「『柴関ラーメンにて昼食NOW。一杯580円と非常に手ごろな価格。コッテリとした見た目のスープだが、味はスッキリとしたものとなっており、この歳でも食べやすい(*^^*)。今度は生徒達と共に来よう♪』……これで少しは軽い感じになるか」
ラーメンを食べ終えて、そのことをSNSで報告する扉間。
最近のアヤネのアドバイスを取り入れて、若者が使うような軽い言葉を志すが、やはりおっさん。
色々と混ざった絶妙にダサい文章になっている。
「店主、勘定を頼む」
「あいよ、先生。そう言えば、今日はセリカちゃんがバイトを休みにしたけど何かあったのかい?」
代金を払っていると、セリカのアルバイト先の雇い主である柴犬の大将から声をかけられる。
この大将、見た目が完全なる柴犬だが扉間は特に驚きはしない。
喋る忍犬やら、蛙とかが普通に暮らしている世界から来たのだ。
食べ物が、人間と同じだったことには驚いたが、犬が店をやっていることには特に驚きはなかった。
「別に怪我や病気になったわけではない。ちょっとした野暮用だ」
「そうかい、じゃあ今度はみんなで来てくれよ」
「ああ、また来よう」
扉間は大将の言葉に軽く手を上げて答えて、暖簾をくぐる。
そして、出来るだけ人の少ない道を選んで歩きながら学校へと戻る道を行く。
昼間だというのに、人気のないシャッター街。アビドスの過疎化の象徴。
普段なら、自分の足跡が反響してはっきり聞こえてくるような場所。
しかし、今日は。
(足音がワシ以外に複数人。静かに歩こうとしているようだが、音を消し切れておらん。中途半端に消そうとした足音など、逆に怪しまれるだけだろうに)
扉間の後ろからこっそりとついてくる足音が複数。
チャクラの感知が出来ないため、具体的な強さや数までは分からない。
だが、忍の耳や目や鼻はそう簡単にはごまかせない。
(さて、仕掛けのある場所までもう少し近づくか)
扉間は感知タイプの忍である。
チャクラさえ練れれば、数10㎞先の相手でも気づける。
しかし、チャクラ感知だけで生き残れる程戦国の世は甘くはない。
2代目土影、
そのため、砂などの物質感知がなければ、僅かな臭いや音で位置を判断するしかない。
そうした、化け物達としのぎを削って来た扉間からすればチンピラの追跡など、子どもが元気に駆け回る音のように感じられる。
「手を上げろ」
「誰だ?」
「名乗る必要は無い。私達と一緒に来てもらおうか、先生」
そして、気づかないフリをしている扉間の背中に銃が突きつけられる。
続いて、正面に回り込んできたカタカタヘルメット団が銃を向ける。
残りの人間は油断しているのか、銃口は向けていない。
「こちら誘拐チーム。ターゲットを確保した、これからアジトに向かう」
『了解、早いところ仕事を終わらせて遊ぼう』
(サポートはアジト。現場にいる数は4名だけだが……伏兵がいる可能性もある。ここは、一度捕まるフリをしてみるか? いや、隠れたまま動かれればこちらでは判断が出来んか)
扉間は降伏の意思を示す様に両手を上げる。
それを見て、カタカタヘルメット団は作戦成功と笑う。
扉間の身体の自由を一切奪っていないというのに。
「どこに連れて行くつもりだ?」
「私達のアジトに来てもらう。なに、殺しはしないよ。あんたは大事な人質だ」
(事前の情報と違いはないな。やはり、こやつらの目的はワシの身柄ではなく、アビドス高校そのもの。適当に目的を吐いてもらえれば楽なのだが)
相手の目的を確認しつつ、チラリと周りを確認する、扉間。
逃げる場所は初めから決めてある。狭い路地裏。
そこに仕掛けも置いてある。
「何が目的だ?」
「あんたが知る必要は無いよ。それとも、こいつで撃たれてもいいのか?」
扉間の背中に突きつけた銃の引き金に手をかけるカタカタヘルメット団。
ヘラヘラと笑う顔からは、危機感など感じられない。
完全に自分達の勝ちを確信している。
つまり。
「撃てばいい」
「は?」
勝ちを確信した相手を仕留める。扉間の
「―――シッ!」
バッとしゃがみ込み一気に銃口の射程から外れる扉間。
そして、そのまま後ろ足で銃を持つ手を蹴り上げる。
「わッ!?」
「痛たッ!? なに味方を撃ってんだよ!!」
「わ、悪い!」
すると、痛みによる反射で引き金を引き、扉間の目の前にいた仲間に銃弾が当たる。
もちろん、生徒である以上はその程度では死なない。
「たく! ちょこまか動くんじゃねえよ!」
「お、おい! こいつは人質だぞ、撃ったら死ぬ!」
撃たれた正面の相手が、怒って扉間に銃口を向ける。
大したダメージを負っているようには見えない。
彼女達は銃弾で撃たれた程度では死なないのだ。
(次は正面の相手か。左右の相手は、動揺してまだ銃を構えられておらんな、ならば)
故に。
(忍法、変わり身の術!)
「は? ―――痛っだぁッ!?」
囮に最適なのである。
素早く、自分の背後にいたカタカタヘルメット団の後ろに回り込み、正面の銃弾の盾にする。
変わり身の術は、攻撃を避けると同時に木などを変わり身にして、相手に当たったと錯覚させる術。
ぶっちゃけると、チャクラとか無しに使えるのでほぼ体術である。
忍者としては完璧だが、先生としてはどうなのかと疑問に思わざるを得ない術だ。
「お前こそ何やってるんだ!? 殺す気かッ!!」
「そっちが先に撃ったんだろうが!」
喧嘩を始めるカタカタヘルメット団。
その隙に扉間は逃亡を開始する。
「あ、逃げたよ―――って、グフッ!?」
盾に使った不良をドムッと蹴り飛ばして、別の不良に当てながら。
「この…ッ! 殺せなくても足を撃つぐらいならいいだろ!」
そんな混沌とした状況を打破するために、残ったカタカタヘルメット団は逃走する扉間の足を撃とうと銃を構えて、目で扉間を捉え――
「ギャンッ!?」
ようとして、その目にザクッとボールペンが当たる。
扉間が投げたボールペンである。
おかげで、扉間の姿を見失ってしまう。
「お、追え! 相手は路地裏に逃げたぞ!」
「こうなったら、待機してた別動隊と合わせて挟み撃ちだ」
「路地裏は私達のホームグラウンド……逃げられるわけがない」
逃げられたことと、攻撃を受けたことに激昂して要らぬことを口走るカタカタヘルメット団達。
(やはり伏兵が居たか。しかも、
それを聞きながら、扉間はニヤリと悪人面でほくそ笑む。
路地裏という狭いスペースでは、数の利を活かせない。
それどころか、銃のリーチの長さはフレンドリーファイアになりかねない。
まさに、絶好の好機である。
「クソ! なんでおっさん1人仕留められないんだよ!」
「ちょこまかと、撃っても撃っても当たらねえ!」
路地裏をジグザグに駆け抜ける扉間に、カタカタヘルメット団は懸命に銃弾を放つが簡単には当たらない。ただでさえ、動いている相手。しかも人質に使いたいので、出来る限り死なないように足を狙って。まともな軍隊でも難しいのにチンピラ集団に簡単に出来るわけがない。
(なるほど……多用は出来んがこれは便利だな、
そして、何より。
扉間には先生としての奥の手があった。
「居たぞ! あのおっさんを捕まえろ!」
「はは! これで、あんたは袋の鼠だ。観念しな!」
と、そこへ呼び出された別動隊が扉間の前に現れる。
普通に考えれば、絶体絶命の状況である。
(ふむ、ちょうど目標地点だな)
しかし、扉間は全く焦ることなく建物の上から垂れ下がるロープをチラリと見る。
仕掛けも問題ない。後は最後の一手を打つだけ。
「忍法、隠れ蓑の術!」
懐から取り出したM18発煙手榴弾を3つほど一気に投げ、相手の注意を煙幕の中に引くために大げさに叫びながら大量の煙を巻き起こして身を隠す。
「うわ! 煙幕!?」
「どこに行ったあの野郎!?」
煙を巻き起こして、相手の視界を奪うと同時に建物にかけていたロープを一気に駆け昇る扉間。
チャクラを足に纏わせて壁を駆けることは出来ないが、ロープがあれば上ることは出来る。
パルクールみたいなものである。
しかし、建物の上に逃げたということは空が飛べない以上、逃げ場がないと同義。
相手に気づかれれば、一巻の終わりだ。
故に、扉間はタブレットに
『みんな、あの卑劣漢なら後ろに居るわ! 撃って!』
「後ろだな! 任せろ!!」
流したのはセリカに頼んで録音しておいた、ちょっと私怨の籠った台詞。
何の変哲もない言葉。通常時であれば、何の効果も発揮しないだろう。
だが、視界を塞がれて混乱した状態でそれが流されれば。
「うわぁぁあああッ!? 何だ敵襲か!?」
「馬鹿! 私だ! 仲間だ! 撃つのを止めろ!!」
「撃てッ! 撃てぇッ!!」
同士討ちを始めるのは自明の理。
見えない銃撃を受けた者は敵が来たのかとパニックになり、銃を撃つ。
それがまた味方に当たりパニックが連鎖する。
パニックがパニックを呼び続け、混乱を生み出す連続一点集中のフレンドリーファイア。
互乗パニックの術である。
「まともな部隊ならこの程度では混乱せんが……今回はチンピラで助かったな」
『もー、先生。あまり危険なことをしないでください』
そんな地獄絵図に高みの見物を決め込んでいた扉間に、シッテムの箱内部のアロナから声がかかる。
「アロナか。今回はお前の防御に助けられた、感謝する」
『緊急防御は負担も多いんです。今回は先生が基本的には避けてくれたので良かったですが、大量に攻撃を食らえば大変なことになります!』
シッテムの箱には先生を守る防御装置がある。
如何なる攻撃も防ぎ先生を守る究極の防御。
銃弾を弾き、砲身を捻じ曲げる、まるでイザナギの現実改変のような力。
だが、当然それにはリスクが伴い多用すれば、アロナと先生の身に多大なる負荷がかかる。
因みに、扉間がこれに気づいたのはキヴォトスに来てすぐの頃に、うっかり生前の感覚で壁を駆けのぼろうとした時である。その時に、落下の衝撃を和らげて貰ったことで判明したのだ。
「ああ、今後はいざというとき以外には使わん」
『もー、約束ですよ』
いざというとき以外には使わない。要するにいざというときは使うということである。
そんな言葉の裏に気づかずに、アロナは扉間を許す。
まるっきり、悪い大人に騙される子供の図である。
先生というより詐欺師である。
「さて、そろそろ頃合いか」
『弱った不良さん達を倒すんですね! 気をつけてください』
「いや」
高みの見物を止めて扉間は動きだす。
それを見て、アロナは生き残りのカタカタヘルメット団を討つものと思い、顔を引き締める。
だが。
「―――ワシはさっさと帰る」
だって、この後も用事があるし。
味方同士で争うカタカタヘルメット団を無視して、扉間は何事もなかったように帰って行くのだった。
「……みんな、あれを見て」
「あれって……カイザーローンの現金輸送車ですよね?」
「なんでカタカタヘルメット団のアジトにあんなものがあるのよ」
「途中で襲われて奪われた……て、感じでもなさそうだねー」
扉間が囮になって、敵の注意を引き付けている間にカタカタヘルメット団のアジトに潜入した対策委員会の面々達。そこで、彼女達は不可解なものを発見した。
いつも、自分達が借金を返す時に見る現金輸送車である。
こんな砂漠地帯に。そして、チンピラ集団が持っているわけもない。
考えられる可能性は、輸送中に襲われた。しかし、車に戦闘の形跡はない。
そうなってくると、可能性としては1つ。
『……カタカタヘルメット団と何らかの取引をしている』
オペレーターのアヤネが小さく口にする。
明らかに合法的な取引ではない何か。
それがここで行われている。
「どうしましょうか……今度借金の回収に来た時に直接問いただしてみましょうか?」
「流石に聞くだけだと、はぐらかされると思うなー。何か決定的な情報を掴まないと」
小声でノノミが提案するが、ホシノは首を振る。
『私達と同じで、カタカタヘルメット団もカイザーローンに借金をしているという可能性もあります。そもそも、実際にはカイザーローンの車でない可能性もありますが』
「じゃあ、このまま指を咥えて見ていろって言うの?」
違法かどうかは分からないと告げるアヤネに、セリカは憤りの声を上げる。
「………みんな、私に考えがある」
「なんとなく、不安だけど……何? シロコ先輩」
そんな4人に対して、シロコが自信ありげに声をかける。
この時点で、あっ、と思うセリカだったが一応聞きはする。
「今の私達はカタカタヘルメット団の服を着ている」
「はい。この前奪った物資に服とヘルメットがあったので、お借りしたものですね」
現在のシロコ達は潜入なので、カタカタヘルメット団の服を着ている。
見張りには止められるかもしれないが、中に入ればそこまで怪しまれることはない。
そもそもチンピラ集団なのでまともに人員管理が出来てはいないので、気づかれる可能性も低い。
「この状態で現金輸送車を襲う」
「はい! アウト!」
故に、全ての罪をカタカタヘルメット団に押し付けられるとシロコは告げる。
もちろん、セリカに止められてしまったが。
「なんで?」
「なんでも何も、私達が捕まるでしょ、それは!」
「大丈夫、罪は全部カタカタヘルメット団に押し付ける。お金は私達のもの、ぼろ儲け」
「そういう問題じゃないでしょ!」
一体どこの誰の卑劣な思想を真似してしまったのか、罪をなすりつけると告げるシロコ。
セリカはもちろん、止めようとする。だが。
「………いいかもしれないね、その方法」
「は? ホシノ先輩まで先生に影響されたの!?」
ホシノが思案顔で、いいかもしれないと呟く。
「落ち着いて、セリカちゃん。お金を奪う訳じゃないから」
『何をするつもりですか、ホシノ先輩?』
金の強奪が目的ではないと告げるホシノに、アヤネが内容を聞く。
「まず、おじさん以外のみんなでカタカタヘルメット団を襲う。暴力組織の討伐は先生お墨付きの治安維持活動だからねー」
「ホシノ先輩はどうするのでしょうか?」
「おじさんはこのままカタカタヘルメット団のフリをして、みんなに立ち向かうように見せかけて現金輸送車のタイヤを撃って逃げられないようにする。その後は、適当な場面でカタカタヘルメット団の背後からみんなと一緒に挟み撃ちにしたら、いいかなーって」
ホシノの作戦はこうだ。
アビドス高校はカタカタヘルメット団の討伐に来ただけ。
だが、そこで不運にも居合わせた現金輸送車のタイヤに銃弾が当たりパンクする。
砂漠でタイヤが潰れた現金輸送車は当然動けない。そして、外は銃撃戦。車から出れば死ぬ。
そうなれば。
「車に誰が乗っているか判明するってことですね」
「敵ならそのまま撃つ。被害者なら助ける。うん、分かりやすい」
「そーいうことー。被害者の車だったとしてもカタカタヘルメット団に撃たれたんだから、しょうがないよねってことになるし」
居合わせた
そうすれば、相手が誰で目的が何かもはっきりするだろう。
「まあ、それならお金を盗むわけじゃないし……」
『乱戦になれば、ホシノ先輩が撃ったという証明も難しいので、悪くはないかと』
ホシノの作戦にセリカとアヤネも納得を見せる。
見ていますか、2代目。卑の意志は確かに受け継がれていますよ。
「……燃えて来た」
意識が扉間の誘拐に向いている所へ、不意を突いてのアビドス高校の殴り込み。
そして、ホシノが相手に紛れての背後からの裏切り。
さぞかし、相手に効くことだろう。
「じゃあ、先生が囮になっている間にみんなで奇襲といこうかー」
こうして、カタカタヘルメット団アジトの制圧が始まるのだった。
どうしてこうなったのだろうか?
カイザーローンの銀行員は、思わずそう嘆きたいのを必死に堪える。
「これはこれは……いつもお世話になってる人だねー」
「どうして、カタカタヘルメット団なんて非合法の組織にいるのでしょうか?」
ホシノとノノミが笑顔を浮かべながら、話しかけて来る。
銃をしっかりと手に持ちながら。
『カイザーローン……やはりカタカタヘルメット団と取引を』
「カイザーローンが犯罪組織にも融資してるなんて、初めて知ったわ」
剣呑な表情を浮かべる、アヤネとセリカ。
こちらもしっかりと、銃を構えている。
「輸送車の護衛も襲ってきたから、
シロコは現金輸送車に乗っていた気絶している護衛を見下ろし、可愛らしく小首を傾げる。
(ど、どうする? どうすれば…?)
銀行員は、必死に頭を働かせる。
いつものように、カタカタヘルメット団に依頼料を払いに来ただけだった。
だが、そこに来たアビドス高等学校の生徒達。
目的はカタカタヘルメット団の討伐。治安維持活動なので、相手に後ろめたいことはない。
こちらの護衛もまとめて倒したが、それを主張しても治安維持活動の邪魔をしたと言われるだけ。
しかしながら、こちらは違う。
(取引がバレたら大変なことに…!)
カイザーローンは法律のグレーゾーンで動く会社である。
つまり、完全な
そして、銀行が犯罪組織と取引するのは完全に黒の行動だ。
(う、上から殺される……)
それがバレたらどうなるか?
簡単だ。一社員が勝手に犯罪組織に金を流していたと罪をなすりつけられ、首を切られるだけ。
仮に命はあっても、もう二度と普通の生活には戻れないだろう。
「何とか言ったらどうなの!」
(い、言い訳を、何とか誤魔化せる言い訳を!)
怒鳴り声を上げるセリカに怯えながら、必死に頭を働かせようとする。
しかし、追い詰められた人間の脳味噌は普段の力すら発揮できない。
大海原で、掴むものもなく溺れている。それが今の銀行員の姿だ。
もしも、彼の下に
それがどんなに細くとも。それが例え――
「やめろ、セリカ。
「先生! いつの間に!?」
「ああ、早めに帰ってきたからな」
―――悪魔の罠だとしても。
「あ、あなたは?」
「ワシは連邦捜査部『シャーレ』の担当顧問、千手トビラマだ」
「シャーレの顧問…!?」
突如として
相手は強い影響力を持つ存在。
アビドス高校の訴えならもみ消せるが、先生の訴えはもみ消せない。
故に、焦燥感が増すのだったが。
「今回は、現金輸送の最中にカタカタヘルメット団に襲われるとは、
「……え?」
「偶々、ワシがアビドス高校に依頼したカタカタヘルメット団の討伐と被ったのは不幸中の幸い。少し
扉間は彼はカタカタヘルメット団に襲われた被害者だと、柔らかな笑みで断言する。
光明が見えた。そう思った銀行員は、
掴んだ方がもっと苦しむことになるとも知らずに。
「は、はい。幸いにも何かを奪われる前に、アビドス高校の方々がカタカタヘルメット団を討伐してくださいましたので、無事です」
「そっちで倒れている護衛は?」
「……抵抗したのですが、カタカタヘルメット団に倒されてしまいました」
「な!? それは――」
「セリカ、少し静かにしていろ」
嘘の発言を行う銀行員に、セリカは当然食って掛かる。
だが、扉間が鋭い眼光でそれを黙らせる。
自分に考えがあるから任せろと。
「ふん……」
「ワシの生徒が失礼を働いたな。謝罪しよう」
「いえいえ、アビドスの方々が居なければ、私は生きていなかったでしょうから」
ここからは大人の会話の時間だ。
汚い汚い、大人の交渉術。
「ここは危険だ。よければだが、ワシらが護衛して街まで送り届けようか?」
「いえ、流石にそこまでしてもらう訳には。ここは
「ああ、勘違いしないで欲しいが……
「その金額は……なるほど、どうやらあなたは話の分かる大人のようですね」
扉間が依頼料として提示した額は、アビドス高等学校の借金の月の返済額だ。
要するに、この件は黙っておいてやるから今月分の借金を無くせと言っているのだ。
口止め料と言い換えてもいい。
下手に善意を受けるよりも、相手にも後ろめたい部分が出来るので信頼できる。
「……分かりました。それでは、アビドス高等学校の方々には街まで護衛してもらいましょう」
アビドスに貸している金の件なら、そもそも回収の必要はほとんどないものだ。
通常の貸し出しとあれは違う。
ならば、自分の裁量でも何とかなるだろう。
そう判断し、銀行員は頷く。
「契約書はいるか?」
「いえいえ、それには及びませんよ。先生であれば信用はバッチリですので。こちらの方で、しっかりと支払いについては完了したとします。また、先生の
「ああ、ワシとしてもこれからそちらに
記録に残るとバレた時に困るので口約束だけでいいと告げ、銀行員は上司にも伝えると付け加える。
何度も言うが先生はキヴォトスにおいて大きな影響力を持つ。
そうした大人と、カイザーグループでコネを作れたのならば、今回のミスは帳消しに出来るかもしれない。
銀行員はそう考えて、上と繋ぐことを約束する。
扉間もニヤリと悪人面で頷く。
「フ、
そして、扉間はスッと手を差し出す。
ニッコリと普段は見せないような笑顔を浮かべて。
「はい、今後とも私共カイザーローンを御贔屓お願いいたします」
そうして銀行員の方も、安堵から笑顔を浮かべて差し出され手を握り返すのだった。
人と人が向かい合って手を繋ぐ行為。
これを世間一般には――
―――握手という。
もう一度言いますが、握手したくない人ランキング個人的1位は扉間です。
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