千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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54話:幻術だ

 

「へ? シャーレの暗部? 何のこと?」

 

 扉間の呼びかけで争いをやめた便利屋とラビット小隊。

 その中でニコの作ったいなり寿司を頬張りながら、アルが困惑する。

 頬についた米粒が可愛らしさに拍車をかけている。

 

「……違うんですか? 今回のブラックマーケットの火災は、トビラマ先生の指示で起こしたものだと考えていたんですが」

「違うわよ!? あの爆発はそこのラビット小隊が起こしたものでしょ!」

 

 ニコの問いかけに、アルは心外だとばかりに全力で首を横に振る。

 アウトローたる者、他人の手柄は横取りしないのだ。

 

「先生? まさか、この子達にそんな悪事を……」

「いや、偶然だ。ワシは別に指示は出しておらん……サキ、モエを取り押さえろ」

「逃げるな、モエ。年貢の納め時だ」

「いやいや! 逃げないよ! ただ、ちょーっと一週間ぐらい旅に出るだけで」

 

 まさか、ラビット小隊に犯罪をさせたのかと険しい目をする、ニコ。

 そんなニコの視線をモエの方に受け流す扉間。

 そして、先輩相手にバレるのは嫌だったのか、こっそり逃げようとしてサキに取り押さえられる、モエ。

 場は実に混沌としていた。

 

「モエちゃん?」

「不可抗力ですって! ずさんな管理の武器庫が偶々攻撃で引火しただけで!」

「……全力でやっていました。不必要なまでに全火力で」

「正直、私達はもう離脱してたから攻撃も要らなかった気もします……」

 

 ラビット小隊の結束はどこへやら。

 ミヤコもミユも容赦なく、仲間を売り渡す。

 涙ながらに仲間よりもルールを厳守する姿。

 泣いて馬謖を斬るとはよく言ったものである。

 

「事故……なんですか?」

「まあ、モエも狙ってやったわけではない……はずだ」

「占領後に土地を売ったり、学校を建てようとしているのに?」

「それらは元々は予定になかったことだ。お前達が仲間になったことで可能になっただけだ。当初は、カイザーにサーモバリック手榴弾を渡して、違法兵器の不正売買を炙り出す予定だったからな」

 

 なんかとんでもない仕込みがあると思っていたことは、全てその場しのぎ。

 行き当たりばったりに行ったことだと明かされて、ニコが白目を剥く。

 

「で、でも、便利屋と先生に繋がりがないと、便利屋にヴァルキューレの捜査がバレていたことの説明がつきません! 突撃直前にアジトから居なくなるなんて…!」

「ヴァルキューレの捜査…? あったっけ、そんなの?」

「あ、もしかして、元事務所に来たんじゃない?」

「あ、危なかったですね。夜逃げが遅れていたら今頃矯正局に……」

「よ、夜逃げじゃないわよ! 引っ越しよ、引っ越し! ちゃんと輝かしい朝日に向かって出発したんだから!」

 

 便利屋が完璧な逃げを打てたのは、内通者を持つシャーレとの繋がりがあるから。

 そう告げるニコだが、ヴァルキューレのことなど何も知らない便利屋はキョトンとした顔を浮かべるだけだ。

 

(あの急な監査は、便利屋との関係を利用して……ワシを逮捕するためのものだったのか? しかし、そうなると友好的なカヤではなく、カイザーからの依頼で確定か)

 

 そして、扉間もそう言えばそんなことあったなと思いながら、カイザーが自分を貶めようとしていた事実を再確認する。

 

「じゃ、じゃあ、まるでヴァルキューレ内部の内通者から、情報を貰っていたような行動は偶然?」

「内通者などおらんぞ。ワシと面識のあるSRTの生徒はお前達だけだ」

「れ、連邦生徒会長の行方を知ってそうな話し方も…?」

「知っておるなら、自分の手で直々に連れ戻しておる。とんでもない数の人間に迷惑をかけておるバカ娘だ。拳骨の1つや2つは入れてやらんとな」

『バ、バカ娘……』

 

 ネタばらしとばかりに頷く扉間に、ニコの声がどんどん小さくなる。

 扉間的には、カヤ達はもう十分に信用できる人間になったので、勘違いさせる理由もなくなったのだ。

 

「そ、そんな……じゃあ、全部思い込みで私達は無駄にお互いを疑い合っていた?」

「ニ、ニコ先輩?」

 

 フラフラと倒れそうになるニコに、ミヤコが心配そうに声をかける。

 ラビット小隊はまったく事情を知らないが、ニコ達は疑心暗鬼に陥っていたのだ。

 カヤはSRTが内通者だと思い、フォックス小隊を疑う。

 フォックス小隊は連邦生徒会長がシャーレ側に居るのなら、カヤの下を離れるのも視野に入れる。

 こんな状態でまともな考えが出る訳もなかったのだ。

 

「ふむ、年寄りからの助言だ。人はな、相手には必ず何か意図があると考えるものだが……存外、人は何も考えておらんことの方が多いぞ」

 

 相手からどう思われているか、相手が何を考えているか。

 色々と考える人も居るだろうが、意外と何も考えていない者もいるものだ。

 例えば、モモイとかアルとか。

 

「あはは……はぁ…」

「……これ、私は許された感じで良いよね?」

「どう見ても保留だよ、保留!」

 

 なんだか疲れたなぁと笑うニコに、モエがどさくさに紛れて逃げようとするがサキが押さえこむ。

 まだ、判決が下されていないだけなので、妥当な判断である。

 

「なんだか大変そうね、あなた達」

 

 そんなニコの様子を他人事なので、のほほんとした表情で眺める、アル。

 米粒は未だにほっぺたについたままだ。

 

「じゃあ、カイザーグループが陸八魔アルに対して、激怒しているのも勘違いなんですね」

「なん――ムグ!?」

 

 そして、ニコの口から告げられた衝撃の事実に喉を詰まらせる。

 

「ゴホ! ゴホ!? お、お水」

「アル様、どうぞ!」

「ん…んむ…はぁ……ありがとう、ハルカ。それで、何でうちがカイザーに恨まれてるの?」

 

 ハルカから渡された水を飲み、何とか息を整えてニコを問いただす、アル。

 

「いや、何でも何も……」

「アルちゃん、私達が元クライアントに反抗したこともう忘れちゃったの?」

「も、もしかして、今回の爆発も私達がやったと思われてるんじゃ……」

 

 だが、身内からの視線は呆れたものになっている。

 アビドスに押し付けられた銀行強盗を差し引いても、普通に依頼を真っ向から潰している。

 今回の倉庫警備も、カヨコからすれば何で受けたのか分からないぐらいだ。

 

「カイザーローンの銀行まで襲っておいて、恨まれないのはないだろ。常識を考えろ」

「人のお金を盗ったら、泥棒……」

 

 なので、サキやミユも何言ってんだこいつという目で、アルを非難する。

 

 

「あれは私達じゃないわ! アビドスと先生がやったのよ!? 私達がやったならもっと派手にやってるわ!」

 

 

 そんな非難の目に激怒して、アルは叫び声を上げる。

 アビドスの繁栄(当社比)の影に隠された、闇の真実を。

 便利屋は犠牲になったのだ。

 二代目火影、千手扉間の奸計。その犠牲にな。

 

「アビドス?」

「先生?」

「どういうことですか?」

 

 当然、その叫びにつられてサキとミヤコ、そしてニコが疑いの視線を扉間に向ける。

 それに対して、扉間は。

 

 

 

「銀行強盗マニュアルはワシが作った。もちろん、それにあった逃走経路もな……己の手でやるのは初めてだったが」

 

 

 

 あっさりと事実を認めるのだった。

 

「見ろ! 邪悪な悪党が本性を現したぞ!」

「先生……いつかやるとは思っていましたが、既に前科があったとは思いませんでした」

「先生…モエちゃん…さようなら……2人のことはきっと忘れないから。刑務所に行っても元気でね」

「待って、なんで私も一緒に逮捕される流れになってるのさ?」

 

 当然、ラビット小隊の面々から非難の言葉を貰う。

 まあ、内容的には失望というよりも、いつかやると思っていましたというものだが。

 

「え? み、認めるの先生? そりゃあ、私達じゃないのは事実だけど……私達と違って先生はアウトローじゃないでしょ?」

 

 それと、アルは自分で言ったはずなのに何故か扉間の立場を気遣っている。

 優しさの塊かよ。アウトローとして恥ずかしくないの?

 

「別に今更認めたところで、ワシを訴え出る人間は存在せんからな」

「……あ、そっか」

「ニコ先輩?」

 

 だが、扉間はそんなアルの気遣いにも首を振るだけ。

 何故なら、銀行強盗の罪は簡単にもみ消せるのだ。

 

(カイザーローンの元理事さんは、今はもう先生の支配下。脅されてるから反抗しない。それに捕まえる防衛室もこっち側。こういった法で守られている悪を裁くのは、私達SRTの専売特許だけど私達も後輩ちゃん達も今の段階で先生が居なくなると困るだけ……そもそもSRTはまだ閉鎖状態だし。唯一可能なのが、事実を知ってそうな便利屋だけど証拠人として裁判所に出たら、自分達が捕まるだけ)

 

 扉間の罪を裁ける人間は居る。

 だが、扉間を裁くことでメリットのある人間はいない。

 そもそも、誰も明確な証拠など持っていないのだ。

 あるのは、便利屋68達(指名手配犯)の証言だけ。

 ついでに言うと、依頼料の1億円。もとい、盗んだ1億はばら撒きで証拠隠滅されている。

 1千万はアル達も使ったので、同罪。

 要するに、訴え出るだけ無駄。

 

「こ、これが、大人……汚い」

「1人に権力を集中させると、このような弊害が起きるのだ。よく覚えておけ」

 

 いけしゃあしゃあと指導を行う、その権力が集中された大人。

 二代目火影の卑劣な術だ。

 

「さて、どうせこの場に居るのは、どいつもこいつも後ろめたいことがある奴だけだ。建設的な話に戻すとしよう」

「正義は…正義は一体どこに……」

 

 ラビット小隊もニコも便利屋68も扉間も、全員悪党(アウトレイジ)

 お互いに見ないふりをするのが一番建設的なのだ。

 

「そもそも、ワシがここに来た理由は、ラビット小隊にSRTの寮に戻るように伝えるためだ」

「ほ、本当か!? 先生! SRTに戻れるのか!?」

 

 扉間の言葉に、サキがピョンと跳ねながら嬉しそうな顔を見せる。

 

「寮だけの開放になるがな。生活費も自分達で稼ぐ必要があるが……まあ、お前達なら何とかなるだろう」

「お金ですか……指名手配犯では稼げないので、何かいい方法はないでしょうか」

 

 隣のミヤコも嬉しそうな顔をするが、同時にお金の問題に頭を悩ませる。

 得意なのは荒事だが、それでは儲けが出ない立場。

 

「バイトはどうだ? 額は少ないが、荒事よりは安定して稼げるぞ」

「いやぁ、前にも言ったけどバイトは学籍が……あ、寮に戻れるなら信用出来る学籍になるのかな?」

「で、でも、校則的にバイトはどうなのかな?」

「そこのニコはバイトでワシにいなり寿司を売っていたぞ?」

「え!?」

「じゃ、じゃあ、大丈夫だね」

 

 モエとミユがバイト出来るのかなと、話している所で扉間がニコにキラーパスを送る。

 3年生がやっているのだから、1年生に出来ない理由などないという理屈だ。

 

「ちょっと待ってください!」

「なんです?」

「あれは、あくまでも先生を(あざむ)くためのカモフラージュで……いえ、全然欺けませんでしたけど」

 

 先輩を舐めるなとばかりに、待ったをかける、ニコ。

 しかし、演技とは言え、バイトをしていたのは事実。

 先輩がやっているなら、後輩もOKというのが普通だ。

 

「まあ、ニコの偽装は微妙だった故、バイトを通して潜入技術を磨くと思えばSRTの校則的にも問題なかろう」

「ハ、ハッキリ言われると、傷つきますね」

 

 そして、潜入捜査の訓練の一環として一般人になりきる。

 里でもワザと一般人から依頼を受けて、下忍に猫探しや畑仕事などをやらせていたのは、実は一般人の生活に溶け込む術を学ばせるためである。

 サクラのような一般家庭出身でなければ、忍は基本一族単位。

 一般人の生活を知るのは、潜入技術を磨く上で必須なのだ。

 

 まあ、実際はそうした建前で幼い下忍を守りたかっただけなのだが。

 

「後はまあ……仕事が欲しいならシャーレに来い。書類仕事なら連邦生徒会分も含めて山ほどある」

「そうですね……考えてみます」

 

 ついでに、どんどんと増えていく書類への対策もかねてシャーレをアピールしておく。

 扉間はアリウスにも行かないといけないので、書類だけでも何気に大変なのだ。

 割と切実な問題なのが伝わったのか、これにはミヤコも素直に頷く。

 

「便利屋、お前達もな」

「……私達も?」

「今は家がないのだろう? なら、金だけでも稼げ」

 

 そして、便利屋にも仕事の勧誘を行う。

 カヨコが『指名手配犯の私達に?』と訝しげな表情をしているが気にしない。

 彼女の目の前に居るのは、アビドスのハイエナの親玉なのだから。

 

「フフン、心配しなくてもいいわ、先生。元々、アウトローは根無し草の風来坊。この程度屁でもないわ」

 

 だが、そんな扉間に対してアルは心配はいらないと胸を張る。

 この程度の苦境で音を上げるようなら、アウトローは名乗れないと。

 

「で、でも、流石に路上で寝るのはみっともないから、この公園をアジトにしてもいいかしら?」

「………そう言えば、野宿をするための公園を探しておると叫んでおったな」

 

 だが、アウトローにも許されないことはある。

 公園の中で星空を見ながら寝るのはアウトローだが、街中で星空を見上げて寝るのは酔っ払いなのだ。

 後、街中だと公園の中よりも堅気の人間に迷惑である。

 

「いや、まあ……お礼参りとかじゃないなら、別に構わないけどな」

「そうですね。私達は寮に戻れるので、ここに残る理由もありませんので」

 

 子ウサギ公園には愛着はあるが、元々デモのために占拠しようとした場所。

 SRTの寮に戻れるのなら、残る理由はないので明け渡すことには何の問題もない。

 サキとミヤコは、そう判断を下す。

 

「ありがとー! じゃあ、ついでにテントとか置いてったりしない? 大丈夫、大丈夫。こっちで大切に使うからさぁ。片付けとかもしないですむから楽だよ?」

「ダメに決まってるでしょ! こっちもこの数週間で物資の無い苦しみは嫌という程、味わったんだから!」

「で、ですよね、すみません」

 

 ついでにムツキが図々しくテントを欲するが、当然モエに却下される。

 ここ数週間の過酷な生活は、良くも悪くもラビット小隊に勿体ないの精神を植え付けることになったのだ。

 

「……先生」

「どうした、ニコ?」

「この公園って、再開発のためにラビット小隊に立ち退きしてもらおうとしたんですよね?」

「そうだな……」

 

 そんなラビット小隊と便利屋のやり取りを見つつ、ニコと扉間がコッソリと会話する。

 元々、ここから誰も居なくなるようにしたかったのに、便利屋が来たら意味がないのではと。

 

「別の場所を探させるか、仕事でもやってすぐに家を借りられるようにしてやるか……む? すまん、電話だ」

「あ、すみません。どうぞ」

 

 ニコの意見にもっともだと頷き、どうするべきかと考える扉間。

 そんな所へ、扉間のスマホの着信が入る。

 その相手の名前は。

 

「もしもし、ワシだ」

『先生、ちょっとお話しないかね?』

 

 カイザー元理事である。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言おう。私が再びカイザーでのし上がるためのプランについて話したい」

 

 カン、と甲高い音を立てて元理事が缶コーヒーを扉間の前の机に置く。

 場所はシャーレの質素な客室。

 内密に話すために移動してきたのだ。

 

「プランか、確かにな。行き当たりばったりではどうしようもない」

 

 扉間は缶コーヒーを受け取って、開けられた形跡がないかを確認した後に口にする。

 扉間なりの友好のアピール、もとい余裕のアピールだ。

 

「先生が私にやらせたいことは、多岐に及ぶ。裏取引や、学校作り。果てにはカイザーグループをコンプライアンス重視の企業に生まれ変わらせる。生半可な権力では全ては出来ない」

 

 元理事は、現在はカイザーグループに返り咲いたが以前のような地位はない。

 大きなことをやるには会社内での地位が、権力が要る。

 

「普通の会社ならば、一度捕まった私を雇うこともなければ、昇進のチャンスも与えはしないだろう。だが、カイザーグループは違う」

 

 普通の会社ならば、お先真っ暗だがカイザーはスーパーブラック企業。

 暗闇の中こそ、ホームグラウンドだ。

 

「結果さえ出せば、元の地位につくことも、それ以上も狙える」

「そのために必要なのは功績……そして、席を譲ってくれる相手というわけか」

「その通りだ。私が狙うのは、私が消えた後にカイザーPrivate Military Company(PMC)の指揮を取るジェネラルだ」

 

 自分が下に行ったら、相手の足を引っ張って引きずり落とすまでのこと。

 そして、相手を踏み台にして再び高みへと至るのだ。

 

将軍(ジェネラル)?」

「ああ、その名の通り優秀な指揮官だ。軍略という点では私を遥かに凌ぐ。プレジデントからの信頼も厚い……まあ、商売人としては私の方が優秀だがね」

 

 ジェネラルは商売人のカイザーグループには稀な、根っからの軍人だ。

 そのため、下剋上上等のカイザーグループでは珍しく上への忠誠度が高い。

 故に、トップであるプレジデントからの信頼は厚い。

 権力者にとっては有能だが裏切りかねない部下よりも、少々無能でも裏切らない部下の方が大切なのだ。

 

「私が倍の数の軍を率いても、ジェネラルには負けるだろう。それ故に、私が消えた後のPMCを任されたのだろう」

「なるほど……そして、今度はジェネラルが消えれば、元の理事であるお前に再び話が回ってくる可能性が高いというわけだな」

「そういう事だ。これは先生のPMCの軍事学校を作るという目的にも一致すると思うが……いかがかな?」

 

 ジェネラルを排除しなければ、PMCを自由には出来ない。

 つまり、不良達の更生施設としての軍事学校も作れない。

 その点を突いて、元理事は扉間に提案を呑ませようとしているのだ。

 

「プレジデントはどうなる?」

「いきなりキングは取れない。まずは、足場を崩す必要がある。それにプレジデントがジェネラルを庇いだてしてくれれば、好都合だ。プレジデントに不満を持つ派閥を引き込みやすくなる」

 

 カイザーグループは上昇志向の強い大企業だ。

 トップの力が強いとはいえ、下に居るのはどいつもこいつも上を狙う連中だらけ。

 上の席が空くチャンスを虎視眈々と狙っている。

 

「ジェネラルへの勝算は?」

「戦略や戦術では私には勝ち目がない。だが、それは()()()()()()()

 

 スッと、元理事が扉間の方を指差す。

 自分に出来ないことは、出来る奴にやってもらえばいいのだと。

 

「大義名分さえあれば、先生なら力を存分に振るえるだろう? シャーレの戦力や、アリウス学園。現在ではSRTやヴァルキューレも先生の味方だ。そして何より……」

 

 扉間が指揮を執るならば、戦略的にも負けない。

 そして、カイザーグループとは違い個人での戦闘力が高い生徒を多く揃える。

 ジェネラルを公的に蹴落とせるチャンスを作ってやれば、それで十分過ぎる。

 そして。

 

 

 

「―――便利屋68がいる」

 

 

 

 シャーレの暗部(笑)、便利屋68がいる。

 

「…………」

「正面からの強力な生徒達に加えて、闇を動く部隊も備えている。カイザー内部で流れている噂では、ジェネラルもまた便利屋68に強い警戒心を持っているそうだ。今回の武器庫の爆破の件も彼女達がやったものだろう?」

「フン……」

 

 まさか、勘違いがそこまで広がっているとはと内心で呆れるが、扉間は悟られないように鼻を鳴らすだけだ。

 利用できそうなので、カイザー側には便利屋が危険人物という認識のままにしておくことにする。

 

「以上のことから、ジェネラルを相手どれば正面から潰せると踏んだわけだが、何か質問があるかね?」

「狙いはジェネラルで構わん。だが、コンプライアンス重視の会社にする以上は、冤罪をふっかけるわけにもいかんだろう。貴様のことだ。既に、ジェネラルの痛い所を握っておるのだろう?」

 

 狙いはジェネラルに決まったが、大義名分はない。

 まあ、カイザーグループなので叩けばいくらでも埃は出て来るだろうが、大義名分は大切だ。

 こちらは、正義の味方として勝つ必要があるのだから。

 

「その通りだよ、先生。子ウサギタウンの再開発。なぜ、ジェネラルがあのような場所にそこまで力を入れていると思う?」

「……つまり、アビドスの土地を買い占めていたように、別の理由があると?」

 

 子ウサギタウンの再開発計画。

 その裏に隠された理由こそが、叩き棒になると元理事は言う。

 

「ああ、再開発での工事を進める裏側で、地下サイロを作り、そこにひっそりとサーモバリック弾などの禁止兵器を持ち込んでいるのだ。()()()いつでもD.U.に……連邦生徒会やシャーレに兵を送れるようにね」

 

 D.U.とはDistrict of Utnapishtim(ウトナピシュティム地区)の略。

 早い話が、連邦生徒会の直轄領である。

 そして、子ウサギタウンは寂れてはいるが、連邦生徒会の本部にほど近い立地。

 間違っても、敵の拠点を置かせていい位置ではない。

 

「なるほどな、どうやらプレジデントとやらは企業としてキヴォトスを支配するだけでは、飽き足らんようだな」

 

 要するにジェネラル、そしてプレジデントの狙いは有事に連邦生徒会を制圧して、生徒達からキヴォトスの実権を奪い取ろうとしているということに他ならない。

 

「全く、要らん苦労を背負い込むのが好きなのか? そのプレジデントは?」

「ほう、つまり?」

 

 だが、扉間は馬鹿かと呆れた表情をする。

 だってそうだろう。

 

「連邦生徒会を制圧をするという事は、連邦生徒会の代わりに自分達が仕事をするという事だ。暴力では解決できない、地道な仕事を」

「ククク、違いない」

 

 支配と略奪は違う。

 ただ単に一時的に押さえておけばいい略奪とは違い、支配する以上は管理の必要がある。

 当然、連邦生徒会が受け持つバカみたいな量の仕事を、何のノウハウの引継ぎもなくこなす必要が出て来る。

 

「おまけに簒奪者である以上は、他の学園にはカイザーグループを責めるに足る正当な理由がある。しかも、カイザーグループ側と違い正義の味方としてD.U.を支配できる。どう考えても、キヴォトスの経済を抑えて影の支配者を気取っている方が利益が多い。プレジデントはボケているのではないか?」

 

 連邦生徒会を打倒して、キヴォトスを支配するのはメリットが少ないし、何より正当性も武力も無いカイザーグループでは砂上の楼閣になるだけ。

 扉間は思わず、カイザープレジデントの頭を心配してしまう。

 扉間とて老人、ボケとは無縁とは言い難い。

 

「いいや、プレジデントは馬鹿ではない。世界有数の企業までカイザーグループを成長させたお方だ。無策で行っているとは思えない。キヴォトスを支配するに足る何かを持っている……いや、準備をしているはずだ」

 

 しかし、元理事は首を横に振る。

 プレジデントは何の策も持たずに行動する人間ではないと。

 必ず、何かがあると。

 

(いや、待て……以前に、こいつでも知らんような情報があったな)

 

 扉間は思い出す。アビドスでのカイザーグループの不自然な行動を。

 砂だらけの何もない土地。

 扇動のプロのワカモですらお手上げの低人口。

 ビジネスチャンスなど、どう考えてもない。

 自然資源の可能性も考えたが、9割方支配している現状でも資源を輸出したり使ったりしている形跡はない。

 

「……宝物か」

「なに?」

「貴様がアビドスで探していたもの。その正体が気になってな……本当に何かを知らんのだな?」

『アロナパンチ、準備完了です、先生』

 

 パキパキと指を鳴らしつつ、扉間は元理事を睨む。

 アビドスの地に眠るという宝物。

 扉間は、それが尾獣やアリスやケイなどの兵器の類ではないかと考えたのだ。

 

「だから私は知らないと言っただろう!? キヴォトスを支配するのに必要な何かの可能性はあるが、現段階では分からない! 今はジェネラルの対策を考えるべきではないかね!?」

 

 アロナパンチが火を吹くぜ、と脅しをかける扉間とアロナ。

 それに対して、本気で分からないと答える元理事。

 

「使えんな。まあ、いい。どちらにせよ、プレジデントがキヴォトスの征服に乗り出さん限りは、こちらからは何も出来ん。貴様の言うように、まずはジェネラルからだな」

 

 仮に第二のアリスが見つかったとしても、先んじて排除することは出来ない。

 それは、火の意志を継いだリオやモモイ達への裏切り行為となる。

 みんなでハッピーエンド。そのためには、先んじて相手を排除するわけにはいかないのだ。

 

「ゴホン……それで、ジェネラルの排除、もしくは降格のための手段なのだがそこに悩んでいるのだ」

「プレジデントからも信頼されているとなると、尻尾を掴むだけでは切られるだけか。やるのならば、貴様のように直接捕まえるべきだな」

「言ってくれる……だが、その通りだ。自分で言うのも何だが、私達カイザーには余罪など腐るほどある。適当に訴えてもどれかは当たるだろう。しかし、子会社を囮にして逃げるだけの力はある」

 

 カイザーにとってタコ足を切って、本体は逃げる作戦はお手の物だ。

 元理事のように現行犯を捕まえでもしない限りは、逃げられてしまうだろう。

 

「ジェネラルの弱点などはあるか? 例えば、性格などだ」

「性格か? 基本優秀な男だが、欠点として挙げるならば……奴は軍人だ。普段は抑えてはいるが、血の気が多い。また、戦いになると現場に出て来ることが多いな。部下に任せるよりも、自分でやりたがる性格だ。そうした点から私の方がPMCの理事に選ばれていたのもある」

「随分と詳しいな。仲でも良かったか?」

「出世争いの敵だ。先生に捕まるよりも前から、争っていたものでね」

 

 まるで、ジェネラル博士な元理事。

 まあ、その理由は相手を蹴落とすためと言うものなのだが。

 

(ワカモの持っていた爆弾は、カイザーがワシを暗殺しようとしたもの。ジェネラルかどうかは分からんが、カイザーがワシを邪魔に思って消そうとしているのは確か)

 

 現在はカヤを通じて、カイザーとも仲間のような立ち位置に居るが、初手で殺しに来る辺り相当邪魔に思っているのだろう。

 

「カイザーグループの貴様に聞くが、ワシはカイザーにとってどの程度邪魔だ?」

 

 なので、元理事に確認を取る。

 カイザー目線で見た自分の存在を。

 

「現在のキヴォトスの中で、最も消したい存在だよ」

「フ、随分と高い評価を得たものだな」

「当然だろう。先生はシャーレやアリウスという強力な武力を持ち、政治力でも3大校と繋がっている。キヴォトスの支配を狙うならば、間違いなくぶつかる存在。最大の障害だ。味方につけたとしても、いつまでも飼いならせる犬ではない。排除できるのならそれが一番だ」

 

 敵としてはもちろん邪魔。

 味方につけても、政治的にも戦力的にも自分達にとって代われるので、怖い。

 頼むから死んでくれ。お前のような者は生まれてさえ来ないでくれ。

 これがカイザーの扉間に対する結論だ。

 

(アル達との繋がりを探っていたのは、犯罪者との繋がりを使ってワシを失脚させるため。ワシを餌にすれば、十分誘い出せるな)

 

 なので、千手扉間という囮があればカイザーは消しに来る可能性が高い。

 

「若造、貴様はワシのトリニティでの死亡偽装を知っておるか?」

「もちろんだとも。撃たれたうえで、5階からの落下。ハッキリ言って殺しても殺せる気がしないよ」

「では、もし、また、同じような状況になったら。貴様がワシを殺しに来た側なら。どのような行動を取る?」

「それは……」

 

 これは、ジェネラルがどのような行動を取るかを聞いているのだ。

 それを理解した、元理事は少しの沈黙の後。

 確信を持って答える。

 

 

「もちろん―――この目で先生の死体を確かめて安心する」

 

 

 直接、扉間の死体を確認しなければ安心できないと。

 扉間が死亡を偽装をしたほんの数日で、行ったことを考えれば安心するためには確実に始末しなければならない。

 

 2()()()()()()()()()()()()()、相手は確認するために確実に近づいてくるのだ。

 

「そういう事だ。カイザーグループ全体がワシを狙っているのなら、直接ワシの死体を確認せねば夜もおちおち眠れんはずだ」

「つまり、ワザと先生が囮になって、殺人未遂の現行犯としてジェネラルを捕まえるという事かね?」

『……先生? また囮になるんですか?』

 

 囮役はもちろん、オレが行く。

 そう言いかねない扉間にアロナの目が厳しくなる。

 月読説教が発動する時も近い。

 

「いや――」

 

 しかし、囮になるかという言葉に扉間は首を振る。

 

 

「―――釣りだ」

 

 

 そして、囮ではなく釣りだと訂正する。

 

「釣り? 同じではないかね?」

「いいや、魚に釣られる釣り人はおらん。どんな大物相手でも糸を切れば引きずり込まれることはない。一方的に騙すことを囮とは言わん」

 

 餌を垂らして、相手が食いついたところで一方的に引き上げる。

 それが釣りだ。

 

「さて、そうと決まれば……ワシを追い詰めていると思わせる情報を流してやるか」

 

 餌に隠した針を疑わずに食べさせる方法。

 それは、如何にして餌が生きた本物の小魚だと思わせるか。

 無防備に、自分が一方的に優位に立っていると思わせるか。

 つまり。

 

 

「さて、カヤには悪いが―――ヴァルキューレには本当に内通者になってもらうか」

 

 

 人は思い込みの中で生きているということだ。

 

 

 

 

 

 数日後。

 ある情報筋からクロノス報道部に渡された情報が、キヴォトス中を駆け巡ることになる。

 

 

 英雄の隠された闇!? シャーレの先生に不正の疑惑!

 裏社会の伝説、陸八魔アルと会食の証拠をヴァルキューレが入手!

 便利屋68の犯行とされる銀行強盗にも関与か!?

 失踪した連邦生徒会長はシャーレの先生が誘拐していた! 権力を得るためか!?

 シャーレに生徒を連れ込み、夜な夜なメイドプレイを敢行!?

 匿名希望Sさん『いつかやると思っていた』と証言!

 

 

 扉間の権力を不安定にし、周りから人を遠ざける情報。

 つまり、カイザーが扉間の排除に動きやすくなる情報が。

 




「貴様がアビドスで探していたもの。その正体が気になってな……本当に何かを知らんのだな?」の下。
「つまり、ワザと先生が囮になって、殺人未遂の現行犯としてジェネラルを捕まえるという事かね?」の下。
に、アロナ語あります。

感想・評価お願いします。
下、小ネタ。


祝! ミチルの「先生殿、ちょ~っとお時間もらっちゃうねぇ?」決定!!
忍者本とか、扉間が監修したらどうなることか今からネタが湧き出る……というわけでおまけ。


ミチル「先生殿ぉ~! コミセンの忍者本のネタが足りなくて~! 助けてぇ!!」
扉間「それでワシに聞きに来たと? 忍術の案ぐらいなら出してやれるが……ワシが考えると面白みのない内容になるぞ」
ミチル「例えば~?」
扉間「まず最初に載せる術は、敵に盗まれた場合を考え、発動と同時にチャクラを枯渇させるトラップとして多重影分身の術にする」
ミチル「えー、増えるだけ? もっと派手でカッコいいのがいい!! 火遁とか雷遁とか!」
扉間「100人クラスで出せば十分派手な術になるわッ! ダサくなどない!!」


こんな感じでお時間貰っちゃうねぇの放送後に、本編ガン無視の内容を軽く書きます。
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