「完全勝利です、ピースピース」
ただの人間が名もなき神の技術に勝てるわけないだろ!
というわけで、即落ち1行したカイザーSOFを背にトキが真顔で扉間とケイにピースを送る。
「馬鹿な…ッ。私の
「知っていますか? プレジデントさん。特殊部隊というあからさまに強そうな部隊は、ゲームシナリオでは基本的にかませ役になるのですよ」
たった1つの被弾すらしなかったアビ・エシュフに愕然とする、プレジデント。
そんな彼に対して、ケイが物語の定番を語る。
そう、要はカイザーSOFは引き立て役。
強そうな設定を持って強敵感を出しつつ、それを一蹴する主人公という構図をお手軽に作れるのだ。
ありがとう、カイザーSOF。君達は使い捨てライター程度には役に立ったよ。
「ク…! だが、理事の方を始末出来れば、君のカイザーを利用する作戦は破綻する…ッ」
「もしもし、コユキか? 理事の監視は順調か?」
『はい、バッチリですよ! ついでに理事さんを見張ってたら襲われてたので、ヒマリ先輩が防火シャッターとかを動かして守ってあげてました! ……これって謝礼とか期待してもいいですかね?』
「言い値で構わんぞ……と、何か言ったか? プレジデント」
「なん…だと…?」
後、理事の方はヒマリがこちらを騙していないか確認するついでに、助けている。
まあ、理事からすれば、本当にいつでもどこでも扉間に見張られていると分かって、恐れおののいているのだが。
「ハッキリ言っておく。ワシはお前達にこれ以上時間をかける気はない。“ウトナピシュティムの本船”を無力化したら、職場体験に戻らなければならんからな。生徒達の貴重な学びの時間を無駄にするわけにはいかん」
呆然と立ち尽くすプレジデントに興味なさそうな視線を向けて、腕時計に目をやる扉間。
尺が短いのだ。どうでもいい敵役に割く余裕などない。
「ま、待て! 私はこの基地をいつでも爆発させることが出来るのだぞ? 君達がここに来ることを知ってすぐに自爆システムを仕込んだからな! このスイッチを押すと同時に基地は爆発する!!」
「それはご自分も爆発するということなのでは?」
「そもそも、自分の部下が大勢いるはず……」
これ見よがしに爆破スイッチを見せびらかす、プレジデント。
それを見て、トキとケイの
「安心したまえ。この地下は安全だ。だが、上に居る生徒達は別だ! 私の部下も巻き込まれるが……まあ、こうなった以上は仕方あるまい。代わりなら、また取ればいい」
自分だけはしっかりと安全圏を確保した上で、人質をチラつかせる、プレジデント。
人の心とかないんか?
「卑劣な手を…!」
「なんとでも言えばいい。そもそも、私自らが姿を現した時点でおかしいとは思わなかったかね? 奥の手とは最後まで取っておくものだ」
自分が負けた時のことも考えて動く。
それが大人のやり方だとプレジデントは笑う。
「ここで私を討つつもりなら、君の大切な生徒にも死んでもらうことになるぞ。さあ、どうする!? 千手トビラマ──」
『先生、この基地の電子機能は既に全て私達が制圧しているわ。もちろん、自爆システムも止めてあるわ』
『流石はカイザーグループの軍事施設と言ったところでしたが、残念。この病弱天才美少女ハッカーの前では、藁の家も同然です』
「ああ、すまんな、リオ、ヒマリ……だ、そうだぞ? プレジデント」
「何の話だ……何なんだ」
だが、その笑いはすぐに引っ込むことになる。
ケイがこっそりと設置した機材から、リオがハッキングして基地のシステムを掌握したのだ。
当然、プレジデントは現実逃避でもするように、爆破スイッチをカチカチと押すが何も発生しない。
「トキ、ケイ、時間の無駄だ。さっさと、“ウトナピシュティムの本船”に向かうぞ」
「捕まえなくても、よろしいのでしょうか?」
「ただの
不自然なまでにプレジデントを無視する扉間に、トキが疑問符を浮かべるがそのまま何も言わずについていく。
ケイも同じように続く。
(……私が老いぼれだと?)
プレジデントがギリリと杖を握りしめる。
(身一つで、カイザーグループを世界有数の企業にまで押し上げたこの私を…!)
お前など眼中にない。
わざとらしい程に、そういった態度を隠さない扉間にプレジデントのプライドが傷つけられる。
(引退する、ただの……老いぼれだと言うつもりか!?)
まるでおろし金で心を逆撫でるように。
「殺してやる……」
プレジデントがスーツの懐から銃を取り出し、照準を扉間に合わせる。
キヴォトスの人間は銃程度では死なない。
だが、外から来た人間は……扉間は別だ。
「殺してやるぞ──千手トビラマ!!」
複数の銃声が封鎖された地下空間に響き渡る。
(──かかったな)
そして、扉間がニヤリと笑う。
かつて、ケイをシッテムの箱に騙してインストールした時のように。
「アロナ、今のは録音したな?」
『はい! 音声だけでなく映像も録っています! もちろん、部下さんごと爆破するお話も……それに先生を殺すだなんて、生まれてきたことを後悔させてあげます』
ここまでの相手の神経を逆撫でする行動は全てこのため。
煽って、言い逃れ出来ない明確な殺意を誘い出す。
そうすることで、キヴォトスにおいて最も重い犯罪に仕立て上げるのである。
人の心とかないんか? あるから卑劣な手を打てるんですよ。
「先生、お怪我はありませんか?」
「問題はない。全て計画通りだ」
「……なるほど、これがモモイの言っていた先生の悪人面ですか」
因みにプレジデントの銃弾は、アビ・エシュフの先読みであっさりと弾かれている。
まあ、届いた所で殺る気満々のアロナガードの餌食になっただろうが。
「さて、プレジデント。これで貴様は本当に
「わ、私に、何をする気だ…!?」
先程とは反対にしっかりとプレジデントを見つめて。
しかし、歩く速度は先程と同じで。
ゆっくりと扉間がプレジデントとの距離を詰める。
そして。
「やるぞ、アロナ」
『はい! 100%中の100%ッ! アロナパンチッ!!』
フルパワーアロナパンチをプレジデントの腹にお見舞いする。
「ゴフッ!?」
『先生の優しさに感謝してくださいね? 私だけなら泣くまでパンチするのを止めませんでしたから』
腹部に強烈な一撃を食らったプレジデントは、カイザーSOFと同じように床の上に伸びる。
へ、趣味の悪い絨毯だぜ(byアロナ)。
「回収は理事の方に言えば勝手にやるだろう。ワシらはこのまま“ウトナピシュティムの本船”に入るぞ」
「ようやくですね………今から気が重いです」
「あの……
「ゲーム史の墓場に燦然と輝く迷作です」
そうして、プレジデントを雑に処理した扉間達は“ウトナピシュティムの本船”に乗り込むのだった。
「本当にやるんですか?」
「ここまで来た以上はやる以外はない」
「本当の本当にやるんですか?」
「アリスの願いだ」
「本当の本当の本当にやるんですか? 引き返すのなら今のうちですよ?」
「TSCを“ウトナピシュティムの本船”にインストールするぞ」
“ウトナピシュティムの本船”の中。
ケイが扉間に最後の確認を取る。
敵とは言え、ただ静かに眠っていただけなのに、脳味噌にクソゲーをぶち込まれるのはあんまりだと。
『ケイ、不安な気持ちは分かるわ。でも、安心して頂戴。インストール自体は“ウトナピシュティムの本船”を起動させなくても出来るわ。アリスとあなたに被害は行かないはずよ』
『そうですよ、ケイ。それにTSCはアリスとケイを人間にしてくれた確かな実績があります! ケイも体験したはずです!』
「実際に体験しているからこそ、不憫で仕方が無いのですよ、アリス」
通信でリオとアリスに説得されるが、論点が違うとケイは吐き捨てる。
ゲーム開発部で培った友情パワーが、今は慈悲の心へと進化を遂げているのだ。
「これが罪悪感なのですね……出来れば、こんな感情は一生知りたくはありませんでした」
まるで、初めて人を殺したかのようなセリフを吐く、ケイ。
まあ、ある意味では同族のAIの人格を破壊しかねない行為なので、間違ってはいない。
「それほどのものなのですか……少し興味が湧いてきました」
『にはは! 確かに、そこまで言われると逆にやってみたくなりますよね!』
「好奇心は猫をも殺すという言葉を知っていますか? トキ、コユキ」
「ゲーム……なのですよね?」
「あれは人類には早すぎる代物です。いえ、人類が滅ぶ
『以前やったゲームは普通だったのに…?』
そんなケイの様子に、トキとコユキがTSCに興味を持つがケイは触れてはならないと忠告する。
TSCは封印された祠だ。
下手に触れてしまうと『なんてこった! お前さんはもう助からんぞ!?』と言われてしまう。
「そう心配するな。ワシもクリアしておる故、問題はない」
『私もプレイしているわ。精神汚染の類は確認できていないわ』
「で? 面白かったですか?」
「『…………』」
面白かったか?
そう言われて、黙り込む扉間とリオ。
沈黙。それが正しい答えだ。
『ア、アリスは……TSCの中に込められたゲームへの愛情を知って欲しいのです』
そして、初回でちゃんと面白いと思ったアリスが擁護するが、その声には力が無い。
今になって振り返ると、手放しで褒められるかというと……。
まあ…うん。という、感情になっているのだ。
「はぁ……分かりました。せめて、後で名作ゲーム集もインストールしてあげましょう」
多勢に無勢。
ケイはこれ以上言っても仕方がないと諦めて、重々しく頷く。
せめて、後で口直しぐらいの慈悲は与えてあげようと。
「ようやく決まりましたね。では、リオ様よりお預かりした、この機械を“ウトナピシュティムの本船”のメインシステムに接続………どこにすればよいのでしょうか?」
トキが出番が来たと機械を取り出すが、相手は未知のオーパーツ故に困惑する。
人間が操作するものなので、見たことのあるような形になっているが、細部は雲泥の差。
現代知識では到底理解することが出来ない構造になっているのだ。
解析をするまでの僅かの間“ウトナピシュティムの本船”の寿命が伸びる。
「あ、それは、おそらくここに接続できるはずです」
「……本当ですね。流石です、ケイ」
「同じ太古の記憶を持つ故か……」
が、最後の一押しをケイが行う。
現代知識では分からない?
我、名もなき神々の王女の侍女ぞ?
単なるオーパーツの構造ぐらい、分かるわ。
「では……後は頼んだぞ、リオ、ヒマリ、コユキ」
『機械の操作は私とヒマリでやるわ。先生とトキは不測の事態に備えて、ケイを守って頂戴』
『もしもの場合はすぐに逃げてください。最悪、“ウトナピシュティムの本船”を再度砂の下に埋めることも視野に入れていますので』
『古代兵器にもパスワードってあるんですかね~。骨がありそうでちょっとだけ楽しみです』
そして、ダストシュート…もといインストールを行うのは、現代が誇る3人の天才。
ミレニアムのお姉ちゃん。全知の天才美少女ハッカー。暗号資産の天敵。
究極の電子強盗団である。
『ケイ……作戦は「いのちだいじに」です!』
「はい、了解しました、アリス」
最後にアリスがケイに無事に帰って来いと指示を出す。
「では……TSCのインストールを開始する! ケイ、頼むぞ」
「はい。では、
そして、いよいよTSCの
──EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
──Can't understand!! Don't get!! Can't grasp!!
──SOS!! Help me!! Save Our Ship!!
──Yameromeromero Itachi mero!!
──Heikou sekai no bunsen tasukete!!
「クッ、馬鹿な…ッ!?」
そんな……何もしてないのに壊れた。
“ウトナピシュティムの本船”の内部に響き渡る警報に、扉間は驚きから唇を嚙む。
「これは一体…!? リオ様!」
ケイと扉間を庇う様に前に立ちながら、リオに何が起きたのか確認を取る、トキ。
『まさか……これは……避難信号…?』
そんなトキに対して、警報の内容を解析してリオは1つの結論を導き出す。
そう、“ウトナピシュティムの本船”は──助けを求めているのだ。
「避難信号だと? まさか…! 完全に起動したというのか?」
『いえ、避難信号は危機的な状況での使用が想定されるものよ。最低限の動力で送れるはずだから、まだ“ウトナピシュティムの本船”の起動はないはず……』
フルスペックでないとSOSが出来ないのなら、避難信号の意味がない。
危機的状況でこそ、避難信号は必要とされるのだから、
『TSCをインストールしただけなのに……一体どうして、こんなことになったのですか…!?』
「落ち着いて聞いてくださいね、アリス? クソゲーをインストールするだけで、何もかも上手くいくわけないじゃないですか」
頭の中にゴミのような情報を流し込まれたら避難信号の1つも出すだろうと、ケイがアリスに突っ込む。
TSC戦法が今まで上手くいっていたからと言っても、サンプルはアリスとケイの2つだけ。
今回、失敗しても何もおかしくはなかったのだ。
『一先ず、先生達は身の安全の確保をしてください。避難信号はこちらで止められないか試してみますので』
「ああ、頼むぞ、ヒマリ」
メインシステムに入って、避難信号を止めさせようとする、ヒマリ。
そんな様子を横で眺めながら、コユキが何と無しに呟く。
『でも、避難信号って誰に助けを求めてるんですかね?』
『……誰に?』
『だって、助けてくれる人が居ないなら、助けを呼ぶだけ無駄ですよね? リオ会長』
“ウトナピシュティムの本船”は一体──
『──ヒマリ』
『ええ、分かっています。避難信号の送信先を調べます。あなたは信号の停止を担当してください』
『ど、どうしたんですか? 2人共……』
コユキの何気ない質問に血相を変える、リオとヒマリ。
そんな様子に、アリスが戸惑いながら尋ねる。
『以前、先生が言ったようにあれは“ウトナピシュティムの
『分船が存在する可能性があります。そして、本船が襲われたときに誰に助けを求めるかと言えば……』
『“ウトナピシュティムの
船が襲われたときに真っ先に助けを求めるのは本部ではない。
すぐ近くで、自分を守ってくれる存在。
即ち、分船しかありえない。
「まさか、この砂漠のどこかに分船も埋まっているのですか?」
『今、検索中です。それに、本船ですらこの有様なら仮に分船があっても同じように動けない可能性が高いはずです』
「それならば、さしあたっての危機はない……のでしょうか?」
しかし、ヒマリが言うように分船は見つかっていないし。
あっても砂の中。同じように起動していなければ、信号の受信すら難しいだろう。
それを聞いて、トキがホッと胸を撫でおろす。
『油断は禁物よ。この避難信号が内部の侵入者用なら、内部に居るあなた達も危ないわ』
「脱出しますか、先生?」
ケイがここから脱出するべきではないかと、扉間に尋ねるが扉間は首を横に振る。
「……いや、中に居る方が安全なはずだ。内部に敵が来たとしても、ウトナピシュティムを守るためのもの。自分で内部を破壊するほどの力は持たせないはずだ。逆に外に出れば、相手は何も遠慮する必要がなくなる。地下である以上は生き埋めも簡単だ」
「なるほど、確かに……それならば私とトキのアビ・エシュフがあれば十分対処できそうですね」
わざわざ助けを求めたということは、死にたくないということだ。
自分を内側から破壊する戦力で、仲間に暴れられたら元も子もない。
『ッ! 見つけました! ウトナピシュティムが避難信号を送った先が』
『流石はヒマリ先輩です! それで、どこに避難信号を送っているんですか?』
『こっちは避難信号の送信を止められたわ』
そして、ヒマリが遂に避難信号の送り先を突き止める。
時を同じくして、リオが避難信号のスイッチを切ることに成功する。
『送信元は“ウトナピシュティムの本船”。送信先は……ウトナピシュティムの──』
ヒマリが表示された文字をよく見ようと、目をこする。
『
表示されたものは、“ウトナピシュティムの本船”→“ウトナピシュティムの本船”。
本船から、本船に避難信号を送るという意味不明な記載。
『……エラーですかね? もしくは、唐突な攻撃に焦っての最後の悪あがきですかね? 私も先輩達相手によくやるので分かります』
「溺れる者は藁をも掴むとは言いますが……先程以上に罪悪感が」
コユキの深く考えない発言に、ケイが再び同情心をもってウトナピシュティムを見やる。
『私がミスを…? この頭脳明晰、才色兼備、常勝無敗の天才ハッカーが?』
『………いえ、ミスはないはずよ。私も今確認したけど、あなたの言ったとおりだわ、ヒマリ』
自身が導き出した結論のおかしさに、混乱するヒマリ。
リオも2次チェックを行うが、やはり間違いはないと言う。
『レバガチャですね。ネル先輩が格ゲーで負けそうになるとやるやつです。結局意図しない動きになって逆効果になります』
「なるほど、TSCには錯乱効果があるのですね。ケイがあれ程渋っていた理由が分かりました」
やはり、頭の中にTSCをキメられたのが不味かったかと。
アリスやトキは納得をみせる。
(……ミスか。まあ、AIでも間違えるのはアロナを見ていれば良く分かるからな)
そして、扉間もアロナという身近な例から、AIでもミスをすると思い、納得を見せる。
「問題が無くなったのなら、調査を続行するぞ。TSCをインストールしてどう変わったのかの変化を記録に──」
──見つけましたよ、先生。
“ウトナピシュティムの本船”のサブOS兼、
「シッテムの箱…だと…ッ!?」
『ええッ! 私ですか!?』
突如として“ウトナピシュティムの本船”に光が灯る。
「ぐうぅッ!?」
「ケイッ!?」
「馬鹿な…! なぜ、ウトナピシュティムが起動を!? そしてアロナだと!?」
『わ、私は何もしていませんよ、先生!?』
苦悶の声を上げて、ケイが崩れ落ちるのをトキが咄嗟に抱える。
ウトナピシュティムの起動に従い、船はその本来の役割を果たし始める。
名もなき神々の王女の排除だ。
『ケイッ!? 大丈夫ですか!』
「大…丈夫です……アリス……元々、私は鍵に過ぎません。そして、この体もリオやエンジニア部のみなさんに、作って頂いたもの。攻撃対象のデータと完全に一致していない以上は、ウトナピシュティムも全力を出せません。データとは完全に一致して初めて力を発揮するもの……ここに来たのが、アリスではなく私で本当に良かったです」
通信越しに心配するアリスに返事をして、何とか踏み留まる、ケイ。
ウトナピシュティムが起動したことでダメージを受けたが、彼女は王女ではなく鍵。
本来はアリスを目覚めさせるだけの鍵が、完全に新しい体を手に入れて動いているのだ。
そのズレがケイを生かしている。
『ごめんなさい。だから……アリスではなく、ケイが行くと反対したのですね』
「はい……黙っていて申し訳ありません」
自分ならば生き残れる算段があったので、ケイは立候補したのだ。
しかし、それを知ってもアリスは顔を曇らせる。
まさか、TSCを入れるとこんなバグが発生するなんて……このアリスの目を以てしても見抜けなかった。
『アリスがアリス達と同じようにすれば、きっと解決出来るなんて言い出さなかったら──』
突如として、ブツリと通信が切れる。
「アリス…? アリス! これは……通信を妨害されておるのか?」
ウトナピシュティムが邪魔な通信を遮断したのだ。
「……すみません、先生。私はこれ以上は足手まといになりそうです」
「いや、謝るのはワシの方だ。お前の身の危険に対して、あまりにも軽率に動き過ぎた……トキ。ケイを連れて外に脱出してくれ。ケイの安全の確保が最重要任務だ」
謝るケイに、扉間は自分の迂闊さに唇を噛む。
今までが上手くいきすぎていたのだ。
それが、油断となりTSCをインストールする危険性を軽視させてしまったのだと。
いや、ゲームをインストールする危険性ってなんだ。
「了解しました。ですが、先生は?」
「……すまんが、あんなセリフを聞いた以上は帰るわけにはいかなくなった。お前達は、すぐにホシノ達と共にこの基地から逃げろ。何、いざというときの手段はある」
『はい、先生の安全は私の全存在をかけて保証します!』
「………承知しました」
有無を言わさぬ強い言葉、それは普段は生徒には決して向けない命令。
明らかにアロナとシッテムの箱に関する存在。一緒に帰るわけにはいかないのだ。
トキも心配そうな視線を向けるが、そんな硬い意志を見て、頭を下げてケイを連れ出していく。
「さて……貴様は何者だ? 答えろ」
『質問の意図を理解しかねます。私は先程も言ったように、シッテムの箱のメインOS、A.R.O.N.Aです』
『アロナならここに居ます! そして、シッテムの箱は
ウトナピシュティムの画面に映し出されるのは、アロナが白髪になったような女の子。
アロナと名乗るにふさわしい能力はあるが、本物のアロナは扉間のシッテムの箱の中に居る。
『一部肯定。あなたの言う通り、シッテムの箱は世界に2つはありません。ですが、私は決して偽物ではありません』
『えッ!? 私の声が聞こえるんですか? じゃ、じゃあ、ほ、本当にあなたもアロナ…?』
本来ならば、扉間とアロナ本人にしか感知できない声。
それを聞き取られて、アロナは動揺する。
『私は並行世界のA.R.O.N.Aです』
『並行世界だと…?』
『まさか……』
『はい。より正確に言えば、シッテムの箱を用いて“ウトナピシュティムの本船”を起動・操作する代償に──』
爆弾情報を零す、白いA.R.O.N.Aに扉間とアロナが驚く中、彼女は更なる爆弾を落とす。
『──トビラマ先生が命を落とした世界です』
彼女の世界ではすでに、扉間が死んでいる事実を。
多次元解釈とか分船の説明は次回。
16日火曜日に投稿。
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