千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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49話:狐

 きっかけは何ということもない偶然。

 偶々、ブラックマーケットを歩いている時に場違いな幼女を見かけた。

 そして、少女の持つぬいぐるみから不自然な音が聞こえたから。

 

 暇つぶしに話を聞いてみれば、カイザーグループを名乗る人に、お小遣いを渡す代わりにぬいぐるみをシャーレの先生に渡して欲しいと言われたのだと。

 

 なるほど、キヴォトス人は爆弾程度では死なないが、扉間は別。

 安全な自爆特攻が出来るのかと感心しつつ、そうまでして殺したい先生に興味を持つ。

 それと、純粋な存在が騙されるのは過去を思い出して気に入らなかったので、()()()()()()()幼女の仕事を引き継いであげた。

 後、ぬいぐるみが爆発するのは嫌だなという、幼い乙女心がワカモにもあった。

 

「さて……たまには良い事でもしてみましょうか」

 

 こうして、ブラックマーケット史上最大規模の暴動は始まったのだった。

 

 

 

 

 

「ヒャハハハハァ!」

「ちくしょう……」

 

 崩れ落ちるゲヘナ風紀委員会の生徒。

 それを見て、暴動の中心であるマーケットガードは高らかに笑う。

 見たか、これが私達の怒りの強さだと。

 

「大丈夫っすか?」

「あべしッ!?」

 

 しかし、そんな虚勢もすぐに終わりを迎える。

 正義実現委員会のイチカに、ヘッドショットを食らったからだ。

 

「ここは私に任せて、怪我の治療に行くっすよ」

 

 イチカが優しく、怪我をした風紀委員に後ろに下がるようにつげる。

 因みに、風紀委員もマーケットガードも大怪我はしていない。

 キヴォトス人の頑丈さ、さまさまである。

 

「で、でも……」

 

 しかし、やられっぱなしで素直に納得など出来ない。

 すぐに戦線に復帰しようと、震える足に力を込める。

 

「私と救護、どっちが怖いっすか?」

「はい……分かりました」

 

 だが、救護が来ると言われればすごすごと引き下がるしかない。

 誰だって、味方から攻撃を貰いたくはないのだから。

 

「うちのが迷惑をかけたな、イチカ」

「イオリさん、動けるようになったんっすか?」

「数は多かったけど、大した練度じゃない。中央を突破したら、一気に崩れていったぞ」

「なるほど、それで合流出来たんっすね。アリウス(せんせい)の方は?」

 

 大軍での奇襲と言えど、元々敵地のど真ん中で陣を構えていたようなものなので、それ自体に驚きはない。

 風紀委員会も正義実現委員会も、軽微の損害を受けながらも問題なく奇襲を退けている。

 

「悪い、分断された。あっちにはアリウスもSRTも居るし、先生のことだから、大丈夫だとは思うけど……」

「早い所、合流するにこしたことはないっすね」

 

 被害はないが、部隊が分断されたのは素直に痛い。

 扉間はこの大規模部隊の中でも、最大の重要人物。

 何より、キヴォトスの外のか弱い人間。

 

 乱戦においては、いつも以上に注意が必要だ。

 早めに、安全地帯に案内するべきだろう。

 

「……まあ、それをさせないのが普通だろうけどな」

 

 しかし、部隊を分断して各個撃破するのは戦場の定石。

 ブラックマーケットの暴徒達が、扉間とエデン条約機構(ETO)を分断するように、わらわらと湧いてくる。

 

「……ちょーっと、手こずりそうっすね、これは」

「雑魚は何人集まっても、雑魚だ……問題は弾薬の方だな」

 

 ブラックマーケットの暴徒達等、ただの素人に毛が生えただけのチンピラだ。

 正規の軍隊である、イオリ達が戦えば100回やって、100回勝てるだろう。

 だが、1()0()0()()()は無理だ。

 補給が絶えていずれは負ける。

 

「元々敵地っすからね。補給が十分とは言えない」

「まあ、武器が少なくなったら相手から奪えばいい。最悪、ミカみたいに瓦礫でも投げればいい。トリニティの生徒なら出来るだろ?」

「ミカ様を基準に物事を考えないで欲しいんっすけど?」

 

 だが、補給が少ないからすぐに逃げます、では軍隊は始まらない。

 奪うなり、ミカの様に落ちている瓦礫を武器にすればいいのだ。

 普通のキヴォトス人は瓦礫を武器に出来ない? 知ってるよ。

 

「じゃあ、ミカにやってもらうか。そういえば、ミカは?」

「アリウスとの仲が大丈夫そうなんで、先生と入れ替わる形でティーパーティーの仕事で学園に戻ってるっす」

「……そう言えば、ミカってマコトと同じ生徒会長扱いなんだよな」

「まあ、私達下っ端と違って忙しいっすからね、偉い人は。むしろ、昨日の夜中によく来てくれたなと」

 

 政治に関しては、ナギサから戦力外通知をもらっているミカだが、それでもティーパーティー。

 セイアもまだ体調が万全ではないので、普通にやるべき仕事は多い。

 

 正義実現委員会を束ねるティーパーティーが、正義実現委員会よりも弱いとでも思った?

 

 などと言い出しかねないミカではあるが、トップの仕事は戦闘ではないので大人しく上の仕事もこなしている。

 

「そのタイミングでの襲撃か。運が無いな」

「……運、だと良いっすけどね」

 

 運が悪いとボヤくイオリに対して、イチカは狙われている可能性を感じて目を開く。

 最大戦力のミカが居ない隙をついての暴動。

 これが相手の狙いだとすれば、扉間と分断されているこの状況もまた相手の狙いではないか?

 

「これが、相手の作戦通りなら、相手の本当の狙いは……先生個人」

 

 全ては王将を落すための作戦。

 そう考えれば、焦りも出て来るというものだ。

 

「だとしても、今の私達には目の前の邪魔な奴らを片付けるしかないだろ? ほら、やるぞ」

 

 しかし、単純なイオリは取りあえず目の前の暴徒共を消すのが先だと、開き直る。

 

「……そうっすね。結局はそれしか出来ないっすもんね」

 

 イチカはそんなイオリの単純さに、少しだけ羨ましそうな目を向けた後に自身も開き直ることにする。

 

 

「じゃあ、邪魔する人達には―――痛い目に遭って貰うっすかね」

 

 

 そう言って、イチカはトリニティに似つかわしくない悪魔の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「校長! ここはオレに任せて、先に行け!」

「後ほど合流しましょう、あたし達もすぐに追います!」

「私、この任務が終わったら限定パフェを食べるんだ……」

「いや、囮役はもちろんワシが行く……お前達はこれからのアリウスを守っていく、若き()の意志達だ」

 

『いや! 何、全員で変なフラグを建ててるのさ!?』

 

 所変わり、イチカの予想通りに本命の扉間の下に集う大量の暴徒達。

 それを食い止めるアリウス生徒は、知ってか知らずか死亡フラグ全開な台詞を言う。

 ついでに、扉間も乗って通信越しのモエにツッコミを入れられている。

 もはや、一周回って生存フラグである。

 

「色々と言いたいことはありますが、先生はか弱い老人。流れ弾一発で死にかねない人をこの場に置いておくわけにもいきません。一度、安全地帯にいきましょう」

「行くぞ、先生。護衛は私達がやってやる」

()の意志…? 卑劣そう……」

「むぅ、この状況ならば、相手の狙いをズラして……いや、ここはお前達の指示に従おう」

 

 アロナガードがある上に、相手の狙いは自分がこの場から離れることだ。

 そう告げようとする扉間だったが、少し考えて子供達の意見に従うことにする。

 正しい回答を教えるだけではなく、痛い目をみることも時には必要だろうと考えて。

 

「モエ、どこか安全な部隊はいませんか?」

『ダメだね。どこも乱戦状態。救護騎士団とか救急医学部も患者に襲われてる』

「治療して貰った奴らを襲うなんて、卑劣な奴らだな」

「……でも、正直恨まれても仕方ない気が。4分の1ぐらいは自分達で患者にしてたし……」

 

 助けた患者に襲われるという悲しき事態に憤る、サキ。

 まあ、実態はミユがコソッと言っているように、やられた(救護された)のでやり返している人間が大半なのだが。

 

「とにかく、安全な場所に移動しましょう。幸い私達は少数部隊。戦場から消えたところで、大勢は揺らぎません」

 

 取りあえず、か弱い老人の扉間を安全地帯に届けるべくミヤコの指示で、動き出すラビット小隊。

 

「モエ、敵が居ないルートを案内してください」

『OK、ちょっと変な道になるかもしれないけど頑張って』

 

 乱戦状態の戦場から、出来る限り安全な道を。

 戦闘が行われていない場所を選んで、ナビゲートしていく、モエ。

 扉間は黙ってそのナビを受けながら、周囲に目を走らせる。

 これほどの乱戦なのに、不自然なまでに安全な道に。

 

「……以前、トラップの守破離について語ったな。守が基本に忠実であること。破は応用を利かせること」

「こんな状況で藪から棒になんだ? 黙って走れ」

 

 年寄りの蘊蓄(うんちく)は、後で聞いてやると胡乱気(うろんげ)な目を向けるサキ。

 だが、扉間はそれを無視して話を続ける。

 

「離とは、自身で新しいものを生み出すこと。この場合はトラップを如何にして当てるかではなく、相手がトラップを避けるという行動そのものを、トラップにする行為か」

「待って、みんな…! 建物の上に誰か居る!」

 

 基本を守り、トラップを仕掛ける。

 基本を破り、相手の予想を上回るトラップにはめる。

 そして、基本を離れて――

 

 

「うふふふ、どうやら(わたくし)()()()()に、こちらに来ていただけましたね」

 

 

 ―――危険(トラップ)を全て避けられることを前提に、逃げ道を誘導すること。

 トン、と柔らかな着地音を立てて、黒い狐が扉間の前に降り立つ。

 

「お初にお目にかかります、トビラマ先生。人伝からのプレゼントをお渡ししようかと。いえ、まずは自己紹介を致しましょうか? (わたくし)は――」

 

 まるで、木ノ葉の暗部のような狐のお面を被った少女は、仮面の下で嗤う。

 この戦場は全て自分の手の平の上だとでも、言うように。

 だが。

 

「―――撃てッ!」

「はいッ!?」

「「「『えッ!?』」」」

 

 扉間は自己紹介など聞く気もなく、容赦なくBluetooth銃を発砲する。

 虚を突かれた狐の少女、狐坂ワカモは情けない声を上げて、銃弾に当たる。

 もちろん、その程度では肉体にほとんどダメージは入らないが、精神にダメージを食らう。

 

「何をしておる、敵だぞ。さっさと、戦闘態勢に入れ」

「「「『ええぇ……』」」」

 

 そして、唐突過ぎる事態に動けなかったラビット小隊に、扉間は活を入れる。

 ラビット小隊は、魔法少女の変身シーン中に攻撃するが如き、扉間の暴挙に言葉を失う。

 

「不躾な人ですね! 自己紹介くらい、させていただけませんか!? こちらは、SRTの生徒という宿敵に会うという、結構なドラマチックな展開を楽しみにしていたのですが!?」

「敵の都合を気にする馬鹿がどこに居る? 今回の暴動もお前の策だな」

「せめて、名前くらい…(わたくし)の名前は――」

「「―――狐坂(こさか)ワカモ」」

 

 ワカモの言葉に、扉間が言葉を被せるように告げる。

 

「年齢18歳、百鬼夜行連合学院出身。無差別かつ大規模な破壊行為を行う事から“災厄の狐”と呼ばれている、ヴァルキューレ矯正局を脱走した危険人物……」

 

 キヴォトスに初めて訪れた日のシャーレ奪還作戦。

 ワカモはその際の首魁だと、リンから聞かされていた扉間は当然逃げられた後にワカモのことを調べた。

 そうして、大した理由もなくテロを行うワカモという生徒を知る。

 平和を乱す災厄と見定めた。

 

「大人しくお縄につき、ヴァルキューレの矯正局に戻れ。お前も一応は生徒だ。罪を償う気があるのなら、悪いようにはせん」

 

 為政者として、テロリストは許せない。

 長としても、不良達を煽るだけ煽って自分だけ逃げるのはあり得ない。

 個人としても、いたずらに戦乱を巻き起こす存在は嫌い。

 

「だが、その前に念のために聞いておいてやろう……暴動を起こす理由は何だ?」

 

 しかし、生徒達との関わりで生前よりは丸くなっているので、一応理由ぐらいは聞く。

 え? 初手発砲の理由?

 可能なら、捕えてから聞いた方が合理的だろ?

 

「まったく、一方的に自分の都合を押し付けるだけで、強引ですわね」

「お前の理由次第ではそうなるな」

「理由…理由…そうですね……」

 

 明らかに苛立ちの籠ったワカモの言葉にも、扉間は欠片も臆さない。

 ラビット小隊の方が扉間に、若干臆している程である。

 

「言うなれば…気まぐれであり…計画でもあり…実益のためでもあり…趣味のためでもあります」

 

 やっと、扉間がまともに会話に乗ってきたので、機嫌よくスッと仮面を触りワカモが話す。

 それにつられて、ジャララと大量の銃弾が音を立てる。

 

「良かったな…で…それが何の役に立つ!」

 

 街や人を傷つける行為に、意味なんてあるわけないだろうと扉間が再び銃を撃つ。

 今度はワカモの方も準備が出来ていたのか、スッと軽く弾丸を躱す。

 

「あら、人の趣味をとやかく言う殿方は、おモテになりませんよ?」

「ジジイがモテる必要などないわ。お前はここでワシが捕らえる」

 

 襲撃や略奪は趣味でしかないと告げるワカモが、扉間の中の最後の一線を越える。

 一応は生徒であると認識していた存在から、排除すべき敵という認識となる。

 

()()は、一般市民を……何より、ワシの生徒をいたずらに傷つけようとする者。決して野放しには出来ん」

 

 先生として、生徒達を傷つける存在を許すわけにはいかない。

 里の子供達(アリウスの生徒)が危険に晒されているのだ。

 火影(校長)として、キツイ当たりになるのも仕方のない事だろう。

 明確な所属が出来たが故に、若干昔のような苛烈さが出てきているのだ。

 

「うふふふ、あなた方にそれが出来るでしょうか?」

「ミヤコ、まずは出来る限り相手の武器を消耗させるぞ」

「……先程から言っていますが、先生は逃げるべきです。ワカモは私達が何とかしますので、先生は真っすぐ逃げてください」

 

 なんか、普通に戦おうとしている扉間にミヤコが心配そうな表情で、逃げるように告げる。

 何度も言っているが、彼女達の扉間の認識は銃弾一発で死ぬ、か弱い老人。

 なんやかんやで慕ってきたのもあり、素直に心配しているのだ。

 

「あら? (わたくし)が逃がすとでも、思っておいでですか? さて、まずは邪魔なコバエから」

『わわッ!? みんな、ごめ――』

「モエちゃん!?」

 

 しかし、わざわざここまで誘導しておいて、そのまま逃がすわけもない。

 ワカモは潜ませておいたドローンを起動させ、逃げ道を塞ぐように囲い込む。

 そして、ついでとばかりにモエの操作するドローンを撃ち落す。

 

「さて、これで外とは連絡は取れませんよ? まさに、飛んで火にいる夏の虫。火と言うには、少々火力が強いかもしれませんが……せいぜい火傷しないでくださいませ」

「やはりな……ここまで来た時点で()()()()()()戦うしかないぞ」

 

 そして、自身も大型のドローンに飛び乗り、制空権をあっという間に支配するワカモ。

 扉間はそんな姿に、少々面倒だなと思いながらBluetooth銃を弄る。

 アロナを経由して、()()()()()()()()を出しているのだ。

 

「……なぁ、先生は相手が待ち構えていることを分かっていたのか?」

「可能性としてはな。トップ(相手の首)を狙う時に、騒動を起こしてワザと避難させた所を狙うのは、ワシも何度かやったことがある」

「私達がここまで連れてきたせいか……」

 

 しかし、そんな扉間とは反対に、サキは自分達がまんまと罠にかかってしまったことに肩を落とす。

 ワカモは先輩であるフォックス小隊が捕らえた存在。

 そのことが余計に、自分達の未熟さを際立たせているように感じられたのだ。

 

「この世界に絶対はない。ワシとお前の予想の結果が、逆だったかもしれないのだ。気にするな」

「でも――」

「戦場で無駄なことは考えるな。反省など後でいくらでも出来る。そもそも、戦場で全てを思い通りに進ませることなど、単なる理想論だ。重要なのは、現状を冷静に判断し、いかなる状況でも決して諦めない――」

 

 なおも後悔するサキに対して、扉間が戦場で生きる者の心得を説く。

 起きたことはしょうがないのだから、さっさと切り替えるのだと。

 

 

「―――ド根性だ」

 

 

 戦場で想定外は当たり前。

 ならば、いかなる状況であっても生還を諦めないド根性こそが、最も肝要。

 

「ド根性……」

「罠を仕掛けた相手が最も嫌なことが分かるか? それはな、真正面から罠を食い破ってやることだ」

 

 罠に追い込んだ者は、敵が後退することは考える。

 罠にはまらなかった場合も考える。

 だが、罠にはまった上でそれを突き抜けて来るのは想定しない。

 何故なら、それをすると無限の状況を想定する必要が出てくるからだ。

 

「正面突破だ。予定通り、この道を切り抜けるぞ」

「……はい、()()!」

「ウワサ通りの良い指揮ですわね。ですが、“兎”さん達が“狐”に勝てるでしょうか?」

 

 扉間からの教えを飲み込み、サキはキッとワカモの方を睨みつける。

 それを見て、ワカモは面白くなってきたとばかりに挑発を行う。

 

「特権も使えず…FOX小隊の足もとにも及ばない戦闘技術…そして何よりか弱い(うさぎ)……」

 

 兎は狐に狩られるだけの存在。

 かつて自身を倒したきつね(FOX)小隊と自身の異名である災厄の(きつね)をかけながら、ワカモは煽る。

 

「か弱い動物は愛くるしいですが、弱い兵士は醜いですわ。弱いSRTなど、なおさら」

「い、言いたい放題……」

「あら? では、あなた方に何が出来るか見せて頂けますか?」

「! 全員、散開してください! ミユは先生と一緒に物陰へ!」

 

 銃弾の雨が降り注ぐ。

 ミヤコはすぐに指示を出して、散開する。

 

「あらあら、鬼ごっこですか? お可愛らしい事」

「せ、先生、大丈夫?」

「問題ない。しかし……」

 

 ドローンの攻撃から扉間を守るように庇う、ミユ。

 そんな状況にどうするべきか考えながら、扉間は思う。

 

「少々、面白くはないな」

 

 ラビット小隊が馬鹿にされるのは、気に入らないなと。

 

「最近は体罰がうるさいが、拳骨の一発ぐらいは入れても罰は当たらんだろう」

「せ、先生?」

「ミユ。ワシは数十秒程度なら、如何なる攻撃も防げる手段を持っている。いざという時は、それを利用して隙を作る。よいな?」

 

 困惑するミユに対して、アロナガードの存在を明かす扉間。

 絶対防御で隙を作り、その間に攻撃する鉄板だ。

 まあ、アロナの機嫌を考慮しなければの話だが。

 

「何をするか分かりませんが、一撃で狐坂ワカモを気絶させる攻撃がないなら無意味かと」

「そういうのは、モエの専売特許なんだけどな。代わりのドローンはまだ来ないのか?」

『ごめん、向かわせてるんだけど相手に邪魔されてる。やっぱり、あの女狐(めぎつね)厄介だよ。連邦生徒会長と先輩達が手こずるわけだわ』

 

 そこへ、合流して来たミヤコとサキ、通信のモエが会話に加わる。

 

「モエ、他の増援などは来られそうか?」

『こっちも救援信号出してるんだけど、やっぱりここに来れないように乱戦で道が塞がれてるみたい。強力な部隊で一点突破するのが一番早いと思うけど、今はどこも手一杯』

「ミカが帰っているのが痛いな……いや、ミカが帰っているタイミングを狙ったのか」

 

 こんな時、ミカが居れば壁や建物を粉砕しながら助けに来てくれるのだが。

 そう思うが、居ないものは居ない。

 

「あら、コソコソと何をやっているのですか? せっかく、()()()()()を差し上げようと思いましたのに」

「爆撃です! サキ、ミユ、空中で撃ち落としますよ! その後、すぐに場所を移動!」

「う、うん。分かった」

 

 隠れている場所にワカモの爆撃が襲ってくるので、空中で爆破させてそれを目くらましにしつつ、再度移動する。

 

「今のを空中で撃ち落としますか……うふふふ、これはか弱いというのは、訂正する必要があるかもしれませんわね」

 

 そんな技量に若干驚いたようにワカモは笑う。

 因みに、ぬいぐるみから抜き出した爆弾も混ぜていたが、ミユに撃ち抜かれている。

 

 ぬいぐるみごと爆破しないのか?

 いえ、ぬいぐるみが可哀想でしょう(純粋)。

 とは、ワカモ談である。

 どこぞの卑劣とは違うのだ。

 

「ですが、所詮は兎。狩られる側なのには変わりませんよ?」

 

 一時的に危機を逃れたとはいえ、根本的解決にはならない。

 むしろ、ワカモに今まであった油断が消える。

 これでは、生半可な誘導などは効かないだろう。

 

「ほらッ、踊りなさい!」

「また、爆撃…ッ」

 

 そして、相手の息の根を止めるように連続での爆撃を行う、ワカモ。

 制空権を支配された影響がもろに出てしまっている。

 

「このままでは埒があきませんね。ミユ、相手のドローン爆撃機を撃ち落せますか?」

「一瞬でも止まって構えられるなら……」

「つまり、現状は無理ってことだな!」

「ごめんね……私が陸八魔アルみたいに歩きながら片手でも狙えたら」

 

 ワカモの爆撃と射撃から逃げるために、走り回るラビット小隊と扉間。

 ミユは基本自信がないが、長距離射撃においては実はとんでもない才能を持つ。

 だが、走って逃げながら、3次元的に動き回る小さなドローンを狙えるかというと勝手が違い過ぎる。

 

 因みにアルならばと言っているが、アルの射撃精度はミユ程ではない。

 片手で撃った方がかっこよくない? という理由で、やっているだけである。

 

「後悔は後にしろ。……やはり、ここはワシが囮になって隙を作り出すしか」

「ダメだ! お前は一般人なんだぞ! 死ぬ気か!?」

「サキよ。この場で必要なのは、一瞬でも時間を稼ぎ、その間に相手の制空権を奪う事。心配してくれるのは嬉しいが、ワシには防ぐ手段がある。現状はこれが取れる唯一の手段だ。すまんが、()()()()()

 

 扉間が許せと謝る。

 ラビット小隊に、そして話を聞いているアロナに。

 

『唯一ではありません……大丈夫ですよ、先生。私が隙を作りますので。今から、()()()()()()()をBluetooth銃に送ります』

「アロナ…? どういうことだ?」

 

 アロナガードではなく、別の方法で隙を作り出す。

 そう告げるアロナに、扉間は眉を顰める。

 

『ワカモさんなら、きっと効いてくれると思います。ただ、ラビット小隊の皆さんにも効くかもしれないので、何が聞こえても動揺せずに攻撃するように伝えてください』

「……分かった、お前を信用する、アロナ」

「先生…? 先生単独での通信ですか?」

『私じゃないよ』

「おいおい、こんなタイミングでボケたとか言うなよな」

 

 独り言を呟いているようにしか聞こえない扉間に、走りながらミヤコが疑問符を浮かべる。

 サキも失礼な物言いだが、その表情は心配したものになっている。

 

「聞け。今より、ある音声をBluetooth銃から流してワカモに隙を生み出す。その音声が何であっても、お前達は無視をしてドローンの攻撃だけに集中しろ。分かったな?」

 

 そんなラビット小隊に扉間が指示を出す。

 Bluetooth銃より流される音声データでワカモの意識を止めるので、その隙にドローンを破壊して制空権を奪えと。

 

「分かりました(Bluetooth銃?)」

「分かった(Bluetooth銃だと?)」

『了解(Bluetooth銃ってなに?)』

「は、はい(Bluetooth銃って?)」

 

 それに対して、ラビット小隊は揃って頷く。

 なお、全員がBluetooth銃って何だ? と思っているが、空気を読んで黙っている。

 

「では、行くぞ―――アロナ!」

『はい、行きます!』

 

 扉間がアロナに渡された、()()()()()の音声データを流す。

 その人物は。

 

 

 

【キヴォトス連邦生徒会、()()()()()()の名を以て宣言します。狐坂ワカモ、あなたを一般市民からの略奪及び、市街地の破壊の罪で矯正局送りにします】

 

 

 

 連邦生徒会長。

 現在行方不明になっているSRTの統括者であり、ワカモを矯正局送りにした張本人の声だ。

 

「――どこにッ!?」

 

 ()()()()()()()()をそのままに。

 居るはずのない、自らが恐れる相手の声にワカモの意識が完全に戦闘から逸れる。

 怯えから、体が逃走の準備に移行してしまう。

 

「今だ! 撃て!!」

「しまっ――」

 

 だが、その音声は録音。

 AIであるアロナが編集した、かつてワカモの逮捕の際に告げられた台詞。

 ワカモに致命的な隙を生み出すための罠。

 

「行きます!」

 

 ワカモの操作が止まり、動きを止めたドローンをミユが一気に撃ち落としていく。

 

『ガラ空きだよ! RABBIT1、RABBIT2!』

「狐坂ワカモ、今はいない先輩の代わりに私達が逮捕します!」

「ああ! 行くぞ、ミヤコ!!」

 

 爆撃ドローンが居なくなれば、後は巨大なドローンに乗ったワカモだけ。

 それも撃ち落とせば、一気に形勢は逆転する。

 

「ドローンの制御が…ッ」

 

 ミヤコとサキの銃撃がワカモを乗せたドローンを撃ち抜く。

 ワカモの翼がもがれる。

 

「地の利を失ったな! 一気に畳みかけろ!!」

「はい、先生!」

「年貢の納め時だな!」

「つ、捕まって!」

 

 そして、移動手段を失ったワカモは地上へと落ちて来る。

 ラビット小隊が羽を失った鳥を襲う獣の様に、畳みかける。

 飛べなくなった鳥は無様に、その命を散らすのが運命。

 

「……まさか、ここまでやるとは。完全に侮っていましたわ」

 

 だが。

 

 

「―――ならば、狐坂ワカモも()()でお応えしましょう」

 

 

 彼女は鳥ではない。狐だ。

 地上を駆け回る狩人だ。

 つまり、地の利を失ったわけではない。

 

「なっ!?」

 

 ワカモの銃剣が大きく振るわれ、近くに居たミヤコを薙ぎ払う。

 ミヤコの体が力無く宙に舞う。

 

「ミヤコ!?」

「よそ見をしている場合ではありませんよ?」

「――ガフッ!?」

 

 そして、その流れでサキに接近して腹部に銃弾を叩き込む。

 苦悶の声を上げて、サキは地面に沈む。

 

「ふ、2人とも!」

『RABBIT4! 下がって!!』

「うふふふ、あの女の声には少々驚きましたが……どうやら録音のようですね。面白い作戦でしたが、決定打とするには少々刺激が足りませんでしたね」

 

 倒れた仲間を心配するミユだが、モエの制止もあり足を止める。

 一方のワカモは、若干ズレた狐の面をしっかりと被り直す。

 

「これでも(わたくし)災厄(さいやく)の狐と呼ばれていますので」

 

 この程度で捕まるのなら、自分は災厄とは呼ばれないと。

 扉間とミユに銃剣を向けて、仮面の下で嗤う。

 

 

 

「では―――第二ラウンドといきましょうか? ()()()()?」

 

 

 

 

 

【第二ラウンド? そんなものは必要ありませんよ】

「――え?」

 

 再び聞こえて来た連邦生徒会長の声。

 しかも、今度はワカモの聞いた覚えのない台詞。

 再びワカモの思考に空白が生まれる。

 

 ―――ワカモの銃剣が弾き飛ばされる。

 

 遅れて、銃声がその大きな耳に飛び込む。

 

「まさか、狙撃……誰が!?」

 

 狙撃によって弾かれた銃剣を片目で追い、同時に目の前のミユを見るワカモ。

 だが、ミユの銃口からは発砲した形跡は見られず、ミユ自身も困惑した表情を浮かべている。

 

(どこから? いえ、この狙撃……忘れもしません! これは!)

 

 ミユではない。

 しかし、覚えのある。目に焼き付いてしまっている狙撃。

 憎き声と同じく、自身の最悪(さいあく)の日の思い出。

 

FOX(フォックス)――」

「プレゼントのお礼だ。早めに返すぞ」

 

 危険性は低い。

 そう判断していたが故に、見ていなかった扉間がワカモの目前に迫る。

 そして、大きく拳を振り上げる。

 

(拳? 何故? そもそも、か弱い体で効くわけが?)

 

 ここでもワカモの思考に混乱が発生する。

 銃があるのにわざわざ拳。

 バトル漫画なら、ラストシーンでのお約束ではあるがこれは現実。

 しかも、銃弾が効かない相手に外の世界の人間が拳。

 どう考えても、壊れるのは扉間の拳の方である。

 

 故に宙に舞う銃を取る反応が遅れた。

 

『いきますよ! 先生――アロナパンチッ!!』

「この―――大バカ者がッ!!」

 

 説明しましょう!

 アロナパンチとは、アロナガードを応用したパンチです!

 アロナガードは物理的な壁を作るわけではなく、トビラマ先生が怪我をしないという結果を生み出すガード!

 つまり、キヴォトス人に対して怪我をする勢いで全力で拳骨を入れれば、怪我をせずに拳骨が通過するのです!

 愛ある拳に防ぐ術は無しというやつですね!

 

「へ? ――きゃんッ!?」

 

 ゴツン! と、鈍い打撃音が響きワカモの仮面が剥がれ落ちる。

 仮面の下から呆気にとられた幼い顔立ちが現れ、衝撃からペタンと地面に尻もちをつく。

 

「それだけの才を何故、他者に迷惑をかけることに使う! 人を傷つけてはならんという、当たり前のことが何故分からん!? 人の物を盗んではならんということが何故分からん!? 何故、この平和な世界で意味もなくそのようなことをするのだ!! ダメなものはダメだと誰にも教わらなかったのかッ!? お前に害される者の痛みがどうして分からぬッ!!」

 

 182cmの高身長の扉間が、ポカンとした顔で女の子座りになったワカモを怒鳴りつける。

 因みに、扉間は内心では自分が言う資格は本当は無いなと思いながら言っている。

 敵をぶっ殺して、物資や情報を盗むのが忍の日常だったのだから。

 それでも、平和な世界を生きる子供には、真っ当であって欲しいと思うのはエゴだろうか。

 

「人の痛みを理解できぬ、悪に憑かれた小娘だというのなら、ここでワシが…!」

 

 性根を叩き直してやろう。

 そう言って、ピクッと拳を動かす扉間。

 

「お……」

「お?」

 

 それに対して、ワカモは叱られた子供特有の小さく掠れた声を溢し。

 

 

「お母様にもぶたれたことないのにーッ!?」

 

 

 ―――ギャン泣きをする。

 

「………すまん、加減が効かんかったか?」

「何で銃で撃たれるより痛いんですの!? こんなに痛いのは初めてです!?」

 

 それはもう、横で見ていたミユがドン引きするぐらいギャン泣きする。

 鉄拳制裁で育った扉間が一瞬で、冷静になるぐらいにはギャン泣きする。

 普通に逃げ出せば、キヴォトス人でない扉間ぐらいは簡単に撒けるのに、ギャン泣きする。

 これが本当に災厄の狐かと、遠くで見ているFOX小隊が目をこする程度にはギャン泣きする。

 

「これ……ワシのせいか? アロナ」

『アロナパンチにこんな効果はないので、先生のせいです、はい』

 

 そう言って、扉間はこれが体罰をした罰かと天を見上げるのだった。




「アロナ…? どういうことだ?」の上、「……分かった、お前を信用する、アロナ」の上、「これ……ワシのせいか? アロナ」の下にアロナ語あります。

感想・評価お願いします。

コユキと同じく拳骨対応のワカモですが、普通に作者の推しの1人です。
アスナ、アル、ワカモが現在の推し。なお、推しは増えるもの。
下、ワカモに対する考察。スルーOK。





ワカモはギャン泣きといい、先生に会うまで我慢が出来ずにすぐに攻撃する点や、悪いことをする=先生に嫌われる程度な考えな所を見るに、とても幼い子だなと思っています。
何がダメで、何が悪いのかを教えられていない、アリウスとは別の意味での教育を受けられなかった子。

動物に対して、言葉を話さないから口で傷つけない、天狗にもならず裏切りもしない、自身に寄せられた挙動に対してありのままに応えるしか出来ない、純粋な存在だから可愛がるというのも、自分がそういった幼い存在に近いからなのかなと。

好きな人に嫌われるのをあそこまで怯えているのは、子供の時に試し行為(ワザと悪いことをして反応を見る行為)をして、そのまま見捨てられたのかなと思っています。
この場合の見捨てるは、叱ってもらえなかった、その一回で見放すという事です。
試し行為は子供ならみんなやる行為なので、ここで成長が止まってしまったのかなと。

原作先生が迷惑をかけたらダメだよと言うだけで、ギャン泣きして嫌われると思ってるのが叱るという過程を飛ばして、いきなり見捨てられたのかなと思ってます。
普通は ダメなことをする→(しか)る→何がダメか理解し行いを改める。
この流れがワカモの場合は
ダメなことをする→(しか)らない→ダメなことを続ける→見捨てる→何がダメだったか分からない。
という形になり、ワカモ的には裏切られたように感じたのではと考えています。
普通はここで潰れるのですが、幸か不幸か彼女には才能があったのでそのまま成長。
現在に至る。

実際、原作先生は叱っても「これから治していこうね」で見守り、ワカモもそれに応えているので、元々良い子になれる素質はあったのかなと。
つまり、ワカモに必要なのは自分を叱っても見捨てずに根気よく付き合ってくれる父親のような人なのかと思います。

原作は恋は少女を成長させる効果で急成長しましたが、それなしだとゆっくり叩き直す必要があると考えて拳骨を落すことに。
拳骨なのは、まあ父親の仏間も鉄拳制裁で扉間も昔の人だし。
なので、恋をしていないワカモですが見捨てることはないです。

因みに、なんでこれだけ書いたかというとワカモに拳骨を入れると作者の心に罪悪感が湧くため。
コユキ? 何回イメージで拳骨を入れても罪悪感が湧かないんだ、すまない。
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