千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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81話:穢土転生

 

 ゲヘナ某所。

 

「マコト先輩…! 緊急事態です!」

「分かっている。我がゲヘナに突如として現れた、虚妄のサンクトゥム(赤い塔)のことだな? 連邦生徒会や風紀委員会からも連絡が入っている。妙な敵が現れているらしいな」

 

 息を切らして、報告に来たイロハに対して、マコトは普段の勝気な笑みを潜めて頷く。

 マコトは普段は抜けている所があるが、有事の際はなんやかんや頼りになるのだ。

 

「だが、既に避難勧告を出して、万魔殿の主導で一般生徒(有権者)の避難誘導を行っている。面倒な敵の相手は空崎ヒナにでもやらせておけ。腹立たしいが、ゲヘナ最強は奴だ。万に一つも負けるわけがない」

 

 鉄火場に立たせるのは、風紀委員会。

 一見すると、いつもの嫌がらせに見えるが合理的な動きでもある。

 普段から荒事に慣れている人間を、戦場に立たせそれ以外のフォローはどちらかと言うと文官の自分達で行う。

 なんて、冷静で的確な判断力なんだ。

 

 

「──ヒナ風紀委員長が敵に居ます」

 

 

 だが、その冷静な判断力を一瞬でイロハがかき消す。

 

「………は? う、裏切ったのか!? なんだ!? 何が原因だ! あれか? 風紀委員会の予算を無理やり削ったことか? 誕生日にあんこ無しどら焼きを贈ったのが原因か? いや、それともこの前忙しそうにしてる時に、雑用を押し付けたのが不満だったのか!?」

「なんと言うか……それを聞くと裏切ったというより、正当に反抗しているように見えますね」

 

 思い当たる節が多すぎて、どれが原因か分からずに狼狽える、マコト。

 そんな姿に、イロハは緊急事態なのも忘れて思わず呆れてしまう。

 裁判になったら、マコトが完敗しそうである。

 

「とにかく、落ち着いて最後まで聞いてください。ヒナ風紀委員長が赤い塔を守っていますが、こちら側にもヒナ風紀委員長が居ます」

「何を言ってるんだ、お前は? お前の方が落ち着け、イロハ」

 

 そして、イロハがありのままの事実を話すと、マコトの目が心配そうなものに変わる。

 最近、すぐにサボるからと仕事を多めに投げすぎたかもしれない。

 

「私は正気ですよ。疑うのなら、ご自分の目で確認してください」

 

 そう言って、イロハは現地から送られてくる映像を端末でマコトに見せる。

 

「貸せ………確かに、ヒナとヒナが戦っているな。シングルヒナがダブルヒナに変わっているとは。見分け方は……相手側のヒナは()()()()()穴が空いている方だな」

「冗談を言ってる場合ですか」

「キキキ、偽物かコピーかは知らんが、こちらにヒナが居るのならば問題はない。見たところ、ヒナ以外は謎の雑魚敵だ。質で勝る風紀委員会も含めれば負けはない」

 

 お肌がガサガサになり、白目と黒目が反転した状態のヒナと、ピチピチお肌のヒナ。

 その実力は互角のように見えるが、多勢に無勢。

 ヒナを含めた風紀委員会総出で押し切られれば、流石の穢土転生体のヒナも勝てない。

 通常ならば。

 

「……マコト先輩、敵のヒナ風紀委員長をよく見てください」

「ん?」

「頭を撃たれようが、足を撃たれようが()()()()()()()()()

 

 イロハが指し示した先。

 それは、明らかにノーダメではすまない攻撃を食らった敵のヒナの体が、塵になる光景。

 そして、塵が再び集まり、何事もなかったかのように元の姿に戻る様子があった。

 

「……まさか無限再生か?」

「詳しいことは分かりません。ただ、何度やっても相手に致命的なダメージは与えられない。そして、相手は疲労している様子も見られない、何度か、謎の雑魚敵から弾薬の補充をしている姿は見られましたが、それだけ。その代わり、こちらのヒナ風紀委員長は疲労しています。このままだと──」

 

 そう、相手のヒナは穢土転生体。

 こちらのヒナと互角であろうと、否、仮にこちらの方が強くとも。

 

 

「──当然、持久戦になってこちらのヒナ風紀委員長が負けます」

 

 

 永遠に倒れない敵を相手に持久戦など、勝てるわけがない。

 

 

 

 

 

 ミレニアム某所。

 

「リオ様、緊急事態です! エリドゥが何者かによってコントロール権を奪われました!」

「なんですって!? カヤ防衛室長から連絡のあった連邦生徒会長? それとも、並行世界のA.R.O.N.A?」

 

 リオの秘密兵器である“城塞都市エリドゥ”が何者かに奪われた。

 トキからの報告に、驚きながらも即座に犯人の特定を行おうとする、リオ。

 

「いえ、まず、すべきことは……ヒマリ。頼めるかしら?」

「ええ、ハッキングでコントロール権を奪い返すのですね? 誰が相手かは知りませんが、この天才ハッカーに喧嘩を売ったことを後悔させてあげます」

 

 そして、阿吽の呼吸でヒマリにバトンパスをする。

 やっぱり、姉妹のコンビネーションは完璧ね。

 

「にはは! パスワードの解析は任せてくださいって……あれ? 私の端末が動きませんね?」

「コユキ? いえ、待って、これは──」

「──こちらにウイルスを送り込んで、端末を使えなくするつもりですね!」

 

 ウィルス攻撃。

 セキュリティーを軽々と突破しての、攻撃。

 だが、その程度でやられるようでは、天才ハッカーの名が泣く。

 

「ですが、甘いです。チョコレートケーキにはちみつをぶちまけるより、甘いですね。その程度のウィルスで、この超絶美人ハッカーを止められるとでも?」

 

 コユキの端末を借り受けると同時に、ものの数秒でウィルスを除去してしまう、ヒマリ。

 

「フフフ、朝飯前ですね。この程度なら別に私でなくても──」

「ア、アリスの携帯が何だかおかしなことに!?」

「まさか、アリスの携帯にもウィルスが? 一体何の意味が…?」

 

 指示通り、大人しくしていたアリスの携帯が機能停止に追い込まれる。

 致命傷ではないが、地味に困る攻撃ではある。

 だが、リオが訝しむようにわざわざ単なる携帯を、攻撃する理由もない。

 

「リ、リオ様、私の連絡用の携帯も動かなくなっています」

「会長! すみません! 急に携帯が動かなくなって、各所に連絡が取れなくなって…! 代わりの連絡手段を取ろうと思っても、全部ダメで!」

「私やユウカちゃんだけではなく、色々な所から同じような声が聞こえます」

「トキだけでなく、ユウカやノアまで…!? それに他の生徒の分も…?」

 

 しかしながら、攻撃はそれだけで終わりではなかった。

 現在、対策に動いている生徒。

 そして、それ以外の生徒の持っているデータ端末も同じ。

 完全な無差別テロだ。

 

「トキ、貸してください」

「はい」

「……やはり、ウィルス自体は私からすれば、大したものではないですね。ただ、とにかく広範囲に、そして普通のセキュリティー程度は突破できるもの……こちらの混乱と時間稼ぎが狙いということですかね」

 

 セキュリティーに強い人間からすれば、造作もない攻撃。

 だが、そうでない人間にとっては、混乱を起こさせる程度の攻撃。

 それは軍人ではなく、民間人を戦いに巻き込むようなものだ。

 

「ですが、普通の生徒の個人の携帯までどうやって把握を? ウィルスを送ってくる以上は、データ的繋がりが必要のはず……それにいくら混乱を起こすためだとしても、ミレニアムの全てのデータ端末を調べるなんて、そちらの方が時間がかかるはずです」

「まさか……」

「リオ?」

 

 リオの頭の中に、最悪の可能性がよぎる。

 ミレニアム中の全データと情報、これらの出所を追跡できるシステム。

 そして、これを利用することでの個人を特定する能力。

 そんな機械を使えば、同時にミレニアム中のデータ端末にウィルスを送ることが可能なのだ。

 

 

「──()()()()()()()アルゴリズム」

 

 

 自身の名を冠した、ミレニアム全てを監視するためのシステム。

 全ての生徒の趣味や望みが分かれば、より良い学園生活を提供できるのでは? 

 などという、クソ真面目な理由から作られた、クソヤバいシステムだ。

 プライバシー? 何それ、美味しいの? な産物である。

 

「ビッグシスターアルゴリズム? 何ですか、それ?」

「………ミレニアムに存在する全データと情報。これらの出所を追跡できるシステムよ。データセンターの私以外は入れない最深部に存在するわ。これを応用すれば、ミレニアムの全てのデータ端末にウィルスを送ることも可能よ」

「はい!? そんなとんでもないもの聞いたことありませんよ!? 会長!」

「私の記憶にもありませんね……リオ会長?」

 

 コユキはもちろん、セミナーに長くいるユウカもノアも知らない存在。

 当然、疑惑の目がリオに向く。

 

()()()()()()()アルゴリズム……まさか、あなたが作ったと言う訳じゃありませんよね?」

「……そのまさかよ」

「この…! 最近は道頓堀になったと思っていましたが、ガンジス川に格下げですね!! 自分が何をやっているのか理解しているんですか!?」

 

 自分もハッキングで好き勝手情報を抜くが、流石にそんな規模ではやらねぇよと声を上げるヒマリ。

 どっちも犯罪? それはそう。

 

「言い訳になるかもしれないけど、最近は使っていなかったわ……そんなデータを収集するよりも、妹達と関わっていく方が大切だったもの」

「だったら、さっさと廃棄しなさい!」

「いずれはそうするつもりだったわ……いえ、今は何を言っても言い訳になるわね」

「会長! これどうするんですか!? そもそも予算はどこから出したんですか! エリドゥの件は、避難施設という名目で一応納得しましたけど、申請されてないものは許しませんからね!!」

「そ、それは……」

 

 妹達にフルボッコにされて、ちょっと涙目になるビッグシスター。

 良かれと思ってやったことが、逆に弟や妹を傷つけることになる。

 草葉の陰でイタチ兄さんも分かるってばよ、と頷いている。

 

「みなさん、会長の処分は後回しにしましょう。今は、状況に対処しないといけませんよ?」

「そうですよ! 大体、横領の何が悪いんですか? 人間誰しも一度は申請漏れぐらいしたことありますって」

「……そうね。ノアの言う通り、後にするわ。会長とコユキの説教は」

「なんで私も!?」

「だって、叩けば余罪がいくらでも出てきそうだもの」

 

 会長は通さない。コユキも通さない。2人そろって正座だ。

 

「……ですが、そんな大切なものをどうやって敵は見つけたのでしょうか?」

「確かに、アリスの言う通りですね……言われてみると、この病弱天才美少女ハッカーどころか、チーちゃん達も欠片も気づいていなかったとなると、非常に腹の立つことに逆探知などの対策もバッチリなようですね」

()()()は知らないはずよ……いえ、単なる仮定ね、それは。どこからか情報が漏れたからこうなっているもの」

 

 自分以外は知らないはずだったビッグシスターアルゴリズムが利用された。

 その事実に、動揺しながらも様々な可能性を思考する、リオ。

 と、そこへ──

 

 

『不確定要素は全て排除するわ。最大の変数も含めて』

 

 

 ──()()()アバンギャルド君が壁を突き破って現れる。

 

「ッ! みなさん、下がってください! ここは私が出ます!」

 

 データ端末の全てにウィルスを流したことでの、警備システムの停止。

 故に、奇襲に気づけなかったのかと、トキは唇を噛みながら漆黒のアバンギャルド君の前に立ち塞がる。

 

「あれは…! まさか…!?」

「またですか? 今度は何をやらかしたのですか、リオ!?」

 

 黒いアバンギャルド君を見て、息を呑むリオにヒマリがキレ気味に聞く。

 今度は何をやらかしたのだと。

 

「──アバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)!!」

「大変です! リオ先輩が先程の襲撃で頭を打ってしまいました!」

「アリス…? いえ、私は無事よ。怪我はないわ」

 

 真顔で、アバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)と叫ぶリオに、さしものアリスも正気を疑う。

 だが、本人は天然気味に、自分の体を見回して怪我はないはずと頷くだけだ。

 

「まさか、横領してあんなものを作ったんですか、会長!?」

「腕が6本…顔が3つ…Asura…確かに阿修羅像に似せてますね……」

「な、何と言うか……変な顔が3つも並んでると怖いですね」

 

 黒いアバンギャルド君の正体。

 それはアバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)

 扉間の仏像みたいという言葉を元に考案されたものだ。

 

「また秘密裏に作っていたものを敵に奪われたんですか!? このデカい妹は!! さっきから余計な事しかしてませんね、本当ッ!!」

「見た目に誤魔化されないでください、みなさん。アバンギャルド君はどれも、とてつもなくダサい顔ですが、その性能は折り紙付きです」

 

 また、面倒なものを敵に利用されたのかとキレるヒマリに、若干冷や汗をかくトキ。

 2人共、リオの有能さを知っているからこそ、状況が不味いと分かっているのだ。

 

「待って頂戴! アバンギャルド君は芸術…いえ、それは後! アバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)だけど、あれは──現状だと私の頭の中にしかないはずのものよ?」

 

 しかし、リオは困惑した顔で否定する。

 アバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)は構想段階で、まだ開発に着手していないのだと。

 

「は? じゃあ、なんですか? あんなものを作る酔狂な人間があなた以外にこの世に存在するとでも? バカも休み休み言ってくれませんか? 胃もたれしてしまいます。あなた以外いるわけないでしょう」

『……流石はヒマリね。一瞬で、私の正体に気づくなんて。でも、()()()に存在するというのだけは間違いね』

「はい?」

 

 アバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)につけられたスピーカーから、声が響く。

 それは、他ならぬリオの声。

 ヒマリの目が点になる。

 

「会長?」

「わ、私じゃないわ……私の声のデータをもとにAI出力を?」

『理解力がないわね。あなたがそんな低能だから、()()()()()()()()()()()()()──調月(つかつき)リオ』

「!? その言い方……それに先生の言っていた並行世界……まさか……」

 

 ヒマリとは打って変わり、リオには苛立ちの籠った声を投げかけるアバンギャルド君Mk.Asura(アシュラ)

 そして、言われたリオだからこそ、察する。

 このような暴言を自分が吐くとすれば、それは──

 

 

「──並行世界の私…?」

『ええ、そうよ。そして、あなた達と()()()()()を滅ぼす存在でもあるわ』

 

 

 自分自身しかいないと。

 

 

 

 

 

「ぶ、部長が遂に分身の術をマスターしました!」

「す、すごいですね。いつのまに……」

「え? え? (あたし)がなんで増えてるのぉ!? なにこれ、こわっ!」

 

 百鬼夜行某所。

 突如として現れたもう1人のミチルの姿に、忍術研究部がざわめく。

 

「え? 部長の術ではないのですか?」

「違うよ! (あたし)、あんなにお肌ガサガサじゃないよ! 目も何だか怖いし!」

「じゃ、じゃあ、もしかして、ドッペルゲンガー…?」

 

 お肌がカッサカサの穢土転生体を指さして、全然違うと告げる、ミチル。

 そもそも、新しい忍術が出来るようになったら真っ先に2人に見せている。

 

『イズナ…ツクヨ…』

「うわ! しゃべった!?」

「声までそっくりですね……でも、ちょっと大人びているような?」

「……なんだか、悲しそう?」

 

 そして、そんな穢土転生体のミチルはイズナとツクヨを見て、悲しそうな眼を見せる。

 

『守ってあげられなくて、ごめんねぇ』

「何のことでしょうか…?」

「あれ…? よく見ると、あちらの部長の額当てが傷ついています……」

「……何があったの? (あたし)

 

 斜線が引かれた額当て。

 そして、黒い瞳に映るのは後悔。

 部長として後輩を守ってやることの出来なかった情けなさ。

 そんな様々な物がごちゃ混ぜになった感情。

 

 

『この世界の(あたし)──2人を連れてキヴォトスから逃げて』

 

 

 逃げろ。

 自分の理性が僅かにでも残っているうちに。

 穢土転生体のミチルは辛そうにそう告げる。

 

「ほぇ? 急にどうしたの、(あたし)

「! 待ってください、何かを懐から取り出しました! あれは……本?」

「“忍者本”って書いています」

(あたし)達がコミセンで作ろうとしてるやつじゃん!」

 

 スッと穢土転生体のミチルが懐から取り出したものは、()()()

 それはかつて、忍術研究部と──()()()()()()扉間と一緒に作ったもの。

 そう、彼女は。

 

『そっかぁ、まだこの本を作ってないんだねぇ。じゃあ、先生殿のお墨付きの(あたし)オリジナルの忍術を教えてあげる』

 

 トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ? 

 かつて、そんなこと言っていた世界のミチルなのだ。

 

 

『忍法・音分身の術!』

 

 

 なるほど……相手の聴覚を奪う術か。耳栓をした上で装置で人数を増やして大声で……いや、ウタハに頼めば音響弾を使う時の音を出せるようにすれば。

 あ、それなら音響弾そのものが分身すれば、いいんじゃない? 

 手裏剣分身の派生か。悪くない。質量は無理でも音が増やせるのなら、音響兵器にとっては影分身といっても差し支えないな。いや、音分身の術と名付けるべきか。良い発想だ、ミチル。忍者本にオリジナルの術として載せるといい。

 え!? 先生殿のお墨付き? やった~! 

 

「……へ?」

『──逃げて』

 

 ──幸せの記憶を壊す爆音が百鬼夜行の空に響き渡る。

 

 

 

 

 

「ミカ…! 何をやっているんだい…!?」

『あは、セイアちゃんだ☆ こっちのセイアちゃんは元気そうで羨ましいなぁ』

 

 トリニティ某所。

 普段ならば荘厳な雰囲気が広がる、トリニティの校舎。

 だが、今そこは血と暴力に支配されていた。

 

「何を言って……いや、違う。単刀直入に聞こうか。()()()()()()?」

『えー、おかしなことを聞くね、セイアちゃん。もちろん、聖園ミカだよ?』

 

 倒れ伏す、ティーパーティーの生徒。

 警護についていた正義実現委員会の生徒。

 血に塗れた純白の羽。

 そして何より──

 

 

「黙りたまえよ。私の知る聖園ミカは──()()()()を手にかけて、笑っていられる程強くはない」

 

 

 ──ミカに首を掴まれ、吊り上げられたナギサ。

 白い制服が血で染まったナギサの腕は、ダラリと力なく垂れ下がっていた。

 

『キッショ☆ なんで分かるの? ()()()()未来視?』

「勘というものだよ。そして、今の君の言葉で更なる確信を得たよ。君の知識はどういうわけか、今現在のミカのものよりも遅れている。どうやら、体や顔を完璧に真似られても、内なる記憶というものは代えられないようだね。君のおかげで、心というものが肉体に宿るのではなく魂に宿るのだと理解出来たよ。感謝しよう」

 

 目の前にいるのは、自分の知る聖園ミカではない。

 ハッキリとそう言い切るセイアに、穢土転生体のミカは狂ったように笑う。

 まるで、魔女のように。

 

『アハハハ! その無駄に長ったらしい話し方懐かしいなぁ……何を言ってるのかは分かんないけど、私を煽ってるつもりかな?』

「君のような単純な頭でも理解できたようで何よりだ。私の口からティーパーティーに相応しくない罵倒の言葉を吐かねばならないのかと、ヒヤヒヤしたよ」

『本当……イライラするなぁ。やっぱり、()()()()()()()()じゃんね☆』

「私の友人の顔で、それ以上聞くに堪えない音色を垂れ流さないで貰えるかな? 私の自慢の耳が4つとも腐り落ちてしまいそうだ」

『別にいいじゃん? キツネなんて、皮を剥がれて絨毯になるのがお似合いでしょ?』

 

 セイアの全力の皮肉に、同じように皮肉を返す穢土転生体のミカ。

 その頬には返り血が付着しており、ヘイローからも血のようなものが滴り落ちていた。

 

『いいよ、じゃあナギちゃんは後回しにして、先にセイアちゃんからやってあげる☆』

 

 ポイッとゴミのようにナギサを放り投げ、セイアに向き直る穢土転生体のミカ。

 その表情は、天使ではなくまさしく()()のものであった。

 

「過信…軽率…それが君の弱点だよ」

『? 何を言って──』

 

 ナギサを解放した穢土転生体のミカを見て、セイアがニヤリと笑う。

 人質を解放した以上は、もう何も遠慮する必要はないと。

 

 

「──私の大切なナギちゃんに何してるの! この偽物ッ!!」

『──私ッ!?』

 

 

 ミカの瓦礫(メテオ)が容赦なく、穢土転生体のミカを吹き飛ばす。

 やはり、質量。質量こそが最強の暴力。

 

「ナギサ様! ナギサ様ッ! ご無事ですか!?」

「落ち着け、ヒフミ。呼吸もあるし、脈もある。すぐに救護騎士団に任せれば大丈夫なはずだ」

「私がみんなの応急処置をするわ…! 大丈夫、正義実現委員会で習ったことがあるから!」

「ミカさんが2人……偽物? ですが、声も姿も同じ……変化?」

 

 ミカに続き、ナギサの下に駆け寄ってくるのは、補習授業部の面々。

 ヒフミ、アズサ、コハル、ハナコ。

 

『痛たた……そっちの私はいいなぁ、たくさんの()()()()囲まれて楽しそうにしてさぁ……』

「ミカ様、あちらが偽物ですね?」

「うん! 本物の私はこっちだよ!! 私がナギちゃんを傷つけるわけないじゃん!」

「ヒヒヒ! 可愛い後輩達の敵討ちでもするかぁッ!」

 

 さらに後ろから続いてくるのは、ハスミ、ツルギが引き連れた正義実現委員会達。

 騒ぎを聞きつけて、応援にやって来たのだ。

 

「ミカ様を驕る()()()()()は、正義の名のもとにうち滅ぼします!」

「ツルギ委員長! 怪我人の回収は完了したっす! いつでも始めちゃってください!」

『魔女かぁ……ふふふ! アハハハハ! 聞き飽きた響き!!』

 

 メテオに吹き飛ばされたが、塵になって再び元の姿に戻る穢土転生体のミカ。

 その顔はおとぎ話の魔女のように、意地悪く歪んでいた。

 

『ねぇねぇ、教えてよ、()。そっちの()と私は何が違うのかな? 何を間違えたのかな? セイアちゃんをアリウスに殺させちゃったとき? ナギちゃんを殺しちゃったとき? それとも、ゲヘナと全面戦争を起こしたとき? ねえ、答えてよ──聖園ミカ』

「…ッ! どういうこと…? なんで…?」

 

 ほとんどの人が知らない、そうなるかもしれなかったミカの過去。

 それを堂々と語る。穢土転生体のミカにこちらのミカは動揺する。

 目の前の存在は、ただ単に誰かが自分に化けているのではないと、直感して。

 

「ミカ……いや、この場に居る全員に言おう。難しく考える必要はない。相手が不可解な存在であることに変わりはないが、やるべきことは1つだ。目の前にいるのは我らがトリニティの敵だ。私達の愛する同胞を傷つけた存在……ならば、為すべきことは分かるだろう?」

 

 敵を討ち滅ぼせ。

 動揺するその場を引き締めるために、トリニティの頂点として声をかける、セイア。

 

「これで君は多勢に無勢だが……なに、そちらは宣戦布告もせずにこちらを攻めて来たんだ。よもや、卑劣とは言わないだろうね?」

「みなさん、気を付けてください! 先程のミカさんの攻撃の後に、体が自動修復していたのを考えると……こちらの攻撃が効かない可能性が高いです」

「なら、捕縛だな。安心してくれ、体の動きを完全に止める縛り方はアリウスで習っている」

 

 戦闘力はこちらのミカと同等程度。

 そして、自動回復するかもしれない相手。

 だが、所詮は1人。ツルギにハスミもいるこちらは、質と量で勝る。

 ならば、捕縛することは十分可能だ。

 ハナコとアズサの冷静な発言に、その場の者達が勇気を奮い立たせる。

 

『ふーん……そっか。じゃあ──こっちも数を増やすじゃんね?』

 

 だが、そんなアズサ達を穢土転生体のミカは、馬鹿にしたように笑う。

 

 

 

 “──大人のカードを使う”

 

 

 

 両手の人差し指と中指を、十字架を立てるようにクロスさせる、穢土転生体のミカ。

 その印は、うずまきナルト物語で最も使われた術を示すもの。

 

『多重影分身の術☆』

 

 大量の煙が辺りを埋め尽くす。

 そして、その煙が晴れたとき、そこに居たのは。

 

 

『『『『『『これで多勢に無勢だけど……まさか卑劣だなんて言わないよね?』』』』』』

 

 

 辺り一帯を埋め尽くす、大量の聖園ミカの姿だった。

 

 

 

 

 

「──誰ッ!?」

 

 アビドス某所。

 赤くなった空の下、何が起きたのかと学園周辺をパトロールしていたホシノは、バッと後ろを振り返る。

 何者かが背後についてきている気配がしたのだ。

 

「やっほー! 久しぶりだね、ホシノちゃん」

「………え」

 

 懐かしい声、ずっと探し求めていた新緑の髪。

 まるで幽霊でも見るように、ホシノの瞳が震える。

 

「えーと……あ、そうだ!」

 

 固まったまま動かなくなるホシノの様子に、死んだのだから当然かと思う、緑髪の生徒。

 そして、凝り固まった空気を溶かすために、ちょっとした冗談を思いつく。

 アイスブレイクって大切だもんね! 

 

 

「うらめしや~……なんちゃって?」

 

 

 腕を前にして、幽霊のポーズを取りながらそんなことをのたまう、アホ。

 死人に梔子(くちなし)…違った、死人に口なしの方がマシな行いである。

 故に、そんな(ユメ)のような光景を見た、ホシノは。

 

「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「へ?」

 

 流れるような動作で、自分の頭にショットガンを撃ち込むのだった。

 

「ホ、ホシノちゃーんッ!?」

 

 穢土転生、梔子ユメ。

 アビドスの最大戦力の無力化に成功。

 




???「このエドテンとかいう術……気にくわねェ!」

穢土転生体の説明

ヒナ:ゲヘナ枠で雷帝出したかったけど、顔すらわからないのでヒナに。
   バッドエンドスチルが元ネタ。
リオ:アリスと悩んだけど、能力のアトラハシースが被るので、リオに。
   ビッグシスターアルゴリズムという悪用できる物を公式が出したのが悪い。
ミチル:「トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ?」の世界から出演。
    おまけ「トビラマ先生殿、ちょ~っとお時間貰っちゃうねぇ?」
    おまけ『私のブルーアーカイブ』に書き換えたのは、滅びの暗喩。
ミカ:バッドエンドスチルが元ネタ。
   魔女ミカの目って良いよね? というわけで、書きました。
ユメ:元ネタのオシリスって元は植物の神らしいんですよね。
   さらに、馬鹿で夢見がちだけど、自分の夢はまっすぐ曲げない諦めの悪い子。
   柱間ポイントがやたらと高いので何とか出したいと思い、穢土転生になりました。

因みに、敵は以前後書きに書いたヒロイン7人の案もあったのですが、ハナコとカヤの頭脳枠が「それ、全部私で良くないですか?」という連邦生徒会長のありがたいお言葉で、潰えたので没に。

これで、今年の更新は最後です。
次回は、1月3日に投稿します。
それではみなさん、よいお年を。
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