千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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78話:口寄せ──

 

「カイザープレジデントのキヴォトス征服の企みを止めるためにワシらはアビドス砂漠のPMC基地に乗り込んだ。そして、その地下空間でカイザーが掘り当てたオーパーツ、“ウトナピシュティムの本船”を見つけた。そして、ワシらはその船にクソゲーランキング1位に輝くクソゲー、テイルズ(T)サガ(S)クロニクル(C)をインストールした。その結果として、TSCのクソゲーっぷりに耐え切れなくなったウトナピシュティムは、並行世界の自分へと助けを求めた。すると、どういう理屈か本来ならばシッテムの箱のメインOSである、A.R.O.N.Aと並行世界の連邦生徒会長がウトナピシュティムの異世界同期を利用して、この世界に来訪したのだ」

「………は?」

 

 サンクトゥムタワーにて、今まであったことを端的に説明する、扉間。

 だが、当然それを聞かされるリンの表情は宇宙猫になっている。

 

「む、聞こえんかったか? もう一度言うぞ。しっかりと聞け。カイザープレジデントのキヴォトス征服の企みを止めるために、ワシらは職場体験を装いアビドス砂漠のPMC基地に乗り込んだ。そして、その地下空間でカイザーが掘り当てたオーパーツ、“ウトナピシュティムの本船”を見つけた。そして、ワシらはその船にクソゲーランキング1位に輝くテイルズ(T)サガ(S)クロニクル(C)をインストールした。その結果、TSCのクソゲーっぷりに耐え切れなくなったウトナピシュティムは、並行世界の自分へと助けを求めた。すると、どういう理屈か本来ならばシッテムの箱のメインOSである、A.R.O.N.Aと並行世界の連邦生徒会長がウトナピシュティムの異世界同期を利用して、この世界に来訪したのだ」

「違います。聞こえてはいます。ただ、脳が理解を拒んでいるだけです」

 

 少し長くなるぞと、もう一度説明する扉間にリンが白旗を上げる。

 連邦生徒会長という最重要ワードがあるのに、脳味噌が理解を拒絶しているのだ。

 

「た、単語の説明を1つ1つお願いします…!」

「むぅ、あまり時間が無いが……カヤやリン(お前達)ですら理解できないということは、ワシの説明が悪いのだろう」

 

 そして、緊急事態だと言われて、リンと同じく呼び出されたカヤも激しく頷く。

 

「……プレジデントがオーパーツを利用して、何かを企んでいるのはカヤ防衛室長から聞いています。そして、それを止めに先生が動いていたのも」

 

 サンクトゥムタワーが狙われているというのは、当然極秘事項だった。

 しかし、現状のトップのリンに何も言わずに護衛を出来るわけもないので、教えていたのだ。

 

「アビドス砂漠のPMC基地に乗り込み。その地下空間でカイザーが掘り当てたオーパーツ、“ウトナピシュティムの本船”を見つけたというのも分かります。カイザーには邪魔立てされなかったのかとか、聞きたいですけど」

「む、すまん。プレジデントは道中で捕縛して理事に引き渡したのを言うのを忘れておった。歳だな」

「そこ流さないでくださいよ。私達は相手が動くのを、今か今かと待ち構えていたんですよ? 私じゃなかったら、怒ってますよ?」

 

 敵が動いたらどう動こうかと、激務の合間に必死に考えていたカヤは頬を引きつらせる。

 でも、惚れた弱みで許しちゃう。

 

「カヤ防衛室長、先生を叱るのは後でお願いします。それよりも、話の続きです。“ウトナピシュティムの本船”というオーパーツに『クソゲーランキング1位に輝くテイルズ(T)サガ(S)クロニクル(C)をインストールした』とはどういうことですか? 唐突にクソゲーという言葉が出てくる意味が分かりませんし、それを船にインストールするという思考が理解不能です」

 

 理解出来ぬ。

 と、頭が痛そうにこめかみを抑える、リン。

 どうやら、リンにはまだこのステージは早すぎたようだ。

 

「TSCは、プレイした“名もなき神々の王女”というオーパーツとその侍女を、普通の生徒に変えるという偉業をなしたことがあるのだ」

「……それで、今回も“ウトナピシュティムの本船”を普通の生徒に変えようと?」

 

 カヤの問いかけに扉間は頷く。

 アリスの思い付きではあるが、それを認めたのは他ならぬ自分。

 大人らしく、責任を背負っているのだ。

 こんなことなのに。

 

「ああ。だが、成功例を過信しすぎておった。結果としては、TSCのクソゲーっぷりに耐え切れなくなったウトナピシュティムは、並行世界の自分へと助けを求め、敵が増える事態になってしまった……ワシの責任だ」

「なるほど……理解しました。先生の事情も分かりましたし、お考えも理解しました。その行動を責めるつもりもありません。ですが……これだけ言わせてください」

 

 ずれた眼鏡を指で押し戻しながら、リンは無表情で告げる。

 

 

「──バカじゃないですか?」

 

 

 何やってんだ、お前ェっ!! 

 と、リンちゃんが170Km/hの火の玉ストレートを投げ込む。

 

「いえ、もう……何と言うか……それしか言葉が見つかりません」

「サンプルがあったとはいえ、意味不明な行動を取って、意味不明な結果が出たのですからね……まあ、何と言うか私もコメントに困ります」

 

 船にクソゲーをインストールしたら、錯乱して並行世界から助けを呼ばれました。

 バカとしか言いようがないから、仕方がない。本当に仕方がない。

 

「……ですが、終わったことを言っても仕方がありません。時間は巻き戻ってはくれないのですから」

「そうですね。それでは先生、本題に入りましょうか……並行世界の連邦生徒会長とは何ですか?」

 

 胃を押さえている2名だが、何とか立ち直り、最重要事項である連邦生徒会長について聞く。

 ここからが本当の地獄だとも知らずに。

 

「敵の言葉ゆえ、真実だと言う保証はない。だが、顔つきはこの世界の連邦生徒会長と同じものだった」

「……こちらの世界の連邦生徒会長という線は?」

「ない。こちらの世界の連邦生徒会長は、恐らくは別の場所に居る」

『…………』

 

 チラリとシッテムの箱に目をやりながら、扉間はリンの言葉を否定する。

 アロナがシッテムの箱の中で、無言を貫く。

 

「それで……あちらの連邦生徒会長は何が目的なのですか?」

「すまんが分からん。ワシに何かを聞こうとしておったが……状況不利と見て一目散に逃げて来たからな」

「ああ……いえ、正解だと思いますよ。何せ、相手は連邦生徒会長ですから。何をやっても()()()()()()()()()()

「はい。相手が本当に会長ならば、退却は正しい選択だと思います」

 

 一目散に逃げて来たと告げる扉間を、カヤとリンは全く責めない。

 むしろ、よく連邦生徒会長から逃げられたなと驚きの表情をしている。

 

「……それほどの者なのか連邦生徒会長とは?」

「かつての私が憧れた本物の超人です。出来ることより、出来ないことを探す方が難しい人です」

「少し抜けたところもあるお方でしたが……その実力はキヴォトスの頂点に立つに相応しいものです。頭脳も、戦闘力も、精神力も、カリスマ性も。全てが人の域を超えていました」

 

 ただ頭が良いだけでは、キヴォトスの頂点には立てない。

 誰もが納得する武力がある。

 全てを背負いきる精神力がある。

 カヤだけでなく連邦生徒会役員全員の脳を焼くほどのカリスマ性もある。

 完璧。故に超人なのだ。

 

「なるほど……敵に回るとなると厄介そうだな」

「……敵対していると、どうして分かるのですか?」

 

 出来れば、連邦生徒会長とは戦いたくないと案に告げる、リン。

 

「ワシがウトナピシュティムを攻撃したことで、来たのだ。恐らくはあちら側で間違いがないだろう」

「そのようなことは………いえ、今の私は希望的観測で物事を語ろうとしていますね。物事は最悪の事態を想定して動くべきです」

 

 私の連邦生徒会長がそんなことするわけないだろ! 

 そう、厄介ファンばりに言えたらよかったのだが、唐突に失踪したのも事実。

 何かを企むような人間だったと言われても、言い返せない。

 

「……敵対したのは仕方のない判断だと思います」

「ああ。故に、砂の中にウトナピシュティムごと埋めて来た」

「は? 連邦生徒会長ごと?」

 

 しかし、サラッと生き埋めにしてきたと言われたら、流石に黙ってはいられない。

 

「案ずるな。その気になれば自分の世界に帰ればいいだけだ。下手を打たなければ、死にはせん」

「それは……下手を打てば死ぬという意味では?」

「人間など皆そのようなものだ。水溜まり1つの水があれば、溺死する」

 

 水のない所でこれ程の水遁を? 

 人を殺すのに、コップ一杯の水以上要るか?(卑劣書き文字)

 

「まだ、キヴォトスのどこからも視認出来ていないのならば、生き埋めにしたことで動きを封じられていると考えて問題はないはずだ」

「ハッキリ生き埋めって言いましたよ、この人。私、一応警察のトップなんですけど?」

 

 言えない……。

 埋められたのはどうでもいいけど、TSCをまだクリアできないから、動けないなんて、言えない(byウトナピシュティムちゃん)。

 

「仮に並行世界の連邦生徒会長を殺してしまったのなら、その時はワシも腹を切って詫びる。それにお前達が言うような完璧超人ならば、この程度で死ぬとは思えん」

「まあ……失踪して随分と経ちますが、今も生きていると思っている程度には死ぬ人には思えないのは確かですが……」

 

 カヤが言うように、連邦生徒会長が失踪したというのに、死亡説を信じている連邦生徒会役員はいない。

 あの人がこの程度で死ぬわけないだろうと、扉間のように思われているのだ。

 

「というわけで、動きを封じている間に更なる手を打つ。サンクトゥムタワーからウトナピシュティムの本船の主導権を奪い取る」

 

 そして、それは扉間も一緒だ。

 自分の知っているアロナなら、この程度の攻撃でやられるわけがない。

 故に、徹底的に主導権を渡さないようにする。

 

「それは……どうやって? 方法も分からないのに?」

「プレジデントに吐かせる。動いていた以上は、ある程度の目安はついているはずだ」

「……可能ならば、私に反論はありません。キヴォトス全体を滅ぼしかねない古代兵器なら、管理するのは連邦生徒会の当然の義務ですから」

 

 不殺で進むと、こんな風に後から吐かせた情報(ドロップアイテム)が手に入るんですよね。

 まあ、穢土転生があればもっと早く終わるのだが。

 何とか、使えるようにならないものだろうか。

 

「よし、決まりだな。では、ワシは一度プレジデントの下に行って──」

 

 拷問にかけて来る。

 そう言おうとした、扉間の声は遮られる。

 

 

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

 

 

「…? なんですか、この()()()()()は?」

 

 まるで、天上から鳴り響くようなラッパの音色によって。

 

「ラッパ? 誰かがこの場所の近くで? ……いえ、おかしいですね。この部屋は防音が効いているはずです。そう簡単に音が聞こえるはずが──」

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

「また?」

「ラッパ? まさか……」

 

 再び鳴り響くラッパの音。

 アリウスの校長として、少しだけアリウスの歴史を聞きかじっていた扉間の脳裏にあるものがよぎる。

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

「知っているのですか? 先生」

「黙示録に載るラッパ吹きの天使だ」

「黙示録? トリニティのシスターフッドが信仰している、宗教のあれですか?」

「ああ。そして、アリウスの信仰の柱と言ってもいい」

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

「アリウスの信仰の柱ですか? それは一体……」

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

 リンが扉間に尋ねる間にも、ラッパの音は続く。

 それは黙示録の7人の天使が吹き鳴らすもの。

 神が与える災害の前触れ。

 そして、何より。

 

 

「世界の──滅亡だ」

 

 

 ──ヴォオオオッ! 

 

 世界に滅亡の時が来ると言う時報だ。

 

「………止まりましたね?」

「今の回数は……6回で間違いないな、カヤ?」

「あ、はい……それで間違いないと思いますけど」

「6回……確か、黙示録の天使は7人でしたよね、先生?」

 

 天使は7人。吹き鳴らされる笛の数も7回。

 あと1回足りない。

 そう告げるリンに、扉間も頷く。

 

「ああ。回数が合わん……やはり、ワシの勘違いか」

「犯人は落ち着き次第見つけ出します。ここまで聞こえるとなると、内部に居る人間で間違いないと思いますので」

 

 周囲の迷惑も考えずに、ラッパを吹き鳴らしたのはどこのどいつだと、溜息を吐くリン。

 そんな少し緩んだ空気の中、再び音が鳴り響く。

 

「すいません! リン先輩、至急ご報告しないといけないことが!!」

「アユム…?」

 

 その音は、ラッパの音ではなくドアをノックする音。

 岩櫃(いわびつ)アユム、リンの後輩である。

 

「今は会議中……いえ、緊急事態なのですね、あなたがそこまで言うということは」

 

 注意しようかと思ったが、普段は大人しいアユムの尋常でない様子に何かが起きたのだと理解し、リンはドアを開ける。

 

「す、すみません! 先輩、防衛室長、先生! 空を見てください!」

「空…ですか?」

 

 閉め切られていた会議室のカーテンをカヤが開ける。

 

「これは…ッ!?」

 

 時刻は夕方。空が赤らむ時間ではある。

 だが、その赤さは尋常ではなかった。

 炎のように明るく、血のようにドス黒い。

 

「何が起きているのですか…?」

「わ、分かりません! た、ただ、関連するかもしれない事象がもう1つ起きていまして……」

 

 カヤと同じように空を見上げて、その異常性に目を見開く、リン。

 そこへアユムがもう1つの情報をもたらす。

 

「それは一体?」

「キヴォトスで超高濃度のエネルギー体が6つほど観測されました」

6()()…だと?」

 

 6度のラッパの音。

 6つのエネルギー体。

 これが偶然の一致だとは当然思えない。

 

「アユム。そのエネルギーがどこから出たかは分かるか?」

「え、えっと……今は動いていますが、確か最初は()()()()()付近で観測されたはずです」

 

 それを聞いた扉間の動きは早かった。

 

「リン、アユム! すぐにエネルギー体の正確な位置を調べろ! カヤ! お前は、各地のヴァルキューレに指示を出し、エネルギー体付近の情報を収集しろ! 危険があるようなら、至急地域住民の避難誘導も行え! ワシはエネルギー出現地点…恐らくはアリウスの調査に向かう! 付近にエネルギー体があるようなら追って連絡を寄越せ!」 

 

 矢継ぎ早に指示を出し、即座に計画を組み替える扉間。

 プレジデント、お前は後! 

 

「承知しました。アユム。モモカを叩き起こしてすぐに調査をしてください」

「は、はい!」

 

 その指示を受け、パタパタと黒い羽根を動かして、せわしなく駆けていくアユム。

 そして、リンも連邦生徒会全体の統制を取るために、会議室から出ていく。

 

「こちらも了解です。各学園へも連絡をした方が?」

「ああ、頼む。まずはミレニアムと一度連携を取れ。リオが既に動いているはずだ。二手に別れて動いた方が効率が良い。それと、ワシの名前も使え。何かあればシャーレが責任を取る。移動中にシャーレ公式アカウントより、ワシの声明も出す。余所の自治区だからという遠慮は必要ない! 何かあれば、ヴァルキューレの生徒をシャーレ所属にして責任をワシが取る!」

「分かりました。では、お気をつけて」

 

 ヴァルキューレも名目上はどこでも行けるが、やはり立場が弱い。

 なので、シャーレの権力で補完する。

 やはり持つべきものは、金と暴力と権力だな! 

 

「アロナ! スバルにワシと合流してから、アリウスに戻るようにメールを送れ。その後、緊急事態宣言を作成し、シャーレのアカウントで発表してくれ! ワシはその間にFOX小隊と連絡を取り、アリウスの現状を確認する」

『分かりました!』

 

 アロナにも指示を出しながら、FOX小隊へと連絡を取る。

 アツコやサオリではなく、FOX小隊な理由は簡単。

 アリウス生は連邦生徒会長の顔を知らないからだ。

 

『……もしもし! 先生ですか!?』

「ニコ! 緊急事態なのは分かっておるが。アリウスの状況を説明できるか?」

 

 通信越しに聞こえる、緊迫したニコの声。

 そして、鼓膜を叩く無数の銃声。

 明らかに戦闘中だ。

 

『私達も詳しく事態を掴めていません。ですが──』

 

 しかし、その中でもニコはハッキリと一番の異常を伝える。

 

『──あの連邦生徒会長が居るのが、異常だというのは分かります!』

 

 黒の制服に身を包む、連邦生徒会長が居ることを。

 

 

 

 

 

 時はしばし過去に遡る。

 アリウスの至聖所。

 ベアトリーチェが居なくなってからは、忌むべき記憶として誰もそこに踏み入らなかった場所。

 そんな場所に、2人の存在が居た。

 

「銃を下ろしてくれませんか? ()()()さん」

「……私はあなたを信用しない。連邦生徒会長」

 

 1人はうっすらと寒気のする笑みを浮かべる連邦生徒会長。

 そして、もう1人は砂狼シロコ。

 だが、色彩のステンドグラスを背にして立つその姿は、明らかにこの世界のシロコとは違っていた。

 

「まあまあ、そう言わずに。私達の()()は一緒なんですから」

「あなたの説明は理解した……その上で言うけど、私は連邦生徒会長という存在が嫌い」

 

 顔立ちや髪の色、目の色は同じ。

 だが、明らかにその体は成長しており、大人の女性のものであった。

 そして何より、(あお)ざめた白い肌からは生を感じられず、死そのものを漂わせている。

 

「私の世界の連邦生徒会長は、アビドスを助けてくれなかった。それだけなら、まだいい。でも、その後に失踪して、結局先生が死んでも姿を現さなかった。もしかしたら、気づかずに私が殺したのかもしれないけど……それでも私はあなたが嫌い」

「奇遇ですね、()()()()()

 

 眉間に突きつけられた銃口にも、笑みを崩さずに連邦生徒会長は皮肉気に告げる。

 まるで、私を世界で一番嫌っているのは私だとでも言うように。

 

「……さっきの話は本当?」

 

 軽く首を振り、銃を下ろすシロコ。

 まるで、やるだけ無駄だと悟ったかのように。

 

「はい、死者を蘇らせる方法はあります」

「ん、知ってる。先生が教えてくれたから……でも、それは忍術だから。私達には使えない」

 

 穢土転生の術の存在は知っている。

 だが、シロコは忍術そのものが使えないという話も同時に知っている。

 故に、あり得ない仮定だと切り捨てたのだ。

 

「それに、動く死体なんて辛いだけ。ただ操られるしか出来ないなら、死んだ方がマシ。本当に生き返れないなら意味がない」

 

 穢土転生の術は情報を抜くための術。

 なので、日常生活を快適に過ごせるような機能はないし。

 何より、成長もしない。

 そんな生きる死体として愛した人達を生き返らせたいとは、シロコは思わなかった。

 だって、生きることは辛いことだから。

 

「いいえ──人を完全に生き返らせる術はあります」

 

 だが、連邦生徒会長は否定する。

 

 

外道(げどう)輪廻天生(りんねてんせい)(じゅつ)

 

 

 死者を完全に蘇らせる術は、確かに存在するのだ。

 

「………そう。でも、同じこと。私達は忍者じゃないから無理」

「違いますよ。私達が忍術を使えないのは、忍者ではないからではないんです。チャクラというエネルギーを持っていないからです。忍術も突き詰めてしまえば、ただの現象に過ぎません」

 

 チャクラというエネルギーを火に変える、水に変える、風に変える、土に変える、雷に変える。

 要するに、忍術は過程を変えても結果が同じなら、それが忍術となるのだ。

 

「人工甘味料をご存じですか?」

「? 砂糖の代わりに使う甘い添加物?」

「はい。砂糖よりも低カロリーで砂糖の代替え品として使われる、化学物質。使うものは別。でも、()()という結果は砂糖と同じ……イチゴミルクにも使われたりしています」

 

 まあ、私は天然のイチゴミルクの方が好きですが。

 そう言いながら、連邦生徒会長は話を続ける。

 

「それと同じです。甘味が欲しいのなら、使うものはどちらでも同じなんです。まあ、例に挙げたものは厳密には違いがありますけど、今言いたいのはそういう所じゃないです」

「つまり……」

「はい。別のエネルギーで代用できるのなら、都合の良い()()()()()()が出来るのなら、過程は別でも望んだ結果を引き寄せられる」

 

 連邦生徒会長がゆっくりと胸ポケットに手を入れ、あるものを取り出す。

 未来の確定。過程の省略。都合の良い結果の選択。

 それが出来るのならば、チャクラの代わりに寿命などをエネルギーの代わりにして──

 

 

「そう──()()()()()()を使えば」

 

 

 ──忍術という現象を起こすことが出来るのではないか? 

 

「ッ!? どうして、あなたがそれを持って……まさか先生から盗んだの?」

「失礼ですね。ちゃんと、先生から託された物の1()()ですよ?」

 

 人のものを盗むのはドロボーと告げるシロコに、連邦生徒会長が顔をしかめる。

 連邦生徒会の秘密金庫を襲撃した、あなたには言われたくないと。

 

「とにかく、別のエネルギーを使って……私達なら神秘や恐怖、崇高を原動力に、忍術を再現したという自分(結果)を大人のカードで望めば、そうなった結末が引き寄せられます。大人のカードは未来を確定させる。死の運命すら捻じ曲げる代物。そう考えれば、何らかの方法で忍術を使える自分を呼べる方が簡単だと思いませんか?」

 

 運命を捻じ曲げるのと、火を吹けるようになった自分。

 不思議な神秘の溢れるキヴォトスでは後者の方が、まだ現実的である。

 

「……その大人のカードを使えば、人を生き返らせる術が使えるの?」

「はい。忍術を使える未来の自分を呼び出せば、自ずとその使い方が分かります」

 

 かつて、扉間がボーっとしないコツを知ったアスナを呼び出し、それをこちらのアスナが学んだことがある。

 アリウス学園を知るミカを呼んだことで、アリウスの独立が確定したことがある。

 つまり、忍術を再現した自分を呼び出せば、自分もそれを使うことが可能になるのだ。

 

「まあ、この大人のカードはお目当ての術とは、()()()ですけど」

「? どういうこと?」

 

 しかしながら、ただ大人のカードがあれば出来るというわけではないと、連邦生徒会長は告げる。

 

「これはあくまでもトビラマ先生のカードです。使用用途を決められるのは、先生だけです。私の世界の先生は大人のカードを使うことで、ある1つの忍術を使う()()()()()()()()()()。他の術を使うことは想定していなかったのか、出来なかったのか……それは私には分かりません。ただ、1つ分かることは、本来の持ち主ではない私達が使える用途は、先生が最後に使った用途、()()()()使()()()()()()()()()()という結果の繰り返しというだけです」

 

 かつて、エデン条約の際に古聖堂で呼び出した並行世界の扉間の1人はこう言っていた。

 『この世界はこうなったのか……いいだろう』と。

 これは、世界によっては大人のカードを、忍術の運用に応用していたための言葉だ。

 つまり、忍術で解決していた世界線もあったのである。

 

「だからこそ、私はこの世界の先生に……外道(げどう)輪廻天生(りんねてんせい)の術を使わせたいんです」

「そのために色彩と私を呼び出して、世界を滅ぼそうと…?」

「はい、その通りです。先生が術を使った後はカードを貰って私達が使います……()()()()()()()()のために」

 

 扉間に死者蘇生の術を使わせる。

 そのために、大量の死者を生み出す。

 要するに、キヴォトスを滅ぼすのだと連邦生徒会長は告げる。

 

「先生に普通に頼むのは……ううん、忘れて」

「はい。通常の先生は死者蘇生なんて絶対にしません。弟さんもお兄さんも呼び出したことがないんですから。先生は単なる死なら、ちゃんと乗り越えられる強い方です……私達とは違って」

 

 だからこそ、そうも言っていられない状況に追い込む。

 自分の生徒が全て死ぬような状況に。

 キヴォトス全土が滅びるように全力を尽くす。

 

「だから、協力しませんか? シロコさんにデメリットはないです。だって、やることは()()()()何も変わらないじゃないですか?」

 

 再度協力を持ちかける連邦生徒会長。

 その顔は、親切なようでどこか見下すような底意地の悪さがあった。

 

「どうせ、あなたに出来ることは、みんなを殺して世界を滅ぼすことだけ。なのに、今回は自分の願いが叶えられるかもしれないなんて、スーパーラッキーチャンスですよね?」

「……さっきの嫌いって言葉は訂正するね──大嫌い」

 

 そんな連邦生徒会長に対して、シロコは吐き捨てるように告げる。

 吐き気を催す邪悪だと。

 

「では、交渉は決裂にされますか?」

「そういう所が人に嫌われる所……それで? 私は何をすればいいの」

 

 だが、目的は確かに一致した。

 並行世界のシロコの目的は、このキヴォトスを滅ぼすこと。

 連邦生徒会長の目的は、それに乗じて扉間に大人のカードの可能性を引き出させること。

 そして、その先で。

 

()()()()()()()、キヴォトスを壊してくだされば結構です。ただ、今回はこれをお貸しします」

「……大人のカード」

 

 死者蘇生の術を手に入れ、自分達の愛する者を生き返らせることだ。

 

「いつもはゲマトリアの秘儀などを(かた)にして守護者を作っているそうですけど、今回はこれで呼び出した(かた)にエネルギーを入れてください。そうすれば、()()()()()()()()()()()()無敵の軍団が生まれます」

「ん、分かった……この世界のシロコは今どこに居るか分かる?」

「パラドックスが気になるんですね? 大丈夫です。ちゃんと、解決策がありますから」

 

 大人のカードを受け取り、この世界のシロコをどうにかしないと自分は動けないと告げる、異世界シロコ。

 そんな彼女に対して、連邦生徒会長は策があると言う。

 

平和の門(ポルタパシス)に向かいましょう。そこでラッパ吹きの天使の召喚を行います」

「ポルタパシス? ラッパ吹きの天使?」

「ポルタパシスは、まあアリウスの歴史館と思ってください。天使に関しては、本物はシロコさんの仲間かもしれませんね。世界を滅ぼしますし」

「ん、喧嘩なら買う。今なら青天井まで払う」

 

 世界を滅ぼすお仲間だねと言われて、不機嫌そうに眉を顰めるシロコ。

 割と性格悪いな、連邦生徒会長(こいつ)

 

「ですが、偽物です。アリウスに溜まった怨念や邪念。無念、憎しみ、慟哭。そういった先生なら鼻で笑うようなものですが……アリウスでは()()()()に変わります。色彩の力で空を赤くすれば、きっとアリウスの生徒さんは黙示録を思い出すでしょうね。そこでラッパの音を1つでも聞かせてあげれば……黙示録の天使が来たと思って、幻が現実になるでしょう」

 

 アリウスの地は不思議な現象が起こる土地。

 ベアトリーチェがそれを利用して、通常のアリウスでは調達出来ない武器を大量に用意することなどに使ったこともある。

 幻術を現実に(えが)き換える、秘術。

 

「それで? その天使がパラドックスとどう関わってくるの?」

「7人の天使のうち1人をシロコさんにインストールすることで、砂狼シロコではなく、世界の破壊者シロコ*テラーとしてText(テキスチャ)を書き換えます」

「シロコ*テラー……」

 

 恐怖(テラー)

 神秘が恐怖へと反転した姿。

 天使をインストールするという発想は、TSCをインストールするのと似ている。

 流石は扉間の娘と言った所だろうか。

 

「恐怖のシロコさんですね! 恐怖の大魔王みたいでカッコいいですね。色も、死をもたらす蒼ざめた騎士みたいですし」

「あなたも同じようなもの……」

 

 こいつ、一々人を煽らないとコミュニケーションが取れないのかと、若干呆れながらシロコ*テラーは溜息を吐く。

 真面目に相手をするのが馬鹿らしくなってきたのだ。

 

「それでは、早速行きましょうか」

「ん……待って、1つ聞かせて」

「はい、何でしょうか? 恐怖のシロコさん」

 

 早速ポルタパシスに飛ぼうと演算を開始する連邦生徒会長を止めて、シロコ*テラーが尋ねる。

 

 

「あなたはこれで──()()()?」

 

 

 何度目か? 

 何に対して言っているのか。

 それは、シロコ*テラーにしか分からない。

 だが、それでも連邦生徒会長は笑みを崩さない。

 

()()?」

「………忘れて。行こっか」

「はい、では行きながら、その大人のカードの使い方を教えてあげますね」

 

 まるで、狂気ですら擦り切れてしまったかのように笑いながら。

 

 

 

 

 

「では、お願いします、シロコ*テラーさん。必要なものはこちらで用意していますので」

「うん…分かった」

 

 召喚された6人の天使達。

 そのうち1人は既に、シロコ*テラーと同化しているため残りは5人。

 それを見つめながら、彼女は大人のカードを取り出す。

 

「ごめんなさい……」

 

 シロコ*テラーは思い出す。

 まだ、仲間が生きていた時を、扉間が生きていた時を。

 『印?』

 『手と指を使って、十二支を表す文字を作ることだ。例としては亥、戌、酉、申、未といった具合にな』

 あれは、ヘルメット団連合を倒した後だっけ、そんなことを思いながら指を組む。

 

()(いぬ)(とり)(さる)(ひつじ)──」

 

 あの日を思い出しながら、ぎこちない手つきで印を結ぶ。

 奇しくも、その印は口寄せの印。

 扉間がその術理の応用などで、生前使いまくった術。

 

 そして、この大人のカードで最後に使えるようにした術。

 ウトナピシュティムの起動で死んだ扉間(じぶん)を口寄せさせ、最後まで戦わせて、引継ぎまで終わらせるようにした術。

 

 

 

「ん、口寄せ──穢土転生(えどてんせい)の術」

 

 

 

 5人の天使が5本の()()となり、術を満たす()となる。

 無数の塵が天使の体に纏わりつく。

 シロコ*テラーに入れられた1人を加えて、6人の天使の姿が人間へと堕ちていく。

 否、天の(あるじ)ではない忘れられた神々の姿へと貶められた6人の天使。

 

「今回はシロコ*テラーさんも含めて、この方達にキヴォトスの破壊を手伝ってもらいます」

 

 6度のラッパが吹き鳴らされ、6人の天使が、6柱の偽神となり替わる。

 666、数秘術(ゲマトリア)が示す十字(メシア)に唾吐く獣の数字。

 

「知ってる顔と知らない顔が……ん?」

 

 呼び出された5人の顔を見て、シロコ*テラーの表情が困惑に染まる。

 知っている人と知らない人が居るのは良い。

 だが、自分がまず知らないはずのない生徒がいる。

 だというのに、自分はその顔を見たことがない。

 

 

「……()()()()の制服…?」

 

 

 ある1人が着た制服に目をやり、シロコ*テラーは目を見開く。

 見間違えるはずもない、アビドスの校章。

 いつも自分を守ってくれていた重い盾。

 どこか、記憶に残る自分の唯一の先輩に似た髪型。

 

 

 

「ひぃん……ここどこぉ…?」

 

 




話とは特に関係ないけど、今作のヒロイン。

①作品のヒロイン『アロ…私は先生にずっと一緒に居ると約束してもらいました!』
②アビドス編ヒロイン「ん、あらすじに載ってる看板ヒロイン」
③ミレニアム編ヒロイン「妹がヒロインになれない合理的な理由は存在しないわ」
④補習授業部編ヒロイン「スタンディングオベーションとマスターベーションって似ていると思いませんか?」
⑤エデン条約編ヒロイン「補習授業部編から割とヒロインじゃんね?」
⑥カルバノグの兎編「(ヒロインになるために)お金を渡しているのですよ?」
⑦没ヒロイン「ひぃん……出演してないのにヒロインでごめんねぇ」

次回の投稿は24日水曜日、偽りの救世主(メシア)、うちはマダラの誕生日です。
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