千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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本日、12月24日はうちはマダラの誕生日です。
キリストの1日違いというのが、岸影のセンスを感じさせますよね。
お前は救世主のなりそこないだよって。

では、本文です。


79話:偽りの救世主

「そんな馬鹿な……早過ぎます」

 

 赤く染まるキヴォトスの空を見て、ベアトリーチェは愕然とした表情で呟く。

 訪れた色彩。吹き鳴らされた6度のラッパ。

 その全てが、彼女の想定の範囲を超えていた。

 

()()()()? その言い方だと、色彩の到来を予知していたように聞こえるな、ベアトリーチェ」

「何を疑っているのですか? マエストロ。色彩は(わたくし)達ゲマトリアの天敵。愚鈍なあなたと違い、私は常に警戒を怠っていません」

「言い方を変えようか、ベアトリーチェ。貴下は以前、儀式によって色彩と接触した。それと何か関係があるのではないか?」

 

 ベアトリーチェとマエストロが睨み合う。

 元より、馬の合う性格ではなかった。

 更にベアトリーチェが敵に内通しているかもしれないとなれば、一触即発の空気にもなるものだ。

 

「お2人共、落ち着いてください。緊急事態だからこそ和を乱すわけにいきません」

「そういうこったぁ!」

 

 そんな2人を、後頭部だけが描かれた絵画を持った1人が。

 否、絵画とそれを持つ胴体の2人。

 ゴルコンダとデカルコマニーが宥める。

 

「はい、恐らくこの事態は誰にとっても予想外……いえ、ある1人以外にとっての想定外。言い争っても仕方がありません。それにマエストロ。あなたもベアトリーチェの儀式のことは知っていたはずです。事前に止めようと思えば出来たはずです……まあ、それは私も同じですが」

 

 そして、最後にまとめ役として黒服が喧嘩両成敗と告げる。

 

「……ふん」

「……いいでしょう、お互いに大人ですからね」

 

 お互いにフイと目を逸らすと、そのまま視線をすら寄越さなくなるマエストロとベアトリーチェ。

 存在の無視。それも争いを避けるための、大人の考え方の1つだ。

 

「では、まずは現在のキヴォトスで発生している事象をまとめましょうか。今回の件は複数の事象が連鎖して起こった出来事。一つ一つを紐解くことで、初めて解が見えてきます」

 

 黒服がゆっくりと4人を見つめながら、語り始める。

 

「カイザーグループのウトナピシュティムの本船の発見。並行世界からの連邦生徒会長の来訪。色彩の嚮導者と箱舟の来襲。アリウスの秘術による天使の顕現。そして……」

 

 一度言葉を切り、黒服は胸ポケットに触れる。

 まるで、以前はそこにあったものを思い出すように。

 

 

「大人のカードによる忍術の再現。天使を生贄にした死者の蘇生」

 

 

 死者の蘇生。

 その言葉に、4人が思わず息を呑む。

 死者の蘇生はあらゆる時代において、神秘の最奥と言われるものなのだから。

 

「死者の蘇生……それは真実か?」

「確かと言えば確かですが、どうやら生き返ったとは言えないものですね。あれらは恐らくは蘇生に限りなく近い再現でしょう。死した魂を浄土より呼び寄せ、動く死体に憑依させる。東洋風に言えば、口寄せと言った所ですね」

「ほう……つまり、それは千手トビラマは死後の世界の存在証明に成功したということか? 素晴らしい」

 

 穢土転生の術のやばい所。

 普通に死んだら、人間は魂だけになって黄泉に行くというのを証明している所だ。

 死後の世界を証明しているのだから、大抵の宗教勧誘は断れる。

 天国は近い! →死んだ人間の行く場所は皆同じだぞ? 

 

「しかし、忍術ですか……にわかには信じがたい、と言いたいところですが、神秘というものが存在するのなら、忍者が居ても何もおかしくはないですね。極まった科学は魔法と見分けがつかないとも言いますし」

「そういうこった!」

「ええ、私達ゲマトリアは探求者。あり得ないことはあり得ない。その精神こそが、更なる探求に繋がります」

 

 並行世界、あの世の存在、忍者の存在。

 興味深げに頷く、ゴルコンダとデカルコマニー。

 探求者にとって、最も不要なものは常識なのだから。

 

「さて、話を戻しましょうか。ウトナピシュティムの本船は動くはずでしたが、何らかのトラブルが起きたのか、乗組員だけが動くという事態になっているようなので、今は気にしなくてもいいでしょう。今大切なのは、その乗組員のことです」

「……並行世界の連邦生徒会長。それも恐怖(テラー)に反転し、崇高に達した存在」

 

 恐らくは最大の敵になるであろう存在の名を呟く、ベアトリーチェ。

 

「彼女が何を見て、何を思って反転したのかは興味がありますが、残念なことにそれを暴く役者(ロール)は私達ではありません。ただ1つ分かることは、あの崇高は色彩と共に訪れた死の神(アヌビス)以上に()()()()()()だということ」

「世界を滅ぼす崇高以上のものだと?」

 

 マエストロの驚く声に、黒服は小さく嗤う。

 

「はい。あらゆる人間が死を恐れるのは死の果てを知らないからです。宗教を信じるのも同じ理由からです。ですが……このキヴォトスにおいて死は既に未知ではなく、既知となりました」

「千手トビラマの存在。そして、死者を蘇らせる忍術のことですね?」

「そういうこったぁッ!!」

 

 死後の世界がはっきりと分かる。

 人を殺しに殺してきた忍にすら、地獄は訪れない。

 それを知る者にとっては、死の()()は薄れるものだ。

 

「死を司る神も、種明かしをされればその力は弱まります。神秘とは、理解出来ぬからこそ神秘……クックック、私達が言うのもおかしな話ですがね」

 

 神秘を解き明かすゲマトリアが言うのも皮肉だがと、黒服は笑う。

 

「しかし、そうであっても死の神(アヌビス)は並大抵の神秘は寄せつけぬはず……それすら超える連邦生徒会長の崇高とはなんだ? 当てはついているのか?」

「想像程度は。ですので、ここで答え合わせをしたいのです……手伝って頂けますでしょうか? ベアトリーチェ」

「……アリウスについて聞きたいのですね?」

 

 連邦生徒会長の神秘の正体。

 それを解き明かす方法はアリウスでの行動にあると、黒服が告げる。

 

「いいでしょう。教えてさしあげましょう。何が聞きたいのですか?」

「なに、簡単な確認作業ですよ。アリウスの秘術、天使の顕現は狙って引き起こせるものなのでしょうか?」

「……そうですね。今の連邦生徒会長のように、意図して利用することも出来ます。私も、トリニティへの復讐のための武器として願うことで、兵器を用意しましたので。ですが、あの地……ニコメディアは元よりそうした現象(きせき)が起こりやすい場所。そして、長年のアリウスの愚かな怨念が溜まり、攻撃性や滅びといったものに指向性が向きやすくなっていますが……意図せずに発生することもある、言わば天災」

 

 かつては救いの奇跡が起こることもあった地。

 だが、その地は弾圧の血に染まった。

 そして、奇跡はアリウスのトリニティやゲヘナへの裁き(復讐)の願いへと変わっていった。

 

「やはりそうですか。自然現象を裁きに見立てて己が使役する……言わば神の真似事。いえ、()()()()()()。神への従属者ではなく、己が審判者となる傲慢。偽りの救世主(メシア)

「ええ。断罪、裁き、地獄。そうしたものは、崇高たる者のあり方ではなく単なる己の怒りの表れでしかありません。古来よりそれを声高に叫んできたのは、弾圧された弱者……自分達が相手に何も出来ないからこそ、死後の世界(妄想の中)で勝ち誇り、溜飲を下げる……」

 

 アリウスのことを思い出し、クツクツと笑うベアトリーチェ。

 そんな彼女を見て、マエストロが不機嫌そうに睨みつける。

 

「何がおかしい? ベアトリーチェ」

「いえ、少々思い出し笑いを……あまりにアリウスが滑稽だったもので。アリウスの掟は力が全て。自分の意志は力で示せという強者の法。だというのに、その教義は誰よりも神の裁きを……()()()()()を望むという歪んだものでしたから」

 

 弱い方が悪いと身内同士で争いながら、自分より強い相手(トリニティやゲヘナ)には弱者の救済(神の裁き)を求めるだけ。

 弱肉強食の掟に従うのならば、迫害ですら自分達(弱い方)が悪いで終わる話なのに。

 いざ被害者側になれば、厚顔無恥にも弱者救済を訴える。

 

 自分達に都合の良いだけの信仰。

 まるで、ベアトリーチェが『vanitas vanitatum』という解釈を都合よく捻じ曲げたように。

 

「これが笑わないでいられますか? 敵への神の裁きを望み、何百年も地獄に落ちるだの、血の報復だのを書き連ねていたというのに、彼女達を救ったのは地獄など無いと証明して、裁きの無意味さを証明した男だったなんて……実に皮肉ではありませんか?」

「……ベアトリーチェ、そなたの価値観の話はまた今度にしよう。今は黒服の話の方が大切だ」

 

 相も変わらず醜い価値観の持ち主だと、目線で唾を吐きながらマエストロが話を引き戻す。

 

「はい。ベアトリーチェの話は非常に興味深いですが、今は優先すべきことがあります。ベアトリーチェ、終末のラッパは全部で7度で間違いはないですね?」

「ええ、間違いありません」

「しかし、現在はラッパは6度しか吹き鳴らされていません。あれだけの短時間で鳴らせていたものが、最後の一回だけ止まるのはいささか不思議です……ワザと止めているのでもなければ」

「そういうこったぁ!」

 

 黙示録の記述とは違い、とんでもなく短いスパンで鳴らされたラッパ。

 しかし、最後の一回だけはピタリと止まっているのは、意図的なものとしか思えない。

 

「……恐らくですが、アリウスでは7回鳴っているのでしょう」

「アリウスでは? それはどういったことでしょうか、ベアトリーチェ?」

「先程、天災と申しましたが、意図して起こそうとするならば何事にも切っ掛けは必要です。アリウスの生徒の潜在的恐怖と不安を引き出し、幻術のようなものを見せたければ、まずラッパの音が無ければなりません」

 

 いきなり世界は滅ぶ! と言われても、アリウスの生徒も信じない。

 だからこそ、空を赤く染めた上で、天使のラッパに模した音を聞かせる必要があったのだ。

 

「なるほど……初めの一回は天使ではなく、呼び水として()()()()鳴らしたということですか」

「ええ。そして、ラッパは黙示録の通り7回だからこそ、恐怖を煽れるのです。仮に8回目を鳴らしてしまえば、勘違いだったという声も出て来るでしょう」

 

 あくまでも、7回が必要なのは黙示録を信じるアリウスだけ。

 他の学園やキヴォトス全土には、聞かせる必要が無い。

 故に、扉間達には6度の音しか聞こえなかったのだ。

 

「ベアトリーチェ、6度目のラッパを吹くと何が現れるかご存じですか?」

 

 しかし、黒服はその不完全さにこそ、神秘の正体を見だす。

 

「ええ、もちろん。人間の三分の一を殺すための赤色、青色、橙色の胸当てを着けた2億人の騎兵隊。それらを従える4人の御使。2人の神の証人。そして、()()()()()()()()()()()()()()……なるほど、そういうことですか」

 

 4人の御使。2人の神の証人。

 即ち、神より遣わされた6人。

 

「6度のラッパの音。6人の天使。6人の使い。これらが現れた後に深淵より()で来る獣……7人目は666(反キリスト)。ククク、奇しくもこの名を解き明かすものが、名を借りた数秘術(ゲマトリア)とは実に面白いものです」

 

 数秘術(ゲマトリア)

 それは文字と数字を適応させることで、隠された名を暴き出す秘術。

 

「連邦生徒会長の神秘は恐らくは、救世主(キリスト)。そして、それが反転することにより──」

 

 穢土転生で呼び出された5人とシロコ*テラーで6人。

 そして、最後の7人目。偽りの救世主。神を侮辱するために砕かれた十字架。

 それが。

 

 

「──()()()()()()()となったのです」

 

 

 黙示録の獣(アンチキリスト)だ。

 

「十字の神……なるほど、それならば死の神(アヌビス)をも超える神秘を持つのもおかしくはない。そして、死者の蘇生という奇跡も神の子たる崇高ならば出来ぬはずもないか」

「はい、神の子が人としての死を迎え、3日後に蘇りを果たした。そして、終末の日に全ての信仰者を蘇らせること。そうした死者の蘇生こそが、神の子への信仰の始まりであり、同時に終わりなのですから」

 

 最後の審判により世界は滅ぶが、正しき者達は救われ、神の国で蘇り永遠の命を得る。

 蘇りの崇高と、死の崇高。

 どちらの方が強いかは簡単に分かるだろう。

 

「なるほど、アヌビスの崇高が全ての命に死を与えるように、救世主の崇高は十字を信じる全ての者の復活。しかし、反転して獣になっているですか……己があり方が変質し、自らの信ずる神へ唾を吐きかけるようになるのは少々惨いですね」

「そういうこった!!」

「まあ、あくまでも私の推測でしかありませんがね。蘇りの崇高もあくまでも救世主(キリスト)のもの。反転した黙示録の獣(アンチキリスト)の崇高が同じかの確証はまだありません」

 

 反転した連邦生徒会長の正体。

 それに、当たりをつけた黒服に対して、マエストロ、ゴルコンダ、デカルコマニーが称賛の言葉を送る。

 

「それで…? 正体が分かったから、何だというのですか? 重要なのはその対策のはずです」

 

 だが、ベアトリーチェはそんな空気を読まずに、さっさと対策を言えと告げる。

 そんなのだから、嫌われているんだぞ? 

 

「ええ、あなたの言う通りです、ベアトリーチェ。もちろん対策は考えております。それは──」

 

 だが、黒服はそんなベアトリーチェの態度にも、落ち着いた態度で返す。

 まるで、自信がある故に慌てていないとでも言うように。

 その対策とは──

 

 

 ──突如として、黒服の顔の右半分が消し飛ぶ。

 

 

「ん……こそこそ、こっちを監視して目障り」

「そなたは…! 死の神(アヌビス)!?」

 

 否、シロコ*テラーにより消し飛ばされた。

 

「ここにどうやって…! 瞬間移動? いえ、箱舟の演算能力での転移ですか…ッ」

「そういうこったッ!!」

 

 ワープからの隙を与えぬ即殺攻撃。

 飛雷神と同じような動きで、黒服を襲ったのだ。

 別世界であっても、やはりシロコは卑の意志をしっかりと受け継いでいた。

 

「アヌビス……移動方法はともかく、どうやってこの場所を知ったのです──」

 

 ──パンッ! 

 

 ベアトリーチェの言葉を遮る銃声。

 会話などするつもりなどないという、冷淡な選択肢。

 

「クッ…クク……そういうことですか、並行世界というのは便利なものですね。こちらの私達が知らない間に、こちらの秘密を知ることが出来るのですから……少々のんびりとし過ぎていましたね」

 

 何とか一命を取り留めた黒服が嗤う。

 並行世界で一度でもこちらのアジトを突き止めれば、後は移動ごとにそこを調べればいいだけ。

 隠し事など出来たものではない。

 

「じゃあ──初めまして、さようなら」

 

 そして、ゲマトリアの悪事を知るシロコ*テラーは、引き金を戸惑い無く引ける。

 彼女にとって数少ない、消し去っても心の痛まない相手なのだから。

 

「なるほど……どうやら()()()()()()──」

 

 再び銃口が弱った黒服に向けられる。

 

 

「──ゲマトリアは終焉を迎えてしまいますね」

 

 

 乾いた銃声が何度も、部屋の中に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

「ウトナピシュティム以来ですね、先生」

「連邦生徒会長…!」

 

 スバル達と共にアリウスに戻った扉間を出迎えたのは、連邦生徒会長。

 そして。

 

「来てくれましたか、先生…!」

「ニコ、無事か?」

「はい、おかしなロボットの騎兵隊が現れましたけど、私達で何とか抑えられています」

 

 所々がボロボロになりながらも、何とか持ち堪えているFOX小隊。

 

「FOX小隊の皆さん、錠前サオリは…スクワッドはどこに?」

「他の場所に散らばったロボットを抑えに行っている。人的被害は最小限のはずだ」

「そうですか……では、私達はこのままFOX小隊さんの援護に回ります!」

「はい! スバル先輩!」

 

 ユキノからの返答に、少し安堵の表情を見せつつマイア達に指示を出す、スバル。

 FOX小隊を先頭に素早く扇状に陣営が組まれる。

 

「それより、何で会長が私達と敵対してるのよ!」

「そんなこと言いながら、しっかり撃ってるけどね?」

「アリウスを襲ってきている時点で会長でも犯罪者でしょ!!」

「あはは! 私達も警察だけど連邦生徒会襲ったから犯罪者だしね」

 

 そして、その中ではクルミとオトギが軽口を交わしている。

 しかし、その表情に一切の油断はない。

 相手が何者か分かっているからこそ、手が抜けないのだ。

 

「先程も言いましたけど、私はあなた達の会長ではありませんよ? 並行世界の人間です」

「先生…?」

「信じられぬやもしれんが、あやつはこちらの世界の連邦生徒会長ではない。ワシがこの星の人間ではないのを聞いたお前達なら、納得は出来んでも理解できるはずだ」

「あーはい……取り敢えず、敵と思っておきます」

 

 並行世界の連邦生徒会長ってなんだよ、と言いたいニコだったが、扉間という先例があるので取り敢えず言葉を飲み込む。

 

「しかし……妙だな」

「何がですか? 私達からしたら、妙な事しかないのですが……」

 

 銃を構える素振りすら見せない、連邦生徒会長を油断なく見ながら扉間は呟く。

 ユキノがその横で、まだ何か爆弾を隠し持っているのかという顔をする。

 

「砂の下に生き埋めにした状態から、どうやって抜け出て来た? しかも、ワシよりも早くアリウスに到達するなど……」

「生き埋め…?」

 

 扉間が真剣に理由を探る横で、オトギが殺人未遂…? と凄い目で見つめて来るが無視をする。

 生き埋めにしたけど、こうして元気にしているんだから問題はないだろ? (真顔)

 

「フフフ、教えてあげません。でも、先生なら()()()()()()()があるので分かると思いますよ?」

「ワシが? 地下空間から物理法則を無視しての移動など、瞬間移動でも使わねば……まさか…!」

「え! なに!? 何が分かったの!」

 

 自分がキヴォトスに来てからは、そんなことは出来ていない。

 だが、忍時代であれば、飛雷神の術を使えた時ならば、別だ。

 

「スバル! カタコンベの入り口を確認しに向かえ!」

「入り口を…?」

 

 扉間の思考速度についていけずに、戸惑うスバル。

 先程までの話と、カタコンベの入り口に向かう理由が繋がらなかったのだ。

 

「よく出来ました。では、答え合わせの時間です」

 

 連邦生徒会長が何やら前衛的(アバンギャルド)なデザインのボタンを押すと、爆音が遠くから轟いてくる。

 そして。何かがガラガラと崩れ落ちていく、嫌な音がアリウス一帯に響く。

 

「な、何が起きたんですか…?」

「あたしには分かる、今の音は何かが爆破された音だ…ッ」

「先生がカタコンベの入り口に行けって言ってったことは……」

「もしかして……入り口が破壊されました?」

 

 同じように状況を飲み込めていない、マイア。

 しかし、他のアリウス生徒との情報共有により事態が徐々に明らかになる。

 

「やはり…ワシをアリウスに閉じ込めるためか…!」

「はい、正解です。花丸をあげちゃいます」

「ど、どういうことよ?」

 

 頭の良い人達の会話の空中戦についていけないクルミが、説明を求める。

 それに対して、扉間は自分の落ち度だと唇を噛みながら、説明を行う。

 

「まず、あやつは時空間忍術……いやワープを使える」

「はぁ、ワープ!? じゃあ、何で今まで戦ってたのよ! さっさと逃げればよかったじゃん!」

 

 連邦生徒会長が行っていたのは、ウトナピシュティムの演算能力を利用した転移(ワープ)

 そして、クルミが言うようにワープ出来るのなら、FOX小隊とまともに戦う理由もない。

 背後から強襲をしかけるなり、逃げることも自由だ。

 だが、連邦生徒会長は真面目に正面から戦い続けていた。それは。

 

「いや……己自身が相手にとって無視の出来ない囮となり、ワシをアリウスにおびき寄せるためだ」

 

 囮役は私が行きます。先生に邪魔をされると後で面倒ですから。

 を、やるためだ。

 

「囮ですか…?」

「お前達も知っての通り、このアリウスは正解の入り口からカタコンベに入らなければ抜け出ることは出来ない。一定周期で入り口と道が変わるまでは、正解の入り口が封鎖されると行き来が不可能になる」

「まさか…! 先程の爆発音は…?」

 

 スバルが慌てて、入り口の方角を見やる。

 ここからでは確認できないが、きっと今の入り口は瓦礫の山になっているだろう。

 

「でも、そんなことしたら自分の逃げ道を塞ぐことになるんじゃ?」

「いや……思い出せ、クルミ。先生は会長がワープ出来ると言った」

「ッ! つまり……先生をアリウスに閉じ込めて、自分はワープで逃げる…?」

「はい、流石は私が手掛けたSRTの生徒ですね! ここは一つ、スーパーA.R.O.N.Aちゃん人形を進呈…したいのですが、今は持っていませんでしたね」

 

 パチパチと手を叩いて、まるで授業で生徒を褒める()()のように語る、連邦生徒会長。

 その姿は悪事を働いているようには、まるで見えない。

 

「私の考えが先生に読まれることも考えて、空間移動のことを隠していましたけど無事に成功してよかったです。先生なら私の不自然な移動から、答えに辿り着くかもしれないと思いましたが……」

 

 これで準備は整ったと、演算を開始して足先からワープしていく連邦生徒会長。

 イメージ映像は元太の消失である。

 

「でも……生徒の助けに応じない先生なんて、()()()()()()()()()()()、仮に罠だと分かっていてもこうして来てくれましたよね?」

 

 生徒を見捨てるわけないだろ! 私の先生が!! 

 この作戦は、そんな連邦生徒会長の地球程に重い信頼で構成されている。

 

「クッ! ワシを隔離して……何を企んでおる?」

「キヴォトスの滅亡、そして全生徒の死ですよ。先生?」

「なん…だと…?」

 

 人を殺す。

 生徒の口から最も聞きたくなかった言葉が出てきて、扉間は顔を歪める。

 

「協力者は私を入れて7人。既にキヴォトス中に散らばって、破壊活動を開始しています。先生が急いでここから抜け出さないと、アリウス以外全部滅んでしまいますよ?」

「何? リンからの緊急の連絡はないが……」

「フフ、残念ですけど先生がアリウスに来たタイミングで、アリウス全体をジャミング()()()()()()()()。外との連絡は取れませんよ?」

 

 残りが頭だけになった状態で、連邦生徒会長が嗤う。

 人類を禁忌の実に誘う蛇のように。

 

「早くここから出たいですよね? でも、残念。入り口はそう簡単には出られないように丁寧に破壊しました。真面目に瓦礫の撤去をしていたら、全部終わっちゃいますよ……()()()()使()()()()()()()

 

 忍術を使え。

 暗に、そう促しながら連邦生徒会長は姿を消す。

 

「忍術だと…?」

 

 その言葉を反芻しながら、扉間は連邦生徒会長の消えた場所を見続ける。

 

「いや……まずは、入り口の状況の確認だな。FOX小隊は救援の必要そうな場所を頼む。アリウス組はワシと共に入り口の確認に向かうぞ」

「はい、分かりました」

 

 混乱する頭を切り替えるように素早く頭を振り、扉間は足早にカタコンベの入り口に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「これは……粉々ですね」

「い、入り口がペシャンコに……」

 

 たどり着いた先で、スバルとマイアが見たのは粉々に砕けたカタコンベの入り口。

 

「カタコンベが地下にあるせいで、瓦礫の撤去も一苦労しそうですね」

「というか、これカタコンベ自体が崩れてるんじゃねぇか?」

「……肯定。大人しく、次の道に切り替わるまで待つのが最善かと」

 

 他のアリウス生徒達も言うように、トンネルが潰れたようなものだ。

 瓦礫を取り除くにしても、とんでもない時間がかかる。

 

「……どうだ、アロナ。外部との連絡は取れそうか?」

『……ダメです。あちらの連邦生徒会長が言っていたように、強力なジャミングが張られています。恐らくは、協力者のうちの誰かがやったのだと思いますが……』

「何とかならんか?」

『電波を遮断されているので、物理的にも電波的にも繋がれない状況です。せめて、ジャミングしている機械が見つかればいいんですが……』

「こういう時に、リオがおればな……」

 

 そして、扉間は外部から応援を呼ぼうとして、試してみるがアリウス全体がジャミングを受けているため、連絡がつかない。連邦生徒会長の絶対に扉間を閉じ込めるという強い意志を感じずにはいられない。

 

「……でも、取り敢えずアリウスが無事なら、慌てなくてもいいんじゃねぇか?」

 

 そんな所に、テンションの高いアリウス生徒がポツリとこぼす。

 

「……これが本当に黙示録の滅びの時なら、アリウスだけが神の国に招かれてトリニティやゲヘナだけが、底知れぬ獣と共に硫黄の燃える火の池に落とされます」

「も、もしかして、本当に裁きの時が来ているのでしょうか…?」

 

 信仰を行う者だけが救われ、信じない者が地獄に落ちる。

 今の状況はまさにその具現化だ。

 アリウスの生徒達の間に、自分達は大丈夫なのではという空気が広がる。

 

(なるほどな……だからこそ、ワシをアリウスに閉じ込めたのか。アリウス生なら、外の世界の危機には興味を抱き辛いと……連邦生徒会長の奴め、考えおるわ)

 

 アリウスは弾圧されてきた弱者。

 そして、人生に幸福などないと苦しい生活を強いられていた。

 故に、黙示録の滅びを誰よりも望み、死後に自分達だけが救われると信じて来た。

 その土壌を利用して、連邦生徒会長はアリウスが積極的に外に出ようとしないだろうと踏んだのだ。

 

「あなた達……これが黙示録の通りだとしたら、いずれ私達も死んでしまうのですよ?」

 

 そんな空気に気づき、スバルが注意をする。

 

「でも、それが救いだって教えられてきましたし……スバル先輩もそうですよね?」

「そ、それは…そうですが……」

 

 だが、マイアの無垢な瞳に見つめられて言葉に詰まってしまう。

 アリウスの教義に従えば、これは待ち望んだ事態。

 世界が滅んでも何も怖くない。

 彼女達はそうやって教えられてきたのだ。

 

 

「お前達、冷静になれ。死んだら、パフェやフライドチキンはもう食えんぞ?」

「「「「それは嫌です!!」」」」

「あなた達……」

 

 

 だが、扉間の美味しいものが食べられなくなるという言葉に、クルリと手の平を返す。

 結局、塩と油と糖が最強なんですよね? (byヒヨリ)

 

「覚えておけ。人間死ぬことなどいつでも出来る。だが、死んでしまえば、もう生きることは出来ん。ならば、生きている間に、やりたいことをやれるだけやってから死ね。僅かにでもやりたいことがあるのならば、それをやってからでも遅くはない」

 

 全ては虚しい。だからこそ、今楽しめることを全力で楽しむのだ。

 そうすれば、いつ死んだって満足して死ねる。

 

「それに諦めるのにはまだ早すぎる。何、案ずるな。世界の危機に立ち会うのはこれで2度目だ」

 

 1度目はマダラの無限月読計画の時。

 12月24日の、キリストの誕生日の1日違いに生まれた救世主のなりそこない。

 それがマダラだ。

 

 

「それは──(わたくし)も一度詳しく聞いてみたい話ですね」

 

 

 ふと、扉間の後ろから聞こえてくる()()()女性の声。

 その女の声を聞いた瞬間、スバルも含めたアリウスの生徒の全員が顔を青ざめさせる。

 

「え……な、なぜ……ここに彼女が…ッ」

「下がれ、スバル。お前達は全員、ワシの背中に隠れていろ」

 

 扉間はその声が誰のものかを瞬時に理解し、子供達を守るように女性の前に立つ。

 

「……二度とアリウスの地を踏まないという約束を忘れたか──ベアトリーチェ?」

「ええ、そこは重々承知しています。望むのなら謝罪もしましょう。ですが……(わたくし)()()()()()()()()()()()()()というのは、今のあなたにとっての福音ではありませんか? 千手トビラマ」

 

 赤い肌、無数の目。純白のドレス。

 かつてアリウスを支配していたゲマトリアの一員、ベアトリーチェ。

 

「何をしに来た……ベアトリーチェ」

「取引ですよ。並行世界からの不躾な来訪者に苛立っているのは、あなただけではないということです」

「取引?」

 

 余裕があるような声を出すが、その姿を見ればベアトリーチェにも余裕がないのが分かる。

 ベアトリーチェの姿は純白のドレスが所々破れ、血によってその肌よりも赤く染まっているのだ。

 そして何より、プライドの高い彼女がそれを隠す暇すらなかったという事実が、彼女が追い込まれていることを如実に示している。

 

「我々ゲマトリアとの一時共闘ですよ。並行世界から来た2柱の神を追い出すまでの。そうすれば、私はあなたがここから抜け出すための──」

 

 だが、余裕がないのは扉間も同じ。

 故に、ベアトリーチェは堂々と告げる。

 

 

「──天国への案内人となってあげましょう、千手トビラマ」

 




連邦生徒会長のヘイローは十字。
韓国はキリスト教国。

連邦生徒会長のスチル(電車内)では、ほとんどのイエス処刑画と同様に右の脇腹に小さな刺し傷のような出血がある(左胸の傷から飛び散った血かもしれないけど)。聖書には脇腹としか記述はないが宗教的な意味合いで9割がた右の脇腹。有名なロンギヌスの槍がイエスの死亡確認のために刺された位置。

(マタイ26・67-68)の記述「イエスは顔を打たれた」にあるように処刑前に受けたと思われる顔の傷がある。傷の詳細は不明だが、連邦生徒会長の右の頬には打撲痕。左頬には切り傷がある。

何故かどの絵でも手を組んで動かしている姿が見れないのは磔の暗喩? 見落としあったらすいません。電車内スチルだと手と足にも血がついてるけど、これは心臓から流れたものが滴っているような感じなので無理矢理かな。

以上から、連邦生徒会長のモチーフはキリストと仮定して書いています。
アンチキリストは単に反転したという意味。実際の意味とは違います。
実際は純粋にキリスト教に反する人達の意味です。

後、数秘術(ゲマトリア)とはヘブライ文字をヘブライ数字の法則に従って数値に変換し、単語や文章を数値として扱う手法です。
666はローマ皇帝、ネロ・クラウディウスの名前の数字の合計値になると言われています。

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次回は27日投稿。
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