「やっほー、リンちゃん。元気にしてた?」
「会…長…!?」
穢土転生と虚妄のサンクトゥムにより、混乱に包まれるキヴォトス。
その中心たるサンクトゥムタワーに、勝手知ったる態度で連邦生徒会長が現れる。
「いえ……違いますね。あなたはこの世界の会長ではないですね」
「ふふ、流石はリンちゃん。ご名答! やっぱりバレちゃうか」
しかし、それは真の主ではない。
偽物の主だ。
サンクトゥムタワーの主はお前ではないと、リンが銃を突きつける。
「どうやってここまで…? 一体どこから? 全ての入り口には警備の者が居たはずですが……」
「あはは! おかしなことを聞くね、リンちゃん。私の城に入るのに、裏口から入らないといけないって理由はあるのかな?」
「まさか警備の者を…!?」
正面から突き進んできたと告げる連邦生徒会長に、最悪の事態を想定する、リン。
しかし、連邦生徒会長は笑いながら首を横に振る。
「ううん。そんなことしなくても、私は会長なんだよ? 私がこの世界の人じゃないって気づいたのはリンちゃんが初めて。後は、通してって言ったら通してくれたよ?」
違いと言えば服装ぐらいなのだが、今はそれも連邦生徒会の制服に変えているため違いはない。
行方不明だった会長が、突如として帰還をしたことに驚きはすれど、敵と思って排除しようとは思わない。
本人しか知らないことを確認しようにも、失踪前のことしか聞けないので並行世界であってもバレることがないのだ。
「混乱をするのを恐れて、私のことは末端には伝えてなかったのかな? まあ、そうだよね。キヴォトスの頂点がキヴォトスを破壊しようとしてるなんて、言えるわけないもんね」
「…ッ! 本当に、あなたが私達の敵になるのですね……」
「うん、そうだよ。でも……どうして、リンちゃんだけは私が違うって気づけたのかな? 先生に見分け方でも聞いてたの?」
かつて連邦生徒会に居たときと同じ、気楽な感じの会話。
そんな空気に全く合わない、明るい表情で連邦生徒会が尋ねる。
「いくら似ていても──友人かそうでないかぐらいは見分けがつきます」
「そっか……そうだよね……」
友達の顔ぐらい分かる。
そう告げるリンに、一瞬だけ悲しげな表情を見せる連邦生徒会長。
何故なら、リンの言葉は連邦生徒会長との友情と、ここに居る自分は友ではないということを示しているからだ。
「答えてください。ここに何の目的で来たのかを」
「ちょっと“ウトナピシュティムの本船”にトラブルが起こってね。サンクトゥムタワーの方から動かせないか試そうと思ったんだ」
リンの方もクソゲーインストールのことは知っているが、まさかそれが結構な成果を上げているとは思ってはいないので、シリアスな顔で見つめ続けている。
「後は
「説明?」
今まで消えていたはずの連邦生徒会長の説明。
間違いなく注目される中で、何を言うつもりかとリンの眉間に皺が寄る。
「そう。例えば、ヴァルキューレに今起きていることは
「っ! 偽の情報で、私達を混乱させるつもりですか!?」
「うん。私は先生に教えてもらったから。どんなに小さな力でも、繋がって協力し合えば大きな力になるって──だから、その繋がりを無茶苦茶にするね?」
連邦生徒会長のもう1つの目論見。
それは、偽の情報を流すことで生徒達を混乱させること。
そして、生徒を纏められる扉間への不信感を植え付けることだ。
大人のカードを使えば、扉間が自由に生徒を呼べるのは一部生徒は知っている事実だ。
つまり、穢土転生達の破壊活動の罪を扉間の仕業だと誤認させるのだ。
扉間をアリウスに隔離したのは、このためでもある。
え? 扉間の名誉? 先生の味方は
「成功してみんなが信じてくれれば良し。失敗して、みんなが信じてくれなくても、情報が錯綜してくれれば、それだけ動きが鈍くなる。連邦生徒会長の言葉はそれだけ重いからね」
「お言葉ですが、
「うん、そうだよね。だって、私の先生は凄いんだから」
邪魔をされても、それはそれ。
と、フルフルと顔を振ってニィと笑う、連邦生徒会長。
この程度で先生がやられるなんて解釈違いです(真顔)。
「だから、先手先手を打って私に出来ることは全部やらないと。リンちゃん、無駄な抵抗はやめてサンクトゥムタワーを明け渡して?」
「……そうですね。先手を打つことは大切です。今の会話の間に、サンクトゥムタワーに居る全ての生徒に
緊急用の警報を既に鳴らしていると告げる、リン。
だが、連邦生徒会長はそんなリンを楽しそうに見つめるだけだ。
「警報? 私を倒すため? 連邦生徒会長である私と、代理のリンちゃんだったら、どっちの指示に従うかな。それに、もし戦うことになったとしても……
所詮、お前達は私が動かすために用意した手足に過ぎない。
そう、意地悪く告げる連邦生徒会長。
しかし、リンは間髪を入れずに切り返す。
「いえ、サンクトゥムタワーの自爆機能の作動を知らせる警報です」
「自 爆 機 能 ?」
何それ、私知らない。いつの間につけたの?
まさかの自爆発言に、流石に虚を突かれる連邦生徒会長。
「先生がサンクトゥムタワーの自爆をカヤ防衛室長に提案した時は、カイザーグループが仮想敵でしたので、他にも対策方法はあると却下されましたが……連邦生徒会長というサンクトゥムタワーの主が敵ならば話は別です。あなたがここに来れば、キヴォトスの全てを把握できることを私達は誰よりも知っています」
スッと眼鏡を外し、
お前だけは、ここで道連れにしてやるとばかりに。
「しょ、正気ですか!? 今ここで自爆したら、リンちゃんも瓦礫に潰されて死にますよ!」
「私は連邦生徒会の首席行政官であり、現在は連邦生徒会長代行でもあります。キヴォトスの平和を守るためならば、何でもする。あなたではない、あなたから教わったことです」
「私にはここから逃げる手段もありますよ? それに他の子は?」
「サンクトゥムタワーを使えなくするだけでも十分です。連邦生徒会の行政権をあなたに握らせるわけにはいかないので。それと、そのための避難警報です」
リンちゃんが用意した爆弾、その数何と6千億発(※自己申告)。
並行世界の連邦生徒会長をしとめるために、10分間起爆し続ける(※自己申告)。
「それでは──」
「やめ──」
「さようなら。並行世界とはいえ、最後にあなたの顔が見られてよかったです……会長」
その言葉を最後に、サンクトゥムタワーが爆炎に包まれるのだった。
『『『『『あれれー? あんなに威勢が良かったのに、もう終わり? つまんないじゃんね☆』』』』』
サンクトゥムタワーが自爆していた頃。
トリニティでも同じように、地獄絵図が作られていた。
膝をつく補習授業部や、倒れ伏す正義実現委員会達。
それを囲む、無数の穢土転生体の聖園ミカ達。
「本体は攻撃しても効かない……分身はダメージを受ければ消えますが、また増えていく」
「ハ、ハナコ…! あんた、何か解決策とかないの!?」
「………今、考えています」
最初は優勢だったトリニティ側だが、今、まともに立てているのはミカやツルギやハスミといった実力者の少数だけ。コハルやハナコも少なくない傷を負っている。
「ハナコ。本体が分身を増やしている以上は、やはり本体をどうにかするしかない。“忍者ニンペロさん”で見たことがある」
「はい! ここは、何とか周りのミカ様を消して、本体のミカ様を抑えられる人に捕縛してもらいましょう!」
それでも、アズサとヒフミは希望を失わずに、諦めないと声を上げる。
忍者ニンペロさんでも、忍者にとって大切なことは諦めないド根性だとやっていた。
「それを……誰が出来るのですか?」
しかし、ハナコはそんな2人の言葉に、悲観的な返事をする。
「ミカさんとツルギさんの2人がかりならいけるかもしれません。ですが、今現在の戦力だと増え続ける分身のお邪魔ミカさんを排除することが出来ません」
「お邪魔ミカって……その通りだけど、自分の名前で言われるのはちょっと傷つくなぁ」
「耐久力は一撃で消えるが、攻撃力はミカ様と同じ……私達以外だと足止めも難しい」
ミカはトリニティの最高戦力の一角。一騎当千。
立ち回りなどは、戦闘のプロのツルギやハスミに劣るが、攻撃をいくらでも食らえる穢土転生体ならばそれも関係はない。
多重影分身で増殖している今は、一騎当千ならぬ千騎当億。
純粋な力でゴリ押しされれば、なす術がない。
「諸君らに告ぐ、諦めるな。抵抗を続けよ。私の方から救護騎士団とシスターフッドにも応援を要請した。こちらの戦力が増えれば、先程の策を実行できるはずだ」
「セイア様…! しかし、ティーパーティーが応援を頼むと政治的に不味いのではないでしょうか?」
「何、君が心配することではないよ、ハスミ。ミネは命を預ける信頼に足る人間だ。彼女に文字通り命を握られていた私が言うのだから、間違いはないよ。シスターフッドに関しては……背に腹は代えられないとだけ言っておこうか」
ミネ団長と比べて、微妙に信頼の足りないサクラコ様に悲しき現在。
プライベートな関りが一切ないから、こういうことになる。
セイアとは一緒にカラオケにでも行けば、仲良くなれそうなのに。
「それに、この摩訶不思議な光景を実際に見てもらわねば、聖園ミカがティーパーティーにクーデターを起こしたという事実だけが残ってしまう。そうなれば、この前の勘違いの件のように、ミカがまた疑われてしまうからね」
「あはは……その節はご迷惑をおかけしましたっす」
以前の補習授業クライシスの時のように、またミカが疑われると言うセイアに、イチカが申し訳なさそうに頬をかく。
(しかし……同じミカという存在が2つ。それに、ミカが使った
(先生との連絡が取れない……そうなると、考えられる可能性は2つ。先生が力を利用されたか、もしくは先生自身が……黒幕)
そんな中で、セイア、そしてハナコは同じ考えに行きつく。
この不可解な現象の裏には、千手トビラマの影があるのではないかと。
そして、面倒なことに敵か味方かはともかく、それは事実だ。
大人のカードを使っての生徒の呼び出しで、同じ存在が2人になることをトリニティは知っている。
故に、敵のミカが扉間の寄越した刺客という説も否定できない。
実際、連邦生徒会長はその情報を使って、キヴォトスに扉間への疑心暗鬼を広げようとしている。
今現在、キヴォトスを襲っている災厄は扉間が原因(3割ぐらい事実)なのだと。
「……とにかくだ。援軍が来るまでは何とか、持ちこたえてくれたまえ。何、今まで散々サボっていたんだ。たまには私も過労死レベルで働くさ。どうせ、この場を切り抜けないと私に帰る場所はないのだからね」
総大将自らが前線に立つ。
かの、アレキサンダーやナポレオンがやったような、兵の士気を著しく上げる戦術だ。
それはそれとして、タンクより前に出るのはやめてくれませんかね? 腕白フォックスさん。
あなた紙装甲なんですから。
『ふーん、まだ援軍が来るんだ……探す手間が省けて助かるじゃんね☆ どうせ、皆殺しにするのが目的だし』
「殺す…? あなた、何を言ってるのか分かってるの!? 私と同じ聖園ミカのくせに!」
『別に。どうせ、世界が滅びるんだから、先に死んでも後で死んでも同じじゃん』
「世界の滅び…? まさか、あのラッパの音は黙示録の再現だとでも言うつもりかい?」
世界が滅びる、そう告げる穢土転生体のミカにセイアが目敏く気づく。
アリウス程、黙示録が重視されているわけではないが、トリニティとて黙示録自体は知っている。
『そうだよ。良く分かんないけど、アリウスの黙示録を利用して
「アリウス…!? まさか、アリウスに何かをしたのか?」
「アリウスに…? あそこの子達に何かしてたら、今以上に許さないんだからね!」
今回の件にアリウスが関わっていると知り、顔つきが変わる、アズサ。
ミカもやっと友好関係が結べるとこまで来たアリウスに、何をしたのだと血相を変える。
『まだ子供みたいに、みんなで仲良くできるなんて信じてるんだ……ホント、バカみたい』
それに対して、穢土転生体のミカは魔女の笑みすら引っ込めて、無表情で唾を吐く。
「……君が、どういう過去を辿って来たかは知らないが、アリウスとトリニティは少しずつではあるが歩み寄りつつある。これは願望ではない、事実だ」
『今そうだったら、何なの? どうせ、また仲違いを起こすよ。結局、人と人は理解し合えない。だから、他人の心を理解することなんて出来ないんだから』
「なるほど……『理解できないものを通じて、私達は理解を得ることが出来るのか』。2つ目の古則だね。まさか、君が知っているとは思わなかったよ」
「セイアちゃん、もしかしてそれ私にも言ってる?」
穢土転生体のミカへの煽りが、そのままこちらのミカへの煽りになる。
普段からセイアが、そう思っているということなのだから。
「人の
『なに? また、いつもの回りくどくして分かり辛くなった結果、誰にも理解してもらえない話?』
「あ、そこは私と同じ考えなんだ」
「黙りたまえよ、
そのことに、ちょっと仕返しをするミカだったが、セイアの簡潔な一言に黙らされる。
君達がシンプルに言えと言ったのだろう?(煽り)
「さて、話を続けようか。人の
『ふーん……まあ、セイアちゃんって現実主義者だったもんね。私がアリウスとの和解を言った時も利益しか気にしなかったし』
「ああ、その通りだよ、ミカ。だが、私とて成長はしているんだ。人の
結局の所、他人は他人でしかない。
家族であっても理解できない。
だが、例え何一つとして分からなくとも──
「──相手の
──
「救護騎士団! 遅れましたが、救護のために駆け付けました! すぐに怪我人をこちらに!」
「シスターフッドも微力ながら、お力添えします。怪我をしている方は、ここは私達に任せて治療を受けに行ってください」
鋼鉄の白衣と漆黒の聖者の足音が響く。
ミネ、サクラコ、そして彼女達に率いられた大勢トリニティの生徒が駆け付ける。
そして。
「こういう時は何て言おうか……サっちゃん、お願い」
「は? わ、私か…? こういうのは普通、生徒会長がやるものじゃないのか? 姫」
「ふふ、冗談だよ。ちゃんと考えてあるから」
髑髏と薔薇の校章。
このマークが、最後にこの地に堂々と掲げられたのは、今より数百年前。
第一回公会議の時。
「トリニティの同盟校……アリウス学園の──援軍だよ」
パテル、フィリウス、サンクトゥス、正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッド。
そして、アリウス。
かつて、袂を分かった全ての派閥が数百年の時を経て、ここに集う。
「間に合ったな」
『……救護騎士団にシスターフッド、アリウス。それに先生まで……鬱陶しいなぁ、もう』
皮肉にも、かつて和解を願った少女が共通の敵となることで。
「先生! 来てくれたんだ! 連絡がつかなくて心配したんだからね?」
「すまんな、ミカ。アリウスに閉じ込められておってな……して、あれは」
嬉しそうに、扉間の生存に喜ぶ、ミカ。
そんなミカに謝りながら、扉間は敵のミカを睨む。
何故、この世界にこの忍術が存在しているのかと。
「穢土転生の術か…!」
「穢土転生の術って、先生が作った情報収集を目的に作られた術だよね? 具体的には──敵から情報を抜き出すために敵兵を2人捕らえて、その後に1人のヘイローを壊してDNA情報を抜き取る。次にもう1人を尋問して、情報を引き出してから生贄にして、あの世から消した方を呼び出して、吐き出させた情報が本当かどうかの答え合わせをする。そうすることで、相手が情報を守るために自害しても確実に、かつ正確な情報を抜き取ることが出来る。情報を抜き出した後は、死体に爆弾を仕込んだ上で敵陣に返して、敵の拠点を死体ごと爆破させるのが正しい使い方っていう、卑劣な術」
「ああ、その穢土転生だ」
二代目火影の卑劣な術だ。
アツコが以前聞いた説明を、そっくりそのまま言って周囲をドン引きさせている。
扉間黒幕説がまた1つ補強されちまったなぁッ!
「さらに、影分身……数からして多重影分身の術か。ワシの術をこうもやすやすと」
『そんなに難しい術じゃないよ。印だって忍者なんて知らない私でも、簡単に覚えられたし』
「そういう問題ではない。チャクラも無しに、どうやって忍術を使っているのだ?」
多重影分身の術は、チャクラを大量に消費するので禁術書のトラップに最適。
しかし、難易度自体は落ちこぼれのナルトでもすぐにマスターできるため、ミカが覚えられるのも不思議ではない。
だが、問題はこの世界でどのようにして、チャクラを練っているかだ。
『アハハハ! いつまで私の先生気取りなの? 敵に秘密を教えるわけないじゃん☆ 私は先生も殺せると思ってウズウズしてるよ!』
「………そうか、そうだな」
だが当然、穢土転生体のミカは答えない。
扉間はそんな壊れた穢土転生体を少しの間、無言で見つめていたがやがて重く頷く。
「ヒヨリ、ミサキ、遠距離から攻撃が可能な者を連れて奴を全方位から囲め。その後、
「分かりました」
「分かった」
後衛であるヒヨリとミサキに指示を出し、影分身の弱点である耐久力の無さを攻めさせる。
「トリニティの者達もだ。とにかく、銃弾を撃って弾幕を張れ。そうすれば、分身は消えて、本体だけが残る」
「ですが、本体はダメージを一切受けません。それに、消しても消してもまた分身を増やされます」
「分身を作ったそばから消していけばいい。とにかく、撃ちまくれ。相手に一瞬の猶予も与えるな」
ハスミからの言葉に、とにかく攻撃を続けることで影分身を無効化することを伝える。
ナルトや柱間クラスで出せるのならともかく、一度に数十人程度なら十分対処が可能だ。
「なるほど……でも、先生。それではこちらが
「多分、アリウスの秘術のせいだね。ベアトリーチェがアリウスじゃ考えられない数の
そして、アツコは敵が
「それに、足止めは出来ても最後の捕縛がそれだと出来ない。それだけの弾幕の中では、私達も行動が出来ない」
「攻撃しないと分身が増えるし、攻撃を続けたら近づけないってどうすんのよ!? ジリ貧じゃない!」
「そんな…ど、どうしたら…?」
そして、アズサの言うように影分身は消せても最後の決定打、捕縛が出来ない。
しかし、攻撃をし続けなければ影分身が増え続ける。
コハルとヒフミの言う通りに、ジリ貧である。
「……心配するな、コハル。委員長の私に任せておけ。そうですよね、先生?」
「負担をかける、ツルギ」
だが、弾丸の雨を浴びながらも戦える生徒が、ここに1人だけいる。
ツルギだ。
「まさか……ツルギ委員長をフレンドリーファイアに晒しながら、戦わせる気ですか!?」
「確かにツルギの頑丈さなら、少々の弾丸はかすり傷にもなりませんが……本気ですか?」
「生憎ワシは本気だ。外道と罵るのは、すまんが勝った後にしてくれ、ミネ、ハスミ」
電車に轢かれてもかすり傷。重傷を負っても一晩で回復。
正義実現委員会のそもそもの戦法が、委員長自らが突っ込んで暴れるというフレンドリーファイアを食らいやすいもの。
ツルギならば、銃弾の雨を浴びながらでも戦える。
「そもそもミカ様とまともにやり合えるのは、私ぐらいなものだ。私が行くしかない」
「……ううん。ツルギちゃんと
「ミカ…! 君も……いや、それしかないようだね」
コキリと首を鳴らす、ツルギの隣にミカが並ぶ。
彼女もまた、禁術サーモバリック手榴弾を痛いで済ます、強き者。
穢土転生体のミカを抑えるには、この2人が弾丸の雨を食らいながら相手を封じ込めるしかないのだ。
「お2人にご武運があることを祈りましょう。私達の弾丸に込めて」
「…ッ。今だけは見逃しますが……戦闘が終わり次第、ナギサ様と一緒に強度の高い救護を受けて頂きますからね? もちろん、先生も含めて」
「絆創膏だけ用意を頼む」
「コハルちゃん、私の上着持ってて」
(ワシは捕まる前に逃げるがな)
サクラコとミネからの激励を受けて、穢土転生体のミカに向かっていく、ツルギとミカ。
約一名、汚い大人はここで捕まるわけにはいかないと思っているが。
『そんな話を堂々とされて、黙って見過ごすわけないじゃんね☆ 撃たれる前にドンドン分身を増やしていくよ。消されないほど数を増やして、一気に殺せばいいだけだし!』
通常、影分身は自分のチャクラを均等に分ける性質上、チャクラお化け以外は多用は出来ない。
だが、穢土転生中は別だ。
チャクラの無限回復があるため、何度でも何人でも分身を出せるのだ。
『多重影分身の術!』
(あれは…! 大人のカード? まさか、並行世界のワシのものか?)
数十人に増えるミカを見ながら、扉間は忍術を使える理由を考察していく。
大人のカードは自分のポケットに確かにある。
ならば、あれは自分ではない自分のものの可能性が高いと。
『重ねて、多重影分身の術☆ 多重影分身の術★ 多重影分身の術☆』
「校長…! 発射指示はまだか…!?」
「まだだ……ギリギリまで──」
数十人から数百人へと数が近づいていく、穢土転生体のミカ。
サオリが焦って声をかけるが、どういうわけか扉間はまだ指示を出さない。
それは、ミカの忍術の秘密を見極めたいのもあるが、もう一つの理由もある。
『多重影分身の術!!』
「──
影分身の術は消えると──本体と情報を共有するという原理を利用するためだ。
「今だ! 総員、撃てッ!!」
ミカがイナバの物置でも支えられないほどに増えたとき、やっと扉間が指示を出す。
トリニティとアリウスの弾丸がミカの分身体に襲い掛かる。
「影分身の術はワシが作った。それに合った戦術もな……己の体でも腐る程試した」
影分身の術は、扉間が生み出した術。
その応用方法は多岐にわたる。
『無駄無駄無駄無駄ー☆ 影分身はいくらでも出せるし、私はダメージなんて食らわないんだから、戦えば戦う程そっちの不利になるよ?』
「確かに影分身が消えても、肉体ダメージは本体には行かん。そして、穢土転生の体は決して傷を負うことはない。チャクラも無尽蔵に引き出せる。だが──精神面は完璧ではない」
大量の影分身達が、弾丸の雨に晒されて消えていく。
もちろん、本体の穢土転生ミカにダメージが還元されることはない。
しかし、分身が得た
『──あれ? 今、消えたのは私…?』
『ううん、今私は手を撃たれて……あれ? 撃たれてない?』
『なんで…? いつの間に足が撃たれて……違う?』
『なに…これ…頭の中にやられた記憶がこんなに…!?』
突如ミカ達の脳内に溢れ出した、存在しない記憶。
それは、やられた分身の持つ、倒されたという記憶。
それらが、洪水のように本体と分身に全て共有されていく。
「影分身の術は、ただ自身の存在を増やすだけの術ではない。分身が消えると、分身の持つ情報が本体やその他の分身に共有される……元々兄者の木遁分身を参考にして作った偵察用の術だからな。さて、この情報は一人二人なら非常に有用だが……その情報が一度に数十人単位で流れ込んできたら、どうなると思う?」
存在しない記憶に振り回され、ミカ達の動きが止まる。
そこに、再び銃弾の雨が降り注ぎ、分身が更に消え、残ったミカ達の記憶が圧迫される。
『あ、頭がパンクしそう…!』
「答えは簡単だ。術を使い慣れていない未熟な忍では、脳の処理が追い付かずに、記憶が自爆して──動きが止まる」
頭を抱えて、完全な無防備を晒す本体のミカ。
大量の記憶。しかも、自分が消えるという記憶に精神がついていっていないのだ。
「故にワシと兄者は、多重影分身の術を――禁術に指定したのだ」
未熟な忍では、チャクラが大量に消費されて命の危機になるだけでなく、解除した後の記憶の混雑で致命的な隙を生んだり、影分身に反乱を起こされたりする。
故に禁術。
ましてや、今回使ったのは初期ナルト以上に忍者の修行などしたことのない、ミカ。
自分が死ぬ光景を何百も同時に脳内に垂れ流されて、忍でないミカがナルトのように平然と動けるわけがない。
せめて、ナルトレベルの単純思考で、記憶が還元されることにも気づかなければマシだったのだろうが。
「強力な忍術を使えば強くなれると思ったか? 忍術とはどの術を使うかが肝ではない。誰がどう使うかの方が肝要だ。修行をこなしていないお前では、多重影分身は使いこなせん。禁術を不用意に使い過ぎたな」
忍とは常に死と隣り合わせの日常を歩む者達。
自分が死ぬと分かっていても、死地に踏み込む勇気が求められる。
故に、影分身を使い慣れた忍ならば、こうしたデメリットも慣れで踏みつぶせる。
もっとも、通常は数百人単位で分身をして同時に消されたりする忍など、ナルトくらいなものだが。
柱間? あいつのは、リアルタイムで情報共有できる監視カメラみたいなものなので、そもそも一度に情報が流れ込むのが前提だ。
しかも、分身のくせにやたらと頑丈というデタラメ。
奴は全ての術が桁違い。人は奴を最強の忍と呼んだ。
「今だ! ツルギ、ミカ!」
「ヒヒヒ! 覚悟ぉッ!!」
「うーん……大量の自分が目の前でハチの巣にされるのを見るって、すごい複雑……」
穢土転生のミカが無防備になったところに、ツルギとミカが突っ込んでいく。
そして、穢土転生のミカが影分身を出せなくなったので、周りからの弾幕も通常の援護射撃に変わる。
扉間だって、ツルギを集団リンチしながら戦わせるつもりはなかったのだ。
『…ッ! この…程度で! 今の私は死ぬことのない死体なんだから…負けるわけがッ!』
「……
罅割れた顔で、魔女のように敵を睨みつける穢土転生のミカ。
そんな彼女に対して、扉間は師としての最後の餞別を送る。
「どんな術にも弱点という穴はある。この術の弱点とリスクは……このワシの存在だ!」
お前は最後まで、ワシの授業を受ける──自慢の生徒だったのだと。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
しかし、この小説いっつも自爆してる気がするな……なぜ?
次回は、ちょうど一周年になる1月9日に投稿します。
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