穴を作るぐらいのことはする。

 その堂々としたシロコの発言に、扉間も成長したな、と満足気に笑う。

 

 銀行強盗? あれは裏社会の伝説、陸八魔アルの仕業だろう?

 

「……確かに抗議活動としてはいいな。この公園でジッとしていてもしょうがないし」

「で、でも、私達はヴァルキューレに転校予定だったから、ヴァルキューレ扱いされないかな?」

 

 割と乗り気なサキ。

 ヴァルキューレの生徒扱いされたら、作戦が破綻すると心配する、ミユ。

 

「その心配はない。お前達の学籍がSRT特殊学園のものなのは、シャーレでも確認済みだ。お前達本人の意思が無ければ動くことはない」

 

 しかし、その心配は扉間が否定する。

 カヤとの裏取引によって、ラビット小隊の学籍は保証済みだ。

 

「トビラマ先生……この計画はどこまでが先生の考案のものなのですか?」

「ワシの自慢の教え子達だ。この作戦はこやつらの考えたものだ」

「本当ですか?」

「おじさんは脳筋だけど、後輩ちゃん達はしっかり者だからねぇ。本当に自慢の後輩達だよー」

 

 扉間の入れ知恵かと警戒するミヤコだが、扉間は首を振る。

 今回の作戦はアビドスの面々が考えたもの。

 こうして、卑の意思は確かに受け継がれていくのだ。

 

「ん、まずはお金。お金が無いと何も始まらない」

「でも、この作戦だとSRTだと認められた場合は、お金もらえなくない?」

「ん、世の中には、お金よりも大切なものもある」

 

 しかし、まだまだ詰めが甘い。

 モエから計画の穴を指摘されて、シロコはプイと横を向く。

 

「ま、まあ、取りあえず、指名手配犯を捕まえてみないことには分かんないわよ……」

「そそ、取りあえずお菓子でも食べて考えようか。何も食べないと死んじゃうよー……本当に」

「アヤネェ! アヤネの前の袋のオレオ取って、オレオ!」

「オレオにマシュマロを挟んで焼く食べ方もあるそうですね。やってみましょう」

「お腹が減っては戦は出来ない、と言いますからねー」

 

 一先ずやってみないことには始まらないので、まずは腹ごしらえと切り替えるアビドス勢。

 決して誤魔化しているわけではない。決して。

 

「……はぁ、おい。薪代分はしっかり貰うからな」

「賞金首を捕まえるのはやってみましょう。それと、私はカントリーマウムが食べたいです」

「そうだねぇ、弾薬とかに余裕があるうちにある程度動かないと。あ、そのマシュマロは私が狙ってたやつじゃん!」

「ご、ごめん。でも、最高の焼き加減だったから、つい……」

 

 なんかもう、反論するのにも疲れて来たのか、アビドス勢と一緒に焚火を囲むラビット小隊。

 その表情には廃校に立ち向かう同士を得たという、微かな安堵感があった。

 誰しも、孤独な戦いというものは辛いのだから。

 

(別に捕まえた指名手配犯をまとめて全員突き出さんでも、何人かをホシノ達を仲介人として突き出せば、仲介料を差し引いた分は懐に入るだろうに……いや、直接の金の流れがバレるとまずいか? ならば、金を食料や弾薬にマネーロンダリングして、ラビット小隊を応援するという名目での寄付にするか? “アビドスチャンネル”でアビドス勢がラビット小隊を応援する企画でもやればネタ作りにもなる。応援する理由自体に嘘はないのだからな。しかし、惜しいな。いつもやっていることを灯台下暗しで気づいておらんとは……教えるか? ……いや、ここは子供達の成長を信じて見守るとするか)

 

 そして、そんな光景を見ながら扉間は1人、若人(わこうど)達の成長に期待して目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

「失礼します。ご相談したいことがあります、カヤ防衛室長」

「カンナ? あなたが自分から相談に来るなんて珍しいですね」

 

 防衛室長室で優雅にコーヒーブレイクを楽しんでいたカヤの下に、カンナと呼ばれた獣耳の生徒が訪ねて来る。

 

「公安局に何か問題でも?」

 

 尾刃(おがた)カンナはヴァルキューレ警察学校・公安局の局長を務める。

 立場的には偉いのだが、上にはカヤという存在が居るので、いつも中間管理職の苦しみを抱いている。

 

「いえ、公安局ではありません。SRTのラビット小隊が、賞金首を捕まえて来たのですが……」

「普段通りに犯人の身柄を引き継げば良いだけでは? ああ……いえ、そういうことですか」

 

 カンナの苦しそうな説明に、一瞬疑問を抱くカヤだったが、すぐに言いたいことを理解する。

 

「SRTとして認める場合は、賞金を出す必要はない。ですが、一般の生徒として対応するなら賞金を出さないといけない。そういうことですね?」

「はい……学籍上はSRTのままなので、賞金を出す必要は無いのですが、それを認めるのは政治的にどうかと思いまして……私では判断がつかないので、指示を仰ぎに来ました」

()()()()

 

 スッと椅子から立ち上がり、()()()()()カヤの姿に、ビクッと震えるカンナ。

 巷では“狂犬”の異名で恐れられる彼女だが、上司からの圧には普通の人間同様に弱い。

 

「付き添いで誰かが一緒に来ていませんか? 例えば……()()とか」

「先生? ああ、シャーレの……いえ、ラビット小隊だけですが」

「そうですか……いえ、分かりました」

 

 胸に手を置き、少し落胆したような声を出す、カヤ。

 カンナはそんな姿に困惑するが、ツッコミは入れられない。

 下手をするとパワハラが待ち受けているからだ。

 

「あの……」

「ああ、すみませんね。ラビット小隊への対応ですね? 規則通り、S()R()T()()()お金を払わなくて結構ですよ」

「よろしいので…?」

 

 SRTが存続していることを認めるのは、連邦生徒会の総意に反するのではないか。

 そんな意味を込めた問いかけにも、カヤは目を細めたまま笑うだけだ。

 

「ええ。ラビット小隊はSRTとして認められることができ、私達は無駄なお金を払わないですむ。WINWINというものですよ」

「はあ……」

「そもそも、私はSRTの閉鎖に反対派でしたし。あなたもそうでしょう、カンナ? SRTで請け負っていた仕事が降りかかるのは、ヴァルキューレの精鋭である公安局以外にないのですから」

「それは…まあ…はい……」

 

 SRT特殊学園が消えたからと言って、凶悪犯罪が無くなってくれるわけではない。

 当然、残ったヴァルキューレ警察学校が対応することになる。

 そして、特殊部隊でない彼女達は練度や武装で劣るため、とんでもなく苦労する羽目になっているのだ。

 お労しや、カンナ。

 

「この件は恐らく今後も続くでしょうから、以後も同じ対応で結構です」

「分かりました」

「何か文句を言われたら、私が対応しましょう。そもそもリン行政官が、子ウサギ公園の使用許可を出したことにも問題はありますし。おかげで、私達がラビット小隊を追い出す正当性を失ったのは少し頭が痛いですが……まあ、いいでしょう。先生に、()()()しましょうか」

「は、はい」

 

 正直、チクチクと嫌味を言われることも覚悟していたカンナだったが、余りにも温和な対応に面食らう。

 おかしい。普段なら正論という名の、嫌味のフルコースが来てもおかしくないのに。

 何というか、今のカヤはどことなく嬉しそうな感じだ。

 

「どうしましたか? まだ、何か聞きたいことでも?」

「いえ、貴重なお時間を下さりありがとうございました。では、私はこれで」

 

 そんな、懐疑の視線に気づいたのか目を開けてジトッとした視線を送ってくる、カヤ。

 カンナは思わずその視線に安堵を覚えながら、速やかに撤退することを選ぶ。

 

(あの防衛室長が珍しい。何かいい事でもあったのか? そう言えば、シャーレの先生のことをやけに気にしていたな……まさか)

 

 ここ最近の変わった出来事と言えば、扉間と面会したぐらい。

 そこまで考えて、カンナはある可能性を思いつく。

 

 

(シャーレを支配下に置く方法でも思いついたのか?)

 

 

 カヤがシャーレを己の物にしようとしているのではないかと。

 

 




実はこの作品は、一応章ごとにヒロインを決めて書いています。

作品のヒロイン『アロ…私は先生にずっと一緒に居ると約束してもらいました!』
アビドス編ヒロイン「ん、あらすじに載ってる看板ヒロイン」
ミレニアム編ヒロイン「妹がヒロインになれない合理的な理由は存在しないわ」
補習授業部編ヒロイン「スタンディングオベーションとマスターベーションって似ていると思いませんか?」
エデン条約編ヒロイン「補習授業部編から割とヒロインじゃんね?」
カルバノグの兎編「(ヒロインになるために)お金を渡しているのですよ?」

まあ、作者が決めても脳内扉間が却下したら変更ですが。
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