千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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95話:逆転

 

「トビラマ先生……本当に()()()を釈放してよろしいのですか?」

「司法取引だ、カンナ。今は、同時多発的にキヴォトスが襲われている状態……ヴァルキューレとて手が回らん状態だろう。自由に動かせる戦力が必要だ」

 

 ここは矯正局。

 D.U.のサンクトゥムタワーに向かう予定だった、分身の扉間が立ち寄った場所だ。

 

「それは…そうですが……だとしても、彼女達は危険です。圧倒的カリスマ、武力、そして何より、倫理観の欠如。首輪をつけたつもりが、その手を食いちぎられるかもしれません。先程、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の方が、彼女達に比べればまだ可愛げがあります」

 

 目的は戦力補充。

 しかし、公安局のカンナはその考えに難色を示す。

 一度戦ったカンナだからこそ、彼女達の危険性が身に染みて分かるのだ。

 

「背に腹は代えられん。既に敵がサンクトゥムタワーを占拠しておるのは、カヤから聞いておるだろう? サンクトゥムタワーの奪還には更なる戦力が要るのだ」

「そのための司法取引なのは分かっています。たとえ、罪人であっても更生の機会は等しく与えられるべきだとも」

「あやつらはお前の危惧する通り、紛れもなく問題児で悪人だ。だが、救いようのないクズではない」

「それは分かっています……いえ、だからこそ危険なのです、先生」

 

 矯正局の最も監視の厳しい場所に扉間を案内しながら、カンナは歯噛みする。

 

「悪党が悪党なりの仁義というものを貫き通す。正しい人間ですら、その在り方に賛同してしまうカリスマの持ち主。そして、己の中の信念に従うからこそ、飼い慣らすことも出来ない社会不適合者。そんな狂犬です、彼女達は」

「フ、()()()。それはお前に似て信用出来そうだな、カンナ」

「っ! 今のは言葉のあやです……忘れてください」

 

 狂犬ならば、信用できる。

 そんなことを告げる扉間に、少し頬を染めて顔を逸らす、カンナ。

 

「はぁ……分かりました。どの道、私は上の意思に逆らえる立場ではありません。カヤ防衛室長が許可を出したのなら、私からはこれ以上は何も言えません」

 

 だが、それも(つか)の間。

 諦めというものを覚えてしまった賢い犬は、溜息と共に一歩前に進み出る。

 

「すまんな。その代わり、この騒動はワシの身命を賭して解決することを約束する」

「出来れば、解決後も生きて、彼女達をまた矯正局に送り込んで欲しいのですが……とにかく、後ろに下がってください。今から牢屋の鍵を開けるので……危険です」

 

 そして、件の人物達が潜む牢屋の扉に鍵を差し込む。

 

「囚人番号68番。客だ。出てこい」

「……珍しいわね。こんな所にお客様だなんて」

 

 ギィ…と冷たく硬い鉄格子が開かれる。

 カンナが緊張から、つばを飲み込む音が静かな牢屋に響く。

 

「あら、誰かと思ったら先生じゃない? 捕まった私達を冷やかしにでも来たのかしら」

「悪いが、現状そんな暇は無くてな。時間がない故、簡潔に言うぞ──」

 

 そして、暗闇の中で金色の悪魔の瞳が扉間を捉える。

 そう、彼女こそが裏社会の伝説であり、一度受けた恩を返すためだけに、正面からヴァルキューレと戦って矯正局送りになった集団のリーダー。

 彼女の名は──

 

 

 

「依頼だ──便利屋68」

 

 

 

 ──陸八魔アル。

 

 

 

 

 

 イザナギだ。

 

「何が…起きた…!?」

 

 臨戦状態に入っていた、ゲーム開発部、エンジニア部、アビドス勢、そして扉間が床に倒れ伏す。

 何も出来なかった。

 否、何もしていない。

 だというのに、いつの間にか敗北という結果にすり替わっている。

 

「私の死亡(敗北)という現実を、生存(勝利)という幻に描き換えました」

 

 倒れ伏す扉間に話しかけながら、連邦生徒会長はゆっくりと頭に向けたBluetooth銃を下ろす。

 自身の脳天に弾丸を撃ち込んだ、まだ煙を上げたままのそれを。

 

「先程も言いましたが、先生の知識の中で最も近い事象は……究極幻術イザナギ」

「馬鹿な…本当にイザナギだとでも…!? あれは失明と引き換えのはず……何より写輪眼が無ければ使えん……大人のカードは木遁だけでなく、あの術すら使えるようにするのか!」

「少し違いますね。これは、私の恐怖(テラー)です。大人のカードではありません」

 

 大人のカードを使ったのかと、問い詰める扉間だが連邦生徒会長は首を横に振る。

 これは自前の能力だという、より絶望的な真実を。

 

『一体…何が起きてそんな力を…!?』

「私達のやり直す能力(コンティニュー)は、磔にされて死んだ聖者が、生き返ったことを簡易的に表したもの。じゃあ、それが簡易的じゃなくなったら?」

 

 アロナの言葉に連邦生徒会長は丁寧に説明を行う。

 まるで、攻略できるものなら攻略して欲しいとでも言うように。

 

「人間が神に成る方法は昔から1つ。()()()()()()。先生の故郷でも、死後に神様として奉られた人がいると思います。そして、それは十字の聖者も同じこと。神としての権能は死ぬことによって完成します……」

 

 死は人の完成だ。

 死によって初めて人は(あが)められる存在となる。

 生きている人間の都合の良い理想の押し付け先と化す。

 すなわち、偶像(かみ)となるのだ。

 

()()()が人として生き、わたしが人として死ぬことで(ふる)約定(テクスチャ)は、新しい約定(テクスチャ)に書き換えられる。それは、世界の理を塗り替えるも同然のこと……私の(ゆめ)を世界に上書きするのも難しくない」

 

 旧約(BC)から、新約(AD)へ。

 それは、ある1人の人間が人類の原罪を贖うための子羊として、天へと償いの血を捧げた証拠。

 旧い世界(Before Christ)から新しい世界(Anno Domini)への変化。

 それを境に、世界は塗り替えられた。

 

『つまり……一度死んだことでその能力に変化したんですか!?』

「はい。()()()を境に私はループ能力を失い、代わりにこの力へと反転しました」

「死ぬ…? そうか…ッ。先程の拳銃自殺のような仕草は…この事象を引き起こすための…!」

 

 己の死を引き金に、世界を変える。

 それこそが、連邦生徒会長のイザナギの正体。

 

「さあ、先生。どうしますか? 私のこの全能の力に加えて、ウトナピシュティムの本船。勝ち目は万に一つもありませんよ。大人しく諦めて、大人のカードで輪廻天生の術を使えるようにしてくれると助かるんですが……」

「く…ッ」

 

 戦闘にすらならない。

 仮に戦闘になっても、こちらが勝てば負けた結果に塗り替えられる。

 チートとしか言えない連邦生徒会長に、扉間は唇を噛む。

 

(……いや、待て。都合の良い現実に塗り替えられるのなら、何故奴はワシに頼んでおるのだ?)

 

 そして、同時にある違和感に気づく。

 世界を本当に思い通りに書き換えられるのなら、何故こちらにやらせようとしているのか? 

 最初から、扉間が輪廻天生の術を使った世界にすればいいだけなのだ。

 いや、それ以前に──

 

 

「1つ質問がある……お前はその力で──なぜそちらのワシが生きている世界を創らんのだ?」

 

 

 ──あちらの扉間が生きている世界を創ればいい。

 

『…! そうです! よく考えてみれば、本当に全能ならこんなことをする意味なんてありません! あなたの神性は偽物です!!』

「流石は先生ですね。こんな絶望的な状況に追い込まれても、億が一の可能性を見だして、決して諦めることなく突破口を見つけ出そうとする……本当にカッコいいですよ」

 

 不都合な点を指摘されたというのに、連邦生徒会長は熱の籠った眼差しを向けるだけ。

 だが、その視線の先はこちらの扉間ではない誰かを映していた。

 

(何か発動に条件があるタイプの術か……もしくは、全能に見せかけたハッタリ。本来のイザナギならば、己自身にかける幻術のはず。自身の死は打ち消せても、他人を殺すまでは出来んかったはずだ。だが、現実としてワシらは傷を受けておる。そうなると、自身の復活とワシらを倒した術は別のもの……2つの術の組み合わせの可能性があるな)

 

 グッと足に力を込めて立ち上がる扉間。

 体は気づかぬ間にボロボロだ。

 しかし、諦めないド根性があれば何とか立てる。

 そんな絶妙な塩梅だ。

 まるで、そうあって欲しいと望まれたように。

 

「フフフ……今、考えていますね。必死に、私を倒すための糸口を探そうとしていますね?」

「当たり前だ。この世に完璧な術など存在しない。必ず弱点はある」

「本当にそう思いますか?」

「……まるで、この状況は想定内だとでも言わんばかりだな」

 

 話すことで時間を稼ぎ、少しでも体力を回復させようとする扉間。

 連邦生徒会長はそんな企みを分かった上で、愛おしそうに扉間を見つめる。

 

「はい、当然です! 千手トビラマが…先生がこんな所で諦めるわけがありませんから!」

「過分な評価だな……甘く見て貰った方が、やりやすいのだがな」

 

 倒れる訳がないだろう! 私の先生が! 

 負ける訳がないだろう! 生徒の先生が! 

 諦める訳がないだろう! みんなの先生が! 

 

 そんなどこまでも膨れ上がった、信頼と希望と理想が連邦生徒会長の現実を濁らせる。

 まるで、どれだけ努力しても、それだけはイメージ出来ないとでも言うように。

 

 因みに、本当に絶望した表情で土下座をして赦しを懇願しても、扉間の場合は信じて貰えないのは内緒だ。

 デカグラマトンさんも、土下座をしたのが扉間だったら、まずは罠を警戒するだろう。

 

「先生はどんな()()であっても、強くて頭が良くて勇気がある生徒達のスーパーヒーローですから。先生は倒れません。先生は負けません。先生は諦めません。いつだってどこでだって、私の理想で私の憧れなんです。だから、抗ってください。その命が燃え尽きるまで。私という試練を乗り越えてください。先生なら必ず出来ると信じています。だって、神様は決して──乗り越えられない試練は与えないんですから」

 

 支離滅裂。

 自分で追い込んでおきながら、乗り越えてくれと心底願う矛盾。

 まるで、人々に試練を与えながら、それを愛と呼ぶ神のように。

 

「私が抱き、私が捨て、私が与え、私が奪い、私が裁き、私が赦し、私が試し、()()()が愛す」

『な、なんですか、この気狂いは…!?』

 

 自分のことなのに思わずドン引きしてしまう、アロナ。

 目の前の存在はもはや人間というよりも、神に近い存在。

 人間の(テクスチャ)が剝がれかけた、人知の及ばぬ怪物だ。

 

「さあ、先生! ここからどうしますか!?」

『こ…こんな連邦生徒会長……今まで見たこと……』

 

 人の輝きを、努力を、不完全さを、尊ぶ天の主のように。

 連邦生徒会長は高らかに声を上げる。

 隣のウトナもちょっとドン引きしているのが印象的だ。

 

「どうするも何も……」

 

 そんな連邦生徒会長に対して、対策を考えながら扉間は宣言する。

 

「「諦めんだけだ!」」

 

 2つの声が重なる。

 それは、別人の声ではない。

 ()()()()の声。

 

「これは…! 木遁ッ!」

 

 扉間と連邦生徒会長の間。

 つまりは、倒れ伏す後輩達と連邦生徒会長の間に、木が生い茂る。

 

「間に合ったかな?」

「ああ、感謝するぞ、ユメ」

「ユメ先輩ですか……やっぱり、()()()()()()()()()()()()。そして、ここに来たということは……こちら側のリオさんは負けたんですね」

 

 そして、後輩達を守る盾として梔子ユメが連邦生徒会長の前に立つ。

 その顔は普段のポヤポヤとしたものではなく、強い意志の宿ったものだった。

 

「本体……何のざまだ、これは。子供達を誰一人として守れておらんではないか」

「ここから脱出させてやれ。治療が必要だ」

「………なるほど、どうやらオレの想像を超えた力を持つらしいな」

 

 分身から本体への痛烈な批判。

 だが、所詮は同一人物。一番情けなく思っているのが誰かくらいは分かる。

 内心で自虐しているのと何も変わらないので、特に言い返すこともなく話は進む。

 

「援護は要るか?」

「ユメだけ残してくれ。生きている人間では、奴の能力の餌食になるだけだ」

分身(オレ)と交代するか?」

 

 一瞬でゲーム開発部、エンジニア部、アビドス勢、を戦闘不能に追い込んだ力。

 数を増やしても犠牲者が増えるだけだ。

 だが、既に死んでいる穢土転生のユメならば、ダメージを負っても無効化が出来るかもしれない。

 そんな考えの元、少数精鋭だけ残して撤退を指示する扉間。

 しかし。

 

「いや……ワシだけは奴と生身で向き合う必要がある」

 

 それでも、目の前の存在とだけは本心で向き合わなければならない。

 そう直感で理解して、本体が残ることを選択する。

 

「そうか……では、オレは撤退して()()()()()()()()他の生徒の避難誘導を行う。ヒマリ、お前は校内放送をハッキングして避難勧告を頼む。C&Cとアリスはこの場の負傷者の搬出を頼む」

「お任せください。ビッグシスターの次に、このミレニアムに詳しいのは私ですから」

「おう。後ろは任せろ」

「はい…! みんなはアリスが守ります!」

 

 ヒマリとネル、アリスがコクンと頷き、怪我人に手を貸す。

 だが、どういう訳か、その中にリオの存在はなかった。

 

「本体、分身を増やせ。手が足りん。それとオレは情報共有のために消える」

「ああ。代わりに撤退させる役だな」

 

 そして、分身の扉間は情報共有で消えて、新たな分身と交代する。

 カード使用のリスク? (並行世界の自分のだから)大丈夫だ、問題ない。

 

「……! なるほどな……」

 

 この場にリオが居ない理由。

 そして、D.U.に向かった方の分身の状況。

 それらを分身からの情報で理解し、扉間はか細いが確かな勝機を見出す。

 

「何を企んでいるか知りませんが、それを私が見逃すと思いますか?」

 

 口ではそう言いながらも、内心では『んほ~ッ! 諦めない先生たまんねぇなぁ!』となる連邦生徒会長。

 そんな内心を隠しきることが出来ずに、フルフルニィと笑いながら連邦生徒会長は更なる試練を課す。

 

「ユメ、奴が自殺をしそうになったら木遁で止めろ。恐らく、奴は自身の死を引き金にして現実を塗り替える術を使う。まったく……輪廻天生の術で並行世界のワシを生き返らせようとしている人間が、自殺とは……笑えんな」

「自殺!? だ、ダメだよ! 人生は一度きりで命は1つしかないんだから!」

「ユメ先輩もオシリスなので、例外枠なんですけどね……」

『その……現在、会話をしている方々が全員一度死んでいるというのは、私が指摘するべきでしょうか?』

 

 とても良いことを言っているユメだが、連邦生徒会長も扉間もユメ本人も死人。

 例外的に生き返っているだけなので、説得力があまりない。

 ウトナがツッコむのも分かるというものだ。

 

「奴に銃を握らせるな。キヴォトスの人間が拳銃自殺など出来る訳がない。だというのに、Bluetooth銃だけで能力を発動したということは、何か仕掛けがあるはずだ」

「木で拘束すればいいんですね? 分かりました!」

 

 冷静に連邦生徒会長の能力の発動条件を分析する扉間。

 彼女の話しぶりからして、死ぬことが能力発動のトリガー。

 しかし、持っているBluetooth銃に一撃でキヴォトスの人間を殺す殺傷力などないのは扉間が一番よく理解している。

 つまりあの銃に何か仕掛けがあり、それがなければ能力が使えない可能性が高い。

 いや、そもそも自殺させずに拘束すれば能力は使えない。

 

(Bluetooth銃……思えば、長く付き合ってきた武器だ。それをワシの生徒を傷つけることに使うとは……さぞや無念だろう。ワシとアロナで()()()()()()()()()

 

 ミカのクーデターを止められたのも、ワカモを捕縛できたのも、穢土転生ミチルを叩けたのも。

 全部、Bluetooth銃さんのおかげじゃないか!

 そんな大恩のあるBluetooth銃さんが、望まぬ殺しを強いられている。

 その事実に扉間は荒立つ想いを内心に押し込めながら、ユメに指示を出す。

 

「考察、お見事です。テストなら満点ですね。でも、私にはA.R.O.N.Aちゃんが居ることを忘れていませんか? A.R.O.N.Aちゃん。多次元解釈の領域を展開してください」

『………了解しました。多次元解釈空間の展開を始めます』

「た、多次元解釈空間ってなんなの?」

 

 今の今まで、クソゲーの被害者という存在だけであったウトナが行動を開始する。

 ユメはなんとなくまずそうだなぁと思いながらも、賢くないので素直に分からないことを尋ねる。

 

「確率的に存在可能な無数のあらゆる並行世界が全て同時に、そこに存在している空間ですよ、ユメ先輩」

「? …? ……?」

「……まあ、簡単に言いますと、この領域に触れたら、たとえ穢土転生であっても原子単位でバラバラになって──塵も残りませんよ?」

(塵遁のようなものか…!)

 

 ユメだから良く分かんない。

 そんなアホに簡易的な説明を行う連邦生徒会長。

 そして、扉間は原子単位でバラバラという言葉に、塵遁を思い出す。

 

『多次元解釈システム、起動開始。システムオールグリーン。いつでも、発動可能です。指示をお願いします、()()………連邦生徒会長』

「では、お願いします。A.R.O.N.Aちゃん。さあ、先生! この危機をどうやって乗り越えますか?」

『先生、ユメさん! 私がアロナガードで絶対に守ってみせます! 近くに寄ってください!』

 

 二代目土影、(ムー)の塵遁は攻撃対象を分子レベルで分解する卑劣な術だ。

 そして、原子とは分子よりも更に小さい最小の単位。陰陽遁を食らうに近い。

 塵遁でもしぶとく残る穢土転生であっても、どうなるかは分からない。

 ましてや、君なんか生き返ってない? という感じのあるユメならば猶更だ。

 ひょっとして連邦生徒会長は、死人に梔子(くちなし)細胞でも注入したのだろうか? 

 

「いや……前進だ!!」

『え!?』

「ひ、ひぃん! お、置いて行かないでください!!」

 

 防御に徹するべき。

 そう進言するアロナの言葉を無視して、扉間は全力疾走で連邦生徒会長の下に進む。

 ユメもひぃんひぃん鳴きながら、その後に続く。

 

「気が付きましたか……流石は先生です」

『ど、どういうことですか、先生…?』

「原子レベルまで分解できるものを使えば、ウトナピシュティム自身や連邦生徒会長とてただではすまんはずだ! つまり、連邦生徒会長の立ち位置、もしくはウトナピシュティムの中に入れば良い! ユメ! 先に木遁でウトナピシュティムに風穴を開けろ!!」

「わ、分かりました! ごめんね?」

 

 作戦名、やられる前にやれ。

 相手が最強の盾を持つのなら、その内側に侵入してしまえばいい。

 ウトナピシュティムの本船は、多次元解釈バリアが無ければ破壊は可能なのだから。

 

「木遁──」

 

 どれ程の猶予があるか分からないが、先手を打つしかない。

 ユメの木遁がウトナピシュティムの本船に襲い掛かり──

 

「A.R.O.N.Aちゃん──ワープ」

『はい、承知しました』

 

 ──さらっと、ワープをされて躱されるのだった。

 

『そんな…!』

「先生らしくもありませんね。私がワープが出来るのは知っていたのに、A.R.O.N.Aちゃんがワープする可能性を忘れるなんて」

「木、木が届かないよぉ…!」

 

 座標をずらし、校舎に突っ込んでいた状態から余裕しゃくしゃくに外に浮かぶ、ウトナピシュティムの本船。

 当然、柱間の木遁ではないので、ユメの木遁は浸食速度が間に合わずに攻撃が届かない。

 

「いや……狙い通りだ。船に一度、外に出て貰う必要があったのだからな」

 

 しかし、本命はそこではない。

 大切なのは、遮蔽物の無い外の空間にウトナピシュティムの本船を出すこと。

 

『ッ! 6時の方角に巡航ミサイルを確認!』

「ミサイル…! A.R.O.N.Aちゃんレーダーに反応はなかったの!?」

 

 外に出たウトナピシュティムの本船に向けて、巡航ミサイルが飛んでくる。

 そう、これはリオがエリドゥに隠し持っていたミサイルだ。

 

『レーダーに反応はありません。推測……恐らくは名もなき神の技術を利用したものと考えられます』

「リオさんですね…!」

 

 ()()()()()そのままエリドゥに残って、チャンスをうかがっていたのだ。

 そして、その作戦は消えた分身の扉間によって、言語を介さずに伝達。

 仮にビッグシスターアルゴリズムが残っていても、誰も気づくことは出来なかっただろう。

 

「でも、無駄ですよ! 先生!」

『はい、多次元解釈システムを起動。これで、ミサイルは何事もなく私を()()()()()。これでトビラマ先生の自爆になります』

『そんな!? チートです! ズルです!』

 

 だが、単なるミサイルでは多次元解釈のバリアを破ることは出来ない。

 多次元解釈は原子レベルでの分解もさることながら、そもそもが、そこにあってそこに存在しない状態になれる。

 故に、単なる物理攻撃では虚しく通り過ぎていくだけ。

 

「だ、大丈夫なんですか、先生!?」

「案ずるな、ユメ。穢土転生の術はワシが作った。それに合った戦術もな……ミサイル程度吹き飛ばされても、後で元通りになる」

「そっか~、じゃあ、安心……あれ? 先生は?」

「ワシはアロナガードがある。巡航ミサイルならば、以前に防いだことがある故、問題ないだろう。お前も一応、ワシの近くに寄っておけ」

 

 何故、ユメと扉間の死人チームだけが残ったのか。

 そこにこの解が追加される。

 ミサイルが外れても、死なないようにするためだ。

 

「それにそろそろ……」

 

 だが、もちろんそれだけではない。

 ウトナピシュティムの本船にきっちりと当てるための策もある。

 それは。

 

 

「──サンクトゥムタワーの奪還が成功しておるはずだ」

 

 

 サンクトゥムタワーから、扉間(こちら)側がウトナピシュティムの本船を操ることだ。

 

『ッ!? 外部操作での多次元解釈システムが停止を確認…! これはハッキング? いえ──サンクトゥムタワーからの指示!?』

「まさか…! 留守のサンクトゥムタワーを狙われた!? A.R.O.N.Aちゃん、ワープで飛べる!?」

『だ、ダメです。そちらもサンクトゥムタワーから止められています…!」

「どうやら、D.U.に行ったワシが上手くやってくれたようだな。今度、アル達には焼き肉を奢ってやるか」

 

 便利屋68を率いて、サンクトゥムタワーの奪還に向かった扉間が奪還に成功した。

 そして、カイザープレジデントを脅迫…脅し…もとい、ご提供して頂いた情報でサンクトゥムタワーからウトナピシュティムの本船を操って、多次元解釈システムを停止させたのだ。

 

「そんな…何でこんな最悪のタイミングで…ッ」

「せっかく手に入れた拠点を留守にするとは不用心だな。これがテストなら減点だぞ?」

「だって、先生の誕生日をお祝いしたかったんです!」

 

 もしも、連邦生徒会長が扉間の誕生日をお祝いに来なければ。

 TSCをズルせずに、ちゃんとプレイしていれば。

 扉間が矯正局に寄らずに、サンクトゥムタワーに向かっていれば。

 

 恐らくは、タイミングがずれてサンクトゥムタワーの留守中に奪還されることもなかっただろう。

 これも、天の主をも恐れぬ陸八魔アルの強運である。

 皆の者、アル様を称えよ!! 

 

「A.R.O.N.Aちゃん! 制御権は取り戻せ――いや、時間が足りない」

 

 本来操作される側のウトナピシュティムならともかく、A.R.O.N.Aであればハッキングでコントロールを奪い返せるだろう。

 だが、それをするにはあまりにも時間が足りない。

 故に、連邦生徒会長は。

 

()()()()()()なら、ガードが張れるよね、A.R.O.N.Aちゃん?」

『…! はい、すぐに切り替えます』

『そんな! あっちもアロナガードを使って!?』

 

 巡航ミサイルはアロナガードで防げる。

 先程、扉間自身が言ったことだ。

 1発程度のミサイルならば、難なく防げるだろう。

 

 

 

 ――互乗起爆札の術。

 

 

 

 1発ならば。

 

『巡航ミサイルが無数に分裂を!? いえ、これは!』

「こちらのリオさんに渡した互乗起爆札の術…ッ」

 

 多次元解釈システムならば、すり抜けでノーダメージ。

 しかし、アロナガードは盾だ。必ず限界がある。

 ならば、限界を超えるまで何度でも、ガードの上からミサイルで叩きのめし続ければいい。

 

「ユメ! 今だ!!」

「うん! 分かりました!!」

「こっちは木遁を…ッ」

 

 そして、彼女達の敵はミサイルだけではない。

 扉間とユメが直接、連邦生徒会長を叩きに来るのも防がなければならない。

 

「ッ! この程度…!」

 

 四方八方から伸びて来る木々、ウトナピシュティムに迫る増え続けるミサイル。

 逃げ場はない。

 それを悟った、連邦生徒会長はそれでも諦めずにBluetooth銃を手に取る。

 

「あ! ダメだよ! 自分を傷つけるなんて!」

「ミサイルが貫通しても、私が捕まっても、全部私が勝ったことに変えれば問題ありません!」

 

 イザナギを使えば、負けた事実を勝ったことに変えられる。

 つまり、ウトナピシュティムは無事で、連邦生徒会長も無事。

 そんな都合の良い(ゆめ)を現実に出来る。

 

「さあ、勝負を振り出しに戻しましょう──」

 

 Bluetooth銃の銃口がゆっくりと、連邦生徒会長の頭に向く。

 木遁はまだ届かない。

 仮に届いても、柱間でもなければ銃より早く木を伸ばせない。

 だから──

 

 

「アロナ、()()Bluetooth銃を放て!」

『ッ! お任せください!!』

 

 

 ──あえて、先にBluetooth銃に発射させることで、銃弾が連邦生徒会長に当たらないようにタイミングをずらす。

 

「しまっ──」

「アロナが少し抜けておるのは、お前由来か。連邦生徒会長。いや、純粋に人間であるお前はアロナと違って己が身でBluetooth通信をした経験が無い故か」

 

 Bluetooth通信によってアロナが、Bluetooth銃を操作する。

 何度となく扉間が使い、窮地を救ってきた機能だ。

 しかし、連邦生徒会長はそのことをぼんやりとしか認識していなかった。

 自身はまだ人間で、アロナでもA.R.O.N.Aでもないが故に。

 

「こんなことって…!」

「Bluetooth銃はワシの銃だ。もちろん、それに見合った戦術も作った。ワシとアロナで何度も試してきた」

 

 想定外の事態への一瞬の思考の空白。

 純粋な撃ち直しにかかる時間。

 そして、また相手に使われるのではないかという疑心。

 それが命取りだった。

 

「何より……それは生徒を守るための銃だ。決して──」

 

 木々に絡めとられる手足。

 防御を失ったウトナピシュティムに着弾するミサイル。

 そして。

 

 

「──生徒を殺すための道具ではないのだッ! 馬鹿者がッ!!」

 

 

 本来の主からの使命を果たして、満足気に落ちていくBluetooth銃だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん、世話の焼ける」

 




アルちゃんが57話以降出てこなかったのは、実はあの後カンナに捕まっていたからです。

次回は3/4水曜に投稿します。
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