「ねえねえ! おかしいでしょ、先生! なんで、頑張った側が追い出されないといけないの!? 私何も悪くないよね? 悪いのはみんなの方じゃん! どうして、一生懸命に頑張ったのに私が酷いことを言われないといけないの? 追放って何? むしろ逆だよね? 正しい方が残されないとおかしいじゃん! 先生は私の方が悪いなんて言わないよね? 先生は私の味方だよね? ね? ね?」
ティーパーティーの部屋でプンプンと怒りながら、愚痴電話をかけるミカ。
彼女にしたら絶対に面倒くさい女ランキングを開催したら、確実に上位に入る実力者である。
「大体、おかしいのはみんなの方だよ! 私何も悪くないよね? 私、今回はすっごく頑張ったんだよ? ねぇねぇ、先生聞いてる?」
補習授業部で1人だけ、赤点を超えていたミカは部を追放された。
もとい、1人だけ合格したので補習授業部の卒業である。
“え? 補習授業部の合計点の半分近くを占める私を追放するの!? ~戻ってきてと言われても、もう知らないんだからね!~”。
『ああ、そうだ。ミカ、お前は何も悪くない。良い点数だったのだろう? よく頑張ったな。ワシも先生として誇りに思うぞ』
「え? そ、そうかな……ありがとう、先生」
取り敢えず、ミカの頑張りを肯定してあげて落ち着かせる扉間。
女性の扱いはともかく、子供の扱いには自信があるのだ。
『さて……もう一度聞くが、お前以外の補習授業部のメンバーは全員赤点だったのだな?』
そして、落ちつかせたところで本題に入る。
「そうだよ! アズサちゃんは分かるよ? 今まで勉強できなかったんだもん。悪いのは環境のせい。コハルちゃんは………うん、頑張ってる。頑張ってるから、大丈夫」
補習授業部に自力合格したアズサとコハルはまあいい。
アズサはアリウスのクソ環境のせい。
コハルは…コハルは……頑張ってるから、いつかちゃんと芽は出るよ。
「でも、ハナコちゃんとヒフミちゃんは許さない! ハナコちゃんは狙わなきゃあんな点数になるわけないじゃん! そもそも、3年の私より頭いいよね!? 後、ヒフミちゃんはもっとダメ! テストを受けてすらいないとか、ビックリだよ! というか、聞いたよ、先生! ヒフミちゃんとテーマパークに居たんだってね? ダメじゃん! 先生がサボりを肯定したら!!」
アズサは通す、コハルも通す。
ただし、ハナコとヒフミ。てめーらはダメだ。
真面目にやれよ、マジで。
『はぁ……こんなことならヒフミは突き返せばよかったな』
「ヒフミちゃんはちゃんとテストを受けさえすれば、こっち側なのに……ナギちゃんが遠い目をしてたよ。なんか、今回の動きでゲヘナが動き辛くなったとか、色々政治的に叱れなくなってるって」
『あやつは運が良いのか、悪いのか……』
政治的には良い働きをしてしまったヒフミ。
扉間からイロハに百鬼夜行の件は多分偶然と伝えたが、ヒナが裏切るかもしれないという現実的な問題が湧いてきたので、マコトも慎重になったのだ。
「後、勘違いで流石はナギサ様って尊敬の目を向けられるのが、なんだか怖いって」
『そうか……ヒフミの動きはナギサの策略扱いになっておるのか……それで、ヒフミにも大手を振って罰を与えられんと、なるほどな』
どこからどう見ても普通の生徒なのに、ホストであるナギサとお茶会をしている、ヒフミ。
そんな所に、実はナギサ直轄のエージェントであると、噂が流れてくればどうなるか。
事実無根の噂の方が信じられてしまうのだ。
これも全てナギサ様の神算鬼謀……。
「とにかく! 先生は補習授業部の顧問でもあるんだから、手伝ってよね!」
『まあ、そうだな……このまま放置しておくわけもいかん。ワシも数日後にトリニティに向かう。そこで前と同じように奴らの勉強を見るとしよう。以前の合宿所はまだ使えるか?』
また合宿でもして、補習授業部の面倒を見よう。
そう、溜息をつきながら決める扉間。
「それだけじゃダメだよ、先生」
『何?』
しかし、ミカはそれだけではダメだと否定する。
「合宿なんて楽しいことしてたら、また落ちてもいいなんて思っちゃうよ? ハナコちゃんなんて、きっとそれが理由でワザと落ちてるんだし。第一、それじゃあ私が
『なるほどな……そういうことか』
ミカがブーブーと文句を言っている原因。
そして、ハナコがワザと試験に落ち続ける理由を察する扉間。
「もっと…こう……スパルタじゃないと! でないと、同じことをまた繰り返しちゃうよ!」
『一理あるな』
「でしょ、でしょ? だからね、もう二度と補習しなくてもいいようにしないと」
『勉強習慣をつけさせるしかないな……アズサとコハルはそれで良いとして、ヒフミはどうするか』
安定して、テストに合格できるようにして、補習の必要をなくす。
まあ、勉強というものの本質的にはミカの言う通りだ。
そもそも、テストそのものも自分の現在の実力を知るためのものでしかない。
そこから復習したり、発展させるのが本来の目的だ。
「アズサちゃんとコハルちゃんは普通に勉強に打ち込めばOK。ハナコちゃんとヒフミちゃんはちょっとお仕置きして、真面目になってもらう」
故にミカは告げる。
今回の最終目標を。
「そうやって最後は──補習授業部を潰す」
「た、大変なことを聞いてしまいましたわ……」
ミカの電話の
彼女はパテル分派の生徒。すなわち、首長のミカの部下である。
(ゲヘナとの親善使節団である
彼女が深刻に捉えてしまった理由。
その1。補習授業部の実態が実は親善使節だという嘘を信じているため。
(ですが、ご自身で結ばれた同盟を自身の手で無に帰すなど……いえ、そう言えばあの時期にもう1つ噂が流れていました。ナギサ様とミカ様が致命的な対立をした結果、ミカ様をティーパーティーから補習授業部へ追放するに至ったと。まさか、親善使節というのは後付けの理由で最初の理由が本当? ミカ様はナギサ様への償いとして親善大使に?)
2つ目。彼女は首長のミカに仕えられる程度には優秀だった。
おまけにミカが政治が出来ないので、まあ政治が出来る人間を置こうという判断で彼女は政治も分かる。
そのため、不都合な真実に近づけてしまった。
(いけません…! ようやく、トリニティとゲヘナは融和への道を歩み始めたばかり、この機運を失するわけには…ッ)
3つ目。ミカがウルトラCを決めて、対ゲヘナ強硬派から融和派へと切り替わったので、当然それまでの強硬派は力を失っている。
要するに、ミカのお付きである彼女は融和派なのだ。
強硬派なら『ミカ様鬼つえぇええ! このまま逆らうゲヘナ全員ぶっ殺していこうぜ!』となっている。
(しかし、そもそもが私の勘違いという線が一番……徒にこの話を広げる訳には。それにミカ様を止めるのであれば、それは当然ミカ様への裏切り……)
4つ目。彼女は、控えめな性格だった。
火の意志をインストールした、ミカに対して敬意を抱いているが心は従者。
主の邪魔をするのも不可。当然、主に問いただすのも気が引ける。
「どうかなされたのですか? 顔が真っ青ですわよ」
「! い、いえ、何でも……いえ、あなたもミカ様に仕える同士。もしもの時のために、覚悟を決める必要はあるでしょう。実は先程ミカ様が、補習授業部を潰すとおっしゃっていました。ですので、いざというときは──」
5つ目。彼女はなんだかんだいってミカに似て──
「──ミカ様のクーデターにお供しましょう」
──思い込みが激しい子だった。
「た、大変なことを聞いてしまいましたわ……」
「どうかした?」
「こ、ここだけの話ですが……」
そうして、勘違いの渦は広がっていく。
「大変なことを聞いてしまった……」
「どうかされましたか?」
「実は……」
そうして、噂は秘密裏に広まっていき。
「サ、サクラコ様! ご報告が!」
「どうしましたか、マリー?」
「実は先程お悩み相談室で……ミカ様がクーデターを企てているかもしれないという内容の相談が」
過去形なら真実である内容として、広まり。
「……分かりました。もしも事実なら、トリニティの危機。シスターフッドは不干渉主義とは言え、流石に見過ごせません。私がナギサさんと
「ナギサさん。最近
「噂…ですか?」
紅茶の湯気の向こう側。
紅茶の水面に映る実像がボヤけるように、サクラコは裏表のない笑みを向ける。
当然、突如として話があると、シスターフッドのトップに言われたナギサは警戒する。
「なんでも、ティーパーティーの中に
いきなり、お前の幼馴染みのミカが裏切ってるよ、とは言わない。
サクラコ流にオブラートに包んだ言い方をする。
(ナギサさんとミカさんは幼馴染み……裏切られていると、直接伝えるのは心が痛みます)
それは気遣い。
しかし内容はナギサの首を刈るような、いや首を刈るか刈らないか見極めるような、そんな問いかけだということに、サクラコは気づかない。
「内患……ですか。それがどなたか目星がついているのでしょうか? そもそも、分かっているのなら、こうして悠長にお茶を飲んでいる場合ではない。そうは思いませんか?」
「いえ、あくまでも
身近だと。
その言葉に、ナギサは自らの指先をピクリと白磁のティーカップの縁に滑らせる。
サクラコが今、自分に何を問いかけているのか。
それを理解した。
(恐らくは、サクラコさんが聞いているのは、ミカさんがクーデターを起こそうとしていた件ですね。先生の作戦で完璧に隠し通せたと思いましたけど……流石はシスターフッドの情報力と言いましょうか)
訂正。理解していなかった。
ナギサが思い描いているのは、ミカがアリウスと共にナギサを討とうとした件。
まさか、ミカが再びクーデターを起こすなどとは夢にも思わない。
「それは……見当もつきませんね」
だが、当然ナギサはしらばっくれる。
秘密裏に隠し通そうとしたことを、今更言うわけにもいかないのだから。
「まあ、所詮は人の噂ですので。クーデター……などと言うのも、最近は流行っているそうなので、きっと性質の悪い噂が流れただけなのでしょうね」
「クーデター……ホストである私を狙っているということでしょうか?」
「はい……ご察しの通りかと」
ナギサの肝いりの補習授業部を潰す。
つまり、それはナギサを引きずり落そうとしていることに他ならない。
サクラコは新しいクーデターの認識のまま頷く。
お互いがお互いに認識を間違えているなど、露にも思わない。
「なにを根拠に?」
「
実際、サクラコも確証がないので聞きに来たので嘘は言っていない。
しかし、その朗らかな笑みがナギサには証拠を掴みながらも、泳がせている風にしか見えなかった。
「では、その噂というものを私にも聞かせていただけませんか? 誰が、何のために、クーデターなどを行おうとしているのかを」
だからこそ、ナギサは落ち着いた表情を崩さないように意識しつつ、サクラコに言わせる。
そのクーデターというものを誰が企んでいるのかを。
サクラコがミカのアリウスとの内通を、どこまで知っているかを確認するために。
「ナギサさんと同じティーパーティーの代表です」
「………なるほど。私を狙う理由は政治的
「恐らくは」
ミカの名前を一切出していない2人。
しかし、ナギサの言葉はサクラコに、ナギサが今回のミカのクーデターを知っているものと確信させた。
させてしまった。
(ナギサさんとセイアさんの方針は基本同じ。そうなると、ナギサさんが思い浮かべているのは、ミカさんで間違いない……)
以前とは違い、ティーパーティーの代表は
セイアがミネに『死亡確認!』されていた時とは違う。
2人しかいないので消去法で、というわけではなく、明確にミカだと断定しているのだ。
「まあ、あり得ない話ではありませんから、噂になるのも仕方のないことですね」
故に、ナギサはミカのクーデターを知っている。
つまり、今回の噂は事実なのだとサクラコは誤認する。
「ですが、ご安心ください。それは
(この動揺の無さ……既に今回のクーデターの情報を知り、動いていると見て間違いありませんね。裏で終わらせるために……やはり、シスターフッドは今まで通り動かないのが一番ですね)
その上で、この強調。
恐らくは、ナギサは秘密裏に今回の件を処理する方法を持っているのだろう。
そう、サクラコは結論付ける。
ナギサが過去の出来事と思い、もう起きないという意味で
「余計なお世話でしたね。人の噂も七十五日。噂ごと綺麗さっぱりと
(消えてなくなる…!? まさか、サクラコさんはトリニティの醜聞として……ミカさんを排除しようと…?)
サクラコの言葉に、ナギサの背中に冷たい汗が伝う。
サクラコ的には、何も起きずに処理できるように応援しているよ、と言っているだけである。
(いえ、ですが、それではわざわざクーデターの件を伝えてきた理由が分かりません。それこそ、証拠を押さえた上で、マスコミにリークでもすればミカさんはティーパーティーに居られなくなる。一体何が目的で……)
何の裏もないと言わんばかりの、サクラコの涼し気な笑みの裏にナギサはその意図を探す。
それはまるで、夜に影を探すようなもの。
存在しえぬものを追い求める行為。
「ですが、私達シスターフッドもトリニティの中核を担える存在……
(まさか…!)
そして、ナギサは夜の闇に怪物の姿を見だす。
(サクラコさんの真の目的はティーパーティーそのものの失墜! そして、シスターフッドがそこになり替わること!?)
(クーデターを企んでいるとは言え、ミカさんはナギサさんの幼馴染み……きっと内心では身を切る想いをしているはず。もしもの時は、代わりに手をお貸ししましょう)
人はそれを勘違いと呼ぶ。
「今日はお忙しい所、申し訳ございませんでした」
「いえ……トリニティの危機になる噂を放置できないのは当然のこと。サクラコさんのトリニティへの愛故の行動。何も責めることなどありませんよ」
だが、どちらも腹芸をこなさなければ生き残れない生粋のお嬢様で政治家。
勘違いであろうと何だろうと、本心を表に出すことなくにこやかにお茶を飲み終える。
(シスターフッドに先制攻撃を…? いえ、それでは余計にティーパーティーを攻撃する口実を与えるだけ。ミカさんの件がバレているのなら、政治的にはこちらが不利。とにかく、今は不審な動きが無いかの監視を…!)
(噂は事実……ですが、他言無用。私に出来ることは終わりました。後はミカさんの動きを静かに監視しつつ、有事に備えましょう)
こうして、勘違いだらけの会談は終わりを迎えるのだった。
「あ! 先生、こっちこっちー!」
一方、こちらはそんなことなど露知らない可愛いミカちゃん。
聖園ミカがクーデターの首謀者だなんて、風評被害にもほどがあるじゃんね(棒読み)。
「待たせたな」
「ううん、今来たところ……そう言えば、先生はコユキちゃんって子を連れてるんじゃなかったの?」
「ヒフミの件でワシも反省してな。ミレニアムの試験に合格するように一度戻らせた。終わったら、また、連れ回すつもりだ」
試験の時期は基本、どの学校も同じような時期だ。
なので、コユキもヒフミの失敗を踏まえて少し早めにミレニアムに戻らせている。
トリニティに来るのに数日かかったのはそのせいだ。
ん? なぜか? 1人で帰らせたらどこかで脱走しかねないので、送っていったせいだ。
「ふーん、そうなんだ。ま、いいや! それより、これから仲間集めに行こうね。補習授業部を無くすために!」
「仲間?」
「うん。正直、勉強だけなら先生だけでもいいんだけどね。やる気アップにつながるように、助っ人が居た方がいいかなって」
ミカが人差し指を唇に当てながら、考え込む。
「例えばアズサちゃんとコハルちゃんが補習授業部として一緒に勉強すれば良いって思うじゃん? でも、多分2人とも“補習授業部に来たから”成績が上がったじゃなくて、“自分達が頑張ったから”って理由で自信を付けさせた方がいいんじゃないかな?」
「……まあ、その2人には元々そういう自信は薄いな」
「でしょ? だから、先生もそうだけど補習授業部じゃない人が関わってあげて、“頑張った”って気持ちを抱かせてあげれば、多分普段からもっと勉強するようになると思うんだ」
アズサはみんなで学ぶイベントを楽しく思っている。
コハルは自分のお馬鹿さを隠すために、2年生のテストに挑んだりする。
ミカの言うように、この2人には自分は勉強すれば1人で点が取れるという自信が要る。
「後、ハナコちゃん。先生には言うまでもないけど、ハナコちゃんって寂しがり屋だよね? 露出狂みたいことしてるけど、中身はシャイ」
「そうだな。そして、ハナコは皆で集まれる理由付けのために、補習授業部を利用しておる。ワシや下江コハルへの接し方を見るに揶揄うことでしか、コミュニケーションが取れん奴だ。そんなに集まりたいなら、テスト前に勉強会でも開けばいいものを」
扉間はハナコの悪癖に溜息を吐く。
補習授業部結成前は、トリニティから追い出されても良いようにテストを適当に受けていた。
だが、ハナコは決して自分から出ていくことはしなかった。
なぜか? それはハナコが自分の意志で動くことに臆病だからである。
「それなのに、他の部員の動向は逐一チェックしておる。他の者が落ちると確信したら、自分も一緒にテストに落ちたという体で集まる。友人なのだから、一緒に遊ぼうと言えばいつでも集まれるだろうに」
ハナコがたまたま他の部員と会うときは、基本的に計算づくだ。
桃色の脳細胞をフル回転させて、自然な形で友人と出会えるようにして、自然と一緒に居られるように調整する。
人の輪に入れずに、すみっこで構って欲しそうにチラ見する子供レベル100である。
割とコミュ強なミカや扉間からすれば、謎の行動だ。
「あはは……でも、だからこそ、アズサちゃんとコハルちゃんが合格すれば、勝手にハナコちゃんは合格するようになるよね? その方が友達と一緒に居られるから」
「そして、友人に嫌われるのを恐れるため、友人が良い道を進むのを止められる程に歪んでいるわけでもない。どうせ、ワシらの行動も分かっておるだろうが、何も音沙汰がないのが証拠だ」
コハルがよくハナコに死刑と言っているが、コハルが本気でハナコに『絶交よ!』と言ったら、多分ハナコは宗教画状態になる。
それぐらい、臆病な子なのだ。
「そうだよね……というわけで! アズサちゃんとコハルちゃんがやる気になるメンバーを集めよっか!」
「そうだな……アズサの担当はワシから連絡を取ろう。心当たりがある」
こうして、基本的な方針が決まり2人は歩き出す。
「………ねぇ、先生。今ワザと言わなかったけど、ヒフミちゃんは……」
「テストの結果で友が居なくなるであれば、あやつは確実に100点でも取る。だが、そうでなければ……己の譲れないものを優先するだろうな」
「だよねー」
アズサとコハルは成績を改善するだけ。
ハナコは2人が頑張るなら、それについていく。
だが、ヒフミは自分の好きなものを譲らない。
「…………」
「…………」
「……試験期間中はスマホ断ちでもさせるか」
「まあ、情報を与えないのが一番だよね」
補習授業部の部長の称号は
「ハスミ、そういうわけでお前の力を貸して欲しい」
さて、トリニティが誇る正義実現委員会の客室。
華美ではないが豪華ではある部屋で、扉間とミカはハスミに協力を仰いでいた。
「先生? 何を仰るのかまでは分かりましたが、なぜ私に?」
当然、いきなり補習授業部に協力してくれと言われたハスミは困惑する。
「下江コハルはお前のことを尊敬しておるからな。お前が応援するだけでも、やる気に満ちるだろう」
「……えっと、それは勉強のことですよね?」
ハスミは補習授業部が結成された
しかしながら、コハルのことは良く分かっているので薄々勘づいてはいた。
コハルに関しては、純粋に勉強が出来ずに集められたのだと。
「そうそう! ハスミちゃんがいつも期待してるって言えば、コハルちゃんなら毎日勉強を頑張るようになるよ! ……いや、今も頑張ってるけど! ただ、ちょっと結果が出てないだけで」
「ミカ様……」
コハルに妙に甘いミカの態度に、ハスミは何とも言えぬ顔をする。
「あの……それは、命令ですか?」
ミカはティーパーティーのお偉いさん。
すなわち、ナギサに次ぐ上司であるがゆえに。
「命令? 別に強制なんてしないよ。私はただお願いをしているだけで」
「ああ、あくまでも頼み事だ。だが、コハルのためになること……ひいては未来の正義実現委員会のためでもある」
直接の
もはや、パワーハラスメントである。
普通の人間なら断れない。
「……分かりました。私もコハルには期待していますから……出来る限りお力になりましょう」
「ありがとう~!」
「ただ、ミカ様には1つだけお願いがあります」
社会の真理に負けて、ハスミは了承する。
しかし、ある程度条件をつけることはやめない。
「え? 私に? なになに?」
それをニコニコとした顔で聞く、ミカ。
「正義実現委員会の倉庫にあったクルセイダーを盗……いえ、奪い……借りられた件ですが」
「……あはは」
だが、ハスミの言葉にすぐに気まずげな表情を浮かべる。
あ、これ、私怒られるやつだと。
「正義実現委員会はティーパーティーにお仕えしています。ですからこそ、言っていただければ私達が出動することも、お貸しすることも出来ました。ですが、何も言わずに持っていかれるとなると……しかるべき対応が出来ません。今後は事前にお話を通してください」
丁寧な言葉で、チクチクと攻撃をするハスミ。
彼女もまた、トリ頭(頭トリニティの略)であるのだ。
因みに後始末をしたのは、もちろん事後報告を受けたナギサである。
おいたわしや、ナギサ様……。
「ミカ……何をやっておるのだ」
そして、扉間も初めて聞いたミカのやらかしに溜息を吐く。
ここは、場を収めるためにも先生である自分が叱るべきだろうと。
こうなっては致し方ない。ワシは動く!
「だって! 先生が辞めるとか言うから急いでたんだよ! ハスミちゃんはごめんね?」
動けぬ…!?
「………ワシのせいか?」
「え? い、いえ、それは……どうなんでしょうか?」
そもそもの原因が自分が起こした騒動であると悟り、動きを止める扉間。
ハスミもまさかの飛び火に困惑している。
「えっと……まあ、その……一緒にコハルも居たようですので、正義実現委員会の活動だったと言うことは出来ますので……ナギサ様も便宜を図ってくれましたので」
表面上はフェイクニュースに踊らされただけの形になっているが、実際の所は扉間の過去という特大の爆弾を持ち帰って来たのがミカだ。
ミカから話を聞いたナギサが、紅茶で胃薬を流し込んだのは言うまでもない。
「とにかく、事前に言ってくださいというだけの話です。と、ところで、補習授業部への助っ人は私だけなのでしょうか?」
気まずい空気を消すために、不自然に話題を戻す、ハスミ。
扉間も痛い腹は探られたくないので、それに乗る。
これが、大人の交渉術である。大人って汚いですね。
「いや、もう1人……アズサがやる気を出す人員を呼んでいる」
呼んでいる。
トリニティに居るのなら、ハスミのように会いに行くはず。
つまり、それ以外の場所の生徒だと判断し、ミカは問いかける。
「アズサちゃんとなったら、やっぱり……アリウスの子?」
「もう疲れちゃって、全然動けなくてぇ……」
「あなたは……ヒヨリさん?」
巨大なリュックサックの重みに負けるように、背中から地面に倒れこむヒヨリを見て、ハスミが困惑の表情を浮かべる。
ヒヨリは扉間に呼ばれて、急いでトリニティに来たのだ。
「あ……えーと……古聖堂の件は申し訳ありませんでした」
「い、いえ、私たちは、ただ仕事をしただけなので……」
ハスミとヒヨリは“38話:アリウススクワッド”以来の再会。
戦い合った仲なので、当然気まずい空気が流れる。
「先生、ヒヨリちゃんがアズサちゃんのやる気要員?」
「そうだ。ワシが呼んでおいた」
ミカの問いかけに、扉間が頷く。
「なんでヒヨリちゃんなの? サオリとかの方がいいんじゃない?」
ミカはもっともな発言をする。
サオリはアズサの恩人であり、師であり、姉である。
応援された時のやる気アップ度で言えば、間違いなく高いだろう。
「サオリは姉だ。上の子に対して下の子は無意識に信頼を置くもの。それでは
「あの、先生……一応、私とアズサちゃんは同い年なんですけど……」
アリウススクワッドの末っ子扱いされたことにショックを受ける、ヒヨリ。
一応は、同い年かつスクワッドに加わったのも、アズサの方が遅いはずなのに、どうして……。
「ふーん……それで、ヒヨリちゃんは何で倒れてるの? というか、その大荷物なに?」
そんな何とも言えない空気を払拭するために、ミカが話題を変える。
ミカが言うように、ヒヨリの背負っているリュックサックは以前よりも大きくなっているように見えた。
「えへへ、これは新しく買った物でして……以前よりもいっぱい入れられるようになったんです」
「しかし、そんなに沢山の荷物……一体何を入れているのですか?」
「それはですね……武器に携帯食料、おやつに、拾った雑誌などなどです」
「……ヒヨリ、少しリュックを物色させてもらうぞ」
明らかに持ち運べる許容量を超えたリュックに、不審に思った扉間が中身をチェックする。
先生特有の持ち物検査である。
「あ…!」
ヒヨリが逃げようとするが、その重み故に転がることしかできない。
重くて、全然動けなくてぇ。
「雑誌、雑誌、愚かな雑誌……お前は持ちきれる器を知らんのか?」
「え、えへへ……いっぱい集めて、いつでも読めるようにしたくて」
そして、リュックサックから溢れ出てきた物の大半は雑誌。
美容、ファッション、ゴシップ、グルメ。後、おやつのオレオ。
等々、大半が無駄に重くかさ張る雑誌達だった。
「家に置いてこい、馬鹿者」
「で、でも、任務の合間にいつでも読めなくなるじゃないですか?」
「これだけの量を一気に読める訳なかろう。数冊持ち運べば、時間は十分潰せる。そもそも、一度に持ち運びたいならスマホで写真でも撮ってデータ化しろ」
「紙の感触と重みが、ちゃんと所有出来ているって安心感があっていいんですよ! それに寒いときは燃やせば、暖も取れます!」
「むぅ……」
元々が極貧生活を送っていたので、捨てられない病を発症しているヒヨリに扉間は難しい顔をする。
扉間に収集癖は特にないが、食料に例えれば食える時に食っておけの戦争世代。
ヒヨリの症状に明確な対応策が思いつかない。
やはり、時間をかけるしかないか。
そう思っていると、ハスミがヒヨリの雑誌の1つを持ち上げる。
「“生足魅惑のエンジェル! スレンダーな足でミニスカートを履きこなさそう! 特集”ですか……可愛いですよね、ミニスカート」
「え? はい、そうですね」
「ヒヨリさんは私と違って、痩せていて綺麗な脚で羨ましいです。私は可愛いミニスカートが履けないので」
ハスミはヒヨリの体形を褒める。
ヒヨリが恥ずかしそうに、スカートの裾を押さえる。
別にトリニティ流の『貧乏人はろくなもの食べられていないんだな』という煽りではないので、アリウスの一部の生徒は安心して欲しい。
「い、いえ、そんなことは……これは昔のスカートをずっと履いているせいで短くなっただけで……お腹はぽっちゃりしてますし、脚は全然細くないので見られるのはちょっと恥ずかしいぐらいです」
「分かりますよ、その気持ち。私も、少し太いと自分でも思うのでダイエットをしているのです」
「だい…えっと…?」
この世にそんな言葉が存在するのかと、衝撃を受けるヒヨリ。
しょうがないね。お湯がごちそうの環境で育ってきたんだから。
「何事も行き過ぎは禁物……この雑誌も多く持ちすぎたせいで動けなくなって、敵にやられてしまえば本末転倒です」
「た、確かに……」
「ですから、私と一緒にダイエットをしてみませんか? 私と一緒に美しい体を手に入れましょう」
そう言って、ハスミはヒヨリに手を伸ばす。
「ダイエットで最も大切なことは固い意志。そのためにも、まずは身近なものの整理から始めましょう。近くに誘惑があると自然に手が伸びてしまうので」
経験者は語る。
ダイエットなんて簡単だよ。もう10回は成功してる。
「そ、そうですね。せめてグルメ雑誌だけでも……」
「それと、理想像というものは多すぎても困るものです。船頭多くして船山に上ると言いますし。この服を着たい、こんな体型になりたい。その理想をより明確にするためには雑誌を絞るべきです」
「なるほど……あ、このモデルの人サオリ姉さんに似てます」
「腰も括れていて、スラっとした手と足……羨ましいですね」
ヒヨリと一緒に雑誌の選別を行っていく、ハスミ。
扉間はその手腕に感心して、大した奴だとハスミへの評価を上げる。
羽川ハスミ……やはり天才か!
「ねぇ、でも2人も十分細くて綺麗だと思うけど?」
そんなダイエット同盟に対して、ミカが年頃の女子らしく混ざろうとする。
だが。
「ミカ様は黙っていてください。背筋がまっすぐに伸び、天に向かって伸びる一本の白樺の如く、気高く、そしてどこか儚い。そんな華奢で愛らしくて可愛い。まるで絵本から出てきたお姫様のような方には、私達の苦悩は分かりません」
「そうです……ミカさんは、モデルみたいで足も細くて肌もきめ細かくて……まるで神様が作ったお人形さんみたいで、白鳥みたいに優雅で気高くて……私達とは生きている世界が違うんですよ」
「ねえ、先生? これって私褒められてるのかな? 貶されてるのかな?」
「知らん」
お姫様を自称しても、『あ、貴方ほどの人が言うなら……』と納得される容姿のミカは拒絶される。
美しさは罪とはよく言ったものじゃんね☆
「さて、そろそろ本題に入るとするか。ハスミとヒヨリにはコハルとアズサのためのやる気アップ要員になってもらう」
「分かりました。こんな私でもアズサちゃんのお役に立てるなら……それで私達は何をすればいんでしょうか?」
ヒヨリが軽くなったリュックサックを背負いなおして、扉間に尋ねる。
それに対して、扉間は短く簡潔に告げるのだった。
「──
シスターフッド某所。
「サクラコ様! 大変です! ミカ様がゲヘナ嫌いの正義実現委員会のハスミさんと合流しました!」
「追加のご報告です! アリウス学園の生徒とも合流! や、やはり、
「……先生もいらっしゃるようですので、まだ決めつけるのは早計です。もしくは先生こそがナギサさんの作戦の可能性も……今は、とにかく有事に備えて武装の準備を」
「はい、分かりました!」
ティーパーティー某所。
「ナギサ様、ご報告致します。ナギサ様の読み通りに、シスターフッドでは密かに戦闘の準備が進められているそうです」
「やはり…! こちらも武装の準備をしてください。正義実現委員会にも連絡を。ただし、極秘で。可能ならば、穏便に済ませたいので……」
「はい、承知いたしました」
勘違いは加速していく。
次回予告:ハスミとヒヨリ、パフェを食べる。
今回オリジナルで行くって言っていましたけど、ラブちゃんが数時間後に実装されるので新イベントの内容を反映させるかも。
それにしても、シミコの服装……覚悟決まってんな。
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