「あ、あの…! そこをどいてください……」
「あーん? うるせぇな。もう、仲間との待ち合わせ場所は
「わ、私は目印じゃなくて、人間です…!」
百鬼夜行と言えど、その本質はキヴォトスに変わりはない。
不良生徒がのさばる現状は他の学園と同じだ。
どうやら、不良達は待ち合わせ場所の目印にツクヨを利用するようだ。
ハチ公前かな?
「何をしておる」
「あ! せ、先生…!」
「なんだぁ、てめえ?」
そんな所へ、忍術研究部からシャーレに入れる許可を得ようとしていた扉間が現れる。
まるで、仕組んだようなタイミングだが、今回ばかりは扉間は推定無罪である。
「わ、私、この人達に目印代わりにされていて…!」
「てめぇが無駄にデカいのが悪いんだろうが!」
「なるほどな……」
ツクヨの訴えと不良の身勝手なセリフを聞き、事態を把握する、扉間。
そして、彼女達の前に一歩踏み出し──
「ワシの方が背が高いぞ。目印にするなら、ワシでもよかろう」
──代案を出す。
この光景を見たら、きっと『どうして、寄付(略奪)しないんだ…?』と、アビドス生も驚くことだろう。
「はぁ?」
「ツクヨも確かに背が高いが、見たところワシの方が上だろう。貴様達の目的のためならば、むしろワシの方が好都合だと思うが?」
「まぁ……そおだけどよぉ」
ツクヨ。身長180㎝。
扉間。身長182.3㎝。
僅かな差だが、確かに扉間の方が大きい。
そして、大きいのをできる限り隠そうと下を向くツクヨと違い、扉間は堂々と胸を張っているので実際に見ると結構差があるように見える。
「そういうわけだ。ツクヨ、お前は立ち去っても構わんぞ」
「え……で、でも……」
「後ろめたく思わなくていい、ツクヨ。ワシはこいつらに
逃げていいぞと、目配せをする扉間。
しかし、ツクヨの方は迷惑をかけてしまったと思い、動けないでいる。
「あぁ? 話ぃ? なんだ、説教でもする気かよ」
「当たらずといえども遠からずだな。こいつについて、広めておこうと思ってな」
説教でもするのかと、小馬鹿にした態度の不良達に扉間は
「パンフレットぉ…?」
「なんだこれ……軍事学校?」
「来年から新しく開かれる学校だ。行く当てがないのなら、来てみろ。何、食うのには困らせん」
パンフレットの内容は、カイザーPMCが新しく作る軍事学校。
その一期生を募集しているのだ。
「何言ってんだ、あんた? そんな学校に入るぐらいなら、不良なんざやってねえよ」
「あははは! バカみたい! 大体、学校の支配から卒業した私達にどうやって言うこと聞かせるんだよ?」
だが、当然と言うべきか不良達はそれを嘲笑う。
学校に入るような真面目ちゃんなら、こんなことはしていないと。
そんな不良達に対して、扉間は──
「無論、暴力だが?」
日本なら懲戒免職もののセリフを言ってのける。
「……は?」
「貴様らのような学のない子供は、社会に出ても悪い大人に良いように利用されるだけだ。今は子供だからまだいい。だが、大人になった時どうする? 手に職もつけておらん、勉強も出来ん。そんな奴らに都合よく金を落としてくれる存在など、水商売の相手ぐらいだ。だったら、軍事学校で軍隊のいろはを体に叩きこまれた方がマシだ。安心しろ、就職斡旋先はある」
カイザーPMCの軍事学校。
要するに、PMCの養成所だ。
就職先に困ることはない。
まあ、現状だとブラックホール並みのブラック企業なので、改善の必要はあるが。
「貴様らはこのままでは良くて矯正局送り。悪くて、汚い大人のオモチャだ」
大人のハッピーセットになりたいのかと、脅す扉間。
「そうなるぐらいなら、少々理不尽でも拳骨と一緒に社会性と生きる術を叩きこんだ方が良い。安心しろ、殺しはせん」
「どう聞いても、勧誘のセリフじゃねぇよ! 隠せよ、少しは!!」
「後で、変に訴えられるのも面倒だからな。最初に言って同意を得てから、契約を結ばせれば問題はない」
「その問題はないってのは、あんただけだろ!?」
いくらキヴォトスでも体罰上等を前面に押し出す学校はない。
時代に逆行するどころか、滝登りでも始めそうな勢いである。
龍にでも昇華するつもりだろうか?
「お、本当にデカイ奴と一緒に居た」
「あ! 来たなら、ずらかるぞ! やべーぞ、学校の押し売りだ!」
「学校の押し売り!?」
そんなコントを繰り広げている扉間達の下に、不良の仲間が到着する。
「変な学校売りつけられる前に行くぞ!」
「変な壺じゃなくて、学校ってなんだよ!?」
「気になるなら、もう一部やろう」
「いらねぇよ! ──って、うわ!? あいつ、私の服にパンフレットを投げ入れやがった!」
逃げ出す不良達に向けて、手裏剣投げで鍛えた投擲でもってパンフレットを配る扉間。
これが忍者の姿か?
「ふぅ……逃げたか。悪くない話だとは思うのだがな」
「あ、あの……ありがとうございます」
やはり、無理やり拉致した方が早かったかと考える扉間。
ツクヨはそうとは知らずに、扉間がワザと追い払ってくれたものと思って、お礼を言う。
「ついでだ。気にするな」
「わ、私、昔から体ばっかり大きくて……それで目を付けられることが多くて……」
自信なさげに体を丸める、ツクヨ。
少しでも小さく見せて注目度を下げようとしているのだ。
「何をしておる。胸を張り、背筋を伸ばせ。体が大きいというのは健やかに育っている何よりの証拠だ。お前が恥じ入ることなど何もない!」
「は、はいぃ!」
ビシッとした扉間の一喝に、慌てて背筋を伸ばす、ツクヨ。
戦乱を生き、今はアリウスの面倒を見る扉間からすれば、栄養不足で体が小さい子供を見る方が辛い。
腹いっぱいに飯を食わせて、デカくなって欲しいというのが年寄りの何よりの願いだ。
「ワシからすれば、お前は小娘。ワシより背の低い、どこにでもいるただの小娘。ただ、今は……他の部員の居場所を知っておる、小娘」
「そ、そんなに、小娘ですか…?」
大人の愛情なめなめ小娘なツクヨがプルプルと震える。
体は大きいが、彼女の心は小動物。
臆病なのだ。
「当たり前だ。その証拠に……お前が背筋を伸ばしても、ワシの手はお前の頭を撫でられる」
「……あ」
グシャッと、およそ女性の髪を撫でるのに相応しくない手がツクヨの頭に乗せられる。
「お前の背を馬鹿にする奴らにはこう返せばいい。『チビの嫉妬』とな」
「い、いいんでしょうか…?」
「相手を怒らせて、注意を向けさせるのも立派な忍術だ。ワシが許す」
ミレニアムの約束された勝利ですら、挑発に乗ってしまう扇動術を授ける扉間。
上から目線(物理)の煽りは最強なのだ。
「忍術……そうだ。先生は本当に……忍者なんですか?」
今、ミチルが悩んでいること。
その核心に関係することを、恐る恐る聞くツクヨ。
「ああ。もっとも、今の職業は先生だがな」
そんなツクヨに対して、扉間はあっさり返す。
まあ、名刺に忍者と書いていてもおかしくない世界から来ているので、当然の反応ではある。
「えと…その……本物の?」
「お前達の思い描く忍者とは少々違うかもしれんが、紛れもなく忍を生業としていた者だ」
「……先生はキヴォトスの外から来られたんですよね?」
「ああ」
「そこでは忍者は居たんだと思いますけど……キヴォトスでは忍者はアニメや漫画の中にしかいないんです」
忍者は空想の産物。
子供だって、それぐらいは知っている。
「だから……忍者や忍術を研究していると言ったら…その……」
「笑い者になるか」
リアル忍者に失礼にならないように、言葉を濁すツクヨの気遣いを無視して、扉間はズバリと言い切る。
忍者なんてネッシーみたいなものでしかないのだ。
「空想の産物を研究していると言えば、確かに奇異の目を向けられるだろうな。指をさされて笑われるかもしれん」
「は…い……。だから…部長は……勇気が持てないんだと思います」
ミチルが他の部活に保証書を貰いに行かない理由。
それは、忍者を。自分を好きなものを馬鹿にされるのが怖いから。
臆病な自尊心。それが、邪魔をしているのだ。
「もったいないな」
「え? もったいない…? 何がですか?」
そんなツクヨの説明に、扉間はもったいないと呟く。
「忍者などいない。遊んでいるだけの奴ら。そういった風に相手がこちらを馬鹿にして下に見ているのだぞ? 忍者ならば、その状況の方が動きやすいではないか」
忍者が信じられていないなら、警戒もされない。
つまり、ボーナスタイムである。
(情報を)抜きまくり、(罠に)ハメまくりですね、先生? byウラワフラワー。
「ワシなど握手をするだけで、警戒をされる始末だからな。相手が無警戒なら、これほど助かることもない」
「何をしたら、握手をするだけで警戒されるようになるんですか…?」
握手をするだけで、爆弾のワープポイントにされるからですかね……。
「忍ならば、時には地べたを這いずり回り辛酸を舐めるときもある。笑い者になる程度ならば、命があるだけマシだろう」
「そう…ですね……」
厳しい言葉。
しかし、言い返すことも出来ない正論に、ツクヨは再び背を丸めて俯く。
「だが……それは、大人のワシだからこそ言えること。多感な時期のお前達には辛かろう」
「え?」
だが、扉間とて子供のころは感情を乱すことが……あったかな?
ともかく、成熟した大人と子供では物事の捉え方は違う。
大人になってから人柱力として陰口に晒されるのと、子供の頃から化け狐呼ばわりされるのでは天と地の差なのだ。
「しかし、これを乗り越えない限りは、忍術研究部が正式に認められることはない。そして、それが出来るのはお前達自身だけだ。ワシに出来るのは手助けをしてやることぐらいのもの」
さて、どうすればミチルに自信と勇気を持たせられるか。
扉間は腕を組んで考える。
「……まずは、忍者を認める人間が居ることを教えてやるべきか」
そして、一つの解にたどり着く。
「ツクヨ。明日の午後、ミチルと久田イズナを伴いワシの指定する広場に来い」
「え? あ、はい」
「そこで忍者になる方法を教えてやる」
それだけ告げて、扉間は足早に去っていく。
明日までに、用意しなければならないものが出来たと。
「来たか」
「せ、先生殿!? その服は!」
翌日、指定された広場に訪れたミチルの目に映ったのは──忍装束。
「無論、ワシの忍装束だ」
「おお! オーソドックスな忍者とは違って鎧を着ているのもいいですね!」
「首のふわふわ……柔らかそう」
衆人環視の状況で注目が集まる中、堂々と忍装束を着こなす扉間は正真正銘の忍者。
え? イメージ上だといつもの姿と変わらない?
もし普段の姿をスーツ姿ではなく、忍装束でイメージしていたのなら、あなたは既に幻術の中に囚われている。
「もしかして、ずっと外でその服を着て待ってたの?」
「ただの
ミチルの言葉に、何も恥ずかしいことはないと言い切る、扉間。
因みに、待っている間にヴァルキューレから職質を受けたりもしたが、それは内緒だ。
なんか、ヴァルキューレが
「先生……その頭につけている、額当てはなんですか…?」
「気がついたか……」
扉間の忍装束をまじまじと観察していたツクヨが、見慣れぬマークをつけた額当てに気づく。
生前はヘッドギアだったが、今はこれからの説明のために額当てに変えてある。
「この額当ては、一人前の忍者の証だ」
「一人前の…!」
「忍者!」
自分で彫った渦を巻いた木ノ葉のマークを指でなぞりながら、扉間が告げる。
ミチルとイズナの瞳がキラキラと輝く。
「先生! その額当てのマークは何のマークなんでしょうか?」
「これはな。木ノ葉隠れの里の忍の証だ、
「木ノ葉隠れの里……シンプルでカッコいい名前ですね!」
マダラが名付けた里の名前を、イズナに教える扉間。
見たまんまぞ…安直ぞ……とは言われなかったので、マダラもきっと浮かばれることだろう。
「残り3つ、お前達の分も作っておる。だが……当然、タダでやるわけにはいかん。試験に合格してもらわねばな」
「試験…!? えー……勉強は苦手なのに」
「案ずるな、勉強ではない。お前達にはゲヘナとの交流会で行われる“和楽姫”を無事に成功に導いてもらう。それが出来れば、晴れてお前達は忍者だ」
「“和楽姫”を!? わ、私達が成功させるの…?」
目の前に人参をぶら下げて、説明を行う扉間。
往来のため裏事情は伝えていないが、嘘は言っていないのでよし!
要は問題を起こさずに、起きても即座に潰せばいいだけなのだから。
「そうだ。本来ならば、任務は忍になってから行うものだが……今回は特例だ。Aランク任務をお前達にやってもらう」
「い、いきなりAランクですか?」
「確かに、難しいかもしれんが……世間に忍者を認めさせることに比べれば、よほど簡単だ」
「…!」
自分の悩みを知っている口ぶりに、ミチルの表情がこわばる。
そんなミチルをまっすぐに見つめながら、扉間は言葉を続けていく。
「この世界では忍者は幻想に過ぎぬかもしれん。何をやっても笑われるだけかもしれん。だが、他の誰が否定しようともワシが肯定してやる。この額当てをつける者は、全員が
額当てとは、ただ単に所属を示すだけのものではない。
それをつけることで、どの一族であろうと、どの里の人間であろうと。
全て仲間であるという証になるものだ。
だからこそ、額当てに線を引く抜忍の罪は重くなる。
里の仲間全てを、裏切るということなのだから。
「案ずるな。火の国が木ノ葉隠れの里。国父たる大名より、火の国を守る影、里の頂点たる忍。“火影”として命じられた、このワシが……二代目火影であり、忍界最速と謳われた千手扉間が、お前達を忍者として認めるのだ。これ以上の保証はこの世のどこにもない」
「ほ、火影…!?」
「なんだか、分からないけどカッコイイ!」
「忍界最速……良く分からないけどすごいですね」
3人にやる気を出させるために、めっちゃカッコイイ口上を読み上げる扉間。
忍術研究部の目がキラキラと輝く。
こういうのは役職名を出したりして回りくどく、かつ仰々しく言うのがコツである。
「どうだ、少しはやる気になったか?」
「はい! イズナはもうなんでもござれです!」
「わ、私も、頑張ってみたい…です」
「…………」
やる気に満ち溢れてきたイズナとツクヨ。
しかし、ミチルだけはあと少しの所で乗り切れずにいた。
「……先生殿。先生殿は本物の忍者なの?」
忍術研究部の部長なのに、誰よりも忍者なんているわけないといった視線。
そんな、臆病な視線が扉間に向けられる。
「だったら、さっきのワシの言葉は聞いているだろう。この千手扉間の言葉に一切の虚飾はない」
「本当に、ホント?」
「祖先に、父に兄に、
しっかりとミチルの瞳を見つめて頷く、扉間。
それを見て、ミチルも覚悟を決める。
「分かった…!
「部長だけではありませんよ。イズナもご一緒します!」
「はい……私とイズナちゃんは部長についていきますから」
「みんなぁ~」
ヒシッと抱きしめ合う忍術研究部の3人。
美しき友情である。
「フ、では交渉成立だな。今からお前達は
そして、そんな美しい友情を見ながら、サラッと契約を結ばせる汚い大人。
シャーレのシャの字も出さずに、やっているのだから確信犯である。
「さあ、そうと決まればさっそく修行だ。“和楽姫”の本番まではまだ日数がある。忍らしい戦い方をお前達に教えてやる」
そうして、第45回トビラマチャンネルの内容が決まるのだった。
「ああ、そう言えばだが、ニヤ。“魑魅一座・気まぐれ流”なる者達が今回の交流会をめちゃくちゃにしようと狙っておるらしいぞ」
「………それはどこ情報で?」
ミチル達を正式にシャーレの部員に迎え入れた報告をしに来たついでに、爆弾を落としていく扉間。
報告を受けた側のニヤはいつもの笑みも消えて、金色の目を僅かに見開いている。
「ワシ
同盟を結びに行った先で殺された扉間が言うので、説得力は抜群だ。
そして、この作戦の嫌らしい所は、暗殺に失敗しても同盟自体は白紙に戻せる可能性が高い所だ。
誰だって、騙し討ちする奴らとは仲良くしたくない。
「それもそうですねぇ。ですが、困りましたねぇ。今この段階で交流会を中止にするわけにもいきませんし……」
白々しい態度で困った困ったと笑う、ニヤ。
だが、今回“魑魅一座・気まぐれ流”を手引きしているのは、何を隠そう彼女である。
(どこから情報が? こちらから? いえ……カホも知りませんし、セキュリティを
と、言ってもニヤがゲヘナを騙し討ちしたいわけではない。
どうせ魑魅一座がちょっかいをかけてくるのは分かっていたので、偽情報を流してどこで仕掛けてくるかをコントロールしようとしていたのだ。
故に、扉間にも問題が起きてから動くようにお願いしていたのだが、こいつが空気を読んで動くわけもなかった。
(でも、これでシャーレの情報収集力の高さは分かったので、良しとしましょうか。まさか、百鬼夜行まで目を届かせているとは……侮れませんね)
ついでに、騒動の解決をシャーレに任せて力を見極めようともしていたが、それは内緒である。
まあ、内緒にしたところで、セキュリティにも穴はあるんだよなぁ……。
「ああ、中止には出来ん。ここで中止にすれば百鬼夜行の面子に関わるからな。それにテロ組織に一度屈してしまえば、相手をつけ上がらせる理由にもなる。可能なら先んじて、相手を潰すべきだな」
「にゃははは! 流石は先生、容赦のないお言葉。ですけどぉ、
「ああ、不穏分子は一纏めにして監視をするのが一番だからな。無秩序にゲリラ戦を起こされるよりも、組織だって行動させた方が分かり易い。不満を持つ奴らが消えることはないからな」
「んふふ……先生も悪ですなぁ」
ワシもうちはに同じことやったし。
しかも、うちはと違い“魑魅一座・気まぐれ流”は一族限定ではない。
伝統の祭り以外許さないという思想で繋がってはいるが、陰陽部が嫌いという理由で入る者もいる。
というか、『伝統の祭り以外認めない奴ら、集まれ』では『いや、伝統は好きだけどそれ以外を認めないほどじゃないし……』と人が来ないので、『現政権に不満ある奴ら、集まれ』で勧誘した方が人が来るのだ。
まあ、その場合中身はチンピラがほとんどになるのだが。
「そういうわけで、ワシに策がある。まずは姫役に護衛をつける」
「ふむふむ、まあ、妥当な判断だと思いますよ? でもぉ、それだと攫われるストーリーと変わりませんかねぇ」
「案ずるな。ゲヘナ側に確認を取ったが、
姫役に護衛(ガチ)をつける。
当たり前だが、有効な手段だ。
しかし、これには1つ欠点がある。
「確かに良い作戦ですねぇ~……ただ、その場合護衛が1人しかつけれんと思うんですが、大丈夫ですかね~? 1人でどれだけ来るかわからない敵を跳ね返せる。そんな都合の良い人材が居ますか?」
隠れた護衛のため、人数が少ない。
というか、駕籠に入るとなると姫役ともう1人しか無理だ。
そんなニヤの指摘に対して、扉間は軽く笑う。
「問題はない。最近は暇しておったそうだしな……それに1人と言えど、奴は──一騎当千だ」
休み明けのリハビリにはちょうどいいだろうと。
“和楽姫”。悪党に攫われたお姫様を助け出すという王道物のストーリー。
だが、普通と違うのはそれが体験型のイベントであるということ。
百鬼夜行きってのアイドルである
そして、ゲストである参加者が姫を救うヒーローになり、試練を乗り越えていく。
試練内容はちょっと捻りはあるが、まあ基本は
「
「え? そう? よく分かんないや。それよりもさぁ! 先生殿、渡したアニメは見てくれた?」
「ああ。
「ですよね…! 私もあの主人公が好きなんです……『まっすぐ、自分の言葉を曲げない』、本当に良い言葉だと思います」
「イズナは、まだ見たことがないのですが……どのような内容なのでしょうか?」
そんな“和楽姫”の舞台である百鬼夜行
かつての同盟国兼、義姉の一族の名前に少し感傷的になる、扉間。
そんな中で、4人は“和楽姫”が始まるまで忍者トークで盛り上がる。
「体内に妖怪を封印された落ちこぼれ忍者。“ねりまきカマボコ”が国一番の忍者を目指し……仲間達と共に数々の試練を乗り越える成長物語」
これから全72巻、あなたに布教し続ける。
「妖怪はカマボコの誕生の日に里を襲撃。このせいで両親は死亡。国も壊滅の危機に……当時の国王が妖怪を赤ん坊であるカマボコの体に封印し、事なきを得るが……それ以来カマボコは里から迫害され、家族もいない孤独な幼少期を過ごすことになる」
「ちょ、ちょっと待ってください! 封印ってつまりは生贄の上に、更に迫害とはあんまりです! その国ちょっとおかしいですよ!」
扉間からの説明に、イズナがそういう差別はよさんかと抗議の声を上げる。
「でも、でも、不幸なのはカマボコだけじゃないよ。敵も味方も不幸なエピソードのオンパレード。最初は平和を志した善良な人も不幸のどん底で容赦なく、闇落ちしていく世界観だよ」
この瞳は闇がよく見えると、作品の暗さを語る
「そうして敵として立ちはだかり……戦いを通じて対話するんです。共感するカマボコの、それでも前向きな言葉で相互理解に至るというのが定番パターンです」
「ここに『かまぼこ突風伝』の魅力があるとワシは思う!」
ツクヨの言葉を引き継ぎ、扉間が力強く宣言する。
「……なるほど、同じように闇落ちしてもおかしくない、カマボコさんだからこそ。腐らずに、懸命に、国一番の忍者を目指して頑張る主人公の言葉が多くの人に届くんですね……」
「落ちこぼれだったカマボコが敵味方問わず、多くの者に認められる姿は、やはりグッと来るのだ……」
作品の概要を理解したイズナがなるほどと頷く。
扉間はそんなイズナの姿を観察しながら、カマボコの人生に思いをはせる。
「ただのワルガキだったのだがなぁ……もう、終盤ホンット立派で……」
年を取って涙腺が緩くなったせいか瞳が潤うので、下を向いて誤魔化す、扉間。
アリス知ってます! 年を取ると脳の感情を司る部分が劣化して、感情のコントロールが効かなくなるそうです!
「まさか、そんな名作を見落としていたとは、このイズナ一生の不覚……部長!」
「うん、今度貸してあげるね」
なぜ今まで見なかったのかと、後悔するイズナにミチルが快く貸し出しを許可する。
忍者で繋がる友情である。
「あ……話していたら、あっという間にこんな時間ですね」
「いよいよ、お姫様役の方が来られますね」
「……は! そう言えば、お姫様役ってチセ様じゃん!? これは、サインを貰うチャンス?」
楽しく話していたせいか、開始時刻が迫っていたことに気づく、ツクヨ。
そして、ミチルが“和楽姫”のヒロインたる姫、チセが来るという事実に今更ながらに思い至る。
和楽は百鬼夜行にて最強のアイドル。覚えておけ。
「なるほど…! お客さんではなく、劇の関係者としてなら、後の人間関係を意識してサインを断わりづらい……流石ですね、部長!」
「卑劣な交渉術だな、ミチル」
「
そして、ツクヨはここ数日で学んだ忍者知識から、ミチルが策謀を練っていたんだと合点する。
扉間も、卑の意志が受け継がれたことに満足そうに頷く。
「まあ、そもそも今回の姫役は、ゲヘナからのゲストがやることになっておる」
「え? そうなの?」
「あくまでも今回はゲヘナとの交流会。ゲヘナの人間が全身全霊、我が身や親よりも優先し、死力を尽くして助けに行きたくなる人間を姫に選んだとマコトが言っておった」
「そ、そんなすごい方が姫役を……」
万魔殿のトップは誰か?
ゲヘナで街頭インタビューすると、マコトよりもイブキの名前の方が良く上がる程のイブキ人気だ。
マコトの知名度が低いだけ?
お前を事実陳列罪でシベリア送りにする。
「チセ殿ではないのですね……あ、そう言えば、今日はコユキ殿は来ておられないのですか?」
「今は外で別の仕事を任せておる。後で
「そうですか、では後でお会いできるんですね」
ワシらではなく、ワシと。
その言葉の裏に気づくことなく、イズナは納得する。
イズナァ! そいつを手放しで信用すると、酷い目に
「……お姫様来ないね」
「公演開始まで後、20分なのに……何かあったんでしょうか?」
「そう言えば、何やら外が騒がしいような……」
公演開始まであと僅かだというのに、中々来ないヒロイン。
そして、建物の外では何かを言い争う声。
「ワシが見て来るとしよう。お前達は、
「何かあったら、すぐに呼んでね、先生殿」
ちょっと田んぼの様子を見てくるといった感じで、建物の外に出ていく、扉間。
そして、その数分後。
「ぐわぁあああッ!?」
「先生殿の悲鳴が!? 行こう! イズナ、ツクヨ!」
わざとらしい悲鳴と共に、爆発音が聞こえてくる。
ミチル達はその緊急事態に慌てて、外に駆け出す。
「せ、先生!? どうして……?」
外に出た3人の目に飛び込んできたのは、瓦礫の山。
そして、鎧や服はボロボロなのに、なぜか体は傷ついていない扉間の姿だった。
バリア職人アロナの匠の技である。
「ワシとしたことが……しくじった」
「先生殿! これは一体何者の仕業なのですか!?」
「姫が…
うお! 恐ろしく、簡潔かつ丁寧な説明。チュートリアルかな?
上空ではドローン撮影機が意味あり気に飛んでいるが、きっと偶然だろう。
「そ、そんな……先生殿を置いていくなんて」
「心配するな、命に別状はない。腰を打って立てないだけだ」
「腰を…! 先生はお歳なのに、なんて酷いことを…!」
ぎっくり腰で動けないと告げる、扉間。
この
「ワシのことは気にするな……敵は
「まさか先生殿抜きで……忍者になる試験を受けないといけないなんて」
「お前達には大変な思いをさせるが……これを乗り越えた
敵が逃げた先に試練が待ち受けているよ。
みんなで協力してクリアしていってね。
クリアしたら、豪華特典があるよ。
さあ、奮ってご参加ください!(ステマ)
「部長…!」
「部長! ご指示を!」
「う……うん。やるしかないよね……これも忍者になるため!」
扉間の決死(笑)の頼みを聞き入れ、ミチルが重々しく頷く。
魑魅一座を追いかけ、イブキ姫を取り戻すしかないのだと。
「先生殿、パパっと片付けてきちゃうからゆっくり休んでてね」
「すまぬ……」
「忍術研究部、いざ! 出陣!」
「「ニンニン!」」
頼りになる先生は腰を痛めて戦力外。
自分達だけで、何とかするしかない。
そう覚悟を決めて、ミチル達は駆け出していく。
「………はい、カットです」
「よし、上手くいったようだな。協力感謝するぞ、イロハ」
「はぁ…まあ、これもイブキのためですから」
よっこいしょと立ち上がり、服につけた埃を落としていく、扉間。
その姿を見ながら万魔殿のイロハが溜息を吐く。
襲撃自体は本当だが、やられたり攫われたりしたのはやらせだったのだ。
どうやって襲撃のタイミングを完璧に察知出来たか?
(コユキとアロナが居て)お前が俺に(情報戦で)勝てるわけねェだろうが!
「それにしても、随分とやられ方が様になっていましたね。やられたふりをするのは、これで3回目でしたっけ?」
一度目はアリウススクワッド相手に。
二度目はジェネラルとアルを相手に。
そして、三度目は忍術研究部と中継されている先の人達相手である。
死亡偽装のジェットストリームアタックかよ。
「油断を誘い、相手が勝利を確信した瞬間を狙うのが最も効果的だからな。演技には自信がある」
「……そういうことばかりしていると、本当に死んだときに誰も葬式に来てくれませんよ?」
「ありそうで……笑えんな」
死亡偽装複数回。異世界転生や穢土転生で生き返ること複数回。
本気で周りの人間に、また嘘だろうと思われかねないなと少し反省する扉間。
なんなら、棺桶に入っているだけで『また、穢土転生の術か』と警戒されかねない。
「それで、これから先生は
「ああ。ミチル達の試験をワシが共にやるわけにいかないからな。そして何より、イブキの安全のため。ワシは最後の試練として立ちはだかるとしよう」
ワシ自身が悪党になることだ。
それが、忍術研究部へと出す試練。
試験中に先生が生徒を手伝うわけにはいかないからね。
「イブキ……大丈夫でしょうか。
「問題なかろう。見たところ、敵は少数。事前に調べた情報では魑魅一座は荒くれ者だが、大した実力があるわけでもない。単なるチンピラだ。過剰戦力と言っても良い」
「まぁ……頭では分かっているんですがね」
お姫様が普通に歩くわけがないので、イブキは駕籠に乗っている。
そのため、引きずり出す時間も惜しかった魑魅一座は、駕籠ごとイブキを攫っている。
そして、高貴な人の乗る籠は外からでは誰が乗っているか見えない。
それを利用して、イブキを守るべくもう1人潜ませているのだ。
「──
『あ~、テステス。みなさん聞こえてます~? 現在、姫を攫った悪党は絶賛逃亡中。一番最初にお姫様を助け出すのは誰になるのか。因みに、今のお姫様の居場所は~と』
ニヤの声が飛行船から流れてくる。
その暢気そうな声からは、問題が起きているなどといった感じは一切ない。
単なる、イベントを盛り上げるための放送。
それ以上でもそれ以下でもない。
はずだった。
『悪党達は現在、甘味ならなんでもござれの百夜堂前を通過ぁ~。そこに追っ手を阻む刺客を置いていったみたいですねぇ』
パッと映し出される刺客達。
快く無料で(百夜堂の宣伝効果除く)、刺客役を引き受けたお祭り運営委員会の河和シズコ。
同じく、お祭り運営委員会の朝比奈フィーナ。
『そして、悪党達はお姫様を連れてそのまま逃走を続けてま~す。その後ろ姿がこちらぁ』
そうして映し出されたのは、駕籠から救いの手を伸ばす、悲劇のヒロインイブキ。
奪った天狗のお面をつけた、白モップのような後ろ姿の誘拐犯。
そして──
『ん? んん~? ……これは新しい仲間と合流したんですかねぇ?』
──たい焼きの袋を被った謎のトリニティの制服の誘拐犯だった。
(あうう……イブキちゃんが攫われていると思って助けただけなのに、どうしてこんなことに…?)
桐藤ナギサの懐刀。エージェント・ファウスト、見参。
ニヤ「は?」
扉間「は?」
マコト「は?」
ナギサ「は?」
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