千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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7話:強盗冤罪

 

「あの……本当にやるんですか?」

「無論だ」

「本当の本当に?」

「ああ」

「本当の本当の本当に?」

「銀行を襲うぞ」

 

 アビドス高等学校では、明日の銀行強盗に備えて決起会、ではなく緊急会議が開かれていた。

 議題はもちろん本当に銀行を襲うのか、だ。

 

「もっと、こう……合法的に出来ないのでしょうか?」

「決定的な不正の証拠を掴むためには、強襲しかない。時間を与えれば情報を隠蔽されるからな」

「それは…そうですが……」

 

 何とか、抵抗しようと頑張るアヤネだったが扉間のもっともらしい説明に、尻すぼみになる。

 

「案ずるな。強盗マニュアルはワシらが作った。もちろん、それにあった逃走経路もな……己の手でやるのは初めてだが」

「出る…! 私と先生、考案の……」

「己の手でって、他人にはやらせたことがあるみたいに言わないでください! それにシロコ先輩も、一発芸みたいなノリで盛り上げないでください!」

 

 だが、身についた生真面目さからか、ツッコみの手は緩めない。

 むしろ、その鋭さは日に日に上がっていくばかりである。

 やはり、天才か……。

 

「大丈夫。先生と一緒に作った強盗マニュアルに欠点はない」

「そもそも強盗マニュアルの存在自体が、現代社会における欠点だと気づいて下さい」

 

 そして、止めようとするアヤネとは反対に、シロコはまるで遠足前日の子供のようにワクワクとした表情を隠さない。きっと、彼女はアビドスに入っていなかったら指名手配犯になっていたことだろう。

 

「アヤネちゃん、ここはもう覚悟を決めよう? どうせ一生かかっても返せない借金なんだから、どこかで一発勝負に出ないと」

「私も賛成です。実は覆面水着団って名前も考えているんです」

「セリカちゃんに、ノノミ先輩まで……」

 

 頼れる同級生に先輩まで敵に回り、四面楚歌になったアヤネは、最後の希望を乗せて委員長であるホシノを見る。

 

「うーん……私が捕まるのはしょうがないにしても、流石に可愛い後輩が前科者になるのはなー」

「ホシノ先輩…!」

 

 初めて自分の味方になりそうな者の出現に、目が輝くアヤネ。

 

「だから、先生には絶対に捕まらない作戦を立ててもらわないと」

「ホシノ先輩…!」

 

 やっぱり味方なんて居なかったよ、落ち込んだ表情になるアヤネ。

 

「無論だ。お前達には日の当たる道を歩いてもらわねば困る」

「だったら……いえ、もういいです」

 

 扉間のセリフに、とても何か言いたそうな表情を見せるアヤネだったが、諦めて口を閉じる。

 もう、やるしかないんだろうなと腹をくくったのだ。

 

「それで、先生。作戦は?」

「今回狙うのはカイザーローン本社だ。当然、警備も頑丈だ。おまけに、ハッキングを仕掛ける以上は警備システムの電源を落とすわけにもいかん。通報されて追手が来ることは想像に難くない」

「だろうねー。囲まれたら一巻の終わりだよ」

 

 今回の強盗は裏の会社ではなく、表の会社を襲う性質上、闇銀行を襲うよりも失敗した時のリスクが大きい。

 裏の世界と違って相手も非合法だという言い訳も通じない。

 ホシノがその部分を懸念するのはもっともだろう。

 

「警察は動きが遅い故、どうとでもなるだろう。だが、問題はカイザーPMCだ。同じグループ企業故、堂々と援護に駆け付けるはず」

「1人1人はそこまで大したことないけど、数と最新の装備は侮れないねー」

 

 銀行を襲撃した場合どうなるか。

 囲まれて数の暴力で消耗戦を強いられて負けるのだ。

 故に、数の不利を何かで補わなければならない。

 

「故にだ。別の事件を起こして陽動を行い、銀行に割ける戦力を減らす」

「陽動ですか……確かにそれなら、数の差を少なくすることが出来る」

「警備の兵が通るルートも確認済み。騒ぎを起こしてアビドス大通りを潰せば、銀行に来れる数は一気に少なくなる。他の道は誰も使わないで荒れてるから、一度に大群で通ることは出来ない」

「でも、どうするの? 陽動って。また、先生が囮になるの?」

 

 そのために陽動で騒ぎを起こして、注意と戦力をこちらから離す。

 または、戦車などが通れる大通りを潰して、そもそも銀行に来られなくする。

 方法は色々とあるが、大前提として陽動を行う人間。

 つまりは囮が要る。

 

「案ずるな――」

 

 扉間が以前のように囮になるのだろうかと、生徒達の視線が集まる。

 

 

 

「―――囮役はもちろん、ワシ以外が行く。ワシらは全員で銀行を襲う強盗団だ」

 

 

 

 

 

 けたたましい音と共に電話が鳴る。

 天雨アコは、また仕事だろうかと思いながら受話器を取る。

 

「はい、ゲヘナ風紀委員会行政官、天雨アコです」

『連邦捜査部シャーレの担当顧問、千手トビラマだ』

「せ、先生…!?」

 

 予想だにしていなかった電話の相手に、思わず声を裏返してしまう、アコ。

 それもそうだろう。アコは委員長のヒナに内緒でこっそりと扉間を確保する作戦を進めていたのだ。

 まさか、バレたのかと思うのも無理らしからぬことだ。

 

『少々、お前達に聞きたいことがあるのだが、よいか?』

「……はい、何でしょうか?」

 

 努めて冷静な声で返す、アコ。

 しかし、その背中と横乳にはジトりと嫌な汗がにじんでいた。

 

『本日、ゲヘナの生徒の陸八魔アル率いる便利屋68によりアビドス高等学校が襲撃を受けた。ワシの記憶では他の学校の自治区での戦闘行為は、許可されていなかったと思うのだが……何か申し開きはあるか?』

 

 よかった。別の件だったとホッと胸を撫で下ろす、アコ。

 と同時に、ちょっと待てと顔が引きつる。

 

「……それは事実なのでしょうか?」

『監視カメラに撮った映像がある。後で、そちらに送ろう』

 

 なんてことをやってくれたんだ、あいつらは。

 アコは眉間に青筋を立てながら、必死に考える。

 便利屋は確かにゲヘナの生徒だ。

 だが、アルは指名手配されているし、何より指名手配したのは自分だ。

 無関係を装う、というかこの件は本当に無関係なので、そう告げるしかない。

 

「いえ、大丈夫です。先生の言葉を信じますね。ですが、陸八魔アルは私自身が指名手配した相手です。このことでゲヘナ学園が責任を問われる謂れはないはずです」

『つまり、便利屋68はゲヘナとは全く()()()()という事か?』

「はい、その通りです。私達にはアビドス高等学校と敵対するつもりはありません」

 

 万魔殿(生徒会)の意向は知らないし、従ってやるつもりもないがアビドスそのものをどうこうしようと思っていないのは事実だった。必要なのは先生の身柄だけ。それさえ手に入れれば、弱小のアビドスなど放置で十分なのだ。

 

『その言葉は信じられるものか?』

「……では、こうしましょう」

 

 しかし、これはチャンスでもあるとアコは思う。

 散々迷惑をかけられてきた便利屋を利用し、先生を確保するチャンスだと。

 

「今回の責任を取り、私達風紀委員会が便利屋68を捕えに行きましょう。それに後で、先生へ便利屋68の性格まで含めた個人情報も教えてあげますよ」

『ほう……だが、他の学校の自治区では戦闘を行えないことは知っておるな?』

「はい。ですので、()()()()()()()()、そこで承認を貰いたいと思います」

 

 先生が許可をすれば、他の学校の自治区においても戦闘行為が出来る。

 それを利用して、アコは自分達の下に先生をおびき寄せて身柄を確保しようとしているのだ。

 

『いいだろう、ではアビドス大通りのワシが()()()()()()で落ち合うとしよう。明日の午後3時にな』

「明日ですか?」

『都合が合わぬか? ならば、今回の話は無かったことに……』

「いえ、大丈夫です。その日時で構いません」

 

 明日という急な指定は、恐らくはこちらが戦力を整えるのを嫌ったからだろうと、アコは推測する。しかし、もう遅い。ずっと前から、アビドスへ進軍する準備は整えていたのだ。戦力は十分だ。

 

『では、()()()()()()()()()()

「はい、それでは」

 

 ガチャンと電話を切り、アコはニヤリと笑う。

 これで、先生をゲヘナへ確保することが出来ると。

 

 

 ―――これでまず一匹は釣れたな。

 

 

 扉間がそんなことを考えているとも気づかずに。

 

 

 

 

 

「はい、便利屋68です」

『連邦捜査部シャーレの担当顧問、千手トビラマだ』

「はぁッ!? シャーレの先生!? ターゲットじゃない!?」

 

 アビドス高等学校の占領に失敗して帰ってきた事務所。

 そこでへこんでいた陸八魔アルの下に電話がかかってくる。

 そう、扉間からの電話だ。

 

「先生? 何々? もしかして、今からお礼参りに来るって宣言?」

「というか、どうやってウチの電話を……いや、調べたら分かるか、一応会社なんだし」

「え、えっと、どうしたらいいんでしょうか?」

 

 まさか、敵から電話がかかってくると思っていなかったアルは素っ頓狂な声を上げる。

 事務所に居た、幼馴染みのムツキは興味津々に目を輝かせ、課長のカヨコは警戒で目を細める。

 そして、平社員のハルカはオドオドとした様子で社長のアルの反応を待つ。

 

「よ、用件は何かしら?」

 

 アルはアビドス高校に対して、後ろめたい思いしかない。

 特に柴関ラーメンで受けたラーメン増量の厚意は忘れられないため、アルバイトのセリカには内心は謝りたい気持ちでいっぱいである。

 故に、アビドスの親玉とも言える扉間からの電話は、宣戦布告としか思えなかった。

 

『貴様らに依頼を出したくてな』

 

 宣戦布告かとビクビクしながら聞いたアルだったが、その予想を裏切り扉間は依頼をしたいと告げる。

 

「依頼? ……悪いけど、寝返りや依頼主の情報を売れっていうのは、ウチの理念に反するわ」

『安心しろ。貴様達に頼むのは、ゲヘナの風紀委員会の足止めをしてもらうことだ』

「風紀委員会ですって…?」

 

 自分を指名手配し、おまけに口座の凍結までした忌々しい風紀委員会を思い出して、アルが顔を顰める。

 

『前々から、ワシの動向をコソコソと嗅ぎ回っておったのは気づいていたのだがな。ついに、強硬策に出るという情報を()()()()()()()。それを、貴様らに叩いて欲しいのだ』

 

 扉間はアコが、風紀委員会が自分の動向を探っているのに気づいていた。

 というよりも、自分を探る全ての者に目を光らせている。

 自分の立場を考えれば、命を狙う者だって珍しくはない。

 故に、生前からのライフワークのようなものだ。

 裏でこっそりならともかく、大規模な部隊編成であれば情報を得るのは、難しくない。

 

 そして、SNSやトビラマチャンネルはそうした者達を炙り出すためにもある。

 お堅い報告とクソつまらない生放送。

 そんなものを好き好んで見る者達など、余程の変人か扉間を利用しようとする者だけだ。

 故に、その者達の素性を調べていたのである。

 

「……風紀委員長のヒナを倒せと言うのなら断るわ」

『足止めだけでいい。なんなら、騒ぎを起こしてすぐに逃げても構わん。貴様らに大層なことは求めていない』

「言ってくれるじゃない」

 

 自分達を下に見ている。

 そのことを隠すこともせずに煽る扉間の話し方に、アルは頬をひくつかせる。

 

「いいわ、その依頼を受けるわ。私達も風紀委員会は気に入らないもの」

「ちょっ! 社長!」

 

 参謀役のカヨコが止めようとするが、アルは勢いよく受けると宣言する。

 この見栄っ張りが発動した時は、後々苦労することになるのだが、アルという女は懲りない。

 

「でも、あなた達が私達のターゲットであることは変わらないわ。それ相応の金額を払ってもらうわよ」

『いくら欲しい?』

「そうね……1億円でどうかしら?」

 

 しかし、珍しいことにアルはここから、更に強気に出た。

 法外な値段を吹っ掛けたのである。

 

(前にビジネス本で読んだ、最初に大きな要求をして後から本命を要求する、ドア・イン・ザ・フェイス。如何にも、出来るビジネスウーマンって感じね!)

 

 まあ、理由はそうした方がカッコいいと思ったからだけだが。

 後は、適当に値引きした値段で手を打つか、依頼を断ろう。

 そうすれば相手が諦めただけと、カッコつけが出来る。

 そう、思っていたのだが。

 

『よかろう、1億円は()()()()()()()

「そうよね、あなたには払え……へ?」

 

 あっさりと承諾されて、目を丸くする。

 

『どうした? 今更断るとでも?』

「そ、そんなわけないでしょ! ええ、受けるわ!」

『支払いに関しては、完了後にまとめて支払うでよかったな』

「それで、大丈夫よ。依頼料は成功後に貰うのがウチのポリシーだから」

 

 しかし、こうなってしまえばもう後には引けない。

 内心でテンパリながらも、引き受けることを約束してしまう。

 カヨコがこりゃダメだと首を振っているのが、目に入るがそれでもアルは引き下がれない。

 

『では、ゲヘナ風紀委員会が集まる場所を知らせる。爆弾を仕掛けるなり、なんなりするがいい。どうせ、()()()()()()()()ではないのだしな』

「ええ、期待していなさい」

 

 ターゲットの場所を確認したと後、電話を切りアルは机の上に倒れこむ。

 

「1億円の仕事って……何をしたらいいのかしら」

 

 なんでこんな依頼受けたんだろうと、ちょっと後悔しながら。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、カイザーローンへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「アビドス高等学校の代理で来た、シャーレの千手トビラマだ。今月分の借金の返済に来た」

「返済ですか? 確認いたしますので、少々お待ちください」

 

 銀行襲撃当日の午後3時。

 カイザーローンに訪れた扉間は、受付嬢に借金を返しに来たと告げる。

 受付嬢は、パソコンを操作して確認を行う。

 

「………データ上では、すでに返済されたことになっていますので、お客様の勘違いではないでしょうか?」

 

 だが、今月分の借金は裏取引によって消えたことになっている。

 受付嬢は改竄されたデータを見て、裏事情を察知して営業スマイルを浮かべる。

 恐らくは、相手はこちらが本当に裏取引を完了させたのか確認したいのだろうと。

 

「うーむ、確かに。歳を取ると物覚えが悪くなるからのう。ワシも歳か」

 

 それに対して、扉間もワザとらしくタブレットで以前のデータを確認するような素振りをして笑う。その画面に『アロナ、銃声があったらハッキングを開始しろ』と入力しながら。

 

「いや、手間を取らせて悪かったな」

「いえいえ、また何かありましたら、お尋ねください」

 

 笑顔で行われる大人の腹黒い会話。

 と、そこへ。

 

「全員動くな! 動いたら撃つ!」

「お金をくれたら、怪我はさせないから大人しくしててねー」

 

 数発の銃声が響き、4人組の覆面を被った集団、対策委員会の面々が押し入ってくる。

 ()()()()()()()()()()を身に着けた状態で。

 

「あの制服!? 奴らはまさか…便()()()6()8()か!」

「知っていらっしゃるのですか?」

「ワシらのアビドス高校は昨日、便利屋68を名乗るゲヘナの4人組の指名手配犯に襲われてな。あの服を見るに()()()()奴らだろう。まさか、これ程の悪事を働く奴らだったとはな」

 

 表情筋の震えを抑えるように、唇を噛む扉間。

 扉間にとって便利屋68とは突然、アビドス高校を襲ってきた不審者でしかない。

 生徒という認識ではなく指名手配犯なのもあり、抜け忍のような認識である。

 何か利用しようと……もとい、やり返してやろうと思っている相手だ。

 かなり扱いが雑になるのも仕方がないだろう。

 

「……奴らは何をしでかすか分からん。お前は床に伏せておけ。ワシは()()()()()()()()()を応援に呼ぶ」

「は、はい」

『それでは私はハッキングを始めますね』

「それでよい」

 

 扉間の言葉に従い、受付嬢は机の下に身を隠す。

 不正に改竄されたデータが開かれた画面を残したまま。

 

「監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、全て把握している。不自然な動きがあれば撃つ」

「くっ! 奴らの好きにはさせん! ワシは動く!」

 

 このような悪事を目の前で見せられれば、致し方ない。

 扉間は正義感に駆られたように、強盗団に襲い掛かろうとする。

 

「邪魔するんじゃないわよ!」

「……動けぬ…!」

 

 しかし、間近に発砲されれば動くことは不可能だ。

 故に扉間は悔しそうに歯ぎしりをして、俯くことしか出来ない。

 別に、笑いを堪えているわけではない。ないのだ。

 

「では、このカバンにお金を入れてください。ザッと1()()()()

「ううぅ……PMCの兵士達は何をやっているんだ…? こういう時は、すぐに飛んでくるようになっているはずなのに」

「さあ? 誰かに道でも塞がれてるんじゃないのー」

 

 カイザーPMCが来ればこんな奴らと、恨み言を吐く銀行員に金を詰め込ませながら強盗団はテキパキと銀行の制圧を行っていく。まさに、天性の才能と言う他ないだろう。

 

「お金を入れてもらい終えましたよ」

『トビラマ先生、こちらも完了しました』

「もう()()()()……だと? 何という手際の良さだ、信じられん」

 

 扉間がワザとらしく完了したと言ったのを聞くと、強盗団はそのままスムーズに金の入ったバッグを持って逃走していく。

 

「よし! すぐに道路を封鎖するように連絡しろ! それから、もう一度PMCの方に援軍を要請しろ!」

「……アロナ」

『はい、電源システムを落しますね』

 

 強盗団が居なくなったのを見計らって、外部へと指示を飛ばし始める銀行員。

 だが、扉間が小声でアロナと呟くと同時に停電が発生する。

 

 何という偶然。まるで、神の悪戯のようである。

 

「何だ…これは!? また、強盗なのか!?」

「強盗か? イヤ、強盗ではない……停電だ」

 

 パニックが治まらないうちに、停電による視界の遮断。

 冷静な判断力を失った人々は、烏合の衆と化す。

 

「皆の者、落ち着け! 決して不用意な行動をするではない。まだ、この場に()()()()()()()()()()()()()()潜んでいる可能性がある」

「あ、あなたは?」

「連邦捜査部シャーレの担当顧問、千手トビラマだ」

「シャーレの先生!?」

 

 そこへ、強烈なリーダーシップを持った人間が来ればどうなるか。

 そう、人間は自然とその者を信じて従ってしまうのだ。

 

「まずは、電源の復旧を急ぎ行え。すでに外部へ連絡を行っているのなら、強盗団の追跡はそちらに任せろ。また、電源が復旧次第怪我人が居ないかの確認を優先しろ」

「で、ですが、盗まれたお金が……」

 

 しかし、銀行員は自らの失態を少しでも取り消そうと、躍起になっている。

 普通であれば、銀行強盗を受けたからと言って、そこの従業員に責任が行くことはない。

 しかしながら、悲しいことにカイザーグループは究極のブラック企業。

 下手をすると、自分の首が危ないのではと銀行員は不安になっているのだ。

 だが。

 

「もし、この場に強盗に撃たれた者が居て、手当てが遅れて死んだ場合……誰が責任を取ると思う?」

「…! 電源を確保次第、お客様の無事を確認しろ」

 

 助けられる客を死なせたら、現場責任者に100%責任がいく。

 それが分かったので、銀行員は現場の回復に努めることにする。

 

「安心しろ。ワシの方からシャーレ所属のアビドス高校に、容疑者と思わしき便利屋68への追跡要請は出しておる」

「そ、そうですか、シャーレが追ってくださっているのなら……」

 

 更に、扉間からの温かい親切でシャーレも動いていることを知って、安堵する。

 自分達以外にも動いてくれている人が居るのなら、動かなくても大丈夫という心理だ。

 

『トビラマ先生。先程、先生に指示を出された便利屋68と()()()()集団の追跡ですが、どうやら現在、ゲヘナ学園の風紀委員会、そして()()()()()()()()()()()()カイザーPMCとアビドス大通りで戦闘中のようです』

「アヤネか、報告ご苦労。ゲヘナ学園の風紀委員会……おそらくは極秘で便利屋68の討伐に動いていたのだろう。丁度よく、ぶつかってくれて助かったな。後で、礼を言っておくとしよう」

 

 白々しい口調で扉間が感謝を告げる。

 モニター越しのアヤネは物凄くツッコみたそうな顔をしていたが、グッと我慢する。

 ここで対策委員会が便利屋のフリをしているという、作戦をばらすわけにはいかないのだ。

 

 もっと言うと、風紀委員会と便利屋をカイザーPMCの土地でぶつけ合わせて、銀行への増援を来れなくしているという、嫌がらせがバレるわけにはいかないのだ。

 

『ですが、アビドス自治区での戦闘を他校の人間に許していいのですか、先生?』

「あそこは、今は()()()()()()()()の土地だ。学校の自治区ではない以上、ワシの許可は要らん。心苦しいが建物や道路を破壊されても、ワシらアビドス高校には手助けは出来んということだ。修繕費などは全てあちら持ちになるだろう。本当に心苦しいことだがな」

 

 アビドス高校自治区は、今は学校周辺しかない。

 故にそれ以外の場所でどれだけドンパチやっても、被害は全てカイザーグループ持ちである。

 

『そ、そうですか……えーと、あ! みんなの準備が出来たようです。今、銀行の外で先生を待っています』

「来たか。ならば、ワシも合流して便利屋68の下に行くとしよう。奴らには渡すものがある」

 

 引導を渡してやる。

 といった空気で言っているが、実際に渡すのは依頼料である。

 具体的には今さっき盗んだ強盗の証拠(1億円)

 

 つまり、カイザーローンの金でカイザーローンに嫌がらせしているのだ。

 対策委員会がやられたことをそのままやり返しているだけなので、カイザーの自業自得である。

 

「ではな。ワシは対策委員会と合流する。後始末は任せたぞ」

「は、はい」

 

 後始末を銀行員に任せて、扉間は堂々と銀行から出て行く。

 銀行強盗の仲間とは思えぬ、堂々とした足取りである。

 

「首尾は上々。このまま便利屋の方に向かおう」

「いやー、正義の味方っていうのも、忙しくて大変だねー」

「でも、便利屋さんにはちょっと、悪い気が」

「構わないわよ、あの恩知らず共には良い薬だわ。私はともかく大将の厚意を無下にするのは許さないわ」

 

 出た先で出迎えたのは、強盗…ではなく、ゲヘナっぽい変装から着替えて来たシロコ、ホシノ、ノノミ、セリカの4名。

 今まで散々、カイザーにコケにされてきた恨みを返そうと、やる気満々である。

 

 まあ、強盗の証拠(1億円)を渡して銀行強盗の罪を便利屋に押し付けるのは、少しだけ罪悪感を抱いているが。

 これも全て2代目火影の卑劣な作戦なので、仕方のないことだろう。

 

『ですが、便利屋に何か言われたらマズいのではないでしょうか?』

 

 しかし、この作戦には明確に弱点があるとアヤネが不安そうに言う。

 便利屋にこちらと1億円の取引をしていたと言われれば、その出所を疑われることだ。

 

「ワシはシャーレの顧問。奴らは指名手配犯。こういうものは社会的信用がものを言うのだ。仮に、相手の証言が信じられたとしても、その時にはアロナがハッキングした不正の証拠をリークしておる。カイザーも連邦生徒会も一犯罪者如きに構っている暇はない」

 

 だが、その対策はきっちりと考えられている。

 そもそも今回の目的は、不正の情報を確保すること。

 それを表沙汰にすれば、上も下も大忙しになる。

 この状況で指名手配犯の弁護に回るもの好きは、ほとんどいないだろう。

 

「何より、ワシにはアリバイがある」

『アリバイ?』

「銀行強盗の場に偶々居合わせ、その後強盗を追いかけたというアリバイがな。そもそも、便利屋に1億の件を言われても、その金の確保のために銀行に来たのだと言えばよいだけの事。仮に、便利屋がバラした所でそれが証拠になるのはワシしかおらん。お前達までは辿り着かん」

『でも、実際には借りていないことがバレたら、先生が……』

 

 それでも心配だと告げるアヤネ。

 彼女は扉間のことを心配しているのだ。

 自分達も体を張っているとはいえ、扉間も危ない橋を何度も渡っている。

 無条件に尊敬はできない卑怯な所があるが、それでも自分達の先生なのだ。

 アビドスのためだけに、消えて欲しくはない。

 

「フ、案ずるな。やりようは幾らでもある」

『……分かりました、先生を信じます』

 

 そんな真っすぐな気持ちが伝わったのか、扉間は柔らかく微笑む。

 

(その気になれば、生かしておいたカイザー理事と取引をして1億円を借りたことにも出来る。まあ、それ以外にも子供達には言えんやり方なら、山ほどある)

 

 まあ、内心では子供達の前では、流石に自重している作戦なども考えていたが。

 人殺しまで含めれば、更に策は広げられる。

 もっとも、無駄な殺しはやりたくないので、最終手段だが。

 

「……あれ? 先生」

「どうした、シロコ」

 

 しかし、ここでシロコが何事かに気づいたように声を上げる。

 

「その1億円を依頼料として渡すとバレるかもしれないの?」

「ほんの少しだけな」

「後、便利屋のアルは指名手配犯だよね?」

「ああ、そのようだな」

「じゃあ――」

 

 盗んだ1億円の出所が怪しまれるとまずい。

 そして、現在の1億円は便利屋が持っているということになっている。

 ついでに、アルは最初から指名手配犯なので、捕まえても全く問題のない存在。

 つまり。

 

 

 

「―――普通に捕まえて矯正局に送ったら、お金払わなくてもいいんじゃ?」

 

 

 

 こちらで先に捕まえれば、依頼料を踏み倒せるのでは?

 銀行強盗を否定されても、お金を取り返したことにすれば、状況証拠で有罪に出来るし。

 

 そう言って、シロコはコテンと可愛らしく首を傾げるのだった。

 




受け継がれる卑の意志…!

Q:なんか便利屋に厳しくない?
A:アルちゃんは追い込めば追い込むほど輝く、作者の最推しだから。

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