千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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53話:争いの止め方

 

「兄者は(ひかり)だった」

 

 出るか! 二代目様の長文兄語りが…!

 

「誰もが目を奪われていく、先の見えない暗闇の中でも決して見失わない(ひかり)。誰もが踏み込むのを躊躇う、険しい道の先頭に立つ強き心。誰もが馬鹿にするような夢を掲げ続け、結果的に多くの者達に未来を信じさせることになった夢。誰よりも傷つきながらも、誰よりも笑う太陽のような笑顔。まるで大樹のように寄りかかり、頼りたくなる背中。それでいて、決して1人で立とうとはせずに、多くの者達に頼り繋ぎ合った大きな手の平。そんな兄者が道を作ってくれたからこそ、オレは道を踏み間違えることなく歩み続けることが出来た。そんな兄者が残した火の意志は、今もなお多くの者に引き継がれておる」

 

「あ、はい。もう大丈夫です」

 

 開幕、柱間語りに真顔でもう大丈夫と言う、カヤ。

『先生のお兄さんですか…? それは一体、どのような方なのでしょうか?』と聞いた過去の自分が恨めしい。

 扉間って、兄者の話になると急に早口になるよな。

 

「何というか……その……先生は……ブラコンなのですね」

「ブラ…コンだと?」

 

 そんな扉間に対して、カヤが率直な意見を述べる。

 扉間は顔に似合わずブラコンだと。

 扉間が納得がいかないと凄い顔をする。

 

「別に仲良しこよしだったわけではない。兄者はすぐに落ち込むウザい癖があったので、基本は雑に扱っておった。先程は多くの者に夢を見せたと言ったが、現実性のないものも多かった。甘さと優しさをはき違えた発言も多かった。その度に、現実的な方向性に修正するのがワシの仕事だった。そして、頭は悪くないのにバカだった。突拍子の無いことを唐突に言い出すし、放っておくと有り余る力で実行し出す。他国との戦力均衡のために兵器を売りに行ったら『タダでもいい』と言いだした時は、本気で殴ってやろうかと思ったぞ」

 

 先程の良いことと同じぐらいに、ダメな所を挙げる扉間。

 それが逆に仲の良さを強調していることに気づくこともなく。

 

「でも、全部フォローしてあげてるんですよね? 先生のことですから」

「………カヤ、お前は中々に鋭いの」

「いえ、先生が分かりやすいだけです、はい」

 

 なので、あっさりとカヤに論破されてしまう。

 柱間が馬鹿なことを言う→扉間がキレる→柱間へこむ→ため息交じりに扉間が現実的な意見を出す。

 この流れが生前の鉄板と化していたことを、当の本人だけは認めていない。

 

「それで、そんなお兄さんが超人だったとは?」

「兄者は全てが最強、ケタ違いだったのだ。もう、細胞の一つ一つからして他の人間とは違う」

「そんな、大げさな」

 

 いくらなんでも、人間なのだから細胞が違うことは無いだろうと呆れる、カヤ。

 まさか、比喩表現抜きだとは夢にも思わない。

 

「……子供の頃から、骨折程度の怪我なら何もせずとも翌日には治っておってな」

「………冗談ですよね?」

「大人になったら、その場で治せるようになった」

「だから、冗談ですよね?」

 

 大怪我も印すら結ばずに治すことができる。

 そう、全身柱間細胞ならね。

 

「戦略を戦術でひっくり返せる人間…人間? でな。敵軍に1人で送り込むだけで、1人も殺さずに全員捕縛して帰ってきたこともある」

「あの、なんでお兄さんのことを弟の先生が、人間かどうか怪しんでいるんでしょうか?」

「死後もどういう訳か体が腐らんでな」

「どこぞの聖人ですか?」

「他人の身体に兄者の細胞を移植すると体から木が生えてきてな。兄者には死んでも輸血するなと厳命したものだ」

「冗談ですよね!? 冗談って言ってください!」

 

 柱間の細胞がなんかおかしいのは周知の事実。

 なんか本人達もナチュラルに知っている。

 恐らくは生前に、流石に兄者の細胞おかしくね? と扉間が調べたのだろう。

 

「悪いが事実だ。弟のワシが言うのもなんだが、兄者は神の如き存在だった」

「私には神様よりも、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類に聞こえるのですが?」

 

 全盛期、柱間伝説。

 

 ・柱間にとって尾獣は柱間のなりそこない。

 ・暗殺に来た忍が殺せるわけないと泣いて謝った。心臓発作を起こす忍も。

 ・敵を一睨みするだけでチャクラが荒立ち、下忍クラスなら戦闘不能に出来た。

 ・山かと思ったら柱間の作った木人の術だった。

 ・真数千手の術はその木人が手の平に収まるサイズ。

 ・あまりにも強すぎるので、マダラ以外に本気を出したことがない。

 ・素手や術だと死体が欠片も残らないので、柱間が忍具を使うのは相手の仲間への気遣い。

 ・その死体を爆弾にして、敵の仲間に送り返す弟がいる。

 ・影分身は柱間の木遁分身の真似事に過ぎない。

 ・印を結ばずに傷を治せる。

 ・全ての術がケタ違い、人は奴を最強の忍と呼んだ。

 ・チャクラの多いうずまき一族+九尾の人柱力=柱間個人のチャクラ量。

 ・チャクラ量無限の穢土転生のメリットがデバフ扱い。

 ・得票率99.9%で火影に就任。うちは一族もマダラ含めて全員が柱間に投票。

 ・得票率100%でないのは、柱間だけマダラに投票したからという説が有力。

 ・自分にとっては小動物程度の九尾も、他の者には危険と考えられる常識があった。

 ・木遁で自分で食べる用のキノコを作ったことがあるが、不味かったので封印。

 ・後にキノコに幻覚作用があることが判明し、扉間が禁術指定に。

 ・杉花粉を大量に出して花粉症の敵を攻撃する非殺傷の術を作ったが、当然味方にも被害が出るので禁術に。

 ・木遁が最強の忍術なのではなく、単に柱間が最強なだけ。

 ・戦闘の余波で終末の谷を作ったことはあまりにも有名。

 ・あの、うちはマダラと親友だった。

 ・実は死後も細胞はまだ生きている。

 

 嘘か本当か、判断に困る逸話の数々。

 カヤが柱間を魑魅魍魎扱いするのも、何も間違っていないと言える。

 

「………魑魅魍魎ではないはず。調べた結果、ワシと同じ遺伝子だったからな」

「普通の兄弟は、わざわざ遺伝子情報を調べようとは思わないんですよ?」

 

 カヤの切れ味鋭いツッコミが扉間を容赦なく切り裂く。

 彼女は優秀な風遁使いになれるかもしれない。

 

「一先ず、先生のお兄さんが超人というのは理解出来ました。ええ、とても不服ですが」

「お前が物分かりの良い子で助かった。正直、理解されん可能性も考えておったからな」

「こんな所で褒められても嬉しくありませんが……それで、超人だからこそ人に頼るとはどういうことなのでしょうか?」

 

 褒められるなら、もっと優秀とか可愛いとかで褒めて欲しかったなと思うが話が進まないので不満を飲み込む、カヤ。

 まあ、現実味が無さ過ぎて一周回って信じられるのかもしれない。

 

「弟であるワシから見ても兄者は神の如き超人だったが、決して物事を1人で解決しようとはしなかった。普段は大バカ者だが、どういうわけかそうしたことで道を間違えたことはない。ワシを筆頭に兄者はとにかく人を頼った。豪放に笑いながら、自分では上手く出来んと言って頭を下げてくる。長だというのに、それはもう簡単に頭を下げる。敵国にも平然と下げて、相手の長から忠告された程だ。だというのに、自分以外では出来んことでは何も言わずに先頭に立つ。たとえ、それが自分にとって最も辛い事であったとしても」

 

 また、扉間の早口兄者語りが始まった。

 カヤは思わず、白目を剥きそうになるがグッと堪える。

 

「今思うと、兄者は自分の居なくなった後のことをワシ以上に考えておったのだろう。兄者が生きている間だけなら、その気になれば一時的には争いのない世界を創れただろうからな」

「! それはどうやってですか?」

「無論、圧倒的な力で全てを従えるという方法でだ」

 

 扉間の言葉に、カヤは息を呑む。

 力で全てを従える。それを可能に出来る人間が居たのかと。

 

「出来るのですか?」

「出来た。この時代で言えば……兄者の存在は拳銃で争う者達の中に核兵器を撃ち込むようなもの。そして、唯一兄者に対抗出来た()()()とも同盟を結んでいた。その気になれば、如何なる敵も滅ぼすことが出来たのは間違いない」

「あやつ?」

「そいつの説明をする前に、千手一族とうちは一族の歴史を理解する必要がある。やたらと長くなるので省くぞ」

「あ、はい」

 

 マダラの話とかしたくねぇと言わんばかりに、話を端折る扉間。

 仕方ないね。今は大好きな柱間トークのお時間だから。

 お前は後!

 

「まあ、お前に分かるように例えると、兄者は個人でキヴォトスを破滅させられる力を持っていた。そして、それを止められる存在もワシを含めて居なかった。世界平和を簡単に叶えられる状況に居た。だが、兄者はあくまでも他者と分かり合うことでの平和を目指したのだ」

「分かりませんが、分かったことにしておきます」

 

 柱間とマダラが手を組めば、止められる忍はただの1人も居なかった。

 だからこそ、同盟に加わりたいと猿飛・志村・日向などが来たのだ。

 後はその戦力で従わない奴らを潰せば平和になる。

 マダラが思い描いていたように、恐らくそれは事実だったのだろう。

 

「それは……どうしてでしょうか?」

「兄者の考えはワシでも理解出来んことがある。どこまでも先を見ているようで、その実、目の前のことしか考えていないような、人間だったからな。だが、1つだけ言えることがある」

 

 だが、それも2人が生きている間だけ。

 2人が死ねば、必ず他の里や身内から敵対者が出て来たに違いない。

 自分だけが平和な世界を見たいのなら、それでもよかったのかもしれない。

 弟さえ、家族さえ守れればいいのなら、柱間もマダラに同調していたかもしれない。

 しかし。

 

 

「兄者は―――子供達の死なない世界を願っていた」

 

 

 柱間は弟だけでなく、子ども達全員が死なないで欲しいと祈っていた。

 だから、自分の生きている時間だけの平和では意味がなかったのだ。

 我が子が、孫が、ひ孫が、玄孫が平和に生きられる世界。

 その実現のために、短絡的な平和ではなく険しい道の先を目指したのである。

 まあ、そんな願いも虚しく孫の縄樹も幼くして死んだりしたのだが。

 

「そして、その夢の第一歩こそが()()()()()()だった」

「それは……」

 

 カヤはハッと思い出す。

 扉間が最初に自分を訪れた時のことを。

 SRT特殊学園の閉鎖を取り消したいという、ラビット小隊の願いの手助けをすること。

 初めから、扉間は学校に並々ならぬ思い入れがあったのだ。

 

「学校はオレ達の夢の足掛かりだった。子供達が安全に学び、生きていく力を身に付ける場所。きっと、兄者は自分以上に子供達に平和であって欲しいと願ったからこそ、自分1人で何とかしようとせずに、後の世代に託したのだろうな」

 

 柱間にとっての弟は、家族は、一族であり、里であり、国の民だった。

 ならば、未来の我が子や孫を見捨てるわけにもいかない。

 故に、人に頼ることで平和の意志を広めていった。

 これこそが―――火の意志の始まりである。

 

「カヤ、お前の望む平和な世界は自分だけが見れれば良いものなのか?」

「私は……」

「ワシの考える超人とは、兄者のように己の滅びの後も時を()えてその意志が生き続ける()間だ」

「時を…超える?」

 

 カヤが言葉に詰まる。

 キヴォトスから犯罪を無くす。

 その夢は果たして自分が満足できれば良いだけのものなのか?

 仮に、自分だけが良ければいいのなら、部屋に引き込もればそれでいいのではないか?

 

「お前が大人になり、結婚して子を産み、その子が孫を産んだ時。キヴォトスの平和は自分が作ったのだと胸を張って言いたくはないか?」

 

 ああ、そうだ。

 自分は連邦生徒会長のような超人に憧れた。

 そして、超人になり()()()()()()()()のだ。

 

「覚えておけ。人を信じて頼るよりも、全てを自分1人でこなす方が楽だ。自分1人でやる分には何も悩まんでいいし、誰にも裏切られることもないからな。だが、それで変えられるものは自分の視界に映った景色だけだ。カヤ、お前が世界全てを変える超人を目指すというのなら、人を頼れ。人を信じろ。裏切られても信じることを信じ続けろ」

 

 ならば、認めてくれる人が居なければ一生満足できない。

 きっと、いつまでも理想という名の呪いに縛られ続ける。

 

「そうすれば、お前を慕い、信じる者達が必ず現れる。そして、育てるのだ。お前の意志を託す事のできる者を……そうすれば、お前は――」

 

 だったら、私は。

 

 

「―――超人になれる」

 

 

 夢を託して、時をも()える()になろう。

 

「……1つ聞かせてください」

「なんだ?」

「……先生は、先生は、それで満足なのですか? 自分の夢が生きている間に叶わなくても。自らの意志が受け継がれていくか分からなくても。私達の成長が見届けられなくても。それで満足なのですか?」

 

 だが、やはり怖いものは怖い。

 自分が居なくても信じるのは難しいし、成長を見て褒めて欲しい人が居なくなるのも悲しい。

 だから、扉間に問いかける。

 結果を知れなくても満足なのかと。

 

「お前がワシよりも年を取って、ひ孫に囲まれて畳の上で大往生した後に、冥途の土産話に聞くとしよう。なに、お前が失敗してもその次の代で何とかしてくれるやもしれんさ」

 

 それに対して、扉間は笑って答える。

 成功も失敗も、あの世の土産話に聞くだけだと。

 

「私はきっと天国には行けませんよ?」

「案ずるな。悪人も善人も死ねば行く場所は同じだ」

「まるで、見て来たかのように言いますね」

「フ、実際にそうかもしれんぞ? 老人故、お前達よりあの世に近いからな」

 

 実際にあの世の存在を証明した上で、術を作っているので扉間は確信を持って答える。

 人間、死ねば行きつく先は皆一緒だと。

 

「先生、お願いがあります」

「なんだ? 言ってみろ」

 

 そんな扉間に対して、カヤは困ったように笑って1つお願いをする。

 人を頼れと言った手前、断られることは無いだろうと打算的に考えて。

 

 

「先生は―――長生きしてくださいね」

 

 

 出来るだけ長く生きて、自分を見守って欲しいと。

 

「……全く、年寄りに無茶を言う」

 

 そんなカヤに対して、扉間は同じく苦笑いを返すのだった。

 

 

 

 

 

「いなり~いなり~、美味しい美味しい“おいなりさん”は要らんかね~」

「……何をやっておるのだ、ニコ?」

 

 カヤとの話も終えたので、今度はラビット小隊に子ウサギ公園から寮に戻る準備をするように伝えに行こうとしていた扉間。そんな道を歩く扉間にいつかの日のように、ニコがいなり寿司を売り込んで来る。

 当然、そこら辺のバイトでないのは分かっているので、扉間は怪訝そうな顔をする。

 

「いえいえ、真面目においなりさんを売っているだけですよ。特に先生にいっぱい売れば、お腹を空かせた子ウサギちゃん達にも届くでしょうから。何でも、ようやく公園生活から解放されそうなんですよね?」

「お前達も後輩は可愛いか」

「はい、それは勿論ですよ。私達は寮には戻れませんが、それでも祝いたい気持ちは持っていますから」

 

 そう言って、にこやかに笑いながら扉間にいなり寿司を差し出す、ニコ。

 どうやら、買わないという選択肢はないようだ。

 扉間は軽くため息をつきながら、懐に手を入れて財布を取り出す。

 

「…! ……流石は先生ですね、正体が分かっていても買ってくれるなんて感激です」

 

 扉間が懐に手を入れた瞬間、ニコはピクと指を動かしていつでもスカートの下のホルスターから銃を取り出せる姿勢になるが、財布だと分かると同時に警戒を解く。

 

「流石に3年生だな。ラビット小隊とは練度が違う」

「あ……気づきましたか? すみません、つい癖で」

 

 その行動に対して、扉間はラビット小隊よりも常在戦場の心得が出来ていると褒める。

 もちろん、ニコはバレたことに苦笑いするしかない。

 

「構わん。特殊部隊としては満点の対応だ。間者としては減点だがな」

「……もしかして、前回の時にも気づいてました?」

「一般の生徒は懐に手を入れただけでは何も気にせん。一般人になり切るつもりなら、()()()()ことを出来るようにならんとな」

「あはは……」

 

 前回もあまりにも隙が無いので、特殊部隊の生徒かと当たりをつけていたのを教える、扉間。

 ニコの苦笑いがさらに深まる。

 

 因みに、生前の扉間なら相手が一般人か忍か判断する時は、唐突に印を高速で結んで見せていた。

 一般人なら、何をやっているか分からず固まる。そもそも印が見えない。

 忍なら、印=攻撃なので身構える。ついでに印に目が追いつく。

 もちろん、そこら辺も完璧に偽装する忍も当たり前に居るので、気休め程度の判別法だが。

 

「で? ワシに何の用だ。いなり寿司以外にも何かあるのだろう?」

「……それも、私の仕草に出ていたんですか? もしかして、先生は噂通り本当に忍者なんですか?」

 

 そして、何かを話しに来たのだろうと告げる扉間に、再度驚きの表情を浮かべる、ニコ。

 

「いや、今のは先生としての勘だ。何か話したそうにしておるように見えたからな」

 

 しかし扉間はニコに首を振る。

 忍としての技能ではなく、生徒の表情を見極める先生としての技能だと。

 

「ふぅ……完敗ですね。カヤ室長が骨抜きになるわけです」

「何を言っておるのだ?」

「でも、乙女心は分からないみたいですね。そう言えば、未婚でしたね、道理で」

 

 何言ってんだ、こいつ。という目を向ける扉間に、面白そうな表情を浮かべる、ニコ。

 まあ、合理主義過ぎる人間なので、感情の振れ幅が大きい乙女心に疎いのは間違いではない。

 だからこそ、同じ合理主義的な妹が必要だったのね(ビッグシスター感)。

 

「未婚なのは事実だが、若い頃は見合い話なら山のように舞い込んできておったぞ」

「でも結婚していないってことは、ひょっとして若い頃は遊び人だったんですか?」

 

 現代的価値観から、結婚しないのは遊ぶためかなと考える、ニコ。

 だが、実際の所は。

 

「いや、政略結婚目当てがほとんどだったからな。冷静に吟味した結果、結婚するよりも未婚のままの立場の方が、ワシの目的のためには都合が良かったまでのこと」

「ゆ、夢が無いですね」

 

 千手一族の血を広めすぎると、里の上層部が千手一族で独占されかねなかったからだ。

 

「ワシも人の子。そして、結婚すれば人の親になる。子ども可愛さに、能力に見合わぬ役職に就ける可能性もある。それは避けたかった。そして、ワシと結婚することで勢力を強める一族が出るのも都合が悪かったのだ。あくまでも、一族間の立場は平等。その建前を作りたかったのだ」

 

 

 実際、初代火影と二代目火影が千手。五代目の綱手も入れれば、半数近くが千手だ。

 もっと言うと、柱間の嫁のミトはうずまき一族。

 そう、うずまき一族が滅んでいなければ、ナルトも千手系列に加えられかねなかったのだ。

 

 扉間が扉間小隊に未来の上層部メンバーを集めたり、直接ヒルゼンを指名していなければ、柱間の血を引いているというだけで候補に挙がる千手も居たに違いない。

 

「もしかして……先生って凄い偉い人なんですか? 政略結婚とか一族とか……」

「どうせカヤに話した兄者の話も聞いておるのだろうから、隠す必要もないか。ワシは一応、千手一族の当主の次男だ。兄者の死後は、その後も継いでおるしな」

「な、なんだか、先生が凄く遠くに感じます」

 

 木ノ葉の里という忍者の隠れ里については説明していないが、柱間の後を継いだのは何も嘘ではない。

 

「今はお前達の先生だ。それに、現状は一族とは無縁だ」

 

 だって、既に死んでるし。

 そんなことを思いながら、扉間は改めてニコに向き直る。

 

「それで、何が聞きたいのだ? お前はワシの生徒だ、遠慮するな」

「……子ウサギ公園に向かいながら話しましょうか」

「いいのか?」

「どうせ、ワカモの件で気づかれてますし」

 

 あそこにはラビット小隊がいるぞ、と告げる扉間にニコは頷く。

 どうせ、自分達の存在には既に気づいてるだろうと。

 

「先生にお聞きしたいのは……カヤ室長とお話ししていた件です」

 

 扉間と並んで歩きながら、ニコはポツリと話し始める。

 カヤの語った全ての銃を取り上げることでの、争いの廃絶。

 

「先生は、本当に可能だと思いますか? このキヴォトスから銃を取り上げるなんてこと。そして、仮に出来たとしてもそれで争いや犯罪が無くなると思いますか?」

 

 扉間に疑いの目を向ける、ニコ。

 カヤからは、連邦生徒会長のスパイ疑惑を持たれているが、彼女達は一応今の雇い主に義理を通すつもりでいる。

 なので、歯の浮くような言葉で熱に浮かされているように見えるカヤと、それをたぶらかしているように見える扉間に警戒しているのだ。

 

「銃の取り上げは、カヤに言ったように時間をかければ可能だろう。警察組織以外が武器を持つ理由は自衛のためだ。逆に言えば、自衛せずとも生きられる環境にすれば可能だ」

「このキヴォトスで?」

「銃を取り上げ、お前達警察組織が一方的に犯罪者を取り締まれる状態になればハードルは低くなる。爆弾などの武装も同じように取り締まっていく必要もあるがな」

「想像できません」

「そうだな、ワシも想像もつかん世界だ。この目で見ることが出来そうにないのが残念だ」

 

 寿命が足りないと言っているのだが、不可能だと言っている様な物言いにニコの目が鋭くなる。

 

「そうです。あまりにも現実的ではないですよね? キヴォトスライフル協会や軍事企業、重火器を取り扱う民間会社。それらが必ず反対します。民間人だってそうです」

 

 銃を持った悪人から自分と家族を守れるのは、銃を持った善人だけだ。

 銃は人を殺さない。

 きっと、キヴォトスライフル協会の人間などは、カヤの政策に対してこう言うだろう。

 

「そして、仮に全ての人を説得して銃を無くせたとしても、人は拳一つで争いを起こせます。最後にものを言うのは、いつだって言葉ではなく暴力なんですから。人を傷つけるのは人であって銃ではないんです」

 

 FOX小隊だって、いきなり暴力で訴えようとしていたわけではない。

 自分達でも連邦生徒会長を探すと言ったし、連邦生徒会長の代理を立てて貰えればその人物の指揮下に入るとも言った。

 だが、ダメだった。言葉では何も変えられなかった。

 

「治安維持部隊の発言とは思えんな。SRTの名が泣くぞ?」

「そんなことは分かっています!! でも、私達はカヤ室長みたいに賢くもないし、先生みたいに大人でもないんです!! ……だから、私達はRABBIT小隊(あの子達)みたいにはなれなかった」

 

 賢ければ、何か方法が思いついたかもしれない。

 扉間がやっているように世論に認めさせていく方法もあっただろう。

 だが、連邦生徒会長の武器として生きていくことを良しとした彼女達には、考えつかなかった。

 

「その言葉をお前達が襲撃した者達の前で吐けるのなら、ワシも素直に同情してやろう」

「…ッ」

「綺麗な理想も、こちらの事情も、やられた側には関係ない。ワシとて綺麗な言葉を並べ立てるこの口で、敵には容赦なく死を告げて来た。今も大人の犯罪者には慈悲もなく接しておるしな」

 

 しかしながら、傷を負わされた側にそんな言葉は通じない。

 だからどうした? お前達の事情など知ったことではない。

 その言葉で敵も味方も永遠に争い続けるのだ。

 

「お前達と連邦生徒会は和解できないかもしれん。庇ってやるつもりではおるが、カヤを含めて矯正局に行く可能性も否定はできん。お前達はこのまま一生、罪人としてSRTの校門をくぐることが許されんかもしれん」

 

 扉間の厳しい言葉に、ニコは目を瞑る。

 分かってはいたことだが、形にして叩きつけられると心に来るものがあるなと。

 

「だが、ラビット小隊には関係が無い」

「……ラビット小隊?」

 

 しかし、ラビット小隊という単語に不思議そうに目を開く。

 

「お前達には無理でも、ラビット小隊ならSRTの再興を達成できるやもしれん。時間はかかるかもしれんが」

「えっと……つまり?」

「別に目標に対して自分が辿り着く必要は無いのだ。次の世代を信じて任せる。何の罪も、確執も背負っていない世代にな」

 

 まあ、ラビット小隊が綺麗かと言われると首を傾げるところだが、法的には白なのでよし!

 

「カヤの夢もそうだ。銃を無くした所で、別の方法で争うだけかもしれん。だが、それは失敗ではない。そこで諦めるから失敗なのだ」

「諦めるから失敗……」

「武器の制限が上手く行けば、今よりも犯罪率は下がるだろう。そうすれば、お前達のリソースを残った犯罪に割ける。別の政策を次の世代で行えば、更に犯罪率を下げられる。同時に教育を通じて、争いをするのはいけないことだと何世代にも亘って教えていけば牙を抜ける」

 

 人間とは時代を経るごとに丸くなっていっている生き物だ。

 穢土転生の術が『あまり良くない術』から、『穢土転生の術…許せねぇってばよ』になったのも人間の意識が向上したからだ。

 

「それは……でも、無責任じゃないですか? 自分達で解決して次の世代には問題を残さない。()どうにかしたいことは、今どうにかする。それが本当に責任ある行為じゃないでしょうか? 今どうにかしないといけないから、私達は……」

 

 しかし、ニコはそれは無責任ではないのかと告げる。

 自分達で起こした問題は自分達で解決する。

 今救いを求める者は未来ではなく、その場で救う。

 それがあるべき姿ではないかと。

 

「ああ、お前の言う通りだ。自分で解決出来ることなら、そうするべきだ。たとえ、解決出来ん事柄でも、何もせずに死んでいいわけではない。救えるべき者はその場で救うべきだ。出来る限りはやっていかねばならない。だが――」

 

 それに対して、扉間も深く頷く。

 扉間だって、過去の負の遺産を引き継がされた側だ。

 次の代に残さなくて済むようなら、そうしたかった。

 出来ることなら、未来ではなく現在で子供(おとうと)の死なない世界を創りたかった。

 だとしても。

 

 

 

「―――1人で全てを救おうとした男の末路をワシは知っておる」

 

 

 

 焦って1人で、全てを解決しようとする者は第二のマダラになる。

 里を作り、学校も建てた。だが、それだけでは真の平和は訪れなかった。

 柱間は少しずつ、次の世代も含めて世界が変われば良いと耐えることにした。

 

 だが、マダラは耐えられなかった。

 少年の頃の夢を叶えても変わらぬ争いの現実に絶望し、己で全てを救おうとした。

 かつて柱間と語り合った夢を踏みにじる形で。

 

「それは……一体…?」

「気に入らん奴だった。だが、誰よりも弟想いという評価だけは間違っていないと思っていた。そんな男が弟すら殺すような奴になっていたのは……兄者には言えんな」

 

 扉間とて過去を憂うことはある。

 もしも、あの時。()()()を、マダラの弟を自身が殺していなければ。

 ひょっとすると、柱間とマダラは仲違いすることはなかったかもしれないと。

 そして、そのことがきっかけで、ナルト達に尻拭いさせることもなかったのではないかと。

 

「託すというのは確かに難しい事だ。信じることと無責任の違いも曖昧だ。時には未来のために、現在を捨てるという矛盾を飲み込むときもある。だが……だからこそ、全てを一度で解決しようとせずに、()()()()()ことが重要なのだ」

「忍び耐える……」

 

 忍とは忍び耐える者。

 刃に心を斬りつけられながらも、歯を食いしばって諦めずに足掻き続けること。

 それが最も重要なのだ。

 

「少なくともワシはそうして火を継いでいけば、いつかは道が開かれると信じておる。たとえ、ワシの口にした理想の全てが叶わずとも……この言葉だけは決して嘘ではない」

 

 それが扉間の信念だ。

 

「お前達は3年生だ。ボヤボヤしていてはあっという間に卒業になる。だからこそ、短絡的な手段に手を染めてしまったのだろう。後輩に託しても、自分達が救われることはない」

「……ごめんなさい」

 

 自分達が救われるために、悪事に手を染めてしまった。

 自らよりも、市民を優先すべき立場の警察組織の人間が。

 ニコは今更ながらに、後悔の言葉を溢す。

 

「残酷なことを言っておる自覚はある。それでも、忍び耐えねばならんのだ。当世風に言うならば……誰かが通った楽な道を進んでも、その先に未知の未来(ハッピーエンド)はない。誰かが通ったことのあるありきたりな結末(バッドエンド)があるだけだ。険しい道の果てにこそ、誰も見たことのない夢の世界(トゥルーエンド)があるのだ」

「……ゲームをされるんですか? 意外ですね」

「時折、生徒達に巻き込まれてな。この歳になっても意外と学ぶことは多いものだ」

 

 アロナにせがまれたり、アリス達と一緒にプレイして交流する中で身に付けた知識。

 意外と馬鹿には出来ないものだ。

 因みに、上記のセリフをモモイが言うとクソゲー作成の前フリになる。なった。

 

『誰かが書いたことのあるような楽なシナリオを書いても、その先に未知の未来(ハッピーエンド)はないよ! 誰かが見たことのあるありきたりな結末(バッドエンド)があるだけ。だから私達はあえて険しい道を通って、誰も見たことのない夢の世界(トゥルーエンド)を書くんだよ!』

 

 そうして生まれたゲーム開発部の新作が『TSC(クソゲー)の本当の意味での後継作』という評価を得たのは言うまでもない。

 

「と……悪いな。少々、話しすぎたやもしれん。お前のいなり寿司のせいかもしれんな」

「いなり寿司…ですか?」

 

 マダラの好物を見たせいで、マダラを思い出してしまった。

 心の中で嫌な顔をしつつ、扉間は子ウサギ公園の中へ向かう足を速める。

 

「……まあ、耐え忍べとは言ったが助けを求めるなとは言っておらん。ワシはラビット小隊だけでなく、お前達もSRTに戻って欲しいと思っておる」

「先生……」

「少々険しい道になるだろうが、なに。ワシが先頭を進んでやる。ついて来さえすれば、悪いようにはせん」

「なんで話しながら、トラップを避けたり解除したり出来るんですか? 先生は私達と違って一歩間違えれば死ぬんですよ?」

 

 そして、公園に入るといつものようにトラップだらけの道を歩む。

 ニコの目が、何でこの人これだけのトラップに全くかからないんだろうという目になる。

 日々の修練で強化されたトラップは、今やFOX小隊から見ても合格点になっているのだ。

 

「先生だからだ」

「……大人って凄いですね」

 

 答えになっていない答えに、白い目を向けつつニコも扉間に続く。

 さっきまでのシリアスな空気や、ラビット小隊にどんな顔をして会おうかという緊張はどこかに行ってしまった。

 しかし。

 

 

「む、銃声…?」

「私の後ろに隠れてください、先生」

 

 

 聞こえて来た銃声に、一気に空気が引き締まる。

 ニコが即座に扉間を守るように前に立つ。

 

「銃声は複数……あの子達の銃以外の音も聞こえる」

「音で銃の種類が分かるのか?」

「まあ、聞き慣れたものなら出来ます」

「ニコ、お主ワシ以上の感知能力よの」

 

 ニコが耳を澄ませて、音を感知する。

 どうやら、ラビット小隊と何者かが交戦しているのは間違いないらしい。

 

「音から考えて、敵は3人以上……拮抗しているみたいなので、中々の手練れのようですね」

「敵の背後に回り込み強襲をかけるぞ。可能ならリーダー格を初動で潰すぞ。相手の動揺を誘う」

「……はい、分かりました」

 

 ニコと扉間が音を殺して、敵に近づいていく。

 なんで、この人一緒に動いてるんだろう?

 思わず、そう言いたくなるニコだったが、余りにも堂に入ったスニーキングに何も言えない。

 これが忍の長たる影の実力だ。

 

「敵は……え?」

 

 コッソリと後ろに回り込んで、敵の正体を確認する、ニコ。

 そして、驚きと共に扉間の方を見る。

 

「なんで…? 先生とは()()同士なんじゃ…?」

 

 敵の正体は、シャーレの味方であると、ニコは思っていた。

 ヴァルキューレもそう思っているし、カヤもそう思っている。

 彼女達は―――シャーレの暗部であるはずだと。

 

「アル様を逆さづりにするなんて…許せない! 許さない! 許せない!!」

「そっちが勝手に私達のトラップにかかったんだろうが! お礼参りに来ておいて図々しい奴だな、便利屋68め!」

「この服装……もしかしてあの倉庫警備の時の?」

「陸八魔アル…! 皆さん、たとえ相手が宙吊り状態でも油断しないでください。相手は裏社会の伝説です。あの跳弾が出来る相手なら、逆さ吊りの状態でも十分に戦えるはずです!」

「へぇー、あなたがあの大爆発の時の? 凄い爆発だったよね! 惚れ惚れしちゃうぐらいに……私達が巻き込まれてなければだけど」

「あれ? これ私のせい? ねぇ、これ私のせいかなぁ!?」

「モエちゃんの趣味のせいだね……謝って」

 

 目の前でドンパチやり合っているのは、ラビット小隊と便利屋68。

 ニコの視点では、どちらも扉間の仲間であるはずなので困惑している。

 そもそも、どうして戦うはめになっているのかというと。

 

 

「なんで、新しく野宿するための公園を探してただけで、こんなことになるのよー!?」

 

 

 野宿しながら各地の公園を転々としていた宿無しの便利屋が、偶々子ウサギ公園に目をつけて入った結果だ。

 より詳しく言うと。

 

 

 

(というか、なんで誰も降ろしてくれないのーッ!?)

 

 

 

 アルちゃん、ヒヨリのようにトラップで逆さ吊りにされる。

 

「フゥー………ニコ、作戦変更だ。取り敢えず、争いを止める」

 

 そんな光景に扉間は深いため息をつき、注意をこちらに引くために空に空砲を放つのだった。

 




次回予告:カイザー元理事「先生、ちょっとお話しないかね?」

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