千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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52話:どうして?

「第35回“アビドスチャンネル”の時間だよ、全員集~合」

「解説の奥空アヤネです。今回の撮影場所は、柴関ラーメンをお借りしています。店主の柴大将の多大なるご厚意に、この場を借りて感謝申し上げます」

「アヤネちゃん、今日は堂々と出演しているから前口上は要らないよー」

「……あ」

 

 柴関ラーメン。

 その中の一角を大将に快く貸してもらった、アビドス高校のメンバーは第35回“アビドスチャンネル”を開催する。

 

「開幕早々、アヤネちゃんの可愛い所が見れましたねー。今日はいい事が一杯です」

「うん。今日はみんなに重大発表がある」

 

 ・重大発表?

 ・借金が5億まで減ったとか?

 ・一気に2億円とか、銀行強盗でもしないと無理よ。

 ・私の直感だが、これはとんでもない発表になるよ。

 

 顔を赤らめるアヤネをノノミがよしよしと頭を撫でる。

 その横では、シロコが鼻息荒くまくし立てて、視聴者の興味を引いている。

 

「実はねー……アビドス高校に新しい生徒が入ってきたんだ」

 

 生徒会長のホシノが代表して、重大発表を行う。

 すると、当然コメント欄は。

 

 

 ・ダメだよ、ホシノちゃん。嘘ついたりなんかしたら。

 ・嘘で注目を集めるのは、動画投稿では恥ずかしい事なんだよ!

 ・失望しました。ホシノさんのファンをやめて、シロコちゃんのファンになります。

 ・幻術だ。

 

 そんなことあるわけないだろうと、別に盛り上がらなかった。

 アビドスに寄せられた負の信頼の厚さが良く分かる。

 

「む、嘘じゃない。ほら、ワカモ。こっちに来て、おニューの制服をみんなに見せて!」

「嘘みたいな話ですけど、本当です。れっきとした学籍票もあります。連邦生徒会とシャーレの先生公認です」

 

 幻術にはめられたと言われて、憤慨するシロコ。

 れっきとした証拠を提出するアヤネ。

 因みに、学籍の移動はワカモの意志は関係なく強制的に行われている。

 

 仕方ないね。

 百鬼夜行は厄介払い、連邦生徒会とシャーレはグル、アビドスはウェルカムなのだから。

 これだけ揃えば本人の意思なく、強制的に移動できるのだ。

 

「あの……本当に(わたくし)が出て良いのですか?」

「それじゃあ、紹介するよ~。百鬼夜行から転校してきた狐坂ワカモちゃんだよー」

「わー、パチパチパチパチ!」

「どうして、(わたくし)の名前を出して平然としてらっしゃるんですか?」

 

 シロコが新しいアビドスの制服に身を包んだワカモを、カメラの前に引っ張り出す。

 ホシノは何一つ隠すことなく、ワカモを紹介してノノミがパチパチと拍手をする。

 そして当の本人のワカモは、何で犯罪者の自分を平然と出しているんだと困惑する。

 

 ・何だ…コレは!? 

 ・私の幻覚なのか!?

 ・集団幻覚か?

 ・イヤ…幻覚じゃない…!

 ・転校生!!

 ・解ッ!

 

「いやー、おじさんも信じられないけど、ここまで誰も現実扱いしてくれないのはちょっと傷つくねー」

 

 そして、視聴者も自分が幻術にはまってしまったのかと激しく動揺する。

 アビドスに転校生という驚愕の事実に圧倒され、まだ誰もワカモの正体に行きついていない。

 因みに、その中には体調の問題で外に出れないので、暇潰しに見ていたニートフォックスも居る。

 

「ん、ワカモ。皆に挨拶する」

「……初めまして。狐坂ワカモと申します。このアビドスには、不本意ですが諸事情で転校してくることになったのですが、どうぞお見知りおきを」

 

 困惑したままだが、なんとか普通に挨拶を終える、ワカモ。

 一応、自分が災厄の狐とはバレないように気を使っているのは、アビドスへの気遣いだろうか。

 しかし。

 

「ワカモさんは“災厄の狐”と呼ばれて、かつてはキヴォトスの長年の悩みの種だったそうですが、連邦生徒会長率いるSRT特殊学園のFOX小隊に敗北。その後、矯正局に送られたのですが、七囚人と共に脱獄。そして、今度はトビラマ先生率いるRABBIT小隊に敗北して、保護観察処分を受けてアビドスに来ることになったそうです」

 

「どうして、余すところなく説明なさるんですか!? どうして!?」

 

 アヤネによる解説で、その気遣いを一瞬でぶち壊される。

 良く調べたな……まるで、ワカモ博士だ。

 

「あれ? どこかに間違いがあったでしょうか。先生から渡された資料通りのはずですが……」

「間違いはないです。間違いがないことを間違いなく話しているのが、間違いなのです」

「現在のワカモさんは、法に則った処分の真っ最中です。何も間違いはありません」

 

 疑問符を浮かべるアヤネに、ワカモが頭を抱える。

 間違いのゲシュタルト崩壊に脳をやられたのかもしれない。

 

(わたくし)これでも、あなた方に気を使っていたのですが……」

 

 なんかもう、勢いが凄すぎて反抗できずにアビドスまで連れて来られたが、アビドス勢の対応は100%善意しかない。何一つ嘘もない、純粋なる善意。これには、流石に罪悪感を覚えていたワカモだったが、それも一瞬で吹き飛んでしまった。

 

「犯罪者を身内に引き入れたら、普通は悪評が湧くものでしょう。ほら、コメント欄もあなた方への非難が……」

 

 自分を受け入れたことで、アビドスに悪評が湧く。

 そう常識的に考えて、ワカモはコメントを見るが。

 

 ・七囚人? ああ、捕まった事のあるマヌケって意味だろう?

 ・法に反することをするのは二流。一流は法を利用する。

 ・【速報】 アビドス高校、生徒数20%増!

 ・数字とは不思議なものだね。1人増加も%にすれば、大きな変化に見える。

 ・詐欺の常套手段。

 

 アビドスのハイエナに調教されたコメント欄は、平和そのものだった。

 

「ど、どうなっているんですか?」

「略奪も、破壊も、銀行(ぎんこう)……違った近郊(きんこう)、近郊の支配もアビドスではただの日常だから」

「寄付と治安維持! 寄付と治安維持活動です!!」

 

 狐だけに(こん)(わく)するワカモに、シロコが先輩風を吹かす。

 そして、アヤネが慌ててシロコの言葉を訂正する。

 銀行強盗なんてワード出てはいない、あくまでも近郊の言い間違えだから。

 いいね?

 

「そうそう、ちゃんとした立場で法を守ってやれば、大抵の事は許されるんだからね。ワカモちゃんも、暴れたいときはちゃんと手順を踏んで暴れないと」

「そういう所を、今日から一緒に学んでいきましょうねー」

 

 ・法を守る大切さを教える動画\1000。

 ・正義の味方の方がいいよ。だって、()()()に立てるもの。

 ・建物を壊す行為も、そこが打ち壊し予定ならいいからね。

 ・やったらダメなことは、やっても良いようにしてからやらないとダメだよ。

 ・まるで先生を見ているようだ。アビドス、恐ろしい学校だね\50000。

 

 アビドスチャンネルにまともな視聴者はいない。

 卑の意志を受け継いだアビドス勢の度重なるアウトローいっぱいの投球で、ストライクゾーンが広くなっているのだ。

 

「……どうしてですか?」

 

 当然、ワカモはその空気に付いて行けず、暴れることも出来ずに立ち尽くす。

 他人を振り回してばかりで、他人に振り回される人生経験が少ないのだ。

 

「はい、味噌チャーシュー麺大盛り、お待ち!」

 

 ・あ、セリカちゃんだ! 今日もバイトお疲れ様です\1000。

 ・看板娘の登場。

 ・味噌チャーシュー麺大盛り\1098。

 ・またバイトですか? お体に障りますよ\3000。

 ・先生に通報を……いや、私の見間違えか。

 

「今日は私達の奢りだから、好きなだけ食べて良いわよ、ワカモ!」

「ん、後輩のためなら財布のヒモも緩む」

「だから、(わたくし)はあなた方より年上だと、何度言えば……」

 

 2年生のシロコどころか、1年生のセリカにまで後輩扱いされることに、不満を溢す、ワカモ。

 それはそれとして、矯正局では質素な食生活だったので、目の前の美味しそうなラーメンには目が釘付けになっている。

 

「年齢なんて飾り。私はホシノ先輩に拾われるまでの記憶がないから、年齢は自分で決めることにする」

「サラッと、重い過去を話されても困るのですが」

 

 ・衝撃の事実。

 ・え? シロコちゃん、記憶喪失なの?

 ・道理でホシノの目が、まれに親のようになるわけだ。おやつ代\6000。

 ・土地もお金も記憶もないとは、アリウスより酷いね……\20000。

 ・嘘を言って同情を引こうとしてるんでしょww ……嘘だって言ってよ。

 

 しかし、シロコがサラリと重い過去を暴露したおかげで、意識が引きずり戻される。

 実はシロコ、便宜上16歳になっているが実年齢は不明なのだ。

 

「そんなことより、早くラーメンを食べてみて。大将のラーメンは美味しいよ」

「バイトの私が言うのも何だけど、腕によりをかけて作ってくれたから、味は保証するわよ」

「どうしてこんなことに……まあ、嫌いではないので頂きますが……」

 

 コメント欄がシロコの秘密に騒然となっている中、ワカモは気を取り直してラーメンを口にする。

 

「いただきます」

 

 コッテリとした濃厚な味噌スープ。

 そして、そのスープに良く絡む太めの麺。

 噛むとジュワッと、旨味が口内に広がるチャーシュー。

 

「おいしい…!」

「でしょー? シャーレの先生もおすすめのラーメンだよ」

「先生はトッピングのナルトを、多めにするのがお好きでしたねー」

「皆様もぜひ柴関ラーメンにお越しください。温かいラーメンと大将、そして看板娘のセリカちゃんが待っています。住所はこちら」

 

 想像していたよりも美味しいラーメンに、パアッと顔を輝かせる、ワカモ。

 どうやら、今日のテロ活動は飯テロになりそうだ。

 

 ・可愛い。

 ・今日もアヤネちゃんの宣伝が光る。

 ・ナルトとか、トッピングの中の落ちこぼれだろ。時代はメンマ。

 ・は? お前にナルトの何が分かるんだよ。メンマの方がどの道碌な奴じゃないだろ!

 ・モヤシはダメだね。スープの味が薄まってしまうように感じるんだ。

 ・ちょっと! モヤシを馬鹿にする人はモヤシに泣くわよ!! このブルジョワ!!

 

 それを見ながら、コメント欄では不毛な争いが巻き起こる。

 やはり、真の平和な世界は夢の中でしかありえないのか……。

 

「まあまあ、食べ物の好みは人それぞれだからねー。おじさんは、シンプルに海苔がいいかなぁ」

「トッピングなら煮卵も忘れたらいけませんよー」

「……話していたら、私達もお腹が空いてきましたね。セリカちゃん、私達も注文良いですか?」

「そう言うと思って、いつものを大将にオーダーしてるわよ」

 

 セリカが一度厨房に消え、その後他のメンバーのラーメンを持ってくる。

 

「ん、流石はセリカ。仕事が出来る」

「あれれ? セリカちゃんの分が無いよー?」

「私、バイト!!」

 

 こうして、第35回“アビドスチャンネル”は飯テロ活動をしながら、和やかに終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

「というわけで、カイザーの元理事とワカモは司法取引で釈放させた。また、エデン条約機構(ETO)が占領したブラックマーケットの土地は、一度連邦生徒会に返還してそこからカイザーに売り渡す。受け取った金はトリニティ・ゲヘナ・SRT・連邦生徒会で山分けを行う。少々、仕事が多いが連邦生徒会で意見を通しつつ、カイザーグループと取引できるのはお前しかおらん故、頑張れ。それと、売った土地にはカイザーPMCの軍事学校を建てる故、その内連邦生徒会に申請が来るはずだ」

「先生はもしかすると、連邦生徒会のことがお嫌いなのでしょうか?」

「期待の裏返しだ。許せ、カヤ」

 

 ヴァルキューレの客室で、いつものように扉間と相対するカヤだがその表情は硬い。

 良い策を練ってきたのは嬉しいが、私の負担多くないですかという顔だ。

 

「カイザーグループに土地を買わせるのは……元理事さんも手伝ってくださるので、まだ楽でしょう。ですが、カイザーグループに土地を売る案を通すとなると、流石に連邦生徒会内で疑われませんかね?」

 

 ただでさえ、防衛室は過去に癒着などが問題になっているのだ。

 いきなり、カイザーグループに売りませんか? と言うのは怪しい。

 夏休みの宿題を家に忘れたという小学生の証言ぐらい怪しい。

 

「元々、子ウサギ公園を売る予定だったのだろう? ラビット小隊をあそこから退かせる故、子ウサギ公園のついでに買わないか提案したことにすればいい。少なくとも、連邦生徒会の現状で、ブラックマーケットまで管理しようと言うよりかは現実的な案だ」

 

 なので、扉間はちょうどいい理由付けをする。

 元々、売り渡す土地があるのでそのついでに提案してみないかと、案を上げる。

 買って貰えないなら別の案を考えるという形にしておけば、案は通りやすい。

 

「なるほど、確かに……しかし、ラビット小隊を動かすのですか?」

「ああ、SRTの復校にはもうデモの必要は無い。子ウサギ公園にこれ以上滞在する理由もない。ならば、次の段階に進むべきだ」

 

 SRT特殊学園の復校のために、ラビット小隊は指名手配犯の掃除を始め、ワカモの逮捕などで十分に功績を上げた。そして、その間ずっと連邦生徒会の一部組織であるという姿勢を貫いてきたのだ。連邦生徒会としても、邪険には出来ない立場である。

 

「次の段階と言いますと?」

家無し(ホームレス)から家住まいに戻るのだ。SRT特殊学園の寮を開放するという形でな」

 

 なので、公園住まい(ホームレスJK)を止めて、寮住まいに戻らせるのだ。

 

「ラビット小隊の要求内容は簡単だ。もともと住んでいた寮を使わせてくれ、それだけだ」

「光熱費などの寮の維持費は?」

「無論、ラビット小隊に稼がせる。SRTの口座も凍結したままで構わん。重要なのは、名前だけの所属から実際の学校の所属に戻すことだ」

 

 SRT特殊学園の学籍は、現状だとデータ上にだけ存在する幻術のようなもの。

 それを形あるものに戻すのが今回の目的だ。

 

「連邦生徒会の子ウサギ公園(所持する土地)から、連邦生徒会のSRTの寮(所持する土地)に移動するだけだ。ラビット小隊の生活には一切触れない状況から変わることは何も無い」

 

 自分達の土地に居座る許可は既に出している。

 今回は、その土地の位置が変わるだけ。

 

「だとしても、SRTが学園を取り戻すというのに、良い顔をする人は居ないでしょう。誰も責任が取れない強大な力。連邦生徒会の内部にはそれを恐れている人間が多いですので」

「お前とFOX小隊が襲撃をしたのも、理由の一つだろう? 身から出た錆だ。苦労しても仕方があるまい」

 

 お前の始めた物語だろう?

 そう告げる扉間に、カヤは何も言い返せない。

 襲撃が無ければ、今まで従ってくれてたんだし……と警戒心を薄める者も居ただろう。

 だが、襲撃したせいでSRTに対するアレルギー反応を起す者が現れた。

 連邦生徒会長になればそんな意見も強権で薙ぎ払えるが、現状では無理である。

 

「……分かりました」

 

 それを理解して、カヤはため息交じりに返事をする。

 扉間が味方になったのはいいが、どうにも甘やかしてくれるわけではないらしい。

 

「そう、むくれるな。こういう時はそれらしい別の理由を相手に考えさせるのだ」

「別の理由ですか?」

「うむ。お前はラビット小隊が学校に戻ることを懸念する者達に、こう囁きかけるのだ。『SRTに残っている最新鋭の武器を没収すれば、いつでも鎮圧は可能だ』とな」

 

 SRT特殊学園の部隊と言えど、武器の性能差には左右される。

 “所確幸”のニート達に、ヴァルキューレが手間取ったのもそれが理由だ。

 

「ラビット小隊が寮に戻る際に、万が一の可能性を潰すため、武器を根こそぎ奪っておく。単純な者は武器が弱ければなんとかなると安堵し、聡い者はお前の狙いがSRTの武器をヴァルキューレに流すためだと思うだろう。実際の所は、ラビット小隊が元の場所に戻るという表向きの理由以外に無いと気づかずにな」

 

 人は思い込みの中で生きている。

 事実ではなく、自分にとっての()()()()()()()だけを見る。

 相手の言葉が本当か嘘かはどうでもいい。

 自分に取って、それが信じられる言葉であれば信じるのだ。

 

「なるほど……それなら反対派も私がSRTの武器の吸収を諦めるのを見れば、ラビット小隊の復帰自体は受け入れざるを得ないですね」

「ラビット小隊の受け入れを反対する者達には、偽りの目的を妥協したように見せかけて、落としどころとしてラビット小隊の受け入れだけを認めさせる」

 

 0(反対案)――5(中立案)――10(賛成案)

 実際の所は5で十分でも上記の図のようにカヤ派は10欲しいと思わせる。

 そうすることで、反対派に相手の妥協を引き出させたと思わせることが出来る。

 これがドアインザフェイスというものだ。

 

「カヤ。お前は敵を倒せば、敵は居なくなると思っておるのかもしれんが、現実は違う。敵が居なくなれば、味方側から敵が生まれるだけだ」

「味方側から?」

 

 敵なんて倒してもキリがないぞという扉間に、カヤは目を見開く。

 味方とはずっと味方で居てくれないのかと。

 

「考え方が同じ人間などそう多くはない。故に、集団を維持する上で大きな目標や敵を作る。目標があれば、目標を達成するまでは同じ方向に歩ける。敵が居ればそいつを倒すまでは手を取り合える。だが、それが無くなれば残るのは考え方が違うだけの人間。一見同じ考えをしているように見えても、描く過程が違うというだけで容易く仲違いする」

 

 ある場所に2人の子供が居た。

 子供達は自分の弟が死なないために、争いの無い世界を創ろうとした。

 同じ目標を描いていた。

 だが、描く過程が違った。

 

 1人は敵も仲間に加えることで、争いのない世界を目指した。

 もう1人は敵を根絶やしにすることで、争いの無い世界を目指した。

 そうして同じ夢を見た2人は道を違えた。

 

仲間割れ(目に見えぬ敵)を警戒し続けるのに比べれば、明確な敵を置いて監視しておく方がずっと楽だ。反対派はスパイ以外はそちらに行ってくれるからな」

「先生のおっしゃる通りだと思います。ですが、それでも結局争いは無くならないのでは? 大きな派閥同士での争いが起きるだけです。ならば、争いが起こる前にその芽を潰すのが最も正しいのでは?」

 

 扉間の意見に同意しつつも、カヤは異を唱える。

 結局の所、争いは終わらず大きな集団同士でやり合うようになるだけではないかと。

 まるで、一族間での争いから、里同士での戦争に移り替わったように。

 

「そうだ、カヤ。お前の言う通りだ。故に人の上に法を、ルールを敷く。皆がルールを守れば、無駄な争いは無くなる」

「無駄ではない争いは残るのではないですか?」

「……そうだな」

 

 戦争は無法地帯と思われているが、実は戦争にもルールがある。

 それに、合法的な戦争もある。

 他国に攻められての反撃などは、専守防衛の国ですら認められる。

 

「私は全ての争いが嫌いです。だから、そもそもの争いの芽を摘み取るべきだと、いつも思っています」

「カヤ?」

 

 段々とヒートアップしていくカヤに、扉間は眉を顰める。

 争いの芽を摘むために、力を振るう。

 その矛盾に気づいているのだろうかと。

 

「このキヴォトスから争いを無くす方法。それは全ての人から―――武器を取り上げることです」

 

 武器が無ければ、争いは起こらない。

 少なくとも、簡単に制圧できるものになる。

 

「武器を……無くすだと?」

「はい。キヴォトスの人間でも素手で犯罪を起こすことは出来ません。なので、銃や爆弾などを完全な許可制にして、警察組織以外から取り上げれば誰も犯罪を起こさなくなると思ってます」

 

 曇りのない瞳で、とんでもない発言を行うカヤ。

 これには、さしもの扉間も呆気にとられた顔をするしかない。

 

「どうして、日常生活を送る上で銃が必要なのか……結局の所、それは相手も銃を持っているからです。なら、全員から銃を取り上げれば、銃を持つ必要はなくなる。皆が平和です」

 

 キヴォトスで育った人間が、銃を捨てるという発想を行う。

 それは忍として育った扉間が、武器を捨てるという発想をするようなものだ。

 とんでもない発想としか言いようがない。

 

「カヤ……お主……」

 

 故に扉間は驚きの混じった表情で、カヤを見つめる。

 そして、しばらく何かを考えた後に口を開く。

 

 

 

「面白い発想をするな。ワシでは逆立ちをしても思いつかん」

 

 

 

 武器の無い世界。

 武器無き世界を知らぬ扉間では、決して出てこないであろう発想に最大限の賛辞を贈る。

 

「! やはり、先生なら分かってくださると思っていました…!」

 

 扉間に肯定されたことで、カヤはねっとりとした瞳で子供らしく笑うという器用な顔を作る。

 

「これが若者の力か……やはり、未来を作るのは老いぼれではなく子供だな」

「私が連邦生徒会長になれば、その未来を先生に見せて上げられます!」

 

 一方の扉間は、カヤの発想に心から驚きながら現実的な思考を働かせる。

 どうすれば、それが可能か。そして、どれ程の時間がかかるかを。

 

「……いや、ワシでは時間が足りんだろうな」

「はい…?」

「その未来が形になるのは、お前が大人になりワシが死んだ後だろう」

 

 扉間の言葉に、カヤが冷や水をかけられたような表情をする。

 どうして、そんなことを言うのだろうかと。

 

「な、何を言っているんですか、先生? 私が連邦生徒会長になればすぐにでも施策を……」

「武器を禁止にするという事は、それを使う者達以外にも作る側にも大きな影響が出るという事だ。唐突に禁止にすれば、それで飯を食っていた者達が大量に路頭に迷うことになろう。少しずつ、時間をかけてやっていかなければ猛反発を食らうだけだ。下手をしなくとも死人が出る」

 

 コンビニで銃が買える世界で銃を禁止にしたらどうなるか?

 当然、その産業に携わっていた人間全てがダメージを食らう。

 そして、大きな反発が起きる。

 当然だ。みんな飯を食えなくなるのは嫌なのだから。

 

「だからこそ、私が連邦生徒会長になって! 全ての人に従って貰うのです! 連邦生徒会長のような……()()()()()()超人であれば、きっと可能なはずです!!」

「買い被り過ぎだ。ワシとて人の子に過ぎん。……まあ、それが出来る人間がこの世のどこかに居る可能性自体は否定せん。連邦生徒会長なら確かに出来たのかもしれん。だが、その超人が消えれば時代は逆行するだけだ。丁度今、連邦生徒会長が消えて混乱しているキヴォトスのようにな」

「それは……」

 

 カヤは反論しようとするが、連邦生徒会長のことを出されると何も言えない。

 連邦生徒会長が居た時は上手く回っていた。

 だが、居なくなった途端にこの混乱具合だ。

 そもそも、連邦生徒会長とていずれは卒業する生徒の一人だというのに。

 

「例え、神の如き力を持っていたとしても、1人で全てをこなそうとする者は必ず失敗する。忘れるな。真に必要な力とは人と人との繋がりであり、仲間との結束だ」

「どうして…どうして…そんなことを言うんですか…? 先生は超人です。きっとどんなことも1人で解決できるはずです」

 

 どうして、あなたがそんなこと言うんですか?

 あなたは超人だ。

 ねえ、どうして?

 

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 

 あなたも私の憧れを裏切るんですか?

 ()()()のように。

 

 

 

「―――超人なら1人で全てを解決できるはずだッ!!」

 

 

 

 ガタリとカヤが立ち上がり、扉間を睨みつける。

 その目はドス黒く濁った状態。

 腹の奥底で眠っていた大蛇が鎌首を持ち上げる。

 憧れを裏切られた憎悪の炎がチロチロと舌を出す。

 

「困難に打ち負けるような人間を、私は超人だとは認めない!」

 

 完璧で究極なあなた以外許さない。

 憧れ、認め、嫉妬していた連邦生徒会長が逃げるように消えたことで、カヤはそんな歪みを抱くようになってしまった。

 

「それなのに…どうして? どうして!?」

 

 勝手に憧れ、勝手に失望しただけ。

 言葉にすればそれだけの傍迷惑な子だが、その心は言葉ではとてもではないが表せない。

 カヤが扉間を慕っているのは、扉間に連邦生徒会長(ちょうじん)を見出したから。

 居なくなった憧れの代わりを無意識に求めたのだ。

 

「……先生は超人であってください……お願いですから」

 

 先程の怒りは何処へやら。

 今度は急にしおらしくなるカヤを、扉間は黙って見つめている。

 そして、ある程度落ち着いたと判断した所で声をかける。

 

 

「お前はコンビニで飯を買わんのか?」

「はい…? コンビニ?」

 

 

 唐突過ぎる話題展開に、素で疑問符を浮かべる、カヤ。

 

「24時間いつでも開いていて、自分で作らんでも金で手に入れることが出来る。実に便利なものだ。ワシの若い頃にはこんなものはなかった」

「いや、だから急に何を……」

 

 いきなり何を言い出しているんですか、と自分のことを棚に上げて困惑するカヤ。

 そんなカヤに対して、扉間はゆっくり子供に説き聞かせるように語る。

 

「ワシは料理が出来る。別にコンビニで買わんでも飯ぐらい用意できる。だが、時間は有限だ。忙しい時は便利な既製品で済ませるのが賢い選択というものだ。それ以外にもジャンクな味が好きで、好んでコンビニに行く者もおろう」

 

 自分に出来ることだからと言って、何でもかんでも自分でこなしている人間は居ないのだと。

 

「つまりだ。自分に出来ることであっても、それを全て自分の手で行う必要は無いという事だ。ワシがお前の言う超人だとしても、時間を操れるわけではないのだ。1日の限られた時間、自らの好み、果ては面倒という感情。それらを考慮すれば、超人だとて全てを1人でこなす理由はない。連邦生徒会長とて、警察関係の仕事はお前に任せていただろう」

 

 超人が全てが出来る人間だと定義しても、わざわざ自分でやる理由はない。

 むしろ超人ならば、人に仕事を振るという上の人間の仕事も出来なければおかしい。

 

「凡人だから人に頼るのではない。超人だからこそ、人に頼るのだ」

「超人だからこそ……人に頼る…?」

 

 今まで思ったこともなかった考え方に、カヤは目をパチクリとさせる。

 

「まずは座って落ち着け。ワシがコーヒーを淹れよう」

「あ…はい……」

 

 先程まで怒鳴られていたことなど、まるでなかったかのような落ち着いた態度。

 そんな姿でコーヒーを淹れる扉間を見つめながら、カヤはポスリと腰を落とす。

 何という事はない、気が抜けたのだ。

 そして、一方的にぐちゃぐちゃな感情をぶつけてしまったことを自覚し、頬を赤らめる。

 

「出来たぞ。己の手でやるのは余り機会が無いが」

「いえ、大丈夫です、頂きます」

 

 カヤはそんな赤らんだ頬を隠すために、俯くようにコーヒーカップに唇をつける。

 

「どうだ?」

「………機会が少ない割には美味しいと思います」

「フ、やはりな。今度はお前に淹れて貰うとしよう。お前が淹れた方が美味いからな」

 

 そして、扉間の微妙な出来のコーヒーに少し顔を顰めるのだった。

 扉間も出来の悪いのは理解していたのか、自分で口をつけて苦笑いをしてみせる。

 コーヒーを淹れることは出来るが、他人に任せた方が美味しいものが飲めると。

 

「さて、少し年寄りの昔話に付き合ってもらうぞ」

「昔話ですか?」

「お前はワシのことを超人と呼ぶが、ワシは本物の超人を1人知っておってな」

「本物の超人…? それは一体?」

 

 扉間よりも優れた、本物の超人。

 そんな人間は連邦生徒会長しか思い浮かばないカヤは、身を乗り出して聞く。

 

 

 

「千手柱間(はしらま)。かつて神と崇められた男であり、ワシの兄だ」

 

 

 

 忍の神として、戦乱の世に君臨した超人の話を。

 




ダンゾウ「火影は完璧で究極な存在でないと解釈違いだ。儂が火影になる」
大蛇丸「衰えて完璧で究極じゃない猿飛先生なんて、解釈違いよ。私が殺すわ」
カヤ「連邦生徒会長は完璧で究極な超人でないと、解釈違いです。私が代わりになります」

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