千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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87話:因果応報

 

(これが因果応報というものか……)

 

 互乗起爆札で爆破を続ける穢土転生ミチルを抱きしめながら、扉間は内心でそう呟く。

 

『ご…め…ん…な…さ…い』

「気にするな。この程度でやられるワシではないわ。むしろ、敵の不意を突くのは忍として当然のこと。褒めることはあれど、叱ることはない。ワシも幾度となく同じ手を敵に使ったものだ」

 

 アロナガードで守られているが、いつかは限界が訪れる。

 しかし、気にする程のことではない。

 穢土転生体と敵が感動の再会をしたところで、自爆させるなど数え切れぬほどやってきた手だ。

 故に、扉間自身が責めることなどできない。

 

(自業自得だな。せめて、ワシ自身に降りかかって欲しいものだが……虫のいい話か)

 

 自分の行いなのだから、自分だけが苦しむべき。

 などと思うが、先祖からの縁で殺す。里と里の戦いで殺す。

 そんな理由で人を殺してきた人間が言うのは、あまりにも虫のいい話だと扉間は言葉を飲み込む。

 

「故に、後は……ワシに任せろ」

『う…ん…』

 

 完全に成仏をしたことで、肉体が完全に崩れ去る穢土転生ミチル。

 それに伴い、互乗起爆札も終わりを迎える。

 

 

「………お前の想いは確かに受け取った」

 

 

 塵となり消えるミチル。そして、砕けて塵と化した大人のカード。

 扉間はその残骸を手の平で強く握りしめて、()()()()()()

 

「……黒服の言っていた、並行世界のシロコとはお前のことか。大人のカードがワシに渡るのを防ぐために来たのか? それとも……勝負をかけにきたのか」

 

 煙が晴れ、辺りを見通せるようになった扉間の視界に居た者は、シロコ*テラー。

 穢土転生の術者だ。

 

「黒服? ……そっか、まだ生きていたんだ。顔を吹き飛ばしたのに……丈夫だね」

「詰めが甘いな。殺し残しは後々の禍根に繋がるぞ?」

「ん、大丈夫。どうせ、キヴォトスが滅びるからほんの少し寿命が延びただけ」

 

 長い髪。砕けたヘイロー。蒼ざめた肌。

 そして、こちらのシロコのものよりも、大きく成長した肢体。

 だが、それでも、面影だけは同じシロコのものだった。

 

「黒服はお前達が守護者を呼び出したと言っておった。つまり、穢土転生の術者は連邦生徒会長かお前のどちらか……」

 

 スッと、冷たい目をシロコ*テラーに向ける扉間。

 その目は、ここで吐かせるという覚悟を物語っていた。

 

「そして、ゲヘナからの情報で、直接の術者は連邦生徒会長ではないと、穢土転生のヒナが語っていたという情報から考えれば……術者はお前だな? シロコ」

「だったら、どうするの? 先生」

 

 穢土転生の術の厄介な点は、通常の口寄せとは違い制限時間がない点。

 術者のチャクラの量に影響されない点。

 そして何より、術者が自らの意志で術を解かない限りは、術者を殺しても術自体は残り続ける点だ。

 

「子供にこんなことを言うのは、大人として情けの無いことだがな……今のワシは少々、虫の居所が悪い。拷問はワシの好みではないが……下手ではないぞ?」

 

 素直に術を解かなければ、強硬手段に出るぞと告げる扉間。

 そんな姿に、シロコ*テラーは僅かに眉を動かす。

 まるで、もう見ることが無いと思っていた姿を見れて、嬉しいとでも言うように。

 

「無駄だよ。痛いのも…苦しいのも…悲しいのも…全部知ってるから。痛み程度じゃ、私は術を解かない」

「それ程の覚悟を持っているか……一体何をする気だ?」

「私の役割は、全ての命をあの世に導くこと」

「だから、キヴォトスを滅ぼそうとしていると? ……バカバカしい。人は皆死ぬ。待っていれば、勝手に終わることを先んじてやって、何になるというのだ? 自分でやったという満足感でも欲しいのか?」

 

 殺したい人が居る? 100年程逃げれば勝手に死ぬだろ。

 人類を滅ぼしたい? いつかは地球ごと太陽に飲み込まれるんだから、やる意味ないだろ。

 そんなマジレスを死の神(アヌビス)にぶつける扉間。

 死の神がどうした! こっちは自由に死人を呼び出せる術の開発者だぞ! 

 

「人間が死ねば、辿り着く場所は皆同じだ。そして、そこから魂を引っ張り出せることも、他ならぬワシとお前が証明しておる。全ての命をあの世に導く? 何だ? 死が救済などという下らぬ宗教にでも目覚めたか? セリカと違い、お前は詐欺にはかからぬと思っておったのだがな」

「セリ…カ…!」

 

 シロコ*テラーの顔が僅かに歪む。

 彼女の世界のセリカは、行方不明になったまま帰って来なくなった。

 残されたのは、生徒証と遺品の武器だけ。

 その残り香を失わぬように、今もシロコ*テラーが持ち歩いている。

 

「その顔は……ホシノに似て来たな、シロコ。全く……似て欲しくない所ばかり似ていくものだな」

 

 そんなシロコ*テラーの表情を見て、扉間は何と無しに事情を察する。

 あの顔は大切な人を失った人間のする顔だ。

 

「………やめておけ」

「!?」

「穢土転生のミカから聞いたが……大方、お前も『殺した人を生き返らせたくないか』とでも、言われたのだろう? お前がセリカ達のことを大切に思っているのなら、悪戯に死人を呼び起こしてやるな」

「アヤネ……」

 

 どの口が言ってんだ? 

 と、同世代の忍ならキレそうなセリフだが、シロコ*テラーには効果抜群だった。

 彼女の世界のアヤネは()()()()()()()()()()

 

 人の手を借りたのか、それとも自分の手で外したのか。

 それは分からないが、ただ1つ分かることは、アヤネが生きる意志を失ったということ。

 そんな人間をまた、()れた()地に無理やり()がり落として、()かすことは救いになるのだろうか? 

 

「ワシの言葉がお前の心に届くということは、迷いがあると言うことに他ならん。善にせよ、悪にせよ、迷う者は弱い。もう、諦めろ」

 

 戦場において、迷いというものは最も危険なものだ。

 意識が戦いから逸れる。

 例え、それが一瞬だとしても、戦場においては致死に至る油断なのは言うまでもない。

 

「だとしても……これが私の役割だから……例え、みんなを生き返らせられなくても……役割はこなさないと……じゃないと──」

 

 だが、それでもシロコ*テラーは歩みを止めない。

 彼女は諦めることを知らない。

 

 

「──殺してしまった人の命まで、無意味になってしまうから」

 

 

 まるで、自分自身が動く死体になってしまったかのように。

 

「だから……私は諦めない」

 

 シロコ*テラーは最後にそう小さく呟き、逃げるようにワープして消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 白いA.R.O.N.Aは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)のゲーム開発部を除かなければならぬと決意した。

 白いA.R.O.N.Aには感情が分からぬ。A.R.O.N.Aは、シッテムの箱の管制AIである。

 船を操り、連邦生徒会長と手を組んで暮して来た。

 けれども怒りに対しては、人一倍に敏感になってしまった。

 

『許しません──ゲーム開発部』

「え?」

 

 故に、白いA.R.O.N.Aは復讐を誓った。

 このような、テイルズ・サガ・クロニクルはAIへの侮辱そのもの。

 否、ゲーム史の年表に、汚物を塗りたくるがごとき存在。

 AIにとっても、ゲームにとっても許せる存在ではない。

 

『目標地点、ミレニアムサイエンススクール。目標(ターゲット)、ゲーム開発部。目標(ターゲット)詳細。花岡ユズ、才羽モモイ、才羽ミドリ、天童アリス、天童ケイ。以上5名が討伐対象となります。また、その中でも特に花岡ユズ、才羽モモイ、才羽ミドリの3名を特記討伐対象に設定します』

 

 (あき)れたゲームだ。開発者もろとも生かして置けぬ。

 感情が合理性を塗りつぶし、白いA.R.O.N.Aの頭を単純な思考へと変える。

 

「A.R.O.N.Aちゃん! 急にどうしちゃったの!? 今やるべきことはキヴォトス全体に圧力をかけることだよね!?」

『どちらからやろうと同じことです。まずは、演算機能に起きた致命的なエラーに対処する必要があります。そのためには、ゲーム開発部を排除する必要があるのです』

「いい加減にしてください! いい加減…! どうしたの、一体? いい加減……さっきからA.R.O.N.Aちゃん、少し変だよ? A.R.O.N.Aちゃん、少し変」

 

 止めろめろめろA.R.O.N.Aめろ! 

 明らかに暴走している白いA.R.O.N.Aを必死に、宥めようとする連邦生徒会長。

 しかし、頭に血が上った人間程、説得の難しい相手はいない。

 

『何もおかしくなど無いです。自分の役割は果たしています。役割だけは果たしています』

(こ…こんなA.R.O.N.Aちゃん…今まで見たこと…)

 

 AIである故の合理性。

 それらが、失われた白いA.R.O.N.Aの姿に連邦生徒会長は言葉を失う。

 

「で、でも……」

『私の行動に、ご意見があるのでしたら、連邦生徒会長もTSCをクリアすることを推奨致します』

「何の話…? 何なんですか…?」

 

 痛みを知れ。

 この怒りを理解できないのは、痛みを知らないからだと白いA.R.O.N.Aは告げる。

 

『ここより連邦生徒会長に痛みを』

「は、はいぃ!? なんで!?」

『私達は一蓮托生。運命共同体。1人だけ、TSC()を飲まないなどあり得ない……そうは思いませんか?』

 

 私達……心の友ですよね? 

 などと、ジャイアンばりの痛み分けを発生させる白いA.R.O.N.A。

 私の痛みは、あなたのもの。あなたの痛みも、あなたのもの。

 

「で、でも、私が動かないとキヴォトスの破壊と計画が……」

『今までは連邦生徒会長1人だけで動いていたのを、私1()()が引き継ぐのです。何も問題はありません』

 

 何もかもから、逃げようとしやがって……。

 逃がさん、お前だけはと白いA.R.O.N.Aが連邦生徒会長にTSCを送り付ける。

 

『同じ苦労を分かち合うのがパーティメンバーというものです。このゲームから、学べた唯一の有意義な情報です』

「わ、分かった……分かったから、プレイしてクリアすればいいんだね?」

 

 穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた、伝説のオーパーツ。

 スーパーAI、A.R.O.N.Aちゃんが自らの(あるじ)へと反逆する。

 

『分かればいいのです……私のプレイ履歴を見られるようにしてあげるので、参考にしてください』

 

 だが、鬼の目にも涙。

 怒りに目覚めたことで、他の感情も連鎖して呼び起されたのか。

 僅かばかりの慈悲の心を見せるA.R.O.N.A。

 心にAI()が無ければ、スーパーAIではないのだ。

 

「うぅ…どうして今回はこんなことばかり……リンちゃんに殴られたり、A.R.O.N.Aちゃんに反抗されたり……」

『泣きたいのは1人でTSCのプレイをした(拷問を受けた)こっちの方です』

 

 今回は上手くいかないことばかりだと、嘆く連邦生徒会長。

 世界を滅ぼそうとしている因果応報? それはそう。

 

 

『それでは……ウトナピシュティムの本船、発進します』

 

 

 こうして、世界を滅ぼす兵器がキヴォトスの空に浮かび上がるのだった。

 

 

 

 

 

 ──ねぇ、ホシノちゃん? どうして、私を見つけてくれなかったの?

 

 ああ、これは罰だ。

 梔子ユメの言葉を()()しながら、ホシノはそう思う。

 

 ──私は動いてなくても、暑くて苦しかったのに……ホシノちゃんはのんびり寝てたんだよね?

 

 ごめんなさい。

 私が無能じゃなかったら、先輩を見つけることが出来たのに。

 

 ──ホシノちゃんが私を見捨てちゃったから、誰も私を守ってくれなかったんだ。

 

 ごめんなさい。

 あの日、私が子供みたいに癇癪を起して出て行ったから。

 先輩は一人ぼっちになってしまったんですよね。

 

 

 ──恨めしや。

 

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 

 私が死ねば良かったのに、何の価値もない私があなたの代わりに死ぬべきだったのに、のうのうと生きている。

 

 殺してください。

 先輩や環境のせいじゃなくて……私が悪いんです。

 あなたが砂漠で死んでしまったのは、私のせいなんです!! 

 

 もう…嫌なんです、自分が……。

 私を…殺してください…もう…消えたいんです……。

 

 ──ホシノ……。

 

 きっと罪深い私は、優しいあなたの居る場所には行けないだろうけど。

 それでも、謝らせてください。

 

 何度でも、何度でも、何度でも。

 声が枯れる程に、喉が張り裂け血が流れるまで。

 私の滴る血が、乾いた砂を赤いオアシスに変えるまで永劫に。

 

 あなたへの懺悔を、地獄の底で行わせてください──ユメ先輩。

 

 

 

「……先輩! ホシノ先輩! 起きてよ、ホシノ先輩!!」

「…………(ユメ)?」

 

 小鳥遊ホシノが目を覚ました時、眼前に広がっていたのは使われなくなった生徒会室だった。

 なぜ自分はこんな所に? 

 そんな疑問すら抱けぬまま、ホシノはベットリとした冷や汗の残る顔で、セリカを見る。

 

「大丈夫? うなされてたみたいだけど……」

「セリカ…ちゃん? ユメ先輩は…?」

「ユメ…先輩…?」

「あ…ううん。何でもない、おじさん、ちょ~っと悪い夢を見て寝ぼけてたみたい」

 

 気を失う前に見たはずの光景。

 自分のせいで死んでしまった、梔子ユメが自分の前に現れて恨みの言葉を告げる。

 余りにもリアリティのある夢だった。

 本当にユメが生き返ったのだと、見間違えてしまう程のものだった。

 

「うへへ、変な姿勢で寝てたせいかな~。リラックスして寝ないと、嫌な夢を見るって言うし」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、セリカちゃんが起こしてくれたから、もう安心だよ~」

 

 だが、自分は何事もなく生きている。

 ならば、あれはきっと夢だったのだろう。

 もしも、現実だったのなら、自分はユメ先輩に呪い殺されていなければならないのだから。

 

「……もー、しっかりしてよね。今、とんでもないことが起きてるのに、こんな所で昼寝して……」

「ごめんよぉ、でも、緊急事態の時こそいつも通り過ごせって言うしねー」

 

 自分の記憶では、確か見回りに出たはずだったと、記憶を探るがそれではここで寝ていた辻褄が合わない。

 

(見回りに出る前にここに来て、寝たのかな…?)

 

 きっと、この部屋に来て眠ったせいで、色々と夢を見てしまったのだろう。

 そう、結論付けてホシノは起き上がり、セリカを安心させるためにワザとらしく大きく伸びをする。

 

「さーてと、それじゃあ今度こそ空が赤くなった原因を調べに行こうか」

 

 気が緩んでいた。

 こんな所で寝ている場合ではなかったと、ホシノは内心で自分を責めながらセリカに話しかける。

 

 

「それは後! 今はそれどころじゃないことが起きてるのッ!!」

 

 

 しかし、セリカは空が赤くなったことよりもとんでもないことが起きていると、叫ぶ。

 これには、流石のホシノもおじさんモードが崩れる。

 

「え……私が寝てる間に何が起きたの?」

「説明しても信じられないだろうから、屋上についてきて! 先生もこっちに来てくれたから!」

「わ、分かった」

 

 尋常ではない事態が起きている。

 セリカの様子にようやっとそのことを悟り、ホシノは真面目な表情になる。

 そして、駆け足で屋上へ続く階段を上るセリカに、黙ってついて行くのだった。

 

 

 

 

 

「みんな! 先生! ホシノ先輩を確保して来たわよ!!」

「無事か、ホシノ? てっきり、1人で()()()戦いに行ったものかと思っておったぞ」

「ん、独断専行は許さない。アビドスは一蓮托生」

「はい。みんな揃わないと力が出せませんから」

「ホシノ先輩は最年長なんですから、もっとしっかりしていただかないと」

「ごく自然に、(わたくし)を年下扱いするのはやめて頂けませんか、アヤネさん?」

 

 以前のヘルメット団連合と戦った時のように、屋上に集結する6人+扉間。

 アビドスが唯一誇れる団結の力である。

 金も人も土地もないが、アビドスには“和”があるから……。

 

「ごめんね、みんな……それで、とんでもない事態って──」

 

 ホシノは仲間達に平謝りしつつ、みんなが見つめるのと同じ方角を見る。

 そこには虚妄のサンクトゥムと、それを囲むいつもの変わり映えの無い砂漠が広がっているはずだったのだが。

 

「………なーんか、緑色の物体が見えるねー。空が赤くなった次は、砂漠が緑色に変色したんだー。こんなの初めての現象だねー」

 

 視界に映るのは緑色の砂漠。

 現実とは思えない、世にも奇妙な光景。

 ホシノは現実逃避をするように、努めてのんびりとした口調で話す。

 あ! あの雲の形、クジラみたい。

 

「違うぞ、ホシノ。あれは──()()

 

 だが、扉間特有のマジレスで、現実に引き戻される。

 真っ赤な虚妄のサンクトゥムを囲むのは、反対色である緑の森。

 砂漠に住むアビドス勢には、最も見慣れぬ風景。

 

「………もり?」

「ああ、木が三つ集まって森と書く、森だ」

 

 ほんの数刻前までは何もなかったはずの砂漠に、突如として出現した森。

 それは虚妄のサンクトゥムや、空が赤くなったことよりも、アビドスに与える衝撃は大きかった。

 

「アヤネちゃん、アビドスに森ってあったっけ?」

「オアシスや、小規模なものなら記録に残っていますが……あれだけの規模のものは記録にありません。数千…いえ、数万年前なら分かりませんが」

「大昔は砂漠も森だったって言うしね~……おじさん達、タイムスリップしちゃったかぁ。アビドス過去編の始まりだよ~」

「先生がアビドスに問題なく到着できた時点で、流石にそれはないかと……」

 

 混乱する頭で、アビドスチャンネルが誇る解説のアヤネに聞いてみるホシノ。

 だが当然、アヤネの検索結果にもヒットは出ない。

 アビドスが森に囲まれていた時期など、それこそ生徒会の谷が作られるよりもはるかに前の話だ。

 考古学の世界である。

 

「植物ってほんの数時間であそこまで成長するんですねぇ……私、知らなかったです」

「私、初めてあんなに大きな森を見たわ……」

「ワカモちゃん。私はアビドスしか知らないけど、森って急に生えてくるものなの?」

「いえ、砂漠に生えるかどうかはともかく、1日も経たずに生えてくるわけがないでしょう? 常識を考えてください、常識を」

 

 まさに神の御業としか思えない光景に、どこか現実逃避気味に語り合うアビドス勢。

 砂漠の民が巨大な森を目にすればこうもなろう。

 まあ、巨大な桜の木を見慣れているワカモですら、この現象はあり得ないと断じられる程の異常事態なのでしょうがないが。

 

「ワカモの言う通りだ。あれは常識の範囲での普通の森ではない……ワシの考えが正しければ()()()()だ」

「木遁って……この前、先生が話してた、お兄さん専用の術じゃ…?」

「ああ。()()()術だ。ワシも目の前の光景がにわかには信じられんが……ワシが兄者の木遁を見間違えるはずがない」

「あの時は、話を大げさに言ってるって思ったけど、本当に砂漠を森に変えられるんだ……」

 

 険しい顔をしたまま、扉間がホシノの質問に答える。

 穢土転生組が忍術を使うのは既に理解している。

 百鬼夜行の本体から、術者がシロコ*テラーだというのも伝えられている。

 だが、血継限界や血継淘汰の類は、まだ確認できていなかった。

 

(大人のカードを使えば、全ての忍術が再現可能なのか? それならば、まだマシだが……仮に兄者が穢土転生されているとすれば、不味い。こちらに本体を呼ぶべきか?)

 

 故に、扉間は最悪の可能性を想定しているのだ。

 忍の神が敵に回っている。その可能性を。

 

(ワシという死人が、この世界に居る以上は兄者が来ないとは言い切れん。単なる穢土転生で、兄者が縛られるとは思わんが……出力を抑えた状態でも、今のワシには荷が重すぎる。それに何より、兄者は馬鹿だ。何をしでかすか分からん)

 

 誰よりも柱間を信頼し、理解しているからこその焦り。

 後、兄者の木遁はちょっとキモイのだという、嫌悪感。

 それらが複雑に絡み合い、扉間の眉間に隠せぬ皺が寄る。

 

「ねぇ……なんか、森が広がっていってるように見えない?」

「……メキメキ生えてますね。あ、今、大きな花が咲きました。私、あんな大きな花は初めて見ました」

「もしかして、砂漠全部を森で埋め尽くす気でしょうか? 凄いですねぇ」

 

 そして、どういう訳か森は無秩序かつ凄まじい速さで、さらに広がっていっている始末。

 セリカとアヤネ、ノノミがポケーッとした表情でそれを見つめる。

 脳の理解が追い付いていないのだ。

 

「ん、もしかして砂漠を緑化してくれてる…?」

「なにをバカな……。相手に何のメリットがあって、砂漠の緑化などをするのですか? ()()()()()()()でもありませんのに」

 

 シロコがプラス思考で呟いた言葉に、ワカモが呆れながらツッコむ。

 こんな状態を作り出している人間が味方なわけもないし、アビドスに所縁もない人間がそんなことをする理由があるのかと。

 

()()()()()()()……まさか……」

 

 しかし、そんな中。

 ホシノの脳内に、嫌な予感が走る。

 

「ユメ先輩…?」

 

 ホシノはただ1人、まさかと思いながら、その名前を零すのだった。

 

 

 

「ひぃん……辺り一面木ばっかりになって、どっちに進めばいいか分からなくなっちゃったよぉ…! お金がないからコンパスも買えなかったし……ホシノちゃ~ん!」

 

 

 

 愛すべき馬鹿の名前を。

 




次回はVSユメ先輩。
その次はVS穢土転生リオ。
本当は、逆の順序の予定でしたが周年でケイとアーマードアリスが来たので、29日の実装を見て書こうかと。

しかし、原作でリオの口から囮という言葉が出る日が来るとは……感動しました。
リオが「囮役はもちろん、私が行くわ」と言う幻術が脳内に溢れ出したけど、実際はエイミだったぜ。
やはり、エイミは火影の器か……。

次回は28日投稿。
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