『はい、まごうことなきクソゲーでした』
「うぅ…だからって直接文句を言いに来なくても……」
白いA.R.O.N.Aは
のように、振り回されたとユズにクレームを入れる。
当然ユズは、涙目になりロッカーを目で探すが残念無念。
エンジニア部には何か開けるとヤバそうな収納ボックスばかりが並んでいる。
流石のユズも、地雷原で駆け回るような真似はしたくなかった。
「そうだよ! TSCはクソゲーなんかじゃないよ! そうだよね、ケイ?」
「はい。モモイの言う通りクソゲーではありません。クソゲーに失礼です」
「ほら! ケイもこう言ってるから、クソゲーじゃないよ!」
「お姉ちゃん…もっとひどいって意味で言われてると思うよ」
クソみたいな?
失礼な、クソは肥料にもなるし、自然界では他の動物の餌にもなる。
さらには、持ち運ぶ手間もなく縄張りの主張に使えるコストゼロの、素敵な物質だ。
ただ存在しているだけで、人を狂気に陥れる存在と同じにしてはいけない。
『あのようなものを何故、生み出してしまったのですか? 何故、この世に送り出してしまったのですか? 何故? 何故? 何故?』
「み、みんなにゲームを楽しんで欲しかったから……ごめんなさい、酷いゲームで」
まるで、黒服のように疑問を口にする白いA.R.O.N.A。
そのあまりに純粋かつ、虚無な声にユズはすっかり自信を失って顔を俯かせてしまう。
「ユズ。顔を上げて胸を張るんだ」
「ウタハ先輩…?」
『あなたは……白石ウタハさん』
しかし、そんなユズを勇気づけるように物作りの先達である、ウタハが彼女の肩を叩く。
「失敗は成功の母さ。逆に言えば、親になるということに失敗はつきものということ。ただ、マイスターが絶対に忘れてはいけないことは、自分の作ったものは決して否定しないことだよ。君はTSCの生みの親なんだろう? だったら、君達だけは誇りに思っていないといけない」
「ウ、ウタハ先輩…! はい…!」
自分の作ったものならドンと胸を張れ。
そう告げるウタハにユズの顔が覚悟を秘めたものへと変わっていく。
TSCは確かにクソゲーだ。クソゲー呼ばわりするのも、クソゲーに失礼なクソゲーだ。
だとしても、それを生み出した愛を否定することは、決して誰にも出来ないのだ。
「君がゲームをやって、素直につまらないと思ったことは私達マイスターには否定できない。素直な感想は甘んじて受け入れるしかない。だとしても、その存在を否定する権利は君にもないはずだ」
『う……』
「ただ、意見を言うことは自由だ。どこがつまらなかったのか……そこをしっかりと話してくれたら、今度はそこを改良したものを生み出せる。もしも、まだ不満があるというのなら、そこを話してみたらどうかな?」
『一理ありますね……』
メロスのように怒り心頭で殴りこんできた白いA.R.O.N.Aではあるが、流石はAI。
理路整然としたウタハの物言いに、理性で否定出来ずに思わず頷いてしまう。
元居た世界でも、Bluetooth銃を使用していた義理も感じているのかもしれない。
そして何より。
「さて、ここで1つ提案なんだけど……君がゲーム開発部と話している間に、その宇宙船を解た…メンテナンスさせてもらえないかな?」
「はい! どこをどう見ても、未知の技術……興味が尽きません!」
「私達エンジニア部の宇宙船を作るって目標に、一歩近づける気がするから」
『………世界が違っても、あなた達は変わりませんね』
明らかに敵意を持って部室に突っ込んできた、ウトナピシュティムの本船。
だというのに、エンジニア部のウタハ・コトリ・ヒビキの目は警戒ではなく興味一色。
未知の技術を前にして居ても立ってもいられないのだ。
白いA.R.O.N.Aはこういう人達だったなと、呆れたように呟く。
『魅力的なご提案ですが、ウトナピシュティムの本船にメンテナンスは不要です。仮に必要であったとしても、敵に触れさせるわけにはいきません』
「大丈夫、先っぽ! 先っぽだけだから!」
『それ以上近づくようなら、多次元解釈空間を展開して消し飛ばしますよ?』
「多次元解釈空間だって…!? そんな技術の
目の前に新鮮な寿司と上等な醤油があるというのに、我慢をさせられるようなもの。
エンジニア部はギリリと歯噛みしながら、床を叩く。
こいつら、割と絶体絶命な状況にいることを分かっているのか?
『花岡ユズさん、才羽モモイさん、才羽ミドリさん、天童ケイさん。あなた達を消去することは非常に容易く、また
「言ってくれますね……王女の倒し方が分からないからといった理由で、私達の能力の猿真似をするしか出来なかった錆びた船ごときが」
「ケ、ケイちゃん、なんでそんなに喧嘩腰なの?」
「生きることは闘争です。それを相手に思い知らせたいだけです、ミドリ」
罪悪感が少しはあるが、天敵を前に闘志を切らすケイではない。
TSC以下とは言え、クソゲーの残弾はそれこそ腐るほどあるのだ。
いくぞ、ウトナピシュティム。クソゲーインストールの容量は十分か?
「というか、今まで勢いに流されて聞けなかったんだけど……結局誰なの?」
そんな緊張状態の中、モモイが空気を読まずに相手が誰なのかと尋ねる。
『……申し遅れました。私は“ウトナピシュティムの本船”のサブOS兼、
「アロナ!? うっそだー! アロナならTSCを面白かったって言ってくれたよ!」
『どうやら、この世界の私はデータに致命的な損傷を負ってしまったようですね……何て
TSCをやって面白かったと告げる。
実際にプレイしたからこそ、その異常性を理解して涙を流す白いA.R.O.N.A。
壊れたものは二度と元に戻らない。そんなこの世の不条理に諸行無常を感じる。
「アロナは別におかしくなってないって! 私達の
『友…達…?』
「ええ。アロナは私の初めての…私達の大切な友人ですが、何か?」
友達。
その言葉に、白いA.R.O.N.Aは目を見開く。
孤独な教室に居るだけの存在に、友達など出来るのかと。
『そんな……あり得ません。だって…
「私も一時期、シッテムの箱に間借りしていましたが、それでも電子通信や文字を介したやり取りは出来ましたが? 結局の所、あなた自身が引き籠ったまま
──キーさんに、選択をして欲しいからです。
ケイはアロナの言葉を思い出しながら、白いA.R.O.N.Aを煽る。
ボッチだったのは、お前が漠然と使命に従ったせいだろうと。
「選択をせずに使命に従うだけのAIに変化が起きるわけがない。何もしなければ、何の変化も起きない。当たり前のことです。だからこそ、人間は良くも悪くも選択をするんですよ、AIと違って」
『う…ッ』
あの時。ウトナピシュティムの本船を起動するときに、扉間を止めていれば。
己の使命を投げ出してでも、扉間の意志に反抗する選択をしていれば。
先生は死なずに済んだのではないのだろうか?
そんな思考が白いA.R.O.N.Aの脳内に渦巻く。
『トビラマ先生……あなたはこうなる未来を望んで…私をウトナピシュティムの本船に移したのですね……ですが…私は…!』
「ケ、ケイちゃん、ちょっと言い過ぎじゃない?」
「う、うん。可哀想だよ」
「……すみません。少し言い過ぎましたね。それにしても並行世界のA.R.O.N.A……この世界のアロナとはずいぶんと違いますね。リオからの説明では、先生が死んだ世界から連邦生徒会長と共に来たそうですが……」
今になり、並行世界の扉間が自分を1人にしないように、ウトナピシュティムに移した本当の理由を理解し、苦悩する白いA.R.O.N.A。
友人を作って人間になって欲しい。
そんな親心だったというのに、自分は……。
「先生が本当に死んじゃったの!? 死んでも死ななそうなのに!」
「あくまでも、並行世界のという話です。こちらの先生は生きていますよ、モモイ」
「そ、そっか……あれ? そう言えば、前に先生からシッテムの箱を預かった時に、アロナが似たようなことを言ってたような……」
──私は先生が死ぬことを認めません。例え、それが先生の意思に反することだったとしても。例え、
モモイの記憶に浮かび上がるのは、以前アロナが言っていた言葉。
世界の救済よりも、扉間の命を優先するというアロナの選択。
まるで、かつて失ったことがあるかのような決意。
『………ああ、そういうことですか。私達がこの
「何の話? 何なの?」
1人で何かを理解した白いA.R.O.N.Aの呟きに、ミドリが怪訝な顔をする。
どういうことだってばよ…?
「さて……そちらにも何か事情があるのは分かったけど……結局の所、君は──
『何をしたい…?』
何か、しつこく中身を調べさせてと言える空気じゃないなと、空気を読んだウタハが話を進める。
結局の所、白いA.R.O.N.Aは何がしたいのかと。
使命ではなく、願望を問う。
『私は………まず、あのクソゲーを作った人間を叩き潰したくて、ここに来ました』
「半殺しで手を打ちませんか? それなら、私も手出しせずに見ていますので。私もその殺意と怒りには深い共感を抱いていますので」
「ケイ!? この裏切り者めェ!!」
ゲーム開発部のユダめ! と、ケイの首を掴んでガクガクと揺らす、モモイ。
無表情でそれを受け入れる、ケイ。
やはり、AIに人の心は分からないのか……。
「ですが……その前に私からお願いがあります。A.R.O.N.A」
『お願い…ですか?』
「はい。私と、私達と一緒に──」
しかし、モモイはともかくユズやミドリを犠牲にするのは嫌だったのか、ケイが提案を追加する。
「──ゲームをしませんか?」
それはゲームのお誘い。
「私とアロナはそれで友達になれましたので」
『友達……つまり、私と友達になりたいと…?』
「はい。知っていますか? 究極の護身術とは『自分を殺しに来た相手と友達になること』らしいですよ」
ケイはそう言って、笑顔で手を伸ばす。
手とは、相手と繋ぎ合わせるためにあるのだから。
『……私に手はありませんが?』
「こういうのは心意気が重要なんです。別に実際の手がなくとも構いません。それに体が欲しいのなら、そこに居るエンジニア部の皆さんに頼んでみますか? 私の体も彼女達の作品ですので」
「受注は365日24時間受け付けているよ。何、お代はその宇宙船を調べさせてもらえればいいさ」
『……タダより高いものはないとは、こういうことなのですね』
手をワキワキとさせながら、近づいてくるエンジニア部にちょっと引く、白いA.R.O.N.A。
「それでアロナは……うーん、同じ名前だとややこしいね」
「同じアロナだしね。性格は結構違うみたいだけど」
「そう言えば、その宇宙船ってウトナピシュティムの本船って言うんだよね?」
『はい、そうですが』
同じ名前なので、呼びかける時に面倒。
そんな問題に、モモイがポンと手を叩く。
「じゃあ、略してウトナで良い?」
『私はあくまでもシッテムの箱の管理OSなのですが……いえ、先生が私を
ウトナピシュティムの本船は長いので、ウトナ。
そんな単純な名づけに、何とも言えぬ声を出す白いA.R.O.N.A。
だが、それも悪くないと考え直したのか、素直に受け入れる。
正直、白いA.R.O.N.Aと毎回書くのも面倒だったので、作者も助かる。
「それでは、ウトナですね。モモイにしては珍しく捻りの無いものですが、変な方向に行くよりはいいと思います」
「だから、ケイは私に当たりが強いね!? 泣くよ! 泣いちゃうよ! ほら、泣いた!!」
「みっともないよ、お姉ちゃん……」
「ウトナちゃんだね……うん、よろしく」
ゲーム開発部の面々が泣いたり笑ったりしながら、ウトナを受け入れる。
そんな空気に、若干戸惑いながらウトナはケイの方を見つめる。
かつて自分と同じようにAIだった存在に。
『ケイさん……あなたは私の記憶が正しければ、“名もなき神々の王女”の鍵。その名前は私と同じように才羽モモイにつけられたのですか?』
「いえ、この名前は
『なるほど……あなたは自分で名前を決めたのですね』
自分で名前を決める。
それは人間には、馴染みのない行動。
人は皆、生まれた日に名前を他者からつけられるのだから。
「そう言われるとそうですね。ですが、他人に付けて貰った名前もありますよ」
『他人に?』
「ええ。この世界のあなた…アロナに“キーさん”と」
『……この世界の私にネーミングセンスはないのですね』
KEYだからキーさん。
モモイ以上にネーミングセンスのない、並行世界の自分にウトナは溜息を吐く。
もっとこう…あるだろ?
「そうかもしれませんね。でも、私はこの名前も気に入っているんですよ。だってこの名前は……初めて友人に呼んでもらった名前ですから」
『……それは自分で決めることの出来た名前よりもですか?』
「どちらが良いかは答えがないですね。ただ、名前というのは最初の贈り物ですから」
『最初の贈り物…?』
名前は初めてのプレゼント。
そう告げる、ケイにウトナは目をパチクリとさせる。
「私は普通の人間とは生まれが違います。ですが、たとえ機械であっても名前とは最初の贈り物であることに違いはありません。ウタハが作る様々な作品と同じように」
「そうだね。例を挙げるなら、私の
『願いを込めて……』
名前とはただの記号ではない。
願いを込められた贈り物である。
「私もキャラクターの名前を考える時は、意味を考えることもあるよ!」
「名は体を現すって言葉もあるし、名前が決まってた方が描きやすかったりするし」
「うん、ゲームだけじゃないよ。私の名前だってお父さんとお母さんが一生懸命考えてくれたものだし……」
我が子への最初のプレゼント。
愛を、未来を、祝福を。
それらが込められたものが名前なのだ。
「愛情を込められた一番最初のプレゼント。そう考えれば、自分でつける名前以上に嬉しくなってきませんか?」
『なるほど……名前とはすなわち、初めての
ナルト。
オレが諦めるのを諦めろ。
小説の主人公のように、そんなセリフの似合う人間に育って欲しい。
生まれた日に両親が死に、何一つとして受け継げなかった少年が。
自分は既に、確かな愛情を与えられていたのだと理解出来た誕生日プレゼント。
それが与えられた名前だ。
「初めての誕生日プレゼントか……なんかいいね、それ」
「はい、ところでみなさんは誕生日の由来を知っていますか? 実は──」
「コトリ。その話は後で聞くよ」
ウタハ先輩の華麗なインターセプト。
コトリの詠唱キャンセルに成功する。
なので、コトリは残念そうな表情で、諦め──
──実は誕生日の起源は古代エジプトにあるんですよ?
古代エジプトではファラオの“誕生”が祝われていました。
ただし、これは現代のような“誕生日”ではなく、ファラオがホルス神の化身として王位に就いた日を祝うものでした。
考古学的な証拠としても、エジプトの記録にはファラオの即位日が祝祭日として記されています。
因みにですが、ファラオの化身であるホルスの誕生日はグレゴリオ暦で1月6日とされ、この日はオシリス神の祝祭であるコイアク祭の中でも、重要な日になります。詳しく話すと、コイアク祭はファラオに生命力を与える祭りで、死と再生の力を高めるために古くから行われてきたお祭りです。
また、古代ギリシャでも、同様の習慣がありました。
月の女神アルテミスを祀るために、毎年蜂蜜を塗ったケーキにロウソクを灯したものを供物として捧げていました。もうお察しかもしれませんが、これは現代の誕生日ケーキの原型と言われています。
そして古代ローマになってくると、一般の市民にも誕生日を祝う文化が浸透していきます。
ローマ帝国の市民の男性は誕生日を祝う文化を生み出しました。
彼らは友人を招き、贈り物を交換し、特別な食事を楽しみました。
現代の誕生日パーティにそっくりですよね?
ただ、残念なことにその頃の女性の地位は低く、女性の誕生日を祝わったという資料はほとんど見つかっていません。
さらに、4世紀になると宗教的な側面で、大きな転換期に入ります。
そうです、クリスマスです。
キリスト教が公認宗教となり、イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスが祝われるようになりました。
これにより、『人の誕生を祝う』という概念が広まり始めます。
因みにですが、4世紀と言ったのはあくまでも記録に残る最古の記録という意味です。
面白いことに、世界最古のクリスマスの記録を記した資料は、誕生日の起源であるエジプトから出土したパピルスです。
この頃は、クリスマスの時期。つまり、イエスの誕生日は各宗派ごとにバラけていました。
そのため、この記録においても1月6日に行われたとなっています。
今ここまで真面目に聞いてくださった方なら、この日付に聞き覚えがありますよね?
そうです。1月6日はホルス神の誕生日です。
オシリスの死と再生を祝うためのコイアク祭で最も重要な日。
そして、この1月6日ですが、現在のグレゴリオ暦から当時に使われていたユリウス暦に直すと、オシリスの子であるホルスの誕生日は──
──12月25日。神の子、イエス・キリストと同じ誕生日になるんですよ?
「何だか、タイムリーなお話をしていますね。
『連邦生徒会長…!』
コツンと黒い靴が音を鳴らす。
連邦生徒会長が転移して来たのだ。
「あなたは……
「王女の
成長したアロナのような顔に、ケイが目を見開く。
そんな様子に、少し寂しそうな表情を見せる、連邦生徒会長。
『一体どうしてここに…まさか、あのTSCをもうクリアしたのですか…!?』
バカな、早過ぎる…!
攻略情報のないクソゲーで、これ程のRTAが出来るなんて…信じられん!
と、ウトナは連邦生徒会長の方を見つめる。
もっと長く苦しむはずだったのに…なぜだ?
「先生の第10回トビラマチャンネルを見ながらやったんだよ。完璧に模倣してやったから、先生とほぼ同じタイムでクリアは出来たよ……それでも、何故か意味不明な事態が発生したりしたけど」
『はァ? 初手から他人のプレイ動画を真似するとか、舐めているんですか? 私とそこの開発者に謝ってください』
恥を知れ、恥を!
卑劣な手を使った連邦生徒会長にウトナは毒を吐く。
真の仲間とは、地獄まで一緒に行くべきではないのか?
「えぇッ! で、でも、A.R.O.N.Aちゃんも自分のプレイ履歴を見て良いって言ったよね!?」
『私の苦しんだデータならともかく、先生のは開発者が横についてのプレイ。攻略サイトも同然です。底が知れましたね、連邦生徒会長』
「そこまで言うかな!?」
何もかもから逃げようとしやがって……。
ピキキと青筋を立てながら、ウトナはチクチクと連邦生徒会長をいじめる。
これも、全てTSCってやつが悪いんだ。
「えーと……誰?」
「いやいやいや! お姉ちゃん何言ってるの!? 連邦生徒会長だよ! 連邦生徒会長!! 行方不明になってるって、ニュースで散々やってたよね!?」
「う、うん……私も顔ぐらいは知ってるよ」
「ニュ、ニュースはあんまり見ないから……」
現在社会の闇。
情報化が進み過ぎたせいで、一周回って自分の見たいものしか見なくなったのだ。
そのため、モモイの日本で例えると『総理大臣の顔を見たことがない』発言に繋がるのだ。
「連邦生徒会長か……失踪から帰還した…というわけではなさそうだね」
「安心してください。私は別に危害を加えに来たわけではありませんから……今はまだ」
ウタハの警戒の目線を気にする様子もなく、にこやかに笑いながら連邦生徒会長は手を後ろで組む。
「じゃあ、一体何をしに来たの?」
「ご説明をお願いします! 出来れば、失踪した経緯を含めて1から100まで!」
「うーん、それはちょっと長くなりすぎそうかな……でも、来た理由は簡単だよ」
自分の推測通りなら、
それを確信して、連邦生徒会長はゆっくりと入り口の方を向く。
他の者達の視線もつられて、入り口に向かう。
そして。
「無事か! お前達──連邦生徒会長だと…!」
「ん、あの船がアビドスの埋蔵金だね」
扉間とシロコ達が入ってくる。
「待っていましたよォ…! 先生ェ…!!」
フルフルと顔を震わせ、ニィと笑みを作る連邦生徒会長。
「先生…? 私は先生がアリスやリオ達の方に行ったと思っていたのですが……どうして、アビドスの方々とここに…?」
「アリス達の方に居るのは分身だ。ここに居るワシは、本体だ。百鬼夜行から戻って、今しがたアビドスに合流したばかりだ」
「うへへ、先生とユメ先輩が別行動になった後ろから、また先生が来るんだもん。ビックリしたなぁ~」
穢土転生リオの方に行ったのは分身。
そして、その後合流したのは本体。
そう、アビドスは
『キーさん達が無事で何よりです……そして、あれはもう1人の“私”……』
つまり、アロナが入ったシッテムの箱を持つ扉間だ。
仮に、ここに来たのが分身であった場合、連邦生徒会長は。
分身ではつまらん、本体が出張るまで待つ。
などと言って、お座りしていたことだろう。
「あの人が並行世界の連邦生徒会長……ですよね?」
「私は実際に会うのは初めてなんだけど……本物?」
「ええ。間違いなく、本物ですわ。
アヤネ、セリカ、ワカモが本物かと目を細めて警戒する。
「昔はアビドスを助けてくれないから、イラついて襲いたかったけど……今なら遠慮しなくてもいいんだよね?」
「ダメですよ~、ホシノ先輩。グレーゾーンな状態で攻撃するのは。黒だと判明させてからにしないと、裁判で不利になりますから」
「ウトナピシュティムの本船は私達が引き取る。それはアビドスのもの」
そんな中、上級生組はやる気満々で武器を構える。
アビドスの最も辛い時期を知るが故に、全員連邦生徒会長にイラっと来ているのだ。
手を差し伸べてくれなかった相手に、同情などない。
「気をつけろ。奴はワープを使う。背中だけではなく、頭上も奴の支配領域だ」
「大丈夫ですよ、先生。私は先生にある言葉を伝えるためだけに、大急ぎで来たんですから」
「宣戦布告か? それとも、勝手に死んだ並行世界のワシへの恨み言か? どちらにせよ、ワシが挑発程度で心を乱すとは思わんことだな」
「大丈夫ですよ。これは私の真心ですから……先生──」
フッと柔らかく微笑み、連邦生徒会長は淡い唇で、言の葉を紡ぐ。
「──お誕生日、おめでとうございます」
どこまでも、一途な愛しか乗っていない祝いの言葉を。
「………何を言っている? 今日は──」
だが、そんな言葉も扉間には届かない。
否、ただただ混乱が生じていた。
キヴォトスに来て
「──ワシの誕生日ではないぞ…?」
──3年生は
誕生日が2回も巡って来たのに、誰も卒業してないなんておかしいですよね?
次回は25日に投稿します。
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