「みなさん、こんにちは! クロノス報道部のアイドルこと
カメラの前でマイクを持った、褐色の肌の生徒が元気よく声を上げる。
ネタを求めてうろつき回る、ハイエナ…失礼、マスコミである。
「ご覧ください! 既に、周りは説明を求める生徒とそれを鎮圧しようとする、ヴァルキューレで取り囲まれております!」
日頃の恨みを晴らすチャンスとばかりに、シャーレを取り囲む扉間に恨みを持つ不良生徒達。
アビドスの時に財布にされたカタカタヘルメット団や、ブラックマーケットの護衛達。
後、このビッグウェーブに乗るしかないと、お祭り感覚で参加した野次馬達。
そして、それらの暴徒の鎮圧に駆り出されたカンナ率いるヴァルキューレ公安局。
場はまさに、大混乱であった。
「警察を従える権力者……これは不正の臭いがプンプンしますね! これはズブズブの関係ですね、間違いありません!」
公安局はただ仕事をしているだけだというのに、この言いよう。
マスコミというものが、どの世界でも如何に情報を操作して伝えているのかが良く分かる。
まあ、今回は扉間の方が先に情報を操作して伝えてあるので、どっこいどっこいだが。
「では、早速インタビューしていきましょう!」
しかし、一触即発の中でも平然と踏み込んでいく点だけは、勇敢なマスコミである。
蛮勇? そうかもしれない……。
「では、まずは不良達の方々からインタビューをしていきましょう! すいません、少しお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああぁん? なんだ、てめぇらは?」
「みなさんはシャーレの先生にどのような不満が、または何かをされたのでしょうか!?」
ギロリとヘルメット越しに睨んでくるカタカタヘルメット団に、インタビューを行うシノン。
「何かだと…? あいつはなぁ! 私達のアジトの物資を根こそぎ奪って行ったんだよ!! あのアビドスのハイエナ共を使ってな!」
「つまり、盗まれたと?」
そして、意外にもインタビューに成功する。
まあ、不良と言っても相手も子供なのでインタビューされることに、テンションが上がっているのかもしれない。
「そうだ…そうだ…! あたしらのアジトもアビドスの魔の手に……!!」
「私達のアジトもアビドスにやられた!! 女子供10人ぽっちからカツアゲしただけで…血も涙もねぇ!!」
「救いは…不良に救いはねぇのか!? 私らこのまま、しゃ、社会復帰するしか…ッ」
扉間がキヴォトスに来て、最初に行った犯行。
それは、カタカタヘルメット団から物資や資金を強奪することである。
なので、カタカタヘルメット団には文句を言う権利は確かにある。あるが。
「そこにないならないですね」
やってることが、やってることなので、流石のシノンも同情しない。
そもそも、アビドスチャンネルでアジト襲撃は拡散されているので、企画として弱いのだ。
もっと、特ダネ持ってこいよ。
「なんだと、てめぇ!? 私達がせっせと、旧アビドス校舎の備品を売っ払って得た金を奪われたんだぞ! 窃盗じゃねえか!! 金属類とか運ぶの大変だったんだぞ!」
「すいませーん! 公安局の方々! ここに、窃盗犯が居ます!!」
「あ、コラ! てめぇ、待ちやがれ!!」
最初に盗んだのはお前達の方だろと、正論を叩き込んで逃げる、シノン。
これが録画なら情報操作で不良達を悲劇のヒロインに仕立て上げられるが、生では無理。
なので、サッサと売り渡す。
因みにその頃の柴関ラーメンでは。
『ホシノ先輩、見て、見て。
『お、いいねぇ。腹ごなしの運動に行ってみようか。先生も助けたいし』
『この動画を見て、宝箱を見つけたみたいな空気になれるのは、世界中どこを探してもあなた方だけだと思いますわ』
『何言ってんのよ、ワカモ。あんたもアビドスよ』
などと言う、会話がされていたりいなかったりする。
「窃盗犯だと? 暴動以外にも罪を重ねる気か」
「お! これは大物が出てきましたね。尾刃カンナ局長です! ヴァルキューレと先生が癒着しているという噂に対して、どのように思われますか!?」
「この状況で、両方を敵に回しかねない発言に呆れているが?」
カタカタヘルメット団や不良に睨まれた状態で、更にヴァルキューレにも喧嘩を売る。
コウモリも真っ青な手の平返しぶりに、カンナが呆れた表情を見せる。
「連邦生徒会長をも凌ぎかねない、権力と戦力の集中! ヴァルキューレもまた、トビラマ先生の手の内に収まってしまったのではないかと、一般市民は考えていますが、お答えいただけますか!?」
「はぁ……私達は仕事をしているだけだ。そもそも、現状も私達が守っているのは先生ではない。
真実はカヤと扉間はズブズブ(意味浅)の関係性だが、カンナの言ってることに間違いはない。
影響力の高い学園は下手に動けず、集まってるのは扉間に恨みを持つゴロツキばかり。
連邦生徒会の所有する建物を守るという名義の仕事でしかない。
なお、中で緑茶を呑みながら、のんびり見ている扉間は『あの不良達……軍事学校の生徒にちょうどいいな』などと目をつけたりしている。
「ですが、シャーレは閉ざされた状態! 生徒を誰でも受け入れるというシャーレの性質に真っ向から反対しているのは、何か後ろめたいことがあるからではないですか!?」
「お前は台風が来ている時に、窓を開けっぱなしにするのか? 暴力で訴えずに、文書で訴えればその意見にも説得力があっただろうな。まあ、これはお前達ではなく、あいつらに言うべきか」
扉間が引き篭もっているのは、あくまでも暴徒から身を守るため。
囲まれているおかげで、そんな建前が成立しているのだ。
汚い、流石忍者。汚い。
「しかし、他にも指名手配犯、陸八魔アルとの繋がりがあるとも噂されていますが!」
「……それに関しては調査中だ。先生は政治家ではない。そして、先生という職業もあくまで俗称に過ぎない。本来は連邦捜査部シャーレの顧問。会食などをしてはいけないというルールはない」
扉間は先生という名前で呼ばれているが、日本の先生とは違う。
公務員ではないので、セリカと一緒にバイトも出来るし、政治家でもない。
なので、現状の陸八魔アルとの繋がりも、所詮は悪い評判が立つ程度のものでしかない。
「むむむ、中々口を割りませんね。これでは、報道にインパクトが欠けます……」
「おい。今、ここでお前達を詐欺罪でしょっ引いても構わんのだぞ?」
故にカンナを問い詰めるだけでは、決定的な証拠にはならない。
これでは、せっかくの生放送のインパクトが。
などと、シノンが頭を悩ます。
と、そこへ―――救いの神がやって来る。
「そこを退きなさい! 私が通るわ!!」
訂正、
「あ、あれは! 陸八魔アル!? それと部下でしょうか!?」
慌ててカメラを便利屋の4人に向けるクロノス報道部。
便利屋の4人が鬼の形相で突っ込んでくる姿が、画面に映し出される。
「カイザーPMCもだと…!? どういうことだ? 便利屋とカイザーは敵対しているはず……」
そして、そんな便利屋を追って来るカイザーPMCの兵士達の姿も。
こんな感じで、便利屋がシャーレを目指し、カイザーが逃げる便利屋を追うという形になっている。
そして、その構図は今まさに向かって来られている側からすると。
「ま、まさか、陸八魔アルは倒したカイザーPMCを支配下に引き入れている!?」
便利屋68がカイザーPMCの兵士を引き連れて、扉間を奪還しに来たようにしか見えない。
扉間奪還編の始まりである。
「先生は便利屋だけでなく、カイザーグループとまで関係を!? これは大スクープです! 早速、取材に行かないと!」
「は?」
これは大スクープだ。
そう、判断したシノンは命知らずにも、突撃してくる便利屋達にマイクを持って駆け寄っていく。
遠くで、シノンの発言を聞いたジェネラルが、軽くキレているが距離的に否定できない。
そうして勘違いが加速する。
「初めまして! 便利屋68の皆さんですね!? 今回はどういうご用件でシャーレに? やはり、この取り囲んでいる不良達から先生を奪還するためでしょうか!?」
「違うわよ!? 私達便利屋は先生とはビジネスだけの関係よ! シャーレの犬に成り下がったつもりはないわ!」
シノンからの取材に否定を返しながら、アルは走り続ける。
扉間を狙ってシャーレに向かっているのもあるが、後ろからPMCが追ってきているので止まれないのだ。
「しかし、この状況で先生を助ける以外にすることがあるでしょうか!?」
だが、単なる否定で信頼するクロノス報道部ではない。
特ダネは死んでも離さないと言わんばかりに、カメラとマイクを構えて便利屋を追走する。
「それに便利屋68と言えば、銀行強盗! 閉ざされた建物に突入するのは、お手のもの――」
しかし、それも束の間。
アルが走りながら放った銃弾が、クロノス報道部のカメラを粉砕する。
「あーッ!? 800万円のカメラがぁッ!?」
「たかがメインカメラがやられただけです! 早く、予備のカメラを出してください! スクープを逃すわけにはいきませんよ!!」
(え? 高ッ!? 報道用のカメラってそんなにするの!?)
カメラマンからの悲鳴に内心で弁償代にビビる、アル。
だが、そんな内心を表に出さないようにしながら、精一杯にドスを利かせた声で吐き捨てる。
「―――失せなさい」
今逃げるのに忙しくて、取材どころじゃないんだから。
後、カメラはごめんなさい。そんなに高いって知らなかったのよ。
そんな言い訳を内心でしながら、アルは駆け抜けていく。
扉間が引き篭もるシャーレの中へ。
「カンナ局長! これはどうすれば!?」
「………止めるしかないだろう」
だが、それを許すわけにはいかないのが公安局だ。
犯罪者を逃すわけにはいかないし、シャーレの中に入れるわけにもいかない。
(だが、後ろのPMCはどういうことだ? カイザーと便利屋は敵対し合っているはず。手を取り合うなどという事にはならないはずだ。そもそも、PMCはこちら側のはず)
しかし、そんなカンナも歯切れが悪い。
カイザーと便利屋は敵。先生が邪魔という点では、今は意見が一致しているが手を組むはずがない。
そもそも、裏金でヴァルキューレとも繋がっているのだから、カンナとしては敵対したくない。
(しかし、報道部が居る状況でPMCとの繋がりを出すわけにもいかない。連邦生徒会の土地で自由に動かせるのは不味い。せめて話が出来ればいいんだが……そもそも、こいつらは繋がりを知っているのか?)
だが、警察が企業と癒着している事実を明るみにするわけにもいかない。
さらに言うと、その情報も上の人間が知るだけのトップシークレット。
こちらもそうだが、現場の兵士が知っているかは分からないのだ。
(クソ! どうする?)
職務上、止めないといけないのは間違いないが、事情が分からないまま動くと後に響きそう。
また、
「そこの生徒。君がここの指揮官かね?」
「あなたは…! はい、そうですが……」
と、そこへ、ジェネラルが助け舟を出す。
裏事情を知っているジェネラルからしても、ここで公安局と戦うのは戦力を消耗するだけ。
むしろ、便利屋や扉間を挟み撃ちするチャンスだと考えたのだ。
なので、こうして初めましてを装いながら話しかける。
「私達カイザーPMCに君達との交戦の意思はない。私達の土地で不当に暴れていた、憎き便利屋68を追っているだけだ。便利屋68
あくまでも自分達は被害者で、悪い事なんてしないと言いながら利益を奪い取る。
これがカイザー流交渉術だ。
後、便利屋の部下扱いされたことは流しているのは、流石は大人といったところだろう。
「そうですか……なるほど、そう言った事情が……」
カンナは一瞬、悩む素振りを見せるがここは少しでも戦力が欲しい所。
無駄に敵を作るよりも、表向きの情報を整えた上で協力してもらうのが一番だろうと判断する。
「分かりました。犯罪者の捕縛へのご協力、感謝いたしま――」
そう言い終わろうとした所で、爆発音が響き渡る。
便利屋と、公安局で戦闘が始まったか。
そう思って、ジェネラルとカンナが音の方に目を向けるが。
「陸八魔アルってあの、裏社会の伝説の…!?」
「うぉおおお! 陸八魔アル様に続けぇッ!!」
「てめぇら、裏社会の伝説に恥かかすんじゃねぇぞ!」
「あの時の、
どういうわけか、不良共が便利屋の代わりにヴァルキューレの相手を務め始める。
「……え? なにこれ?」
当然、どういう事だってばよと困惑する
そこへ、不良達から声をかけられる。
「カイザーを率いてシャーレに…連邦生徒会に襲撃だなんて、やっぱあんたすげぇよ!!」
「あの先公が取引相手として使えなくなったから、即座に息の根を止めに来たんっすね! パネェッス!」
「さすが
集まっていた不良達は、別に誰かにまとめられていたわけではない。
そして、本音はヴァルキューレとやりあって怪我したくないので、たむろっていただけだ。
だが、今は違う。
「な、なんということでしょうか!? シャーレを取り囲んでいた不良達が、陸八魔アルの命令に従ってヴァルキューレと戦闘を開始しました! まさか、最初からこのために不良達を集めていたというのでしょうか!? カイザーPMCまで率いて!」
陸八魔アルという強力なカリスマを持つ存在が現れたのだ。
責任を押し付けたい者や、裏社会の伝説という肩書に憧れる不良、果てはアビドスに身ぐるみを剥がされていた所に
「「「「うぉおおおッ! 陸八魔アル様に続けぇえええッ!!」」」」
僕はついて行けるだろうか。勘違いだらけの世界のスピードに。
「……なにこれ、なにこれ? 本当になにこれ?」
「あはは! もう、笑うしかないよね! ……うん」
「チャンス…だと思うよ……うん」
「アル様の素晴らしさが、こんなにも広まってくれて嬉しいです…!」
なお、一番ついて来れていないのは当事者達である。
まあ、約一名ハルカはアルの知名度向上に喜んでいるが。
「アル様! ここはアル様が先頭に立って音頭を取りましょう!」
「え? わ、私が?」
「……まあ、こうなったら乗るしかないよね」
「私達だけだと、PMCとヴァルキューレを同時に相手に出来る訳ないし」
アル様は
溢れ出るカリスマで周りの者を引き寄せるかがり火。
能力は技ではない。その場に居る者達を次々に自分の味方につける。
この世界において、陸八魔アルは最も恐るべき力を持っているのだ。
これには、中から見ている扉間も『まるで兄者のようだ』とアルへの評価を上げている。
「ああ、もう…! やるわよ! やってやるわよ!! こんな期待の眼差し断れるわけないじゃないッ!!」
もう逃げ場はない。
追い詰められたアルの魂が光り輝く。
部下や自分に憧れる存在の期待は裏切れないと。
「―――敵はシャーレにありッ!!」
全盛期、陸八魔アル伝説。
・カイザーローン本店を襲撃。僅か5分で1億円を強奪する。
・キヴォトス最強と言われるゲヘナ風紀委員会を撃破。
・ブラックマーケットで、PMCとマーケットガードを相手に大立ち回りを見せる。
・SRT特殊部隊と死闘を繰り広げてブラックマーケットを火の海に変える。
NEW! ・不良達とカイザーPMCを率いて、連邦生徒会のシャーレを襲撃する。
頑張れ、アルちゃん。いつかは全盛期柱間伝説を超えるんだ。
『先生、流石にこれは不味くないですか?』
「アルの奴、中々やるではないか。まさか、こうなるとは流石のワシも予想外だ」
『笑っている場合ですか!』
一方、その頃。
追い詰められた権力者のロールプレイを楽しんでいた扉間は、アロナからツッコミを入れられている。
『現状の先生はどこにも助けを求めていない状態です。そして、今から助けを求めても助けが間に合うとは思えません』
「そうだな。今回は出来るだけ、生徒達に風評被害がいかんようにしたからな」
『そのせいで、ここからの脱出が困難に……あ、今、便利屋さんがバリケードを突破して一階に入ってきましたよ。ま、不味いですよ! 不良さん達はヴァルキューレさんが止めてくれていますが、PMCさんも中に入ってきています!』
扉間は現在、自分で流した悪評で助けを求められない状況。
釣りをするつもりだったが、どういうわけか今はピラニアに囲まれているのだ。
これも全て、陸八魔アルってやつのせいなんだ(棒読み)。
「そうか。さて……これで片付けはすんだな。壊れて困るデータは全てアリウスに転送済み。パラシュートの準備もすんだ。後は……頼んだぞ」
扉間はパラシュートを背負い、ペロロ博士のぬいぐるみを軽く撫でる。
ピッピッと中から、ぬいぐるみからしてはいけない電子音が聞こえるが気にしてはいけない。
『あの……何をなさるつもりですか?』
「アロナ。最後にもう一度聞くが、このフロアが爆発しても上下の階には影響はないな?」
『はい。誤爆程度はキヴォトスでは日常なので、頑丈な作りになっているはずですよ』
「そうか、ならば安心だな」
キッチンで火薬を溢して爆発などという、馬鹿げたことが起こるのがキヴォトスだ。
ちょっとした爆発で壊れるような建物を、重要な拠点には使わない。
『すいません。もう、99%ぐらいは何をするか分かりますが、残り1%の奇跡に懸けたいので、何をするか教えてもらえませんか?』
この1%に懸ける…!
漫画の主人公になった気持ちで、アロナが扉間に問いかける。
だが、悲しいかな。
これは漫画ではなく現実。1%は勝利フラグにはならない。
「無論、敵ごとこのフロアを爆破して逃げるつもりだが?」
『ですよねー』
扉間の言葉に、アロナは白い目を向ける。
空の城に敵を誘き寄せて、城ごと燃やす。
かの諸葛亮孔明も行ったとされる、“空城の計”である。
ペロロ博士は犠牲になったのだ。
ぬいぐるみ爆弾。その犠牲にな。
「本来、便利屋まで巻き込む気はなかったが……ここに来る以上は仕方あるまい。邪悪な権力者として、手を抜くわけにもいかん」
『そこまで気合を入れて、悪評を広めなくて良いと思うんですが』
「後は、カイザー側からワシを殺害する発言でも録音できれば、完璧なのだが……まあ、そこは高望みしても仕方あるまい。まずは拠点まで失って追い詰められた権力者を演出しなければな」
『どうして、そういうところで無駄に完成度を高めてしまうんですか?』
扉間の作戦は非常にシンプルだ。
自分を殺しに来た敵を誘き寄せて爆破。
扉間はパラシュートで脱出。
着地が少々不安定になってもアロナガードで何とかなる。
そうやって、拠点まで失い追い詰められる権力者を演出しているのだ。
アロナの言う通り、ガチ過ぎる。
「この世に絶対はない。だが、99.9%ならば可能だ。失敗すればカイザーという悪が野放しになる。成功度を高めるに越したことはない」
『それはそうなんですが……あ、話しているうちに便利屋がこのフロアに到着しました』
「アル達か。迷惑をかける故、一応謝っておくか」
『迷惑をかけるのは確定なんですね』
「カヤやワカモや元理事と違い、あやつらは更生の機会を自分で蹴ったからな。意思は尊重するが、それで降りかかる不利益に関しては、諦めてもらわんとな。他の生徒に示しがつかん」
アル達の乗ったエレベーターが到着したことを伝える、アロナ。
それに対して、扉間は謝罪ぐらいは入れておこうと思う。
因みに、後で爆破するので先に謝っておくね、の類なのでやられる方が知ればふざけんなである。
「それにあやつを見ているとな……兄者を思い出してな。ついつい雑に扱ってしまう」
『先生はお兄さんを攻撃に巻き込むんですか?』
忍と言えど、体の耐久力は普通。
フレンドリーファイアは危険なのは変わらない。
扉間ももちろん、意識して動いている。
「細胞から頑丈故、問題ない」
『アルさんは多分、普通の人間だと思うんですが?』
全身柱間細胞の人間以外は。
なので、柱間に対しては『まあ、兄者なら大丈夫だろう』で大技を間近に普通に放つ。
もちろん『よさんか、扉間ッ! オレでなければ死んでいたぞ!』と無傷の柱間に叱られるが。
『兄者への信頼の証だ』とちょっとデレた発言をすれば、許されるのでチョロいものである。
弟特有の兄への甘えというやつだ。
許せ、兄者。これで最後だ(n回目)。
「まあ、爆破程度では死なないのはキヴォトス人の良い所だ。無茶が利く」
『無茶をするのは、先生の体ではないですけどね? あ、来ましたよ』
己の身体以外なら、自爆はお手の物。
そんな会話をしていると、遂にアル達便利屋が到着する。
「ちょっと先生!! 私達、便利屋がシャーレの暗部ってどういうことよ!? 私達はビジネスの関係でしょ! 働いて欲しいなら、ちゃんとお金を払ってくれないと!!」
『どうしましょう、先生。今の時点でとんでもなく罪悪感を抱きます』
息を切らして、クレームを入れて来るアルにアロナが申し訳なさそうに告げる。
もちろん、その声はアルには届かないので無意味なのだが。
「アル……お前達には多大なる
そんな怒れるアルに対して扉間が採った行動は――
「ど、土下座!? ま、待ってちょうだい! そこまでして欲しいわけじゃ…!」
―――土下座だ。
全盛期、陸八魔アル伝説。
NEW! ・シャーレの先生を土下座で謝らせた。
「これが、ワシが今示せる最大限の誠意だ」
『誠意とは、言葉ではなく金額だと思いますよ、先生』
土下座とは謝罪行為の最上位に位置する術。
同時に一切のチャクラを使わずに、相手を怯ませることが出来るコスパの良い術でもある。
いいのか? 俺の土下座を見た時。最終的に謝ることになるのはお前だぜ…?
「お、お、落ち着いて話しましょう。私達はビ、ビジネスの話をしに来たんだから、お茶でも飲みながら」
「社長、私達が今カイザーに追われてるって分かってる?」
「大人の土下座……初めて見たなぁ。でも、なんか怪しい気が……」
「あ、アル様ならともかく、私なんかにまで土下座しないでも」
大人のガチ土下座を見て、ヒートアップしていた頭が冷える便利屋達。
同時に、ムツキなどは何かがおかしいと思うがもう遅い。
「やっと追いついたぞ! 許さんぞ! 陸八魔アル!! よくも私達が貴様らの部下などという、荒唐無稽な噂を流してくれた………どういう状況だ、これは?」
便利屋を追ってきたジェネラルが怒鳴り込んで来るが、便利屋に土下座をする扉間を見て困惑する。
誰だって、扉を開いて目に飛び込んできた光景が土下座だったら戸惑うだろう。
「貴様がジェネラルか。子供に爆弾を持たせてワシごと爆破させようとしたのは、貴様だな?」
「それはそうだが……土下座しながら言われても困るのだが」
土下座状態で、話しかけられて困惑した表情で答えるジェネラル。
冷静な思考よりも、今は困惑の感情の方が強いのだ。
「そして、今回は
「だから、違うと言っているだろう! そもそも、貴様達こそ何だこの状況は? 仲間割れか?」
「どっちも違うわよ! 私達は先生の仲間じゃないし、殺しなんてそんな悪い事するわけないでしょ!!」
正確な情報が開示されず、間違った情報が交差する。
そんな膠着状態の中で、誰も動くことが出来ず時間だけが過ぎていく。
そして、時間は―――扉間の味方だった。
「時間だな」
『あー、もう! 結局こうなるんですね! 先生の安全な釣りという言葉を信じた、私のミスです』
ペロロ博士の体内から響く、電子音が大きくなる。
扉間が、土下座を解き一瞬の隙を突いて窓の方に走り出す。
「な!? 窓から逃げる気か! させん、撃て!!」
「ちょっ!? 先生、ここ何階だと思ってるの!?」
逃げる扉間を即座に撃ち抜こうと指示を出す、ジェネラル。
飛び降りたら死んでしまうと、慌てる、アル。
そんな中、扉間は。
『アロナ、
『…! もう、先生は私が
勢い良くガラスを突き破り、空へと身を投げ出す。
そして、そのタイミングでペロロ博士に仕掛けていた時限爆弾が。
「先生! 待っ――」
―――爆発する。
「―――なに!?」
便利屋とジェネラル達PMCを巻き込んで。
「空を飛ぶとは、まるで土影のような気分だな」
『先生! ちゃんと、パラシュートは開いて下さいね!? 爆風で背中を押して距離を稼ぐ無茶をしたので、着地までは無理は出来ませんよ!』
爆風で、扉間とアロナを遠くまで飛ばしながら。
速報! 凶悪犯罪者、陸八魔アル。シャーレを爆破する!!
先生とは仲間割れか!? 新たに不良達やカイザーPMCを率いる!
不知火カヤ防衛室長。カイザーPMCのジェネラル氏を今回の事件の重要参考人として事情聴取をすることを発表!
そして、クロノス報道部も速報をキヴォトス各所に飛ばすのだった。
おまけ「トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ?」
「おお~ッ! 分身の術ってすご~い!」
「フ……」
エンジニア部が発明した3D分身装置。
それで映し出された自身の写し身を見て、大興奮のミチル。
分身の術って凄いだろうという顔をする、扉間。
エンジニア部の発明でなければ、ワシの術だと言っていたかもしれない。
「ねぇ、先生殿。これって分身も物に触れられたりするのかな?」
「声は両側から聞こえるが……質量は無いように見えるな。影分身ではなく、分身の術か」
「影分身?」
影がつくことに何か意味があるのかと、首を捻るミチル。
「影分身の術は質量を持った分身だ。そのまま戦闘に使うもよし、分身ゆえ使い捨てで偵察に向かわせるも良しの素晴らしい術だ」
「お~! そう聞くと凄い術に聞こえる~! じゃあ、分身より影分身の方がいいの?」
影分身はワシが作った術だ。
もちろん、それにあった戦術もな。
自分でやったのは数えきれないが……の説明をする扉間のドヤ顔に、ミチルも顔をほころばせる。
美しい師弟愛である。
「忍術には難易度はあるが、良し悪しは戦況によって変わる。影分身はメリットも大きいが、それだけ分身の術よりも消費が激しい。相手を騙すだけなら、分身でもこと足りる場面もある」
「じゃあじゃあ! この分身の術で何か凄い事出来ないかな?」
「すごい事? ふむ……」
何か凄い事と言われて、考える扉間。
これが、分身と変化の術を極めた7代目火影なら、お色気の術にするかもしれないが却下。
ラスボスにも効く、7代目火影の卑猥な術は禁術指定なのだ。
「直接の攻撃力がなく、触れない故、分身だとすぐに気づかれるだろう」
「あー、まあちょっと色違いだもんね」
「なので、一度相手に役に立たない分身と思わせたうえで、仲間の攻撃の目くらましにする」
「目くらまし?」
「あまり気分は良くないが、お前の分身の背後に隠れて銃を撃てば不意打ちが可能だ。何なら、一度お前が銃を撃って分身の方からは来ないと意識づけさせるのもいい。分身は無害と判断した所での不意打ち。威力以上にダメージを貰うはずだ」
分身の術はある意味で幻術だ。
相手に無いものがあると、あるものがないと錯覚させられるのだから。
影分身と併用できれば、さらに相手の思考を縛ることが出来るようになるだろう。
「う~ん……やっぱり使い方が地味」
「待て。この装置をもっと増やせば、100人単位での多重分身が可能なはずだ。そうすれば、相手を怯ませることも出来る」
「お~! それは派手かも! でも、そこまでいったら声がうるさそう」
機械を増やしての分身に、うるさそうと呟くミチル。
だが、その言葉を扉間は聞き逃さなかった。
「なるほど……相手の聴覚を奪う術か。耳栓をした上で装置で人数を増やして大声で……いや、ウタハに頼めば音響弾を使う時の音を出せるようにすれば」
「あ、それなら音響弾そのものが分身すれば、いいんじゃない?」
「手裏剣分身の派生か。悪くない。質量は無理でも音が増やせるのなら、音響兵器にとっては影分身といっても差し支えないな。いや、音分身の術と名付けるべきか。良い発想だミチル。忍者本にオリジナルの術として載せるといい」
「え!? 先生殿のお墨付き? やった~!」
新たな分身の術の発想。
それを若者から得た扉間は、やはり教育は素晴らしいなと思いながらミチルの頭を撫でるのだった。
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