千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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55話:悪評

 

空井サキ(匿名希望Sさん1)『いつかやると思っていた。先生は、生徒のためとはいえ平然とあくどい行動をするからな。だが、悪はいつか裁かれる時が来る。私が言うんだから間違いない。だとしても、更生の道は誰にでも開かれるべきだ。それは大人であってもな。メイドプレイ? 臭いフェチじゃなかったのか?』

 

百合園セイア(匿名希望Sさん2)『そうだね、本音を言うといつかこの日が来ると思っていたよ。先生は善と悪の境目を反復横跳びするのが得意だからね。だが、私は先生を嫌いにはならない。裏社会の伝説との繋がりとは言うが、先生に取っては同じ生徒でしかないのだろう。罪人であろうと、子どもならば等しく救い上げたいと思うはずだ。私の身近にも1人いるよ。うん? メイドプレイ…? お手つきという事かい。まあ、本人達の間で、合意があればいいのではないかい』

 

砂狼シロコ(匿名希望Sさん3)『ん、何の驚きも無い。先生は銀行強盗マニュアルを完璧に作れる凄い人だから。いつも尊敬している、私の心の師匠。失望? なんで? あ、でも、1つガッカリしてることと言えば、あれ以来、私に銀行強盗をさせてくれ――(突如として災厄の狐の襲撃を受けたため取材は中止に)』

 

錠前サオリ(匿名希望Sさん4)『そうだな。来るべき日が来てしまった……のかもしれないな。先生は救いのために罪を犯すことを躊躇わない。だからこそ、私達を救えたんだ。確かに連邦生徒会長を誘拐しているのなら、それは裁かれるべき悪だ。だが、例え悪であったとしても、私達を救ってくれたのは先生だ。連邦生徒会長ではない……この世には悪でしか救えない者も居るんだ。……メイドプレイ? なんの話だ、それは? 任務ならやるが……私はそんなことを頼まれたことはないぞ』

 

 

 

 

 

「なんですか、この週刊誌は? 誰も先生に対して、そんなことはしないと庇っていないじゃないですか」

「逆に聞くが、先生がやらないと思うか? カヤ防衛室長」

「…………」

 

 ヴァルキューレの室長室で、クロノス報道のゴシップ染みた週刊誌を読んで憤る、カヤ。

 だが、ユキノに突っ込まれるとすぐに黙ってコーヒーを口に運ぶ。

 まあ、扉間ならやるだろうなという考えしか浮かんでこなかったのだ。

 

「それで、この情報は一体どこから漏れたんですか?」

 

 取りあえず、先程の自分の発言を無かったことにしてカヤはブツブツと呟く。

 

「『裏社会の伝説、陸八魔アルと会食の証拠をヴァルキューレが入手』? それが見つからなかったから、私は先生を味方に引き込もうとしたのですが? それに『失踪した連邦生徒会長はシャーレの先生が誘拐していた』だなんて、連邦生徒会(わたしたち)が調べていないとでも? 先生に不審な行動がないのはトビラマチャンネルで確認済みです」

 

 明らかに怪しいが、調べて白だったのが扉間だ。

 隠しているにしろ、いきなりマスコミにすっぱ抜かれるような状況になるわけがない。

 

「この情報が本物だとしたら……それをばら撒けるのは、もう先生本人しか居ないでしょう」

「流石ですね、カヤ室長。これは先生曰く釣りだそうですよ」

「ニコさん? どういうことですか?」

 

 扉間本人がばらさない限りあり得ない。

 そう、判断したカヤに対して、1人だけ訳知り顔のニコがニコニコと笑いかける。

 FOX小隊の中で、唯一先に真実を知っていたので扉間から先に教えられていたのだ。

 カヤの瞳にジェラシーの炎が宿る。

 

「まず初めに、便利屋68がシャーレの暗部という噂。ヴァルキューレ内部に先生の内通者が居るという疑い。連邦生徒会長の居場所を先生が知っているのではないかという考察。これらは全部、私達の勘違いだそうです」

「「「え?」」」

 

 今明かされる衝撃の真実!

 全ては自分達の思い込みだと、明かされて声を上げる、カヤ、オトギ、クルミ。

 ユキノだけは声を上げてはいないが、同じように目を丸くしている。

 

「そ、それ本当なの?」

「子ウサギ公園に行ったときに、先生や便利屋さん本人に聞きましたから確かですよ、クルミちゃん」

 

 もしかして、連邦生徒会長が見つかったんじゃ、とか。

 元SRTに内通者が居るなら、実は私達は囮として見捨てられたんじゃ、とか。

 毎晩寝る前に布団の中で色々と考えていたクルミがパクパクと口を動かす。

 そんなのってあり? と。

 

「待って、じゃあ今報道されているこの情報はなんなの?」

(えさ)だそうです。大ダコを釣り上げるための」

 

 オトギの当然の疑問に、ニコは扉間の作戦を告げる。

 ジェネラル(大ダコ)を捕まえるための、前準備だと。

 

「…犠牲(えさ)……?」

「そうです」

「…………」

「……少し長い話になりますが、これから話すことはすべて真実です」

 

 そして、ニコは語り始める。

 扉間の立てた作戦。その全容を。

 

 

 

「カイザーPMCの元理事さんの実権を取り戻して、私達に都合の良い組織にするためにはジェネラルさんが邪魔です。なので、ジェネラルさんの地位を失墜させて、元理事さんが替わりになるためにジェネラルさんを逮捕します。具体的にはトビラマ()()()()()()()()()()状況を利用して、ジェネラルさんを殺人未遂の現行犯で捕まえることが目標です。そのために、私達も信じ込んでいた便利屋との繋がりなどの、先生の悪評を流して社会的に孤立する状況をワザと作っているそうです。説得力が高く感じられるなら、好都合だって笑っていました。あ、因みに情報は先生と仲の良いカヤ室長のダメージを狙った、()()()()()()()()()()()()()()()()をカイザー側がクロノスに売ったことになっています。裏切りの理由はSRTが消えることでその分の予算と人員がヴァルキューレに回ってくるのに、復活させようとしている先生とカヤ室長に反発をしたから。後、カヤ室長からパワハラを受けているので、その報復として行ったという設定になっています。カンナさんへの無茶ぶりは、私達も良く見ているので説得力のある設定だと思いますよ? あ、それから()()()()()()()()()()()()()みたいなので、しばらく連絡は取れないそうです。後、もしもマスコミにシャーレが囲まれたら、ヴァルキューレに警備させて良い感じに悪の権力者を演出して欲しいそうです」

 

「待ってください、待ってください…! その…情報量が多いです…! 後……カンナにはもっと優しくしますので」

 

 ワッと言葉の洪水を浴びせられたカヤは、目をグルグルとさせる。

 だが、かろうじて聞き取れたパワハラの件に関しては、素直に謝る。

 火の意志を知らなかった(不知火だった)昔とは違い、今になって思い返すと、カンナに裏切られてもおかしくないなと冷静に受け止められたのだ。

 

「ふぅ……ジェネラルの失墜は…必要ですね。そのために、悪評を流すのも……まあ、分かります。ただ……」

 

 深呼吸をして、落ち着いた後。

 カヤが蛇のように目を細めて睨む。

 

 

「カイザーに、ジェネラルに、先生が命を狙われている……というのは初耳ですね」

 

 

 私の先生に何をしようとしている、と。

 

「カイザー側が子供に爆弾を持たせて、トビラマ先生ごと自爆させようとしていたと、ワカモから聞いたそうです」

「……つまり、私達に先生の不正が無いか監査をしてくれと、依頼を出している間に独自に暗殺に動いていたと? 小さな子供を利用してまで。それはそれは……実に仕事熱心なことで」

 

 完全な独断行動。

 しかも、穏便に済ませようとこちらが依頼を行っている最中で。

 明らかにこちらの面子を無視した、コケにした行動。

 

「あなた方なら知っていますよね? ……私は先生に()()()()()()()()のだと」

 

 カヤがうっすらと笑みを浮かべる。

 FOX小隊ですら寒気を覚えるような、それはそれは美しい笑みを。

 蛇に睨まれた蛙とはこういうものかと、ニコが思う。

 いや、これはもはや蛇というより。

 

 

「―――許せませんね」

 

 

 龍へと昇華した者の逆鱗だ。

 

 

 

 

 

「『ご主人様。どうか、この(いや)しいメイドに罰をお与えください』と、メイドは頭を下げる。その顔は主には見えない。だが、その艶めかしい肢体は何かを期待するように小刻みに震え、エプロンの下に濃い影を作っている。それを見た主は支配欲を滲ませ、顔に下劣なしわを作る。しかし、メイドの望み通りに動くことはない。これは罰なのだ。卑しいメイドへと与える罰。ならば、欲しているものを易々と与えるわけにはいかない。『罰? 具体的に言わんと分からんぞ』主は叱責を与えるように、一歩メイドの前へと足を進める。豊満な肢体をその手でなぶるためか? 否、あくまでも主は手を出さない。メイドに言い訳などさせない。己の口で身を差し出させてこそ、真の支配は完成する。心の隷属。主の狙いはそれだ。しかし、主の気は長くはない。本当は今すぐにでも、メイドに激しく罰を与えてやりたいのだと、踏み込んだ下半身に熱がこもる。『ご、ご主人様……』メイドは頭を下げたまま、主の逞しい下半身を見る。きっとそれを見れば生娘でも、相手が何を望んでいるか分かるだろう。『言わなければならんことは……分かるな?』だが、主はなおも執拗に下半身をメイドに近づける。荒い鼻息がメイドの髪をくすぐる。下半身に込められた卑しいメイドへの怒りが、更に主張を強める。だというのに、手は出さない。いっそ、奥ゆかしさすら感じてしまう程だ。しかし、それが逆にメイドの心の恥部を刺激し、逃げ場はないと思わせるに至る。ああ、もう逃げ場はない。主の怒りを受け入れよう。メイドはねだるような湿った声を絞り出す。『ど、どうか、ご主人様の逞しい――』」

 

「エッチなのは駄目! 死刑!!」

 

 扉間が夜な夜なシャーレでメイドプレイをしているという噂から、インスピレーションを受けたハナコが即興で書き上げた小説、『卑愛(ひあい)』の朗読を間一髪のところで止めるコハル。

 

 それはさながら、叡智(えいち)を手に入れたアダムとイブを楽園から追放する、神の宣告。

 叡智煩悩(えっちぼんのう)たる…失礼、全知全能(ぜんちぜんのう)たる神の裁き。

 知恵の実(エッチ)なのは駄目! 追放(しけい)

 

 え、その割には随分と長く聞いていた?

 死刑判決を下すには様々な観点から深く考える必要があるので、しょうがないね。

 

「そんな…! これから良い所なんですよ、コハルちゃん!?」

「良い所だからダメなのよ!」

「コハルは頭が良いな。私には何の話か良く分からない」

「あはは……アズサちゃんは分からなくていいです」

 

 トリニティの空き教室で集まっていたのは、ハナコ・コハル・アズサ・ヒフミの4人。

 ミカを抜いた補習授業部の面々である。

 

「こ、こんな所、ミカ様に見られなくてよかった」

「ミカさんは色々と忙しいナギサさんの代わりに、現状トリニティをまとめていますからねー」

 

 マコトとのエデン条約機構(ETO)関連での会議などで、未だに忙しいナギサ。

 そして、セイアがまだ本調子でないので、トリニティ全体が荒れないようにミカがトップとして抑えに回っているのだ。

 

 因みに、余りにもうるさい相手には、種も仕掛けも無い鉄パイプ曲げ(スプーン曲げ)の手品をお見せして静かにさせているらしい。

 

「えっと、それで…ここにこうして集まった理由なんですが……」

 

 いつまでも関係のない話をしているわけにもいかないと、ヒフミが話を進める。

 今回の議題は今巷で話題の。

 

「先生が犯罪の証拠を残すはずがない! きっと誰かに()められているに違いない」

 

 トビラマの不正疑惑の件だ。

 アズサが力強く、先生は証拠を残すようなヘマはしないと断言する。

 いや、そこは犯罪なんてしないと言ってやってくれ。

 

「違いますよ、アズサちゃん。先生はハメられる側ではなく、()()()()です」

「ハナコ! あんたはお口にチャック!」

「どっちのお口をですか?」

「今開いてる方に決まってるでしょ!?」

(・×・)

「うわ!? 急に真顔で黙らないでよ!」

 

 下ネタをかまして、コハル()遊びながら……失礼。

 コハルと遊びながらハナコはお口をミッフィーちゃんにする。

 

「先生が嵌める側? どういうことだ、ハナコ?」

(つ・×・)つ ヘ(・×・)ノ V(・×・)V

「なるほど…! そういうことか! 流石はハナコだな!」

 

 アズサからの質問に、律義にコハルの言いつけを守ったまま手話で答える、ハナコ。

 アズサはアツコと会話するために手話を習得しているので、ハナコの説明に感心する。

 

「あの……私達には手話は分からないので、普通に話してくれませんか?」

 

 だが、手話を習得していないヒフミとコハルには分からないので、言語による説明をお願いする、ヒフミ。

 

(◎×◎)

「そ、そんな目で見ないでよ!? 私が悪かったから! ほら、口を開きなさいってば!!」

「下のお口をですか!?」

「いいから、話せってばッ!!」

 

 散々おちょくられて遂にキレる、コハル。

 流石のハナコもこれ以上は不味いなと判断して、真面目な顔に戻す。

 因みに(・×・)この顔ではない。

 

「さて、コハルちゃんのお許しが出たので話しましょうか。まずアズサちゃんの言う通り、先生は犯罪の証拠を残しません。ましてや、マスコミにリークされるなんてことにもなりません。先生には権力を持ったお友達が一杯いるので、本来なら情報を抑えるのも簡単です」

「だ、誰も、先生が何もしてないって信じてないんですね」

「何を言ってるんだ、ヒフミ? 何かしてても、バレてないなら無罪だろう」

 

 扉間がそんな簡単に尻尾を掴まれるはずが無いと確信する、ハナコとアズサ。

 そもそも、連邦生徒会にも顔が利いて3大校のトップと親交があるのだ。

 情報ぐらいクロノスに圧力をかければ潰せる。

 もっと言うと、リオというハッキングが出来るトップが何もしないわけがない。

 

「つまり……これって先生が意図的にバラまいた情報なの? ハナコ」

「はい、恐らくこれは先生がキヴォトス中に蒔いた、不安を(はら)ませるための(たね)。先生自身の立場を怪しくすることで、罠の(なか)に誘っているのだと思います」

(はら)…? (たね)…! (なか)!?」

 

 ハナコの天才的な頭脳が導き出した答え。

 先生という立場をワザと危うくして、自身の孤立を計る行為。

 その真意は、自らを囮として敵を誘い込む計略に他ならないと。

 

「じゃ、じゃあ、私達は黙ってジッとしておくのがいいんですかね? 連絡をしても出ないので、正義実現委員会から戦車を()()()して先生の所に行こうかと思っていたんですが」

 

 ハナコの話を聞き、ヒフミはどうするべきかと尋ねる。

 当初は戦車を盗んで(借りて)、扉間の下にでも行こうかと考えていたのだ。

 噂が嘘なら救助。事実なら撃ち抜く。といった感じで。

 

「私も放置プレイをしようかと思っていたのですが……先生は無理をなさることがありますからね」

 

 それに対して、ハナコは憂いのある表情を見せる。

 ハナコは見ていた。ミカの説得のために扉間が自らの手を銃で撃ち抜く姿を。

 ハナコは知っている。扉間は目的達成のための駒に、平然と自分を使いかねないことを。

 

「やはり、一度連絡を取ってみましょうか。手助けをするにしても、居場所が分からないと何もできませんので」

「え、でも、私が連絡をしたときは、全然電話にもモモトークにも反応してくれませんでしたよ?」

 

 ヒフミが言うように、現在の扉間は追い詰められた権力者をそれっぽく演出するために、黙秘アンド引き篭もりターンに入っている。

 更にマスコミにシャーレが取り囲まれてくれれば、暴徒の鎮圧としてヴァルキューレが出てきて、警察と繋がった汚職政治家感が倍プッシュだ。

 

「普通の連絡には出ないと思いますよ? なので、こういう時は……コハルちゃん? 先生に連絡を送ってくれませんか?」

「え? 私が? 別にいいけど……ヒフミと同じ結果になるだけでしょ」

「いえいえ、モモトークには『たすけて、ヒフミが!』とだけ入力してください」

「? まあ、いいけど……」

 

 そんなので返事が来るのかという、疑った表情を隠しはしないが、ハナコの言う通りにする、コハル。

 

「送ったわよ? これで、本当に連絡が来るの――来た!?」

 

 速攻で鳴り響くスマホに、コハルがビクッと震える。

 

「思った通りですねぇ。コハルちゃん、ちょっとスマホをお借りしますね」

 

 え、これどうしようと、慌てふためくコハルからスマホを受け取り、代わりに出るハナコ。

 そんなハナコの耳に、扉間の鋭い声が飛び込んでくる。

 

『ワシだ。無事か? そして、ヒフミに何があった? もしくはヒフミが何かやったのか?』

「うふふ、ヒフミちゃんなら今、私の隣で起きていますよ」

『………その声はハナコか? ということは、ワシは引っかけられたというわけか』

 

 ハナコのおっとりとした声を聞いて、扉間は自分が嵌められたことに気づく。

 

「すみません、先生。どうしても、先生のご無事を確認したかったので」

『現在のワシが言える立場ではないが、緊急性のある連絡で嘘をつくのは感心せんな。オオカミ少女にでもなりたいか?』

「うふふふ、先生が狼だというのなら、私は構いませんよ? 以前の合宿の際に水着でお部屋にお訪ねしましたが、今度はメイド服でお訪ねしましょうか?」

『お前の風評に関わるからやめろ』

 

 生徒からのSOSだったので、最優先で連絡を取ったが杞憂であると分かり苦言を呈する、扉間。

 だが、ハナコの方はその叱責すら楽しむかのように、ニコニコと笑う。

 

『ふぅ……それで、下江コハル、そしてヒフミは本当に無事なのだな?』

「わ、私は別に何も無いわよ。ハナコの言う事を聞いただけだから」

「私も大丈夫です。心配をおかけして、なんかすみません……」

『気にするな。作戦は重要だが、それで子供を見捨てる大人はただのクズだ』

 

 扉間はそんなハナコに溜息をつきつつ、一応本当にヒフミが無事か確認を取る。

 ハナコが敵に脅されている可能性も、ないことはないのだ。

 

『さて……どうやら、お前達に心配をかけさせたようだな。すまんな』

「先生。先生は今、作戦行動中なのか? 戦力は足りるか? 私はいつでもいけるぞ」

『アズサもおるのか? ありがたいが、今回の作戦は釣りだ。下手に騒ぐと魚が逃げる』

「釣り……ハナコの言った通りだな。相手を罠にかけるのか」

 

 今回の作戦は、ジェネラルをおびき寄せて扉間殺人未遂の現行犯で捕まえること。

 周りに強力な生徒達が居る状況では、姿を現すことは無いので極力戦力を減らしたいのだ。

 

「だが、戦力は多いに越したことは……いや、先生のことだ。今回もきっと上手くやるだろう。幸運を祈る」

『心配をかけるな、アズサ』

 

 しかし、おびき寄せるという事は最後に戦闘があるのは確実。

 やっぱり、戦力は多い方が良いと思うアズサだったが、扉間なら大丈夫だろうと自身を納得させる。

 

「本当にいいんですか、先生? 悪評を流すお手伝いなら、私達でも出来ますよ。補習授業を受けていた時の監視カメラの映像を流して、『私達は売られた』とセットで拡散すれば、先生のお変態ぶりに信憑性が出てきますよ?」

 

 だが、ハナコは納得しない。

 以前に監視されていた時の映像を引っ張り出せば、悪評を増やせると豪語する。

 絶賛過労中のナギサが聞いたら、きっと白目を剥くだろう。

 お労しや、ナギ上。

 

『バカ者! それでは、お前達やナギサにまで悪評が及ぶであろう』

 

 扉間はそんなハナコの案を一蹴する。

 ハナコの案では確かに扉間の悪評は加速するが、同時にハナコ達も周囲から好奇の目を向けられるだろう。

 後、監視カメラを仕掛けたナギサにも流れ弾が当然飛んでいく。

 ひょっとすると、ハナコはトリニティでクーデターを起そうとしているのかもしれない。

 

「まあ、先生ならそう言うと思っていました。それに私はともかく、コハルちゃん達まで巻き込むわけにもいきませんし……でも、それならそれで不思議です」

 

 ハナコは扉間に一喝をされたことを、嬉しそうに笑いながら同意する。

 と、同時に自身のスマホで不正報道の内容を眺めながら、疑問を零す。

 

「『裏社会の伝説、陸八魔アルと会食の証拠をヴァルキューレが入手!』これは先生はゲヘナと親交が深いので、分かります。一応、陸八魔さんも生徒ですし。でも、先生は少し陸八魔さんに負担をかけ過ぎじゃないですか? なんですか? 好きな子には意地悪をしたくなるお年頃なんですか?」

『あやつらはゲヘナの生徒と言っても、学校に行っておらん。つまり、学校の人間ではなく便利屋(会社)の人間だ。本来は先生の管轄外であるし、アル自身がそういう立場を望んで居る以上、ある程度は一社会人のつもりで対応しておるだけだ……仮にも長であるしな。それから、要らん情報を付け加えるな』

 

 公務員がヤクザと食事と言うと、一気にヤバく聞こえるがアルも一応は生徒。

 焼き肉を奢っただけで、違法行為かと言われると微妙な所。

 まあ、ほぼ退学状態なので、扉間の目も世間の目も厳しくなるのは仕方ない。

 

「では次の『便利屋68の犯行とされる銀行強盗にも関与か!?』。これは嘘であって欲しかったですけど、ヒフミちゃんから証言がもらえたので、事実なんですよね?」

「あはは……便利屋さんは巻き込まれですよね」

『……なに? 何故、ヒフミがその情報を知って……いや、そうか。ワシが来る前に元理事が喋って、それにアル達とアビドス達が反応したのだな。奴め余計なことを……いや、ワシが少々迂闊だっただけか。だが、ヒフミで良かった。おかげで口封じをせずにすむ』

 

 扉間ですら、銀行強盗の真実を知る人間にカウントしていなかったが。

 実はヒフミも『―――許さんぞ、陸八魔アル』の現場に居たので、銀行強盗のアビドス(真犯人)を知っている。

 これがトリニティの闇の正義(光を愛せざる者)、エージェント・ファウストの圧倒的な情報収集能力である。

 

「えーと、ヒフミちゃんの件は一度、置いておいて『失踪した連邦生徒会長はシャーレの先生が誘拐していた! 権力を得るためか!?』 ですが、これは嘘でしょうけど、あり得そうな内容なのでリーク内容に入れるのも分かります」

 

 生徒を誘拐する人間が、作戦途中でコハルの助けてというモモトークに即応するわけがない。

 ルールや掟よりも、仲間(せいと)を大切にする。それが火影(せんせい)だ。

 よって、これは嘘だろうと断定するハナコ。

 

「でも、この『シャーレに生徒を連れ込み、夜な夜なメイドプレイを敢行!?』だけ、全く分かりません。つく必要のない嘘ですし、何の脈絡もありません。つまり、これだけは、先生の本当の性癖なのではないかと私は睨んでいます!! 嘘に真実を混ぜると信憑性が増すと言いますし!!」

「うわぁ…へんたい……」

 

 バーン! と重大事実を発表するかのようなポーズを取るハナコ。

 変態と、エ駄死とは違うガチトーンで呟く、コハル。

 悪評の風評被害がしっかりと発揮され始めている。

 

『ワシも何故そのような噂が出来たのか知らんが、どういうわけかそう思われておったからな。ついでに、利用しただけだ』

「本当の、本当の、本当にですか? いいんですよ、先生の隠された魂のリビドーをぶつけても! 好きなものだけは譲れないと、青い情熱(ブルーアーカイブ)宣言をしても!!」

『バレたくないようなものをワザと流すわけがなかろうが、馬鹿たれ』

 

 そんな()()()()()()()()()()()()()ハナコの戯れを受け流しつつ、扉間は大きく溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

「どーなってるのよぉ!? 何で、私達が襲われないといけないの!?」

「アルちゃん、走りながら叫んだら舌噛んじゃうよ」

 

 ラビット小隊から子ウサギ公園の引き渡しも無事に終わり、束の間の平穏を得ていた便利屋68。

 だが、平穏など存在しないとばかりに、彼女達に凶弾が襲い掛かる。

 

「あれ、カイザーPMCの兵士だ。なんで、あんなに堂々と……ここは連邦生徒会の土地じゃ」

「な、何だか、自分(カイザー)の土地に不法滞在する私達を排除するって言ってますけど…!」

「……そう言えば、子ウサギタウンの再開発計画なんてものがあったっけ」

 

 カイザーPMCの襲撃を受けて、その対応をする便利屋68。

 アルは何でと叫ぶが、ハルカは普通に相手側の方に正当性があることに気づく。

 

「どうする、社長? 相手は雑魚だけど、いくらでも湧いてくるよ」

「別に寝泊まりするのが、ここである必要は無いし逃げない? アルちゃん」

「でも、アル様が排除しろというのなら……死んでも相手を排除してみせます」

 

 カイザーPMCの兵士は、そこらの不良よりはマシだが便利屋からすれば雑魚。

 しかし、圧倒的物量で長期戦を仕掛けられれば、補給が出来ない便利屋は不利。

 というか、勝っても旨味が無い。子ウサギ公園はそこまで要らないのだ。

 

「うう……最近、踏んだり蹴ったりね、もう。どこが悪いのかしら……今度神社にお祓いにでも行こうかしら」

「で? どうするの?」

「逃げるわよ。でも、勘違いしないでちょうだい。これはリスクヘッジよ。勝っても大して得られるものが無いんだから、これは戦略的撤退。戦ったらもちろん勝てるけど、弾薬だってタダじゃないんだから、次のビジネスのための前準備。そう、あくまでも退いてあげるだけよ。あ、後、三十六計逃げるに如かずって、この前本で読んだわ」

「はいはい、逃げるんだね」

 

 長々と言い訳を並べ立てるせいで、ダサいことになっているがアルの判断は間違いではない。

 消耗するだけの戦い、勝てても無意味だ。

 扉間だって『ワシは飛雷神で帰る』と言って逃げるだろう。

 

 だが。

 

「いいか、奴らを逃がすな! 既にシャーレの先生との密会の証拠は()()()()()()()から提供されている! 銀行強盗もシャーレの先生が関与しているはずだ。奴らを捕えれば、より確実な証拠となり、千手トビラマを追い詰められる!!」

「なんで、勘違いがこんなに広まってるのよぉ……」

 

 カイザーPMCの指揮を執るジェネラルに便利屋を逃がす気はない。

 既にここはカイザーの土地。そして、便利屋は指名手配犯。

 バックに居る扉間も、現在は不正のニュースでシャーレに引き篭もった状態。

 そう、カイザーの進撃を()()()()()()()()()()のだ。

 

「ラビット小隊を引き継ぎ、子ウサギ公園を占拠したのは迂闊だったな。いくら、シャーレと言えど、土地の所有権を正式に買い取った相手では法的に悪になる。そして、現在は報道機関へのタレコミで、風向きは千手トビラマへの逆風になっている。貴様らを助ける者はいないぞ」

「報道…? は? なんで?」

「クックック、如何にも寝耳に水と言った顔だな。真実を白日の下にさらけ出すというのは、気持ちが良いものだな」

 

 アルの心底困惑した顔に、ジェネラルはこちらが優位に立っているのだと確信する。

 

 ジェネラルからすれば、ラビット小隊が占拠していたせいでサイロの開発が遅れた。

 その上で、今度はシャーレの暗部である便利屋68が子ウサギ公園に滞在。

 カイザーの目的を知った上で、徹底的に邪魔をしているのだと思うのも不思議ではない。

 同時に、扉間にとってカイザーはなにがなんでも排除したい“敵”であると。

 

 仕方ないとはいえ、勘違いここに極まれりである。

 

「今までシャーレと密かに繋がり、好き放題やってくれていたようだが……それもここで終わりだ。私はこれまでの甘い連中とは違う。千手トビラマ諸共、葬ってやろう」

 

 故に先手必勝。やられる前にやる。

 相手が上手く動けない時に、電撃戦で叩くのが高度な戦略というものだ。

 

「シャーレ…シャーレ…関係ないシャーレ…そう言っても、あなた達は“真実”を知ろうとしない。自分の“勘違い”の大きさを知らない。私達を疑う言動が目に余るわ。勘違いを正さない考えも目に余るわ」

「アル様…?」

「でも、一番目に余るのは、こうなる原因を作った先生……」

 

 しかし、そんな裏事情など勘違いで攻撃されているアルからすれば、傍迷惑でしかない。

 依頼ならともかく、何もなしに利用されている状況。

 面白いはずなどない。自然と目が険悪にもなろう。

 

 

「こうなったら、先生に責任を取ってもらうわ!!」

 

 

 故に、正式に依頼として受けさせて、金をふんだくることを決意する。

 これがアウトローの錬金術である。

 

「目的地が決まったわ、行くわよ、みんな」

「行くってどこに?」

「もちろん―――先生の所(シャーレ)よ」

 

 あの野郎、許さねぇ。

 その想いを胸に抱き、便利屋は力強く駆け出すのだった。

 

「やはり、そう来たか。私の読み通りだ。便利屋を追い詰めれば、必ず千手トビラマと合流する。こちらの土地を荒らしていた犯罪者を追う名目なら、私達も堂々と動ける。そうして便利屋が先生と合流した所で言い逃れ出来ぬ証拠を掴み、まとめて叩く。これも全て生徒(コマ)など切り捨てられない、馬鹿な信念が生み出したもの……まあ、教師ならば本望だろう。私は、油断して失敗するような馬鹿共とは違う。徹底的に追い込み逃げられないようにしてから……」

 

 シャーレに向かうと言う便利屋を相手に、ほくそ笑みつつジェネラルは宣言する。

 自分は、元理事のようなヘマなどはしない。

 高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応する策でもって。

 

 

 

「殺してやるぞ―――千手トビラマ」

 

 

 

 扉間を今度こそあの世送りにしてやると。




感想・評価お願いします。

下から、おまけ「トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ?」
飛ばしてOK。





「重心がぶれておるぞ、ミチル。”影走りの術”というのなら、頭と手を動かすな」
「はぁ…はぁ…キツ~イ……」

 シャーレの執務室で、腕を上げた独特の走り方をするミチルを扉間が監視する。
 室内で何やってんだこいつらという状況だが、本人達は至って真面目だ。

「よいか? 一般人と忍で走法が違うのは、長距離を走りぬくための体力を残すためだ。通常の腕を振る走り方は、上半身が横に振れやすく下手な者では重心が動く。その反動の分だけ速く走るには向いているが、上体がぶれることで体力を消耗しやすい」

 独特な忍者走りを大真面目な顔で解説する扉間。
 ミチルも息も絶え絶えにしながら、必死に走る。
 ここ、室内なんですけどとツッコんではいけない。
 昨今の猛暑は火遁の術並みなので、外で走るのは危険なのだ。

「”影走りの術”とは読んで字のごとく音もなく影のように走ることだ。腕を固定し、重心のズレを極限まで減らすことで体力の消費を減らせる。敵地まで赴き、そのまま戦闘を行うことの多い忍のための走り方だ。また、体の揺れが少ない故、服に忍ばせた暗器の音も鳴り辛い。闇の中を移動し奇襲するのにも向いておる」
「な、なるほど~……ハァハァ」
「ふむ……少し休憩だ。忍者本に今の説明を載せたければ、メモでも取っておけ」
「りょうか~い」

 一頻り説明を終えた所で、ミチルの体力が限界だったので休憩を入れる扉間。
 ミチルはぐたーと倒れながら、だらしなく扇風機に当たる。

「おお~風遁の術~」
「水遁・運動補水液(スポーツドリンク)の術も食らえ」
「ありがと~先生殿ぉ~」

 しれっと水遁を推しながら、ミチルにスポーツドリンクを渡す扉間。
 水の無い所でこれ程の運動量を…! 信じられません!
 などと、ミネやセナに怒られるわけにはいかないのだ。

「はぁ~極楽極楽~、先生殿、術の修行に付き合ってくれてありがとうね~」
「遠慮するな。ワシは火影(せんせい)だぞ」

 ゴクゴクと喉を鳴らして、水遁・運動補水液(スポーツドリンク)の術を食らうミチルを見ながら、扉間は固い金属の板を手に取り、何やら絵柄を彫り込んでいく。

「先生殿? なぁにやってるの? ……鉢巻?」
「ただの鉢巻ではない。額当てだ」

 額当てを光にかざし、絵柄の出来を確認しながら扉間は答える。
 これは額当てだと。

「お前達の忍者本が完成したら、これをお前達にプレゼントしてやる」
「え、なになに~? それってそんなに凄いものなのぉ?」
「一人前の忍者の証だ。ワシの里の者は皆これをつけていた」
「おお~! 俄然やる気が出て来たぁ!」

 里の者という、それっぽい発言に興奮するミチル。
 そんな姿に扉間は、かつての忍者学校(アカデミー)を思い出しながら、微笑む。

「フ、まあ、まずは”影走りの術”を会得してからだな」

 平和な忍術も、偶には良いものだと。
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