千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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9話:誤解

「流石は、精強と謳われるゲヘナ風紀委員会だな。よく練られておる。それに部隊の足並みのブレも無い。イオリ、見事な指揮だ。日頃の鍛錬が良く見える」

「あ、ありがとう、先生」

 

「チナツも救護の判断能力、的確さ、何より速さが優れておる。流石は、部隊の命を預かる者だな。お前のような者が後方で控えているからこそ、前線に赴く者は怖れを克服できるのだ」

「ありがとうございます……その、そんな風に言って貰えたのは初めてです」

 

 なんか、普通に和やかーに撮影が進んでいる。

 モニター越しで実際には出演していないので、アコは遠慮なく顔を顰めさせる。

 扉間はあれだけの策謀を巡らして来た男だというのに、今は本当に()()にしか見えない。

 姿形が似ているだけの別人だと言われた方が、まだ納得できる。

 

「釈迦に説法だとは思うが、今の努力を怠ることなく続けていくのだぞ」

「分かった、先生」

「はい、先生」

 

 元々、扉間を知っていたチナツはともかく、イオリも何故か懐いている。

 いや、よく考えるとイオリは結構単純なので、自分が頑張っていることを褒められたらコロッといくかもしれない。

 でも、私だけは騙されることなく、強い意志を持ち続けないと。

 アコはそう、覚悟を決める。

 

「他の者達も1人1人が誇りを持ち、風紀委員会としての仕事を全うしているのが分かる。お前達の顔を見れば、お前達を纏める長の格が分かるというものだ」

 

 だが、まあ、委員長ヒナへの賛辞だけは素直に受け取っておこう。

 先生も良く分かっているじゃないかと、アコは少しだけ機嫌を直す。

 

「む? そろそろ時間か。では、名残惜しいが第6回トビラマチャンネルはここで終わるとしよう。今回のゲストは」

「げ、ゲヘナ学園風紀委員会でした」

「ゲヘナ学園風紀委員会にはあらためて感謝を。それではチャンネルの登録を頼むぞ」

 

 そして、第6回トビラマチャンネルは終わりを告げる。

 

 

「さて……最後にアコ」

『…! なんでしょうか、先生?』

 

 撮影が終わると、ようやくといった感じで扉間がアコに話しかける。

 キッと目に力を入れて、アコは扉間と相対する。

 本命の交渉がここから始まるのだと。

 

「お主もよく頑張っておる。方法は少々強引だが、これだけの部隊を極秘での遠征。優れた段取り能力がなければ出来ることではない。風紀委員会が成り立っているのはお前の頑張りのおかげだ」

 

 だが、告げられたのは誉め言葉であった。

 

『う、胡散臭い……』

「お前はワシのことを何だと思っておるのだ」

 

 思わず、こんな奴の言うことなど信じられるかと本音が出る、アコ。

 そんなアコに思わず、ため息をつく扉間。

 

『で、でも、先生は私の動きを読んでいたんですよね?』

「確かに。お前の今回の行動は、政治的には褒められたものではない。ゲヘナという大量の不良のせいで足元が固まっていない学園で、わざわざワシを攫うリスクを考えておらん。まあ、確かにワシがゲヘナ専属の先生にでもなれば、そのメリットが大きいものとなるのは分かる」

 

 アコの策謀に一定の理解を示す扉間。

 攫うって何のことだと、イオリが聞こうとするのをチナツが抑える。

 今は空気を読んで話を聞くべきときなのだ。

 

「だが、ワシを攫う正当性などどこにもない。トリニティや他の学園……さらに言えば、連邦生徒会から非難される口実を作るだけだ。動画撮影中のワシを攻撃できなかった理由と同じだと何故気づかん? 戦争でも起こす気か」

『そ、それは……先生の言葉としてゲヘナの発言力を高めれば、躱せるものかと』

「少々楽観が過ぎるな。戦争の理由など適当な大義名分があればいいのだ。事実確認など必要ない。ワシがゲヘナに捕まり、拷問を受けているとでも流せば救出のためと言って堂々とゲヘナに侵略できる……それぞれの陣営が同時にな」

 

 そんなことをするつもりはない。

 そう言いたかったが、アコは何も言い返せなかった。

 扉間の言う通りだ。事実などどうでもいい。

 綺麗なお題目さえあれば、戦争などいつでも起こせる。

 仮に嘘だったとしても、後で()()()()()()すればいいのだ。

 

「お前は物事を焦り過ぎる」

『うっ!』

「そもそも、攫うなどということをせずともシャーレに依頼を出せばよかったのだ。不良達が一向に減らぬ現状を何とかするために力を貸してくれとな。これならば、一朝一夕で解決できるものではなく、必然的にゲヘナに長期滞在する形になる。今アビドスに滞在しているようにな。それを利用すれば穏便にワシを確保できたはずだ。まずは、そちらの線で策を進めるべきだったものを……なぜ、いきなり強硬策に出たのだ?」

『うぅ……』

 

 余りにも完璧な作戦に何も言い返せない。

 そうだ。初めは穏便に物事を進めればよかったのだ。

 荒事は上手く行かなかった時にやればいい。

 功を焦ってしまったために、ゲヘナは義を失ってしまったのだ。

 

「焦りとはな、決して表に出してはいかんのだ。それを表に出すということは、自らが不利だと言っているのと同義。お前達には風紀委員長という最強の力が後ろに控えているのだ。どっしりと構えておるだけで、相手は勝手に警戒してくれる。強行策は最後にしても十分間に合う」

 

 交渉において最も重要なことは話力ではない。背後にある暴力だ。

 生前の扉間もよく、柱間の力を交渉に利用したものである。

 扉間は柱間が滅多なことでは、怒らないことを知っている。

 だが、相手はそうではない。

 

 忍の神が木ノ葉にいる。

 ただ、それだけで抗うか恭順するかの2択を考えさせられる。

 柱間的には争わなければ、別にどっちもしなくてもいいと思っているにも関わらずに。

 

 まあ、扉間はそれを利用して普通に交渉するのだが。

 

「……と、色々と言ったが別にワシはお前の行動を非難しているわけではない」

『え? でも、散々アラを指摘したじゃないですか……』

 

 責めているわけではないと告げる扉間に、アコが目を丸くする。

 

「そうだ。次につなげられるように指摘したのだ」

『次?』

 

 まるで、先生が生徒のテストを採点するかのような物言いに、アコは混乱する。

 いや、目の前に居るのは一応先生なのだが。

 

「お前はまだ若い。一度の失敗で全てに絶望する必要などない。死ななければ、いくらでも挽回できるのだ。……今回は少々高い授業料を払うことになったようだがな」

 

 そこでアコは、ようやっと誤解に気づく。

 ずっと、自分と扉間は敵として認識していた。

 だが、扉間は最初から生徒として導いていただけなのだ。

 ゲヘナの子らもワシの可愛い生徒だという言葉の通りに。

 

 まあ、自分の利となるように動かしてもいたが。

 

「今回のお前の行動は、(ひとえ)(ゲヘナ)のため。あるいは支えたい人(風紀委員長)のためであろう? やり方には課題が残るが……ワシはそういった人間は嫌いではない」

 

 思い返せば、便利屋の討伐はこちらから言い出したこと。

 そして、被害も便利屋に対してのものしかない。

 利用はされたが、扉間は特に敵対行動は取っていないのだ。

 

「思考は常に氷のように冷静でいろ。だが、大切な何かを守りたいという火の意志だけは決して忘れるな」

 

 ああ、これは勝てない。

 どこまで行っても、先生と生徒。

 最初から敵対者ではないのだ。

 

『……はい、ありがとうございます』

 

 故にアコは自然に頭を下げる。

 自分への厳しい指導への感謝として。

 

『では、みなさん。ゲヘナに撤収しますよ』

「……分かった」

「はい、了解です」

 

 こうして、後味よく今回の遠征は終わる。

 

 

 

『―――こちら、ヒナ。アビドス自治区周辺に部隊を率いて出撃したこと。それから、私を()()()トビラマチャンネルに出演してた理由を説明してもらえる?』

「……ヒ、ヒナ委員長」

 

 

 

 なんてことはなく、全員で反省文の山を築き上げることが確定したのだった。

 

 

 

 

 

「カヨコ、追手は?」

「……大丈夫そうだよ、社長」

「な、なんとか、逃げ切ったわね」

 

 所変わり、こちらは逃亡劇を終えた便利屋と覆面水着団。

 追手のカイザーPMCをちぎっては投げ、ちぎっては投げて逃げ切ったのだ。

 

「ふぅ、疲れましたねー」

「ほーんと、でもあなた達と一緒に戦うのも面白かったよ」

 

 のんびりと言うノノミにムツキが楽しそうに笑う。

 僅かな時間ではあるが、共闘を行ったが故に絆が生まれたのだ。

 まあ、そもそも逃げるはめになったのは、覆面水着団の親玉のせいなのだが。

 

「えっと……それで、あなた達は一体…あ、正体を明かしたくないから覆面をつけてるんですよね? ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「い、いや、そんなに謝らなくてもいいわよ」

 

 そして、やっと落ち着いたところでハルカが覆面水着団の正体を聞く。

 ついでに、今にでも自殺しそうな勢いで謝り始めたので、セリカがドン引きしている。

 

(アビドスなんだろうけど助けられたのは事実だし……あっちが何か言うまで黙ってよう)

 

 反対に正体を知るカヨコなどは、空気を読んで黙っている。

 

「……私達は覆面水着団。トビラマ先生直属の暗部の忍者」

「に、忍者ですってぇッ!? 火遁の術とか使えるの!?」

「忍は闇に潜む者。不用意に手の内を明かさない」

「…ッ! そ、そうね。私が間違ってたわ」

 

 その結果、シロコが悪ノリで妙な設定を付け加え始める。

 言われたアルの方も目を輝かせて頷く。

 カヨコが頭を抱えるがもう遅い。

 場は混沌を極めるのだった。

 

「んー、このままだと話が進まないから、おじさんが説明するね」

 

 流石にこのままだと、話が進まないのでホシノが覆面を脱いで説明を始める。

 

「え!? あなた達はアビドスの…! まさか、アビドス高校は忍者育成学校だったの!?」

「違うわよ! ほら、シロコ先輩も覆面を取る! 話が進まないんだから!!」

「残念」

 

 なおも勘違いを続けるアルにツッコみを入れる、セリカ。

 名残惜しそうに覆面を外す、シロコ。

 

「えーと、それじゃあ、まずは先生から渡せと言われた依頼料です」

「私が確認する…………本当に1億ある。偽札とかじゃないよね…?」

「はい、全部()()()()()

 

 渡されたカバンの中に入った現金を見て、若干引きながら本物かと尋ねる、カヨコ。

 ノノミはニコリと笑って本物だと告げる。それに嘘はない。

 ただ単に、産地直送で送られてきた()れたて新鮮な現金というだけである。

 

「今回の依頼はゲヘナの風紀委員会が先生を狙ってたから、足止めするために雇ったんだって。おかげで助かったよー」

「私達もあなた達が負けたら困る。だから、共闘した」

「そ。正当な報酬だから受け取りなさい」

 

 嘘は何一つ言っていない。

 風紀委員会を足止めする人間が必要だったのは本当(カイザーPMCへの嫌がらせのため)。

 便利屋が負けたら困るのも本当(金の押し付け先がなくなるから)。

 正当な報酬なのも本当(ただし、金の出所は正当ではないが)。

 

 ただ単に、本当のことを言っていないだけである。

 

「社長……」

 

 なんか怪しいけど、本当に受け取るの?

 視線でカヨコが尋ねて来るが、アルの返事は決まっていた。

 

「ええ、もちろんよ。依頼料、耳を揃えて頂戴したわ」

 

 返事は即答。だって、そっちの方がカッコいいから。

 後、大金を前にちょっと舞い上がっていた。

 

「……(押し付けられて)よかった。じゃあ、私達は帰る」

 

 そんなアルの姿に満足気に頷き、証拠隠滅…もとい取引を終えたシロコ達は帰ろうとする。

 だが。

 

 

「わわわっ、どいてくださいー!!」

 

 

 突如として、現れたペロロ様のカバンを持った少女と衝突してしまう。

 

「ご、ごめんなさい……」

「大丈夫?」

 

 余程急いで走っていたのか、真正面から衝突した少女にシロコは優しく声をかける。

 どうやら、まだ人としての最低限の優しさは残っているらしい。

 

「何だお前らは? そいつを渡さないと痛い目見るぞ」

「そいつはあたしらの大事な人質なんだ。トリニティから身代金を頂くためのなぁ!」

「ねえ、その子の制服……トリニティ総合学園のだ」

「あら、カヨコの言う通りなら。お嬢様校の人間じゃない」

 

 そして、少女を追って現れたのは2人の不良。

 どうにも、少女を捕まえて身代金の交渉に使うつもりらしい。

 

「身代金………ッ!」

 

 その時シロコはふと閃いた。

 これはアビドス高校の借金返済に活かせるかもしれない。

 

「シロコ先輩、何閃いたみたいな顔してるの? 流石に軽蔑しますよ」

「ご、ごめん」

 

 何かに閃きかけるシロコだったが、セリカからの説得で何とか踏み止まる。

 この女、扉間との出会いが悪い方に働かないか、とても心配である。

 

「おらおら! 分かったなら、さっさとその女を寄越――」

 

 そして、不良達は銃をこちらに突きつけて脅しをかける。

 そんな不良達の顔面に。

 

 

「―――お金が欲しいならあげるわ」

 

 

 アルが札束を叩きつける。

 

「なにすんだてめぇ…って、札束!?」

「今の私は気分が良いのよ。水を差さないでくれるかしら? それを拾ったら、サッサと失せなさい、三下」

 

 叩きつけられた100万円の札束に、驚愕の声を上げる不良達。

 アルはそんな不良共に、心底つまらなそうな顔をしながら吐き捨てる。

 

(き、決まったぁー! 一回やってみたかったのよね、こういうの!)

 

 内心ではマフィアのボス的な演出にキャッキャッと喜びながら。

 

「へ、へへ、話が分かるじゃねえか」

「ありがたく貰うとするわ」

 

 不良は一瞬どうしようかと悩んだが、すぐに金の魔力に負けて札束を拾うために頭を下げる。

 そう、不用意にも相手から目線を離して、首を垂れたのである。

 

「「チャンス」」

 

 そこへ放たれる2発の銃弾。

 ムツキとシロコが、不良達にヘッドショットを決めたのである。

 脳に直接叩き込まれるような衝撃を受けた不良達は、声も上げることなく倒れこむ。

 

「……へ?」

「さっすが、アルちゃん。お金を渡すと見せかけて、相手を犬みたいに這いつくばらせるなんて悪どーい」

「相手はお金を拾うために、首を差し出さないといけない。そこを狙う……勉強になった」

 

 なんで撃ってるの?

 キョトンとした表情を浮かべるアルに対して、ムツキが面白半分に弄り、シロコが真顔で勉強になったという。

 

「流石です、アル様。悪のカリスマですね!」

「温情と見せかけて、冷酷な一撃を叩き込む……如何にも悪のボスって感じですね!」

 

 ハルカがキラキラとした目で称え、ノノミが悪のボスと褒める。

 もはや、アルには否定する道は無くなってしまった。

 

「え、ええ、そうよ! 私達が稼いだお金だもの。三下如きには渡せないわ!」

「よ、キヴォトス1の悪党!」

「……また、見栄っ張りなんだから」

 

 ホシノが面白半分に煽てて、カヨコがまた見栄をと、呆れた表情を見せる。

 

「え、えーと……助けて頂いてありがとうございます。私は阿慈谷(あじたに)ヒフミと言います」

「その制服ってトリニティのでしょ? なんで、こんな所に居るの?」

 

 セリカがブラックマーケットはお嬢様学校の生徒がいる場所ではないと、暗に忠告する。

 それに対して、ヒフミは若干申し訳なさそうにしながら、とあるぬいぐるみを取り出す。

 

「あ! ペロロちゃんのグッズですね!」

「はい! そうなんですよ! 実はこれはアイス屋さんとコラボした時の限定グッズでして、通常だともう手に入らないので、ブラックマーケットに探しに来たんです!」

 

 ノノミからの反応に嬉しそうに語るヒフミ。

 因みに、そのペロロ様人形はペロロ様がアイスを吐き出すような見た目になっているので、ファンではない人間からは微妙な視線を向けられている。

 

「……ところで、みなさんは一体? 見た感じ、ゲヘナとアビドスの方だと思うんですが……お友達ですか?」

「友達じゃないわ。私達はビジネスだけの関係よ。依頼料を受け取ったんだから、今この瞬間からは敵同士に戻るわ」

「あー、そう言えば、カイザーローンに雇われて私達を学校から追い出そうとしてたねー……あれって、まだ続いているの?」

 

 ヒフミからの質問に、格好をつけてビジネスと答える、アル。

 そう言えば、敵だったなと若干目を鋭くする、ホシノ。

 

「待って、なんで私達の雇い主のことを知ってるの?」

 

 そして、ここでカヨコが自分達の雇い主がバレていることに警戒した様子を見せる。

 

「………いやー、状況証拠から考えたらそこしかないし」

 

 一瞬、先生が直接カイザー理事に会ったことを話そうかと思うホシノだったが、敵だと言っている人間に、あまり情報を与えるのもなぁと思って適当に誤魔化す。

 

(アビドスの奴ら、ただ強いだけじゃなくて頭も回る……1億円も手に入れたんだし、このままカイザーの指示で戦うより、夜逃げでもした方がいいかも)

 

 そして、カヨコは武力だけでなく知恵も回るアビドスと敵対を続けることに、デメリットを感じて夜逃げを検討する。勝てる保証は低いのに、負けた時のリスクは高い。依頼料が割高だったので受けたが、それも今は1億円で解決している。依頼を断って逃げた方がメリットがあるかもしれないのだ。

 

「え? みなさんはカイザーローンとつながりがあるんですか?」

 

 そんな所に、ヒフミが不安そうな顔で尋ねて来る。

 

「ただのクライアントよ」

「アビドスはお金を借りてるんです」

「あの…その…言い辛いんですが、カイザーグループは合法と違法のグレーゾーンにいる会社でして……『ティーパーティー』でも生徒への悪影響を懸念して、目を光らせているんです」

 

 もしかしたら、騙されているかもしれないよ。と、言葉にはせずに伝えるヒフミ。

 ヒフミの言葉に、カヨコはやっぱり夜逃げしようかなと思う。

 そして、ホシノは。

 

「ねえ、ヒフミちゃん」

「はい、なんでしょうか?」

「灰色が黒色に変わる薬があったら、トリニティの生徒会はどう動くと思う?」

 

 この際だから、トリニティも巻き込んでしまえと画策していた。

 

「え? それって……」

「トビラマ先生がね、色々と頑張ってるんだよねー」

「先生……確か、連邦捜査部の」

「そ。もしもだけど、灰色が黒になるなら、トリニティはどうするか参考に聞きたいなーって」

 

 情報は既に掴んでいる。

 後はリークするだけだが、どうせならそこで一気に大ダメージを与えたい。

 キヴォトス1の資金力を持つトリニティも協力的なら、随分と動きやすくなるだろう。

 

「……私なんかでは判断できませんけど、少なくともカイザーグループの手助けをすることは無いと思います」

「ありがとうねー。先生にもそう伝えておくよ」

 

 少なくとも敵には回らないだろう。

 ヒフミの言葉に朗らかに笑いながら、ホシノは後で扉間に伝えようと思う。

 扉間ならば、きっとこの情報を役立ててくれるはずだ。

 そうと決まれば、早速この情報を持ち帰って――

 

 

「―――悪いが、君達には先生の人質になってもらおう」

 

 

 戦車の砲弾が降り注ぐ。

 建物がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

 現れる無数のオートマタとカイザーPMC達。

 そして。

 

「その声……もしかして、クライアント!?」

「先生が言ってた、カイザー理事? PMCに追いつかれた…?」

 

 それらを引き連れたカイザー理事が姿を現す。

 

「マーケットガードもいる。やっぱり、カイザーグループとは繋がってた。多分、そこから私達の位置情報が漏れたんだ」

「え? え? なんで、急にこんなことに?」

 

 カイザーグループとブラックマーケットはやはり繋がっていたのかと、唇を噛むカヨコ。

 完全なる巻き込まれなので、訳が分からず混乱する、ヒフミ。

 

ゲヘナ(便利屋)だけでなく、アビドスにトリニティ……やはり、あの先生は恐ろしいな」

 

 しかし、カイザー理事はそんなことは知らない。

 今回の件には、トリニティも扉間が絡ませているのだと勘違いする。

 これが、疑心暗鬼というものだ。

 

「だが、今はあの男は居ない。トビラマチャンネルでこちらに居ないのは確認済みだ」

「あんたも見てるんだ……」

 

 扉間はこちらには来られないと、カイザー理事は生徒達の絶望を煽るように言うが確認方法があれなので、セリカはちょっと呆れた言葉を漏らしてしまう。仕方ないだろう。情報源がトビラマチャンネルしかないのだから。

 

「君達の作戦は実に見事だった。銀行を襲い、その隙にハッキングで不正の証拠データを抜き出す。その間にゲヘナの風紀委員会で私達の出撃を足止め。そして、ブラックマーケットで落ち合い各陣営へ情報を流す。尊敬を通り越して、寒気すら覚える冴えだ」

 

 お前達何してんの? と、便利屋が対策委員会を見る。

 ヒフミはどういうことだってばよ? と宇宙猫のような顔を浮かべる。

 それに対して、対策委員会は特に悪びれた様子は見せない。

 随分と肝が太くなったものだ。

 

「だが、それもここまでだ。よくも私をここまでコケにしてくれたな……許さんぞ」

 

 ここまで、完璧にしてやられたのだ。

 カイザー理事の怒りは、それはもう凄いものになっている。

 故に、カイザー理事はハッキリと告げる。憎き相手の名を――

 

 

 

「―――許さんぞ、陸八魔アル」

 

 

 

「………へ?」

 

 陸八魔アルの名前を。

 

「な、なんで、私ッ!?」

「惚けるな。君達便利屋は最初から先生と繋がっていたのだろう?」

 

 訳が分からずに、白目で叫ぶアルにカイザー理事は恨み言を吐く。

 

「思えば最初からおかしかったのだ。計算通りならば負けるはずのないアビドス対策委員会に負けた。これだけならば、アビドスが強くなったで説明できる。だが、つい昨日のことだというのに、お互い無傷。さらには何の遺恨もなく手を組んで元気に戦えている。事前に手を組んでいたとしか思えない」

 

 勘違いです。

 ただ単に、良い子ちゃん同士なので、そこまで傷つかなかっただけです。

 とは言えない空気が続く。

 

「さらに、今日の銀行強盗。君達は1億円を盗む陽動係を務め、本命の情報(データ)は先生が抜き取る。その後、風紀委員会とぶつかったように見せかけて我々PMCだけを攻撃し、アビドスと合流してここまで来た」

「い、いや、風紀委員会とは本気で戦ったわよ」

「ほう? 今まさにトビラマチャンネルで元気に出演しているのにか?」

 

 アルは否定するが、カイザー理事はスマホを片手にトビラマチャンネルを見せる。

 そこには楽しそうに、風紀委員会を指揮するイオリとチナツの姿があった。

 実にシュールな光景である。

 

「というか、そもそも銀行は私達じゃなくて、多分アビドスよ!」

「アビドス高校の面々の経歴は全て洗っている。彼女達に犯罪歴はない。ならば、わずか5分で金を盗むという手際の良さは、指名手配犯である君達と考えるのが妥当だ。それに何より、その手に持つ1億円が何よりの証拠だ」

 

 アルがシロコを見る。シロコがガン無視を決め込む。

 すいません。銀行強盗が天職の狼がいただけなんです。

 信じてください。とは言えない状況だ。

 

「そして、最後はブラックマーケットでトリニティ等の他の学園の生徒に情報を渡す。盲点だったよ。ブラックマーケットを経由すれば、痕跡を残さずに他の学園の者と通じることが出来る。正式な交通機関も管理機構も無い場所。つまり記録が残らない。金さえ積めば、簡単に証拠も揉み消せる。ブラックマーケットを良く知る便利屋ならではの戦術だ」

 

 ただ単に、風紀委員会を撒くために逃げて来ただけなのにとカヨコは思う。

 しかし、風紀委員会もグルだと思っているカイザー理事は、はなからその可能性を否定している。

 

「そ、それは偶然……」

「今この場にゲヘナ・アビドス・トリニティの三校が揃っている。偶然で済ますには余りにも出来過ぎているとは思わないかね?」

 

 ヒフミは偶然を主張するが、そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 自分はペロロ様グッズのためにコッソリ抜けてきただけなのにと思うが、学園に伝えていないせいでむしろ密偵である信頼性が上がってしまう。

 後、正直にペロロ様グッズのためと言っても、そんなもののために学校を抜け出してブラックマーケットまで来る人間は、普通は居ないと言われたら地味に反論できない。

 

 

「そうだ。陸八魔アル。君達便利屋が最初から先生と繋がっていれば、全て辻褄が合うのだ」

 

 

 不自然な初戦。

 不可解な共闘。

 手際の良すぎる銀行強盗。

 裏でのゲヘナとのつながり。

 ブラックマーケットを利用しての他校への情報共有。

 

 何という事だろうか。

 その全てが便利屋と扉間が初めから繋がっていれば、説明がついてしまうのだ!

 

「トビラマ……表だけでなく、裏の世界でも既に独自勢力を手に入れているとは……しかも、何の痕跡も残さずに……大した奴だ」

 

 何故か便利屋がシャーレの暗部的な役割と勘違いされている。

 その事実を否定したいアルだったが、状況証拠が揃い過ぎているので否定できない。

 というか、否定しても多分信じてもらえない。

 

「やはり恐ろしい……」

 

 そしてこの盛大な勘違いの根本的理由は、扉間がカイザー理事に植え付けた得体の知れない恐怖である。理解の出来ない術を使う扉間に、カイザー理事は冷静さを失って疑心暗鬼になってしまっているのである。これも相手の術中ではないかと。

 

 まるで、戦場から帰ってきた仲間が、穢土転生爆弾になっていないか疑ってしまうように。

 

「だが、先生の弱点は分かっている。君達生徒を人質に取れば情報のリークを止めざるを得ない」

 

 しかし、それでもやるべきことだけは勘違いしていなかった。

 この状況を打破する一番の方法は生徒を人質に取ること。

 そうすれば、子ども想いの扉間は動きを封じられる。

 

 PMCとマーケットガード達が銃を構える。

 

「………アビドス」

「この場で必要なのは仲間同士の結束。私的な争いは後」

 

 青筋を立てたカヨコがシロコを睨みつけるが、シロコはふてぶてしい態度を貫く。

 一体誰に似てしまったのだろうか。

 

「あのさぁ……流石の私もどうかと思うよ?」

「いやー、ごめんって。でも、最初に仕掛けたのはそっちだし、お相子ってことで」

 

 ムツキには珍しい真顔のツッコみを受けるホシノだったが、先に仕掛けたのはそっちだと言って受け流す。流石の扉間も敵対していない相手に罪をなすりつけることはしない。恨むなら、カイザーの依頼を受けた自分達を恨めと。

 

「あの…もしかして……この1億円って」

「大丈夫ですよ。使いづらいなら、私と先生が責任を持って何とかしますから」

 

 1億円の出所を知って、ビクビクするハルカに優しい笑みを向けるノノミ。

 その気になれば自分の財産と交換できる女は強い。

 

「え、えと……私はどうすれば」

「巻き込んじゃってごめん! でも、切り抜けるには戦うしかないわ!!」

 

 どうしようと呟くヒフミの肩を叩き、セリカは謝る。

 だが、貴重な戦力なので決して逃がしはしない。

 肩を握る握力の強さがそれを物語る。

 

「……上等じゃない」

 

 そんな味方(?)陣営の混乱の中、アルは覚悟を決める。

 もう、カイザーには裏切られたと思われている。依頼の話はなくなった。

 つまり、この手にある1億円がなければ明日からモヤシ生活確定である。

 それは嫌だ。

 

 

「やってやるわよッ! こんちくしょーッ!!」

 

 

 こうして、陸八魔アルは裏社会の―――伝説になった。

 

 

 

 

 

「……何者だ? こそこそと隠れてワシに何の用だ?」

 

 所変わり、トビラマチャンネルを終えた扉間。

 風紀委員会と別れた彼の下に、何者かが近づいてくる。

 

「これは驚いた。いえ、流石は()()とでも言うべきでしょうか?」

 

 コツリ、コツリと硬い靴の音を響かせて、黒いスーツを着た何かが近づいてくる。

 異形の面。存在しているのに、存在していないかのような不自然な空気。

 ここに居るべきでない()()の男。

 

 

「こんにちは、トビラマ先生。少々お話をしませんか? 美味しい緑茶が入ったんですよ」

 

 

 そう言って、黒服は顔の見えない不気味な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「貴様は後! まずは、生徒達の下へ行く!!」

 

 

 

 

 まあ、その笑みはすぐに引っ込むことになるのだったが。

 

 




陸八魔アル伝説
・カイザーローン本店を襲撃。僅か5分で1億円を強奪する。
・キヴォトス最強と言われるゲヘナ風紀委員会を撃破。
・ブラックマーケットで、PMCとマーケットガードを相手に大立ち回りを見せる。
・上記を全て1日の間に行った。

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