千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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59話:先生

 

「先生が…この星の人間じゃない…?」

 

 落ち着けるように移動した場所で、ミカが呟く。

 

「ワシがキヴォトスに来る前に居た場所では、チャクラと呼ばれるエネルギーを使い忍術を使っていた。そして、忍術を使う者のことを総称し、忍者と呼んでいた。だが、調べた結果、この世界にはキヴォトスの中にも外にも忍者はおらんことが分かった。また、ワシを含めてチャクラを持っている者がいないことからも、ここはワシが生きていた星とは違うと仮定したのだ。忍の開祖いわく、チャクラは元々星のエネルギーのようなものらしいからな。チャクラが全く無いということは、星そのものが違う可能性が高い」

 

 ミカの困惑した顔に、長々とした説明をぶつけ返す扉間。

 当然、ミカの顔は更なる困惑に包まれる。

 

『チャ、チャクラ? サンスクリット語かしら?』

「ワシはそちらは詳しく知らん。ワシの知るチャクラは細胞の作り出す身体エネルギーと、脳の生み出す精神エネルギーを混ぜ合わせることで作ることが出来る。本来は人の心を繋ぐためのものだったらしいが……ワシら忍はこのエネルギーを忍術という形で出力して、互いに殺し合っておった」

 

 リオの疑問にチャクラの成り立ちを教える扉間。

 元々は、扉間の先祖である宇宙人のカグヤからその息子である忍の開祖である六道仙人に受け継がれ、それを平和利用しようとしていたらしいのだが、結果は御覧の通りだ。

 

 六道仙人の長男であるインドラが忍術として利用する方面に突き進んでしまい、後継者の座を弟のアシュラに奪われる。逆恨みをしたインドラは出奔。からの黒ゼツ(カグヤの息子なのである意味叔父)にそそのかされて、アシュラと争い合う。

 

 その後はインドラとアシュラで何度も転生し、ナルトとサスケに至るまで兄弟喧嘩だ。

 本当、助言を頂けるのならもっと早くに言って欲しかったですね。

 

「別の星だなんて……にわかには信じられませんね。まだ、宇宙人どころか地球外生命体の微生物すら見つかっていないのに」

「そうだな。お前の言う通りだ、アコ。故に、話半分に聞け。重要なのはワシがお前達とは違う常識と世界で生きていたという事だけだ。この際、ワシが火星人であろうと地球人であろうと話の大筋は変わらん。分かり辛いのなら、一度違う星の生まれは忘れろ」

 

 いや、そんな特大の爆弾を無視しろと言われても……。

 アコ達は扉間の発言に、何とも言えぬ顔をするが言ってることは正論なので飲み込む。

 

「お前達が知るべきことはワシが()()()()()()()()()()、戦争の中で生きていたことだけだ」

「キシシ、その言い方だとまるで死んでいるように聞こえるぞ? 先生」

 

 生まれてから死ぬまで。

 現在を含めれば、明らかにおかしな物言いにマコトが指摘を入れる。

 扉間自身もそのことに気づき、確かに言い方がおかしかったと反省する。

 

「ん? ああ、そう言えばこれも伝えておかんとな。ワシは既に3度死んでいる。一度目は通常の人生で。2度目と3度目は、穢土転生の術で蘇ってからの死亡だ。因みに、ワシの体感では現在4度目の人生だ」

「これ以上、爆弾情報を投げ込まないで欲しいかな? 何なの? 校長先生はテロリストなの? そんな所まで私達に寄り添わなくていいんだよ?」

「事実なのだから、仕方がなかろう」

 

 言い忘れていたと言った感じで、更なる爆弾を投下する扉間。

 流石は互乗起爆札の生みの親としか言いようがない。

 情報の爆弾が、更なる爆弾を呼び寄せている。

 

「というか、今蘇るとかとんでもない情報があった気がしたんだけど……穢土転生の術って何?」

「死者の魂を黄泉から口寄せする術。お前の察する通り、死人を蘇らせる術だ、ホシノ」

 

 穢土転生の術で死人が蘇る。

 そう断言する扉間に、ホシノの目の色が変わる。

 

「そ、それ、本当? 今も使えないの、先生!?」

 

 死者の魂を口寄せする。

 その文言に引き寄せられたのだ。

 

「やめておけ、ホシノ。この術は死人と再会するための術ではない。やめておけ」

「ッ!? そ、そうだよね……そういう目的であるわけじゃないんだよね」

 

 ユメ先輩ともう一度会えるかもしれない。

 その想いに釘を刺され、一応は納得しようとするホシノ。

 しかし、完全には納得できないのか、その表情は非常に複雑なものとなっている。

 

 

「穢土転生の術は情報収集が目的の術だ。具体的には、敵から情報を抜き出すために敵兵を2人捕らえる。その後、1人を殺してDNA情報を抜き取りつつ、もう1人を尋問する。その後、残ったもう1人を生贄にして黄泉から殺した方を呼び出して、吐き出させた情報が本当かどうかの答え合わせをする。そうすることで、相手が情報を守るために自害しても確実に。かつ、正確な情報を抜き取ることが出来る。情報を抜き出した後は、死体に爆弾を仕込んだ上で敵陣に返し、敵の拠点を死体ごと爆破させるのが正しい使い方だ。お前が生き返らせたい人間にこの行いをしたいのなら、教えてやっても構わんぞ? ホシノ」

 

 

「え、遠慮しておきます……」

 

 ユメ先輩ボンバーを使いたいのか? と言われて、すごすごと引き下がるホシノ。

 誰だって、生き返って欲しい人間を爆弾にしたいとは思わない。

 

「しかし、何という卑劣な術……人道に真っ向から反している」

 

 卑劣な術だと、ユキノが吐き捨てる。

 

「こんな術作った人の顔を見てみたい。きっと、意地の悪ーい顔してるよ」

「そうだね。生き返らせて戦力にするとかじゃなくて、情報収集と爆弾が目的とか人の心がないよね」

 

 ミカとアツコが人の心が無いんか? と頷く。

 

『捕らえた敵兵を使うことで、ほぼノーコスト。さらに相手に送り返すことで心理的ダメージを与える。しかも、相手は一度やられたら2回目を警戒して、仲間同士で疑心暗鬼になる……無駄が無いわね』

「おいおい、これを合理的とか言うなら、流石のあたしもこれ以上はついて行けねぇぞ、リオ」

 

 リオが余りの合理性に感心して、ネルに釘を刺され。

 

「キキキ、確かに合理的だな。だが……流石の私もドン引きものだぞ、これは」

「癪ですけど、マコト議長と同じ意見ですね。卑劣の極みみたいな術です」

 

 無法地帯であるゲヘナにも、人間として最低限の情ぐらいあるとドン引きする、マコトとアコ。

 

「穢土転生の術……許せない」

 

 そして、頭の中で『ひぃん!?』と言いながら爆破するユメ先輩を想像し、絶許モードになる、ホシノ。

 

 

「卑劣で悪かったな! 卑劣で! ワシが作った術だ! ワシの術だ!」

 

 

「「「「「「「「「「『………え?』」」」」」」」」」」

 

 

 げ、外道だ……外道が目の前にいる……。

 そう言いたいが、まさかの開発者の正体に言葉を失う事しか出来ない生徒達。

 

「死人に口なしという言葉を覆すために作った術だ。蘇らされる側の死後の安寧や尊厳など1ミリも考えておらん」

「物理的な方向で覆してきちゃったかぁ……」

 

 忍者の死体は余りに多くのことを語ってしまう(物理)。

 

「あまり良くない術を作ってしまった件は、ワシも反省しておる」

 

 その件については、実はワシも反省していたと扉間が語る。

 流石に死後に二度も呼び出された上に、カブトと大蛇丸に忍界を好き放題されたとあっては卑劣様も反省するしかない。

 

『ちょっと待ってちょうだい、先生。“あまり良くない”という言葉には、“非常に悪い”や“最悪”という意味は含まれないわ。今、3冊ほど辞書を検索してみたけど、これは客観的な事実よ』

「ワシの生きた時代では、()()()()()()()程度の術であったのだ、リオよ。これはワシ以外の人間も認めるところだ」

 

 この時代だと聖人レベルの善性を持つ、柱間いわく()()()()()()()()

 おそらくは、穢土転生程度はジャブに見える、外道な術が溢れかえっていたのだろう。

 

「これで分かっただろう? ワシの当たり前と、お前達の当たり前は違う。忍として殺し合いを続けたワシにとっては、明日明後日の命どころか次の瞬間の命も分からんのだ。恐らくは、それがお前達が指摘した焦りという感覚だろうな」

 

 忍の世界は厳しい。

 ちょっと目を離した隙に、仲間が爆弾になって帰ってくるのだ。

 明日どころか、一秒先の未来すら読めない。

 故に、キヴォトスの人間とは常識がズレているのだ。

 

「そしてだ。先程も言ったが、ワシは既に死人だ。何者かの術で生き返らされた可能性がある以上、その者の意志一つで現状が崩壊する恐れがある。そう考えれば、今生きている内に引継ぎをしておいた方が、後々の混乱を抑えられる」

 

 穢土転生の術はワシが作った。

 ならば、似たような術を誰かが開発してもおかしくはない。

 故に、明日も生きているなどと楽観視は出来ない。

 

「それと、前任が死んでの交代だと後継者は中々に苦労するのだ。ワシも兄者から引き継いだ時もそうだが、自分の時も中々に難しい局面で任せてしまった。お前達には、出来る限り苦労を残したくはない」

 

 それに加えて、前任者が死んでの交代は色々と大変なのを身をもって知っている。

 若者に苦労をかけさせたくないと思ってしまう、爺心だ。

 

「……だが、それがお前達の目には性急に映ってしまったのかもしれんな」

「先生……」

 

 しかし、キヴォトスではそれは生き急いでいる人間の行動。

 常識の違いを痛感して、誰かも分からない声が零れる。

 

「ワシも、もうこの歳だ。お前達の手本として変わらねばならんとは思うが、体に染みついた習性までは変えられん」

「……先生って見た目だと分かんないけど、本当におじいちゃんなんだね」

「あのさ! あのさ! 違う星の人だからもしかして、私達と寿命が違うとかない? 200歳ぐらいまで生きれるとか…ね? ね!」

 

 見た目は全盛期のままの扉間だが、中身はしっかり歳を取っている。

 自分達よりも先に死ぬ人間なのだと、悟ったアツコが寂しそうに呟き、ミカが空元気を出しながら希望的観測を告げる。

 

「生憎、通常の方法での寿命はキヴォトスと変わらん」

「通常…? その言い方だと、特殊な方法があるように聞こえるな」

「ワシの作った禁術でな。魂だけを――」

「いや、いい! もうお腹いっぱいだ! 先生の技術は墓まで持っていくべきだ!!」

「でも、墓まで持っていっても先生相手だと蘇らされて、喋らされるんだよね……外道過ぎる」

 

 マコトの鋭い指摘に、寿命を延ばす方法自体はあると答える扉間。

 だが、その方法はマコトとアツコにシャットアウトされてしまう。

 穢土転生の術について聞いた手前、碌な方法である気がしなかったのだ。

 

 まあ、マダラも外道魔像(notチャクラ宙返り)で寿命を無理矢理伸ばしていたので、あの世界寿命を延ばす術は結構あるのだ。

 なんか、本体が死んだ後も生き続ける細胞とかもあるしな。

 

「フ、良い判断だ。定められた寿命以上に生きる人間に碌な奴はおらん」

「……つうかさぁ。今の先生の状態ってその寿命が伸びてる特殊な状況じゃねぇの?」

「……言われてみると、そうですね。先生、実は変な術を使ってたりしていません?」

 

 ネルの素朴な疑問に、アコが同意する。

 扉間のことなので、死後に発動する術でも作ったのではないのかと疑って。

 忍術を知らない子供達なのに、こうも疑うのは扉間の素の性格のせいだろうか。

 

「もしくはキヴォトスに転生でもしたのでは?」

『転生……仏教だと解脱をしない限りは輪廻転生を繰り返すと聞くわ。そう言えば、以前先生はアバンギャルド君を見て仏像のようで安心すると言っていたわね……仏教徒なら、その理論も成り立つ…?』

 

 ユキノの呟きに、リオがまさかアバンギャルド君に導かれてキヴォトスに来たのかと疑う。

 解脱の可能性?

 ちょっと見ただけで、罪だらけの扉間にはブッダの100倍ぐらいの転生数が必要だろう。

 

「転生? 知ってる。ヒヨリが最近ネット小説でよく読んでる異世界転生ってやつだ」

「『元忍者のワシが女子高生だらけの世界に転生!? チート忍術を使ってハーレムを……え? 忍術使えないんですか!?』。タイトルはこんな感じかな?」

「うーん。どっちかというと『敵の忍に捕まって殺されたはずの俺が転生!? もう忍者はこりごり。地元に戻ってスローライフを送りま――かかったな馬鹿め! 爆弾に気づいたようだがもう遅い!』じゃない?」

「うへー、それは先生にやられた人の方じゃない? 『元忍者のおっさん、女子高生の先生になる。~ワシがモテてどうする?~』でいこうよ」

 

 そして、ホシノとアツコはわいわいと転生物のタイトル大喜利を始める。

 まあ、扉間の戦術自体が『かかったな馬鹿め! 飛雷神斬り! ~マーキングに気づいたようだが、もう遅い~』と言った感じなので仕方ないだろう。

 

「はぁ…お前ら……まあ、疑う気持ちは分かるがワシは若返ってはおらん。甘いものを胃が受け付けんし、若い頃に比べると腰も重いからな」

「異世界とか転生とか忍術とかあるのに、理由が何だかしょぼくない?」

「仕方なかろう! 年寄りとは全世界でそういうものなのだからな!」

 

 クルミの呆れた視線に、扉間が抗議の声を上げる。

 若い頃の同窓会は話題が色々と分散するが、年を取ると必ず体のどこどこが痛いという話になる。

 それはきっと、異世界でも変わらない。

 

「その前に、お前達もっと何かないのか?」

「ああん? 何かって?」

「穢土転生の術はワシが作った。それに合った戦術もな。己の体でもやったが、基本は他人を爆弾にしてきた……ワシはお前達にご高説を垂れるような人間ではないのだ。お前達若い世代なら、もっと非難するものと思ったのだがな」

 

 扉間的には『穢土転生の術……許せねぇってばよ』と言われる方が嬉しい。

 自分が非難されるという事は、それだけ若い世代のモラルが上がっているという事なのだから。

 

「先生が卑劣なのは今更じゃない? それにおじさん達もあんまり人の事言えないし」

「というか、この面子で探られて痛くない腹の奴ってあたしぐらいじゃねぇの?」

 

 ホシノの言葉に、人の事を悪く言えるぐらい綺麗な奴いないだろと、ネルがグルッと周りを見渡す。

 

『……そうね。窃盗犯が人殺しを罵倒するようなものだわ。どちらも、一般人から見れば犯罪者よ』

「ですね。連邦生徒会の罪のない人を傷つけた私達が先生を責めるなんてとても……」

 

 リオとニコがネルの言葉に、気まずそうに頷く。

 

「クーデターって犯罪で良いよね? ミカ」

「え? いや、うん……はい、そうですね」

 

 アツコは同じクーデター仲間のミカに同意を求め、ミカは固い敬語で同意する。

 実に、頭トリニティな発言である。

 

 表面上だと、アツコのベアトリーチェへのクーデターについて言っているように聞こえるが、同時にミカのトリニティへのクーデターについて言っているのだから。

 ここで『そんなもの、トリニティだと煽りにもならないぞ?』と言い返せないのが、ミカがミカたる所以だ。

 

「キキキ、ここに居るのは各校のトップだというのに、実に嘆かわしいな。この羽沼マコト様のように清く美しい生き方が出来ないのか、全く」

「すいません。ちょっとこの馬鹿…失礼。アホのことは気にしないでください」

「言い直せてないぞ! 万魔殿として、正式に風紀委員会に抗議するぞ!」

「オウムに口論で判定負けした、ゲヘナの恥晒しは黙っていてくれません?」

「どこでそれを!?」

 

 そして、面の皮の厚いマコトは自分に汚い所などないと言い切り、アコに白い目を向けられる。

 副官というのは、どこもツッコミ能力が無いと生きていけないのかもしれない。

 

「え? (トリ)に口喧嘩で負けたの、()()()()()()?」

「は? 負けていないが? 仮に負けたとしても、奴はオウム。つまり、私の言葉がそのまま帰ってきただけの事。要するに、私が私の言葉に負けただけだ! それはすなわちマコト様の勝利だ!!」

 

 (トリ)ニティに口喧嘩で負けたの? とマコトを煽る、ミカ。

 それをなんか超理論を持ち出して、負けていない判定に持ち込もうとする、マコト。

 

「つまり、鏡に言い負けたってことであってる?」

「ある意味、ホラーだな」

「オウム返しされるなら、オウム(相手)を褒めたらいいんじゃない?」

『北風と太陽みたいね。オウムを罵倒すれば、罵倒するだけそれが返ってくる。逆に褒めれば褒める程、自分も褒められる。良い寓話だわ』

 

 オトギの言葉に、ネルが呆れながら返す。

 そして、ホシノが意外と頭の良いことを言ってリオに感心される。

 後の寓話『オウムとマコト』の誕生秘話である。

 

「じゃあ、小動物相手に罵倒したってこと? オウム可哀想……」

「罵倒の言葉を教えたのは別の奴らだ! 私は挨拶を教えただけだ!!」

「ゲヘナって一般市民がオウムに罵倒を教えるんだ。やっぱり野蛮だね」

「極一例を切り取って、あたかも全体がそうであるかのように伝えるのは偏向報道だ! どうやら、つい最近まで閉じこもっていたアリウスには、メディアリテラシーが身についていないようだな」

「『極一例を切り取って、あたかも全体がそうであるかのように伝えるのは偏向報道だよ?』」

「オウム返しだと? 貴様…ッ」

 

 良い煽り材料が出来たとばかりにアツコがマコトを煽る。

 アリウスは数百年前にトリニティと袂を別った存在。

 つまり、トリニティの薩摩。

 

 数百年の間に消えていったトリニティ古来の煽り技法が、未だに息づいている。

 そのロイヤルブラッドたる、アツコの煽り力が高いのも納得だ。

 見たか、これが王たる者の煽りだ。

 

「いい加減にしろ! いい加減に! 喧嘩をするな。今はそういった場合ではなかろう」

「そうだねー。喧嘩はいけないよー……そう言えば、何の話してたっけ?」

「あー、あれだろ? 先生が異世界転生してるってやつ」

「いえ、先生がシャーレを辞めるという件ですが……」

 

 女三人寄れば(かしま)しい。

 これだけの数の女子高生が居れば、うるさくもなろう。

 

「えっとね、とにかく! 私達は先生に辞めて欲しくないって言いに来たの! 先生がお兄ちゃんなら、最後まで妹を守ってくれないとね!」

『そうね。確かに先生の言う通りの問題もあるし、権力の分散も行うべきだわ。でも、私達は今まで通り先生に私達を見守って欲しいの……()()

「やめてくれ、リオ。その呼び方はワシに効く。やめてくれ」

 

 狙って言ったのか、天然か。

 ミカとリオに兄者呼びされて、見守って欲しいと言われた扉間は揺らぐ。

 生前は弟達を誰一人として守れなかったが故に。

 

「私に妹になる趣味はありませんが、それでも私を導いて欲しいとは思っています。だからこそ、スカウトに来たのですし」

「ゲヘナに来てもらうのが一番だが、無所属になるのが最も困るというのが本音だ。その点、シャーレは連邦生徒会。建前でも中立の立場にいるというのが、無難な選択肢だと思うが?」

「むぅ……だが、力は今のうちに移譲しておかんとな。急に居なくなってからだと、連邦生徒会長のように簡単に引き継ぐことも出来ん」

 

 こちらは理攻めで辞めるなと言ってくる、アコとマコトのゲヘナコンビ。

 マコトも真面目に中立の立場なら良いと告げるが、それでも扉間は渋る。

 最高権力者が消えてしまうと、他の立場の人間ではその権力を移行させられないのは連邦生徒会長が証明済み。

 せめて、SRT特殊学園が復活出来る程度には権力を戻したい。

 

「……既に前科のあるFOX小隊が言っていいか分かりませんが、余り強引な手段は反発を生むかと」

「そうですよ。私達だって無実の人を捕まえて、自分達だけ幸せになんてなれないですし」

「そもそも、辞めるって連邦生徒会に許可取ってるの? リン行政官っていつも忙しそうにしてるイメージがあるし」

「うんうん。何事も相談が大事ってねー。先生が辞めなくても、権限を委譲するか同等の権限を持てる人が居ればいいんじゃない? 新しく、連邦生徒会長を決めるとかしてさ」

 

 ユキノ、ニコ、クルミ、オトギから辞めなくても、権力だけ移譲すればいいと意見が出る。

 実際、生徒達からすれば、先生として残ってくれればそれでいいのだ。

 今まで振るえていた強権?

 先生なら、グレーゾーンを突いて権限なくても上手くやるでしょ(負の信頼)。

 

「取りあえず、連邦生徒会と話し合った方がいいんじゃないかなー? それこそ消える心配があるなら今の内に。まあ、おじさんも歳だから働き続けることの辛さは分かるからさぁ、任期決めまでは反対しないよ……連邦生徒会に従うのは癪だけどねぇ」

「ここで、辞める辞めないをあいつらに決めさせときゃ、それこそ先生の言う“制限を受けることで先生がどこまでやっていいかの範囲”になるんじゃね?」

「うん。明確に連邦生徒会が上って例になれば、今後の()()の暴走は防げると思うよ。あ、アリウスの校長はそのままトップでお願いね。なんか最近、また厄介ごとが生えてきそうな気がしてきたし」

「確かに……今回の件の処分を全て連邦生徒会に任せれば、“先生も連邦生徒会の一部”でしかないという根拠を未来に残せるか」

 

 ホシノとネル、そしてアツコからも折衷案として、一旦連邦生徒会に丸投げするべきと出される。

 そして、扉間もその理屈に一理あると納得を見せる。

 あなたの起こした騒動の対応で、徹夜している行政官もいるんですよ?

 

「因みにだが……連邦生徒会がワシを辞めさせると言った場合はどうする?」

 

 だが、同時に気になることもある。

 扉間的には勝利だが、生徒達の要望が通らなかった場合だ。

 

「トリニティは良い所だよ? 先生。美味しいお菓子も、紅茶も、いーっぱいあるよ!」

『いえ、ミレニアムの方が常に最新技術に触れることが出来て快適よ』

「ゲヘナに来い! 私の下でなら、先生のキヴォトスの平和への想いも必ずや果たされる!」

「フフ、アリウスにはもう先生専用の家があるんだよ? 知らなかった?」

「………ア、アビドスには和があるから」

 

「ふぅー……確かに明確に中立の立場の方が良さそうだな」

 

 おいでませ、我が故郷へ。

 ニッコリと威圧感のある笑顔を浮かべる各校のトップ達に、扉間が溜息を吐く。

 まあ、約1名ホシノだけは何も無い地元に内心で泣いているが。

 

「とにかく、ここにおっても何も始まらんか……一度、リンの下を訪ねるとしよう……と、その前に」

 

 扉間がそろそろ時間だなと、シッテムの箱を起動してテレビを見る。

 すると、そこには。

 

『見てくれ! 何年も前に禁止になった違法兵器だ! 先生を追っていて、とんでもないものを見つけてしまった! どうしよう!?』

『カイザーPMC……子ウサギ駅の地下にこんなものを…! きっと、連邦生徒会を狙うために地下サイロに違法兵器を運び込んでいたんですね』

『きっと、カイザーPMCのジェネラルって奴の仕業だねー』

『い、いっこくもはやくつかまえないとー』

 

 扉間を探すという体で、()()地下サイロを発見したRABBIT小隊が映し出される。

 偶然なのに? なんで、生放送?

 偶々、今話題のRABBIT小隊を取材していただけですよ、偶々。

 ほら、ちゃんと現場に居たPMC兵士は抵抗しているのでヤラセじゃないですよ?

 

「後始末をしていかんとな」

 

 RABBIT小隊の声にソワソワしているユキノ達に、シッテムの箱を渡して放送を見せつつ扉間は今度はスマホを取り出して電話をかける。

 

「ワシだ」

『もしもし、先生かね?』

「RABBIT小隊の放送は見たな、若造。ジェネラルはこちらで捕らえた。ワシを殺そうとした証拠も流す。すぐに()()()に動け」

『分かっている。なに、任せておくがいい。しっぽ切りはカイザーの得意分野でな、ククク』

 

 電話の先は元理事。

 いや、数日後にはPMC()()に戻っているであろう男だ。

 

『連邦生徒会への侵略のためにジェネラルが()()()子ウサギ駅に地下サイロを作り、禁止兵器を持ち込んだ。そして同時に、侵略の際に邪魔になる先生を殺すために、凶悪犯罪者・陸八魔アルと共にシャーレを爆破した。大筋はこのシナリオで構わんかね? 何なら、先生の悪評の件もジェネラルが流したとリークするが』

「それで構わん」

『了解した。ククク、これから忙しくなるな。では、今度はこちらから連絡する』

 

 自分の後釜に収まったジェネラルを追放し、そこに返り咲く。

 後、恨みのあるアルに罪をなすりつけられるので、上機嫌に理事は笑う。

 アルの冤罪を止めないのか?

 襲撃自体は本人の意思なので、罪の重さが変わるぐらいなのでどうしようもない。

 

「うへー……なんか、聞き覚えのある声がしたんだけど、先生」

「お前の予想通りの相手だ、ホシノ」

「うん。やっぱり、先生が先生辞めるのは無理じゃないかなぁ。余罪が多すぎるよぉ」

 

 今の地位が無くなったら、まずい人間すぎるとホシノが乾いた笑いを浮かべる。

 まあ、扉間本人は命もチップ感覚で払える状態なので、ある意味で無敵の人状態だ。

 

「さて、話も終わった。では連邦生徒会に赴くとするか……お前達の先生を続けるためにもな」

 

 そして、扉間は連邦生徒会へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「なるほど……ご説明は分かりました。先生の言い分も分かります」

「すまんな、リン」

「いえ、構いません……ですが、議論を行うその前に1つ」

 

 扉間の今回の行動と、危惧する問題点。

 そして、相談したい件を伝えるとリンは大きく溜息を吐く。

 

「先生は私の先生でもありますよね? そして、大人であるなら子供の癇癪を受け入れてくれるとも、信じています」

「う、うむ」

 

 スチャッと眼鏡を指で押し上げるが、その下には分厚い(くま)が出来ていることを見て取り、扉間はばつの悪そうな顔をする。ちょっと、事前説明も無しに振り回し過ぎたと。

 

「では、今回の騒動を起こしたこと。相談なしに連邦生徒会を振り回していること。そして、ここ数日関係各所の対応で眠れていないこと。後、その他もろもろについて――」

 

 だから、これから起こることは甘んじて受け入れるしかない。

 結婚していない扉間だが、女性の怒りに反論してはいけないことだけは分かっている。

 つまり。

 

 

「―――怒らせて頂きますね?」

 

 

 リンちゃん、キレた!

 






おまけ「トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ?」




「全く、お前達は……ツクヨ以外、宿題を忘れていたとはな。この量を前にしては……笑えんぞ」
「だってぇ~! 忍者本のことで頭がいっぱいだったんだもん!」
「イズナは、バイトで手一杯で……」

 夏休み終了まで後10日。
 止まない雨が無いように、終わらない夏休みも無い。
 いつかは現実と向き合い、大人にならなければいけない日が来るのだ。
 主に、遊びだけでなく宿題(ぎむ)をこなすという行動で。

「黙れ。ツクヨは計画的に取り組んでおったぞ? 何故あれだけの本を計画的に作れて、宿題の予定が立てられんのだ」
「あ、あの……先生、そこまで言わなくても」

 半ベソをかきながら、夏休みの宿題に向かい合うミチルとイズナ。
 その後ろでは、ツクヨがポンポンをもって応援しているが、どことなく申し訳がなさそうだ。

「むぅ……まあ、夏休みが終わったわけではない。期限に間に合えば、どのようにこなしてもいいのもまた事実か」
「ほらぁ~! だから、(あたし)達は悪くないんだよ~」
「だが、お前達がつい先程まで宿題を忘れていた事実は消えんぞ」
「お、おっしゃる通りです…うぅ」

 現状、別に悪いことをしたわけではないが、それはそれ。これはこれ。
 叱られることに間違いなどない。

「一人前の忍となったとはいえ、お前達はまだ下忍。忍術だけでなく、知識もつけていかんと上にはいけんぞ」
「ええぇ! まだ上があったのぉ!?」
「当たり前だ。お前達に教えることはまだ幾らでもある」

 下忍のまま火影になるなんてのは、どこぞの7代目火影ぐらいなものだ。
 そもそも、子供が死なないために任務をランク分けして、忍を階級分けしたのが扉間と柱間だ。
 下忍のまま、上の仕事をやらせたりなどするわけがない。

「に、忍者の道は1日にしてならず……ですね」
「当然だ。何事も、なってからが本番だ。お前達もいずれは弟子を取る時が来る。そのために中忍・上忍と上に行かねばならんのだ」
「道は険しいですね……」

 ツクヨとイズナが道の過酷さに、遠い目をする。
 私達はまだ登り始めたばかりらしい。この果てしない、忍坂を。

「案ずるな。そのためにワシが居るのだ」
「先生殿ぉ…!」
「お前達が独り立ちできるその時まで、ワシが傍に居てやろう」

 下忍を放置しないように。
 子供達だけで戦って死なないために、担当上忍を作ったのも扉間と柱間だ。
 少なくとも、中忍になるまでは放置するわけもない。


「―――忍術研究部の顧問としてな」


 そう言って扉間は、彼女達がつけた額当てを見つめるのだった。



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