千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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6話:大人

 

「それで、どういうつもりなの?」

 

 アビドス高等学校に戻った扉間達。

 その会話はセリカの怪訝そうな声から始まった。

 

「カイザーローンと手を組むなんてどうかしてる。あいつらがまともな奴らじゃないのはわかったでしょ!?」

「情報収集のためだ」

「だからって!」

「せ、セリカちゃん落ち着いてください!」

 

 バンと机を叩きつけながら、苛立たし気に声を荒げるセリカをノノミが宥める。

 しかし、だからと言って、扉間への詰問をやめろと言っているわけではない。

 何か理由があるんですよね、と扉間に不安気に目を向ける。

 

「あの下っ端を追い詰めたところで、尻尾切りをされて終わるだけだ。問題を解決するのに必要な情報は得られん。故に、泳がせたのだ。握手をした際に()()()()()()()()

「おー、流石はトビラマ先生。腹黒いことをさせたら右に出る人はいないねー」

「そうでもない。ワシより腹黒い奴など幾らでもいる。お前達も少しは腹芸を覚えておけ」

 

 ホシノの若干責めるような言い回しにも、特に動じずに扉間は平然と返す。

 

「さて、まずは奴との会話で分かったことがある」

「脅して揺すれば、お金を貰えるってことだね」

「シロコ、目先の金にばかり捕らわれるでない。いつの時代も真に価値があるのは、情報だ。あれは確認のためだ」

 

 1ヶ月分の借金が帳消しになったことで、負の成功体験を得てしまったシロコを嗜める扉間。

 いつの世も、合法的に稼ぐ手段以上に良いことは存在しない。

 ヤクザだって、今どきは表の顔を持っているのだ。

 

「確認ですか?」

「ああ、分かったことは3つある。まず、1つ目はカイザーローンはこの学校の借金の回収をする気がないということだ」

「何となくそんな気はしていましたが……どうしてでしょうか?」

 

 借金の回収はどうでもいい。

 扉間の言葉に、やはりと呟くアヤネ。

 まともな、銀行なら口約束で借金を減らすわけがない。

 しかも、下っ端がだ。

 

「借金が返せなくなった時に、何が起こるか。それが奴らの真の狙いだ」

「アビドス高等学校がカイザーローンのものになる、ですね。でも……そんなことをして何になるのでしょうか? こんな人の居ない土地を狙う理由が思いつきません」

 

 カイザーローンはアビドス高等学校が欲しい。

 それは分かるが、何故欲しがるのかが分からないとノノミは口にする。

 資産的価値はないので、9億の負債と比べれば大赤字である。

 

「恐らくだが、そこで2つ目の分かったことが関係するのだろう。ホシノ、1つ聞くが奴らが居た場所はアビドス高校の自治区で間違いないか?」

「基本的には、アビドス地域は全部学校の自治区だよー。他の学校と同じだよ」

「ふむ……だが、奴は()()()()()()()()の土地だと言っていたぞ?」

「え?」

 

 眠そうな目を見開く、ホシノ。

 そんなことなど、思いもしなかったという顔だ。

 他の生徒達も同様だ。それ程に、自治区は学校のものというのが常識なのである。

 

「そ、それは本当なのでしょうか…?」

「土地の権利者が明確に奴らのものになっておった。それにこのタブレットにしっかりと()()()()()奴との会話でも確認できる。そして、ここから考えれば奴らの狙いはアビドスの地全土をカイザーグループのものにすることだ。金ではなく、土地こそが奴らの本当に欲しいもの」

「だ、だったら、カタカタヘルメット団が学校を襲ってきていたのって……」

「学校の放棄。つまりは、土地の権利の放棄を狙って雇ったのだろうな。お前達が稼いだ金を使って」

 

 扉間以外の全員の瞳に怒りが宿る。

 それもそうだろう。自分達が学校を守ろうと稼いだ金で、学校を害されていたのだ。

 これで怒るなという方が無理がある。

 

「まあ、土地の事は大した話ではない。重要なのは、3つ目なのだが――」

「ちょっと待ちなさいよ……なんで、そんな淡々としてられるのよ…ッ」

「……セリカちゃん」

 

 しかし、扉間は特に何かを思った様子もなく淡々と話を進めて行く。

 だが、そこへセリカが食ってかかる。

 

「あんたにとっては、どうでもいい場所かもしれないけど! そういう言い方はないでしょ!? アビドスは私達の大切な故郷なんだから! あんな奴らに好き勝手にされて許せるわけないでしょ!!」

 

 許せなかったのだ。自分達の大切な物がどうでもいいように扱われるのが。

 故郷が自分達のものでなくなっていっているのに、部外者が淡々としているのが。

 許せなかったのだ。

 

「セリカ」

「何よ、どうせ冷静になれとか言うんでしょ! 知らないわよ、私はあんたと違って頭の良くないバカなんだから!!」

 

 そんなセリカを無表情で見つめる扉間。

 一触即発の状況に、他の面々はオロオロとした様子で2人の顔を交互に見る。

 そして。

 

「感謝する。ワシを叱ってくれて」

 

 扉間は礼を言った。

 

「……は?」

「土地のことは大したことではないという、ワシの意見は変わらん。他にもっと重要なものはある。だが、お前の言う通りに、この地に住む者には失礼な言い方であった。故に、礼を言ったのだ」

 

 頭を下げて、自分の非を認める扉間。

 普段の姿からは想像できない、そんな姿に生徒達は。

 

「に、偽物よ! 一体いつの間に入れ替わったの!?」

「先生の偽物……許さない」

「いいえ、もしかしたら誰かに洗脳されている可能性も」

「大丈夫ですか、先生? 私達のことが分かりますか?」

「あははー、これは大ごとだねー」

 

「お前達……全員廊下に立っておれ!」

 

 偽物ではないかと疑いの目を向けるのだった。

 流石の扉間もこれには、青筋を立てて怒りをあらわにする。

 生徒達が女性でなければ、間違いなく拳骨を入れていただろう。

 

「あ、先生だ。安心した」

「でも、急に先生らしくないねー。普段なら、感情を入れるなとか言いそうなのに」

 

 冷や汗を拭って息を吐くシロコに、最初からからかっていたホシノ。

 そんな生徒達に、何とか怒りを鎮めた扉間が語りかける。

 

「ワシが常に冷静になれと言うのは、理想を叶えるためには現実を見なければ何も始まらんからだ。感情を否定しているわけではない。むしろ、理想や感情がなければ世の中は回らん」

 

 理想とは奇跡が起きて叶うものではない。

 一歩一歩、現実を歩いて行った先にあるものなのだと、扉間は言う。

 

「だが、ワシも人間だ。現実に寄り過ぎることもあれば、理想に傾倒することもある。そうした時に、それを正してくれる人間が……ワシを叱る者が必要なのだ」

 

 扉間! そういう言い方はよさんか!

 

 思い出されるのは、いつも自分の行き過ぎた発言を叱っていた柱間の声。

 時には煩わしいと、いや、この馬鹿兄者と何度思ったかは数えきれない。

 だが。

 

「間違いを犯さない人間などいない。だからこそ、他者が必要なのだ。だが、人間というものは歳を取れば取るほどに叱られる機会が少なくなる。ワシも、兄者以外に叱られたのは久しぶりだ」

 

 柱間は弟を残して死んだ。

 弟を叱ってくれる兄は居なくなった。

 里の長として、トップに立つ扉間を遠慮なく叱れる者はいない。

 

 そこで、改めて思い知らされた。自分はどこまでいっても長男に頼る次男だったのだと。

 

「故にお前に感謝したのだ、セリカ。ワシの間違いを正してくれたとな」

 

 生前は自分が里の長男であり、父だと言い聞かせて気を張っていた。

 自分の判断が間違っていたとは思わない。だが、全てが成功だったとも言えない。

 うちはへの処遇も柱間が居れば、違ったものになったかもしれない。

 そうなれば、ナルト達へ負の遺産を残すこともなかった可能性がある。

 まあ、全ては仮定の話なのだが。

 

「………き」

 

 そんなとても真面目な話をした扉間に対して、セリカは。

 

「き、気持ち悪い……叱られてお礼を言うなんて」

 

 ちょっと引いていた。

 

「いやー、先生に女子高生に叱られるのが好きなんて趣味があったなんて、驚きだねー」

「先生、私も叱ってあげましょうか?」

「人を変態みたいに言うでない! 真面目な話をしておったのだ!!」

 

 大人が女子高生に叱られて喜ぶ。

 まあ、ここだけ抜き出せばSMプレイに興じているようにも見えかねない。

 当然、扉間は心外だとばかりに叱りつける。

 

「ホシノ先輩にノノミ先輩、先生は真面目な話をしていたので、余りからかわないでください。話が進みません」

「あはは、ごめんってばー。ちゃんと、先生の言いたいことは伝わったから……ね? セリカちゃん」

「フン……まあ、先生の本音は分かったから許してあげるわよ」

 

 だが、まあ、それでも言いたいこと自体は伝わっていたのか柔らかい態度になる。

 先生への信頼度が上がったのだ。

 

「まったく……それで、3つ目の事なのだがな」

「重要って言っていましたね」

「注目……」

 

 一つ大きなため息をついて、改めて話を戻す扉間。

 生徒達も緩めていた空気を引き締める。

 

「ホシノ、お前は―――カイザーグループと接触しておらんか?」

「……私が?」

 

 そして、告げられた言葉にホシノの顔が一気にこわばる。

 

「ホシノ、お前はワシがここに来るまではアビドス高等学校の最後の生徒会員だったということに間違いないな?」

「そこまで調べてたんだねー。うん、そうだよ。おじさんが最後の生徒会員だった。まあ、今は先生のおかげで、対策委員会が生徒会になったけど」

「そして、生徒会だけが学校の土地を売る権利を持つ……間違いはないな?」

「そうだね……」

 

 生徒会は学校の所有者である。

 故に、そこに存在する土地を買いたい場合は、当然生徒会に話を通さなければならない。

 つまり、扉間が対策委員会を公式に認めるまでは、その権利はホシノだけが持っていた。

 

「ワシが来るまでの間なら、ホシノだけを説得すれば土地を得ることが出来た。ならば、ホシノに接触しない理由はない。普通に土地を売ればよし。しぶっても、何らかの交渉で学校から離れさせれば、生徒会の居ない学校は誰の土地でもなくなる」

「ホシノ先輩は私達を裏切らない…!」

 

 まるで、ホシノが裏切り者であるかのように告げる扉間をシロコが睨みつける。

 彼女にとっては、ホシノは最も親しく恩のある先輩。

 疑われるのが許せないのだ。

 

「裏切ろうと思って裏切る者は存外少ないものだ。ワシも敵を寝返らせるときは、直接的な裏切りはさせなかった。例えばだが、シロコ? お前の腕を見込んで引き抜きたいと、他校から引き抜きがあったとする。当然お前は最初は断るだろう。だが、こちらに来てくれるなら借金を全て肩代わりしてくれると言われたらどうする?」

「…………」

 

 シロコは答えられなかった。

 自分1人が犠牲になるだけで、学校が守れるならそうする。

 思わず、そう思ってしまったからだ。

 

「そして、ワシなら最後の生徒会員を引き抜いて、権利者が居なくなった学校を堂々と買い取るだろうな」

「そんなの…!」

「権利者が居ない空いた土地なら、金さえあればいい。そして、シロコとの契約通り借金分も全てこちらで払うのだ。嘘は言っておらんし、何より合法的だ。誰にも止められはせん」

 

 シロコは約束と違うと言いそうになるが、扉間は首を振る。

 あくまでも嘘は言わずに、合法的に相手をはめる。

 これが大人の汚いやり方なのだと。

 

「いいよ、シロコちゃん。私1人で接触していたのは事実だし」

「え! どういうことですか!?」

「ホシノ先輩、1人で何してるの!?」

 

 そして、他ならぬホシノがそれを認める。

 当然、他の対策委員会の面々はホシノへと詰め寄る。

 

「いやー、おじさんの権利を全部渡してカイザーの兵士になるなら、借金はどうにかするって言われてるんだけどねー……うん、今の先生の話を聞いて分かった。騙される可能性が高いね」

 

 それに対して、ホシノは笑いながらも気まずそうな表情を見せる。

 まあ、あれだけ正確に自分と同じような状況を言われたら、そうもなるだろう。

 客観的に見ても、自分は騙される寸前だったのだと。

 

「やはり、そうか……一度、そやつらと話す必要があるな」

 

 そして、扉間は危惧した通りの状況に渋い顔をしつつ腕を組む。

 対策委員会が公的な委員会となったことで、ホシノ1人に接触する必要は少なくなった。

 だが、目をつけられている可能性はまだある。

 油断は出来ない。

 いっそ、交渉の席につければ……と考えていた所でアロナから声をかけられる。

 

『トビラマ先生、会議中にすみません。メールが届いています』

「む? アロナ、お前がわざわざ声をかけて来たということは、火急の用件か?」

『いえ、急ぎではないのですが……カイザーローンからのメールだったので』

「分かった、すぐに確認しよう」

 

 (くだん)のカイザーローンからのメールとあって、すぐにタブレットを取ってメールを確認する扉間。

 そんな扉間の様子を、対策委員会の面々はキョトンとした表情で見つめる。

 

「これは……なるほど、使えそうだな。アロナ、お前も勘が鋭くなってきたな」

『えへへ、それほどでも』

「あ、あのー、先生?」

「どうした? アヤネ。まるで、幽霊でも見るような目をして」

 

 その後も会話を続けるアロナと扉間だったが、流石に耐えきれなくなったのかアヤネが恐る恐る声をかけて来る。

 

「その先生は……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 彼女達からは1人で喋っているようにしか見えない扉間に対して。

 

「どなただと? アロナだが」

 

 そう言えば紹介していなかったと思い出し、扉間はシッテムの箱を5人の前に出して画面に映るアロナを見せる。

 

『アロナです。よろしくお願いします』

 

 だが。

 

「……おじさんの目にはメールしか映っていないけど」

「もしかして、先生ってタブレットに名前つけてるの?」

「まあ、最近は言葉だけで操作できるものもありますし」

「可愛いですねー、先生」

「ゆ、幽霊じゃないわよね?」

 

「……どういうことだ?」

 

 アロナの姿も声も、扉間にしか聞こえていなかった。

 

『あ、そう言えば、私は先生にしか感知できないんでした。すみません』

「なるほど……そういうことか。どうやら、アロナは管理者にしか感知できんらしい……だが、これは使()()()()

 

 どういうことかと聞くと、アロナはテヘペロと舌を出しながら、説明していなかったと告げる。AIのくせに随分と抜けた性格をしているものである。

 

「そう言って実は幽霊じゃ……あ、タブレットに勝手に文字が浮かび上がって『アロナは幽霊ではありません(*`Д´)』……ご、ごめん」

「あ、また文字が浮かび上がってきましたよ。『分かってくれたら、大丈夫です(*^^*)。これからよろしくお願いしますね(^_-)-☆』はい、よろしくお願いしますね、アロナさん」

 

 しかし、自分の意思を伝える方法ぐらいは持っているらしくタブレットを自分で操作して、文字でコミュニケーションを取ることに成功する。ついでに、最先端のAIのくせに妙に古い顔文字を使っているのは扉間の影響だろうか。

 

「さて、自己紹介はすんだようだな。アロナ、すまんが先程のメールを皆にも見せてやってくれ」

『はい、了解です!』

「えっと……これって、カイザーローンからのメール?」

「わざわざ、先生個人に送ってきているってことは、借金とは別の事かねー」

 

 そして、ようやく話が進んだことでカイザーローンからのメールに目が向く。

 憎き、カイザーローンからのメール。

 全員が親の仇のようにして見る、その文には。

 

『いつもありがとうございます。こちらカイザーローンでございます。実はですが、こちらの上司が是非ともトビラマ先生とお話ししたいと申していまして。よろしければ、先生のご都合のつく日時などをお聞きしてもよろしいでしょうか?』

 

 先生との話し合いを望む文章が(したた)められていた。

 

 

 

 

 

「ここが奴らが会談の場に設定してきたカイザーローンの本社か……探知機をつけた奴が戻った場所と変わらんで手間が省けた。アロナ、準備は出来ておるな?」

『はい、大丈夫です。学校の方の監視カメラも正常です。それに、いざという時は私が守ります! ……と言っても、やっぱり心配なので気をつけてください先生』

「ああ、今度は殺されんように気をつけるとしよう」

『今度は…?』

 

 疑問符を浮かべるアロナを放置し、扉間は建物の中に、カイザーローンの中に入って行く。

 そして、中で待っていた接待係に案内されて、応接室へと向かう。

 無駄だと感じる程に華美な装飾がされた部屋。

 それは、カイザーグループの財力と権力を誇示するように見えた。

 

「初めまして、先生。私はカイザーPMCの理事。そして、カイザーローン・カイザーコンストラクションの幹部を兼任している者だ」

「一介の教師への出迎えとは思えんほどに、豪華だな」

「なに、私達カイザーグループはそれだけ先生の影響力を買っているということだ」

 

 中に入った扉間を出迎えたのは、大柄のロボットのような見た目の男性。

 カイザーPMC。即ち、民間軍事会社(Private Military Company)のトップがそこに居た。

 

「さて、立ち話もなんだ。かけてくれたまえ。飲み物は紅茶か、コーヒー、どちらが好みかな?」

「緑茶だ」

「フフ、用意させよう」

 

 お互いがお互いに警戒心を抱きながらも、それを表に出さないように振舞う。

 会談とは話し合いではない。

 弱みを見せた方が負ける殺し合いである。

 

「まずは、私の部下を助けてもらったことに礼を言おう」

「不要だ。そのようなことを話しに来たわけではない。貴様もそうだろう?」

「なるほど……いいだろう。では、単刀直入に言おう。トビラマ先生にはアビドス高等学校の生徒を転校させてもらいたい」

 

 生徒を転校させろ。

 その横暴とも言える言葉にも、扉間は眉根を動かさずに、ただ、やはりかと思う。

 

「理由はなんだ?」

「既に知っているだろうが、我々カイザーグループはアビドス高等学校の自治区を買い上げていっている。もちろん、合法的にだ」

「……そして、最後に残った学校を買い上げるために生徒を転校させて欲しいわけか」

「その通りだ。話が早くて助かるよ」

 

 目的は大方の予想通りに、アビドス高等学校の自治区を全て買い上げるため。

 今までの流れから考えれば不自然な点はない。

 しかし、分からないことがまだある。

 

「お前達はこの地域を買い上げて何をするつもりだ? 非合法なことが狙いならば、流石に頷くわけにはいかん」

 

 それを買い取った上で、何をするかだ。

 

「何も違法なことなど企んではいない。ただ、ここに学校を新しく建てようと思っているだけだ……カイザーPMCによる軍事学校をな」

「軍事学校……なるほどな。一企業ではなく、学校として影響力を強めるためか」

 

 それに対して、カイザーPMC理事は平然と答える。

 自らの会社による新たなる学園の設立だと。

 当然、学校を作ることが違法なわけがない。

 そして、ここ学園都市キヴォトスにおいては学園というものの影響力は計り知れない。

 学園というよりは国と言った方が早いかもしれない。

 ならば、学園を作るメリットは確かに大きいと言えよう。

 

「その通りだ。カイザーグループは更なる発展を遂げねばならない。そのために、このアビドスの地が必要なのだ。私としても()()()()()()()()、生徒達には転校してもらいたい」

「それで、ワシに生徒の説得。転校先の斡旋をして欲しいわけだな」

「ああ、私も生徒に不幸になって欲しいわけではない。ただ、ここから居なくなって欲しいだけだ。安心してくれ、借金に関しても全てこちらで受け持つ。なんなら、生徒達の引っ越し資金も融資しようじゃないか。無論、無償でだ」

 

 人を安心させるような声で、カイザー理事が話を続ける。

 何も悪いことはない。むしろ、利益しかないのだと子供に教えるように。

 

「もちろん、先生にも協力してくれたあかつきには報酬を出そう」

「ほぉ、どういったものだ?」

 

 扉間が挑発するように声をかけると、カイザー理事は白紙の小切手を差し出す。

 

「好きな額を書きたまえ」

「金か……確かに、いくらあっても困るものではない」

「先生は話の分かる大人だと、聞いている。なに、生徒のことが心配ならば生徒達とまとめて一生遊んで暮らせる額を書けばいい。我々にはそれだけの力がある。何も心配することはない」

 

 もう諦めろ。

 諦めさえすれば、甘い汁が吸えるのだ。

 ならば、何を戸惑う。

 険しい道を諦め、簡単な道を歩くことは悪いことではない。

 カイザー理事はそう告げる。

 

「アビドスでなくとも、学校なら幾らでもある。近場のゲヘナでもいい、トリニティでもいい。道は幾らでもある。ただ、アビドスさえ諦めて貰えればいいのだ」

「諦めろか……そうだな、ワシなら諦めて利を取るだろう」

「では――」

「だが」

 

 自分なら損得を計算して、利益を得る方に動く。

 そう告げる扉間に、喜色の声を上げるカイザー理事。

 しかしながら。

 

 

「―――ワシの生徒達は決して諦めんだろうな」

 

 

 扉間は否定の言葉を返す。

 

「……その諦めの悪いバカな生徒を先生に説得して欲しいと言っている」

「若造が。貴様はバカというものを理解しておらん」

 

 バカな人間に何を言っても変わることはない。

 心に通った真っすぐな忍道は、決して折れない。

 柱間やナルトのように。

 

「バカな人間とはな、決して諦めんのだ。こちらにオレが諦めるのを諦めろと言ってくるようにな」

 

 フッと楽しそうに笑いながら、扉間は立ち上がる。

 交渉は決裂だと告げるように。

 

「生徒が諦めんのだ。ならば、先生であるワシが先に諦めることは許されん」

「……話が分かる大人だと、思っていたが残念だよ。先生もどうやらバカだったようだ」

「フ、生まれて初めて言われたが……なるほど、悪い気はせんな」

 

 カイザー理事もそれを理解して立ち上がる。

 そして、懐から銃を取り出す。

 

「ここで、お別れ……と言いたいところだが、もう一度だけチャンスを上げよう」

「ほう? なんだ、言ってみろ」

「先生は生徒を非常に大切に想っているようなので、質問しよう。もしも、もしもだ? その生徒が危険に晒されれば、自分の信念とどちらを優先する?」

「若い者の命に決まっておろう」

「ふっふっふ、即答とは、見上げた教育者魂だ。では、1ついいことを教えてやろう。今現在、アビドス高等学校は便利屋68の()()()()()()()()

 

 カイザー理事が得意げに語る。

 便利屋68は、ゲヘナ学園の指名手配犯の陸八魔(りくはちま)アルが率いる4名から構成される何でも屋である。

 金さえ積まれれば、何でもやる。

 

 これだけだと単なる不良生徒に聞こえるかもしれないが、その実力は非常に高い。

 アビドスの生徒達と真正面からやり合える実力を持つ。

 故に、カイザー理事は交渉が決裂した時のために、アビドス高校を襲うために雇っていたのである。

 

「ああ、便利屋68が何か分からないか。説明してやろ――」

 

『トビラマ先生、アビドス高等学校の校門につけた監視カメラで確認できる範囲だと、主だった敵は4名でリーダーらしき人がアルちゃんと呼ばれています』

「4名の構成で、リーダーはアルという女だな」

 

 扉間はチャクラ感知を行うように腕を組んで、ワザとらしくアビドス高等学校の方角を見る。

 まるで、今相手を感知しているとでも言うように。

 

「……なるほど、流石は先生だ。要注意生徒は調べているか。だが、今回は便利屋に加えて――」

『後ろには傭兵さんが、えーと、50人ぐらい居ます』

「傭兵を雇っているのか。数は……ふむ、50名程度か」

「な、なぜ分かる…?」

 

 カイザー理事の言葉を先回りして答えて、動揺を誘う。

 

「今まさに見ているからに決まっておろう」

『はい、アロナがしっかり見ています!』

「何を……ディスプレイもイヤホンも無いのにどうやって…?」

 

 便利屋68達は扉間がこちらに来てから動き出したのだ。

 リアルタイムで見ていなければ、動向が分かるはずがない。

 だというのに、扉間は何も見ていない。イヤホンすらつけていない。

 仮に、スピーカーから音を流していれば、カイザー理事にも聞こえるはずなのだが聞こえない。

 故に、情報を知る術などないはずなのだ。

 

()()というものを知っておるか? 実はワシは忍者でな」

「忍者だと…?」

『忍法! ハッキングの術です! 監視カメラがある場所は筒抜けです』

 

 そこへ扉間はニヤリと笑って、忍術という言葉を口にする。

 

「馬鹿な……子供騙しならともかく、忍術などと言う胡散臭いもので離れた相手の行動を知ることなど出来るわけが」

『あ、先生大変です! 部屋のすぐ外に武器を持った人がたくさんいます!』

「遠くだけではない。例えば……すぐ外に潜ませている奴らのことも分かるぞ?」

「…ッ」

 

 交渉が決裂した際に先生の始末用に用意しておいた、戦力のことも言い当てられカイザー理事は顔を青ざめさせる。本当に、忍術などというものが存在するのかと恐れているのだ。

 

「だ、だが……例え、相手の位置を感知出来たところで戦力差は覆せん。アビドスは多勢に無勢の上に指示を出す先生は居ない。こちらも多勢に無勢だろう」

 

 しかし、数の利は間違いなくこちらにあることを思い出し、何とか冷静さを取り戻す。

 アビドス高等学校が最近、目覚ましい活躍を為している理由は()()()からの情報提供で分かっている。

 

 先生という司令塔が居るからだ。

 だが、今その司令塔はここに居る。

 対策委員会の不利は変わらない。

 

『どうしましょう、先生? 私が先生の指示を伝えましょうか?』

「ワシの指示は必要ない。あちらは生徒達だけで十分だ」

「なに?」

「貴様には、先生の役割が分かるか?」

 

 しかし、扉間は欠片たりとも焦る様子は見せない。

 

「先生とは、子供の手を引き共に楽な道を歩く者ではない。子供が1人で険しい道を歩いて行けるように先頭に立ち、その背中で険しい道の歩き方を教える者のことを言うのだ」

 

 教師の仕事は子供の困難を取り除くことではない。

 子供が困難に当たった時に、それを乗り越える術を教える者なのだ。

 

「先生が居なければ何もできないでは、教育失敗だ。教育の成果とは生徒が先生の手を離れた時にこそ発揮されるもの。この程度の困難、乗り越えられぬ奴らではない」

 

 それが先生(ほかげ)としての、扉間の信念。

 後を託すために、未来を信じられるように行うのが真の教育。

 

 

「―――オレの生徒を舐めるなよ、若造が」

 

 

 圧倒的な生徒への信頼。

 それが威圧感となり、カイザー理事の肩に重くのしかかる。

 そして、今更ながらに気づく。

 自分はとんでもない相手を、敵に回してしまったのではないかと。

 

「……確かに、便利屋は負けるかもしれない。だが、この場でお前を殺すことは出来る」

 

 だとしても、カイザー理事は膝をつくことはなかった。

 銃を構えなおし、しっかりと扉間の心臓を狙う。

 目の前に居るのは必ずや、カイザーの野望の前に立ち塞がる存在。

 ここで、仕留めておくべきだ。

 

「フ、撃ってみろ」

「な!?」

「防いでやろう。()()()の忍術でな」

『はい、忍法シールドの術ですね!』

 

 だが、扉間はそれを鼻で笑い、アピールするように大げさに印を結ぶ。

 何かある。カイザー理事はそう思うが、どう見ても自分と扉間の間に防ぐものはない。

 故に。

 

「―――いいだろう! 地獄で後悔しろ!!」

 

 扉間への恐怖を払拭するように引き金を引くのだった。

 応接室に響き渡る、複数の銃声。

 そして。

 

「な…ッ…あ…あぁ…!」

須佐能乎(すさのお)の術……なんてな」

『も、もう、撃ってきませんよね? きませんよね!? これ以上は無理です!』

 

 銃弾は全て扉間の足元に音を立てて、転がり落ちていく。

 

「どうする? まだワシと話すことはあるか? なければ、帰らせてもらうぞ」

 

 意識して、余裕たっぷりに語りかける扉間。

 その方が相手に威圧感を与えられるのだと、マダラの戦闘で学んでいたのだ。

 

「……それ程の力があるのなら、なぜ私を殺さない」

 

 得体の知れない何かに恐れながらも、カイザー理事が問いかける。

 いつでも、殺せる相手を何故殺さないのかと。

 忍術などというものがあれば、扉間にとって自分は殺した方がいい存在。

 それはしないのではなく、もしかすると出来ないのではないか。

 そこに突破口があるのではないかと考えて――

 

 

 

「―――簡単に替えの利く首を切って何になる?」

 

 

 

 どうでもよさそうに告げる扉間の声に言葉を失う。

 

「貴様の行動は前からおかしいと思っていたのだ。アビドス高校など、放置しておけば自然消滅する過疎化した学校。わざわざ、金を払ってチンピラ共に襲わせる理由もない。数年程度待てばいいのだ。だが、貴様は待たなかった。まるで、何者かに急かされているようにな」

 

 アビドス地区に来た初日から抱いていた違和感。

 待てばいいものを、わざわざ高校を襲って追い出そうとした理由。

 それは、依頼主に急かされていたのだとすれば辻褄が合う。

 

「長たる者のする行為ではない、それは。長ならば、上から急かされることもない。だが、貴様はことを焦った。つまりは、貴様の上には貴様の首をいつでも切れる存在が居ることに他ならない」

 

 カイザー理事の上には、カイザープレジデントという存在が居る。

 当然、機嫌を損ねれば理事という身分であっても、あっという間にさようならだ。

 もしくは、カイザー理事でも逆らえないせっかちな共犯者。

 それを扉間は指摘したのだ。

 

「ならば、貴様1人殺した所で意味はない。ワシは()()()()()殺しはやらん性質(たち)でな」

『せ、先生! 相手がまた銃を持ってます! これ以上は危険です!』

 

 淡々と話しながら、堂々と背を向ける扉間。

 その背中を見て、カイザー理事はもう一度、銃を手に持つ。

 

 だが、その手は震えていた。

 何もできないのではないのかと、これ以上やると本気で殺されるのではないかと。

 そんな慮外の怪物に対する恐怖が攻撃を躊躇させていた。

 

「ああ……それとだ。ワシはアビドス高校を売る気はないが、それ以外の交渉であれば受けてやらんこともないぞ?」

 

 そこへ、扉間がスッと毒を差し込む。

 次があるという無責任な甘い毒を。

 カイザー理事は、その毒に抗うことが出来ずに、無言で銃を降ろす。

 

「ではな、若造」

 

 その言葉を最後に、パタンと静かにドアは閉められるのだった。

 

 

 

 

 

『ふー……疲れました。もー、しばらくは攻撃を防いであげられませんよ?』

「すまんな。だが、あれだけのパフォーマンスをしたのだ。これ以降は、軽率にワシを撃とうとはせんだろう」

 

 カイザーローンから出て、人気の少ない場所に移動した扉間はアロナと会話を行う。

 

「それと、監視カメラのハッキングもご苦労だった。おかげで、奴に上手く誤解させることが出来た。高校の情報もリアルタイムで知ることも出来た」

 

 扉間が行っていたチャクラ感知のようなものは、アロナが行ったハッキングである。

 監視カメラの情報をアロナが見て、扉間に口頭で伝える。

 そして、アロナの声は扉間にしか聞こえないので、相手は何か特殊な方法を行っていると勘違いするというものだ。

 

『はい。でも、今回みたいに事前に調べておかないとすぐにはハッキング出来ないので、気をつけてください』

「ああ、分かっておる。今回はあの銀行員の後を追跡しておいたのが役に立っただけだ」

 

 アロナはキヴォトス全てのシステムを合わせても敵わない程の能力を持つ。

 が、本人が子供そのものな性格のため、あまりその能力は発揮されない。

 そのため、事前に下調べなどをしていないと、すぐにはハッキングするのは難しいのだ。

 

『そもそも、ハッキングもあまりやって欲しくはないんですが』

「悪党を捕えるためだ。仕方あるまい。それにだ……この銀行は100%黒という証拠がある、心配する必要はない」

『はい、明らかにおかしいので、叩けば不正の1つや2つ簡単に見つかるはずです!』

 

 カイザーローンは明らかにおかしい。

 調べれば、必ず不正の情報は見つかるはずだと息巻くアロナ。

 

「いや、既に証拠は掴んでおる」

『え! いつのまに!?』

 

 しかし、扉間は既に不正の証拠はあると告げる。

 

「この間、ワシと銀行員の会話の録音をしただろう?」

『はい。ちゃんと、記録に残しています』

「あれが証拠だ」

『え? でも、何か決定的になるものはなかったような……』

 

 記録を見返しても、そこまで重要な情報は引き出せなかったと告げる、アロナ。

 しかし、扉間は首を振る。

 

 証拠とは見つけるものではなく、()()()()()()だと。

 

「あの銀行員は、アビドスの借金の1ヶ月分を支払ったことにすると言った。つまり、アビドスから金を受け取っていないのに、受け取りを完了した形にするということだ。金の流れで言えば、アビドスで受け取った金が、銀行に入る前に何者かの懐に()()()形になる」

『ま、まさか……』

 

 アロナは声を震わせる。

 この男は、自分がした取引で新たに相手に罪を作らせたのだ。

 その罪の名前は。

 

 

「つまり―――奴は横領の証拠を自らで作り出したことになるのだ」

 

 

 そう、横領である。

 横領とは個人の罪のように思えるが、それは違う。

 銀行員が横領したとなれば、社会的信用の失墜は免れない。

 盗まれないために銀行に預けるのだ。その銀行が盗めば世話はない。

 普通に、上の人間の首が飛ぶ案件である。

 これをリークすれば、カイザーローンに大ダメージを与えられることは間違いない。

 

『で、でも、そうしたら、取引した先生も罪に問われるんじゃ……』

「何を言っている? ワシは依頼料を告げただけだ。借金の件は奴が勝手に勘違いしただけのこと。ワシは何も悪事を働いておらん。むしろ、依頼料がまだ払われていないと、この音声を元に堂々と訴えられる」

『先生には人の心がないんですか?』

 

 AIに人の心が無いと言われたのは、恐らく扉間がキヴォトスで初だろう。

 

『まあ、先生の外道っぷりはいつものことなので置いておいて……この音声だけで、証拠が足りるでしょうか?』

「少し心許ないな。故に、奴が金を受け取ったことにした証拠……改竄(かいざん)されたデータがいる」

『なるほど、そこで私のハッキングの出番ですね。でも、流石に銀行本体のハッキングになると時間がかかりそうです。その間に対策される可能性があります』

 

 少し不安そうに告げる、アロナ。

 ハッキングには1つだけ絶対的な防御手段がある。

 それは電源を落とすことだ。

 コンセントからプラグを抜かれて、完全にコンピューターが落ちたらどんな凄腕のハッカーでも何もできない。

 まあ、自動立ち上げソフトを先に入れておくなどする猛者も中には居るが。

 

「案ずるな、ワシが騒ぎを起こして時間を稼ぐ。緊急事態であれば、ハッキングにも気づかれ辛い」

『………その、騒ぎって何を起こすんでしょうか?』

「む、待て。これは……シロコからの電話だ。どうやら、無事に切り抜けたようだな」

 

 嫌だなぁ、聞きたくないなぁと、思いながらアロナが尋ねる。

 それに扉間が答えようとしたところで、便利屋を撃退したらしいシロコから電話がかかってくる。

 

「ワシだ。何かあったか? シロコ」

『ん、先生の帰りが遅かったから、みんな心配してたから電話しただけ』

「そうか、心配させてすまんな」

『無事そうだから大丈夫。それじゃ』

「待て、シロコ」

 

 そう言って、電話を切ろうとするシロコを呼び止める扉間。

 

『どうしたの?』

 

 電話の向こう側で首を傾げる、シロコ。

 そんなシロコに対して、扉間はハッキリと宣言をする。

 

 

 

「―――明日、銀行を襲う。準備をしておけ」

 

 

 

 電話の向こう側から、シロコがグッとガッツポーズして携帯を握り締める音が聞こえて来るのだった。

 




やっと、次回であらすじが実行できそうです。
後、カイザー理事との会談中のアロナのセリフは見えなくしてあるので夜間モードにするか、誤字報告モードにすると見れます。
それかクリックしてドラッグ。


〇トビラマチャンネルのネタ募集
:作者はあんまり動画に詳しくないので、見たいネタとかを提供してくれたら嬉しいです。
 作者のページに飛べるようにしたので、活動報告にネタ提供してもらえると助かります。
例:モモイとミドリ作のクソゲーを実況プレイしてツボる扉間。など
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=322169&uid=69647

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