千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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70話:補習授業クライシス! ~後編~

 

前回までのあらすじ

 

扉間「補習、補習、愚かな、補習。そう言うお前ら学を知らぬ。己の学の無さ知らぬ。ワシの心配の深さを知らぬ。集められている、今ここに」

ハナコ「こ…こんな先生……今まで見たこと……」

 

サクラコ「シスフは最近、ミカを監視。ミカは補習授業部に入って半年、言動おかしさ目に余る……革命の考え目に余る……」

ミカ「ハナコは部活に執着、友人執着、恥にも執着、己を制約、己の学を抑えつけ制約、忌むべき執着。学を制約、そしてまだ見ぬ知らぬもの、友を決めつけ仲間外れ、恐れ憎しむ愚かしい!」

 

セイア「止めろめろめろミカめろ!」

ミカ「!」

セイア「いい加減にしろ、いい加減……どうした一体いい加減……ミカ最近少し変。お前最近少し変」

 

ミカ「何もおかしくなどは無い。自分の成績果たしてる。成績だけは果たしてる」

セイア「じゃあ何故人質とった? なぜなぜ人質とった?」

ミカ「2人の成績、高みに近づけるそのためだ……」

イチカ「何の話だ何なんだ」

 

 

 

 本文

 

「そうですか……ツルギさんが、単独で動き出したと」

「はい、恐らくはミカ様とハスミさんを止めるためだと、思われます。サクラコ様」

 

 シスターフッドの礼拝堂。

 そこで静かに礼拝を行うサクラコ様にマリーが報告を行う。

 その姿はステンドグラスを通して伝わる煌びやかな光で、神々しさすら感じさせる。

 

「いかがなさいますか、サクラコ様?」

 

 シス(ター)の暗黒卿たるサクラコ様がゆっくりと顔を上げる。

 その真紅の瞳は、何も考えていないように見えて、深淵の底なし沼。

 見つめられたものは、勝手に奈落の底まで落ちて行ってしまうだろう。

 

「──()()

「何も…? 何もしなくていいのでしょうか?」

 

 何もしなくていい。

 そう告げるサクラコ様にマリーは困惑する。

 

「はい。賽は投げられました……後は、水が高きより低きに流れるように、あるがままに進むでしょう。私達が何かをする必要など何もないのです」

「つまり、待っていれば勝手に問題が解決すると?」

 

 ツルギはトリニティにおける最高戦力。

 そして、ティーパーティーの最後の剣。

 これこそが、ナギサの作戦なのだろうと、サクラコは勘違いしているのだ。

 

「だ、大丈夫でしょうか? ミカ様はツルギさんに迫る程の実力だとお聞きしてますが……」

「負けるという選択肢はありませんよ」

(…! それは……まさか、どちらに転んでもシスターフッドに影響はないという意味で…?)

 

 ミカとツルギが戦えば、ツルギが勝つだろうと信頼を告げる、サクラコ。

 しかし、マリーにはどっちが勝っても、シスターフッドには影響がないと言っているように感じられた。

 

「ただ、もし……剣が折れ、堕天した天使がコキュートスより解き放たれることになれば……その時こそが私達の時」

 

 そして、ツルギが負けてミカを抑える人間が居なくなった時こそが、シスターフッドの動く時。

 主に反逆した天使を止めなければならない。

 

「それまでは、私達は引き続き、()()()()いましょう」

 

 なので、このままミカの監視を行う。

 まるで、全てが終わったと思ったときに出てくるラスボスのように。

 

「……分かりました。このまま、ミカ様を監視してツルギさんとの接触を見守ります」

「はい。頼みましたよ、シスターマリー」

 

 こうして、ミカの背後から様子を窺いみるシスターフッドという、とても怪しい光景が出来上がるのだった。

 

 

 

 

 

「ナギサ様! ご報告いたします! シスターフッドがミカ様の背後を狙うように動き出しました!」

「…ッ! ミカさんの身柄を確保するつもりですか? いや、トリニティの裏切り者としてそのまま始末する可能性も……とにかく、すぐに正義実現委員会に連絡を! ミカさんの保護をお願いしますと」

 

 部下から、シスターフッドの動きを聞いたナギサはすぐさま指示を出す。

 元々が、ミカが死ぬぐらいなら自分が代わりにやられようとしていた、優しい子。

 何よりも、ミカの命を優先して動く。

 

「ご、ご報告します!!」

 

 そんな所へ、新たな伝令係が部屋に飛び込んでくる。

 

「何事ですか?」

「せ、正義実現委員会のツルギ委員長が単独でミカ様の下へと向かいました!」

「なッ!?」

 

 ハスミを止めるべく、ミカの下に向かったツルギ。

 ツルギ的には、ハスミの暴食を止める以外の意味はない。

 あっても、ついでにハスミもナギサの命令に従える状態に戻すか程度である。

 しかし。

 

「ま、まさか、ツルギさんまで、ミカさんを狙って…?」

「ッ! シスターフッドに寝返ったと!? あのツルギ委員長に限って、そのようなことが……」

「ですが、合理的でもあります。ミカ様はティーパーティーにて最強。シスターフッドの戦力と言えど、一筋縄ではいかない。しかし、ツルギ委員長との挟み撃ちであれば……」

 

 タイミングが悪かった。

 シスターフッドがミカの背後をとった瞬間(見守りモード)に、ツルギがミカの下へ行く。

 挟み撃ちでもしているように見えたのだ。

 

「あの陰謀渦巻くシスターフッドのサクラコさんなら……何か私達では考えつかないような卑劣な手を使って、ツルギさんを操る可能性も……」

「ハッ!? そう言えば、今、ミカ様は()()()()()()()と一緒にいらっしゃるそうです」

「まさか……ハスミさんを人質に取って!?」

 

 惜しい! ハスミは人質だが、人質に取ったのはミカだ。

 

「ま、まさか……ミカさんに連絡を取れば、す、すぐに……」

 

 誤解であって欲しい。

 そう思って、ナギサはミカに電話をかける。

 プルルという音が、今はやけに遅く感じられる。

 指が、知らず知らずのうちにカタカタと揺れる。

 

「ッ! 繋がりました──」

『おかけになった電話は現在()()()、もしくは電波の届かない場所に居ます』

「……ッ」

 

 ミカは電話に出ない。

 ナギサの背中を冷たい汗が伝う。

 

「………すぐに、正義実現委員会に連絡してください」

「な、なんと?」

 

 努めて冷静であろうとした結果、感情の抜け落ちた声になる、ナギサ。

 そんなナギサの様子に、自身も冷や汗を流しながら部下は尋ねる。

 

 

「──ツルギさんを追ってください、と」

 

 

 こうして、トリニティの最大戦力が遂に動き出してしまったのだった。

 

 

 

 

 

「先生、アズサちゃんには一度、中学校のこの範囲をやってもらうべきですよ。今の単元で躓いているのは、きっとここが理解出来ていないからだと思うんです。コハルちゃんは英単語の暗記で躓いているみたいなので、語呂合わせを作ってみました」

「アズサはそれでいい。ただ、ハナコ。語呂合わせは、変な語呂合わせではないだろうな?」

「うふふ、(頭の)中でたくさん出ましたけど、今回は我慢しましたよ? 2人の頑張りに報いたいですから」

 

 宣言通り、15分で100点満点を叩き出したハナコは、今は扉間の補佐に回っている。

 アズサとコハルに教えるのは禁止だが、扉間にアドバイスするのは、別に止められていないのだ。

 

「そうか……ヒフミはどうしている?」

「大人しく、2人と一緒に自習をしていますよ。外部の情報は断っているので、脱走の心配はないと思います」

「油断は禁物だ。自分の意志を貫くバカとは、時にこちらの予想の斜め上を行くものだ」

「まあ、そうですよねぇ……」

 

 残っている補習授業部の中では、一番成績は良いのに一番の警戒対象。

 それが、意外性ナンバー1の阿慈谷ヒフミである。

 

「ただ、まあ……アズサとコハルの真剣な表情を見れば、あやつも下手な動きはせんだろう。仲間を大切にするという一点においては、ワシから()()()()に教えられることは何もないからな」

「………私はどうですか、先生?」

「お前も、友を想う心は合格点だ。だが、素直さが足りんな。時には自分の(はらわた)を見せることも重要だ。優秀なお前と違い、多くの者は言葉にせんと理解してはくれんからな」

 

 テキパキと参考教材をまとめながら、ハナコの質問に返す、扉間。

 

「服を脱ぐ暇があるのなら、まずはその虚飾を脱ぎ捨てろ。友人と一緒に遊びたいのなら、素直にそう言えばいい。お前はまだまだ、子供なのだからな」

「はい……先生」

 

 普段なら『うふふ、脱ぎ捨てちゃっていいんですか? ありのままの私でレリゴーしちゃいますよ?』と言ってからかう所だが、流石に今回は真面目モードだ。

 いつも、これだった1年生時代にトリニティの才媛と言われたのも、頷けるしおらしさである。

 

「…………」

「…………」

 

 2人の間に気まずい空気が流れる。

 普段は相手をからかうことでコミュニケーションを取っているので、それがないとどう接していいか、ハナコは分からないのだ。

 

「まぁ…なんだ……ワシも少し、厳しく言い過ぎたかもしれん」

 

 扉間はまだ、自分というものが確立していない学生に、少し厳しかったとバツの悪そうな顔をする。

 

「嘘は悪いことだが、それ無くして生きていけるほど人は強くない。嘘も方便と言うからな。騙すという意味での嘘なら、お前達よりワシの方が何倍も嘘をついておる」

 

 影分身で相手を騙し、穢土転生で相手を騙す。

 まあ、忍は相手を騙すのが仕事みたいなものなので、仕方ない。

 

「先生は……忍者だと、お聞きしました」

「ああ」

「1つお聞きしたいことがあります。忍術には──」

 

 ハナコが重い口を開く。

 扉間の真実。

 すでに死亡しており、異世界転生しているという事実に踏み込む。

 

 

「おいろけの術とかあるんでしょうか!? 私、気になって夜しか眠れません!」

 

 

 否、なんか別方面に踏み込んできた。

 どうやら、露出狂なのも彼女の本当の姿らしい。

 

「おい…ろけの術…?」

「こう……エッチなくノ一さんが、戦いの中で誘惑してくる術です!!」

「色仕掛けか? まあ、そのぐらいならいくらでもあったが、戦場でやるようなバカなどおらん」

 

 残念だったな、扉間。

 おいろけの術はナルトの代名詞だ。

 歴代最強と名高いお前の弟子(3代目火影)を血の海に沈め、チャクラの祖の体を硬直させた、最新かつ最強の忍術である。

 

「そんな…! でも、戦場で突然エッチな女の子が服を脱いだら、きっとみんな驚くと思うんです!」

「……ふむ。確かに、想像の範囲外の出来事が突如として起これば、相手を驚かすことは出来るだろうな」

「やっぱり!」

「だが、戦場に服を脱ぐ暇などないぞ? さらに言えば、女を相手にしていれば、その手のことを既に考えておる輩もいる。デメリットの方が大きい」

 

 扉間の指摘は2つ。

 一瞬で裸になる必要がある。相手が女性と戦っているのなら、元からそういった欲を持つ者もいる。

 なので、効果が不十分だ。

 

「じゃ、じゃあ、どうしたら……」

「………まあ、そのようなバカな術を作るバカがいるとは思えんが、やるとすれば変化の術だな」

「変化の術?」

「ああ。変化の術は印も少なく、素早く使え、一瞬で姿を変えられる。脱ぐのではなく、()()()()イメージだな」

「裸を着る…!?」

 

 ハナコの脳内で、何か新しいアイデアが湧き出る。

 全裸がダメなら、肌色の全身タイツを着ればいいじゃない。

 

「そして、使うのなら……自分とは逆の性別への変化だな」

「転性!? 忍者はそんなにエッチなことが出来るんですか!?」

「男と戦っている際に、急に相手が女体の裸になる。これだけやれば、事態の把握をしようと、相手の思考に隙が生まれるであろうな。そして、そこを狙って攻撃すれば戦術として組み込めんこともない。まあ、こんなものを使うのは、とんでもない大バカ者以外はおらんだろうがな」

 

 一瞬で別の性別の裸に変わることで、相手にその意味を考えさせる。

 強い者ほど、相手の意図を読み取ろうとして、手を止めてしまうだろう。

 7代目火影の卑猥な術だ。

 

「先生! 私にその術を教えてくれませんか?」

「だから、そんな術など知らんと言っておるだろう! そもそも、嫁入り前の女子が肌を晒すな!」

「転性すれば大丈夫です!」

「そういう問題ではないわ、馬鹿者!」

 

 コチンと、ハナコの頭に拳を軽く落とす、扉間。

 後世では開発者である7代目火影自らが、封印した術だ。

 術者に言っておけ。禁術を不用意に使うべきではないとな。

 

「まったく……少しは大人しくなったと思ったのだがな」

「先生は、おしとやかな女の子の方が好みなんですか?」

「手のかかる子の方が可愛いと昔から言うな。無論限度はあるが」

 

 そう言って、溜息を吐いた所で扉間の携帯に電話が入る。

 

「ミカからか」

「あ、先生。もし可能でしたら、ミカさんにこちらに来るように伝えて貰えませんか? 私も今はヒフミちゃん達に合わせて、携帯の電源を切っているので」

「一応は人質を取っておる設定なのだがな」

 

 人質を取った側が、現場に出てきたら意味がないだろうとツッコミながら、扉間は電話に出る。

 

「ワシだ」

『先生! なんか、ツルギちゃんがこっちに突撃して来たんだけど、なんで!?』

「……ツルギが?」

 

 ミカの混乱した言葉に、扉間も一瞬困惑する。

 だが、すぐに人質動画を流していた時の状況を思い出す。

 

 激昂するアズサとコハル。

 困惑する、ヒフミ。

 そして──何やら動画を撮っていた、ハナコ。

 

「………ハナコ」

(・×・)

『え! これ、ハナコちゃんの妨害なの!? 流石に今回は本気で怒るからね!』

 

 あ、忘れてたという顔をする、ハナコ。

 人質を解放させるための一手が、最悪のタイミングで発動してしまったのだ。

 

「落ち着け、ミカ。取り敢えず、ハナコの方は今からワシが拳骨を入れる」

(T×T)

『うわっ、痛そうな音……というか、そこに居るんだ』

 

 ゴツンと先程とは違う、重い音がハナコの頭から響く。

 ハナコには悪いが、ミカがハナコに騙されたと思って、変に仲が擦れるよりはマシだと思って欲しい。

 

「さて、ツルギの件だが……一先ず、ツルギには誤解のないように、ハスミは甘味を食べておるだけだと伝えておけ」

『えっとね、それが……ツルギちゃんはハスミちゃんが太らないように止めようとしてるから』

「正しく現状を理解しておるわけか……まあ、既にコハルはやる気モードになっておる。別にハスミが食べ続ける理由もない」

 

 なので、ツルギの要望通りにハスミに食べるのをやめさせればいい。

 扉間はそう告げるが、電話越しでは何やら議論をする声が聞こえてくる。

 

『ハスミ……パフェのカロリーは大体500kcalだ。そして、ランニングで消費できるカロリーは1㎞で50kcal程度。単純計算で500kcalを消費するには、10㎞のランニングが必要になる』

『じゅ、10㎞のランニングでしたら……そこまで難しくは』

『お前は今まで食べたパフェの個数を覚えているのか?』

『だ、大丈夫です! 私達にはカロリー0理論という武器があります!』

『そんな装備で大丈夫か?』

 

 カウントが始まってから既に数時間が経過している。

 恐らくは、机の上にはパフェの残骸が無数に散らばっているのだろう。

 

『と、とにかく、来てくれない? 先生?』

「……ふぅ、分かった。そちらに行く」

 

 ミカの救援要請に溜息を1つ吐き、扉間は補習をハナコに任せて合宿所から出ていくのだった。

 

 

 

 

 

「ツルギ……よく聞いてください。これはコハルのためなのです」

「発言を許可する」

 

 テーブルを挟んで向かい合う、正義実現委員会のナンバー1とナンバー2。

 その様子を横で、ミカが固唾を吞んで見守る。

 ついでに、更に横でヒヨリがジュースを飲みながら見守る。

 

「私はあくまでも、コハルが勉強にやる気を出すために人質に取られただけの存在です」

「……ミカ様」

「あ、うん。ハスミちゃんの言ってることは本当だよ。私がお願いして、コハルちゃんへの人質役になって貰ってるの」

 

 目上の人には礼儀正しく。

 だが、意識せずとも圧をかけるツルギの眼光に、少し臆しながらミカが答える。

 全ては、コハルのためなのだと。

 

「優しいコハルは、私が太るのを見過ごせない……だからこそ、私は最高級のスイーツの数々を食べ続ける必要があるのです。いえ、これは義務です。責任です。私達は強いられているんです」

「綿菓子みたいに甘くふわふわした義務だな」

「まあ、もうコハルちゃんには動画を見て貰ったから、食べる必要はないんだけどね」

「綿菓子……一度食べてみたかったんですよね。すいません、綿菓子の注文をお願いします」

 

 先輩として後輩のために自らを犠牲にする。

 それこそが、私の正義だと断言するハスミにツルギが呆れた視線を向ける。

 ハスミは犠牲になったのだ。コハルの成績。その犠牲にな。

 

 ついでに、その横ではヒヨリがシェフに綿菓子の注文を行っていた。

 

「ミカ様。お言葉ですが、言葉とは実際に行動にしてこそ重みが出るものです。食べたと嘘をつくのではなく、食べているという真実の言葉を告げる方が、より重みが増します」

「重みが増しているのは体重だけだ、ハスミ」

 

 体重計でも持ってくればよかったと、ツルギの眉間に青筋がピキキと出る。

 

「ハスミ……どうしても引く気はないんだな?」

「はい。全ては、普段は手に届かない一流パティシエによる最高級のスイーツを食べ続けるため……すみません、言い間違えました。全てはコハルのためです」

「コハルのコの字も出てないぞ」

「うわぁ、綿菓子って本当にふわふわなんですねぇ、ハスミさんもどうぞ」

「いただきます」

 

 もっしゃ、もっしゃと口を動かしながら、煽るように幸せそうな表情を浮かべる、ハスミとヒヨリ。

 類は友を呼ぶとはこのことだろう。

 

「ミカ様……戦闘の許可をお願いします」

「ま、待って! 落ち着こうね? ね? 2人がこうなってるのは、私のせいでもあるし……とにかく、ここは先生に説得を任せて……」

 

 テコでも動かねぇ! デブだから! ドンッ! 

 そんな硬い意志を見せる、魅惑の柔らかボディになりつつある2人。

 さしものツルギも、怒りそうになるが何とかミカが抑える。

 自分にも責任があるので、どっちの味方にもなりづらいのだ。

 

 そんな所へ、バタバタと足音が聞こえてくる。

 

「あ、噂をしたら、先生が来たみたい」

「…? いえ、ミカ様……明らかに複数の足音です」

「え? 先生以外に来る予定はないんだけど?」

 

 一体誰が? 

 と、疑問符を浮かべるミカと、敵襲かとショットガンを構えるツルギ。

 ハスミも流石に中腰になり、戦闘態勢に入っている。

 ヒヨリ? 綿菓子でベタベタになった手のせいで準備が遅れてるよ。

 

「ツルギ先輩……」

「イチカ? 何でここに来た? 私が行くと言ったはずだ」

「イ、イチカ?」

 

 現れたのは、正義実現委員会の一部隊を率いたイチカ。

 

「すみません、ナギサ様の指示っす。ツルギ先輩を追うようにと……」

「なに…?」

「え? ナギちゃんが? なんで?」

 

 ハスミの暴食を止めに来ただけなのになんで? と、ツルギとミカが疑問符を浮かべる。

 

「具体的な指示は聞かされてないっすけど……ハスミ先輩(のクーデター)を止めることだってのは分かります」

「!? (私がスイーツ好きだと)き、気づいていたのですか…?」

 

 後輩の前や、対外的にはスイーツ狂いを隠せていると思っていたハスミは慌てる。

 見栄を張りたいお年頃なのである。

 

「お茶会の(ゲヘナの紅茶を嫌う)姿とかで、大体の人は知ってると思うっすよ」

「お茶会の(食べる)姿で…!? そ、そんなに分かり易いのでしょうか…?」

「いや、あれだけ暴れたら、流石に……委員会以外にも広まってますし」

「委員会以外にも!?」

 

 そんなにはしたない食べ方をしていたのかと、ショックを受けるハスミ。

 無論勘違いだが、翼の話を胸の話と勘違いしたりする子なので、さもあらん。

 

「待て、イチカ……ハスミが暴れる? 何の話だ?」

 

 しかし、横で聞いていたツルギは、流石に話が噛み合っていないことに気づく。

 

「え? いや、ハスミ先輩がゲヘナの紅茶なんて飲めるかって暴れた件っすけど……」

「………はい?」

「ハスミのゲヘナ嫌いか。それがどうした?」

「ん? んんー?」

 

 ハスミがクーデターを起こそうとしていると思っている、イチカ。

 スイーツの食べ過ぎを止めに来たのだと思っている、ハスミ。

 クーデターの噂など知らない、ツルギ。

 

「ナギちゃんの指示……正義実現委員会……ゲヘナ嫌い……あ」

 

 そして、その様子を俯瞰的に見ていたミカの顔が引きつる。

 思い出すのはセイアの言葉。

 ──いや、今はただの噂レベルだよ。ナギサも極秘に正義実現委員会に準備をさせている程度だ。

 

(これって……ナギちゃんが私を止めようとしてるってことだよね? ちょっと、セイアちゃん! ナギちゃんに説明しておくって言ったじゃん!?)

 

 ミカが扉間に電話→ナギサがミカに電話→セイアがナギサに電話。

 これが奇跡的に同時間に行われたために、連絡がつかなかったのだ。

 4,6,3のダブルプレーの成立である。

 

 かけなおさなかった理由? ナギサ視点だとミカは電話に出られる状況ではない。

 セイア視点だと、緊急性はないので後でかけなおすか程度のもの。

 お互いお偉いさんなので、すぐに電話に出られない状況などよくあるのだ。

 

「あ、あのね? イチカ…ちゃん? 落ち着いて聞いて欲しいんだけど……私はクーデターとか企んでないからね?」

 

 企んでない=現在進行形。

 企んでいた=過去形。

 日本語の妙である。

 

「ミカ様。私はまだ一言もクーデターとは言ってないっすよ」

「え? あ! いや、それは……そう! セイアちゃんに聞いたから!」

 

 まるで名探偵のように、ミカの言葉一つ一つを吟味していく、イチカ。

 誰が殺されたか、まだ言っていないのに、被害者を断定して探偵に疑われる定番の流れである。

 後、ミカが前科のせいで割と動揺しているのも、疑いに拍車をかけている。

 

「……ツルギ先輩。ミカ様の言うことは本当っすか?」

 

 なので、イチカは自分視点で最も信頼のおけるツルギに尋ねる。

 

「イチカ……」

「はい……」

 

 ゴクリと唾を飲み込み、ツルギの視線を受け止める、イチカ。

 

「………クーデターとは何の話だ?」

「え? そこからっすか?」

 

 そして、思わず目を見開いて驚いてしまう。

 だが、ツルギからすると寝耳に水なのでしょうがない。

 

「いや、ミカ様がゲヘナとの親善使節団である補習授業部を潰すという話で、そのためにゲヘナ嫌いのハスミ先輩やアリウスの方を引き入れているという話ですけど」

「やっぱり! だから、それは誤解なんだってばぁ! 私は戦争反対派だからね!?」

「はい。イチカの言うように、私は確かにゲヘナが嫌いです。今までさんざん迷惑をかけられましたので。ですが……あなたが風紀委員会と交流を持っているように、新しい世代には関係がありません。私達は今年で卒業する身ですので」

 

 恨みはあるが、それを新しい世代に引き継ぐ気はない。

 そう告げる、ハスミ。

 

「イチカさん…ですか? それに後ろの皆さんもケーキを食べませんか?」

 

 むしゃむしゃと、一人黙々と食べ続けていたヒヨリが手を止めて、イチカ達にホールケーキを差し出す。

 

「えーと……」

「槌永ヒヨリです。争ってもお腹が減って虚しいだけなので、一緒に食事をしませんか?」

「もう分かるだろう、イチカ。ミカ様達はクーデターなんてものを起こす気はない」

 

 委員長直々の白宣言に、正義実現委員会の生徒達は一様に力を抜く。

 慕っているハスミと戦わねばならないのかと、気が重かったのだ。

 

「私なんかが言っていいのか分かりませんが……アリウスにもゲヘナに侵攻の意志はないですよ」

 

 ケーキを切り分けながら、ヒヨリがイチカ達に語る。

 

「アリウスではですね。今までずっと、ゲヘナとトリニティへの恨みを煽る教育を受けてきました。今でも、ゲヘナが嫌いでトリニティも嫌いな人がいます」

「……そっかぁ」

 

 ヒヨリの言葉に、ミカが悲しそうに呟く。

 真の意味での和解は、まだ遠いのだと。

 

「でも、お湯がごちそうで、砂糖なんてめったに食べられない。そんな環境にまた戻りたい人なんて誰も居ませんよ」

「お湯が……ごちそう…?」

「せっかく、少しずつ環境が良くなっていってるのに、争いごとで全部消えたら……虚しいですよねぇ。まあ、世界は虚しいものですので、いつかはそうなるのかもしれませんけど」

 

 ミカが持ってこさせた取り皿にケーキを乗せて、イチカ達に配るヒヨリ。

 一体これに何の意味があるのだろうかと、疑問符を浮かべるイチカ達にヒヨリは続ける。

 

「結局、塩と油と糖が最強なんです。カロリー爆弾のフルコース……自分達で稼いだお金で食べるこれに勝るものはありません。戦いなんて痛くて苦しいだけです」

 

 どんなに硬い意志も、塩と油と糖には勝てない。

 一度口にすれば脳汁ドクドクで、それだけしか考えられなくなる。

 空腹の状態でフライドチキンを差し出されれば、特殊部隊も陥落する。

 これも全て、千手トビラマとかいう奴のせいなんだ。

 

「ですので、安心してください。戦争を仕掛けることで塩と油と糖がなくなると言えば、私達は一致団結して、実行犯を集団リンチにしますので」

「そ、そっか……」

「アリウス……聞きしに勝る過酷な環境なのですね……」

 

 ナチュラルに物騒な言葉を吐くヒヨリに、ちょっと引くミカとハスミ。

 誰がこんな環境に……まあ、ベアトリーチェのせいにすれば丸く収まるか。

 

「えっと……皆さんが何も企んでないのは分かりましたけど、じゃあ、なんで集まってるんすか? あんまり、接点のない繋がりだと思うんすけど……」

 

 ミカ、ハスミ、ヒヨリ。

 面識はあるが、特段仲が良いという話も聞かない組み合わせ。

 強いて言えば、3人ともスタイルが良いというぐらいだ。

 

「それについては、ワシから説明しよう」

「あ! 先生! やっと来てくれたんだ!」

 

 そんなイチカの疑問に答えるべく、扉間が姿を現す。

 ミカに呼ばれて、駆け付けてきたのだ。

 

「トビラマ先生?」

「そもそも、2人を呼んだのはワシだ。2人は補習授業部のメンバーと縁が深いからな。一芝居を打って貰っておったのだ」

「一芝居?」

 

 扉間が静かに頷く。

 遂に、補習授業部のバカ(真実)を話す気になったのだ。

 

「ああ、これは──補習授業部の対応力を見るためのテストだ」

 

 違った。

 更なる嘘で、塗りつぶしにかかって来た。

 素直に言えない理由? 

 補習授業部が親善使節じゃないと、ミカとアズサの内通がバレかねないのだ。

 

「対応力を見るための……テスト?」

「親善大使たるミカの裏切り、大切な者達を人質に取られる極限状態。そうした中でも、冷静さを失わずに、対峙した問題の解を見出すことが出来るか……その素質を確認(テスト)しておったのだ」

 

 ミカの裏切り(先に追放したのは補習授業部)。

 極限状態(太らせないために奮闘)。

 対峙した問題の解を見だす(テストを解く)。

 

 嘘は言っていないのに、相手からは別の意味に聞こえるように話す、扉間。

 実際はただの補習テストなのに、イチカ達からすると特殊訓練の内容を語っているようにしか聞こえない。

 

「何でまた、そんなことを…?」

「親善使節団において、ミカのみが3年生。つまり、ミカは来年には卒業する。権力・暴力においてトップのミカが消えるのだ。ゲヘナどころか、トリニティ内部での立ち位置も危うくなるのは想像に難くない。事前に心構えが必要だと判断してな」

 

 それっぽい理由を考えながら、ぺら回ししていく扉間。

 真実の無い話で、このレベルの理論武装を出来るなんて! 信じられん!! 

 

「そのため……()()()ナギサに頼んで、ワザと噂を流したのだ。嘘にリアリティを出すためにな」

 

 噂を流した(過去形かつ今回の噂とは言っていない)。

 

「なるほど……それで、ナギサ様からの指示が曖昧だったんすね。準備をしろとか、ツルギ先輩を追えとか、で」

「………私も最初は騙されていた」

 

 ツルギが空気を読んで、自分も知らなかったと告げる。

 実態はコハルとアズサのために、ハスミとヒヨリがスイーツをパクパクしていただけなのは把握済みだ。

 

「お前達には迷惑をかけた。だが、そのおかげでテストは滞りなく進んでおる。残された補習授業部も直に、己の中の解を出すだろう」

 

 己の中の解(テストの答案)。

 やたらと小難しい言い方をすると、なんか精神的なものに見えるので不思議なものである。

 

「すいません……そうっすよね。ミカ様がクーデターなんてするわけないっすよね」

「イチカ……ミカ様に不敬だぞ」

「いえ、ツルギ。私が説明をしておかなかったせいです。ミカ様は戦争を起こそうなんて、露にも思っていらっしゃいません」

「そーだよわたしがくーでたーなんてするわけないじゃん」

 

 3人からのミカ様はそんなことをしないという信頼に応えて、笑顔で頷く、ミカ。

 もちろん、内心では汗をダラダラと流しているが。

 

「これで一件落着だな」

 

 何か良い空気が流れ始めたので、後は流れで抑え込みにかかる、扉間。

 トリニティの平和のためにも手段は選んでいられないのだ。

 

 

 

「なるほど……つまり、今学園でいたずらに生徒の不安を煽っている噂の原因は……()()原因は先生ということでよろしいでしょうか?」

 

 

 

 ガチャリと重い盾が床に置かれる音がする。

 聞き覚えのあるその音に、正義実現委員会の生徒達の肩がビクリと跳ねる。

 

「ミネ…! 何故ここに!?」

「救護を行うために、原因であるミカ様の元に来たのですが……どうやら、原因は先生だったようですね」

 

 クーデターの噂を裏から確かめるなんてまどろっこしい手は使わない。

 直接殴り込んで救護する。

 それが、ミネの流儀だ。

 

「不安というものは、不眠やストレスの原因になります。そして、それは大病の元。到底見過ごせるものではありません」

 

 鋼鉄の天使が一歩一歩、ゆっくりと扉間に近づいてくる。

 正義実現委員会の生徒達がモーセを前にした海のように、サーッと割れる。

 

「待て、ミネ……話せば分かる」

「ご安心ください。()()を行うだけですので」

 

 話し合いを求める扉間だが、ミネは問答無用とばかりに近づいてくる。

 何を言っても揺らがないその姿勢は、扉間も好きだが敵としては厄介なことこの上ない。

 

「お、落ち着いてください、ミネ団長……先生はあくまでも生徒のためを想って…!」

「そうだよ! 先生は何も悪くないから!!」

「は、はい! 先生は悪いことは何もしていませんので……」

 

 ハスミ、ミカ、ヒヨリの真実を知る3人が扉間の援護に入る。

 実際問題、噂の件には扉間は欠片も関わっていない。

 その点においては、自分から言ったとはいえ、冤罪にも程がある。

 

「パフェ、ケーキ、ジュース、わたあめ、マカロン、セムラ……それらがテーブル一杯に……肥満もまた様々な大病の元です。糖尿病になる可能性もあります。あなた達も救護の必要がありますね」

「「「あ……」」」

 

 だが、スイーツ攻めの件はどうかな? 

 100%扉間のせいである。まあ、お金はミカから出ているが。

 

「先生、生徒の将来を想うと言うのなら、体こそが何よりの資本。健康は一度失えば、どれだけのお金を払っても返っては来ません。それなのに、止めていないのはどういうお考えで?」

「……すまん」

 

 ギラリと睨みつけられて、バツが悪そうに俯く、扉間。

 その姿は、孫にお菓子を与えすぎて夕飯が食べられなくなり、娘にガチギレされるお爺ちゃんのようであった。

 柱間で散々見ていたのに、学ばなかった扉間の怠慢である。

 

 

「先生は直ちに、ナギサ様と共に噂は事実無根だと宣言を出してください。そして、御三方は只今より──ダイエット(救護)を開始します」

 

 

 こうして、ミカとハスミとヒヨリは健康的なボディを手に入れたのでしたとさ。

 めでたしめでたし。




ちょっと長くなりそうなんで、後日談は次回に入れます。
途中からアビドスイベントに入ると思います。

アビドスイベント終わったら、最終章に入ります。

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