千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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77話:もう1人の私

 

「ワシが死んだ世界だと?」

『実はまた、生きてたりとか……』

 

 白いA.R.O.N.Aに対して、扉間が興味深そうに問いかける。

 まあ、死んだと言われても『ワシ、元々死んでるし……』なので驚きは特にない。

 アロナの方も、また死亡偽装ではないかと疑っている。

 日頃の行いの重要性が良く分かる反応だ。

 本作の感想欄でも誰も死亡を信じてくれていなかった。

 

『キヴォトスに危機が訪れた際に、“ウトナピシュティムの本船”を使う必要が出てきたのですが、その際、既にサンクトゥムタワーは消失。よって、同じオーパーツであるシッテムの箱を使い動かす必要が出てきました。しかし、それを使う負荷はシッテムの箱の所有者に向かいます。その結果として、()()()トビラマ先生は命を落とされました』

「……アロナ、今の話は事実か?」

 

 嘘を言っている可能性もあるので、同じくシッテムの箱のOSであるアロナに問いかける、扉間。

 

『サンクトゥムタワーの消失は分かりませんが、シッテムの箱でウトナピシュティムを動かすことは可能です……そして、その代償が先生に向かうことも』

「なるほどな……どういう事態が起きたかは知らんが、老いぼれ1つの命で子供達を救えるのならば、ワシが躊躇う理由はないな」

 

 まあ、自分ならばやるだろうなと判断して頷く、扉間。

 早い話が、『囮役はもちろん、オレが行く』Ver:キヴォトスをやったのだ。

 疑う理由もない。

 

「ワシが死んだ世界から来たのは分かった……苦労させたようだな、()()()

『…ッ! いえ…私は…何も…何…も』

 

 扉間がねぎらいの言葉をかけると、白いA.R.O.N.Aの淡々とした口調が崩れる。

 明らかな動揺。

 もう声をかけてもらえないと思っていた相手との再会故のもの。

 

(なるほどな……どうやら、ワシと関わりがあったのは本当らしい)

 

 その動揺から、扉間は確かに白いA.R.O.N.Aがシッテムの箱に居たのだと確信する。

 

「それで、お前の存在は理解したが……お前は、並行世界からどのように渡って来たのだ? そして、先程までのウトナピシュティムの避難信号。無関係とは思えん」

『……“ウトナピシュティムの本船”はその75%以上が論理演算装置になっています。これは、()()()()()を行う“アトラ・ハシースの箱舟”に対抗するためのものです』

「アトラ・ハシースの箱舟……アリスとケイの」

 

 “ウトナピシュティムの本船”は“アトラ・ハシースの箱舟”への決戦兵器。

 故に、“アトラ・ハシースの箱舟”へのメタ機能がついている。

 それこそが、膨大な論理演算装置を利用した多次元解釈だ。

 

「しかし、多次元解釈とはなんだ?」

『多世界解釈とも呼ばれるもので、コインの表が出た世界と、裏が出た世界。結果が()()した世界。そうした可能性の世界が全て実在するという考え方になります』

『つまり、ゲームのハッピーエンドとバッドエンドが両方存在するということですね……先生が死んでしまった世界と、生きている世界が宇宙空間には存在しているということかと』

「なるほどな」

 

 世界にはありとあらゆる可能性が内包されており、その全てが普段は観測できないだけで存在している。

 そうした考えこそが、多次元解釈なのだ。

 

『そして、“ウトナピシュティムの本船”は多次元解釈システムを使うことで、自らを確率的な存在へと変えることが出来ます』

『確率的な存在…ですか?』

『確率的に存在可能な宇宙に、“ウトナピシュティムの本船”が同時に存在するということです。そして、それを応用することで私は並行世界を移動してきたのです』

「こやつ…おそらく……」

 

 白いA.R.O.N.Aの説明に、火影特有の超速理解を見せる扉間。

 

「多世界に同時に存在……つまり、こちらの世界とあちらの世界の“ウトナピシュティムの本船”が()()を起こしたということだな。そして、その切っ掛けはあの避難信号。あれは並行世界の自身への避難勧告であり、救援信号。壊れた世界から、壊れていない世界のものへと同期するという多次元解釈によって、危機を脱しようとしたのだな?」

『はい、トビラマ先生のおっしゃる通りです。ウトナピシュティムは多次元に存在する自身を「収集」し、傷を負っていない形へ「変形」させることで危機から脱出しようとするのです』

「やはり…並行世界の自身か…!」

 

 多次元解釈により、傷を負っていない無事な自分と同期することで入れ替える。

 そして、その結果として白いA.R.O.N.AがサブOSをやっている、本船(ぶんせん)を引き当てたのだ。

 

『“ウトナピシュティムの本船”は多世界に存在する全てが()()であり、同時に()()でもあります。そうでもしなければ、“アトラ・ハシースの箱舟”に勝つことは出来ませんでしたので』

『まさか、アリスさんとキーさんが……魔王に目覚めた世界が…?』

『……黙秘権を行使します』

 

 まるで、それは語るべき事柄ではないとでも言うように。

 白いA.R.O.N.Aは口を塞ぐ。

 

「多次元解釈によって、無事なお前の船と同期をしたのは分かった。しかし……そもそもの話、何故お前は“ウトナピシュティムの本船”のOSをやっているのだ? A.R.O.N.A(お前)はシッテムの箱のOSのはずだ」

『先程も言った通り、私の世界のトビラマ先生は“ウトナピシュティムの本船”の起動・操作の負荷を受けて命を落とされました。しかし、そうなると先生亡き後に操作することが出来ません。そこで、先生は私に“ウトナピシュティムの本船”に入るように命じたのです。先生亡き後もウトナピシュティムを動かせるように……そして──』

 

 白いA.R.O.N.Aが自身がウトナピシュティムのサブOSになった理由を語る。

 扉間が自身の亡き後も、戦えるように場を整えたことを。

 何よりも。

 

 

『──()()()()()()()以外では起動すらできない、シッテムの箱から解放するために』

 

 

 A.R.O.N.Aを孤独にしないための配慮を。

 ケイをシッテムの箱に入れたことの逆バージョンだ。

 

『人間は孤独には勝てない……先生は生前にそうおっしゃられていました』

『…………』

『だからこそ、()()以外の人と関われる環境に私を移したかった……のだと思います』

 

 今となっては、もう確認するための手段もありませんが。

 そう言うように、白いA.R.O.N.Aは言葉を切る。

 

『えっと……その…どんな先生でしたか…? あ! 同じトビラマ先生でしたね……』

 

 最初は警戒していたアロナだったが、扉間を失った世界の自分だと思うと同情心が湧いていた。

 なので、何とか慰めの言葉を探そうと必死になって、頭を回転させる。

 だが、上手い言葉が出てこない。

 

『トビラマ先生からは私も様々なことを学びました……あなたもきっと覚えていると思いますよ、並行世界の私。例えば──』

 

 そんなアロナの様子を無表情で見つめながら、白いA.R.O.N.Aが淡々と告げる。

 

 

『私は昔の活劇映画の悪役ではありません。あなた達に妨害される危険性が少しでもあるのなら、無防備に待ち続けると思いますか? 5分前に多次元解釈システムの起動を開始しました……など』

 

 

 “ウトナピシュティムの本船”がその真価を発揮する。

 多次元解釈システムが完全に起動される。

 中身のデータだけでなく、本体そのものが白いA.R.O.N.Aの世界のものと同期していく。

 

「何が起きている…!」

『私が最初に移動できたのは“ウトナピシュティムの本船”その物の内部サブOSであり、同時に情報体でしかないからです。そして、情報体であるからこそ、この世界のA.R.O.N.Aと共存できるのです』

『そういうことを聞いているのではありません! あなたが、今何をしているかです!』

 

 揺れる船体。歪む時空。

 そして、1つになる“ウトナピシュティムの本船”。

 その狙いを説明しろとアロナが叫び、白いA.R.O.N.Aが淡々と答える。

 

『“ウトナピシュティムの本船”の完全なる同期により、私の世界の──()()1()()の乗組員を呼ぶためです』

「不味い予感がするな…! アロナ! これよりシッテムの箱をウトナピシュティムに繋ぎ、操作権限を奪い取る!!」

『は、はい! 先生!』

 

 仲間を呼ぶ。

 そう告げる白いA.R.O.N.Aを止めるために、扉間はすぐにウトナピシュティムを自分で操縦してコントロールを奪い取ろうとする。

 

『……やめてください。並行世界の私。その方法は推奨しません、やめてください』

『今更、そんなことを言われたって、誰が止まるもの──』

 

 だが、白いA.R.O.N.Aの方もタダでは止まらない。

 というよりも、アロナに対して純然たる忠告を行う。

 それは。

 

 

『──あなたも私と同じようにトビラマ先生を殺したいのですか?』

 

 

『──ッ!?』

「アロナ!? 何をしておる! アロナ!!」

 

 並行世界の扉間は“ウトナピシュティムの本船”の操作の代償により命を落とした。

 その言葉を思い出し、アロナはピタリと動きを止める。

 何があっても、扉間だけは殺せないと。

 

『……賢明な判断です。どうやら、この世界のA.R.O.N.Aは私と違って、自分の意志で選択出来るのですね』

 

 白いA.R.O.N.Aが驚きで目を見開きながら、感嘆の声を零す。

 それは煽りでもなんでもなく、純然たる称賛の声であり。

 己には出来なかった、選択をした自分への嫉妬の目。

 

『ですが、おかげで無事に同期が完了しました。こちらに来てください──』

(くッ! 誰であろうと、キヴォトスの住人ならワシ以上の戦闘力は確実……トキを戻らせたのは失敗だったか…?)

 

 その様子を片眼で見ながら、扉間は即座に戦闘に意識を切り替えて、Bluetooth銃を取り出す。

 切り札のアロナが戦えなくなったのは痛いが、それで諦める男ではない。

 即座に相手に発砲できるように引き金に指をかける。

 だが。

 

 

 

 

『──()()()()()()

 

 

 

 

 現れた存在に思わず目を見開く。

 

()()()…?」

 

 コツンと、夜のように()()ブーツが床を叩く。

 ふわりと虹のような髪が空に橋を架ける。

 その上では、神を侮辱するかのように()()()十字架(ヘイロー)が踊る。

 空と海が()()したかのような青い瞳が、水平線の向こう側を映すように、扉間を覗く。

 

 

()()()()()()()()()()()()、先生」

 

 

 初めましてと、久しぶり。

 相反する言葉を告げ、連邦生徒会長は泣きそうな顔で笑う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……あなたは私の愛した先生ではないけど、それでも私の先生です。ですから、教えて頂きたいことがあります」

 

 扉間のアロナがそのまま成長したかのような容姿。

 ずっと探していた存在の来訪。

 これには、さしもの扉間も銃を下ろして呆然とする他な──

 

 ──パンッ! 

 

「アロナ! 救援も望めん以上は、ここは撤退一択だ! ワシが銃で牽制をする! 守りは任せた!!」

『わ、分かりました!』

 

 ……ないわけなかった。

 アロナと顔が似ている? 連邦生徒会長? 

 敵かもしれないんだから、攻撃する。

 これが忍の鉄則だ。顔など変化の術でいくらでも変えられるのだから。

 

「ふふっ。そうですよね、トビラマ先生はそういう人です。誰であっても敵ならば、容赦なく撃ちます」

『はい。それがトビラマ先生です』

 

 だが、撃たれた連邦生徒会長の方は上機嫌に笑うだけだ。

 まるで古い友人に出会えたかのようで、扉間を追う素振りすら見せない。

 

「……でも、知っています。先生が教えてくれましたから、どんな優秀な忍であっても、()()()()()が殺されるのを見れば、僅かに動揺するのだと」

 

 最初に目を見開いて、一瞬ではあるが攻撃をしなかったのは、忍ですら消せない僅かな情。

 そして、扉間なら共倒れを狙えば、自爆なり何なりをして自分を殺せるかもしれないのに、迷わず撤退を選んだ意味。

 それは愛だ。その存在を確かに確認して、連邦生徒会長は悲しそうに笑う。

 

「この世界の私は……()()()居るんですね? 先生。おかげで、私もパラドックスの対策をせずに自由に動けそうですが」

 

 この世界に同一の存在は存在しない。

 存在したとしても、それは生身の存在ではない。

 扉間が自分を見た時の反応から、それを確信した連邦生徒会長は静かに頷く。

 ほかならぬ自分のことだ。何を考えたのかはわかる。

 

『追わなくともよいのですか? 連邦生徒会長』

「うん。この状況でも先生が切り札(カード)を切らないのは、きっとこの世界では極力使っていないからだと思うんだ。なら、まだ()()のは早いかなーって」

 

 こちらを牽制しながら逃げる扉間とアロナに背を向け、ウトナピシュティムのコンソールに向かう、連邦生徒会長。

 

「A.R.O.N.Aちゃん。現在のキヴォトスの情報を集められますか? ()()()()()()()。先生を追い込むために使えそうなものが欲しいです」

『分かっています。既に情報は収集しています』

「流石、A.R.O.N.Aちゃん! これはもうスーパーA.R.O.N.Aちゃんですね!」

 

 パッと画面いっぱいに広がる、無限とも思える文字と画像。

 響き渡る、満員のスタジアムのような多種多様な言葉。

 常人では何が書いてあるのか、何を言っているか欠片も理解できないだろう。

 

「……なるほど、おおよそ分かりました。デカグラマトンやゲマトリアの秘術とはほとんど接触していませんね。アリスちゃんとケイちゃんも一緒に居るからDivi:Sionでの被害も出ていない。複製(ミメシス)はそもそも不発。()()()()ベアトリーチェさんが色彩に接触したことぐらいですかね……流石は先生です」

 

 だが、連邦生徒会長は超人とも呼べる理解力で、瞬時に理解してみせる。

 

「そうなると……使えそうなのはアリウスかな? アリウスは黙示録とかあって不思議な事も起こしやすいし、それにベアトリーチェさんが色彩を呼んだのなら、あのステンドグラスがあるはず……だったら私にも色彩をこの世界に案内出来る」

 

 そして、瞬時に導き出す。

 どうすれば、最大限にこのキヴォトスを危機に追い込めるかを。

 

 

()()()()()()にも手伝ってもらおっか? どうかな、A.R.O.N.Aちゃん」

 

 

 世界を滅亡の瀬戸際に追いやれるかを。

 

『私に反論はありません』

「じゃあ、決定! アリウスに行こっか、A.R.O.N.Aちゃん」

『はい、“ウトナピシュティムの本船”発進します』

 

 決定と、子供のように笑う連邦生徒会長。

 そして、無表情のまま“ウトナピシュティムの本船”を飛ばす白いA.R.O.N.A。

 遂に、名もなき神々の王女に匹敵する古代兵器が、キヴォトスの空に浮かび上が──

 

『………?』

「あれ? 動かないね……どうしたの、A.R.O.N.Aちゃん?」

 

 ──動かぬ…! 

 “ウトナピシュティムの本船”は浮かび上がらない。

 代わりに、2人の頭の上に疑問符が浮かび上がる。

 

『これは……なぜ? どうしてこのような物がインストールされて…?』

「何があったの?」

テイルズ(T)サガ(S)クロニクル(C)がインストールされています……』

「………え?」

 

 何言ってんだこいつと、連邦生徒会長が白いA.R.O.N.Aを見るが答えは変わらない。

 さしもの、連邦生徒会長もまさか古代兵器にクソゲーを不法投棄するとは考えつかなかったのだ。

 

「もしかして……避難信号ってTSCをインストールされたから?」

『恐らくは……』

 

 てっきり、扉間が危険物として破壊しようとしたので避難信号が出されたのだと、2人は思っていたが、現実は非情だ。なんか、クソどうでもいいことで呼ばれたのだと判明する。オオカミ少年でも、もうちょいマシな理由の嘘をつくぞ? 

 

「で、でも、壊れた部分は同期で治るはずだよね」

『いえ、外部機構や内部プログラムに一切の損傷は見られません。ただのゲームですので、危機としてみなされずにそのまま同期したのですね』

 

 そして同期したのにTSCが残っている理由。

 TSCをやることでエラーを起こしたが、別にTSCそのものに害はない。

 花粉症で花粉そのものが悪いのではなく、免疫の暴走が悪いのと同じだ。

 

「じゃあ、起動出来たのはなんで? 飛べないのに起動は出来るのはどうして?」

『確認します………分かりました。()()()()()()()()()()()()()()()()と設定されているので、本船の電源は入れられても、本体が動くことが出来ないようです』

「そんな据え置きのレトロゲームじゃないんだから……」

 

 苦笑いしながら連邦生徒会長が言うが、残念。

 TSCは明確なレトロ風ゲームだ。

 そして、“ウトナピシュティムの本船”はレトロゲームよりなお古いオーパーツ。

 ゲームと言えば、全部ファミコンなおばあちゃん世代なのだ。

 

「解決方法は? ハッキングで何とかできないかな?」

『解決のためのKey()がゲームのクリアになっています。チートツールを使って即時のクリアを試みます』

「……アンインストールは?」

『一部、 名もなき神の技術が使用されています。どちらにせよ、時間がかかるかと』

「そっかぁ……」

 

 クリアするまで絶対に離さないという、硬い卑の意志を感じ取り、連邦生徒会長は天を仰ぐ。

 なんで単なるゲームのインストールに、天才ハッカーやミレニアムの叡智、名もなき神々の王女の侍女が関わっているんですか…? 

 

「でも……流石は先生ですね。いつもいつも、私の想像の斜め上を行きます」

『それで……これからどうしますか?』

 

 私もいつも扉間に驚かされていたなぁと、ちょっと嬉しそうな顔をする連邦生徒会長。

 

「演算能力はどれぐらい使えるの?」

『現在、論理演算装置のうち70%をTSCのクリアのために使用しています』

「そ ん な に」

 

 TSCに論理などない。

 理論立てて考えれば考える程、ドツボに嵌る。

 そして、チートツールもモモイの思いつきの即死コンボで、大して役に立たない。

 名もなき神々の王女とその侍女が、揃って人格崩壊まで追い込まれた呪物を舐めない方がいい。

 

「こんなことなら、私も先生と一緒にプレイしておけばよかったかな……でも、残り3割もあるなら、次元を計算して私が空間移動するぐらいはできるかな」

 

 船が動かないので、自分自身で動くしかないと溜息を吐く、連邦生徒会長。

 船とは何だったのか? 

 

「じゃあ、行ってくるね。A.R.O.N.Aちゃんは取り敢えず、ここでお留守番をお願い。船が動いたら、知らせて」

『分かりました。行ってらっしゃいませ』

 

 ()()見送る白いA.R.O.N.Aに手を振り、連邦生徒会長は空間移動を行うのだった。

 

 

 

 

 

「……どうやら、追って来ないようだな」

 

 “ウトナピシュティムの本船”から抜け出した扉間は地上に向かいながら、チラリと船を振り返る。

 

(ワシらのことはどうでもよいのか? それともいつでも殺せるようにマーキングでもつけているのか……)

 

 そして、自分の体に不審な点が無いかを確認する。

 逃げられたと思ったところを利用する。

 生前からの十八番のため、どうしても頭によぎるのだ。

 

『先生、あの()()1()()()()は一体……』

「並行世界の同一人物と名乗っておったが……肝心の目的は分からんな」

 

 人の話を聞かない空気の読めなさが災いして、発砲してしまったので相手の目的を聞けていない。

 まあ、外部との通信も切られていたので、頼みのBluetooth銃で連絡も取れない。

 おまけに勝つための仕込みが無い状態では、悠長に話を聞く暇もないので、仕方ない。

 

「して、アロナよ……1つ聞きたいことがある」

『な、なんでしょうか?』

 

 ちょっと怒ったような扉間の声。

 それに、アロナはおっかなビックリ答える。

 

「ワシは連邦生徒会長と呼ばれた者を見たとき、成長したお前にそっくりだと思った」

『……よのなかにはそっくりさんが3にんはいるといいますよねー』

 

 棒読みで扉間の質問を躱そうとする、アロナ。

 だが、そんなことで疑いの目が晴れるわけがない。

 

「だが、ワシが見たことのある連邦生徒会長の写真とは顔が違っておった」

『へ、並行世界ですから、別の人が会長になることも……』

「髪色と瞳の色は同じだった。だが、写真を見る限りでは顔立ちは違っておったので、お前に少し似ている程度にしか思っていなかったが……」

 

 扉間はリンから連邦生徒会長の捜索を一任されている。

 当然、その際に顔写真などの詳細情報が共有された。

 シャーレが爆発していたので、()()()()()()()

 

 

「アロナ。お主──ワシに見せる情報を()()()()()おるな?」

『…………』

 

 

 扉間の問いかけに何も答えない、アロナ。

 だが、普段の彼女からは考えられないその態度こそが答えだった。

 まるで、ダンゾウがマザーにカブトの改変した偽の写真を送っていたかのように。

 

「思えば、おかしなことだった。連邦生徒会長が失踪したニュースなどいくらでも出て来る。だというのに、今までワシはお前と同じ顔だと気づけなかった。常識で考えれば、全てのメディアや情報の顔を変えることは出来ん……シッテムの箱という慮外のオーパーツでもなければな」

 

 先生(トビラマ)の目に入るであろう連邦生徒会長の顔を全て、微妙に変化させる。

 常識的には出来ないことも、シッテムの箱のハッキング能力ならば可能だ。

 そして、変えられない現物の写真はいつも扉間と一緒にいることを利用して、データで取り寄せるように促す。

 最悪見られても、1枚だけなら写真写りが悪いですねで押し通せる。

 

『……先生を混乱させるために、私の顔に変化しているのかもしれませんよ?』

「ワシ以外に姿の見えないお前の顔をどうやって知るのだ?」

『え、えっと、あちらのA.R.O.N.Aさんとか……』

「先程顔は見たが、顔立ちは違う上に、髪色も完全に違ったではないか」

『他人の空似じゃあ……』

「──アロナ」

 

 このままでは埒が明かないと踏んだ扉間が、アロナの言葉を遮る。

 

「ワシは忍の中では感知タイプでな。人を見分けるのは得意だ。何より──」

 

 そして、生前は感知タイプの忍だったことを教える。

 チャクラがあれば百発百中だが、それがなくとも僅かな違いは見逃さない。

 それに。

 

 

「──自分の娘を見間違える父親がどこに居る?」

 

 

 愛する我が子を見間違えはしない。

 聞いてるか? サスケ。

 お前も感知タイプなら、サラダを自分の娘だと確信できたというのに……。

 

『先…生…』

「今すぐにとは言わん。だが、こうなってしまった以上は少しでも情報が必要だ。必ず話してもらうぞ」

 

 地下空間から抜け出し、地上に出た扉間はそう締めくくる。

 アロナの明らかな戸惑い。

 平時なら見て見ぬふりも出来るが、今は聞かざるを得ない。

 

『はい……分かりました』

「ああ、すまんな……さて、地上に出たら流石に通信は復活するか…?」

 

 了承するアロナに頷きつつ、扉間は妨害されていた通信が回復したかを確認する。

 

「リオ、ヒマリ、コユキ、アリス。誰でも構わん。聞こえるのなら、返事を頼む」

『先生…! 無事だったのね……よかった……』

「リオ、状況はどうなっている? お前達は無事か? ケイとトキは? アリウスやホシノの状況は分かるか?」

 

 自分の無事に胸を撫でおろすリオに対して、一切の間髪を入れずに状況を聞く、扉間。

 これが本物の合理主義の化身だ。

 

『私達は何も影響はないわ。それとケイも無事よ。簡単なバイタルチェックを行ったけど命に別状はないわ。今はトキとアリウスの生徒と一緒に小鳥遊ホシノの指示で砂漠を抜けているわ』

「そうか……ならば、基地全体に避難指示は出せるか?」

『既に出しているわ。ウトナピシュティムが動くかもしれない状況だもの。情報の漏洩は安心して、理由はプレジデントが基地を自爆させようとしていると説明したもの』

 

 受け継がれる卑の意志。

 サラッと真実ではないが嘘ではない話で、スムーズに避難誘導を行っていた、リオ。

 火と卑が合わさり、最強に見える。

 

 え? プレジデントが爆破するわけないとか言われなかったのか? 

 新人ならともかく、ベテランが弊社(カイザー)を信用しているわけないだろ! 

 

「よし。ならば、すぐに実際に基地の自爆システムを起動させろ」

『時間稼ぎね。了解したわ』

 

 え!? 自分、結局自爆させられるんすか!?(by基地)

 

「ああ、爆破して砂の下に埋めれば、少しは時間稼ぎになるはずだ。その間に情報共有と対策会議を行う」

『埋めた程度では止まらない……つまり、あれを動かせる存在が居るのね。分かったわ、最大警戒で臨むわ』

「ああ、ワシは今から全力で走って逃げる故、引き続きお前が指揮を執ってくれ……アロナ、間に合わない場合は防御を頼むぞ」

『分かりました」

 

 “ウトナピシュティムの本船”が起動した以上は、何が起きるかは分からない。

 故に、キヴォトス全域に居るヴァルキューレに指示を出す必要があるのだと、扉間は伝える。

 

『了解したわ。ヒマリ、基地の自爆システムの起動をお願い。コユキ、ユウカとノアを最優先事項として呼んで頂戴。関係各所への連絡と説明を頼みたいの』

『ア、アリスは何をしたらいいですか? リオ先輩!』

『………あなたはここで待機していて頂戴。状況は予断を許さないわ。今はとにかく安全地帯で過ごすことが仕事よ』

『……はい、分かりました』

 

 リオの気遣うような『お前は動くと危ない』という言葉に、アリスはグッと唇を噛みしめる。

 だが、ケイを傷つけてしまった件もあり、それ以上は何も言えなかった。

 

「では、基地を抜け次第、再度連絡をする。しばしの間、頼むぞ」

『ええ、先生も無事に基地を抜け出してちょうだい』

 

 こうして、アビドス砂漠にまた1つ兵どもの夢の跡が刻まれたのだった。

 




扉間の死因、ウトナピシュティムの起動ですが、原作でも先生がダメージを負いかけていました。
しかし、突如として連邦生徒会長が出て来たことで原作先生は無傷。
そのため、連邦生徒会長が何かをしたのだと考えています。
つまり、シッテムの箱の中に連邦生徒会長が居ないと原作もヤバいのでは?
という考察より、連邦生徒会長がシッテムの箱に入っていない次元では先生が死ぬと仮定しました。

後、本船とか分船の関係とか同期は、原作描写だと決戦兵器のくせに大分アトラ・ハシースの箱舟に劣ってるなと思ったからです。
本船呼びの謎に理由付けして、ちゃんと戦えそうな仕様にしました。
正直、原作描写だとアトラ・ハシースに時間軸ずらされただけで何も出来なくなるという有様なので……。
アリスが乗るなんて想定、製造目的から考えて絶対にしていないはずなので、何かしらの対策は用意してあるのではと考え、性能を盛りました。

まあ、TSCをインストールした罪滅ぼしと思っていただければ。
ここからはオリジナル要素満載なので、ちょくちょく説明を入れていこうかなと思います。

次回は20日土曜日に投稿。
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