千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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66話:不忍ノ心・転

 

 無断外出録ヒフミ。

 

「ここが百鬼夜行渦巻映画村ですか……何と言うか…こう…テーマパークはテンションが上がりますね」

 

 今度はみんなも誘って一緒に来てみよう。

 ニンペログッズ(例の白いブツ)を片手に、暢気にそんなことをのたまう阿慈谷ヒフミ。

 どうやら無断外出しているという自覚はないようだ。

 

 どうして無断外出を誰も咎めないのか?

 え? ナギサ様の指示で動いているんじゃないんですか?(ティーパーティー生徒感)

 

「せっかくだし、百鬼夜行ならではのものでも食べて帰りましょうか」

 

 そんな周囲の勘違いした事情に気づくこともなく、ヒフミは興味津々に辺りを見渡す。

 ブラックマーケットは危ないので急いで帰るが、ここは観光村。

 特に焦る理由もないので、のんびりと孤独のグルメを開始する、ヒフミ。

 

「……よし、何とか誘拐に成功しましたね」

……バカ! 声を小さくしろ! 誰かに聞かれたらどうするんだ!

す、すんません

 

 だが、優雅な観光は早くも終了する。

 明らかに怪しい能面をつけた集団が、路地裏でコソコソと話しているのを見つけてしまう。

 

和楽姫を誘拐して今回の交流会をめちゃくちゃにする

そのための人質っすよね、リーダー

ああ、これで陰陽部の評判を地に落としてやれる

 

 ただ単にコソコソしているだけならともかく、路地裏には似合わない豪華な駕籠まで持っている。

 誰が見ても怪しさ満点である。

 

(今、誘拐って聞こえたような……何を言っているんでしょうか? それにあんな大きな駕籠(かご)を持って人目につかない場所に行くなんて……怪しいですね)

 

 服装などは百鬼夜行の人間ではないので分からないが、大荷物を持って狭い通路に居るのはどう考えてもおかしい。

 ヒフミのエージェントとしての勘が冴えわたる。

 

(……もう少し、近くに寄って話を)

 

 危なそうだから逃げよう。

 そんな常識を持っているのなら、ブラックマーケットに出没したりはしない。

 ヒフミは慎重に魑魅一座に近づく。

 だが。

 

「着信音! 誰だ!?」

「あ……携帯を切り忘れてました」

 

 今どこに居るのかというコハルからの電話が鳴り、バレてしまう。

 割と自業自得である。

 

「何者だ!? 私達になんのようだ!」

「え、えっと……な、何か困ってるのかなぁっと。もしよければ、て、()()()ましょうか…?」

 

 ロケットランチャーを向けられて、焦りながら何とか誤魔化そうとする、ヒフミ。

 普通なら、そんなごまかしなど聞きはしないだろう。

 しかしながら。

 

()()()? まさか、ニヤニヤ教授が出してくれた救援の者か?」

「え? あ、はい。そ、そうです! 詳しくは、ここで聞くように言われました」

 

 魑魅一座の今回の誘拐は裏で糸が引かれている。

 キヴォトスの犯罪界のナポレオンである、ニヤニヤ教授。

 彼女の指示に従ったのだ。なので、ヒフミを手助けと勘違いする。

 まあ、実際はニヤの仕込みに引っかかっているだけなのだが。

 

「そうだったのか! 流石はニヤニヤ教授。とりあえず、追っ手も来ない安全な場所まで逃げたい!」

「そ、その後は?」

「この人質を使って、陰陽部の地位を失墜させる! 後、チセ様からはサインを貰う!」

 

 バッと、自分達の成果を見せるように、駕籠の暖簾を上げる魑魅一座のリーダー。

 そこには、囚われの姫君である和楽チセが──

 

「あれ? ヒフミ先輩だぁ!」

「………誰だ?」

 

 ──居なかった。

 

「イブキちゃん…! 今助けます!」

「お、おい!? こっちは仲間──」

 

 そして、イブキの姿を確認した後のヒフミの行動は早かった。

 何のためらいもなく、アサルトライフルを魑魅一座のお面(顔面)に叩き込む。

 攫われたのが友達である以上、彼女に慈悲の心は無くなる。

 

「こ、こいつ、本当はスパイだったのか!?」

「だが、いいのか!? 誰だか知らないが、こいつが人質であることに変わりは──」

 

 当然、魑魅一座は騙されたと憤慨し、イブキに銃を突きつける。

 人質が居る以上、こちらは絶対に優勢。

 そう思い込んで。

 

「──ねえ。面倒だから、そろそろ倒してもいいかしら?」

「駕籠の中からもう1人…!?」

 

 イブキの横から出てきたのはマシンガン。

 終幕:デストロイヤー。

 ゲヘナ風紀委員会の最強の証だ。

 

「後で使うから、お面だけ貰っておくわ」

 

 命を刈り取る死神のように、1人から仮面を奪い取る、ヒナ。

 その後は一方的な慈悲無き銃声。

 まさに、物語の幕を引く破壊者の弾丸。

 不意打ちかつ、少数の魑魅一座ではなす術もなく、あっさりと倒れていくしかない。

 

「不思議ね。いつもより銃が軽く感じるわ。これもしっかり休んだせいかしら」

「ヒ、ヒナさん?」

「久しぶりね、ヒフミ。エデン条約機構(ETO)のデモンストレーションの時以来かしら。補習授業部の他のみんなも元気?」

「え、えっと、はい……皆さん元気です」

 

 死屍累々と化した路地裏。

 そこに駕籠の中から風紀委員長である空崎ヒナが、降り立つ。

 

「ヒナさんはどうしてここに?」

「イブキの護衛よ。今は風紀委員会から休暇を貰ってて暇だったし、リハビリに良いかと思ってイロハから受けたんだけど……」

 

 魑魅一座からイブキを守る護衛として、一緒に駕籠に乗り込んでいたのと告げるヒナ。

 そして、砕けたお面が散らばる惨状を片目に入れながら、軽く欠伸をする。

 

「準備運動にもならなかったわね」

「わー! ヒナ先輩カッコイイ!」

「ふふ、ありがとう」

 

 イブキちゃんは別だ。

 万魔殿は心底面倒な相手だが、イブキは可愛い。

 可愛いは無罪。普段はキャンキャン吠えるアコですら、優しくなるのだ。

 

 なので、ヒナも当然イブキの頭を撫でて甘やかす。

 マコトが嫉妬でまた嫌がらせをしてきそうではある。

 

「それで、ヒフミはどうしてここに居るのかしら? ニヤニヤ教授の手伝いとか聞こえてきたけど……」

「ご、誤解なんです! 私はただ単に話を合わせただけで……それより、イブキちゃんは大丈夫なんですか? 誘拐されたみたいですけど」

 

 誤解だと弁明。

 からの、すぐさま話題を変更する、ヒフミ。

 無意識のうちに自分の非を遠ざけているのだ。

 己を普通と疑わぬ、もっとも狂った異常である。

 

「イブキはね~。今日はお姫様役なんだよ!」

「お姫様…役?」

「今、ゲヘナと百鬼夜行の交流会で、ちょうど“和楽姫”っていう体験型の劇をやっているの。イブキはそのお姫様役」

「体験型の劇……ということは……誘拐は、わ、私の勘違いですか?」

 

 また、私何かやっちゃいましたか?

 と、自分の失態に気づいて顔を青くする、ヒフミ。

 無断外出の時点で失態だとは言ってはいけない。

 

「……あまり大きな声では言えないけど、誘拐自体は事実よ。それを阻止するために、私が護衛についているのだし」

「でも、ヒナ先輩が倒してくれたから、もう大丈夫だよ!」

「後は、元々の予定通りにお姫様と誘拐犯で逃走するだけよ……そう言えば、他の誘拐犯役が来ないわね。いったん、路地裏から出た方がいいかしら」

 

 駕籠を担いで逃げる性質上、誘拐犯役はヒナを含めてもあと1人は要る。

 無事になったところで、本物の誘拐犯役と合流する予定だったのだがと、ヒナが首を捻る。

 まあ、相手の逃げる場所は作戦段階では分からなかったので仕方ない。

 

「あんた達、そんな所で何やってるの……て、うわ! 何この惨状!?」

「……しまった」

 

 そんな所へ、銃声を聞いて覗きに来た河和シズコが現れる。

 そして、当然と言うべきか屍の山と化した路地裏の惨状に声を上げる。

 

「これあんた達の仕業!? それにその駕籠は……まさか、和楽姫を狙った()()()()()!?」

「ち、違います! これは、正当防衛と言うか……」

「ゲヘナの生徒は荒っぽいって聞くもの! 遊び半分に誘拐してもおかしくないわ!」

「………困ったわね、強く反論出来ないわ」

「ヒナさん、諦めないでください!!」

 

 シズコの言葉に、やるかやらないかで言えば多分やるなと、納得するヒナ。

 因みに、ヒフミをトリニティだと気づいていないのは、まさかお嬢様のトリニティ生徒がこんな所に居る訳がないとバイアスがかかっているせいである。

 

「ヒナ先輩もヒフミ先輩も誘拐犯だけど、誘拐犯じゃないよ!」

「結局、誘拐犯じゃない」

「イブキ、ありがとう。ねぇ、あなた。少し説明の時間を貰えるかしら。私は何があっても指一本動かさないから」

 

 そして、ヒナからシズコへと事情が説明される。

 

 ~~~~~~~~~~

 どういうことだってばよ?

 そういうこった!

 分かるってばよ……。

 ~~~~~~~~~~

 

「なるほど……魑魅一座を欺くために……そんなことを……」

「出来れば、ここだけの話にしておいて貰えると嬉しいわ。()()()()()()。それが、今回の交流会においての最上の結末だから」

「分かりました。私としても、今後の店の売り上げが増え…コホン。お客様が増える可能性がある交流会は無事に成功して欲しいので」

 

 説明が終わり、敬語でヒナに対応するシズコ。

 相手が余所の学校のお偉いさんなので、スキル“世渡り上手”が発動したのだ。

 まあ、上に報告したところで『問題など……元々なかったではないか』ともみ消されるだけなのだが。

 

「よかったですね、ヒナさん」

「そうね。それじゃあ、後は──」

「シズコ委員長ー! どこに行ったんデスか? 関門に挑戦者が現れマシタよー!」

 

 説明に時間を割きすぎたせいか、朝比奈フィーナから第一関門に既に挑戦者が現れたとの声が響く。

 

「ああ! チョット待ってください! 仲間がまだ来てマセン! 3対1は卑怯デース!!」

「忍者に卑怯、卑劣は誉め言葉……と、先生から習いました」

「まあ、でも可哀想だし……イズナ、1人でいける?」

「はい、お任せください! ではフィーナ殿、イズナの忍術を受け止めてください! 先生殿直伝、天泣(てんきゅう)の術を改め……いきます! イズナ流忍術・含伏(ぷくぷく)の術!!」

「オー!? No, thank you(てんきゅう)デース!?」

 

 そして聞こえてくる、忍術研究部とフィーナが争いを繰り広げる音。

 もとい、忍術音。

 美少女の口から吐き出されたものだぞ? 受け止めろ。

 私? もちろん、ご遠慮します。

 

「──ゲ! もう、来た!? あんた達、早く逃げないと! 第一関門でお姫様が救出されたらお話にならないわ」

「で、ですが、誘拐犯役の方が最低でも2人は要るんですが……」

 

 さっさと、逃走ルートに戻れと告げるシズコにヒフミがどうしようと呟く。

 だが、そんなヒフミの呟きは。

 

 

「何言ってるのよ? ここに2()()居るじゃない」

 

 

 シズコの指差しで消される。

 もちろん、指を差された先に居るのは、ヒナと()()()である。

 

「わ、私ですか? そんな……私、悪い事なんてやったことのない普通の人間なので、誘拐犯なんて出来ませんよぉ」

 

 悪事を犯したことなんて、生まれてこの方一度もないと告げるヒフミ。

 己を悪と思っていない、最もドス黒い悪とはこのことである。

 

「駕籠担いで逃げるだけなんだから。足止めは私達刺客がやるんだから大丈夫でしょ」

「……時間がないわ。襲撃を受けた際の戦闘はこっちでやるから、運ぶのだけ手伝ってくれないかしら」

「イブキがヒナ先輩と一緒に歩いたらいいんじゃ?」

「いや、誘拐されてるのに一緒に散歩はおかしいわよ」

 

 時間がないので、取り敢えず一緒にイブキを運べ。

 そう言われれば、根が優しいヒフミが断れるはずもなく。

 

「わ、分かりました。精一杯、誘拐犯になりきります!」

 

 ゲヘナの姫を攫う、トリニティのエージェントが誕生する。

 おのれ…ッ。桐藤ナギサめ、これが狙いか…!

 

「ありがとう。じゃあ、顔を隠さないとね。仮面は……しまったわ、さっきの戦闘で私の分以外壊れてる」

 

 誘拐犯なので。

 それから、劇は正常に進んでいると思わせるために、有名人を黒子にするために。

 顔を隠す必要があるのだと、奪ったお面を着けながらヒナが告げる。

 

「顔を隠すものですか? えーと……あ! じゃあ、おやつに持ってきた店の物で悪いんですけど、これなんてどうですか?」

 

 そんなヒナの呟きを聞き、シズコが懐からゴソゴソと何かの袋を取り出す。

 

「これは……たい焼きの袋?」

 

 

 ──その日、少女はたい焼き袋(運命)と出会う。

 

 

「はい。これに目を出すための穴を空けて……よし、完璧ッ! 即席、覆面の完成!」

「あ、甘くて良い匂いがしますね……」

「よろしければ、劇が終わった後にでも百夜堂にお越しください♪ サービスしますよー」

 

 戸惑うが、素顔を晒すよりはマシとたい焼きの袋を被る、ヒフミ。

 その着け心地は、まるで主の帰還を待ち望んでいた鞘のよう。

 魂の形にフィットしたかのような、不思議な感覚にヒフミは戸惑う。

 

「被ったわね。じゃあ、行くわよ。イブキ、駕籠にもう一度乗って?」

「うん、分かった!」

「あうぅ……こうなったらもう、悪党になりきるしか……」

 

 しかし、戸惑っている暇はない。

 このまま、ここに突っ立っていては劇はご破算。

 ヒナと二人で、イブキを入れた駕籠を担いで駆け出していく。

 

 

『ん? んん~? ……これは新しい仲間と合流したんですかねぇ?』

 

 

 そして、扉間含む権力者達に、イブキを誘拐するファウストの姿が配信されるのだった。

 

 

 

 

 

「あれは……まさか、阿慈谷ヒフミ…!?」

「そうか……お前にもそう見えるか……幻術だと思いたかったのだがな」

 

 映し出されたヒフミの勇姿(たい焼き袋)を見ながら、愕然とするイロハと呆れる扉間。

 因みに、イロハが愕然としているのは、扉間と違ってヒフミの真実を知らないからだ。

 

(どうして、阿慈谷ヒフミがここに…? まさか、トリニティのホストから命令を受けてイブキを狙って? ですが理由が……いえ、マコト先輩がエデン条約機構(ETO)の本拠地の件で色々と吹っ掛けてましたし……まさか、その復讐に? もしくは、今回の交流会でゲヘナと百鬼夜行が同盟を結ぶのを恐れて、邪魔をするため?)

 

 ヒフミをナギサのエージェントとして認識しているイロハは、ナギサの考えを読もうと必死に頭を働かせる。

 エデン条約を結んだとはいえ、政治的な関係は握手をしながら足で蹴り合う状態。

 ゲヘナが勢力を拡大することを恐れて、交流会の邪魔をしに来たとしてもおかしくはない。

 

(ですが、一体どうやって送り込んで? マコト先輩はバカですが、考え無しではありません。マコト先輩の情報網でトリニティの動向も観察した上で、今回の交流会を開いたはず……なのに、桐藤ナギサの動きを欠片たりとも察知できなかった…ッ)

 

 ナギサは何もしていないので、そりゃあ何も察知できないだろう。

 ナギサ様、何も考えてないと思うよ。

 

「完全に見誤っていました……やはり、トリニティは腹芸が得意ですね」

 

 頭の中で『オーホッホッホ!』とこちらを嘲笑う、悪役令嬢風のナギサを想像しながら呟く、イロハ。

 考え過ぎと言いたいが、余所ではマコトも同じ考えに至っているので仕方ない。

 真実? このことを知ったら、ナギサが一番驚いて白目をむくよ。

 

「何を考えているかは知らんが、考え過ぎだと思うぞ。ヒナもおるのだぞ?」

「ですが、ヒナさんはエデン条約機構(ETO)成立の中心的人物……風紀委員会を休んでいる間にトリニティと接触して、あちら側に寝返っていてもおかしくありません」

 

 疑心暗鬼に陥っているイロハにツッコミを入れる扉間。

 しかし、イロハはイブキが大切過ぎるせいか、目が曇っている。

 

「空崎ヒナは幼い子供を利用する奴ではなかろう? 少し冷静になれ。そもそもヒナが裏切るつもりなら、とっくの昔に裏切っておるだろうに」

「………それもそうですね。マコト先輩の風紀委員会への嫌がらせを考えたら、とっくの昔に裏切られていてもおかしくないですね」

 

 裏切るつもりなら、とっくの昔に風紀委員会を率いて裏切っている。

 そう言われると、イロハも返す言葉がない。

 

「マコト先輩には少しは反省するように伝えておきます。本気でヒナさんに裏切られたら止める術がありませんので……それこそ、トリニティのホストの思うつぼですね」

 

 あいつ裏切るってよ。

 そう言った噂を流して、内部から敵を崩壊させるのは古来より使い古されてきた手だ。

 

 この策の(いや)しい所は、そういった意図がなくとも噂された人間は待遇が少しでも悪くなると『もしかして……私、疑われてる?』となって、本当に離反する可能性が出るところだ。

 

 さらに、そこへスパイを送り込んで『無実の人を疑うとか酷いよね。あんな上司より、こっちに来ない? 待遇良いよ』と告げると嘘が(マコト)に変わったりするお手軽さにある。

 孔明の卑劣な罠だ。

 

「それで、先生は事情を知っているんですか?」

「正直に言ってワシも知らん。だが……ヒフミは悪意無くとんでもない行動を起こすバカだ。恐らくは、今回もそういった類だとは思うが……」

「……ここは先生の言葉を信じることにします」

 

 偶然だと思うと告げる扉間だったが、イロハの疑心はまだ晴れない。曇り状態だ。

 まあ、イブキにペロロ人形(白いブツ)を渡したり、誘拐したりと万魔殿の喉元に常にナイフを突きつけてきているので、仕方ない。

 

「……イブキの安全を確認しつつ、事を知るなら……予定通りに誘拐犯役としてヒフミ達と合流すればハッキリする……そして吐かせる」

「はぁ、ですよね。それ以外に方法がないですもんね……分かりました。私も同行します」

 

 結局のところ、イブキの安全もヒナの裏切りも、ヒフミの暗躍も全て合流すれば分かる。

 なので、イロハも残業覚悟で扉間と合流することにする。

 

「感謝する。爺の一人旅は危ないからな」

「はいはい。腰の負担にならないように、戦車を出しますよ、()()()()()()

「フ、孫の優しさに思わず、泣きそうになるな」

 

 そして、2人は戦車に乗り込んでイブキ達を追っていくのだった。

 

 

 

「……ところで、その服なんですか?」

「忍装束だ」

「……男の人って、いくつになっても心が子供なんですね」

 

 追っていくのだった。

 

 

 

 

 

「にははは、そこの挑戦者の方々。少し運試しをしていかれませんか?」

「あ、コユキ殿!」

 

 様々な忍術を駆使して、第四の試練までたどり着いたミチル達。

 そんな彼女達を出迎えたのは、妖しげに笑うコユキの姿だった。

 

「こんな所でなにしてんのさ! 先生がぎっくり腰になって、お姫様が攫われたんだよ!」

「え? あれって、演出じゃないんですか?」

「あ……えーと…まあ、こういうのってノリが大切じゃん?」

「なるほど、それは確かに。お祭りは全力でやるのが一番楽しいですからね」

 

 誘拐される劇だから、何も問題ないのでは?

 そう告げるコユキに、ミチルはどう言うべきか悩んだ後に黙っておくことにする。

 真実を知っているであろうニヤがあの調子で放送を続けているので、あまり騒ぎを大きくするべきでないと判断したのだ。

 まあ、実際はコユキの言うように単なる演出でしかないのだが。

 

「それで、コユキちゃんはどうしてここに?」

「にははは! よくぞ聞いてくれました! 絶賛トップを走る忍術研究部のみなさんを足止めしろと…いえいえ! お手伝いしようかと思いまして……」

「今、何かとんでもない言葉が聞こえてきたような……」

 

 トップが独走では、レースは盛り上がらない。

 そんなニヤの粋な計らいに応えて、コユキが追加(おまけ)の試練になっているのだ。

 

「すでに入り口でカエデさんから説明を受けていると思いますが、ここは“トリックハウス”。早い話が、先生と一緒に見た“かまぼこ突風伝”でもあった忍者屋敷ですね。中は迷路になっていて、トラップが山盛りです。きっと、すごく時間がかかると思います」

 

 このトリックハウス、“瀕死都市アビドス”に比べれば難易度が低いが、それでも一筋縄ではいかない迷宮だ。

 普通に頭の良いイロハなどでも、迷うと出てこられなくなる代物だ。

 

「ですので! 大サービス!! ここにある()()()……おっと、地図でしたね。こちらを皆様に見せて上げることが出来ます」

「え? いいのそれ?」

「もちろん、タダとは言いませんよ~」

 

 ちっちっ、と指を振って小馬鹿にするような笑みを浮かべる、コユキ。

 殴りたい、この笑顔。

 

「私に勝ったら、この地図を差し上げます」

「イズナ知ってます! これは親友を倒して、新たな力に目覚める展開です!」

「こ、これも誘拐されたお姫様のためです……か、覚悟してください!」

「え? あ! ま、待ってください! 戦闘じゃありませんよ! 私弱いんですから! ここは賭け事です! 賭け事!」

「賭け事?」

 

 そんな顔をしたのが悪かったのか、キヴォトス住民の(さが)か。

 即座に戦闘準備に入る忍術研究部だったが、慌ててコユキが止める。

 また、サメに襲われるような事態にはなりたくないのだ。

 

「はい、丁半(ちょうはん)ゲームです。ルールは簡単。サイコロを2つ振って、出た目の合計が偶数(ちょう)奇数(はん)かを当てるだけです。これを合計で5回繰り返して、先に3回勝った方の勝ちです。皆さんが勝てば、地図を。私が勝てば参加料1000円は私の物です」

「タダではないってそういう意味!?」

 

 交流会で金を取るのかと、思わず声を上げる、ミチル。

 そんなミチルに対して、コユキはやれやれと首を振る。

 

「やれやれ、分かっていませんねぇ。ソシャゲの課金と一緒ですよ? このまま順当にいけば先に始めた人が勝つだけ。ですが、お金を使えば先に始めた人を抜かせるかもしれない。時間とお金はトレードオフですよ」

 

 要するに、これは逆転要素。

 トップランナーがトリックハウスで迷っている間に、2番手以降が追い越すためのチャンス。

 ガチャなら10連で1500円。しかも最低補償しかない所が。

 こちらは、たったの1000円課金するだけで手に入れられるのだ!

 ん、ガチャは悪い文明。

 

「むむむ、一理ありますね」

「ど、どうします? 部長?」

「うーん……急いでいるし、迷ったら最悪出てこられないし……よし!」

 

 背に腹は代えられない。

 これも、攫われた姫を助けて忍者として認められるため。

 ミチルはガマ口の財布から、お金を取り出す。

 

「さあ、勝負だ! 今月はニンペログッズを買ったせいでピンチだから、負けないよぉだ!」

「にははは! その言葉が聞きたかったんですよ。では、(ちょう)(はん)。どちらを選びますか?」

 

 コユキがサイコロを壺に入れて、コロコロと中で弄ぶ。

 これで合法的にギャンブルが出来るぜと笑いながら。

 扉間の合法なら、少々悪いことしてもOKの精神を見習った結果である。

 受け継がれる、卑の意志…!

 

「え~と、じゃあ、まずは偶数(ちょう)!」

「では、次はイズナが決めます。奇数(はん)で!」

「えっと、その次も奇数(はん)で……残りは誰が決めます?」

「じゃあ、後2回は部長の(あたし)が決めよっか……よし! ここは偶数(ちょう)偶数(ちょう)で全部偶数(ちょう)!」

(ちょう)(はん)(はん)(ちょう)(ちょう)、の順で決まりましたね? もちろん、私はその反対の目に賭けます。いやぁ、ミチルさんは(ちょう)に全賭けですか。やっぱり、ギャンブルの醍醐味は全賭けですよね!」

 

 ミチルの全ベットに笑いながら、サイコロの入った壺をガチャガチャと振る、コユキ。

 ザワ…ザワ…と期待と興奮で胸が高まる。

 

「さあ! では──勝負ですよ!」

 

 そして今、運命の(さい)が投げられる。

 

 

 

 1回目 (ちょう)。忍術研究部の勝利。

 2回目 (はん)。忍術研究部の勝利。

 3回目 (はん)。忍術研究部の勝利。

 4回目 (ちょう)。忍術研究部の勝利。

 5回目 (ちょう)。忍術研究部の勝利。

 

 5対0で忍術研究部の勝利。パーフェクトゲームだ。

 

「「「「…………」」」」

 

 ザー……キー!

 無言で黙り込む4人の周りに、風の音と一般通過中の鷹の声だけが反響する。

 

「ま、まさか、コユキ殿はイズナ達を助けるためにワザと……」

「え? まさか、イカサマで(あたし)達を助けて……」

「で、ですよね。5連勝なんてそう簡単に出来ませんし」

 

 コラボで培った友情の証に、ワザと負けてくれたのかと、イズナ達がコユキを見る。

 

「ふふん……もちろん」

 

 そんな視線に対して、コユキはニヒルに笑い──

 

 

「──そんな訳ないでしょう!? 何ですか、5連敗って! 弱小球団じゃないんですから、そんな気軽に5連敗しないでくださいよぉ!!」

 

 

 自らのクソ運に涙を流す。

 (あき)らかに異常に見える数字だが、確率的には32分の1。つまり3%。

 アイスで当たりが入っている確率と同じであるので、偶に良く起こる。

 2本一緒になっているアイスを、綺麗に折るのに失敗する確率よりは低いので許してほしい。

 

「せっかく、先生(おに)の居ぬ間に命の洗濯と思っていたのに……」

「渡る世間は鬼ばかりですね」

「そんなことより早く地図を頂戴! 急いでいるんだから」

「分かりましたよぉ……はぁ、自由への逃亡のための軍資金作りが」

 

 お金が無いなら稼げばいいじゃない(ギャンブルで)。

 などといった作戦が成功するわけもなく、結局ただ負けただけのコユキがカバンからゴソゴソと何かを取り出す。

 

「はい、これが地図……もとい、攻略本です」

「あれ、それって……」

「攻略本ってこれ“かまぼこ突風伝”の16巻じゃん! 忍者屋敷のやつ!」

「どういうことですか、コユキ殿?」

 

 報酬のトリックハウスの地図。

 そう言って、コユキが取り出したのは“かまぼこ突風伝”であった。

 

「え? 何でも何も、ここって“かまぼこ突風伝”の忍者屋敷ですよね?」

「そうなの!? でも、そんなこと聞いたことないけど……」

「イズナも聞いたことがありません」

「忍者に詳しい部長もイズナちゃんも聞いたことが無いなんて……ちゃんと許可を取っているんでしょうか…?」

「「「「…………」」」」

 

 ふと垣間見てしまった百鬼夜行の闇に、再び黙り込む4人。

 著作権はどうなってんだよ! 著作権は!

 

「ファ、二次創作(ファン活動)ということで……何とか?」

「ここ……お金は取ってない…よね? 二次創作ってお金取ったらアウトだったから、そこには触れてないなら、大…丈夫…?」

「た、確か、そこら辺はグレーゾーンというか……あまり触れないようにしていると言うべきか……見ないフリをしてくれていると言うべきか……」

 

 コミセンにも参加する忍術研究部が、これ不味くないかなとコソコソと会話をする。

 やめてくれ、忍術研究部。その話はこの小説にも効く。やめてくれ。

 

「あ、さっきの私の賭けは、あくまでも賭けの参加権を売っただけで、“かまぼこ突風伝”は売っていないので合法ですよ。それに、負けたのでお金は返していますし」

 

 失礼ですね。お金の取引なんてしてません! うちは合法ですよ!?

 あ、でも、他のお客さんは良くあちらの建物に入っていきますね。

 何でなのか、理由は存じ上げませんが(パチンコ店での会話)。

 

「じゃ、そういう訳で私はこれで! みなさんは、頑張って誘拐犯を追ってください」

 

 私は飛雷神で帰るとばかりに、脱兎のごとく逃げ出す、コユキ。

 真似して欲しくない所ばかり、扉間から真似していっているな、こいつ。

 

「あ! そうだった。くぅ、後で()()()()問い合わせてやる」

「と、とにかく、今は先に進みましょう!」

「イズナちゃんは後ろに居てください。コユキちゃんの言う通りなら、私と部長は漫画を見なくても道が分かりますので」

 

 そんなコユキに思う所はあるが、急いでいる事実を思い出して、忍術研究部達は突入を開始するのだった。

 

 

 

 

 

『うーん……これはこれは、忍術研究部が独走状態ですかねぇ。流石は忍者といったところでしょうか、にゃはは。ですが、誘拐犯達も一筋縄ではいきませんよぉ。追いついても、まだまだ安心できません。な・に・せ、誘拐犯は凄腕ですから~』

 

 トリックハウスに忍術研究部が入った頃。

 ニヤが色々と軌道修正した上で、実況を行っていく。

 

『え? 誘拐犯が最初と服装が違う? いやいやいや、プロレスで言う所の、オーバーマスクならぬオーバーボディというやつですよぉ……きっと』

 

 飛び入り参加がほとんどなので、魑魅一座とは当然服装が違う。

 それをニヤは、ちょっとやけくそになりながら、ゆで理論で武装していく。

 これが夏空のやけくそである。

 

『さぁて、まずはこの人~! たなびく白髪は、敗北を知らぬ最強の証! ()()()になった生徒は数知れず! 邪魔する者はまとめて粉砕だぁ! 残虐非道の鉄仮面・デストロイヤー!!』

 

 ドンッ! といった効果音と共に映し出される、お面を被ったヒナ。

 それだけで、正体に気づいたゲヘナの生徒の何割かが戦意を喪失する。

 

『お次はこの方! 真紅の髪は返り血で染まったものかぁ!? 戦車を制す者は世界を制す! イロハにほへと散りぬるは~お前達の命だぁ! 鋼の無敵超人・タイガーサークル!!』

 

 ドンッ! と、映し出される白地に5の数字が入った覆面を被ったイロハ。

 ニヤの煽り口上が効いているのか、若干恥ずかしそうにしている。

 因みに、覆面は扉間からの借り物だ。

 

『最後にこいつだぁ! 経歴不明! 目的不明! まさにアンノウン! いや、本当にどなたですか? 彼女は何を思い、何を為すのか!? 誘拐犯のリーダー! 欲望の底なし沼・ファウストォッ!!』 

 

 ドドンッ! と、最後に映し出されたのは、たい焼きの袋を被ったヒフミ。

 明らかにまともでない服装から、そのイカレ具合が垣間見える。

 まさに誘拐犯のリーダーになるべくして、生まれて来たかのような威圧感だ。

 

 

「あはは……楽しいですよ、イブキちゃんとの誘拐ごっこ」

 

 

 こうして、劇は終幕へと向かうのだった。

 

 

 

 

「さて……最後に久田イズナを試すとするか。奴が火の意志を持つに値するかどうかをな」

 

 様々な思惑を孕んで。




不忍ノ心終わったら、トリニティイベント予定。
補習授業部メインにしたいけど、どのイベントを基準にするかは未定。
ほぼオリジナルにするかも。

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