千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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71話:補習授業クライシス! ~後日談~

「というわけで、今回の件は勘違いというわけだ。いやはや、本人が本気で実行しようとしていた時よりも、上手くいきそうになっているとは……実に皮肉なものだね」

 

 優雅にお紅茶をしばきながら、朗らかにナギサに語り掛ける、セイア。

 勘違いという笑い話なのに、人払いをしないと話せない秘密事項になっているのは笑えないが。

 

「……ま、待ってください。ミカさんがクーデターというのは、当然嘘なのでしょう。ですが、それだとシスターフッドの動きが説明できません」

 

 ミカは冤罪。

 だが、ナギサからすれば初めから疑っていたのは、シスターフッド。

 困惑がさらに深まる。

 

「ああ、君が言っているその件だが……ハナコに調べさせた結果、サクラコはミカの動きを警戒していたようだよ。クーデターに動くようなら、すぐに抑えられるようにと」

「……つまり、私の考え過ぎだと? サクラコさんはミカさんの以前のクーデターは知らずに、純粋に今回の噂を危惧していただけだと?」

「実際の所は謎だが、素直に考えればそうなるね。いやはや、偶にはミカの言うように、私達も分かり易く話すべきだね。真実を悟らせぬように、歪曲に言い換えた話では齟齬が生じる」

 

 直接的な罵倒はせずに、皮肉を言うことで言い逃れをする。

 そんなお貴族らしい遠回しな対応が通じるのは、それを常識と知っている人間の間だけである。

 

「まあ、実際にミカが動いていた場合に、シスターフッドが何をしていたかは分からないがね。君の危惧もそこまで的外れでもないだろう。しかし、それを追及することは眠れる獅子の尾を踏む行為だ。下手な動きは逆効果だろうね」

 

 しかし、だからと言って、シスターフッドが怪しくないわけではない。

 何やら、個人的にアリウスとも親交を深めようとしているのも、2人は知っている。

 だが、追い詰めれば危惧した通りのクーデターになりかねない。

 

「何も起きないのなら、今回はそれで良しとしようじゃないか」

「それは……そうですね。ここで終わらせずに追及して、ミカさんの以前のやらかしが掘り起こされても困りますし」

 

 シスターフッドに、ミカを狙うような動きをしていたことを、追及することも出来る。

 だが、それをすれば当然相手も反論してくるだろう。

 そして、そのうちに真実がバレるのも面倒だ。

 痛み分けで留めておくのが利口だ。

 悪い奴だぜ、歌住サクラコ。

 

「ところで、ミカさんは結局の所、何をやっていたのですか? 補習授業部を潰すという噂は何もなしに出て来るとは思いませんが?」

「ああ、それに関しては真実だよ。補習授業部を潰す。ただ、それは真実の意味での補習授業部のことだ。親善使節を潰すと言っているのではない。あくまでも、落第生の集まりを潰すと言っていたそうだよ」

「つまり……」

「純粋に成績を上げる。それだけだよ」

 

 ナギサが大きくため息を吐く。

 なんで、それだけの話がここまで大事に繋がってしまったのだろうかと。

 

「どうして、そんなことに……」

「これに関しては、君の寵愛を一身に受けるひな鳥も関係しているようだがね。まあ、ハナコという友人を持つ、私が言うべきではないかもしれないがね」

「ヒフミさん……どうすれば、言うことを聞いてくださるんでしょうか。普段は素直で可愛らしい後輩なのですが……」

 

 今回、ミカが補習授業部を潰す。となったのは、ヒフミとハナコのせいだ。

 アズサとコハルが落ちても、一緒に勉強を教えて上げただけだろう。

 テストを真面目に受けなかったことが、ミカの逆鱗に触れた。

 

「何が起きようとも変わらぬ一本芯を持つと言えば、聞こえは良いが、分からず屋と言えば否定はできない。まあ、ここは1つ先生に任せようじゃないか。餅は餅屋へ丸投げするのが一番だ」

「そうですね……先生に代案を作って貰って、それを私達が実行する。それで行きましょう。今回はなんだか、どっと疲れましたので……」

 

 少し眠たそうにしながら、ナギサは補習授業部の合宿所のある方の空を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

「アズサ、下江コハル……合格だ」

「当然だ。全力で勉強をしたんだからな」

「やった! あ、ううん。このぐらい朝飯前なんだから! それより、ハスミ先輩を早く解放してよ!」

「ああ、ヒヨリもだ」

 

 花丸をつけた答案用紙を、2人に返す扉間。

 その顔はミネに救護された疲れからか、少し疲労が滲んでいた。

 救護ってなんだよ? 

 

「2人なら、もう解放してるよ」

「あ、ミカ様!」

「ミカ! ……何で体操服なんだ?」

 

 ハスミとヒヨリは既に解放されたと告げるのは、体操服を着てお団子ヘアーに変えたミカ。

 

「……私は解放したよ。()()()

 

 そう言って、ミカは合宿所の外を眺める。

 そこには。

 

「キヒヒ! さあ、走れ、ハスミ! ヒヨリ! まだ20kmしか走ってないぞ?」

「こ、これは……中々にきついですね……」

「もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……」

「しゃべる余裕があるなら、まだ大丈夫だな。走れ。私に追いつかれたら、ショットガンの餌食だぞ?」

 

 グラウンドをひたすらに走らされている、ハスミとヒヨリの姿があった。

 ミネにダイエットをしろと言われたハスミ、ヒヨリ。

 そして、ハスミの態度にちょっと鬱憤が溜まっていたツルギが、スパルタ気味に追いかけまわしているのだ。

 

「ハスミ先輩に、ツルギ先輩!?」

「ヒヨリ…! くっ、遅かったか。まさか、短期間であんなに丸くなってしまうとは……」

「私はもう目標距離を走ったから、解放されたんだけどね。2人はその……(目標カロリーに)足りないらしいから」

 

 普通にスイーツを食べていただけのミカは、既にランニングを終えている。

 だが、暴食の限りを尽くした2人はそうもいかない。

 ツルギの監視の元、地獄のフルマラソンをやらされている。

 

「私のせいで弛んだ体を即座に鍛えなおしてるなんて……やっぱり、ハスミ先輩って凄いわ! 私も一緒に走ってくる!」

 

 憧れの先輩フィルターがまだ残っているのか、目を輝かせて駆け出していく、コハル。

 後輩の前では、手が抜けなくなりハスミの地獄度が上がるのは想像に難くない。

 

「私も行った方が良いか?」

「好きにしろ。ヒヨリに関しては、サオリからも『最近、弛んでいるから、この機に鍛えなおしてくれ』と言われておるからな」

「そうか……サオリが言うなら、私も心を鬼にして協力しよう」

 

 アズサも応援に駆け付けるべきか悩むが、サオリの言葉を聞いて、スパルタ指導に向かう。

 

「そう言えば、ヒフミちゃんとハナコちゃんは? 一緒にテストを受けたんじゃないの?」

「ヒフミとハナコなら……そこだ」

 

 ミカの質問に対して、扉間は顎で入口の方を指し示す。

 

[壁]×・)

「ほら、ハナコちゃん、いつまでも隠れていないで行きませんか? ミカ様もきっと許してくれると思いますので」

 

 壁に隠れて、ミカの様子を窺うハナコ。

 そんなハナコの腕を引きながら、部屋に引きずりこもうとする、ヒフミ。

 どうやら、ハナコは色々とやったせいで、ミカに会うのが気まずいらしい。

 

「あの……ツルギさんをけしかけた件は、申し訳ありませんでした」

「はぁ……ほら、別にもう怒ってないよ。ハナコちゃん」

 

 年上の貫禄を見せつけ、ハナコを許す、ミカ。

 あなたを赦すね。

 

「ほら、私の言ったとおりになりましたよ?」

「ヒフミちゃん。自分は関係ないみたいな顔してるけど、ヒフミちゃんも反省対象だからね? 私を追放したのが誰か忘れちゃったの?」

 

 ただし、ヒフミちゃん。あなたは赦さない。

 

「あ、あの、申し訳ありませんでした……卒業と言うべきでした」

「言い方の問題じゃないよ!? 仲間外れにしたことに怒ってるんだからね!」

「え? でも、ミカ様ならティーパーティーに行けば、いつでも会えますし……」

「うん。ナギちゃんみたいに慕ってくれてるのは嬉しいけど、普通はあの場には遊びには行けないんだよ?」

 

 ちょっとお話に、というノリでナギサの下に行くヒフミであるが、普通の生徒は来れない。

 現実に当てはめると、雑談をしに社長室に訪れるようなものなのだから。

 

「というか、私が怒ったそもそもの理由は、2人がまともにテストを受けないからだよ? ハナコちゃんはそもそも私より頭良いんだから、落ちる訳ないよね? ヒフミちゃんは今年に入って2回もテストを無視するとか前代未聞だよ。ナギちゃんなんて、ストレスで紅茶にお砂糖をいっぱい入れるようになったんだからね?」

 

 アズサとコハルは無罪。

 そもそもの怒りの原因は、ハナコとヒフミがテストをワザと落ちたことにある。

 

「そうですね……今度からはテストに落ちて一緒に集まるのではなく、テスト前にみんなでテスト勉強をするようにします。もちろん、ミカさんも入れて」

「そうそう! その言葉が聞きたかったんだよ、ハナコちゃん! 一緒に悪さするなら、私も怒らなかったのに」

 

 普通に合格できる実力ある2人が、ワザと落ちたのでミカがボッチになってしまったのだ。

 いじめ、カッコ悪い。

 

「ヒフミちゃんは? あの鳥のぬいぐるみ……ペロロちゃん? のために、抜け出すのをやめないと、テスト期間中はどこかに幽閉しないといけないんだけど」

「心配は無用です! ミカさん、私はハナコちゃんを見ていて気付いたんです」

「ほぉ、何に気づいたのだ?」

 

 もう、どこかに閉じ込めるしかない……そんな結論に至りかけたミカだったが、当のヒフミは自信満々に胸を張る。

 

「ハナコちゃんは、今回私達より早くテストを解いて、自由の身になりました。つまり、私もテスト当日前にテストを解けば、ゲリラライブがあっても大丈夫なんです!」

 

 ヒフミが導き出した結論。

 それは、テスト当日がモモフレンズのイベントに被るなら、先にテストを受ければいいというものであった。

 

「………先生。どうなのかな、これ?」

「確かに一理ある……先に受けておけば、テストを受けそびれることはない」

「はい! その通りです!」

 

 扉間の言葉に、ヒフミはですよねと可愛らしく頷く。

 だが、その隣では、ハナコが微妙な顔をしている。

 その理由は。

 

「だが、先にテストを受けるということは、通常よりも早く答案が出回りかねないということだ。お前1人のために特別にテストを作るのでなければ、カンニングの視点から見て到底許せる行為ではない」

「ですよねー」

 

 ヒフミにテストを先に受けさせることが、テスト情報の流出につながるからだ。

 それを分かっていたからこそ、ハナコは微妙な表情を浮かべていたのだ。

 

「そもそも、ワシとしてはお前には、物事に優先順位をつけて耐え忍ぶことを覚えて欲しかったのだが……」

「あうぅ……」

 

 プルプルと震えて、無害な少女のように振る舞う、ヒフミ。

 だが、心の中の優先順位は友達>>>>>>ペロロ>>テストで揺らがないから、困ったものだ。

 

「……しかし、事前に知らせることを覚えたのは1つの進歩だな。本当に外せない用事であれば、特例が認められることもあるだろう」

「ミカ様…! 口添えをお願いします!」

「今まで私の権力目当ての人はいっぱい見てきたけど、こんなに純粋な目を向けられるのは初めてだよ」

 

 ナギサとミカ。ティーパーティーの2人を押さえてしまえば、大抵のことは通る。

 そのことを知ってか知らずか、ヒフミは曇りなき瞳でミカにおねだりする。

 

「そもそも、私とナギちゃんが便宜を図っても、来年には卒業して居なくなるんだよ?」

「そんな……だったら、もう私自身がホストになるしか……」

「私もティーパーティーの権力で、色々わがまましてきた自覚はあるけど、ここまで私欲に塗れた願いはなかったなぁ」

 

 ペロロ様のためなら、学園のトップにでも上り詰める。

 そんな凄みがヒフミにはあった。

 

「あら、ヒフミちゃんはホストになりたいんですか? うふふ、協力しましょうか?」

「やめろ。お前達なら本気でなりかねん」

「というか、ヒフミちゃんって対外的にはナギちゃんのお気に入りだから、ホストはともかく、ティーパーティー入りはそんなに難しくなさそうなんだよね。ハナコちゃんも今から昔みたいに真面目に戻れば、即ティーパーティー入りだし……うん、やめてね? トリニティが壊れちゃう」

 

 元々、ナギサとお茶会を楽しめる程に距離が近い。

 補習授業部が親善使節になったせいで、補習授業部の部長という立場がミカの後継にも見える。

 そして、あの羽沼マコトがトリニティにおいて最も警戒をしている生徒。

 そんな無限に上がり続ける株のせいで、ヒフミがティーパーティー入りするのは難しくないのだ。

 

「あはは……言ってみただけです」

「お前の言ってみただけというのは、心臓に悪いのだ。年寄りをもっと労われ」

 

 ヒフミ本人に、トリニティそのものを動かす力はない。

 だが、カリスマと言うべきか、彼女にはそれを助ける味方が大勢いる。

 ハナコが悪い意味で本気を出すと、大変なことになるのは想像に難くない。

 

「さて……何はともあれ、これで補習授業部に赤点の者はいなくなったな。アズサと下江コハルもお前達と共に学んでいくのなら、赤点は逃れられるだろう」

「はい。最善を尽くしますので、大船に乗った気でいてください、……ところで、先生に聞きたいことがあるのですが? あ、今、また『面倒な質問か』って顔しましたね? 違いますよ、今回は真面目な質問です」

 

 ハナコが質問したいことがあると言うと、扉間は嫌そうな顔をする。

 おいろけの術の話のせいで、身構えてしまったのだ。

 火影クラスにすら存在だけで身構えさせる。おいろけの術の恐ろしさが良く分かる光景である。

 

「前から思っていましたけど……どうして、コハルちゃんだけフルネーム呼びなんですか?」

「あ、それ私も思ってた」

「そう言えば、そうですね……初対面の時ならともかく、コハルちゃん以外は下の名前だけですし」

 

 ハナコの疑問。

 それは、コハルの呼び方であった。

 ナチュラルにフルネーム呼びを続けるので、今までツッコム機会が無かったのだ。

 

「呼び方だと? ただ単に、同じ名前の人間と区別するためだが」

「コハルちゃんと同じ名前? トリニティに同じ名前の子っていたっけ?」

「私の記憶ではいませんねぇ。他の学校の方ですか?」

 

 扉間的には、区別するためという合理的な理由以外に意味などないので首を捻る。

 

「いや、ワシの弟子の1人でな。非常に才気ある、くノ一だった」

 

 うたたねコハル。

 柱間と扉間の弟子であり、三代目火影猿飛ヒルゼンと同じ班員。

 そして、現在は木ノ葉のご意見番である。

 

「そんな……私の考えたコハルちゃん本命説が間違いだったなんて……」

「真面目な質問だと言ったのは、どの口だ?」

「あはは……でも、大切な人だったんですよね?」

 

 本命の子にだけ、素直になれない。

 そんな、小学生の男子みたいな態度を取っているのだと、妄想していたハナコがガクリと崩れ落ちる。

 そんな様子を苦笑いと共に見つめながら、ヒフミが尋ねる。

 

「ああ。お前達の半分ぐらいの年齢の頃から面倒を見ておった。生きておれば、今頃はワシよりも年上になっておるだろうが……サルですら死んだ以上は、楽観視は出来んか」

 

 最後に会ったのは『囮役はもちろん、オレが行く』の時だ。

 何なら、ヒルゼンの死因は扉間の穢土転生が50%ぐらいは占める。

 弟子が今も生きているとは、到底思えなかったのだ。

 

 なので、うたたねコハルが扉間小隊のメンバーで、一番長生きしていることを扉間は知らない。

 

「先生……」

 

 窓の外に目をやり、ハスミと一緒に走るコハルを見つめる扉間に、ミカが気まずげな視線を向ける。

 そこには、もう故郷に帰れない者特有の寂しさがあったから。

 

「すまんな。確かに、1人だけフルネーム呼びでは嫌っているように受け取られかねんな。今度からは普通に呼ぶとしよう」

 

 まるで、昔のことを忘れるように告げる扉間。

 

「あの……先生の昔のことを聞いてもいいですか?」

 

 だが、そこにヒフミが待ったをかける。

 

「ワシの過去を? あまり面白い話ではないぞ」

「それは分かっています。だから、良い思い出だけ聞かせて、都合の悪いことは忘れてください。人間には記憶力の欠如が必要なんです」

 

 ニコリと微笑みながら、とてつもなく都合の良いことをのたまう、ヒフミ。

 都合の悪いことはなかったことにする。アウトローの鉄則だ。

 

「はぁ……お前はまた、妙なことを」

「あはは……でも、楽しい過去なら誰かに話したくなりませんか? 昔話ぐらい、心置きなくしたっていいじゃないですか」

「私も! 先生の昔話をまた聞きたいな。今度は、戦争とかじゃなくて先生が楽しかった思い出を」

 

 扉間は別世界の人間だ。

 その過去を知る者は扉間本人しかいない。

 そして、扉間が死ねばこの世界でそれを知る者は存在しなくなる。

 それは何だか、悲しいなとヒフミは思ったのだ。

 

「そうですね、私も先生の世界のことに興味があります……いえ、ちゃんと真面目な意味でですよ? 未知の世界ってドキドキしちゃうじゃないですか?」

「そうそう。今まで、他のインパクトが強すぎて考えられなかったけど、別の世界ってなんだか面白いよね」

「先程おっしゃっていた、サル……という方も先生のお弟子さんなんですか?」

 

 並行世界とか、SFみたいで面白いなと笑う生徒達。

 そんな姿を見ながら、扉間は思い出す。

 戦争だらけの人生で、楽しかったことを。

 

 兄者……は癪なので取り敢えず、記憶の端にやりつつ考える。

 そうなると、必然と浮かんでくるのは。

 

「まったく……この年になっても、教わることがあるとはな」

 

 今のように、生徒達に囲まれている時だった。

 

「これだから、先生は面白いのだ」

「先生?」

「いや、なに、独り言だ……して、サルだったな。サルは愛称で、本名は猿飛ヒルゼンと言ってな。ワシや兄者以上の忍の才を持っていながら、底抜けに甘く、馬鹿のような理想を語る……そんな、ワシの自慢の生徒だった」

 

 故に、扉間は表情を柔らかくしながら、語り始める。

 

 

「──お前達と同じようにな」

 

 

 彼女達の先輩の話を。

 

 

 

 

 

「……マズいね、これは」

 

 小鳥遊ホシノは、アビドス高校の屋上から周囲をぐるりと見渡して、1人愚痴る。

 

「ヘルメット団が大規模組織ってのは、知ってたけど……まさか、本気でうちを全軍で包囲してくるなんて」

 

 学校をグルリと取り囲んでいるのは、おびただしい数のヘルメット。

 赤、白、黒、青。更には、倒すと経験値が多く貰えそうな銀色まで。

 多種多様なヘルメットの数々が、アビドスの灼熱の太陽に照らされて光り輝いている。

 

「うん。以前のカタカタヘルメット団の件でちょっと舐めてたかな」

 

 単なる不良崩れだが、その勢力図は広く、集めると大規模学校クラスの人数になる。

 以前のカタカタヘルメット団だけだった時とは、状況が違う。

 

「ホシノさん、こちらにいましたか」

「ッ! ワカモちゃん? どうしたの?」

「どうしたも何も、作戦会議なのにあなたが来ないので、探しに来ただけですわ」

 

 ワカモに声をかけられて、それまで鷹のように細めていた目を慌てて緩くする、ホシノ。

 後輩(年上)の前では、昔の姿をあまり出したくないのだ。

 

「うへへー、それにしてもよくここが分かったねぇ。気持ちよく日光浴してるのがバレちゃったかなぁ?」

「ここなら、敵の様子を一望できる。百聞は一見に如かずですもの。(わたくし)もちょうど来ようと思っていただけですわ」

 

 いつものおじさんスタイルに戻ろうとするが、ワカモからは見透かされているのか、本当の目的を言い当てられてしまう。

 

「そっかぁ……ワカモちゃん、どう?」

「どうとは?」

「これを見て、()()()()()と一緒に脱出、出来そうだと思う?」

 

 他のみんな。

 少し、違和感のある言葉を使うホシノ。

 まるで、自分を除外しているように。

 

「出来るか出来ないかで言えば、可能ですわ。夜の闇に乗じて、夜襲をかけてヘルメットを奪う。その後はヘルメット団に扮して逃げれば、見つけるのは困難ですわ」

「そんなに上手くいく?」

(わたくし)、ヘルメット団の内部のことも少しは知っていますので。あそこは数が多いだけの烏合の衆。集まってはいますけど、恐らくは別の部隊の人間の名前すら知らないはずですわ」

 

 蛇の道は蛇に。

 元々、裏で生きていたワカモからすれば、ヘルメット団の底など見え透いている。

 

「そっか……じゃあ──」

 

 ホシノがワカモに何かを頼もうとした時、屋上に続く扉が再び開かれる。

 

「ん、やっぱりここに居た、ホシノ先輩」

「シロコちゃん…!」

「ノノミ、ホシノ先輩とワカモを屋上で発見。ついでだし、屋上で作戦会議しよう」

『はい、分かりました!』

 

 ホシノを見つけたと、ノノミに連絡を入れる、シロコ。

 それを見て、ホシノは逃げ道を潰されたような顔をする。

 

「すごい数が集まってる……」

 

 屋上から見える、無数のヘルメットの数々にシロコが感嘆の声をあげる。

 

「ええ、しかし……これだけの数に狙われる理由に心当たりはありますか?」

「うーん……以前に狙われた時は、裏にカイザーローンが居たけど……また雇われたのかなぁ?」

 

 ワカモの純粋な疑問にホシノが首を捻る。

 まだ、アビドスの土地を狙っているのかもしれないが、全軍を動かすのは流石にやり過ぎではないかと思っているのだ。

 

「後は物資を奪ったり、財布にしたり、ヴァルキューレに突き出して換金してるぐらいなのに……皆目見当がつかない」

「十中八九それでしょう、シロコさん!」

 

 ヘルメット団がアビドスに全軍を率いて来た理由。

 それは純粋にアビドスに恨み骨髄だからである。

 RPGで金稼ぎのために、虐殺していたモンスターに反乱を起こされたようなものなのだ。

 

「? 治安維持活動しているだけなのに、恨まれる理由が分からない。ヘルメット団がアビドスに何もしてなくても、他の人に迷惑をかけないように、見つけたら身ぐるみを剥いで無力化するのは正義の行い。自分達の罪を棚に上げて、私達を恨むなんて厚顔無恥にも程がある」

「常々思っていましたけど、どうして(わたくし)が捕まって、あなた方が野放しにされているのですか?」

「ん、弱いのが悪い。弱い奴は死に方も選べない」

 

 ワカモのこの世の理不尽を叫ぶ言葉にも、シロコは揺らがない。

 アビドスは弱肉強食。

 それが常識だ。

 

「みなさーん、お待たせいたしましたー」

「うわ! 本当に見渡す限り全部ヘルメット団じゃない!?」

「ヘリなどの空戦用の武器は今の所は見当たりませんけど……戦車などはあるので、学校で防衛するのは難しそうですね」

 

 そんな厳しいアビドスの掟を語るシロコ達の下に、ノノミ、セリカ、アヤネが来る。

 

「それでは、会議を始めましょうか。議題は、ヘルメット団をどうやって退けるかですね」

 

 全校生徒6名が揃ったので、アヤネが早速とばかりに会議を開始する。

 目の前に敵軍が広がっている中で、堂々と会議を開けるのは、今まで潜り抜けて来た修羅場の数を物語っている。

 

「ん!」

「はい、シロコ先輩、どうぞ」

 

 挙手をするシロコにアヤネが、どうせ変な意見を出すんだろうなと思いながら、発言権を与える。

 

「正面突破、全員叩き潰す」

「それが可能なら、もうやっていますよ、シロコ先輩」

「うんうん。一人一人は大したことないし、連携も取れてないみたいだけど、流石にこっちの弾薬とかが足りないかなぁ」

 

 今まで散々、財布として寄付してもらった経験から相手の強さは分かる。

 だが、流石に数が多すぎる。

 負けることはないかもしれないが、勝つことが出来ない。

 

「はい!」

「セリカちゃん、どうぞ」

「前みたいに先生に物資を補給してもらおう?」

 

 最初の時と同じように、扉間に物資を持って来てもらう。

 セリカの言葉は、問題の解決に最適のように見えた。

 だが。

 

「先生にはすでに連絡を入れていますが……流石にこの数を相手にする量となると、シャーレの権限だけではすぐに動かせないそうです」

「まあ、数的には学校対学校の戦争みたいなものだからねぇ」

「それに悠長に待っていては、その間に潰されてしまいますわ」

 

 シャーレは連邦生徒会の所属。

 以前のような、5人分の補充程度ならすぐに動かせるが、流石に全軍相手では足りない。

 そうなると、財務担当のアオイも絡む大規模なものになる。

 申請、稟議、決定、発注、発送。

 この過程を越えねば、アビドスに物資は届かないのである。

 

「はーい! 私に良い考えがあります!」

「ノノミ先輩、どうぞ」

 

 そんな重い空気の中、ノノミが胸を躍らせながら挙手をする。

 

「シャーレが無理なら、アリウス学園に依頼を出してみませんか? 生徒会長のアツコさんとは以前お会いしたことがありますし」

「あー、あのガスマスクの子かぁ……」

「アリウス……ヘルメット団よりは強かった」

 

 ノノミの案は、傭兵学校と化しているアリウスから、戦力を雇うこと。

 ホシノとシロコは実際に戦ったことがあるので、実力的にも問題はないと分かる。

 

「ですが……雇うとなると相応のお金が必要ですわ。アビドスにそんなお金がありましたでしょうか?」

「………緊急事態ですので、私がお支払いします」

 

 ワカモのお金はどうするのかとの質問に対して、ノノミが険しい顔で宣言する。

 学校のお金はノノミのポケットマネーからは出さない。

 その不文律を破って。

 

「ノノミ先輩! それはダメ!」

「セリカちゃんの言う通りだよ。お金は取り敢えず、また借りれば……」

 

 だが、ノノミの言葉は却下される。

 お金の貸し借りを仲間同士でやるのは良くない。

 それをすると、歪な上下関係が生まれてしまう。

 

「ん、クラウドファンディングする?」

「……この状況で、アビドスチャンネルを撮影しますか?」

「あら、それなら確かにお金の問題は何とかなるかもしれませんわね」

 

 なので、チャンネル視聴者から寄付を募ろうとシロコが意見を出す。

 アヤネとワカモも確かに、良い案だと賛成する。

 

「でも、結局それだと時間がかかり過ぎちゃうんじゃないかなー」

 

 しかし、ホシノがそれに反対する。

 結局、即戦力を確保するのは難しいのだと。

 

「もう、ホシノ先輩! さっきから、反対ばかりしてるけど、何か案があるの?」

 

 そんなホシノに対して、セリカがプリプリと怒る。

 ホシノは先程から、どの意見にも賛同していないのだ。

 まるで、自分の意見しか通す気がないように。

 

「え? えーとね……()は取り敢えず、()()()は学校から脱出するべきだと思うんだ」

「「「「脱出…?」」」」

 

 ホシノの言葉に、ワカモ以外の4人が聞き返す。

 まるで、ホシノが絶対に選ばない選択をしたとでも言うように。

 

「……(わたくし)も賛成ですわ。一度、この場を捨てて、再起出来るように戦力を整えて戻ってくる。そのために、一度学校を捨てて逃げた方が良いかと」

「うん。ワカモちゃんなら、乱戦とかく乱は得意だし、逃げるのは難しくないと思うんだ」

 

 ワカモは1人でキヴォトスを荒らしては、ヴァルキューレから逃げるを繰り返していた人物。

 多勢に無勢など、彼女にとっては日常でしかない。

 恐らくはこの中で、最も撤退戦に詳しいのは彼女だ。

 

「で、でも、学校を捨てたら……」

「ヘルメット団が私達にやり返しに来てるなら、きっと学校は無茶苦茶にされる」

 

 しかし、学校から脱出できても学校そのものは守れない。

 財布にされた恨みを持つヘルメット団が、アビドス高校を破壊してクソみてぇな旗を立てる可能性もあるのだ。

 そんなこと、彼女達には到底認められない。

 故に。

 

 

「だから、私が残って学校を死守する」

 

 

 ホシノは自分1人が学校に残ることを告げる。

 彼女は本気で、この学校が自分の棺桶になっても構わないと思っているのだ。

 

「ダメです! ホシノ先輩でもダメなものはメッですよ!」

「そうよ! そもそも、それが出来ないからこうやって会議してるんでしょ!」

「……確かに、ホシノさんは私よりも強いですが……どうやってお1人で守るのですか?」

「はい、ワカモちゃんの言う通りです。相手はホシノ先輩が戦っている逆方向から攻めれば、それでいいだけです」

「ん。バカホシノ先輩」

 

 後輩達(約1名年上)からマシンガン非難を受ける、ホシノ。

 

「いや…その……電撃戦でリーダー格を潰していったらいけるかなって……私1人なら弾薬とかも6倍使えるってことだし……」

「それで相手が戦意を失えばいいですけど、弔い合戦みたいな空気になったらどうするんですか? そもそも、私達全員分の武器を集約したところで、ホシノ先輩の腕が12本に増える訳じゃないんですから、余計に数が不利になるだけです」

 

 脳筋戦法をしようとしたと打ち明ける生徒会長に、次期生徒会長のアヤネがツッコミを入れる。

 腕が増えるのは柱間だけで十分だ。

 

「んもー! じゃあ、どうするのさー! おじさんの貧相な頭じゃ、これ以上のことは思いつかないよぉ!」

「大丈夫。ホシノ先輩に頭脳労働は期待してないから」

「うわーん、シロコちゃんが反抗期だよ~。ワカモちゃん慰めて~」

 

 ノノミからは怒っている気配を感じたのか、ワカモのおっぱいに癒しを求めるホシノ。

 ワカモは呆れ顔で、その抱擁を受け入れる。

 

「全く……取り敢えず、貴重品をまとめておきませんか? 戦うにしても逃げるにしても、負けた時のことは考えておくべきでしょう」

「あー、いっそのこと、この学校ごと背負って逃げれたらいいんだけどなぁ……」

「バカなことを言わないでください」

 

 冗談めかして言うが、ホシノにとってはこの学校こそが貴重品。

 自分の先輩から引き継いだ唯一の遺品。

 おじさんモードになってはいるが、内心では一切逃げようとは思っていない。

 手足の2、3本ぐらいならくれてやるつもりだ。

 

「こんなとき先生が居たら……」

 

 そんなホシノの異常な狂気に気づいているのか、ノノミがこの場には居ない扉間の名を出す。

 

「そうですね……先生なら、きっと何か作戦を立ててくれるはずです」

「うん。卑劣な作戦でヘルメット団をけちょんけちょんに出来るのに」

 

 アヤネとセリカが、卑劣な策を授けてくれるはずと信頼を寄せる。

 

(わたくし)、数回しかあったことがありませんが、正直逃げろとしか言わないような気がするのですが? 自己紹介中に銃で撃たれましたし」

 

 ワカモが良く言うと現実主義。

 悪く言うと、空気が読めない扉間を思い出して、微妙な顔をする。

 

「……否定できないね~」

「ここが学校じゃなかったら、誘き寄せて中に入れたところで爆破しろって言ってたと思う」

 

 そんなワカモの言葉に、同意する扉間への理解力が高いホシノとシロコ。

 

「…! 先生からのお電話です!」

「噂をすればなんとやら、ですね」

 

 そして、そんなアビドスの下に件の扉間より電話がかかってくる。

 ノノミは蜘蛛の糸のようにパッと携帯を手に取る。

 

「もしもし」

『ノノミか? 皆の者は無事か?』

「はい……ただ、学校の周りを完全に囲まれてしまいまして……」

『逃げることは可能か? まずは、お前達の身の安全が一番だ。学校のことは後で考えろ』

「やっぱり」

 

 割と想定通りな言葉に、シロコが溜息を吐く。

 

「はい、それは可能なんですけど……ホシノ先輩が駄々をこねてまして」

「ねぇ、ノノミちゃん? おじさんだけが悪いみたいに言わないでよ」

 

 そして、ノノミがホシノを聞き分けの悪い子供のように告げる。

 ホシノが抗議の声をあげるが、後輩達は誰も否定してくれない。

 

『そうか。まあ、想像はついておった』

「うへー、おじさん信用無いなー」

『故に、第二の策を打つ』

「ああー、この流れ懐かしいなぁ」

 

 出会ったばかりの頃を思い出して、懐かしい思いに浸る、ホシノ。

 そんな声をノノミ越しに聞きながら、扉間は続ける。

 

『今、ヘリでアビドスに弾薬などの物資を運ばせておる所だ。ホシノ、ワカモ。聞いておるな?』

「うん、聞いてるよー」

「……私達に何か?」

 

 アビドスの最高戦力の2人に声をかける、扉間。

 

『援軍を率いてそちらに向かう故、それまで物資を使って全力で暴れろ』

 

 出された指示は暴れろ。

 逃げることとは正反対の指示。

 

「あら……いいのですか? 文字通り全力で暴れてしまっても?」

『何かを守るためなら、好きなだけ暴れて構わん。ワシが許す』

 

 ワカモが獰猛な顔をして、扉間を挑発する。

 足止めは構わんが、別に全員倒してしまっても構わんのだろう? 

 

『そして、ホシノ』

「ほいほい、なにー?」

()()()()()。敵が恐怖で冷静な思考を失うほどにな。相手に冷静に包囲状態を続けられたら、お前達の負けだ。お前がこの作戦の要だ』

「………先生の命令なら、しょうがないかぁ」

 

 本気を出せ。

 その言葉にホシノは小さく苦笑して、後ろ髪をかき上げてポニーテールにする。

 

「じゃあ、久しぶりに──本気で行くよ」

 

 臨戦状態になったホシノが、鷹のように空を睨みつける。

 まるで、この瞳から逃れられる者はいないとでも言うように。

 

「ところで、先生。物資は連邦生徒会の申請が下りたんですか? お時間がかかると聞いていたのですが」

『む? ああ、連邦生徒会ではない。別口だ』

「他の学校ですか?」

『いや、()()()()()()

「学校ではない…?」

 

 意味不明な言葉に、ノノミが疑問符を浮かべる。

 それに対して、扉間は電話越しに笑って答える。

 

『あるではないか? アビドス高校に最も近く、そして十全な装備を備えている()()()

 

 連邦生徒会でも、他の学校でもない。

 じゃあ、一体どこから物資を調達して来たのか。

 そんなノノミの質問に答えたのは、複数のプロペラの音だった。

 

「あ! ヘリが見えたわよ! あれが先生が言ってる補給の……え!?」

 

 複数のヘリを見つけたセリカの顔が、嬉しそうな笑顔から、一気に焦りの顔に変わる。

 

「あの()()()()()()は……」

 

 アヤネがヘリについた企業のマークを見て、間違いではないかと眼鏡を拭く。

 

 

「──カイザーグループ」

 

 

 そして、シロコがその企業の名を口にする。

 アビドスの苦悩の元凶であり、かつて敵対した企業の名前を。

 カイザーPMC。軍事企業。つまりは、民間の傭兵。

 故に、金さえ払えば何のしがらみもなく、味方につけることが出来る。

 

 

 

「アビドスの諸君。非常に残念なお知らせだ。かつて、君達が不当に払っていた高額の利子の過払い金は……今回の援助で綺麗さっぱり無くなることになる」

 




かつての敵が主人公達のピンチに駆け付ける展開が好きな方は、感想・評価お願いします。

後、次回以降の展開は作者がスバルを引けるかどうかで決まります。
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