「こちらRABBIT2。“ローズ”を積み込んだトラックがブラックマーケットに入るのを確認。やっぱり、まともに処分する気はないみたいだな」
「こ、こちらRABBIT4。トラック進行方向に古そうな倉庫を確認。たぶん、あそこに運び込むんだと思う」
アリウスから譲り受けたサーモバリック手榴弾を積んだ、“カイザー・インダストリー”のトラックが
その様子をヘリから見ながら、サキがボヤく。
そして、目の良いミユは即座にトラックの向かう先にある物を見抜く。
『こちらRABBIT3。ここからはマーケットガードが居るから、ヘリでの追跡はいったん中止ね。RABBIT2、悪いけどドローンを撒いてくれる? ここからはドローンで“ローズ”を追うから』
『こちらRABBIT1。RABBIT2、RABBIT4はヘリを降りて地上の私と合流してください。RABBIT3のドローンで正確な位置を把握して、3人でブラックマーケットに侵入します』
そして、地上の車で追っていたモエとミヤコが指示を出す。
ブラックマーケットの空に侵入すると、対空ミサイルが撃ち込まれかねないので地上から進むしかないのだ。
「分かった。ドローンを撒き次第、ヘリを停めてそちらに合流する」
「えっと、電源をつけて外に出せば良いの?」
普段ならミヤコの指示に逆らうこともあったサキだが、今回は素直に言う事を聞く。
様々な失敗を経て、自分よりもミヤコの方が指揮官適性があると考えるようになった。
というのは少しだけの理由で、大部分は作戦の前報酬の食べ物でお腹が満ちているので、イライラしていないだけだ。
腹が減っては戦は出来ぬ。それがこの世の真理である。
「さて、全員無事に合流出来ましたね。ここからは、マーケットガードや傭兵達がひしめくブラックマーケットになります。出来る限り、騒ぎを起こさないように進みましょう」
「ふん、万が一見つかっても鎧袖一触だけどな」
徐々に日が暮れて、辺りを照らす光が消えて不気味さを増す、ブラックマーケット。
モエの操作するドローンに導かれて、ラビット小隊は闇の中を特殊部隊らしい、音も残さない進軍で進む。
「モ、モエちゃん、場所はさっき見つけた倉庫であってる?」
『多分間違いないね。今は“ローズ”につけた探知機の反応も止まってるし』
目指す場所は、ミユがヘリから確認した古びた倉庫。
売りものを保管する倉庫なのか。それとも、どこかに輸送するための一時保管場所なのか。
それは分からないが、ラビット小隊は誰にも見つからず、かつ素早い進軍で目的地に到着する。
『こちらRABBIT3。みんなの反応が“ローズ”の反応のすぐそばに来てるから、到着したみたいだね』
「見たところ、この辺り一帯が物流倉庫だったのを、武器庫に改造した違法倉庫といった感じですね。まともな武器を保管する場所には到底思えません」
「全くだな。見たところ、火気の対策もしていないし……火事でも起こったらどうするつもりだ? 下手したら周りの倉庫にも燃え移るぞ」
「あ……あそこに適当に捨てられた弾薬とか爆弾がある…不発弾? モエちゃん……こんな所から武器を買ってたの?」
流石はブラックマーケットと言った感じのずさんな管理に、苦言を呈するラビット小隊。
まともな武器庫なら安全と品質を保つために、資格者が存在し、尚且つ行政が監査に来る。
だが、ここはブラックマーケット。
連邦生徒会も管理出来ない、地図上には存在しない場所。
そんな所で、悪名高いカイザーグループが金のかかることをするわけがない。
ついでに、そんな所のVVIPであるモエにも批判が行く。
『いやいや! ちゃんとした取引ならそこまで酷くなかったって。多分、ここはブラックマーケットの連中に売り捌く用の保管庫なんでしょ。昼間にアリウスに売ってたやつは大丈夫そうだったし』
ドローンからモエの必死の弁明が聞こえて来る。
横領の件で、少し肩身が狭くなっているのかもしれない。
「質ではなく、安くて使えればそれなりでいい。そう言った考えの不良や傭兵用ですか。まあ、サーモバリック手榴弾をこちらに持ち込んだのも、
「武器の扱いをまるで分かっていないな。そういう奴は、必ずしっぺ返しを食らうぞ。教範にも載っていることだ」
「と、ところで、これからどうするの? 不正に禁止兵器を所有した証拠を取るだけなら、ここで終わってもいいんじゃ?」
ずさんな管理の古びた倉庫を遠巻きに見ながら、ラビット小隊は意見を交わす。
ブラックマーケットに禁止兵器を持ち込んだ時点でほぼ黒。
しかし、確実な証拠とするには中に侵入して写真でも撮っておきたい所。
「……先生に確認しましょう。モエ、先生と繋いでくれますか?」
『OK。ちょっと待ってて』
悩んだ末にミヤコは、クライアントの意見を仰ぐことにする。
『ワシだ。何か問題でもあったか?』
「実は、“ローズ”が運び込まれた倉庫までは辿り着いたのですが、侵入して確かな証拠を抑えるかどうか迷っていまして」
『なるほどな……』
依頼としてラビット小隊に出して信頼はしたが、心配しないかは別。
アリウス学園で、校長業務をしながら見守っていた扉間が通信に出る。
『そのまま放置で構わん。現段階では、処分する前の手続き中に一時保管しているだけと言い逃れされるだけだ。そもそもブラックマーケット内は連邦生徒会の手も届かん場所。強引に行かん限りは、のらりくらりと躱されるだけだ。少し寝かせた方が良い。そうすれば、買い手も含めて叩けるかもしれんからな』
「なるほど、分かりました」
扉間の判断は待ち。
実際に使用すれば現行犯で逮捕できるが、引き取ってすぐの今は言い訳が可能。
時間を置くしかない。
『場所は分かったのだ。このまま見張りを続け、動いたところで押さえる』
『なるほどねぇ、完璧な作戦だね。私がずっと見張っておかないといけないことを除けば』
一旦、捜査を止めて相手が動き出すまで待つ。
非常に優秀な作戦だ。
というか、オーソドックスだと言ってもいい。
モエの交代の人員が要ればという前提が必要だが。
『うむ。モエの交代が居ないのは問題だな。という事で、アリウスから人員を送るとしよう』
『いや、アリウスには出来る人が居ないって先生が言ったじゃん。だったら、私が
そこまで言ってモエは黙り込む。
人を教えなければ、自分が辛くなるだけの状況。
アリウスから送り込まれる人員。
つまり。
『……いい性格してるじゃん、先生』
『気がついたか……』
『延長した分の依頼料は増やす。補給物資もこちらで出す。それに教えることは強制せん。ただ、自分が楽したいのなら教えた方が良いというだけの話だ』
直接、サーモバリック手榴弾を売り捌きに行くのならともかく、買い手を探すのなら保管は必須。
すぐに不正の証拠が作られるかは微妙だった。
つまり、長期戦になることは最初から想定済みだ。
そして、そうなると動かない現場組と違い1人で監視するモエに負担が行く。
故に、交代人員をアリウスから送り込むのだ。
ついでに教育してもらうために。
「先生。せっかく上がっていた私の中での先生の株が、今は底をついています」
「大恐慌のグラフも真っ青だな」
「卑劣……」
当然、モエ以外のラビット小隊も扉間の卑劣具合を責め立てる。
『一先ず、現場組は戻ってこい。今日の夕飯はフライドチキンだ』
「モエ、SRTとして社会奉仕をするのも務めだとは思いませんか?」
「私達はSRTを再興するんだ。いつか出会う後輩のためと思え」
「モエちゃんの横領の件は黙っていてあげるから……」
『この
しかし、夕飯の内容を聞けば“卑遁・手の平返しの術”をするしかない。
そもそも、何も悪いことはしてないのだから責められる理由はない。
むしろ、警察機関なんだから他の生徒に奉仕するのは当然のこと。
ヴァルキューレの校舎にもそう刻まれている。
「さて、そうと決まれば今日の所は戻って、“ローズ”が動くまで待と――」
―――サキのヘルメットが弾け飛ぶ。
「サキ!? まさか、狙撃?」
「私はヘルメットのおかげで無事だ! こういう時は……全員物陰に隠れてしゃがめ!!」
「ど、どこから? ここを狙える場所なんてないはず…!」
『倉庫の護衛!? まさか、見逃してた…?』
ヘッドショットを受けたサキだったが、幸いヘルメットのおかげで無事。
ラビット小隊の3人は狙撃を避けるために、即座に地面を転がるように移動して物陰に隠れる。
「あら、今ので仕留めたと思っていたけど、ネズミにしてはいい動きをするじゃない。どうやら、単なるコソ泥とは違うみたいね」
そんな彼女達の下に、コツリコツリと硬い靴を鳴らす音が近づいてくる。
「いいじゃない、単なる警備の仕事だと思っていたけど、これでこそ――」
相手をまだ仕留めていないというのに、圧倒的な余裕。
本来は両手で扱うスナイパーライフルをクルクルと片手で弄ぶ姿は、常識では測れない能力を示す。
そして、彼女は高く色気のある声を弾ませながら、闇の中に居るラビット小隊に笑いかける。
「―――便利屋68の仕事に相応しいわ!」
陸八魔アル。裏社会の伝説だ。
「社長、油断しないで。まだ相手を倒せていないんだから」
「アル様には、指一本触れさせません!」
「アルちゃん、見つからないなら隠れてそうな所を全部爆破しちゃおうよ」
カヨコが油断するアルを咎め、ハルカが強迫観念に憑りつかれたように張り切る。
そして、ムツキはふざけている様な態度を取りながらも、非常に有効な策を提案する。
「ダメよ、ムツキ。今日の依頼はこの武器庫を守ることなんだから、いたずらな爆破はスマートじゃないわ」
「でも、アルちゃんだって、さっき『この詐欺会社爆破してやろうかしら』って言ってたじゃん」
「あれは依頼に『豪華
カイザーローン本店を襲撃。僅か5分で1億円を強奪する(冤罪)。
キヴォトス最強と言われるゲヘナ風紀委員会を撃破(囮)。
ブラックマーケットで、PMCとマーケットガードを相手に大立ち回りを見せる(真実)。
上記を全て1日の間に行った伝説を持つ便利屋68だが、財政状況はよろしくない。
儲かっても、自分のやり方を通すために前金は貰わないというスタイルのために、準備金で金が吹き飛ぶのだ。
しかも、依頼そのものが失敗した時は、依頼料も入らないので3食モヤシ生活も視野に入る。
故に、こうした細々とした依頼を未だに受けざるを得ないのだ。
『ふぅー……まだカイザーの依頼など受けておったのか。カイザーPMCとはあれだけ派手に喧嘩をしたと言うのに。まあ、警備自体は立派な仕事だが……』
「知っているんですか? 先生」
『ワシの生徒だ。と、言っても関わりがあるだけ故、強制的に従わせることは出来ん』
関わりがあるだけ(銀行強盗の罪を押し付け、囮にして利用。その後、護衛を頼む)。
まあ、シャーレの部員ではないので嘘は言っていない。
『無駄に争う必要は無い。既に用事はすんだのだ、予定通り撤退しろ』
「やられっぱなしで逃げろって言うのか!?」
そもそもしばらく待つ予定だったので、そのまま帰ればいい。
合理的な理由で、そう告げる扉間に対してヘルメットを撃ち飛ばされたサキが声を荒げる。
やられっぱなしでは終われないと。
「―――そこね」
だが、その行動は余りにも軽率だった。
声を頼りに当たりをつけたアルが、片手でスナイパーライフルを放つ。
死角に潜むサキを狙うために、
(反対の壁から跳弾!? 嘘だろ! 壁の強度も計算した上で狙ってやってるって言うのか!!)
(え? あ、あの人、もしかして片手でスナイパーライフルを扱ってるの…? え?)
今度は外れるが、それでも割と近い位置に飛んできた銃弾にサキは絶句する。
同じスナイパーであるミユは片手で、立ったまま、歩きながら、平然と狙いをつけるアルの非常識ぶりにひたすら疑問符を浮かべている。
(噂だけは聞いたことがあります……陸八魔アル。裏社会の生きる伝説。何かの冗談だと思っていましたが……どうやら真実だったようですね)
そして、ミヤコは陸八魔アルの実力を肌で感じて、ゴクリと唾を飲みこむ。
これが、裏社会の伝説かと。
「社長……まだ、それやってるの? 銃弾の無駄だからやめなよ。下手したら跳ね返ってくるし」
「この前見た映画でやってたやつでしょ? 跳弾? カッコいいよねー」
「だ、大丈夫です。跳ね返って来ても、私が守りますから……死んでも」
「れ、練習してるから大丈夫よ! それとハルカ。リーダーは決して部下を盾にしないわ!」
なお、ヘルメットに当たったのは割と偶然である。
自分の撃つ銃弾の角度なら調整できるが、壁の強度次第では銃弾がめり込むだけ。
ホームでもない場所で計算通りに出来るわけがない。
でも、跳弾って誰しも一度はカッコいいから試すよね?(キヴォトス基準)
『……どうするの? サキが叫んだせいで、位置がバレてるからコッソリ逃げるのは無理っぽいけど』
「……悪い」
『え? サキが素直に? い、いや、別に責めるつもりで言った訳じゃないから』
「そうです。敵の接近に気づかなかったのは、私達全員です。それに初撃を受けたのがサキでなければ、最低でも気絶は免れなかったでしょう」
「ヘルメットを被ってるのはサキちゃんだけだしね」
だが、便利屋の本質を知らないラビット小隊は、追い込まれたと感じて焦燥感を滲ませる。
ここから、どうするべきかと真剣に議論を交す。
なお、扉間は便利屋は非道なことはしないのを知っているので、お口にチャックしてラビット小隊の成長を緑茶片手に見守っている。
ラビット小隊が負けても、焼肉と引き換えに身柄を返してもらえば良い。
「……正面突破しかないですね」
「あ、あの強そうな人たちを相手に…?」
「最悪、囮役を私がやる。自分のミスぐらい、自分で取り返すさ」
『正面突破なら、ありったけの爆弾をぶつける? ありったけ、あるだけ全部』
囮役はもちろん、私が行く。
責任を感じて、そう告げるサキにミヤコは首を横に振る。
「いえ、私達はラビット小隊です。全員で帰って初めて任務の成功となります。仲間を見捨てることはしません」
仲間を見捨てることはしない。
そう宣言する、ミヤコ。
これには扉間もニッコリである。
「じゃあ、どうするんだ?」
「私に考えがあります。みんな私を信じて従ってくれますか?」
ミヤコが問う。
今まで曖昧だったラビット小隊の隊長枠。
それを、本当の意味で自分が受け持つこととするがいいかと。
「う、うん。ミヤコちゃんなら、信じられるから」
『ま、色々言ってたけど、能力で見たら誰が隊長か疑いようがないよね』
「私も……お前を信じる。ミスした手前で言うのもあれだけどな」
繋がる絆。信頼の証。
火の意思が灯る瞬間に、扉間も内心でスタンディングオベーションである。
「ありがとうございます。では……まずは閃光弾を使います」
「さあ、もうどこにも逃げられないわよ? 3分間待ってあげるわ。大人しく投降すれば命だけは助けてあげる」
出来るだけ悪のカリスマっぽい表情をしながら、アルがラビット小隊に声を投げかける。
内心では、『そもそも、警備なんだから追い出せば良いだけなんじゃ……でも、ここまで来て何もしないのもカッコ悪いし』などと思っているが、顔には出さない。
なお、身内にはしっかりとバレている。
「今です!」
「正面突破!? でも、無駄よ。そこにはハルカが――」
3分間待ってやる。
その言葉があって3秒足らずで、ミヤコの声が響き渡る。
そして、便利屋の目の前には宙に浮かぶ、手榴弾。
否、
「―――ちょッ! 目が!? 目がッ!?」
余裕綽々といった態度で、立っていたアルの瞳に強烈な光が襲い掛かる。
当然、目を開けていたアルは視界を奪われて目を押さえるしかない。
「
「マズい! 視界がハッキリしない間にやられる…! みんな伏せて!」
そして、聞こえて来るミヤコの呼びかけの声。
カヨコは来たる攻撃に備えて、少しでも避けられるようにその場にしゃがみ込む。
「………? 銃声が無い?」
しかし、攻撃として響いてくるはずの銃声は全く聞こえない。
不思議に思って、光に警戒しながらうっすらと目を開けると。
「ま、待って2人とも…速い」
「ミユ! 走れ! とにかく、走ってここを離脱するぞ!」
「全力で走ってください! 文句は後で聞きます!」
固まる便利屋を尻目に全力疾走で駆けぬけていく、ラビット小隊の姿があった。
「アハハハ! すっごい逃げっぷり!」
「追わなくていいんでしょうか?」
「私達の依頼は倉庫の警備。倉庫に入らずに逃げていくんだから、追わなくてもいいでしょ」
「あ、あれ? 敵はどこに行ったの?」
平然と背を向けて逃げていくラビット小隊の姿に、一体何だったのだろうかと思う便利屋達。
彼女達は、もちろんラビット小隊の存在など知らない。
ただ単に、倉庫の警備をしているだけだ。
(……あの服、明らかに不良共が使っているのとは違う。正式な部隊のものだ。こんな辺鄙な倉庫に一体何の用で? この倉庫に何かある? うちに依頼が来るとこから何かおかしいし)
だが、便利屋の頭脳であるカヨコは違和感を覚える。
金の無い不良共が武器庫を襲いに来たのかと思っていたが、どうにもそういう訳ではないらしい。
この倉庫には隠したい相応の何かがあることに感づく。
「……まあ、私達には関係ないか」
だが、下手に首を突っ込めば面倒ごとになるだけ。
依頼を完了させて、金を貰って後は関わらないようにすればいいだけ。
そう結論づけて、カヨコは銃を降ろす。
『それじゃあ、最後に置き土産していくね?』
「ッ! ドローン、まだ残って!?」
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
ミヤコ達はダッシュで離脱した。
だが、モエの操るドローンはまだ離脱していない。
「そっか、逃げた方は囮も兼ねてるんだね」
「じゃ、じゃあ、本命はこっち?」
ミヤコの作戦は、閃光弾で目くらましをしての現場組の逃走。
そして、ドローンは閃光弾は効かないので、その間に物陰に潜ませておいて相手が油断した所で出現させて、サキの敵討ちをする。
ここまでが、彼女の作戦だ。
『ふへへへ、もう作戦も終わりだし、爆弾をあるだけ全部使っていいよね? これから面倒臭い指導とかしないといけないし、ストレス発散にいいよね? 自分への御褒美ってやつ?』
「ハァ!? ちょ、ちょっと待ちなさい! ここら辺一帯は、全部武器庫よ!? 爆弾なんて好き放題に爆発させたらどうなることか! 火事にでもなったらヤバいわよ!?」
そして、ここからはモエの
罪無き一般市民が使う商店街を半壊させた実績を持つ女が、ブラックマーケット、しかもほぼ黒確定のカイザーグループに対して気を使うわけがない。
本来なら止める側の仲間や扉間も、今は通信が繋がっていないので止めようがない。
というか、今のモエの中では他の3人は
横領? 記憶にございません。
『いいや! 限界だねッ! 押すよ!』
「「「「あ……」」」」
皆さんは、ピタゴラスイッチをご存知だろうか?
早い話が、色々なものが連鎖して動いていき最後にボタンを押すドミノだ。
検索して頂ければ、面白い動画が多く出て来るだろう。
何故、ここでピタゴラスイッチの話をしたのか?
まあ、要するに―――
これが後に、陸八魔アル伝説に加わることになる、SRT特殊部隊との死闘の夜。
ブラックマーケットを火の海に変えた事件、『
「………RABBIT3、応答をお願いします。RABBIT3、RABBIT3 RABBIT3、風倉モエ」
『むしゃくしゃしてやった。今はスッキリしてる』
「もう、こいつ矯正局送りにしよう。私達にはその義務がある」
「あはは……お空が薔薇みたいに真っ赤……」
離脱した先で聞こえて来る爆発音。
まるで朝焼けのように光り輝く真夜中の空。
立ち上がる薔薇のような爆炎。
モエの通信機に鬼電をかける、ミヤコ。
ガチ目に犯罪者相手に向けるような目を見せる、サキ。
死んだ目で爆発の炎で赤くなった空を見ながら、現実逃避をするミユ。
そして、反省はしているが後悔はしていない、モエ。
これが爆発落ちの結果である。
「……一応聞いておきますけど、“ローズ”の反応は?」
『反応ロスト。完全に吹き飛んだね。いやー、サーモバリック手榴弾が爆発するのを見るのは初めてだったけど、良いものが見れたよ』
「そうですか。取り敢えず、自首する用意をしておいてください。帰り次第、拘束しますので」
『あ、私はアリウス学園にオペレーションを教えに出向するから』
「アリウス学園の皆さんに、犯罪者を匿う罪を押し付けないでください」
もはや怒る気力すら失ったのか、一切の表情が抜け落ちた顔でモエに淡々と語りかけるミヤコ。
もはや、その顔には一抹の情けすらなかった。
『いやいやいや! 私だけ残ってドローンで攻撃するのは作戦通りだったじゃん!?』
「どうせお前のことだから、使える弾薬を全部使ったんだろう! 火薬庫でバーベキューを始める馬鹿か、お前は!!」
『いやー、それはサキの敵討ちで張り切っちゃった感じ?』
「私のためと言われてここまで嬉しくなかったのは、生まれて初めてだよ、馬鹿」
任務に私情を持ち込むと何が起こるかを、頭ではなく心で理解したサキは頭を抱える。
一応は、モエの言い分も筋が通っているのが
「モエちゃん、私もついて行ってあげるから自首しよ?」
『だーから、何で私のことを犯罪者みたいに言うのさ! そもそも、ここはブラックマーケットだよ? 誰の許可も取っていない土地に、不法に滞在している人の家を壊しても罪にはならないから!』
「なんだろう……一歩間違えたら私達もそれを言われたような気がする」
ブラックマーケットは治外法権。
というよりも、自分達で勝手に連邦生徒会の法律から抜け出た存在。
そんな場所で、自分の権利や相手の罪を訴えた所で鼻で笑われるだけだ。
故に、暴力。暴力で全てを解決するのだ。
『大体、私だけ指導の仕事するんだから、このぐらいの役得があってもいいじゃん!』
「その仕事の前に、自分で仕掛けた“ローズ”を爆破しては意味がないでしょう。これで私達の任務は失敗です。先生も何と言う事か……そういえば、先程から先生の反応がありませんね?」
「呆れて言葉も出ないか、驚いて失神しているか、じゃないか? 老人には優しくしろよ、モエ」
「ご、ごめんなさい、先生。任務失敗しちゃいました……」
なおも、言い訳を続けるモエにミヤコがため息をつく。
サーモバリック手榴弾につけた探知機が消滅した以上は、もう追跡することは出来ない。
証拠をつかむことは不可能。
まあ、代わりに証拠をつかむ前に
「先生、その……聞こえていますでしょうか?」
『む? ああ、すまんな。
怒ってるかなと、恐る恐る扉間に声をかけるミヤコ。
しかし、意外にも扉間の声には険はなかった。
『……え? 私が言うのもなんだけど、怒んないの?』
『呆れはしたが、お前達から伝え聞いた現場の状況から考えれば想定の範囲内。地図を描き直す羽目になるよりはマシだ。ただし、反省をして今後は慎重に行動しろ』
まあ、マダラの火遁に比べたら可愛いものだし、柱間の木遁程破壊力はないから。
2人揃って地図を描き直す羽目になるのに比べれば、この程度は許容範囲内である。
「あの……現在進行形で、ブラックマーケットの地図が炎で塗り替えられているんですが、それは」
しかし、ミヤコは爆発を伴いながら、ドンドンと燃え広がる炎に死んだ目を向ける。
彼女からすれば、全然許容範囲内ではないのだ。
『何を言っておる? ブラックマーケットなど、地図に元々ないではないか?』
「「「『うわぁ……』」」」
相手側が勝手に測量を拒んでいるので、公的な地図はないため存在しない土地も同然。
しれっと告げられた卑劣過ぎる発言に、ラビット小隊は思わずドン引きする。
『公に認められていないということは、そういう事だ。隕石が落ちようと、火の海に呑まれようと、大洪水に遭おうと、記録に存在せん街や人は国からすれば消えてなくなっても何も変わらん』
しかし、そんなことでは扉間の現実主義的なドライな発言は止まらない。
『お前達にもいつか話そうとは思っておったが……よく覚えておけ。武力というものは国という
非公式な武力を持つ集団や場所など、そこに住む人間以外にとっては消えても問題はない。
自分達の存在を認めさせたいなら、まずは後ろ盾を得なければならない。
ただの傭兵集団だった忍が、国というバックを得て里になったように。
「せ、正義はないのでしょうか……」
『かれこれ半世紀程生きているが、未だに絶対的な正義にはお目にかかれておらんな。強いて言えば、力だが。個人の思想が何であれ、これがあれば何でも押し通せる。逆に力がなければ、100人中99人が正しいと思う事でも押し通せん。力無き者の理想とはただの甘さだ』
この世に正義はないのかというミヤコの言葉を、バッサリ切り捨てる扉間。
権力だろうと暴力であろうと、力が無ければ何もできない。
それは、大甘の柱間ですら自覚していたことだ。
「………そう…ですか」
ミヤコはそんな扉間の言葉に俯くことしか出来ない。
デモを始めたばかりの頃なら、絶対の正義はあると言えただろう。
だが、連邦生徒会の権力の保証のないSRTではその日のご飯すら食べられない。
誰かに助けてもらってばかりの状況で、如何に正義が語れようか。
『故に……まずは甘さを優しさに変えろ』
「え?」
しかし、扉間は甘さでは何も出来ないと断言はするが、甘さを捨てろとは言わない。
『甘いだけでは誰のためにもならん。時には厳しく接しもする優しさを身につけろ。そして、優しさを貫く強さを身につけろ。そうしていけば、いつの日にかお前自身が確固たる正義となることが出来るはずだ』
「私自身が正義…?」
正義とはどこにあるのか?
時代、国、人種、宗教によって変わる正義の場所。
突き詰めれば、それは
『まっすぐ自分の言葉を曲げるな。お前はお前の信じる正義を証明してみせろ。そうして、お前の歩いた道が後に続く者達にとっての正義となる日が必ず来る』
扉間はマダラの無限月読を否定しない。
誰も傷つかない夢の中の世界。それも正義だろう。
だが、扉間は柱間の傷つきながらも現実を歩む背中にこそ、己の正義を見出した。
『甘さを優しさに、優しさを強さに、そして強さを正義へと変えてみせろ』
「甘さを正義に……」
扉間からの言葉をゆっくりと咀嚼するように噛みしめる、ミヤコ。
その様子を、他のラビット小隊も黙って見つめる。
『校長先生、準備が出来たよ。いつでもブラックマーケットに行ける』
『深夜に悪かったな、アツコ。さて、アリウスの準備は整った。今より、ワシもブラックマーケットに行き、負傷者の救助及び鎮火活動を行う。他の機関にも話は通してある。もっとも、どこまで動いてくれるかは分からんがな』
「先生…!」
「へー……株価が持ち直したな」
通信から聞こえて来る、扉間の救助活動宣言にミヤコの顔がパッと明るくなる。
サキも少しだけ見直した表情を浮かべて笑う。
アリウスの進軍で出て来るマーケットガード?
救護活動のための犠牲になったのだ。
「人命救助……そうだね、火事で火傷する人が居るかもしれないもんね」
『あー……その、流石にやり過ぎだったかも、ごめん……』
人の命がかかっているかもとミユに言われたことで、初めてまともに謝るモエ。
なので、昔ながらの
本当に仕方がないことだが、ちょっと、余計に、少々、壊しすぎるかもしれないが許して欲しい。
ただ、アリウスは破壊工作に関しては
綺麗に壊してみせます。
『さて、こうなってしまった以上は仕方ない。お前らには別に動いてもらう』
「任せてください」
「“ローズ作戦”は失敗したからな。次は成功させてみせる!」
『まあ、こうなったのは私の責任もあるから頑張るよ』
「が、頑張ります」
光の扉間を目の当たりにして、4人の気合も上がる。
これには扉間株もストップ高である。
『フ、良い気合いだな。そうだ、お前達はまだ若い。失敗しても何度でも挑戦すればいい。では……これからお前達にやってもらうことだが、簡潔に言うとだ――』
そして、扉間はそんな若者の姿に眩しそうに目を細めながら告げる。
人命救助を隠れ蓑にして高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応した新しい作戦。
『―――火事場泥棒でカイザーから情報を根こそぎ奪い取るぞ』
どの道碌な会社じゃねぇんだ、開き直って強引に行こう作戦を。
陸八魔アル伝説
・カイザーローン本店を襲撃。僅か5分で1億円を強奪する。
・キヴォトス最強と言われるゲヘナ風紀委員会を撃破。
・ブラックマーケットで、PMCとマーケットガードを相手に大立ち回りを見せる。
NEW! SRT特殊部隊と死闘を繰り広げてブラックマーケットを火の海に変える。
今後の予定ですが、カルバノグの兎終わったら最終編行く前に何個かイベント入れます。
コユキに拳骨入れたり、イズナの名前に複雑な表情をしてもらいたいので。
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