千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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50話:更生の機会

 

 RABBIT小隊お手柄!! 脱獄した災厄の狐を捕まえる!!

 SRT特殊学園の閉鎖は過ち!? 世論は閉鎖に疑問! 復興の機運高まる!?

 本人達は先生や先輩達のおかげと殊勝な受け答え!

 

「おめでとうございます、先生。先日の狐坂ワカモの逮捕の件。さっそく、マスコミが騒ぎ立てていますよ」

「カヤ……ワシも暇ではない。最後にワカモの銃を撃ち飛ばした者の正体。それを明かしてもらうぞ」

 

 いつものヴァルキューレの客室。

 そこでカヤと扉間は向かい合う。

 そこに、いつものような穏やかさはない。

 お互いに腹を探り合うように睨み合う。

 

「正体も何も、私は先生が出した救援信号を受け取って、部下を向かわせただけですよ?」

「ラビット小隊のサキがな。ワカモの銃に残っていた弾痕から、SRTのスナイパーが使う銃だと証言をしていてな。そして、ワカモの発言から考えて、ワシの救援に来たのは――」

 

 扉間に“必殺・アロナパンチ”を受けて、ギャン泣きする前。

 ワカモは確かに口にしたのだ。

 自らの宿敵の名前を。

 

「―――FOX小隊」

「ご名答です」

 

 音もなくFOX小隊がカヤの背中側から現れる。

 

「あはは! 姿は見せなかったけど、流石にバレるか。いや、後輩の成長を喜ぶべきかな、ここは」

「まあ、私達と同じエリート部隊なんだから、それぐらいは出来てもらわないと」

「先日ぶりです、先生。ほら、いなり寿司のアルバイトをしていた生徒ですよ?」

「……七度(しちど)ユキノです。FOX小隊の隊長、そしてカヤ室長の()()になります」

 

 FOX4オトギ。

 FOX3クルミ。

 FOX2ニコ。

 FOX1ユキノ。

 以上、4名がかつてSRT特殊学園の正義を体現していた、FOX小隊である。

 

 そして同時に。

 

「連邦生徒会の他のメンバーを襲ったのは……お前の策か、カヤ」

「はい。敵を減らし、同時に私の影響力を高めるためです。もちろん、内密にお願いしますよ、先生?」

 

 連邦生徒会を襲撃したメンバーでもある。

 当然、これが明るみに出れば失脚は免れないので、カヤは暗に脅しをかける。

 交渉を断れば、このFOX小隊が相手だと。

 

「脅しか? 老い先短い老人には、死なんぞは脅しにもならんぞ」

 

 だが、扉間はそれを見ても全く動揺せずに、大きく欠伸をして見せる。

 自分を害するという脅しで屈する人間が火影にはなれない。

 というか、既に死も経験しているので恐れることがない。

 しかし、カヤは首を振る。

 

「先生は尊敬できる大人です。そして、生徒に罪を負わせるのを良しとしない、優しい方だと誰からも評判です。そんな大人が、果たして目の前の生徒を見捨てるでしょうか?」

「……懸けているのはワシの命ではなく、お前達の未来と言うわけか。こういった脅しは初めてだな」

「お褒めに与り光栄です」

 

 扉間が首を縦に振らなければ、目の前の生徒の未来が閉ざされるぞ。

 なりふり構わぬ自爆攻撃を行うカヤに、流石の扉間も意表を突かれる。

 まあ、実際に扉間にとっては、このまま子供達に自爆されるのが一番嫌なのは間違いないのだが。

 

「それに先生は私達に恩があるとは思いませんか? FOX小隊に助けられた恩を感じて頂きたいのですが」

「あのままではワカモに勝てなかったと? 流石に根拠が薄いな」

「まあ、そうなのですが……こちらも悠長に構えることが出来ない状況ですので」

 

 確かに扉間達はFOX小隊に助けられた。

 だが、そこに後ろめたいことはない。

 カヤ達のことを黙っておかないといけない理由はない。

 しかし、カヤは勝算が薄くともすぐに動く必要があった。

 何故なら。

 

 

()()()()()()。先生はその所在を知っているのではないですか?」

 

 

 連邦生徒会長という、鬼札を扉間が持っている可能性が出て来たからだ。

 

「ほぉ? 何の話だ? ワシは会ったこともないのだがな」

「ごまかさないでください。“連邦生徒会長の声”それを戦闘で利用したと聞いています」

 

 カヤは連邦生徒会長になろうとしている。

 だが、本人が戻ってくればカヤには何の正当性もない。

 おまけに、背中にいるFOX小隊が本来の主の下に戻る可能性も高い。

 カヤが様々な不正に手を染めている情報と一緒に。

 そうなれば、カヤの目的も立場も一瞬で瓦解してしまう。

 

 故に、カヤはなりふり構っていられないのだ。

 

「そして、SRT閉鎖を利用して、ヴァルキューレ内部に潜ませた内通者の存在。全て連邦生徒会長との繋がりを示すものではないですか?」

「……何の話だ?」

「やっぱり、本音は見せてくれませんね。流石は先生です、私の目からでは本当に何も知らないようにしか見えません」

 

 内通者って何の話だ?

 そもそも、連邦生徒会長の居場所とかこっちが知りたいと思うが、扉間はポーカーフェイスを貫く。

 相手が勝手に勘違いして交渉カードが増えるなら、儲けものだと思いながら。

 

「まあ、内通者の件は元SRTのFOX小隊(わたしたち)も知らないとしか言えない。だが、連邦生徒会長の行方に関しては連邦生徒会所属のシャーレであれば、情報を提供するのが義務だと思うが?」

 

 ユキノの方からも、連邦生徒会長の所在を問い詰められる扉間。

 FOX小隊からすると、本来の主さえいれば全てが解決するので、必死にもなるだろう。

 そして、その必死さが余計にカヤを焦らせる。

 自分の手駒がどんどん、自分の手から離れていっていると感じさせて。

 

「先生。私は先生と対立する気はありません。しかし、このままでは私は……いえ、()()()の存在も強行策に出て来るでしょう」

「お前達以外……カイザーか。ワシが何かしらの情報を握っていると疑っているようだな」

「! ……まさか、既にそこまでたどり着いていましたか」

 

 カイザーのことまで言い当てられ、カヤの目に更に焦りが浮かぶ。

 カヤ視点では、自分達が動いているだけだと思っているが、実際は勝手にカイザーが扉間を暗殺しようと動いているのは、ワカモからバレている。

 

 情報のアドバンテージが完全に崩されている。

 そう感じてしまうのも無理はない。

 

「先生は……どこまでご存知なのですか?」

「さてな。何も知らないかもしれんし、全てが掌の上かもしれんぞ? 愚かにも敵地にノコノコと出てきただけかもしれん。もしくは、この場に居る時点で既に勝負がついているかもしれんぞ?」

 

 そんなカヤの焦りを感じ取り、扉間は更なる揺さぶりをかける。

 脅しにはならないが、この場でFOX小隊に力ずくで来られると勝てないのは事実。

 拘束されるのは少々面倒。

 

 一応、アロナガード全開で窓から地上まで飛び出るという策はあるが、それだけでは心許ない。

 なので、如何にも外に味方を潜ませているといった風に話す。

 

「……交渉といきませんか? 先生は賢い人です。対話の重要性を知っておられます」

「交渉か、内容によるな」

 

 あくまでも、自分が絶対的な有利な立場に居るという態度を崩さずに扉間は答える。

 こうやって、連邦生徒会長の件などを煙に巻いているのだ。

 二代目火影の卑劣な交渉術である。

 

「私達は先生のお願いを1つ聞きましょう。その代わり、先生には情報を……いえ、私の味方になって欲しいのです。今の私には味方が居ませんから」

 

 扉間の持っているであろう、連邦生徒会長の情報(勘違い)。

 内通者の存在(勘違い)。

 そして、シャーレの暗部。陸八魔アルとの繋がり(勘違い)。

 その全てを明かしてもらうことは、不可能だと判断したカヤはお願いに出る。

 FOX小隊も信用できない今、自分を守ってくれる味方が必要なのだと。

 扉間に対して、無意識に甘えを出しながら。

 

「私に出来ることでしたら、何でもしますから」

「ハァ……ワシが聞きたい言葉とは違うな」

 

 しかし、扉間はため息をつきながら首を横に振る。

 欲しい言葉はそれではないと。

 

「……メイド服も着ますから」

「生徒にそのようなことをさせるか! バカ者!! そもそもメイド服とは何の話だ!?」

「やはり違いますか……しかし、そうなると私にはもう土下座でもするしか……」

 

 ふざけているように見えるが、カヤは必死だ。

 彼女にとって連邦生徒会長という存在は、それだけ大きい存在なのだ。

 自らの最大の敵として、同時に憧れとして。

 彼女と敵対しては決して勝てないと、心の奥底で認めているのだ。

 

「“助けて”だ! 生徒が先生に頼むときの言葉など、それ以外に要りはせん」

「はい…? 何のメリットも無しに、誰かを助けるなんてことあるのですか?」

 

 助けてと言えば、悪いようにはしない。

 そう告げる扉間に、カヤは本気で困惑した表情を浮かべる。

 

「頼む立場で言うのも何ですが、無償で何かを与えるのはおかしいでしょう……何かを得るためには、対価を払わなければならない。それが社会の常識です。大人のやり取りです」

 

 嘆いたところで、誰も助けてくれなかった。

 いつだって、対価を支払って現実を生きてきた。

 社会とはそういうものだろう。

 

「無償で誰かを助けるなんて綺麗ごと、馬鹿のやることではないですか?」

 

 この世は常に等価交換。

 それを無視し、自分の肉を切り落として他者に食わせるのは、愚か者でしかない。

 馬鹿。ただ一言で表せる。

 そう言って、カヤは蛇のような目で扉間を睨みつける。

 あなたは、他の人とは違うとは思っていたのにと。

 

 

「ん? ああ、そうだが?」

 

 

 しかし、あっさりと扉間はそれを肯定する。

 

「ああ……って、そんなあっさり認めるんですか?」

「お前はワシのことを賢いと言ったが……()()は馬鹿なやり方ばかり、学んで生きて来てな」

 

 扉間は笑いながら思い出す。

 馬鹿なことばかり、現実味のない夢ばかり語った男を。

 本人の前で口に出すことは決してしないが、誰よりも憧れた背中を。

 

「この歳になっても、現実を受け入れられずに夢物語を語ってばかりだ。ガキの様に綺麗ごとが必ず実現すると愚かにも信じている。そんな生粋の馬鹿がワシだ」

 

 自分は馬鹿だから、馬鹿のようなことを行う。

 そう宣言する扉間に、カヤは目を震わせる。

 まるで、眩しすぎる火に目が眩んだように。

 

「それとだ。お前は、無償で何かを与えるのがおかしいと言ったが、1つ当たり前のものを忘れておる」

「当たり前の…もの?」

「―――無償の愛だ」

 

 親から子へ。

 兄から弟へ。

 先生から生徒へ。

 何千何万年に渡り連綿と受け継がれる、与える側には何のメリットもない無償の愛。

 

「愛…ですか? ですが、先生は私の親でも何でもないですよね?」

火影(せんせい)とは生徒の父であり、兄である。家族を愛するのは当然のことだ」

 

 無償の愛は親から子へのもの。

 だから、扉間には当てはまらないと告げるカヤに、扉間は火の意志理論を告げる。

 里の者は皆、俺の家族なのだと。

 

「お前達にも相応の理由があるのだろう。許されぬ罪を犯したこともあるのだろう。だが、偶には子供らしく、大人に頼ってみても罰は当たらんのではないか?」

「……私は先生が思う以上に、酷いことをしているかもしれませんよ?」

「その時は拳骨を入れて叱り飛ばしてやるだけだ。だから、まずは目的を話してみろ」

 

 そう言って、父親の様にカヤの目を真っすぐに見つめる扉間。

 火のように赤い瞳が、カヤの緑の瞳を照らす。

 

「先生……私は……」

 

 瞳を閉じ、カヤが悩む。

 疑心を捨てずに、完全には信用しないか。

 それとも、この大樹のような人にその身を預けるか。

 そうして。

 

 

「連邦生徒会長のような超人となって、このキヴォトスから犯罪を消したいんです」

 

 

 彼女は己の大望を告げた。

 

「良い夢ではないか。しかし……それで、連邦生徒会長の座を得るためにFOX小隊を使って、暗躍していたわけか。拳骨…は、一旦置いておくとして」

「……はい」

 

 カヤの夢を良い夢だと評する扉間。

 だが、そのためにやっていることは、当然良い事ではない。

 ダンゾウのように、火影につくために他の候補を陥れているのだから。

 

「お前はまず、自分自身を認めて、信じてやるべきだな」

「自分を信じる…?」

「自分に与しない勢力を叩くというのは、確かに合理的だ。選挙ならば過半数の投票を得られれば良いだけだからな。反対派が減れば、自然と賛成派の比率が増える」

 

 民主主義には2種類ある。

 国民全員で意見を決める直接民主制と、国民が選んだ代表者が決める間接民主制だ。

 1000人全員でやるか、選ばれた10人でやるかという話だ。

 

 どちらがいいかは、状況によって変わるだろう。

 しかし、過激派が強硬手段を取りやすいのは間接民主制だ。

 1000人を無理やり賛成派だけにするのは、労力がかかり過ぎる。

 

 だが、10人であればほんの数人消せば、過半数を取れるようになる。

 全くもって正しくない方法ではあるが。

 

「だが、それは結局の所、初めから()()()()と自分に見切りをつけているやり方だ。始める前から負けると思っている者を、長と認めてついて来てくれる者はおらん」

「ッ!」

 

 カヤがギリリと唇を噛みしめる。

 彼女は連邦生徒会長のような超人になりたい。

 だが、やり方は真逆。

 自分じゃ正攻法は無理だから、汚い手段でやる。

 ある意味で割り切った大人のやり方だが、それを見て彼女を超人と呼ぶ者はいないだろう。

 

「忘れるな。“連邦生徒会長になった者”が皆から認められるのではない。“皆から認められた者”が、連邦生徒会長になるのだ」

 

 柱間だって、火影になるために他の一族を集めたのではない。

 他の一族に認められ、火の国に地位を与えられた結果が火影だ。

 

「今一度、己の理想を見つめ直せ。そうしてお前の在り方を考えるのだ。案ずるな、後方支援ぐらいはしてやる」

 

 カヤに必要なのは、本当の自分の理想を取り戻すこと。

 超人を目指すのなら、結果だけではなく過程も超人らしいものでなければ、意味がない。

 真っ当な手段で夢を叶えなければ、いつまで経っても自己嫌悪は収まらないのだから。

 

「え? では……私の味方に?」

「もとより、先生とは生徒の味方だ。助けを求められたならば、助けるだけのこと」

 

 お前を助ける。

 そう告げる扉間に、カヤが頬を赤く染める。

 

「ただ、同じ子供相手に暴力を振るうのは出来る限り抑えろ。悩むなら相談しろ。(じじい)は子供が争うのを見るのは好かんのだ」

 

 しかし、釘を刺すのは忘れない。

 非合法やグレーゾーンはともかく、子供同士で争う姿は嫌い。

 これからは手段はこちらで択ばせてもらうと。

 

「それとお前達の罪をバラした場合、ただでさえ犯罪率の増加で手の足りんヴァルキューレがさらに不味いことになるので、()()()()()見逃してやるが……お前達が迷惑をかけた生徒達には必ず謝ってもらう」

 

 そして、被害を受けた連邦生徒会のメンバーに謝るようにも告げる。

 今のタイミングだと普通に矯正局送りなので、ある程度功績を立てさせた上で功罪の釣り合いを取れるようにしてからだが。

 現状で警察のトップが消えると、連邦生徒会長の失踪に加えて更に犯罪が増加しかねない。

 そうなると、犠牲になるのは真面目に生きている生徒達だ。

 タイミングは考えねばならない。

 

「……分かりました」

「分かればいい。さて、ではカイザーの件だな。お前達がどういう繋がりを持っているのかは知らんが、ワシの動きを止めたいのは分かる。恐らくは、違法武器の所持や売買の情報をバラされたくないのだろうが……」

 

 さらに言えば、カヤ達をここで見逃すのはカイザーを逃がさないためでもある。

 ここで違法な情報を提出しても、タコらしく足を切るだけ。

 しかも、取り調べる側のヴァルキューレ(カヤ達)と繋がっているのだ。

 現段階で仕留めることは難しい。

 

「いいだろう。今回の火事場泥棒で保護した資料は、返却するとしよう。無論、資料を保護したことへの()()は色を付けて貰うがな」

 

 故に、今は搾取できるだけ搾取する。

 いつか、頭を仕留めるために。

 後、アリウスのみんなでフライドチキンパーティーをするために。

 

「か、火事場泥棒?」

「おっと、救助活動のついでだったな。口が滑った、忘れてくれ」

 

 そんな扉間に対して、若干引いたような目を向けるユキノ。

 そのせいで、連邦生徒会長の件を聞く空気ではなくなってしまっている。

 

「……でも、いいんですか? カイザーと繋がるとなれば、先生も罪に問われる可能性が」

「その罪に問う機関(ヴァルキューレ)の味方になるのだ。少々のおいたは見逃してもらわんとな」

 

 ニコの言葉にも、扉間は憮然とした表情で返す。

 わざわざカヤの味方になるのだから、その立場は最大限に利用させてもらうと。

 こいつ、カヤ達を叱る権利ないだろ。

 

「ねぇ、こいつを味方に引き入れたの、早まったんじゃない?」

「お前達を救うためでもあるのだ。我慢しろ」

 

 クルミがもしかして早まった? という目をするので、扉間は首を振る。

 

「私達を救うってなに?」

「現状のお前達はただのテロリストだ。だが、功績があれば恩赦ぐらいは出せる。カイザーグループの不正を暴き、キヴォトスを救ったなどという功績があれば、良いと思わんか?」

 

 オトギが不思議そうな顔で尋ねて来るので、扉間はしっかりと説明する。

 FOX小隊やカヤに功績を立てさせれば、カイザーとの繋がりや連邦生徒会の襲撃を有耶無耶にできると。

 

「あの……先生。カイザーとの繋がりがある私達がそれをした場合、どう考えても相手もこちらとの繋がりをバラして、最悪でも共倒れを狙うと思うのですが……」

 

 しかし、カヤの言うようにカイザーもいざとなれば、カヤ達を巻き込める。

 逆に先に情報を暴露されて、逃げる時間を稼がれる可能性すらあるのだ。

 

「そうだ。そもそも、カイザーグループは既にキヴォトスの経済に深く食い込んでいる。潰そうと思って、潰せるのなら私達とて苦労はしていない」

 

 さらに言えば、ユキノの言葉通りカイザーグループを潰せば経済が混乱しかねない。

 何度も不正を摘発していながら、止めを刺すことが出来なかった。

 その歯がゆさを誰よりも知るユキノは悔しそうに、唇を噛みしめる。

 世の中には、出来ることと出来ないことがあるのだと。

 

 

「何を言っておる? 会社そのものを潰す必要は無い。首を挿げ替えて真の意味で味方にするのだ」

 

 

 しかし、扉間は告げる。

 会社を潰さずに、綺麗な首に変えれば良いと。

 

「奴らはキヴォトスという大樹の根。根を消すことは出来ん。大樹ごと腐り落ちてしまう。だが、根の病気を取り除くことは出来る」

 

 カイザーグループという会社が悪いのではない。

 何でもありな、不正を行うからダメなのだ。

 

「時代はコンプライアンス重視だ。半端な企業ならともかく、あれだけの大企業ならば舵を切り替えることは十分できる」

「お言葉ですが、それをするような企業なら、このようなことにはなっていないかと。それに首を挿げ替えると言っても、一体誰を? まさか、先生がやるつもりですか?」

 

 時代はコンプライアンス。

 ハラスメントが叫ばれるこの時代。

 カイザーグループだって、そっち方面に行っても別に良いのだ。

 しかし、それをやろうとする人間が内部に居ないだけで。

 カヤの指摘は非常に的を射ていた。

 

「いや、ワシはあくまでも先生だ。企業人ではない。故に適した人材を使う。この道はお前達がワシの味方になったことで開かれた道だ」

 

 カイザーグループの内情に詳しく、経営を行える人間。

 そして、コンプライアンス重視という扉間の方針に従わざるを得ない人間。

 そんな便利な人間が1人だけ居るのだ。

 

「カヤ、お前はワシの願いを1つ聞くと言ったな?」

「はい、そうですが……」

「ならば、ワシに1つの権限を与えろ」

 

 扉間がカヤに、ヴァルキューレのトップであり、キヴォトスの刑務のトップである防衛室長に権限を求める。

 

 

「ワシに矯正局や刑務所の出入りを自由に出来る権限をな。理由は、生徒達の更生支援のためとでも言えばいい」

 

 

 刑務所にいる人間と出会うための権限を。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、()()

「貴様は…! 千手トビラマ…ッ」

 

 カヤの手引きによって入った刑務所で、扉間は強化ガラス越しに()()()()()()と面会していた。

 まあ、理事と言っても元がつくが。

 

「何の用だ? 捕まった私を笑いにでも来たか?」

「生憎、捕まって何もすることもない貴様と違って、そこまで暇ではない」

「貴様…言わせておけば…!」

 

 こいつ何しに来たんだと思うような態度で、カイザー元理事を煽る扉間。

 内心では、ホシノ達を殺そうとした男がまだ気に入らないのだ。

 

「今日は貴様と交渉に来たのだ」

「交渉だと…?」

 

 だが、気に入らない相手とでも手を取り合うのが()()()

 

「カイザーグループのトップになる気はないか?」

「な…!?」

 

 扉間から出された提案。

 それは、カイザーグループの新たなトップになるということ。

 つまり、首の挿げ替えだ。

 

「プレジデントやジェネラルに何かあったのか?」

「いや、これから()()()()()予定だ」

「……なるほど、私にクーデターを起させて邪魔なプレジデントを排除するつもりか」

「そうだ。貴様はワシの手駒となって働け。飲むなら、ここから出してやる。捕らえたワシと生徒達の進言。そしてカヤの口添えがあれば恩赦は出せる。そうして、そのまま真っ当な経営を行うなら、貴様は表社会でカイザーグループを運営してもいい」

 

 カイザーグループはキヴォトスの根。

 絶やすことが出来ないのなら、こちら側の人間に代わりに支配させて浄化する。

 そのために、元理事でありカイザーグループの人間である、目の前の男が適任なのだ。

 

「フフフ……やはり大人だな。かつて殺し合いをしていても、利用できると分かれば躊躇なく手を取る。だからこそ、馬鹿な子供達に入れ込むのが理解できない」

「年寄りの道楽のようなものだ。それで?」

 

 さっさと答えろ。

 時間が押しているんだとばかりに、腕時計を指で叩く扉間。

 相も変わらず、交渉に来た相手には見えない。

 

「逆に聞こうか? カイザーグループの一員である私がどうして味方に牙を剥こうか?」

 

 そんな扉間の態度なので、理事も当然頷かない。

 味方を裏切ってまで、敵である扉間につくわけがないだろう。

 そう言って、せせら笑う。

 

「強がりはよせ。お前達カイザーグループが、ヴァルキューレと繋がっているのは知っておる。もちろん、カヤと交渉すればお前を刑務所(ここ)から出すことが出来ることもな」

 

 だが、扉間は冷淡に告げる。

 

 

「貴様はな―――とっくの昔にカイザーに見捨てられておる」

 

 

 カイザー元理事は、カイザーグループにとって既に要らない存在なのだと。

 

「ワシの手を取らなければ、一生豚箱に入ったままだ。貴様とてそれが分からんわけではないだろう?」

「…………」

「カイザーはヴァルキューレと繋がっているが、貴様を刑務所から出す気はない。そして、カヤの味方となったワシも利用できないのなら、貴様を出す理由が無い。つまり、ここでチャンスを逃せば、貴様の前にチャンスは二度と転がってこない」

 

 完全に切り捨てたかつての味方。

 利用価値を見出して手を差し伸べるかつての敵。

 手を取って自分のためになるのは、果たしてどちらか。

 

「ワシらが勝てば、貴様は囚人から大企業のトップに返り咲ける。今度はコンプライアンス重視の企業に生まれ変わってもらうが……貴様なら可能だろう? 理事にまでなったのは貴様の実力なのだからな。必要な支援も約束しよう」

「……使えなくなれば、いつでも切り捨てられるのではないか?」

「ワシを裏切るのならばな。だが、それはどちら側についても同じことだろう?」

 

 元理事が懸念するように、使えなくなればポイをされれば困る。

 しかし、そんなのは会社に見捨てられて刑務所にいる現在と何も変わらない。

 

「そうだな……1つワシの構想を話しておこう。貴様の協力が必要な事柄だ。それを為すまでは切らないという保証でもある」

「構想?」

 

 故に、扉間は安心感を与えるために先の先のプランを教える。

 裏切られるにしても、そこまでは猶予があると都合よく思考を誘導するために。

 

 

「カイザーPMCによる学校の設立。ワシもそれを支援しよう」

「なん…だと…?」

 

 

 告げられた扉間の構想に、カイザー元理事が驚愕の表情を浮かべる。

 かつてアビドスの地に作ろうとした軍事学校。

 その計画を潰した扉間自身が、支援すると言っているのだ。

 驚きも一入だろう。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

「最近は子供達の更生について考えておってな。通常の学校に戻すのでは、根性を叩き直せん。ならば、軍事学校で厳しく律するのもありかと思ってな」

 

 カタカタヘルメット団やワカモなど、矯正局に入れても反省しない者は多い。

 ならば、軍隊仕込みの肉体言語で規律を徹底して守らせる。

 ついでに、行く当てのない不良達に職をやれる。

 それが扉間の考えだ。

 

「……確かに、生徒数確保のために不良生徒などを集める気はあったが、誰が指導を務めるのだ? お前か?」

 

 そして、その教導役に扉間がつくのかと元理事は思う。

 だが。

 

「いや、指導役はもちろんワシ以外が行く。ワシは既にアリウス学園の校長だからな」

 

 扉間はアッサリと否定する。

 

「アリウス…学園?」

「ああ、貴様は獄中に居たが故知らんか。そのアリウスが関わるので説明しておくが、アリウス学園は現在ワシが指揮を執る、軍事学校のようなものだ」

「商売敵ではないか?」

「案ずるな。数年後には通常の学園にする。詳しくは、ここを出てから調べればいい。それでだ。アリウス学園の卒業生を指導官としてPMC軍事学校に向かわせる」

「……天下り先か」

 

 理事が天下りと言うように、これはアリウス学園の2,3年生のためでもある。

 卒業すれば、当然自分で生きる糧を稼がなければならない。

 だが、生徒で無くなれば学園として傭兵稼業が出来なくなる。

 

 1年生は、時間があるので今から学べば良い。

 だが、2,3年生はそうはいかない。

 かつての、戦いだけが取り柄のアリウスのまま卒業しかねない。

 

「失礼なことを言うな、就職斡旋先と言え」

 

 なので、就職先として戦闘のプロが求められる場所を増やしておく。

 サオリなどは面倒見が良いので、指導するという仕事は向いているだろう。

 もっとも、最後に決めるのは子供達自身なのは、絶対だが。

 

「……そして、お前の手の内の者をこちらの内部に入れて監視するのも狙いか」

「貴様がコンプライアンスを重視したカイザーに生まれ変わらせれば、何の問題もない」

 

 後、またカイザーが悪さをしないか監視するための人員にもなる。

 まさに、一石二鳥の策である。

 

「さあ、どうする? このままここで一生を終えるか。それとも、真っ当に更生して生まれ変わるか。チャンスが二度も訪れると思うな」

 

 これが最後の問いかけだ。

 言葉の裏にそんな圧力を乗せながら、扉間は元理事に告げる。

 

「……いいだろう。チャンスがあるならば、何度でも這い上がる。それもまたカイザーらしい」

 

 元理事は悩んだ末に扉間の提案に乗ることにする。

 ここに居ても、カイザーグループからの手助けは見込めない。

 ならば、ここで脱出して未来を掴むべきだ。

 釈放されれば、最悪扉間から逃げることも出来るだろうと考えて。

 

「交渉は成立だな。悪手(あくしゅ)だな、若造」

握手(あくしゅ)? 残念だが、このガラス越しでは手が届かない。早いところ私を釈放してからにしてくれ」

「いや、問題ない」

 

 手を伸ばす扉間に元理事が笑う。

 この強化ガラス越しでは、手が届くことは無いだろうと。

 だが。

 

 

「忘れたか? ワシは―――忍者だ」

『アロナパンチッ!!』

 

 

 扉間の拳(アロナパンチ)が強化ガラスを貫通する。

 アロナガードは扉間を守る能力だ。

 銃口を至近距離で向けられれば、銃口を曲げたりもする。

 その応用で、扉間が全力で殴ると怪我をするので、強化ガラスの方を捻じ曲げたのだ。

 

「………は?」

「どうした、獄中生活で口の利き方を忘れたか? 人に何かをお願いするなら、大切な言葉が必要だろう。お願いします(プリーズ)が」

 

 だが、そんなことは知らない元理事はガラスを突き抜けて目前に来た拳に、ビビるしかない。

 そう。これは扉間の脅しだ。

 下手なことをするなら、また忍術の餌食にするぞという脅し。

 ホシノを攫おうとした奴をただで信用するわけがないのだ。

 

「では、これからよろしく頼むぞ?」

「………よろしくお願いします」

 

 故に元理事は、うなだれながら扉間の手を取るしかなかったのだった。

 




「忘れたか? ワシは―――忍者だ」の下にアロナ語あります。

カイザー理事ですが、いつか使えるように10話で刑務所送りにしていたので再登場。
創作における刑務所って色々使えて便利。
これもカヤちゃんが仲間になったおかげです。

次回予告:ワカモ、柴関ラーメンを食べる。

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