千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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83話:やり直す(コンテニュー)

「だから、やめておいた方が良いって言おうとしたのに」

 

 自爆を果たしたはずのサンクトゥムタワー。

 爆炎に包まれたはずのそこは今──

 

「不発ですか…!? いえ、不発ではない? ですが、確かにスイッチを押したので不発?」

 

 何事もなかったかのように、綺麗な状態でキヴォトスの象徴として佇んでいた。

 自爆スイッチを押したはずのリンは、訳が分からずにもう一度スイッチを押すが、何も起こらない。

 なんだ、これは…! また不発なのか!?

 

「いえ、不発じゃないし、スイッチが壊れたわけでもないよ、リンちゃん。爆発したけど、壊れなかった、それだけ」

「その言い方…! 何をしたのですか?」

 

 理解が及んでいないリンとは反対に、連邦生徒会長の方は一仕事終えたとばかりに、額の汗を拭く。

 明らかに目の前の人物が怪しい。

 リンは鋭い声で、連邦生徒会長を問い詰める。

 

「現実を(ゆめ)で描き換えただけですよ」

(ゆめ)…?」

「サンクトゥムタワーは壊れなかったのが現実で、壊れたのは(ゆめ)なんだよ」

「そんなバカな……」

 

 幻と現実を繋げ、運命を変えた。

 そう告げる連邦生徒会長に、リンはあり得ないと呆然とした顔で呟く。

 

「ねぇ、リンちゃん。どうして私が超人なんて呼ばれていたか分かる?」

「何を急に……そんなもの誰よりもあなたが優秀だったからでしょう」

 

 そして、連邦生徒会長は、どうして自分が超人と呼ばれるようになったのかを語りだす。

 

「ズルをしてたんだ」

「ズル…?」

 

 じゃじゃーん! 今明かされる衝撃の事実ぅ~!

 実は私はズルをしていましたと、連邦生徒会長が明かす。

 

「そう。普通はどんなに優秀な人でも、チャンスは一度きり。先生もよく言っていたようにこの世界に絶対はない。よく落ちる洗剤でも99.9%まで。100%はあり得ない。だから、普通はみんな失敗する可能性がある」

 

 リオやヒマリでも、疲労から計算ミスを起こすことがあるように、人間は誰しもミスをする。

 それはどうしようもない現実だ。

 だからこそ、上の世界に行けば行くほど、コンディション維持の重要性が問われる。

 

「でも、私だけは()()()。当たりが出るまで、くじを引きなおすことが出来るんだ」

「何を言って……」

「そのままの意味だよ、リンちゃん。私はね、当たりの世界が出るまで──何回でもやり直すことが()()()()()

 

 失敗しても、次に成功するまでやり直すことが出来た。

 そう、()()()で断言する、連邦生徒会長。

 リンの方も衝撃から、現実を書き換えることが出来るのなら、やり直す必要はないという事実に気づかない。

 連邦生徒会長は変質した力については、語っておらず過去の力だけを語って勘違いさせているのだ。

 二代目連邦生徒会長の卑劣な話術だ。

 

「ゲーム風に言うなら、To be continued。負けちゃっても、()()()()()()()()()また続けること(コンテニュー)が出来るんだよ。これで楽しい日を何回でも送れるね」

「そんなバカな……まさか、ウトナピシュティムの本船の力ですか!?」

「ううん。これは私の神秘()()()()()。磔にされて死んだ聖者が、生き返ったことを簡易的に表したもの。負けても、もう一度やり直せる。色々と使い道が()()()んだよ?」

 

 時間の巻き戻し。

 都合の良い結果の選択。

 敗北の拒絶。

 どう言い表しても、チートでしかない。

 

「ねぇ、リンちゃん。リンちゃんはこの世界の私のことを、友達だと言ってくれたけど……その友情は()()()()()()?」

「まさ…か……」

 

 連邦生徒会長の言葉が、リンの心の柔らかい場所を土足で荒らす。

 聖者は蛇に堕ちた。

 

「誰にだって、人の好き嫌いはあるし、言って欲しい言葉、言われたくない言葉があるよね? もし、事前にそのことが分かるなら……友情も簡単に築けると思うんだ」

 

 連邦生徒会長の手がリンの手に伸ばされる。

 それは、友好のための握手ではなく、相手の手を封じる拘束。

 友情を信じる者の心の隙間に、不信という名の禁断の果実を植え付ける行為。

 

「この世界の私が、何をやって来たのかまでは知らないけど……何度でもやり直せるのなら、リンちゃんが信じてくれる言葉を何度でも試せるし、リンちゃんが連邦生徒会に来る以外の道も潰せるんだよ?」

「会長は…そんなことは……」

「フフ、おかしなことを言うね、リンちゃんは。私だって──()()()()()()だよ?」

 

 現実を見ろ。

 お前の世界は虚実に満ち溢れているのだと、悪魔の言葉を囁く、連邦生徒会長。

 

 

「もう一度言うよ? リンちゃんと、この世界の私の友情は──()()()()()()?」

 

 

 寒気のするような美しい笑みで、リンの手を撫でながら連邦生徒会長が囁く。

 お前の信じる全ては、この世界の私が作り上げた都合の良いものでしかないのかもしれないのだと。

 

「『理解できないものを通じて、私達は理解を得ることが出来るのか』。古則の2つ目にあったよね? 私はリンちゃんが完成させてくれた文が好きなんだ」

 

 何気ない会話の記憶。

 だが、今はそれですら、連邦生徒会長にとって都合の良い言葉を吐かされたようにしか思えない。

 

「理解できない他人(もの)を通じて、(たがい)の理解を得ることが出来るのか。でもね、リンちゃん。リンちゃんは他人(わたし)を通じて、(じぶん)を理解出来る? いくらでも都合よく(えが)き換えられる私を通じて──本当の自分が理解出来る?」

 

 人は鏡だ。

 自分が笑えば、相手も笑う。

 だが、その鏡に映る姿が自由に変えられるのなら、人は果たして本当の自分の姿を理解出来るだろうか?

 

 鏡に映る自分が笑っていたら、果たして自分は笑っていないと言い切れる人間はいないだろう。

 

「う…っ! あ、ああ……」

「どうする、リンちゃん? そんな信用できない()()言葉のために命まで懸ける意味はあるのかな? ここで全部投げ出したっていいんじゃないのかな?」

 

 連邦生徒会長の手が、リンの頬を優しく撫でる。

 互いの吐息を肌で感じられる程に、距離が近くなる。

 

 

「ねえ、リンちゃん。何もかもを放り出して──全部、諦めてくれないかな?」

 

 

 反キリスト(アンチキリスト)の声が、リンの手を禁断の果実へと伸ばさせる。

 そして──

 

「SRT特殊学園所属、RABBIT小隊だ! 連邦生徒会長を驕る偽物を逮捕する!!」

「大人しく手を上げて、リン行政官を放してください」

「あ、あなたには、弁護を受ける権利があります……大人しく投降すれば酷いことはしません」

『うわぁ、本当に連邦生徒会長にそっくりじゃん……こわっ』

 

 窓を突き破り、部屋の中に飛び込んでくるRABBIT小隊のサキ、ミヤコ、ミユ。

 そして、ヘリの操作と援護のドローンを送り込む、モエ。

 

「あなた達は確か……SRTの新入生でしたね。兎のくせに飼い主の手に噛みつくんですか?」

「……この際、あなたが何者なのかはいいです。SRT特殊学園は、キヴォトスの平和のために動く正義の部隊です。例え、敵が身内や連邦生徒会長であっても、その理念は変わりません」

「そもそも、私達は1年生だからな。連邦生徒会長の指揮下に入ったことはない。先生の指揮下に入ったことの方が多いぐらいだ」

 

 自分の私兵とも呼べるSRTに邪魔をされて、少し苛立った態度を見せる、連邦生徒会長。

 しかし、ミヤコとサキの言う通りSRT特殊学園は法や立場に縛られない、正義の部隊。

 連邦生徒会長というトップが居れば会長の正義に従うが、不在の今は己が正義の下に動くだけだ。

 

『連邦生徒会長が消えたせいで、一度はSRTが解散することになったのに、今更従えってのは筋が通らないんじゃない?』

「そ、それに、今は先生代行の指示で動いていますから」

()()()()?」

 

 聞き慣れない言葉に、顔をしかめる連邦生徒会長。

 それもそうだろう。

 先生代行は、連邦生徒会長が失踪して先生に権限の大半を移譲された問題の解決のために、作られた役職なのだから。

 

 会長や先生自らが精力的に動く世界では、発生しようがないのだ。

 

『本来はリン行政官の救助目的でしたが……自爆が不発したのでは仕方がありません。先生代行の1人として、生徒を自由に動かせる権利を使い、RABBIT小隊を動かさせていただきました。あなたや先生がいなくても、SRTは動けるようになったんですよ、会長?』

「その声はカヤちゃん…!」

 

 モエと代わるように、カヤの声が響いてくる。

 そもそもが、SRTの復校のために警察機関からも指示を出せるようにしたのが始まり。

 ヴァルキューレ本体ではなく、あくまでもその上の防衛室の長のカヤが先生代行になるのは何もおかしくはない。

 

『私はあなたと違って先生に託してもらいましたので』

「私だって………ううん、そうだね。私は()()()()()()()()()()()()()

 

 カヤからの煽りに、カッとなって言い返そうとする連邦生徒会長だったが、何かを思い出して目をつむる。

 まるで、私は()()()()()()()()()()()とばかりに。

 

『あなたが偽物なら許しません。私の憧れを侮辱したのですから。あなたが本物ならもっと許しません。なに、仕事をほっぽり出して逃げているんですか? 私達の睡眠時間がどれだけ削られているか教えて差し上げましょうか? え?』

 

 そして、カヤの口から告げられる無慈悲な怒り。

 仮にここに居るのが、本物の会長だったとしても連邦生徒会役員全員から、右ストレートを食らっても文句は言えない。

(仕事量が倍増したのは)私のミスでした。

 

『ですが、リン行政官を放して投降するのなら……具体的に言えば、あなたが連邦生徒会長として、今の問題を全て解決してくださるのなら、偽物であっても更生の機会をお与えしますよ? そうすれば、私が先生と過ごせる時間が増えますので』

「うーん……残念だけどそれは出来ないかなぁ」

 

 投降して仕事を片付けてくれるなら、偽物でも構わない。

 そう告げる、割と切迫した状態のカヤに苦笑いしながら、連邦生徒会長は返答をする。

 

 

「だって、先生が指揮しているわけでもない、高々4人相手に私が負ける訳ないもん」

 

 

 SRT特殊学園の頂点に立つ、連邦生徒会長がSRT生徒よりも弱いとでも思ったか?

 暗にそう仄めかしながら、ゆっくりと懐に手を伸ばす連邦生徒会長。

 

『不味いですね……連邦生徒会長は連邦生徒会にて最強。出来れば、戦いたくなかったのですが』

「連邦生徒会長……かつてのキヴォトスの頂点」

 

 その強さを知るカヤが緊張から冷や汗を流す。

 RABBIT小隊もゴクリと唾を飲み込む。

 そして──

 

 

 

 フンッ!(っ゚Д゚) (リンちゃん)=⊃)`3゜) (会長)∵ブヘッ!?

 

 

 

 ──リンちゃんの黄金の右ストレートが、隙を晒した連邦生徒会長の顔面に炸裂するのだった。

 私の右頬(ミギ)でした。

 

「「「『『な、殴ったぁあああッ!?』』」」」

「サンクトゥムタワーの自爆が封じられた上に、この会長は謎の力を使います! これ以上の抵抗はあなた達も危険です。今のうちに脱出します! 外にあるヘリに私も乗せてください!」

 

 リンちゃん復活!

 先程までの連邦生徒会長の精神攻撃も何のその。

 メンタルを切り替えて、連邦生徒会長の不意(ほほ)を打つことに成功。

 相手が4人? 誤認(5人)だよ、バーカ!

 

 そして、そのまま特殊部隊顔負けの跳躍力で、外で飛ぶヘリのロープに跳び移っていく。

 主席行政官を舐めんじゃねぇぞ!!

 

「え、えっと……偽物の連邦生徒会長を捕まえるんじゃ……」

「……リン行政官の救出任務ですので、まあ目標自体は達成している……のでしょうか?」

「カヤ防衛室長?」

『あ、え、その………だ、脱出で! 連邦生徒会長相手にはこの兵力では心許ないので、そういうことで行きましょう!』

『あーうん。まあ、もう私の横にリン行政官が居るし……それでいっかー』

 

 RABBIT小隊とカヤは知らないが、連邦生徒会長には(ゆめ)を現実に変える力がある。

 そのため、このままでは勝てないと踏んだリンは、撤退を選んだのだ。

 サンクトゥムタワーが奪われるのは惜しいが、背に腹は代えられない。

 勝つためには時には後ろ向きに突撃も必要なのだ。

 その意図を汲んだRABBIT小隊もリンに続いて、ヘリに戻っていく。

 

「そ、それにしても……腰の入った良いパンチでしたね、リン行政官」

「ありがとうございます。いつか、会長が帰って来た時のために鍛えておいたかいがあったというものです」

「うわ、可哀想……でもないかぁ。私達も迷惑をかけられてるし、残当だね」

「それよりも、サンクトゥムタワーの自爆を防がれた以上、新たな手を打たないといけません。先生とは連絡が取れるようになったのですか?」

 

 そんな会話をしながら、ヘリはサンクトゥムタワーを去っていくのだった。

 

「痛たた……もうリンちゃんったら、先生にもぶたれたことないのに……まあ、サンクトゥムタワーが手に入ったからいいけど……A.R.O.N.Aちゃんがこれで動けるようになるといいんだけど」

 

 ポツンと1人だけ残った、この城の主を放置して。

 

 

 

 

 

「穢土転生のミカを拘束する前に、まずは一度、肉体をミンチ状に磨り潰すか、こちらの方で爆散させて、体内に爆弾を仕込んでいないかを確認するぞ」

「ねぇ、ひょっとして先生って私のこと嫌い?」

「何を馬鹿なこと言う。お前達は全員目に入れても痛くない、ワシの可愛い生徒達だ」

「だったら、何で磨り潰すとか爆散させるとか言えるの? 相手も一応、私と同じ顔と体なんだけど?」

 

 穢土転生のミカを捕まえることに成功した上で、そんなことをのたまう扉間。

 同じ顔であるこちらのミカが、ドン引きしているが穢土転生の開発者なので警戒するのは仕方ない。

 

「そもそも穢土転生の術は自爆覚悟で使うのが正しい使い方だ。ワシなら相手が勝ったと油断して近づいてきたところで、体内の爆弾を爆破させる」

『いや……流石に自分の体に爆弾入れたりはしないって。胃もたれするじゃん。そもそも先生と違って今更自爆した程度じゃ、そっちの私とツルギちゃんはノーダメでしょ?』

 

 本当にお前が黒幕じゃないの? と言いたくなるセリフを吐く、扉間。

 これには穢土転生のミカも呆れて、抵抗を忘れている。

 

「む? ……そうか、キヴォトスでは体内に仕込める程度の爆弾では、死ぬのはワシぐらいか。なるほど……術者はそれを見越して、爆弾ではなく兵士として運用しておるのか」

 

 しかし、そんな2人のミカの冷たい視線にも、動揺することなく扉間は考察する。

 元居た世界では、柱間以外は油断している所を狙えば起爆札の1枚で殺せた。

 だが、キヴォトスではその程度では人は殺せない。

 最低でも互乗起爆札レベルに爆破しなければ、致命傷にはならないのだろう。

 故に扉間式穢土転生ではなく、カブト式穢土転生にしたのだ。

 

「あの……お話し中すみません。拘束したのは良いのですが、この術を解除する方法などはないのでしょうか?」

「ああ。ハナコの言う通りだ。今はアリウス流捕縛術で、何とか拘束しているが、いつまでもこのままという訳にもいかないだろう」

「そうですよね……アズサちゃんの言う通り、このままだとミカ様はご飯も食べられませんし」

「むしろ、食べられる状態なの、これって…?」

 

 そんな扉間へ、補習授業部が身内のミカへの情からどうにか出来ないかと聞いてくる。

 

「穢土転生の解除方法は、口寄せした術者に解除させるのが基本だ」

「基本……てことは、また裏道があるんだね?」

「校長だからな……当然だろう」

「えへへ、校長先生が裏道を作らないわけがないですよね」

「うん、知ってた」

「お前達……」

 

 そして、真面目に答えるがアリウススクワッドからは、どうせ裏道があるんでしょ?

 と、厚い信頼を寄せられる。

 これにはさしもの扉間も、目頭が熱くなってしまう。

 生徒との信頼関係、プライスレス。

 

「それで、その裏道とは…?」

「まあ、確かに3つ程あるが……」

「1つではなく、サラッと3つと言えるのが先生が先生たる所以っすね」

「……早く教えてください、先生」

 

 ハスミの問いに答えると、イチカが茶化してくるが、ツルギが真面目な顔で急かす。

 ツルギは今も、穢土転生ミカが動き出さないか、監視している真っ最中なのだ。

 

「穢土転生の術は、あくまでも口寄せの術だ。まあ、お前達に言っても分からんので、説明を省くが……簡潔に言うと、穢土転生側から術を解くことが出来るのだ」

「なるほど、解ッ! の出番というわけだね?」

 

 扉間からの説明に、いち早く理解するセイア。

 彼女もまた、解ッ! を使いこなす、忍なのである。

 NINJAFOXですまない。

 

「なるほど……では、2つ目の方法は何なのでしょうか?」

「2つ目は方法と言うべきかは分からんが……成仏することだ」

「成仏…なるほど……()()()()()()()()()

 

 サクラコが成仏という言葉に、意味深な顔をする。

 何か知っていそうな顔だが、ただ単に『幽霊みたいですね』と思っているだけだ。

 

「穢土転生中にだが、稀に現世でのやり残しを終わらせて、()()()黄泉へと帰って行く者もおってな。通常ならば、意識も奪って運用する故に起こりえないが、今のミカの様子を見ればそうでないのは明らかだ。この方法も可能ではある」

 

 勝手に帰っていくと言っているが、扉間側が勝手に呼び出したのを忘れてはならない。

 このエドテンとかいう術……気にくわねェ! 戦いたくねぇ、人と戦わされる。

 

「そして、3つ目は解除ではないが、幻術……つまり洗脳、催眠の類で術の縛り以上の支配を行って、制御権を奪うのも手だ。まあ、洗脳の札もなければ、幻術も使えん今のワシでは取れん手段だがな」

「洗脳…! 催眠…!? だ、ダメよ、そんなのは!」

「コハルちゃん。きっと、コハルちゃんが想像しているものとは全然違うと思いますよ?」

 

 洗脳してあんなこと(エ駄死)や、こんなこと(エ駄死)をさせるのかと憤る、コハル。

 まあ、すぐにハナコにあんなこと(仲間の情報を吐かせる)や、こんなこと(そして仲間の下に返して爆破)だと真顔で否定されるが。

 

「それで……今の3つのどれをやればいいのかな?」

「やはり…解ッかい?」

「いや、1つ目の解除の印は………あちらのミカがハッキリと意志を持っている故、無駄だ。解除と言っても、あの世に帰るわけではない。この世に死なぬ体で残り続けるだけだ。操られておる相手なら有効だが、自分の意志で敵対している以上は余計に厄介になる」

『そうだよ、私は()()()()()()()自分でやりたくてやってるんだから……八つ当たりを』

 

 解をすると、死なぬ体、無限のチャクラで暴れ続ける敵が生まれるだけ。

 あくまでも、自分達が呼び出されたとき用に作っていたセーフティだ。

 敵に利用されないように、木ノ葉の身内にだけ教えていたのだが……やっぱマダラってクソだわ(卑劣書き文字)。

 

「さっき校長が言っていたように、3つ目の洗脳は出来ない。そうなってくると……」

「2つ目の成仏してもらうのが一番だね、サっちゃん」

『アハハ! 成仏なんて出来るわけないじゃん? そんなこと出来るなら、とっくの昔に成仏してるじゃんね☆』

 

 現状、本人に成仏してもらう以外に穢土転生を消す術はない。

 だが、自分の意志で破壊活動をしていそうな、穢土転生ミカが成仏するとは思えない。

 

「……なるほど、話は聞かせていただきました。私に良い考えがあります」

「な、ナギサ様!? ご無事ですか!」

「ええ、ヒフミさんが助けに来てくださったおかげで、何とか」

 

 そんな所へ、ミネに支えられたナギサがゆっくりと近づいてくる。

 体は応急手当の包帯が巻いてあるが、衣服はそのまま。

 所々に血が染みついている。

 だが、口調そのものはハッキリとした状態で告げる。

 

「すみませんが、どなたか、至急ロールケーキを1本用意してください」

 

「ナギちゃんが錯乱してる! ミネ団長、本当に大丈夫なの!?」

「ナギサ様…! かくなる上は、救護麻酔で即座に安静に…ッ」

「いえ、私は正気です、ミカさん! それとミネさんはどうして麻酔なのに、拳を握ってらっしゃるのですか!?」

 

 ロールケーキをくれ。

 そんな、この場に最もふさわしくない言葉に、錯乱しているのだと判断される、ナギサ。

 

「ナギサ様。意識がハッキリしているかの、簡単な質問をさせて頂きます。先程、所望されたロールケーキは何に使用されるのですか?」

「それは……あちらのミカさんの口に叩き込むためですが」

「救護!!」

 

 ダメだ。やはり、大怪我を負って錯乱していると判断したミネが、ナギサを眠りにつかせようとする。

 

「待ってくれ、ミネ。ナギサは正気だ」

「セイア様…? つまり、唐突にミカ様の口にロールケーキを叩き込むと告げる状態が、ナギサ様の正気だと?」

 

 お前は何を言っているんだ?

 言外に、そう言ってくるミネの視線にセイアはため息交じりに頷く。

 

「言葉にすると、何を言っているのだと自分でも思ってしまうが……ナギサがミカの口にロールケーキを叩き入れるのは、ティーパーティーでは日常風景だ。主に、おいたをしたミカへの制裁に使われる」

「日常風景って……そんなに高い頻度ではやられてはないよね?」

頻度(ひんど)の問題ではないよ、品格(ひんかく)の問題だ」

 

 ティーパーティーってそんなことしてるんだという、空気が蔓延するがナギサとセイアは気にしない。

 もう、吹っ切れているのかもしれない。

 

「ナギサ様! ロールケーキを持ってきました!」

「ありがとうございます、ヒフミさん。これで準備は整いましたね」

「これは……ドクターストップをかけるべきなのでしょうか…?」

 

 常識に囚われない普通の生徒、ヒフミよりロールケーキの皿を受け取ったナギサが、穢土転生ミカの前に立つ。

 これには、流石のミネも困惑して救護の手を止めるしかない。

 

『ナ、ナギちゃん…?』

「……()()

 

 スッとロールケーキを手に取り、構えを取るナギサに若干怯える穢土転生ミカ。

 ナギサはそんなミカに対して、昔からの呼び方で声をかける。

 

「私はあなたを──赦します」

『ナギ…ちゃん……』

 

 優しい瞳、親愛の声色。

 そのあまりにも懐かしい光景に、穢土転生ミカは思わず顔を上げて、まっすぐにナギサを見てしまう。

 

 

「ですが、この手が赦すとは限りません」

『んぶッ!?』

 

 

 そして、優雅さすら感じられる程に完璧な動作で口に叩き込まれる、ロールケーキ。

 因みに、シンプルなクリーム味だ。

 

「あなたは昔からそうでした。こちらのミカさんは最近は大人になりましたが……我儘で、気まぐれで、意地っ張りで、それでいて子供っぽい」

『んーんーッ!?』

「自分が悪いと頭では理解していても、決して自分から謝ろうとはしない。言い訳ばかりを並べて、自分を守ることに精一杯」

「やめてよね、ナギちゃん。その話は私にも効くじゃん。やめてよね」

 

 ロールケーキを穢土転生ミカの口にぶち込んだ状態で、昔話を始める、ナギサ。

 横でこちらのミカが流れ弾を食らっているが、気にしないのは幼馴染み故の遠慮の無さだろうか。

 

「ですが、どこまでも純粋で、向こう見ずな優しさも持ち合わせていました。アリウスと和解しようとした優しさも……セイアさんや私を傷つけたことに耐えられない純粋さも」

 

 我儘なお嬢様だが、優しさと純粋さは持っていた。

 完全なる悪ではない。

 だからこそ、耐え切れなかったのだ。

 人を殺すという重みに。

 

「私はそんなあなただからこそ、幼馴染みとして……愛しているのですよ」

『……ナギちゃん』

「それはきっと、あなたの世界の私もそうだったはずです。分かりますよ、同じあなたの幼馴染みなのですから」

 

 ロールケーキを咀嚼し終えた穢土転生ミカが、静かにナギサを見つめる。

 

「何か言わないといけないことがあるのでは? 何か言いたいことは?」

 

 あなたは、いつだってこうして内心を言い当ててあげないと謝れない子でしたから。

 ナギサが優しく、そう続ける。

 

『私…私…ッ!』

「はい……」

 

 ポツンと、床に赤ではない透明のしずくが落ちる。

 

『ごめん…なさい…! ごめんなさい! ごめんなさいッ! ごめんなさいッ!!』

「…………」

『私のせいでセイアちゃんが死んじゃって…! ナギちゃんだけは助けたかったのに、結局アリウスの子に殺されちゃって…! それで、全部ゲヘナのせいにしようと思って戦争をしたら、もっとたくさんの人が死んじゃって…ッ! やめようと思っても、もう誰も言うことを聞いてくれなくてッ!! みんなが私のせいで苦しんで! 私のせいで傷ついてッ! 私のせいで死んじゃってッ!! 私なんかが居たせいでッ!!』

 

 零れ落ちた慟哭の声は、今まで発せられたことのない助けを求める声。

 己が引き金を引いたせいで、起きた悲劇なのだから今更泣き言は言えないと、溜め込み続けられた心の悲鳴。

 

『殺されようと思って戦場に出ても、人を傷つければ傷つけるだけ怖くなって……いつかは私も死ぬ(ああなる)んだって。それで都合よく正当防衛とか正義とか言って、醜く生きて……結局、私が殺した人だけが増えていって……それなのに私の後ろに居る人は私を褒めるんだ。「友達の仇を取ってくれてありがとう」だとか「家族を守ってくれてありがとう」とか……そんなことを狂ったようにさぁ。私が居なかったら誰も傷つかなかったのに……』

 

 狂ったように振る舞っていたのは、本当に狂ってしまいたかったから。

 戦い続けたのは、自分の罪を忘れたかったから。

 笑っていたのは、亡者の恨みの声をかき消すために。

 

『そうやって何も分からなくなるまで、酷いことをし続けてね? 最後は──先生に殺してもらったの』

「………そうか」

 

 自分がミカを殺した。

 扉間は驚くこともなく、ただ静かに頷く。

 里のためなら、妹でも殺す。

 忍としての自分なら、間違いなく選ぶ選択だろうと。

 

『そこで……終わってたら良かったのに……どうして、あんな話に乗っちゃったんだろう』

「あんな話?」

『連邦生徒会長からね。「殺した人を生き返らせたくないか」って言われたんだ』

「それは……今のミカさんのように?」

 

 人を生き返らせる。

 ナギサは穢土転生のことかと思うが、穢土転生ミカは首を横に振る。

 

『違うんだって。今の私は動く死体、ゾンビみたいな存在。だけど、本当に生き返る術があって、それを探してるんだってさ』

「本当に生き返る術だと…? まさか……いや、そのようなことが可能なのか?」

 

 ミカの言葉に1つだけ思い当たる節があった扉間だが、半信半疑であった。

 あれは六道仙人、もしくは輪廻眼の使用者しか使えない術。

 扉間では使えない術のはずだ。

 

「それで……あなたは人を生き返らせて、何がしたかったのですか? やり直そうと思ったんですか?」

『ああ、そっか……そうだね。ナギちゃんの言うように、何もかも……全部初めからやり直したかったんだ。そうやって、私は──』

 

 やり直したかった。

 全部なかったことにして、楽しい過去に浸りたかった。

 それを理解して穢土転生ミカは呆れたように笑う。

 なんて身勝手な女なのだろうと。

 

 

『──みんなと仲直りしたかったんだ』

 

 

 セイアと、ナギサと、アリウスと、ゲヘナと、扉間と、そして傷つけた全ての人と。

 仲直りしたかっただけなのだ。

 

「ミカさん、あなたの罪はきっと赦されません。そしてやり直すことも出来ません。時は巻き戻らない……いえ、巻き戻してはいけないのですから」

『うん……そうだね』

 

 ナギサの言葉に、どこまでも素直に頷く穢土転生ミカ。

 分かってんだよ、と言うように。

 

 

「ですが、それでも私は──あなたを赦します。あなたのかけがえのない友人として」

 

 

 しかし、それでもナギサは赦しを与える。

 他の誰もがミカを赦さなくとも、友である自分だけは赦しを与えようと。

 そう、覚悟を決めた言葉で。

 

『いいの…? 本当に……私なんかを赦していいの?』

「ええ。だって、ミカ。あなたはちゃんと──謝れたじゃないですか?」

 

 ごめん…なさい…! ごめんなさい! ごめんなさいッ! ごめんなさいッ!!

 

『ああ、そっか。ずっと私は……謝りたかったんだ。そうやって……赦して欲しかった』

 

 だから、やり直そうと。

 自分の世界のナギサを生き返らせたかったのだ。

 そのことに気づいた穢土転生ミカの体が光り輝く。

 

「これは…! 先生?」

「成仏だな。魂が肉体から離れ、黄泉に向かおうとしておる」

 

 驚くナギサに対して、扉間が説明する。

 穢土転生ミカは心残りが無くなり、成仏しようとしているのだと。

 

『そっか……謝るなんて簡単なことが出来なくて……私はここに残ってたんだ』

「ホント、傍迷惑だよね。同じ私とは思えないくらい……でも、確かに私なんだね」

 

 消えていく、もう1人の自分を見ながらミカがポツリと呟く。

 自分ではない、自分。

 決して同じ道を辿らないであろう自分。

 だが、分かれ道の先に確かにいた、もう1人の自分。

 

『ねぇ、先生』

「どうした?」

『大人のカードって先生のものなんだよね?』

「お前の持っているものか? 詳しくは知らんが……恐らくは並行世界のワシのものだろう」

 

 体が崩れて消えていく中で、拘束が解けたミカが扉間の方に手を伸ばす。

 罠かもしれない。

 ほんの一瞬、その考えが扉間の脳内によぎる。

 だが、扉間はその考えを振り払い、生徒を信じる先生として手を伸ばす。

 

『じゃあ、これは先生に返すね。きっと、先生の方が上手く使えるだろうから』

「……ああ、感謝する」

 

 返り血で真っ赤に染まった手。

 こちらのミカとは違う、もう、取り返しのつかなくなった手。

 その手を優しく握りしめ、扉間はミカから()()()()()()を受け取る。

 

『それから……』

 

 光に包まれ完全に消えかける中、ミカが最後の言葉を零す。

 

「……ごめんね、先生」

 

 穢土転生のミカは、か細い声で謝罪の言葉を告げる。

 今の惨状を生み出したことか。それとも、扉間の手を教え子の血で汚してしまったことか。

 それは本人にしか分からないが、扉間は。

 

 

「その台詞は、あっちでナギサとセイアに言ってやれ」

 

 

 あの世で2人に謝って来いと、柔らかい声で返すのだった。

 




今日でプロローグ投稿からちょうど1年目。
やり直し(コンテニュー)を続ける1年が終わり、卒業の季節が少しずつ近づいてきました。
次回は、14日水曜日投稿。

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