千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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72話:アビドスVSヘルメット団VSダークカンパニー

 

「隊長、これまだ動かないんですかね?」

「なんか、あったんすか?」

 

 アビドス高校をぐるりと取り囲むヘルメット団連合軍。

 その中の1派閥“ジャブジャブヘルメット団”の団員達が、中々攻撃に移らない連合軍に疑問を零す。

 

「それがねー、聞いてよね、あんた達。まだ、この連合軍のリーダーが決まってないって言うのよ」

 

 それに対して、ジャブジャブヘルメット団の隊長、河駒風(こまかぜ)ラブはギザ歯をむき出しにして呆れたように答える。

 

「は? じゃあ、あたし達誰に集められたんですか?」

「そこはアビドスの奴らに、食い物にされてる団員が多いから全会一致で決まったんだけど……結局、どこがリーダーやるかは決まってないのよ。手柄の独占? ってやつ? ゴージャスヘルメット団とレッドドッグヘルメット団を中心に派閥に割れて争ってるのよ」

「あー……三国志の反董卓連合みたいなもんすか」

 

 アビドスへの恨み骨髄なので、アビドスを潰すという意見は一致している。

 だが、実際に来て囲んでみると、相手は6人しかいないので、もう勝ち確状態で気が抜けているのだ。

 故に、どこが手柄を独占するかで揉めている。

 

「三国志? あんた、歴史とか得意だったっけ?」

「え! 隊長、三国志知らないんすか!? 女の義務教育っすよ!」

「義務教育までは受けてるけど、そんなの習わなかったわよ! あんまり成績良くなかったけど!」

「ははは、まあ、成績良かったらこんな所に居ませんよね、私達」

 

 ラブはトリニティを中退した身。

 つまり、中学まではちゃんと学校に通っていたのだ。

 後、不良なのに意外とちゃんとした場では敬語とか使える。

 

「というか、リーダーが決まってないなら隊長が立候補したらどうですか?」

「はぁ? 何言ってんのよ。あんた達の面倒見るだけで大変なのに、よその子まで面倒見切れないわよ」

「……隊長って、たまにおかんみたいなこと言いますよね」

「誰が母親よ! あんた達と同い年だっての!」

 

 冗談を言ったり、からかったりしてリラックスしているジャブジャブヘルメット団。

 上層部の仲間割れに呆れてはいるが、彼女達もまた戦う雰囲気ではない。

 アビドスはたった6人。対してこちらは、数百人規模の連合軍。

 負けるきせーへん、(相手の)地元やし。

 

「とにかく、上が決めるまでは大人しく待機! 幸い、ご飯とかは出るんだから、今のうちに食いだめでもしておきましょう」

「へーい………ん?」

「なに? 急に空なんか見上げて?」

 

 団員のうちの1人が、怪訝そうな声で空を見上げる。

 

「ヘリが……」

「あー、さっきのカイザーのヘリ? 金で雇ったのか知らないけど、ほんの数機でしょ。別に、大した問題じゃないわよ」

 

 カイザーグループのヘリがアビドスに飛んでいくのは、もちろん確認済みだが、焼け石に水。

 PMCの兵士は不良や一般ヘルメット団よりは強いが、所詮は雑魚。

 数の利で上回っている以上は心配する必要はない。

 そう、ラブは伝えるのだったが。

 

「いや……こっちに落ちてきてるっす」

「はぁ!?」

 

 焼け石に水ではなく、ヘルメットに焼石。

 ジャブジャブヘルメット団に向かって、ヘリがまっすぐに落ちて来る。

 

「た、隊長! どうしたら!?」

「と、とにかく、全員逃げてッ!!」

 

 慌てて逃げるように指示を出すが、もう遅い。

 ヘリの神風アタックからは逃れられない。

 

「「「キャーッ!?」」」

 

 可愛らしい悲鳴と、全く可愛くない爆発音が響き渡る。

 墜落したヘリが爆発し、辺り一帯のヘルメット団を吹き飛ばす。

 

「あんた達! 大丈夫!?」

「ううぅ……何とか無事っす」

「こっちも……にしてもヘリが墜落って、下手糞な運転だな」

 

 扉間なら爆発四散する事故だが、そこはキヴォトスの人間。

 灰塗れになり、ヘルメットの所々に汚れが目立つが命に別状はない。

 そして。

 

「うへー、ヘリと一緒に墜落だなんて、ワカモちゃんも人使いが荒いなぁ。おじさんじゃなかったら死んでるよー」

 

 アビドスにおける最強の神秘を持つホシノであれば、無傷に抑えられる。

 

「でも、これで相手の背後は取れたし、ドローンの補給地点は確保出来たから、まあいっか」

 

 炎の中から、ゆっくりと現れるのは太陽の化身、暁のホルス。

 その手には、年季の入った盾が握られており、いつもとは服装も違う。

 

「え! ヘリの中から人が!? ちょっと、あんた大丈夫なの!?」

「隊長、多分敵です」

「あ、そうね! ……こほん、そこのあんた! うちのジャブジャブヘルメット団に攻撃だなんて、いい度胸してるじゃない!」

 

 爆心地であるヘリの中から現れたホシノに、一瞬心配そうな目を向ける、ラブ。

 だが、部下に本当に人が良いんだからという目を向けられて、すぐに正気に戻る。

 

「まさか、ヘルメット団から心配される日が来るとは思わなかったなぁ……うん、おじさん感激したよ」

「こっちも、アビドスを心配する日が来るとは思ってなかったわよ!」

「いやぁ、おじさん感動しちゃったよ。世の中捨てたもんじゃないねー」

 

 元はと言えば、カタカタヘルメット団がアビドスにちょっかいをかけたのが発端。

 しかし、今はアビドスがヘルメット団から搾取する側になっている。

 そして、人を心配できる良い子達同士で争わなければならない。

 やっぱ、現実ってクソだわ。もう、無限月読しかねぇーな!

 

 

「うん。感動したお礼に今日は──倒すだけにしておいてあげるよ」

 

 

 そして、無情にも戦いの火蓋が切られるのだった。

 

 

 

 

 

「あ、悪魔だ……あいつはアビドスの悪魔だ…!」

「うへへ、こんなかわいい女子に向かって悪魔だなんて失礼だなぁ」

 

 ギュピ、ギュピ、と砂を踏みしめながら、歩いてくるホシノにジャブジャブヘルメット団は。

 否、ホシノの姿を見たヘルメット団は皆一様に震えあがる。

 

「撃て! 撃てぇええッ!」

「手榴弾もありったけ投げろ!!」

 

 彼女達は、先程からホシノへと幾度も攻撃を繰り返している。

 無数の銃弾とおびただしい爆炎がホシノを包み込む。

 

「やったか!?」

「バカ! フラグ建てないでよ!?」

 

 今度こそやったかと声上げるヘルメット団員。

 しかし、それはもはやフラグを通り越してお約束。

 炎の中から、ゆっくりと煤に塗れたホシノが現れる。

 

「あ、あ……ああ…ッ」

「あれれ~? もう、お終い? そんなのじゃ、マシュマロも焼けないよ」

 

 ホシノは無傷ではない。

 所々にかすり傷が見られる。

 だが、それが余計にヘルメット団の絶望を煽った。

 

 無傷なら、何か特殊な防具でもつけているのかと思うだろう。

 だが、かすり傷がついているということは、ホシノ自身の防御力だ。

 つまり、ヘルメット団の全身全霊の攻撃を生身で耐えているのだ。

 

「あ、諦めるな! こっちには戦車もあるんだぞ! 流石に戦車の砲弾なら効くはずだ!」

「砲弾かぁ……うん、流石に生身はキツイかなぁ」

 

 轟音が響き渡り、ホシノに向けて砲弾が放たれる。

 

「じゃあ、盾で跳ね返すね」

「は?」

「え? ちょ!? なんで私達の方に──キャァアアッ!?」

 

 それをホシノは盾を使って、軌道を変えることで別のヘルメット団に当てることで回避する。

 

「ありゃりゃ……仲間同士で攻撃し合うなんて仲が悪いんだねぇ」

「お前のせいだろ!」

「いやいや、おじさんしか敵が居ないのに、みんなで周りを囲んでいるんだから、多分おじさんが何もしなくてもフレンドリーファイアになるよ」

 

 アビドスはホシノ1人。

 それに対して、無数のヘルメット団が囲んでいるのだから、ホシノにその気がなくてもヘルメット団同士で攻撃がぶつかり合うのだ。

 

「うっ……」

 

 その事実に、思わず攻撃の手を止めてしまうヘルメット団達。

 

「まあ、別にフレンドリーファイアなんてしなくても──全員倒すけどね」

 

 そして、その隙をホシノは逃がさない。

 盾を折りたたみ、両手を空ける。

 そして、重戦車のごとく突っ込んでいく。

 

「に、逃げろぉ!」

「歩兵は下がって! 戦車でバリケードを作りなさい!! 盾で防いだってことは、戦車なら戦えるってことよ!!」

 

 ラブが戦車部隊に指示を飛ばす。

 人間の形をした戦車のようなものだから、恐ろしく感じるのだ。

 初めから、ホシノは重戦車だと思って対処すればいい。

 

「なんて、冷静で的確な判断力だ! 流石は、隊長!」

「そこに痺れる憧れるぅ!」

「バカなこと言ってないで、うちらは戦車の陰に隠れて援護するわよ!」

 

 集まり始めた戦車の陰に隠れて、ホシノから身を隠す、ラブ達ジャブジャブヘルメット団。

 

「さあ、ここからうちらの反撃よ──キャッ!?」

 

 カッコよく決めようとした所で、上空から降って来た何かに押し潰される、ラブ。

 

「隊長! 大丈夫っすか?」

「痛たた……もう、なによ、こ…れ……」

 

 怪訝な声を上げながら、ラブは起き上がる。

 そして、自分の上に降って来たものを見る。

 

「あら、ごめんあそばせ。戦車の運転に邪魔で捨てた()()()当たってしまうなんて……運が悪かったですわね」

 

 ワカモに戦車を奪われて、容赦なく戦車から放り出された仲間の姿を。

 要するに、『こんにちは。君、良い武器持ってるね、死ね!』されたのである。

 

「た、隊長! あの仮面、“災厄の狐”ですよ!?」

「はぁッ!? なんでそんな奴がアビドスになんかいるのよ!?」

「災厄の狐? いいえ、ここに居るのはアビドスの生徒、狐坂ワカモですわ」

「同じじゃない!」

 

 さらっと、奪った戦車で隣の戦車を吹き飛ばしながら、ワカモが世間話のように話す。

 

「いえ、違いますよ。今までの(わたくし)は野良の狐……でしたが、今は巣穴を得た狐です。つまり」

 

 ワカモが仮面をずらし、金色の瞳を狂気に輝かせる。

 

 

「──我が家を荒らされて絶賛不機嫌ということです」

 

 

 トーンと、乗っていた戦車から隣の戦車に飛び移る、ワカモ。

 その瞬間、先程まで乗っていた戦車が爆発を起こすのだった。

 

「キャァアアッ!?」

「ふぅ……少し手持ちが寂しくなってきましたわね。アヤネさん、爆弾の補給をお願いしても?」

 

 爆発に巻き込まれて吹き飛んでいくラブ達を片眼に見ながら、ワカモはアヤネと連絡を取る。

 もちろん、今しがた移った戦車のハッチをこじ開けながら。

 

『はい、ワカモちゃん。ドローンで運ぶので好きなだけ使ってくださいね』

「ええ、感謝しますわ」

 

 ワカモちゃん。

 1年生のアヤネにも、そう言われるようになったが、もはやワカモは突っ込まない。

 もう、単なる愛称だと思うことにしたのだ。

 

『あ、それと、先生からの援軍がもうすぐ到着しますよ』

「援軍ですか。この調子なら、(わたくし)達だけでもどうにかなりそうですが……どこのどなたがお越しになるのでしょうか?」

 

 こじ開けたハッチから、戦車の運転手を引きずり出して捨てながら、ワカモは空を眺める。

 目に映るのは、アヤネのドローン。カイザーのヘリ。

 ホシノに吹き飛ばされて空を舞うヘルメット団。

 そして、こちらに近づいてくる新たなヘリ。

 

「あれは……」

『聞いてください! 援軍はなんと──RABBIT(ラビット)小隊のみなさんです!』

 

 ラビット小隊が乗るヘリだった。

 

「こちらRABBIT1。廃校対策同盟の義によって助太刀に来ました」

「RABBIT2、降下を開始する!」

「こちらRABBIT3。カイザーの武器だから、好きなだけ使っていいんだよね? ぐへへ」

「こ、こちらRABBIT4。先生、銀色のヘルメットを狙撃したのに、どうしてかレベルが上がりません」

「お前のレベルが既に高レベルになっておるだけだ。気にするな、ミユ」

 

 ミヤコ、サキ、モエ、ミユ。そして扉間がヘリに乗って現れる。

 これが扉間の言っていた援軍である。

 

「ゲ! ワカモ!」

「人の顔を見るなり、『ゲ!』とは失礼ですね」

「当たり前だろ! 最後に会った時に、私の腹に銃弾を撃ち込んだのが誰か忘れたのか!?」

「さあ? (わたくし)、災厄の狐ではなくアビドスの砂狐ですので」

「こいつ…!」

 

 ヘリから降りて来たサキがワカモに青筋を立てるが、ワカモはワザとらしく無視をする。

 都合の悪いことは忘れるのは、アウトローの常識だ。

 ファウストさんもそう言っている。

 

「先生に殴られて、ギャン泣きしてたくせに……」

「それを持ち出すのは反則でしょう!?」

 

 しかし、サキも反撃を忘れない。

 扉間のアロナパンチを食らってワカモがギャン泣きした件を持ち出して、意地悪気に笑う。

 ワカモの顔が朱に染まる。

 

「ワカモ、サキ。喧嘩なら後でやれ。今はヘルメット団の掃除が先だ」

 

 このまま狐VS兎の2回戦が始まるかと思われたが、扉間が上空からそれを制止する。

 

「そうそう。ボサッとしてたら、私の爆撃の餌食になるよ。ねえ、先生? 本当にこれ全部使っていいんだよね?」

「今回の戦闘における費用は全て、カイザーPMC持ちだ。思う存分ヘルメット団に撃ち込んでやれ」

「りょうか~い。それじゃあ……スイッチオン!」

 

 そして、モエが涎を垂らしながらありったけのミサイルを発射していく。

 ワカモとサキも居る場所に。

 

「やめろ、バカ! 私ごと吹き飛ばすつもりか!?」

「はぁ……確かに、喧嘩をしている場合ではなさそうですね。では、(わたくし)は別の場所で遊んで参りますので」

 

 爆音に負けないように、モエに抗議の声を上げるサキを置いて、ワカモは再び戦車から跳び移っていく。

 

「あ! クソ! ……しょうがない、この苛立ちはヘルメット団にぶつけるか」

 

 そんな後ろ姿にサキは舌打ちするが、既にワカモの背中は遥か先。

 気持ちを切り替えて、ヘルメット団の討伐に向かう。

 

「先生。RABBIT1も降下します。引き続き、全体への指示をお願いします」

「ああ。それと、分かっておると思うが、使用していいのは普段から持ち歩いている銃と、カイザーの武器だけだ」

 

 そして、そんな様子を文字通り高みの見物していたミヤコが動き出す。

 扉間はそれに頷きつつ、何やらおかしな指示を出す。

 

「はい、分かっています。私達は連邦生徒会の指示で動いているわけではありません。今回は、アビドス高校に()()()()遊びに来ただけです」

 

 それに対して、ミヤコは分かっているとばかりに真顔で嘘を吐く。

 

「そうそう。私達は公園で野宿している時に、アビドスの生徒と友達になったからねぇ」

 

 モエがヘラヘラと笑いながら、ミヤコに同意する。

 

「そ、そしたら、ヘルメット団がたまたま暴れてたから……現行犯を見逃すわけにはいかないなぁって」

 

 ミユがヘリの中から、ヘルメット団の指揮を執っていそうなリーダー格を狙撃しながら頷く。

 

「SRT特殊学園の生徒は、正式な指示がなければ動けません……ですが、何事にも例外というものはあります」

「私達も警察組織なんだから、犯行の現場を見たらそれを止める義務があるよね」

「うん。市民の安全を確保するのは義務だから……しょうがないよね」

 

 以前の反省を踏まえて、連邦生徒会役員の権限でSRTを動かせるようになった。

 しかし、だからと言って会長のように鶴の一声で動かせるわけではない。

 ちゃんと申請をしなければならない。

 つまり、時間がかかるのだ。

 

「ああ。これは不慮の事故だ。お前達が()()アビドスに遊びに来た日に、()()ヘルメット団の襲撃を目撃した。そして、()()()武器を持っていたカイザーPMCから()()で武器を借りることが出来たので、戦うことが出来るのだ。うむ、お前達の日頃の行いのおかげだな」

「はい。偶々ですね」

「うんうん。偶然だねぇ」

「運が良かったね、みんな」

 

 でも、現行犯を見たら申請する暇ないよね?

 かー! 本当はちゃんと処理した上で動きたいんだけどなー!

 でも、現行犯を見ちゃったら、動くのは義務だからなぁー!

 仕方ない。本当に仕方ないけど、申請抜きで動くね?

 

「さて、もう少しすればカイザーPMCの兵士が到着するだろう。そうすれば、逆に包囲し返すことが出来る。そこから降伏勧告という逃げ道を作ってやれば、浮足立ったヘルメット団は崩壊するだろう」

「私達はそれまでに出来る限り、混乱を抑えようとする隊長格を討ち取るのが仕事です」

「指揮を執る人間が居ない部隊は簡単に潰れるからねぇ……経験してるから、身に染みて分かるよ」

「最後は、ヘルメット団に紛れて降伏勧告に乗るサクラ役もやらないとね」

 

 ホシノとワカモが暴れ回り、ヘルメット団を混乱に導く。

 そうすると、隊長達は混乱を治めようと前に出て指揮を執り始める。

 そうして、表に出て来た隊長格をラビット小隊が潰していく。

 最後に、統率者が居なくなったヘルメット団に、サクラの仕込みありの降伏勧告をして、降伏する空気を作り出す。

 これが、二代目火影の卑劣な作戦だ。

 

「では、作戦開始だ」

「「「了解(イエス、サー)!」」」

 

 

 

 

 

「何がアビドスだ! 昔はすごかったかもしれないけどよ、今はたったの6人! アビドスなんざ、先の時代の敗北者だろう…!!」

「ハァ…ハァ…敗北者……?」

「乗るな! シロコ先輩! 戻って!」

 

 所変わり、アビドス高校の中を防衛するシロコ、セリカ、アヤネ、ノノミ。

 押し寄せるヘルメット団を何とか防いでいた4人だったが、1人のヘルメット団の挑発にシロコが思わず飛び出しそうになる。

 が、それをセリカが必死に止める。

 

「私達、レッドドッグヘルメット団にも劣る数で、未来もない砂だけの終わった学校を守る。砂遊びのおままごと……お前達の努力なんて空虚じゃないか? 人生空虚じゃないか?」

「黙って! アビドスは私に生きる場所をくれた! 私にアビドスの偉大さを教えてくれた!!」

「シロコ先輩、落ち着いてください!!」

 

 しかし、ヘルメット団の口撃は終わらない。

 数々の喧嘩を通して培われた悪口は、相手の心を激しく波立たせる。

 籠城する相手を挑発して打って出させる作戦なのだ。

 ここ、三国志演義で習ったところだ!

 

「アビドス! アビドス! 敗北者!! 砂山お遊び敗北者!!」

「アビドス最強! 最強校!!」

「シロコちゃん、それ以上は自傷行為にしかならないのでやめましょう!」

 

 必死に言い返すシロコだったが、砂に囲まれ過疎だけが進むアビドスに自慢できることなどない。

 あるとしたら“和”だけである。

 血を吐くように叫ぶシロコの肩を、ノノミが優しく抱きしめる。

 

「ううぅ……」

「ハッハッハ! どうした? 悔しかったら、もっと言い返してみろよ? あれはアビドスと言って、砂遊びをする場所じゃないってな! ま、公園の砂場の方がよっぽど魅力的だけどな、アッハッハッハ!!」

 

 あと一押しで、相手を野戦に誘い出すことが出来る。

 そう確信した、ヘルメット団員が高らかに笑いながら更に煽る。

 

「そうだねー。確かに、砂しかないよね。おじさんも昔はこんな場所の何がいいんだって思ってたよ」

「だろ? ほら、お前も一緒にあいつらを煽ってやろ……」

 

 そして、同意する声に気を良くして振り返り、固まる。

 

「でもね……私達にとっては、かけがえのない故郷なんだよ。他人にどうこう言われる筋合いはないかな」

 

 ポンと、ホシノがヘルメット団員の肩を叩く。

 その後ろには、無数のヘルメット団の屍が広がっていた。

 

「その二束三文でしか売れない、ダサいヘルメットだってそっちに取ったら大切な物なんでしょ?」

「な、な…! 仲間は!?」

「今日はいい天気だからね~。みんなで仲良く、お昼寝でもしてるんじゃないかなぁ?」

 

 ゴリッと、ホシノがショットガンをヘルメットのバイザーの隙間に突き刺す。

 

「ヒッ!? や、やめろ!」

 

 当然、ヘルメット団員は発砲してホシノを引きはがそうとするが、銃弾は全てホシノの体に弾かれる。

 格が違う。生物としての強度が違う。

 そう思わせるような、防ぎ方である。

 

「ば、化け物──」

「じゃ、おやすみ~」

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 くぐもった銃声が響き渡り、ヘルメット団員が力なく崩れ落ちる。

 

「さてと……みんな、無事だった?」

「ホシノ先輩がここまで戻って来たってことは……私達の勝ちってこと!?」

「うん。敵はあらかた片付けたよ。残ってるのは、カイザーに囲まれて大体降伏したみたいだし」

「はー……良かったです」

 

 アビドス高校→ヘルメット団←ホシノ・ワカモが、アビドス高校→←ホシノ・ワカモにzip保存されたのだ。

 アビドスの勝利である。

 

「あら、一歩遅れましたわね」

「ん、ワカモもお疲れ様」

「ワカモちゃん、お怪我はないですか?」

「ええ。()()()()を拾っていたら、遅くなってしまっただけですわ」

 

 少し遅れて、ワカモも到着する。

 その手には、ヘルメット団から略奪した金品が握られていたが、誰もそれを問題視する者はいない。

 ただのアビドスの日常風景である。

 

「みなさん、お久しぶりです」

「おお? ミヤコちゃんか~、SRT特殊学園の復活おめでと~!」

「私達も何かお祝いを贈った方が良いかと思っていたんですが……何も出来ずにすみません」

「気にするな。SRT特殊学園の校則には、賄賂などの温床にならないように、学校として贈り物などは受け取れないと書いてあるからな」

 

 そして、さらに遅れてミヤコとサキが姿を現す。

 その顔はアビドスと以前に会った時とは違う、充実した笑顔が浮かんでいた。

 

「今回の援軍は本当に助かりました」

「そうね。やっぱり、持つべきものは友達ね!」

「ん、秘蔵のお茶菓子を進呈する。ノノミが買ってきた、お高いやつ」

「あら、(わたくし)以外も、兎さんと関わりがあるとは思ってもみませんでした」

 

 集まってわちゃわちゃと会話を行う、子供達。

 つい先程まで、戦闘をしていたとは思えない気の抜けようである。

 どうやら、転がる死体の山(セナ的表現)は眼中にないようだ。

 

「……そうですね、今日は遊びに来たんですし、ご随伴に与るとしましょうか」

「遊びに…? ッ! あ、ああ! そうだったな! よし、モエとミユも呼んでくるとしよう!」

 

 建前を守るべく、シロコの誘いに乗るミヤコ。

 ちょっと忘れかけていたが、ミヤコから軽く小突かれたことで、思い出して話を無理やり合わせる、サキ。

 これが二代目火影の卑劣な教育の賜物だ。

 

「そう言えば、モエとミユはどこにいるの?」

「2人は先生と一緒にヘリに乗っているので……恐らくはまだ先生と一緒に居ると思います」

 

 セリカの疑問に答えつつ、ミヤコは扉間が居るであろう方角を見るのだった。

 

 

 

 

 

「ここが凄い! カイザー軍事学校! 三大アピールポイント!!」

 

 バン! とフリップボードを手にしたPMC理事のプレゼンテーションが始まる。

 それを見せられるヘルメット団は、当然、何言ってんだこいつという顔だ。

 しかし、手足を縛られて、PMCの兵士に取り囲まれているため逃げられない。

 

「第1のアピールポイント。それはズバリ格安の学費だ! 他の学園に比べて半分の値段で衣食住を確保できる!」

「ほぉ、それは凄いな……して、どのようなからくりで学費を安くしておるのだ?」

 

 まるで社長のようにふんぞり返りながら、戦車の残骸の上に座る扉間が理事に質問を投げかける。

 そう、プレゼンとは、身内からの厳しい視線に晒される過酷な戦場なのだ。

 

「なに、これは先行投資だ。この学校は我がカイザーPMCの未来の同僚達を育てる場。優秀な人材の青田買いと思ってもらえればいい。金のことならば心配するな。我々にはそれだけの財力がある」

 

 簡単に言えば、これはプロ野球の育成指名だ。

 安い学費で窓口を広げ、大量に指名することで当たりを引き当てる確率を上げる。

 携帯会社と同じですよ。安いプランで顧客を大量に確保することで、利益を出す。

 

「素人質問で悪いのだが……軍事に不向きな子供が入った場合はどうするのだ? PMCで扱えぬ人材の将来はどうなる?」

「安心したまえ。そうした生徒には、無理にPMCに入って貰うつもりはない。我々はカイザーグループ……PMC、銀行経営、リゾート開発、インフラ開発、コンビニ営業、兵器の販売などなど、このキヴォトスにおいてありとあらゆる分野に進出しているのは、君達も知っているだろう? 軍事に向かぬのなら、そうした職を斡旋するまでのこと」

 

 カイザーグループの強み。

 それは、財閥と言っても差し支えない大企業であるため、系列の企業に幾らでも就職の斡旋が出来るのだ。

 

「そして、それこそが第2のアピールポイント! 就職に圧倒的に有利!」

 

 理事がフリップボードをめくり変える。

 

「君達も不良などをやってはいるが、漠然と思ったことはないかね? このままでいいのかと。将来は大丈夫なのかと。飢えや寒さをしのぐ中で、一度でも思わなかったかね?」

「う……」

「それは……」

 

 大企業の理事の言葉は重い。

 お前の(学)(せき)ねぇから! 状態のヘルメット団達の頭に過去の不安が広がる。

 

「やりたいこともなければ、夢も金もない。そんな人間にこそ、この学校をおすすめする! 何故なら、君達は何も考えずともこの学校に入り、卒業まで漕ぎ着ければ、自分の適性に合った就職先まで手に入るのだからな!」

 

 反対に言えば、自主性というものが手に入らないのだが、そこは言わないお約束だ。

 扉間も、普通の学生ならいざ知らず、人に迷惑をかける不良相手なので黙っている。

 自主性で人を傷つけるぐらいなら、流されるままに生きていた方がマシだ。

 人を傷つける害獣の末路など、クマったことに駆除以外はありえないのだから。

 

「そして第3のアピールポイント! 在学中に給料が出る!」

「給料だと?」

「ああ。予定では、2年生になった段階で、より実践的な指導を実現するために、現場へと派遣することになっている。簡単に言えば、実技研修だ。流石に、正社員と同じだけの給料は出ないが、バイトをするのとそう変わらない金は出せる」

 

 使えるようになったら、さっさと現場に出して仕事をさせる。

 そして、その分の給料からコッソリ天引きして、半額にした分の学費を回収する。

 これがカイザー式錬金術だ。

 

「が、学徒動員……」

「学徒動員? 現実をいち早く知るための指導と呼んでもらおうか。それに、SRTの君達も同じような物だろう? 霞沢(かすみざわ)ミユ君」

 

 扉間の横で聞いていた、ミユが思わずと言った感じで零すが口で大人に勝てる訳がない。

 あっさりと、反例を上げられてしまう。

 

「まあ、私達もそうだし、ヴァルキューレもそう。アリウス学園なんてもろに同じようなことしてるしね。キヴォトスだと学生でも働くのは珍しくないし」

 

 モエも面白くなさそうな顔をしながらではあるが、理事に同意する。

 学校の力が強いキヴォトスでは、学徒動員と言うよりも、もはや生徒が正規兵である。

 そう考えれば、理事の案に後ろ暗い所は見られない。

 

「というわけだ。私は君達を来年から開校する、カイザー軍事学校の第一期生として招きたい」

 

 最後のフリップボードをめくり『共に戦おう!』の文字を出し、話を終える理事。

 その顔には、どこか充実感のようなものが漂っていた。

 恐らく、獄中生活が暇だったせいで仕事が楽しくて仕方がないのだろう。

 

「招きたいって……なぁ」

 

 そんな理事を見つめながら、ヘルメット団が呟く。

 

「私達を縛り上げて」

「兵士で囲んで」

「断ったら、いつでも矯正局送りに出来る状態で」

 

 そして、ここに来て初めてヘルメット連合軍の意志が統一される。

 

 

「そんなこと言われても、うちらへの脅しにしか聞こえないわよ、バカ!」

 

 

 どう見ても脅しじゃん、これ。

 

「クク……人聞きの悪い。選択権も、決定権も、全ては君達に委ねられている。そして、私はただ勧誘をしただけだ。断られても、法に則った()便()()対応をするだけ。むしろ、誘拐しないことに驚いて欲しいものだ」

 

 だが、これは脅しではない。

 不当にアビドスを襲ったヘルメット団が返り討ちに遭っただけ。

 更生のために勧誘はしたが、断られても無理強いはしない。

 ただただ、ヘルメット団が法に則って矯正局送りになるだけである。

 

「それにカイザー軍事学校は、シャーレのトビラマ先生も公認の学校だ。君達も先生のことならば、信じられるのではないかね?」

 

 そして、理事は(とど)めに公的権力の先生を指さす。

 生徒の信頼が厚い扉間の後ろ盾があれば、信用されやすいだろうと。

 

「余計に信用できなくなったわよ!!」

「先生ってあれだろ? メイド服好きの奴。制服がメイド服になりそうだから、やだ」

「でも、ラブ隊長のメイド服なら見てみたいかも……」

 

 が、ダメ。

 かつて流した悪評が足を引っ張る。

 扉間と交流のない子供達がほとんどなせいで、悪評の方が多く広まっているのだ。

 

「大体、そいつはアビドスの親玉だろ!」

「あんたらカイザーに雇われてた時から、ずっと敵対してるしな!」

「ほんのちょっとカツアゲしたぐらいで……血も涙もねぇ!」

 

 後、最初期からヘルメット団と敵対をし続けているので、むしろ交流のある生徒の方が扉間を敵視している。

 終わらぬ憎しみの連鎖……やはり無限月読しかないか…!

 

「……ずいぶんと嫌われたものだな、先生」

「ふぅ……少々、やりすぎたかもしれんな」

 

 これには、流石の扉間も反省。

 もっと、生かさず殺さずの塩梅で搾り取るべきだった。

 

「まあ、今はいいんじゃない? どうせ、開校は来年からなんだしさ。それまで矯正局でしごかれてれば、提案を飲みやすくもなるでしょ」

「ブタ箱…臭い飯…でも、屋根があって食事がちゃんと出るから、前の私達よりマシだよね」

 

 そんな様子を見ながら、モエとミユが呆れたように呟く。

 モエはちょっと怪しいが、元々が秩序側の人間。

 しかも、極貧生活を経験済みなので、矯正局とか罰でもないだろうと思っているのだ。

 

「まあ、矯正局からでもワカモのように後から取引は可能だ。カヤにも伝えておこう」

「……仕方がない。君達には一先ず矯正局に行ってもらうとしよう。何、刑務所生活もそう悪いものではない。規則正しい生活を送って健康になれる。かくいう私も、今回の健康診断で久しぶりに悪くない結果が出たからね」

 

 経験者は語る。

 しばらく、収容されていた経験のある理事が懐かしそうに呟く。

 

「だが……娑婆の空気の美味さは格別だ。君達もそれをすぐに実感できるようになるだろう」

 

 フリップボードを放り投げ、演説に切り替える理事。

 その迫力は、人生の酸いも甘いも知る者特有の重みがあった。

 

「今の君達はどん底だ。学もなければ金もない。力も僅か。だが、生きている。地獄の中から這い上がるための手足が残っている。私が蜘蛛の糸を垂らしてやろう。それはか細く、脆い糸だ。しかし、確実に天国へと繋がっている」

 

 それは扉間に脅されている人間の言葉ではなく、純粋な理事自身の言葉。

 カイザーグループと言う巨大な企業の中で、身一つで出世して来た男のハングリー精神。

 

「私のことが嫌いだと言うのなら、蹴落とせばいい。我々はカイザーグループ。能力ではなく結果を重視する。下剋上上等だ。故に告げよう。君達が飼いならされた犬ではなく、まだ、牙を持つ狼だと言うのなら──」

 

 生きているのならば、何度でも立ち上がれる。何度でもリトライできる。

 ただのリトライじゃねぇ。ド級のドリトライだ!

 

 

「──我が校の扉を叩きに来るといい。それが友好の証であろうと反逆であろうと、私は君達を歓迎する」

 

 

 扉間の時と違い、ヘルメット団達から反論の声は上がらなかった。

 それは理事の偽らざる本音であったがためだ。

 

「……牢屋の中で静かに考えてみるといい。なに、あそこには娯楽はないが時間ならいくらでもある」

 

 その言葉を最後に、PMC兵士達がヘルメット団達を連れていく。

 

「フ、中々の演説だったな」

「利で動かない愚か者には、感情で動かす。どこかの()()から学んでな」

「そうか。その大人には存分に感謝するのだな、()()

 

 そんな様子を横目に見ながら、扉間と理事は皮肉気な会話を繰り広げる。

 

「ねぇ、先生。本当にカイザーなんて信用して大丈夫なの? タコ墨みたいに真っ黒でしょ」

「……イカ墨と違って基本は食べるものじゃないから、黒いだけで役に立たないよね」

 

 カイザーグループをコンプライアンス重視の企業に生まれ変わらせる代わりに、出所させる。

 その契約が結ばれているものの、成果重視のカイザーグループだ。

 アンケートを取るだけで、中身は改善しないとかやりそうなので、信用できたものではない。

 

「失敬な。この目を見てみたまえ。この曇り一つない磨きあがった目を!」

「ごめん。ロボットの目の違いとか良く分かんないや」

 

 モエとミユの当然の疑問に対して、理事は身の潔白を証明するべく、機械の目を物理的に光らせる。

 器用なものである。

 

「そう、案ずるな、モエ。時には人を信じることも必要だ」

「ふっふっふ、そう言うわけだ。私の信用は先生が保証してくれているのだ」

「だから信用できないんですけど……」

 

 扉間のことは信頼しているが、信用していない。

 ミユの毒舌が容赦なく、2人のおっさんに襲い掛かる。

 

「だが、まあ……お前達が懸念する理由も分かる」

 

 扉間は小さく呟き、一枚の紙をワザとらしく地面に落とす。

 それには何かの文字列が並んでいた。

 

「おや、先生。何かのメモかね? 落とした…ぞ……」

 

 そして、釣られてそのメモに視線を落とした理事が固まる。

 

「む、すまんな。危うく()()()()()()()()を無くすところであった。感謝する」

 

 メモに書かれているのはパスワード。

 コユキにお小遣いと引き換えに、パスワードが分からなくなったので教えてと頼んだものである。

 

「そ、その、パスワードは()()()()……」

「おっと、今度はパソコンのパスワードが落ちそうになってしまったな! いやはや、パスワードの重要性は分かるが、こうもたくさんあると老人には覚えておるのがキツイのう、ガッハッハッハ!」

 

 まるでデュエリストのように、ワザとらしくメモ用紙を手に持って笑う扉間。

 因みに、初めに落としたメモ以外は全て白紙である。

 だが、相手からすればそのブラフを知る術はない。

 全てのパスワードを抜かれているように感じてしまう。

 

「便利な世の中になったが、パスワードが分かれば本人でなくとも、大切な情報を覗けるのは昔と変わらんからな。取り扱いには気をつけんとな。そうでなければ……()()()()1()()()()()()()()()

 

 グシャリとメモを握り潰し、ポケットにしまい込む扉間。

 理事はその光景に、自身が裏切った場合の未来を見る。

 握り潰されて、誰にも見えないように捨てられる。

 それが裏切り者の末路だ。

 

「まあ、何はともあれだ。これからの貴様の行動には……期待しておるぞ?」

「……ああ」

 

 こうして、ヘルメット団のアビドス侵攻は終わりを迎えるのだった。

 




スバルガチャの結果。200連分。
水着ユカリ、水着キキョウ、以上。
……どうやら、作者のブルアカはアロナに夏まで時を巻き戻されているみたいですね。

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