千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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94話:愛

 

「ワシの誕生日はヒナと同じ2月19日だぞ? そして、ワシと会った時点でヒナは3年生だった。だというのに、ヒナは未だに卒業しておらん。そもそも、カレンダーが違うであろう」

 

 自分がキヴォトスに来てから、それ程の期間が経っているはずがない。

 そう言って、扉間は困惑した様子を見せる。

 

「時間は流れていないという話をご存じですか、先生?」

「何の話だ?」

「過去・現在・未来が全て同じ瞬間に存在するという説ですよ」

「たとえ、それが事実であったとしても、今この世界の日付は違う。一般的に誕生日とは言わんだろう」

 

 過去も現在も未来も、全て同じ空間に存在し、偶々認識している時間に自分が居るだけ。

 

 ゲームの()()()()()のようなものだ。

 過去のストーリーを見ることが出来るが、過去を見ているのは現在。

 そして、データ上はゲームクリア前(現在)なのに、一度クリアしたエンディング(未来)も見ることが出来たりする。

 現在が過去であり、同時に未来でもある。

 そんな理論だ。

 

「はい。確かに、先生が認識している日付では1年が経過していません。ですが、私が先生と()()()()()()()からの時間では、ちょうど今日になるんですよ。なので、お祝いをする日は私が決めることにします」

「……つまり、お前の居た並行世界から数えての日付という訳か。なるほど、それならばこちらとズレが生じるのもおかしくはないか」

「まあ……並行世界という理由以外にもありますが」

 

 連邦生徒会長の言葉に、一応の納得を見せる扉間。

 並行世界が全て、こちらと同じ時間の流れという訳ではないのだろう。

 ならば、少し前にこちらに来たばかりの連邦生徒会長が、こっちのカレンダーを無視するのも分かる。

 

「だが、随分と独りよがりなお祝いだな。祝われる側にも都合というものがある。ましてや、誕生日はその者が生きていてくれてよかったと祝う日……キヴォトスを滅ぼすと言う人間がやるのは悪趣味だな」

「可愛い私からの誕生日プレゼントが嬉しくなかったですか?」

 

 ニコニコと無邪気な笑みを浮かべる連邦生徒会長。

 とてもではないが、キヴォトスを滅亡に追い込もうとしている人間には見えない。

 

「誕生日プレゼントと言うには、随分と貧相だな。お前の身柄ぐらいは寄越して欲しいものだが」

「フフ、熱烈なラブコールですね? 先生が()()()()だったら、プロポーズとしてお受けしていたのに」

「おままごとなら、また今度付き合ってやろう」

 

 扉間の皮肉に対して、真顔で返す連邦生徒会長。

 ピリリとした空気が辺りに流れる。

 

「おままごとは少し興味がありますけど……そう怒らないでください。()()()()()()()そうは思わない?」

『…!』

 

 おままごとをしているのは、そっちだろうと連邦生徒会長の視線が扉間の懐に移る。

 シッテムの箱が、アロナが居るその場所に。

 

「だんまりかな……そうだよね。ずっと隠してきたことをバラされたくないよね」

「アロナがもう1人のあなた…? どういうことですか?」

「王女の鍵…ううん、ケイちゃんって呼ぼうか。簡単な話だよ、この世界の私は──シッテムの箱の中にいるんだ。そうだよね、私?」

『……ペラペラと余計なことを』

 

 You am I(あなたは私だ). I am You(私はあなただ).

 ハッキリとそう告げる連邦生徒会長にアロナは、少し低い声を出す。

 子供の声ではなく、大人に近づいた女性の声を。

 

「やはり…お前がアロナか…!」

「だったら、さっきの私の話は聞いていますよね? アロナが私なんです」

「どっちも同じじゃん! というか、人間がなんでタブレットの中に入れるの!?」

「あー、それおじさんも思ってた」

 

 モモイのまるで訳が分からんぞ! という叫びにホシノも同意する。

 並行世界の同一人物という話は分かる。

 だが、片方がタブレットのAIでもう片方が人間では意味が分からない。

 

「……いや、ケイという前例があるよ。AIから人間は可能だ」

「つまり、連邦生徒会長は元はAIだったってことなの!?」

「そうなると、(わたくし)はAIに負けたということに……」

 

 しかし、ウタハが気づく。ケイというAIから人間になった存在が居るのだ。

 ミドリがその驚愕の事実に叫び、ワカモが何とも言えぬ表情を見せる。

 

「じゃ、じゃあ、ウトナも連邦生徒会長になるの?」

「まるでポケモンの進化前みたいですね」

「でも、アロナとウトナは結構違うよね……つまり三段階進化ってことかな?」

「キャタピー、トランセル、バタフリーってこと?」

『人を蝶の幼虫みたいに言わないで頂けますか?』

 

 ウトナ→アロナ→連邦生徒会長。

 以上の進化を行うのかと、勝手に納得するゲーム開発部にウトナがツッコミを入れる。

 芋虫扱いはちょっと嫌だったのだ。

 

「なるほど~、連邦生徒会長の失踪理由は、AIの姿に戻っていたからなんですね」

「どおりで、連邦生徒会がいくら探しても見つからない訳ね」

「あれ? そうなると、一時期流れていた先生のデマの『失踪した連邦生徒会長はシャーレの先生が誘拐していた!』という噂は、本当だったということになりますね……」

「ん、身代金要求のための誘拐は犯罪」

「ワシを責めるのか…?」

 

 アビドス勢が気がついたか……。

 扉間、連邦生徒会長誘拐犯説がここに来て証明されちまったことになぁ! 

 

 やっぱり、こんな卑劣な奴を先生にするべきじゃなかったな! 

 一体、誰がこんなやつを先生に選んだんだ? 

 責任を追及するべきだろ! 責任を!! 

 

「盛り上がっている所で悪いですが、私は最初から人間ですよ…?」

 

 まるで大喜利大会のようになってしまった場の空気に、苦笑しながら連邦生徒会長が告げる。

 

「そもそも、私とA.R.O.N.Aちゃんは同じ世界出身ですし……同じ世界に同じ人間が複数いるのはおかしいでしょう?」

「これは……ツッコミを入れるべきところか?」

「私が話をややこしいことにしている自覚はあるので、少し説明をしてもいいですか?」

 

 お前がその最たる例だろと、扉間にツッコミを入れられる連邦生徒会長。

 

「まず、シッテムの箱ですけど、先生はご存じだと思いますが使用者ならば中に入れます。そうすれば、管理OSとなり替わり……いえ、この場合は一体化でしょうか?」

『そうなのですか、アロナ?』

『……利用したのは認めます。シッテムの箱、シャーケードの杖、サンクトゥムタワーを先生に全部あげるつもりでしたから』

 

 連邦生徒会長とウトナ、そしてその2つが混ざり合ったような声が扉間の耳に響く。

 目を瞑って聞いていれば、すべて同一人物と思うかもしれない。

 

「まあ、入った理由は分かるよ? 全部あげちゃいたい気持ちも。先生はすぐに自分が犠牲になろうとするから……いつも、すぐそばで守ってあげないといけないんだから」

『………だというのに、私は』

 

 並行世界の扉間を守れなかった過去に、重苦しい言葉を吐くウトナ。

 

『ウトナピシュティムの起動は間違いではないと思いますよ? きっと、先生のことなのでどれだけ止めても、それが最適解なら命と引き換えに起動させたでしょうし……だからこそ、私が()()()()守ってあげないといけないんです』

 

 しかし、それをアロナが擁護する。

 本来の役割を放棄しなければ、ウトナではどうにも出来なかっただろうと。

 

「どうしようもなくなった時は、自分がその負担を代わりに受ける……フフフ、まるでどこぞの聖者みたいだね」

 

 人類の代わりに原罪を(あがな)う。

 そんな十字の聖者のように、扉間の受けるはずだった代償を受ける。

 それこそが、アロナがシッテムの箱に入っている目的だと理解し、笑う連邦生徒会長。

 

「それはそれとして…………子供みたいな言動を繰り返して恥ずかしくないんですか?」

『!?』

 

 同じ自分なので、恥ずかしがればいいのか、呆れればいいのか分からないといった表情を浮かべる連邦生徒会長。

 

「外の生徒と一緒に遊んだりしていたみたいですし、居眠りしたり、おやつを食べたり、先生に甘えたり、先生に甘えたり……本当の子供みたいに振る舞って恥ずかしくないんですか?」

 

 想像してみて欲しい。

 自分と同じ顔の人間が、バブみを感じてオギャっている姿を。

 一刻も早く始末しようと思うか、あれは完全な別人だと割り切るしかないだろう。

 口調がちょっと他人行儀になっているのも、アロナを同一人物だと思いたくないからかもしれない。

 

『な!? ちょっと甘えるぐらいいいじゃないですか! 同じ私なのに、人の心が無いんですか!?』

「同じ私だから言っているんですけど? その点、A.R.O.N.Aちゃんは立派ですね。アロナと同じ顔、同じ能力。本当は甘えたいのに、自分の使命を心底理解して我慢しています」

『……黙秘権を使用します』

 

 自己嫌悪。

 鏡に映った自分に対して悪口を言っている。

 そんな、光景に周りも微妙な空気になる。

 早く、話を戻せよと。

 

「やめんか! 自分同士の争いは醜いぞッ!」

「これは……あれですね。『きゃあ! 自分殺し!』と言うべきでしょうか?」

 

 やろう、ぶっ殺してやる! 

 そんな空気を漂わせる連邦生徒会長とアロナとウトナに、扉間とケイが呆れ顔を見せる。

 影分身で自分を増やせる奴と、コピーで自分を増やせるAIから見ても、醜いなとしか言えないのだ。

 

「はぁ……そうですね。誕生日のお祝いも終わりましたし、そろそろ本題に入りますか」

『先生、あちらの私のことは信用しないでください。私はまだまだ、甘えたい盛りなんです!』

「分かったから、少し静かにしておけ」

 

 荒ぶるアロナを宥めつつ、扉間は連邦生徒会長の方に視線を向けなおす。

 全てを知る者の真意を確かめるために。

 

「ところで、先生……忍術は使ってもらえましたか?」

「…ッ!」

 

 扉間は思い出す。アリウスで連邦生徒会長と交わした最後の会話を。

 

 早くここから出たいですよね? でも、残念。入り口はそう簡単には出られないように丁寧に破壊しました。真面目に瓦礫の撤去をしていたら、全部終わっちゃいますよ……()()()()使()()()()()()()

 

「まさか……今までの全ては…!」

「はい。先生に、忍術を使ってもらうための……忍者に戻って貰うためのプロセスです」

『そんなことはアロナがさせません!!』

 

 先生が人殺し(にんじゃ)に戻るのは嫌です。

 ハッキリとそう告げるアロナに、連邦生徒会長は嘲るように嗤う。

 

「それを決める自由意思は、AIに成り下がったあなたにはありません。人間(先生)だけが持つものです」

 

 人間として隣に立つという選択を手放したお前が、今更何を言うのかと。

 

()()()()()()()、前に進もうとしないくせに……そもそも、あなたが守りたいのは誰なんですか?」

『な、何を言って……』

「頭まで子供に戻ったんですか? それとも現実逃避ですか? 都合の良い(ゆめ)に浸っているだけでは現実は変えられませんよ」

『私は先生を守るためにずっと……』

「だから、その先生は──()()()()()()?」

 

 歪んだ鏡を見るように、連邦生徒会長がすさんだ目で毒を吐く。

 まるで、自分自身の過去を弾劾するように。

 

「初めて出会った先生? 次の先生? それとも今の先生? まさか、何度も()()()を繰り返しているのに、全員同じだと言うつもり?」

「何の話だ? 何なんだ……」

「同じことを繰り返しても、全てが同じになるわけじゃない。大切な思い出を共有できるのは、一緒に過ごした1人だけ……だから、生き返らせるんですよ」

 

 生き返らせる。

 ミカの穢土転生やリオの穢土転生が望んでいたこと。

 

 並行世界に渡れるというのに。

 同じ顔で、同じ性格で、同じ声のあの人が居るのに。

 わざわざ自分の世界の人間を生き返らせようとした理由。

 

「ケイさん。あなたは元AIですよね? そんなあなたに聞きたいのですが……あなたの記憶をコピーした存在とあなたは、全くの同一存在と言えますか?」

「……いいえ。分かれた瞬間から記憶や意識が別々になれば、それはもはや別存在です。記憶の連続性。それこそが機械としての個の判別方法に他なりません」

「そうですよね。私達人間だって同じようなものです。思い出が同じでなければ、細胞の1つに至るまで同じものを作っても、それは別人です」

「仮に同じものを作り上げても、記憶の連続性が立証できなければ、外からではそれが同一の存在かを見極める方法はどこにもない……テセウスの船というものですね。AIの個性もやはり記憶にしか宿りません」

 

 記憶こそが個を識別するための唯一の方法。

 だからこそ、別世界の同一人物ではダメなのだ。

 

「はい。だからこそ、私は…私達は──死者を蘇らせる術を求めているんです」

(やはり…外道・輪廻天生の術か…!)

 

 扉間が唯一知る完全な死者蘇生が可能な術。

 伝説上と言われた六道仙人の術であり、輪廻眼だけが扱える秘術中の秘術。

 それが外道・輪廻天生の術。

 

「先生。今まで、ミカさん、ヒナさん、ミチルさん、シロコさん、リオさん、ユメ先輩などの、多くの救われなかった生徒さんを見てきましたよね?」

「シロコ……私?」

「…! じゃあ、ユメ先輩もやっぱり本当に死んで……」

 

 連邦生徒会長が、今まで扉間が出会ってきた穢土転生の名を上げていく。

 ミカ、ヒナ、ミチル、シロコ、リオ。

 やっぱりそうだ! こいつら全員ワシの会ったことのある生徒だ!!

 ユメ先輩? ヒヨリで代用できるからヨシ!

 

「救われて欲しいと思いませんでしたか? 報われて欲しいと思いませんでしたか? こんな結末は認めないと……優しい先生なら思ってくれましたよね?」

「そうか、お前の真の狙いは……この世界のワシに大人のカードを使わせて死者の蘇生を…輪廻天生の術を使わせることか」

「はい。その通りです」

 

 あっさりと肯定する連邦生徒会長。

 狙いを伝えれば、扉間が意地でも大人のカードを使わなくなる可能性があるというのにだ。

 

「お前も、滅んだ世界を蘇らせたいのか?」

「いいえ。私は…私とA.R.O.N.Aちゃんは──」

 

 まるで。

 例え、別人だとしても──

 

 

「──私達の先生を蘇らせたいんです」

 

 

 ──千手トビラマにだけは嘘をつきたくないとでも言うように。

 

「ワシを…?」

「私達の世界の先生は、ウトナピシュティムの本船を起動させる際の反動で死にました。まあ……その後に私に渡したカードで穢土転生の術を使って、一時的に蘇ったんですけど……」

「うわぁ……後で生き返るからって、普通自分の命を捨てる?」

「まぁ…何と言いますか……納得しますね」

 

 連邦生徒会長から伝えられる、並行世界の扉間の最後にドン引きするセリカとアヤネ。

 まさか、リアルで『でぇじょうぶだ。後でドラゴンボールで生き返れる』をするとは思わなかったのだ。

 

「その後は、普通に死なない体でウトナピシュティムを操作して、そのままキヴォトスの危機を救って……あの世に行きました」

「ワシの死体はどうした? まさか、残したわけではあるまいな」

「はい。遺言…? 通りに、火葬して遺骨は海に撒きました」

『二度と穢土転生などで蘇らないように……そう言われていましたので』

「だろうな。流石に、これ以上蘇るのも疲れる」

 

 正直、そろそろ隠居(人生)したかったと、淡々と頷く扉間。

 そんな姿に、ウトナと連邦生徒会長はこっちの気も知らずにと、恨めし気な目を向ける。

 

「で、火葬までしたというのに、またワシを呼び起こそうとしておるのか? 老骨に鞭を打つのも大概にしろ。そもそも、それだけ後悔するならなぜ完璧に火葬したのだ? こっそり血だけでも残しておけば、穢土転生は可能だろうに」

 

 流石はマダラの死体を研究目的用にこっそり保管した結果、マダラに出し抜かれた張本人。

 ついでに、柱間の死体も残していたあたり、自分の遺言を無視することには怒りもしない。

 というか、本人の死体も残っていたのは一体どういった意図なのだろうか? 

 忍者の死体は、余りにも多くのことを語ってしまうと言うのに。

 

「いや…その…何と言いますか……」

『あまりにも堂々と、あっさり死んでいったので……居なくなったという感覚が当初は全くなかったんです』

「穢土転生をした時も『何をボケッとしておる、サッサと持ち場につけ』とまるで死んでいないような態度でしたし……」

 

 本人に欠片も悲壮感が無く、なおかつ秒速であの世からの帰還。

 精霊馬(しょうりょううま)もあの世とこの世でシャトルランをさせられて、さぞや驚いたことだろう。

 

「ん、死んだ気がしない」

「うへー、死に慣れすぎだよ……先生」

「悲しむ暇もありませんね~」

(わたくし)でも、その場面に居たらしんみりとしそうなものを……この人は」

「仕方なかろう! その世界では恐らく4回目の蘇生だぞ!? 流石に慣れるわ!」

 

 1度目、大蛇丸。2度目、大蛇丸。3度目、なんか復活。4度目、連邦生徒会長。

 もう、黄泉の門はガバガバである。

 

「それで……しばらく時間が経ってから、喪失に気づいたと?」

「まあ……そんな所です。自分で言うのも呆れますが」

 

 ケイの呆れた目線に、ちょっと目を逸らしながら連邦生徒会長が答える。

 悲壮感とか、感動的な話を期待していた方、ごめんなさい。

 

「でも……なんか、そんな感じなら普通に乗り越えられそうな気が……」

「お姉ちゃん、流石に人が死んでるのに……いや、私もそんな感じなら傷は癒えてそう」

「傷は時間が解決してくれるって、よく言うよね」

 

 他のゲーム開発部の面々も、悲劇なのは分かるけど……という微妙な顔をする。

 ひょっとすると、こんな感じで子供達が乗り越えられるように、仕組んでいたのかもしれない。

 

『……他人から見れば、そうでしょうね。ですが、私達は──』

「──直接、トビラマ先生を殺したも同然ですから」

 

 だが、ウトナと連邦生徒会長は違う。

 直接、引き金を引いた張本人達であるが故に、逆にその自然な死が心に重くのしかかった。

 

「なるほどね……むしろ、その死を軽く見たことにダメージを受けたのかな」

「半分は当たっていますね、耳が痛いです」

 

 何となく大丈夫なような気がした。

 そんな軽い気持ちで、殺してしまったと気づいたせいで、余計にダメージを受けたのだと、ウタハの言葉に連邦生徒会長は頷く。

 

「でも……もう半分は違うんです。もっと根源的な想い……失って初めて気づいたこの気持ち。A.R.O.N.Aちゃんとも違う、私だけの想い──」

 

 しかし、罪悪感だけではここまでの狂気には落ちなかっただろう。

 失って初めて気づいた想い。

 喪失してしまった感情を向ける先が、見つからなかった故に悪に憑かれた。

 

 

「──愛です。愛ですよ、先生」

 

 

 ……あちゃあ…やはりうちはか…。

 

「愛…だと?」

「はい。私は先生が死んで初めて、先生を愛していることを……恋をしていたことを理解しました」

 

 困惑する扉間に向けて。

 否、かつて隣に居たあの人の面影に向けて、連邦生徒会長が重い愛の言葉を吐く。

 

「おかしいことでしょうか? ずっと自分を守ってくれた人を好きになることは。

 いけないことでしょうか? 大好きな人とずっと一緒に居たいと思うことは。

 許されないことでしょうか? 世界よりも深く1人を愛することは」

 

 女子高生の先生への愛の告白という、言葉にすれば甘酸っぱいもの。

 だというのに、どうしてここまでの重力を感じてしまうのだろうか。

 コハル裁判長ですら、エ駄死判決を出す前に怯えてしまう。

 

「それは……その言葉は……」

 

 扉間は何かを返そうとして、口を閉じる。

 否定も肯定も出来ない。

 何故ならば、その権利を持つのは。

 

「はい。()()()()にしか答えを求めていませんから」

 

 連邦生徒会長と共に過ごした、並行世界の扉間にしかない。

 アロナと共にいる扉間には、答えることが出来ないのだ。

 

「だから、私は私だけの先生を蘇らせるんです。この言葉を、想いを、愛を届けるために」

「やむを得ん……お前はここでワシが…!」

 

 愛を喪失した脳は別の感情でそれを埋めようとする。

 まるで、愛の喪失を憎しみで埋めて人が変わってしまう、写輪眼のように。

 だからこそ、ここで自分が止めるしかない。

 扉間はそう判断を下す。

 

「アロナ、戦えるな? ワシは動く!」

『…………』

「アロナ?」

『あの……あの告白はその……私と同じだけどそうではないと言うか……』

 

 連邦生徒会長の告白。

 それは、実質アロナの告白でもあるので、流れ弾を食らったアロナは顔を真っ赤にする。

 やめてくれ、もう1人の私。その告白は私にも効く。やめてくれ。

 

『そもそも、あなたも私なら()()()を使えばいいだけじゃないですか! 時間は私達には単なる表示記号に過ぎない……そうでしょう?』

「………並行世界がどうして存在すると思いますか?」

『どうしたんですか、急に……』

「あなたはセーブ地点から()()()()()()()。ただ、ループしている。そう思っているのでしょうが、本当に誰も彼もがやり直せていると……本気で思っているのですか?」

 

 時間の巻き戻し。

 都合の良い結果の選択。

 敗北の拒絶。

 それが、かつての連邦生徒会長の能力。

 そして、アロナが持っている奥の手。

 

『な、何を言って……』

「悲劇が無くなったと…誰も悲しんでいないと…ループを繰り返して正解を選んだから、それで大丈夫だと思っているのかと聞いているんです。私が穢土転生であれだけの数の悲劇を見せたというのに……そのどれにも見覚えが無いと言うつもりですか? どれ1つも見た記憶が無いと言い切るつもりですか?」

『…! ま、まさか……』

 

 多次元解釈。

 コインの表が出た世界と裏の出た世界。その両方が存在するという考え方。

 どちらもあり得る。それだけの世界の捉え方。

 だが、こんな疑問は湧いてこないだろうか? 

 所詮は、単なる一個人の行動に過ぎないと言うのに。

 

 どうして、成功や失敗()()()世界が別たれるのかと。

 

 

「──(あなた)がやり直せるだけで、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 一体、()()世界に別れ目なんてものを決めているのだろうかと? 

 

「神が滅ぼうと、人類が滅びようと、地球が消え去ろうと、テクスチャが書き換えられようと本来、世界そのものには影響なんてありません。キャンバスの上に何を描いても、キャンバスそのものに影響はありません。名もなき神々の世界を描こうが、忘れられた神々の学園生活を描こうが、世界(キャンバス)は変わらずそこにあるだけです。世界(キャンバス)は自分の意志で何かを描かないから、世界(キャンバス)なんです。自らが望んで並行世界を描き出すなんてことはありません」

 

 世界に意志はない──ただ、そこにあるだけ。

 世界は選択をしない──ただ、絵具を上に塗られるだけ。

 全てをあるがままを受け入れるだけ──例え、どんなに悲惨な絵が描かれたとしても。

 

 意志(ペン)を持つのは、選択を行う(絵を描く)のは、世界に生きる者でしかない。

 

やり直す(コンティニュー)続ける(コンティニュー)。やり直しも、継続も、全ては始まりがあるもの。最初の失敗は取り消せない。歩んだ道は消えない。始発点はいつも同じ駅。別れた線路はどちらかが行き止まりでも、行き止まりまでの道が消えるわけじゃない。ただ、私だけが別れ道まで戻って、道を選びなおせるだけ。新しい道を作っているわけでも、間違えた道を潰しているわけでもない」

 

 道を踏み外しただけなら、それでいい。

 そのまま滅びるか、ド根性で走り続けるかだけだ。

 

 だが、やり直す(コンティニュー)をしてしまえば、そうはいかない。

 失敗した道と、成功した道。

 そのどちらにも、電車が存在してしまう。

 そう。つまりは──

 

 

「──(あなた)がやり直す度に、並行世界が増えていることにも気づかなかったんですか?」

 

 

 連邦生徒会長がやり直す(コンティニュー)することによって、成功と失敗という無数の並行世界が生み出されているのだ。

 

『そん…な……』

「私が見たいのは、途絶えた線路の先の景色。痛みの先にある祝福です。私だけが成功した世界を見ても意味がないんですよ……それに」

 

 ショックを受けるアロナをしり目に、連邦生徒会長は自身の頭の上にある、ヘイローを指さす。

 

「一度反転した私には、もうやり直す(コンティニュー)は出来ないから」

『テラー化…ですか!』

「テラー化だと…? あのシロコのことか…ッ」

 

 今までずっと黙って聞いていた扉間だが、黒服から聞いた単語に眼光を鋭くする。

 神秘が恐怖へと裏返る、不可逆の現象。

 それがテラー化。

 

「今の私の能力は現実を(ゆめ)(えが)き換えること。ループ(過去)ではなく、現在の()()()()()()()()究極の改変能力。己の死すら、幻と入れ替えてなかったことに()()()()()()もの」

 

 そう言って、連邦生徒会長は懐に手を入れ、ある銃を取り出す。

 

「あれは! 私達が作った……Bluetooth銃…?」

「……ワシの形見替わりか?」

「先生の遺したものは、ゴミの一欠けらに至るまで集めましたので……今では私の愛銃です」

「うへ……死ぬほど気持ちはわかるけど、外から見るとちょっと怖いねぇ……」

 

 かつて、生徒達を、何より連邦生徒会長を守るために振るわれた銃が突きつけられる。

 銃を持つ連邦生徒会長、その人の頭に。

 

「何を…ッ!」

「では、私の能力をお見せしちゃいます。敗北を勝利に。始まりを終わりに。幻を現実に。戦う機会すら与えません。この力を先生に分かり易く言うのなら──」

 

 何をやっているのだと驚く扉間をよそに、引き金を引きながら連邦生徒会長は朗らかに告げる。

 自らが目覚めてしまった能力の名を。

 その名は。

 

 

 

「──イザナギです」

 

 

 

 イザナギだ。

 

 乾いた銃声が部屋いっぱいに響き渡る。

 そして──

 

 

「はい、これで私の勝ちですね、先生?」

「何が…起きた…!?」

 

 

 ──扉間達は全員が倒れ伏し、敗北していた。

 




そんなアロナが連邦生徒会長だったなんて……失望しました。
プラナちゃんのファンになります。
次回は28日に投稿します。

後、最近乳酸菌について勉強したので息抜きに新作短編を書きました。

乳酸菌物語 https://syosetu.org/novel/403810/

こちらもよろしければどうぞ。

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