千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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67話:不忍ノ心・結

 

「ちくしょおおおお! くらえぇ、タイガーサークル! 先生殿直伝、火遁・灰積焼(はいせきしょう)の術!!」

「どうぞ、ミチルさん。鋼の無敵超人とか言われてましたけど、私は実は一度攻撃を当てるだけで倒せます。面倒なので」

 

 火遁・灰積焼(はいせきしょう)の術でイロハを倒すミチル。

 この術って何だっけと思う人に分かり易く言うと、アスマ先生のあれである。

 辺り一帯に火薬を撒いて、奥歯に仕込んだ火打石で着火させる。

 なんか良く分からないけど、ちょっとだけ火を吹けるミチルにもってこいの技である。 

 

 実用性? 相手も銃火器を使うのに、悠長に火薬を撒く暇があるわけないだろ!

 

「うーわーやーらーれーたー」

「イロ…タイガーサークルがやられたようね」

「あはは、タイガーサークルさんは四天王の中でも次席……」

「に・は・は・は! 忍者ごときにやられるとは四天王の面汚しですね」

 

 城の天守閣からイロハの敗北を見届けるヒナ、ヒフミ、四天王の数合わせで来たコユキ。

 戦車を扱うイロハが室内で戦うわけにもいかないので、そういう配置になったのだ。

 

「い、今です! 先生直伝…木遁変化の術…!」

「ええぇ!? 柱なのは間違いでツクヨさんだったんですか!」

「イズナもお忘れなく!」

 

 高い身長を生かして柱になりきっていたツクヨと、一緒に隠れていたイズナからの奇襲。

 弱っちいコユキはなす術無くやられる。

 

 それにしても、ツクヨはどうして木に変化したら攻撃を受けることで回復するのだろうか…?

 柱間の木遁の術でもそんな術は……そう言えば、木龍でチャクラを吸えたな。

 もしかすると、シャークさんみたいにやろうと思えば、チャクラの回復も可能だったのかもしれない。

 

「一応、相手をした方がいいかしら?」

「やや! 腕に自信のあるお方とお見受けします。イズナがお相手いたしましょう!」

「……怪我をしない程度に手加減はするわ」

 

 マシンガン、終幕:デストロイヤーを構える、ヒナ。

 リハビリ明けとは言え、圧倒的な強者の自覚のある彼女はイベントごとで本気を出すわけにはいかないと自制する。

 

「さあ、銃弾の雨を潜り抜けてボスの下まで辿り着けるかしら?」

 

 ヒナは四天王の中でも最強。

 なのだが、設定上はリーダーのファウストが最強なので、そこは厳守する、ヒナ。

 彼女は空気の読める子なのだ。

 

「むむむッ! 隙のない弾幕……ですが、イズナ達には絆の力があります! ツクヨ殿!」

「うん! イズナちゃんとの合体忍術…!」

 

 敵を寄せ付けないマシンガンの弾幕。

 それを前にして、イズナとツクヨはフォーメーションを組む。

 

「イズナ流忍術、変わり身の術に加え!」

「ツ、ツクヨ流忍術、変化の術で──」

 

 ツクヨが前に、イズナが後ろに。

 すなわち──

 

 

「「──忍法! 囮寄せ(おとりよせ)の術!!」」

 

 

 ──ツクヨが盾になるのだ。

 攻撃を受けることで回復するツクヨは、囮役にて最適。

 

「ええぇ……」

 

 当然、目の前で身代わり作戦を実行されたヒナはドン引きする。

 イズナに攻撃しようとしたら、変わり身の術で引き寄せられたツクヨが代わりに食らう。

 そして、ツクヨは特性で回復する。

 合理的なのだが、優しさが心から家出している術だ。

 

「隙ありッ!」

「あ……えっと……やーらーれーたー」

 

 そして、ドン引きしている隙を突かれて、イズナにヘッドショットを食らってしまう。

 まあ、蜂に刺された程度のダメージしか入っていないのだが、そこは空気を読んで倒れる。

 本気でやったら、勝てる奴がほぼいないので仕方がない。

 

「はぁはぁ……これで四天王のうち3人を倒しましたよ」

「2人とも大丈夫?」

「あ、部長も来たんですね」

「ふふふ、よく来ましたね。忍術研究部のみなさん。待っていましたよ」

「あ、あなたは!? 誘拐犯のリーダー、ファウスト!」

 

 イロハとの激闘を制して来た、ミチルと合流し再び3人となる忍術研究部。

 残された四天王はあと1人。

 欲望の底なし沼、ファウストである。

 

「忍術研究部のみなさん。戦う前に1つ言っておくことがあります。みなさんは四天王を倒した後に、ボスが待ち受けていると思っているかも知れませんが……普通に私で最後です」

「な、なんだってぇ!?」

 

 四天王は別にボスの前座という言葉ではないのだ。

 ポケモンと違ってチャンピオンは出てこないし、ライバルも現れないので安心して欲しい。

 

「そして、四天王最強は先程倒したデストロイヤーさんです。私は上から3番目ぐらい……目立つこともなく、馬鹿にされることもない普通の強さです。なので、正直3対1は辛いので怪我しない程度に手加減して欲しいです。後、イブキちゃんは奥の部屋で、ニンペログッズで遊んでいますので心配しないでください」

「フ…上等だね…じゃあ、(あたし)も1つ言っておくね。さっきまで、真剣にやってたけど、やらせだって分かったからちょっと気が抜けてる」

「そうですか」

 

 ここまでくれば、馬鹿でも分かる。

 誘拐犯の件は既に解決して、通常の劇に戻っているのだと。

 要するに、ごっこ遊びをしているようなものだったのだ。

 故に、ごっこ遊びのノリでミチル達はファウストへと向かっていく。

 

「うぉおおお! 行くよォオ! 2人共!!」

「さあ、来てください、みなさん!」

 

 ミチル達の勇気が世界を救うと信じて…!

 ご愛読ありがとうございました!

 トマトルテ先生の次回作にご期待ください!

 

 

 

「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。忍術研究部さんとの忍者()()()

 

 

 

 たい焼きの袋から覗く瞳が妖しく光る。

 

「お願いします、デストロイヤーさん」

「了解、ボス」

 

 やられたフリをしていたヒナが起き上がり、背後から忍術研究部に襲撃をかける。

 やられたとは言ったが、動けないとは言っていないのだ。

 コユキ? 弱っちいのでガチで倒れているよ。

 

「うぎゃぁああ!? そんなのありぃ!?」

「すいません。私は普通なので……こうして策を巡らせないと皆さんに勝てないんです」

 

 普通だから努力をする。

 普通だから策を巡らせる。

 普通だから油断をしない。

 これが、普通のアウトローの生き方である。

 

「ぶ、部長!? イズナちゃん! 囮寄せ(おとりよせ)の術で私と部長を入れ替えを──」

「同じ手は通用しないわ。あなたの良く分からない術は印を組まないと発動できないのは確認済み」

 

 集中砲火に晒されるミチルを救うべく、身代わりになろうとする、ツクヨ。

 だが、空崎ヒナには同じ手は通じない。

 ツクヨが桜の木の着ぐるみに変化する前に、接近して叩きのめす。

 

「ツクヨ殿ッ!?」

「安心して。気絶させただけよ。大丈夫、慣れているから」

 

 どれだけの力で殴れば、人は気絶するのか。

 恐らくは、ゲヘナにおいて彼女よりそれに詳しい人間はいない。

 3年に及ぶ治安維持活動の集大成。

 それが、今ここにある。

 

「お、終わったと見せかけて、不意打ちするなんて卑怯だぞ!」

「相手が勝利を確信した瞬間。そこが一番の隙が生まれる場所なんです」

「むぅ……先生殿と同じこと言ってる」

 

 まあ、みんな扉間の生徒だし……。

 しかも、補習授業部は合宿でみっちりと授業を受けているので、忍術研究部よりも卑劣の習熟度は上だ。

 

「それに()()()考えてみてください? 人質を取る人間が、正々堂々と戦うと思いますか?」

「ぐうの音も出ない正論ですね……」

 

 言われてみれば、そうだけど納得がいかないといった表情をする、イズナ。

 テイルズ・サガ・クロニクルをやっておけば、この程度のひっかけにはかからなかったものを。

 やはり、テイルズ・サガ・クロニクルは世界を救う。

 

「さあ、どうしますか? ここでイブキちゃんを諦めるのなら、お2人は無事返してあげますよ」

「べぇーだ。こっちは、忍者の額当てがかかってるんだから、諦めないよ~だ」

「額当て? もしかして、これのことですか?」

 

 スッと、ヒフミがペロロのカバンから額当てを2()()取り出す。

 

「そ、それは…!」

「こんなものでよろしければ、差し上げますよ? まあ、2つしかないのでツクヨさんには諦めて貰うことになりますが」

 

 当然、これは扉間の仕込みである。

 2人もそのことに気づき、愕然とする。

 まさか、扉間まで敵に回っていたのかと。

 

「し、しかし、それではツクヨ殿と一緒に忍者になれません」

「あはは、いいじゃないですか、別に? 先生から聞きましたよ。これは()()なんですよね? 世の中には試験よりも優先すべきものがあるんです。試験はまた受けられるんだから、今やりたいことをやればいいじゃないですか」

「何だか分かりませんけど、すごい説得力です…!」

 

 試験をぶっちして、ライブや限定グッズを漁りに来ている奴が言うと説得力が段違いである。

 

「ツクヨさんは、また試験を受ければいいんですよ。でも、お2人は先に合格しておけばいい。どうせ気絶しているんですから、全員合格は無理ですよ」

 

 悪魔のささやきが、イズナとミチルの耳を撫でる。

 ツクヨには次があるんだから、先に自分達だけでも忍者になってしまえばいいじゃないかと。

 

 

「では3分間待ってあげます。普通の選択をお願いします」

 

 

 人の欲望を曝け出させる話術。

 それこそが、欲望の底なし沼・ファウストの真骨頂。

 

「イズナ……」

「……ッ。はい、部長!」

 

 イズナとミチルはアイコンタクトを交わし、頷き合う。

 どうやら、方針が決まったようだ。

 

「どうやら決まったみたいですね。答えを聞かせていただきましょうか」

 

 ファウストの声が静かになった部屋に響く。

 その声に応えるように、2人が声を張り上げる。

 

「イズナ! 忍者に一番大切なことは?」

「諦めない──ド根性です!!」

 

 2人が同時に懐からあるものを取り出す。

 

 

「「忍法、隠れ蓑の術!」」

 

 

 M18発煙手榴弾を一気に投げるミチルとイズナ。

 密閉された部屋は一瞬でバルサンを焚いたかのように、煙だらけになる。

 

「え、煙幕ですか!?」

「よし! ()()は奥の部屋!」

「了解しました!」

「しまった……ボス、奥の部屋に行ってイブキの確認を」

 

 視界が煙で覆われて、焦るヒフミ。

 声を上げて、目標を告げるミチルとイズナ。

 この程度は慣れているのか、落ち着いた声で指示を出す、ヒナ。

 

「奥の部屋……あ! 私達を倒すんじゃなくて、目隠ししている間にイブキちゃんを攫いに行ったんですね!」

「攫ったのは、一応私達よ」

 

 ──忍術が1つでも。なんなら、体術だけでも構わん。任務(もくてき)を達成することが忍者の仕事だ。

 第44回トビラマチャンネルで教わったこと。

 戦闘(過程)はどうでもよく、奪還(目的)を達成すればいい。

 

 故に、絶対に勝てない自分を放置してイブキの方へと向かったのだと、ヒナは推測する。

 イブキ奪還編のクライマックスである。

 

「クッ、させませんよ! イブキちゃんには、もっとニンペロさんの魅力を伝えないといけないんです!」

「そう……」

 

 煙だらけの部屋で、何とかイブキが居る部屋の(ふすま)の方へとたどり着くヒフミ。

 そして、()()()()()襖を開ける。

 そう、ミチル達が先に動いているのなら()()()()()()()の襖を。

 

「待って! ボス──」

「いくよぉ! イズナ、ツクヨ! 忍術研究部、最強の合体忍術!」

 

 襖が開いたことで、一気に煙が空気の流れに沿ってイブキの居る部屋に流れ込む。

 その空気の流れを見れば、ヒフミが何処に居るかは煙の中からでも簡単にわかる。

 後はその方角に向けて、気絶から復活させたツクヨも含めて3人で。

 

「忍法!」

「──ふ、袋叩きの術…!」

 

 滅多撃ちするだけである。

 

「ひゃぁああ!?」

 

 トリニティの闇・ファウスト。百鬼夜行にて散る。

 

「……なるほど。目くらましで先に行ったと見せかけて、ヒフミの背後を取ったのね。これが忍術……侮れないわね」

 

 ミチルの作戦は単純。

 煙幕で目隠ししている間にツクヨを起こす。

 声で相手を騙して、先に行ったと見せかける。

 そして、最後はヒフミの背中に人類最強戦術である袋叩き。

 初代忍術研究部部長の卑劣な作戦だ。

 

「あ、あの人、なんで平然と見破ってくるの…?」

「これはきっと上忍……いえ、火影クラス!」

「気絶させられたのに、全然痛くなかったです……きっと、さっきのも手加減して……」

 

 しかし、所詮は付け焼刃の卑劣。

 空前絶後の卑劣でなければ、ヒナは倒せない。

 煙幕や不意打ちなんて、ゲヘナでは挨拶にもならないぞ?

 

「ぶ、部長! ここは私が囮役になりますので、その間にお姫様を連れ戻してください!」

「ダメだよ、ツクヨ! あの人の本気の一撃じゃ、回復が間に合わないからまたやられるよ!」

「で、でも……そうでもしないとあの人を突破することなんて……」

「ダメなものはダメです! 忍術研究部は一蓮托生! 3人で忍者になるか、3人とも落ちるかだけです!」

 

 ツクヨが囮役はもちろん私が行く、と告げるが却下される。

 ダメージを受けることで回復するツクヨの力だが、一度に大量のダメージを食らえば回復する前に倒れるのだ。

 種が割れている以上ヒナは当然、ツクヨを集中して狙ってくる。

 それではツクヨが犠牲の犠牲になるだけだ。

 

「痛たたた……まさか柱に化けていたツクヨさんにやられるとは……て、うわ! 何ですか、この煙!?」

「そう言えば、コユキがまだ居たんだ……あれ? 待って」

 

 気絶したコユキが目を覚まし起き上がるが、周りの状況に混乱して叫び声をあげる。

 それを見たミチルは何かに思い至ったのか、頭に電球を浮かべる。

 

「コユキェ! 爆発が起きて危ないからこっちに来て!」

「その声はミチルさん? いやぁ~、助かりましたよ」

 

 危ないからこっちに来いと言う、知り合いの言葉に疑うことなく近づいて行く、コユキ。

 そうした警戒心の無さが、なんだかんだいって先輩に可愛がられる所だ。

 

「……よし」

「あの……ミチルさん? なんで、私の肩を掴んで…?」

「目には目を! 歯には歯を! 人質には──」

 

 近づいてきたコユキを掴んで、動けなくする、ミチル。

 ここに来てやっと嫌な予感を感じ取って、逃げようとする、コユキ。

 だが、その顔には銃が突きつけられている。

 つまり。

 

 

「──人質を!」

 

 

 コユキを人質に、この場を切り抜ける気だ。

 

「はぁあああ!? 私達友達じゃないですか!!」

「だ、だから、こっち側について貰えないかなって……」

「はい! 友達は一緒に居るべきです!」

「だから、一緒にお姫様を助けに行くよ!」

「だったら、肩を掴むんじゃなくて肩を並べましょうよ!?」

 

 I’m your friend.

 Nooooo!!

 

 私達友達だよね? と肩を組み(拘束)、コユキに笑いかける忍術研究部達。

 仲間外れは許さないってばよ。

 

「さあ、今度は私達4人で相手だよ!」

「この裏切り者ぉおおお! 月夜ばかりとは思わないでくださいね!!」

 

 そして、息巻くコユキを()()()してヒナへと向かっていく、4人。

 盾? 人聞きの悪い。これが友情パワーだよ。

 

「………はぁ、降参よ」

 

 そんな4人を前に、デストロイヤーを床に置いて手を上げるヒナ。

 コユキとはそこまでの親交もないので、別に『そいつに人質としての価値はねぇ!』と切り捨てても良かったが、そこはヒナ。

 ミレニアムの生徒を悪戯に傷つけて、外交問題にしたくないので降参する。

 

「うそ!? 通用した!?」

「通用しないと思ってるのに、人質に取ったんですか!?」

 

 ミレニアムと百鬼夜行の仲?

 コユキがオデュッセイアに迷惑をかけた時と同じだ。

 問題は起きない方がいいに決まってるでしょ?(byユウカ)

 

 コユキは犠牲になったのだ。ミレニアムと百鬼夜行の外交。その犠牲にな。

 

「ほ、本当ですか…? また、不意打ちとかしてこないですか?」

「これ以上は面倒くさいわ。やってやられての繰り返しで、終わりがなさそうだもの」

 

 憎しみの連鎖と同じ。どちらかが耐え忍ばねば、永遠に争いが続くだけ。

 平和主義者のヒナはこの世の真理を語る。

 この程度で大げさなと言ってはいけない。

 

「イブキは…姫はこの先よ」

「あ、ありがとうございます……」

「それじゃあ」

 

 パンスト越しのパンツを丸出しにして倒れていたヒフミを担ぎ上げて、ヒナは撤退していく。

 

「……じゃあ、行こっか」

「はい! 感動のフィナーレです!」

「お姫様を助けてめでたしめでたし、ですね」

 

 そして、忍術研究部達はイブキの待つ部屋へと足を踏み入れる。

 

「……あのー、なんで私はまだ先頭に居るんでしょうか? 人質要らないなら、放して欲しいんですけど」

「罠の可能性……違った。偵察役」

「言い直す意味ありましたか、それ!?」

 

 訂正、偵察役を買って出た()()()が一番に足を踏み入れる。

 

 

 

「パンパカパーン! お姫様を1着に助けに来てくれてありがとう! え~と、()()()()()さん?」

『は~い。これにて、お姫様は勇敢な主人公に助けられましたとさ。めでたしめでたし~。豪華景品の交換は陰陽部までどうぞ~』

 

 そして、一番に足を踏み入れたコユキが一着扱いになるのだった。

 

「「「「は?」」」」

 

 

 

 

 

「どういう訳なのさ! なんで(あたし)達じゃなくて、コユキが1着なのさ!!」

「にゃははは! まあまあ、そう声を荒げないでくださいって。1着は一番最初にお姫様の下に辿り着いた人。嘘なんかありませんよねぇ?」

「ですが、そもそもコユキ殿は運営側……その理屈なら誘拐役の方が1着です」

「はい。これがまかり通るなら、豪華景品自体が嘘だったことになりますよ」

「え! 景品の話嘘なんですか!? せっかく、臨時収入が入ると思ったのに」

 

 陰陽部の屋敷に呼び出された忍術研究部+コユキ。

 当然、ニヤの疑惑の判定に対して口々に文句を言う。

 ダンゾウのように卑の意志にばかりに、傾倒してしまったせいとは言ってはいけない。

 

「んんん? おかしいですねぇ。その理屈で行けば、忍術研究部の皆さんも元々は運営側で景品とは無関係のはずやと思いますけど?」

「……い、いや、スタートからゴールまでちゃんと頑張ったし」

 

 だが、ニヤのごもっともな意見に一瞬で勢いを失う。

 スタッフのコユキがもらえないなら、それは忍術研究部も同じ。

 一着が貰えるルール通りならコユキ。

 ド正論過ぎて反論できない。

 

「まあまあ、ちゃーんと、景品は用意してありますよぉ。ただぁ……今回の誘拐犯のボスですけど、元々用意した人じゃないのがちょっと」

「あのたい焼き袋の人?」

「はい。あの謎の覆面ファウストさんです……先生、ご説明を頂けますか?」

「あれは、トリニティの生徒。補習授業部部長の阿慈谷ヒフミだ」

 

 ニヤが真顔で振り向くと、いつの間にか居た扉間が頷く。

 忍の面目躍如である。

 

「あ! 先生殿! ギックリ腰はやっぱり嘘だったんだねぇ!」

「心配をかけさせたな。だが、劇にリアリティを持たせるためには、ああするしかなかったのだ」

 

 殺されると重すぎるし、血糊で演出するとR指定が上がる。

 故に、ギックリ腰。動けなくなるが、空気はそこまで重くならない。

 まあ、本当になった時の、本人のこの世の終わり具合は中々のものだが。

 

「話を戻すぞ。百鬼夜行にはペロログッズを買いに来たらしい」

「ニンペログッズのこと? 限定販売だから、遠出してきたのかなぁ」

「……なるほど~てっきり何かの隠語かと思ってましたけど、ちゃんとした商品みたいですねぇ」

 

 ミチルが普通に反応したのを見て、ペロログッズはちゃんと存在するのだと、認識するニヤ。

 てっきり、薬物(アイス)みたいな隠語かと怪しんでいたのだ。

 白いアレ(ペロロ)かもしれないと思っていたが、一安心である。

 ペロロの表情が薬物でラリッてるようにも見えるが、クリーンな商品である。

 

「それでどうしてその方が、誘拐犯のボスになっていたのですか?」

「イブキが魑魅一座に攫われているのを見て、助けに出たらしい。その後は、ヒナ1人では駕籠を持てないので手伝ったらしい」

「良い人なんですね……」

 

 悪を見逃さず、困っている人に手を差し伸べる。

 良い所だけ抜き出すと、ツクヨが告げるようにヒーローのようだ。

 

「まあ……うむ。優しい子ではあるな……」

「なんで、そんな歯切れの悪い顔してるのさ?」

 

 だが、実態はただのやらかしである。

 扉間の顔が微妙なものになるのも、仕方ない。

 

「ヒフミそのものはいいのだが……立場がな」

「ゲヘナとトリニティ。今はエデン条約機構(ETO)で繋がっていますけど、水面下では足の引っ張り合いをしてますからねぇ。特に、マコト議長は隙あらば、トリニティを取り込もうと隙を窺ってますからぁ」

「そして、もう1人の誘拐犯だったのは風紀委員長の空崎ヒナ。エデン条約機構(ETO)の推進派で、政治的には一応はマコトと敵対関係だ。それがトリニティと秘密裏に接触しているとなれば、マコトの心中は穏やかではないだろう」

 

 イロハが疑っていたように、マコトも当然ヒナとヒフミの繋がりを疑う。

 ヒフミの後ろにはホストである悪役令嬢ナギサがいるのだから(勘違い)。

 

「なるほど……ですが、そのヒフミ殿はそんなに偉い方なのですか? とてつもないプレッシャーは感じましたが、補習授業部と言うとあまり主要な部活には聞こえないのですが」

 

 テストの点数が悪かったので補習授業をする部活。

 当然、その名前だけ見れば重要な部活には見えないとイズナが告げる。

 

「実はですね~補習授業部は仮初の姿なんですよ」

「仮初?」

「その真の姿は和平使節団。ティーパーティーの聖園ミカさんを筆頭に、ゲヘナとの仲を取り持つために秘密裏に作られた親善団体。エデン条約機構を成り立たせるのに、一口も二口も噛んだって噂ですよねぇ……先生?」

 

 ニヤの黄金の瞳が、扉間をジトリと睨む。

 補習授業部はエデン条約を結ぶために、先生である扉間とホストのナギサが秘密裏に作った部活。

 それが、各学校の情報通の間での共通認識になっている。

 

「………フ、そうだな」

 

 まあ、全ては偶然の産物なのだが。

 

補習(ほしゅう)授業部とは補修(ほしゅう)の意味も兼ねておる。連邦生徒会長の失踪で一時は破談しかけたエデン条約を。ゲヘナとトリニティの仲を。さらには、トリニティとアリウスの仲の補修。そうした、願いを込めてつけたのだ」

「そ、そのような隠された意味が…! イズナ、感服しました!」

 

 もちろん、嘘である。

 ニヒルに笑いながら、扉間はミカとナギサのやらかしを隠すために、全力で後付けをしていく。

 過去に首を絞められているが、そうするしかないのが悲しい所だ。

 

「その過程でヒナとヒフミは知り合っておる。共にエデン条約を成り立たせた仲間とも言えるな」

「そんな2人が手を組んで、万魔殿の姫を攫うとなったら……あのマコト議長が黙っていませんよねぇ」

 

 エデン条約を破綻させかねないマコト。

 エデン条約を破綻させたくないであろう、ヒナとヒフミ。

 その視点を持って見ると、イブキを使ってマコトに警告しているようにも見える。

 悪い奴だぜ、桐藤ナギサ。

 

「それで、危うく政治問題になりかねなかったんでねぇ。こうして一度集まって貰ったんですよぉ」

「ゲヘナへの説明は、万魔殿のイロハがヒナとヒフミに直接話したので大丈夫だろう。イブキも無事に帰ったことだしな」

「おかげさまで、何とか無事に交流会を終えられましたよ。マコト議長の方も、今回の件は百鬼夜行とは無関係と分かって下さったですしぃ……ただ」

 

 ゲヘナと百鬼夜行の関係は良好。

 マコトもトリニティに対する警戒を強めるだけで済ませた。

 

 

「どういうわけかぁ、マコト議長がやたらと忍術研究部の皆さんに興味を持たれてましてぇ……『極めて倫理に反する術などを作っていないか?』と聞かれたんですけど、何をやったんですかねぇ…?」

 

 

 それと、ついでに忍術研究部への警戒心を高めている。

 扉間の過去を知った上で忍術を研究する忍術研究部の存在を知ったのだ。

 しかも、扉間監修済み。

 疑心暗鬼が高まる高まる。

 

「ええ!? 普通の忍術しか研究してないって!」

「具体的には?」

「火を吹いたり、隠れたり、変化したり、含み針を吹いたりとか……」

「まぁ……そのぐらいなら大丈夫ですかね」

 

 疑うニヤの視線に、あたふたと答えるミチル。

 扉間の指導を長く受けていなくてよかったな。

 チャクラが無くても、効率よく爆破する術とか教えられていたらアウトだったかもしれない。

 

「あの……大丈夫ってなにがですか…?」

「忍術研究部の皆さんへの豪華景品ですよぉ? じゃあ、ちょっと失礼してっと」

 

 ツクヨの言葉に答えると、机に向かって筆を走らせるニヤ。

 そして、サラサラッとしかし一目見るだけで達筆と分かる文章を書きだす。

 

「はい。それでは、こちらをどうぞ。ルンルンさん」

「分かった……て、誰がルンルンだ!?」

「ミチル殿、何が書いてあるのでしょうか?」

 

 そして、代表者であるミチルへと渡し、隣に居たイズナが読み上げる。

 

「えーと『私、天地ニヤは陰陽部の代表として、忍術研究部の活動を保証するものとする』ですか……え!?」

「もしかして……」

「忍術研究部を正式に認可してくれるんですか…?」

 

 陰陽部からの活動の保証書。

 すなわち、それは忍術研究部が正式な部活として認められた証。

 

「いえいえ、それはあくまでも『活動に関する他の部活からの保証書』ですよ~。残り2つは自力で集めてください」

「て、違うのぉ!?」

 

 ではなく、ただの保証書。

 ガックリとしてノリツッコミのように、倒れこむミチル。

 打てば響くなと、ニヤからの評価が上がる。

 

「にゃははは! 私は別に正式に認可してもよかったんですけどねぇ。カホにゃんがうるさくて~」

「ルールを司る行政が特例を認めるのは感心せんな」

「後~先生も正規の方法でやれとおっしゃってるので、仕方な~くこの形になったんですよ」

 

 今回渡されたものは、あくまでも1部活からの保証書。

 規定通りに残り2枚集める必要がある。

 だが、難易度は格段に下がっている。

 

「でも……いいんですか? 陰陽部って生徒会(セミナー)みたいなものって聞いたんですけど。許可を出す生徒会が保証書を出すのって不味くないですか?」

「ん~。ちょっと、認識がズレとるねぇ、コユキん。百鬼夜行には生徒会は存在せんよ」

 

 コユキからの指摘にニヤは悪戯っぽく笑う。

 百鬼夜行に生徒会はない。あくまでも、まとめ役の役割を持つ部活でしかない。

 

「公式にはただのまとめ役の1部活で、指導者でない。だけど、ちょ~っとばかり他の部活が遠慮してくれる部活。ああ、それと言い忘れとったけど……その保証書は別に()()()()()見せても構わんよ?」

 

 だが、実態は多くの生徒がそこをトップだと認識している。

 権力はない。だが権威はある。

 錦の旗のようなものだ。

 

「それって……」

「別にそれぐらいなら構いませんよねぇ? 先生」

「ああ、ルールに何も違反しておらん。正規の方法だ」

 

 権威のあるトップが認めている部活。

 まあ、もうほぼ当確である。

 そして信頼性が段違いなので、他の部活にも認められやすい。

 ルールの穴をねぐらにする、アビドスのボスの卑劣な作戦だ。

 

「部長! これがあれば、きっと皆さん認めてくださいます!」

「う、うん」

 

 ニヤからの保証書。

 その意味を理解したイズナがミチルに抱き着く。

 だが、ミチルの表情は硬い。

 陰陽部の推薦ありとは言え、忍者を馬鹿にされる確率は残っているのだ。

 

「さて……次はワシからだな」

 

 そんな所へ、扉間が声をかける。

 

「さあ、横に並べ。まずはミチルからだ」

「そ、それは…!」

 

 扉間が手に持つ、ピカピカと光る()()()を見てミチルが声を上げる。

 

「い、いいの!? 1着でゴール出来なかったけど…?」

「ワシの出した試験は、“和楽姫”を無事に成功させること。少々想定外のことも起こったが、お前達は確かにやり抜いた。ヒナという強大な敵にも、3人で最後まで諦めることをせんかった」

 

 本来は、扉間が裏切り役でボスになる予定だったが、予定変更でヒフミに。

 仲間を見捨てれば、忍者になれるという誘惑にも屈しなかった。

 それで十分であった。

 

 

「合格だ、ミチル。二代目火影、千手扉間が告げる。千鳥ミチルは一人前の──忍者だ」

 

 

 ミチルの頭に額当てをつけてやる、扉間。

 

「お…お…おぉ……」

 

 額当てを何度も触って確認し、声にならない声を零しながら瞳を潤ませるミチル。

 ズビッと鼻をすする音も聞こえてくるが、周りは聞こえないふりをしてあげる。

 

()()()、ツクヨ。お前達も忍者としてワシが認める。これからも、己の忍道に背くことなく歩み続けろ」

「はい! このイズナ……先生殿を主殿と思い、これからも忍者の道に精進していきます!」

「わ、私も……忍者が何なのかは、まだ完璧には分からないけど…少しだけ…一番大切なものが何かが分かった気がします」

 

 イズナ、と名前で呼ぶ扉間。

 

(恐らくは、久田イズナとうちはイズナは別人……いや、もはやどちらでも構わん。仲間を大切にする火の意志を持っておるのなら、それで十分だ)

 

 重要なのは、仲間を大切に思い、次代に火を繋げる意志。

 殺した殺されたなど些細なことだ。

 里とはそうした忍が集まって作られた場所なのだから。

 うちはイズナとて生きていれば、手を取り合えたかもしれないのだから。

 

「これでお前達3人は晴れて、下忍だ。次は中忍になるための試験を出す故、気を抜くなよ」

「え? 一人前の忍者じゃなかったの!?」

「忍者にも階級があるのだ。弱い忍者に高レベルの任務を任せる訳にもいかんからな」

「むむむ、やはり忍者の道は長く険しいですね……」

「でも……私達ならきっと、いつの日にか上忍になれます」

 

 そして、ミチル達はまだこの果てしない忍坂を登り始めたばかりだ。

 だから、止まるんじゃねぇぞ。

 

「んふふ。感動的ですねぇ。ではでは、この流れで私もコユキんに豪華景品“渦巻映画村”の1年フリーパスをプレゼントぉ!」

「うわーい!」

 

 ニヤからの豪華特典に声を上げて喜ぶ、コユキ。

 転売したら、結構な額になるなと心の中でそろばんを叩きながら。

 計算通り~完璧~!

 

「あ、名前入りなんで転売は不可なので、そこのところよろしくお願いしますねぇ」

「うわーん!」

「今度はミレニアムのお友達と来て、しっかり遊び倒してねぇ」

 

 もちろん、その程度の対策はしっかりされているので、コユキは心のそろばんを叩き壊す。

 そんな変数が多すぎる……。

 

「もー! こうなったらやけ食いですよ! ほら、先生。忍術研究部のみなさんへのお祝いですよ! それと私へのお祝い! 今日は酷い目に遭ったんですから、美味しいものを食べさせてください!」

「はぁ……ニヤ、おすすめの店はあるか?」

「それはもちろん! ……でも~、そこは一見(いちげん)さんお断りなんですよねぇ。あ、実は私はそこそこ顔が利くんですけどねぇ、にゃはは!」

 

 いいとこ教えるから、自分も連れて行けと告げるニヤ。

 仕事? お偉いさんとの会食も立派な仕事なんよなぁ。

 というわけで、カホちゃん。後はよろしく~。

 

「お前も連れて行くのは構わんが、打ち上げだ。あまり格式の高すぎるところでは、ワシ以外は気が張って(くつろ)げんだろう」

「大丈夫、大丈夫。そういう要望もしっかり叶えてくれる所も知ってますから」

「そうか……そこまで言うのなら、お前に任せるとしよう」

「にゃはは! 任されました~。じゃじゃ、皆さん一緒に楽しみましょうかぁ♪」

 

 こうして、百鬼夜行とゲヘナの交流会は無事に終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

 

 トリニティ総合学園・補習授業部。

 

「そ、そんな嘘だよね……ハナコちゃん?」

 

 静かな教室の中で、ミカの震えた声が響く。

 

「残念ですけど、本当です。ここは補習授業部……とりたてて何のとりえもない……普通の生徒が集まる場所です。ミカさんとは住む世界が違うんです。ミカさんは雲の上の存在……一緒に居ると息苦しいんですよ」

 

 浦和ハナコ、19点。

 

「そんな…! アズサちゃんはどうなの!?」

「……すまない、ミカ。私もハナコと同じ意見だ」

 

 白洲アズサ、48点。

 

「コハルちゃんッ!」

「ご、ごめんなさい……ミカ様。私の力不足です……」

 

 下江コハル、33点。

 

「ヒフミちゃん……ヒフミちゃんもそうなの!?」

「すいません、ミカ様。でも、これもミカ様のためなので……ハッキリと言いますね」

 

 阿慈谷ヒフミ、テスト放棄。

 

 

 

「ミカ様。あなたを──補習授業部から追放します!」

 

 

 

 聖園ミカ、90点。

 




次回予告:ミカ「補習授業部を潰す」

トリニティはオリジナルイベントで行きます。
仮タイトルは”補習授業クライシス! ~勘違いクーデター~”です。

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